オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ラキュースが冒険譚を夢見て厨二病の素質を持ってしまったのはバードの歌を身近に聞ける環境に居たから…という妄想のお話です。


第6章 第4話 -音楽の街-

 

 

 

「随分と、演奏をしている者が多いんだな」

 

「はい、この街、リ・アインドルは“音楽の街”と言われています。広場では音楽隊や吟遊詩人(バード)などが自由に演奏できることになっていて、街中にはいくつか音楽サロンが有ります。音楽と言う芸術文化の発展のために、アインドラ家はそれらのために出資をしています」

 

「…そうか」

 

 

現在、パルメーラを含む『漆黒の剣』一行は、ラキュースを含む『蒼の薔薇』と共にリ・アインドルの街を見て回っている。

 

最初に2チームで、この街の冒険者組合に行ったのだが、正直アダマンタイト級冒険者が請け負うような高難易度の依頼は掲示されていなかった。

 

幾つかの護衛依頼、南部の平原で最近見掛けるアンデッド系モンスターの討伐依頼、珍しいところでは吟遊詩人(バード)からの依頼で冒険者が解決してきた過去の依頼内容の共有——おそらくは歌い上げるための冒険譚のネタ探し、と言ったものが掲示されていた。

 

最後の依頼については、ラキュースがソワソワしていたが、仲間たちに“最近の依頼は秘匿性が高いものが多かったからダメ”と窘められていた。

 

『漆黒の剣』も、アゼルリシア山脈での経験を提供すればかなりの謝礼がもらえることが想像できたが、まずそこまで金に困っていないし、『蒼の薔薇』と同じ理由で秘匿の観点から言えないことも多いし、何より一部(主にパルメーラ関連)はそもそも信じてもらえない可能性が高いためスルーすることとした。

というか、クアゴアのアレとかは思い出すと心が死にそうになるので、極力思い出したくない。

 

そう言う訳で一旦冒険者としての仕事はお休みとして、ラキュースの好意に甘えて、この街の観光をすることにしたのだ。

 

各自装備は最小限にして、服も街を散策するのに適したものに着替えている。

 

忘れているかもしれないが、『漆黒の剣』はパルメーラから借りた(貰った)漆黒の装備一式を着用している、元のリアルであればちょっとアレな集団だし、『蒼の薔薇』も普段の冒険者の恰好はとても目立つ。

ラキュースとて浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)をふわふわさせながら街中を、しかも実家の街を歩くのは非常識であるというのは理解している。

 

ただしパルメーラには、その辺の常識は無かったので、彼だけはいつもの漆黒の服に漆黒のコートを着込んでいる。

さすがに剣はしまっているが。

 

 

とはいえラキュースはこの街では当然有名で、アインドラ伯爵も善政を敷いている親しみやすい領主と言う認識なので、行くところ行くところ住人から声を掛けられる。

 

 

「お嬢様、リ・アインドルにお戻りだったんですね!」

「ラキュース様、いつもお綺麗です!」

「この街が生んだ英雄の皆様だ!」

「ガガーラン様!サインください!!」

 

 

『蒼の薔薇』も慣れっこなのだろう。

チームとして声を掛けられた時は笑顔で手を振ったり、ガガーランはファンと思われる御婦人たちに囲まれてサインを書いている。

 

パルメーラ的には、昨日あれだけ酒を飲んで、全く二日酔いになっていないガガーランに少しだけ驚き、もしかしたらダインより強いかもな、とか、いつかダインと飲み比べさせてみたいな、とか余計なことを考えていた。

 

 

ラキュースも、『蒼の薔薇』としてチヤホヤされるのは慣れているのだろうが、“ラキュースお嬢様”として声援を受けるとちょっと恥ずかしそうにしている。

 

 

「ラキュースはこの街では人気者じゃからの…なんでも幼いころから屋敷を抜け出しては街の悪ガキを成敗したり、吟遊詩人(バード)の歌う冒険譚に目をキラキラさせて聴き入って、最後は屋敷の執事殿に回収されるという事が何度もあったとか」

 

「リグリット!」

 

「ほっほ!事実じゃろ?」

 

「もー!何であの時の私はローリッツに口止めしなかったのかしら!」

 

 

そんなやり取りを横目で見ながら、パルメーラは街の中を歩く住人や衛士の何人かの影に影の悪魔(シャドウ・デーモン)を滑り込ませ、この街の隅々を調査させる。

 

この街の第一印象は、確かに古い街並みであったが、道の舗装具合や街灯の設置状況、それに神殿の稼働状況などから考えると、確かにガガーランの言う通りこの街の領主はマトモな統治をしているようにも見える。

 

裏路地はあり、貧富の差はあるようだが、スラム化はしていないようだし、娼館や奴隷と言った存在も今のところ見受けられない。

しかしそれだけに、昨日報告があった“八本指”の件が気になる。

 

報告が正しければ、この街のどこかに犯罪者集団の者が潜んでいる可能性が高いのだから。

 

 

街のレストランのような店で昼食を食べた後、ラキュースはパルメーラに話しかけた。

 

 

「パルメーラさん、どうですか、リ・アインドルの街は?」

 

 

何気ない質問。

しかし、ラキュースの目は真っすぐとパルメーラを見据えていた。

 

ラキュースはあの日、パルメーラの原風景を知った。

そしてパルメーラは、ラキュースの街を見たいといった。

 

だからラキュースは、リ・アインドルを、そしてアインドラ家の統治を、自身の歩いてきた道を、ありのまま見せると決めた。

 

 

「そうだな…飯はうまいし、スラムなんかもない。活気があっていい街なんじゃないか?俺よりも王国の他の街を知ってる皆はどうだ?」

 

「そうですね。パルメーラさんの言う通り、例えば僕の故郷なんかよりはちゃんとした統治がされているみたいで治安も良さそうですし、良い街だと思います」

 

「食べ物も美味しいのである!」

 

「アレだな、活気があって、街の人の表情が明るいし、何より美人が多いな!」

 

「こらルクルット…まあ俺も同じ感想です。地理的に交易で栄える土地柄でもないと思うのですが、市場も活気がありましたね。何日か滞在するなら市場も覗いてみたいですね」

 

 

「『漆黒の剣』の皆さん、ありがとうございます。私はもはやこの街の統治とかには関わっていないですが、それでも生まれ育った場所を褒めていただけると嬉しいです」

 

「…そうだな。お転婆姫を受け入れる寛容な者達が住む街だ。良いところだろう」

 

「イビルアイーー!!」

 

「まあまあ、ラキュースお嬢様」

「どうどう、お転婆お嬢様」

 

「ほっほ!」

 

「もう!あなたたちは!!」

 

 

ラキュースが堪らずに声を上げると、レストランの他の客たちがその様子を暖かい笑顔で見守っていることに気づき、顔を赤くして、その声はトーンダウンした。

 

しばし生まれた静寂の後、パルメーラが再び話し出した。

 

 

「それにしても“音楽の街”と言うのは驚いたな…俺の故郷ではそもそも“音楽”なんていう文化は失われていたと言っていい。“サロン”と言ったか?それがどういうものだか良く分からんが、もし良ければ午後はそこを見学しても良いか?」

 

「ええ、もちろんです。私がご案内しますね。他の皆さんはどうされますか?」

 

 

 

結果、ラキュースとパルメーラ、そしてニニャは音楽サロンを見学することとし、それ以外の者は市場や魔術師組合を覗くなどの別行動をすることとなった。

 

 

 

意図せず、いや、何となく示し合わせたのかもしれないが、エ・ランテルの裏路地を見た3人が一緒に行動することとなった。

 

ラキュースが“音楽サロン”と言うものが何なのかを説明し、そこには完全に民間のパトロンによって運営されているものや、アインドラ家の援助を受けて公的機関として住人の誰もが使用できるもの、あるいは観光用に開放されているものなどがあるとの事だった。

 

幾つかの公的機関のサロンは、ラキュースが入ってくるのを確認すると礼をして、笑顔で「ご案内しますか?」と問いかけてきた。

 

言うなれば彼らは公務員のようなもので、公的機関の長の娘が来た際の待遇という事なのだろうとパルメーラは考えた。

 

しかし、その態度は民間の施設でも同じであり、それはつまりラキュースと言う人間が、この街の多くの者にとって親しみを持って好意的に接することが出来ると認識されているのだろうという事を理解させた。

 

 

それだけに、最後に赴いたサロンの様子の異質さが際立っていたと感じた。

 

 

サロンの扉を開けると、そこは小さな部屋になっていて、奥に扉がもう1つ。

それはつまり、サロンの中に入るためには2つの扉を開けなければならないという事だ。

それ自体はなんら不思議ではない。

“防音”と言う観点から、ここまで見学してきたいくつかのサロンも同じ構造をしていたから。

 

しかし異質だと感じたのは、その“前室”ともいうべき場所の様子。

 

まず、音が一切しない。

2重の扉にするという事は、それなりに音が漏れるからで、今まで見たサロンでは1つ目の扉を開けると、中で演奏されている音楽や、楽し気な客たちの声が漏れ聞こえたものだ。

だがここは違う。

 

音楽は一切聞こえず、人の楽しげな声もしない。

だが、中からは複数の人間の気配がしていて、その気配は何とも言えない不穏な感じがする。

 

危険な魔物とか、強い人間から発せられる不穏さではない。

言うなれば、悪いことをしてコソコソと隠れている子供のような、そんな気配だ。

 

そして2つ目の扉の前には2人の人間。

踊り子のような女と、体格のいい男。

 

その立ち姿はまるで賭博場か何かの用心棒の様で、2名とも堅気ではない雰囲気を放っている。

パルメーラ、ラキュース、ニニャという、アダマンタイト級の者達でなければ、その気配に気圧されて、思わず扉の外へ退避してしますかも知れない、そんな気配だ。

 

特に女の方、踊り子のような服装の者は、明らかに強者の気配を感じる。

いや、パルメーラからすれば大したことないが、ラキュースとニニャは、明らかにその女はそこらの冒険者よりも余程強いと感じた。

 

その女は、こちらの3名、特にラキュースを上から下まで見ると、作ったような笑顔を張り付けながら口を開いた。

 

 

「おや…あなた、確かアインドラ伯爵のお嬢様、アダマンタイト級冒険者のラキュース様ですか?ここは私営の音楽サロンでございますよ。何か御用で?」

 

「いえ…特段用があるわけではありません。私の友人たちにこの街を案内していたところです…もしよろしければ、サロンを見学させていただいても?」

 

「そうで御座いますか……生憎、このサロンの主が留守のためお通しすることは出来ませんねぇ。ここは私設のサロンですし、アインドラ様と言えど主が留守のお店に自由に入られることは出来ないと思いますが?」

 

「ええ、あなたの仰る通りです…また機会がありましたら見学させてください」

 

「勿論です。主にも伝えておきますわね」

 

 

 

そのサロンから退室して、しばらく歩いたところでパルメーラが口を開いた。

 

 

「…ラキュース、あの匂い」

 

「…分かっています。パルメーラさんもお気づきでしたか…」

 

「…あの甘ったるいような匂い…すごく不快な感じがしました。僕はアレが何なのか分からなかったですが、パルメーラさんは知っているのですか?」

 

 

知っている。

パルメーラは知っている。

 

リ・ブルムラシュールで焼き払った違法娼館から、悪魔たちが証拠品として持ち出して報告してきた薬品。

それは何らかの“麻薬”。

その匂いが、あのサロンの中から漂っていたのだ。

 

 

「正確には分からないが…おそらく麻薬の類だ」

 

「…麻薬…ラキュースさん、そうなんですか?」

 

「ええ…おそらくは“ライラの粉末”、通称“黒粉”。この国に巣食う犯罪者組織の八本指が広げている麻薬です…あの踊り子のような女性が言っていた通り、民営のサロンには無理に踏み込むことは出来ない…このことをお父様に伝えても、現時点で証拠が無い…」

 

「…ラキュース、この街に他に犯罪者組織が隠れ住めるような施設…例えば違法娼館や奴隷を使った店などはあるのか?」

 

「そんなもの!!…いえ、すみません、大声を出して。ありません。そのようなものは決して。だからこそ、先ほどの者達は、この街では一般的な音楽サロンの隠れ蓑にして何らかの悪事を働こうとしているかもしれません」

 

「ラキュースさん、もし仮にあのサロンの中で麻薬を栽培とか販売とかしていて、さっきみたいに客や犯罪者組織の仲間でない者は、あの用心棒のような者が中に入れないようにしているのだとすれば、知らないうちにこの街に麻薬が蔓延する可能性があると思います。僕たちに出来ることは有りませんか?」

 

「…先ほどの2人のうち、会話をした女性の方はかなりの強さを持っていると感じました…もし彼らが“八本指”であるならば幹部か、あるいはアダマンタイト級の実力を持つという“六腕”の1人かもしれない…サロンの中にあの女性より強い者が居る可能性もありますし、現時点ではこの街の法律では強制的に中を見ることもできない……一旦私はお父様へこのことを報告します。ニニャさんも、パルメーラさんも、とりあえずは何もせずに、他の仲間へ伝えることも控えていただけますか」

 

「…わかりました。ですが僕たちに出来ることが有ったらすぐに言ってください」

「…承知した」

 

 

パルメーラは先ほどの女とラキュースが会話している時に、既に影の悪魔(シャドウ・デーモン)を滑り込ませていた。

 

そして既に、あの者達、そしてサロンの中の様子について報告を受けている。

 

同時に、今日一日街を見学した中で感じた疑問、“八本指の者がどこに潜んでいるか”についての答えを得た。

パルメーラが確認しなければいけないことはあと1つ。

 

何故アインドラ伯爵は、八本指の、それも麻薬を持ち込むような連中と密談をするかという事だ。

 

 

特に何もなかったという顔で、ラキュースたちは夕方に他の仲間と合流し、昨夜と同様、ラキュースは実家に、それ以外は宿に戻る。

 

一旦は仲間にも共有しないという事だったので、ニニャとパルメーラは、昼間に見たものについて特に言及することなく、ペテルやルクルットが市場で見つけた掘り出し物の話を聞きながら、何事もなかったように夕食に舌鼓を打ち、各自の部屋へ戻り就寝する時間となった。

 

 

自室でパルメーラは2か所の影の悪魔(シャドウ・デーモン)を通して情報を集めている。

 

 

1つは例のサロン。

会話から、2名の者の名前が分かっている。

まずは陰に影の悪魔(シャドウ・デーモン)を忍び込ませた踊り子風の女、名はエドストレーム。

周りの者からの反応から、あの場ではおそらくもっとも強い者のようだ。

 

もう1人はオスキャスと言う者。

会話の感じから、エドストレームが言っていた“主”に当たる者のようだ。

しかしエドストレームはこのオスキャスと言う男に服従しているという感じではなく、雇われて護衛をしているといった雰囲気だった。

 

そして会話の中で何度となく出てくる、“黒粉”と“八本指”そして“六腕”。

あの者どもが八本指であることは明白であり、ラキュースの予想も概ね当たっているようだ。

 

 

そしてラキュースに忍び込ませている影の悪魔(シャドウ・デーモン)からは、ラキュースが父親であるアインドラ伯爵に、例のサロンのことを報告している様子を聞いていた。

 

 

「お父様、何故ですか!これまで冒険者として旅をしてきた中で、あの匂いは何度も出会いました。あれは“黒粉”、八本指が広めている麻薬です!今この時点で阻止しなければ、この街が麻薬で汚染され、八本指の手中に堕ちてしまします!!」

 

「ラキュース…お前も分かっているだろう。八本指は今やこの国中枢まで入り込み、多くの貴族までもが関係を持ってしまっている。不用意に手を出せばこの街や、民にも危険が及ぶかもしれない。慎重に進めなければいけないのだ」

 

「ですが!このまま見過ごすなど!」

 

「ラキュース…報告感謝する。そしてお前はこの件には関わるな。これは父から…いやこの街の領主からの命令だ」

 

「……!……畏まりました……お休みなさいませ。お父様」

 

 

 

パルメーラは静かにその様子を聞いている。

そしてその先は、ラキュースの影に潜む2体の影の悪魔(シャドウ・デーモン)のうち、アインドラ伯爵の影に移動した1体からの報告に切り替わる。

 

 

 

「御当主様…宜しかったのですか?お嬢様の御力を借りれば、武力という面でもサポートが得られます」

 

「ローリッツ…確かにその通りだ。だが、あの子は…まだ家名を名乗ってくれてはいるが、すでに信頼できる仲間に恵まれ、あの子が進みたかった道を歩いている。あの子に言った通り、八本指との対峙は下手をすれば六大貴族のどなたかとの対立に繋がる可能性もある。そんな貴族としての愚かな諍いにあの子を巻き込みたくないのだ」

 

「御当主様…では、当家に関連が無い冒険者の御方に依頼をするというのは如何でしょうか。お嬢様と一緒に居られた冒険者チーム『漆黒の剣』の皆様は確かにアダマンタイト級の方々でした」

 

「そうだな…だがまずは、明日の会談とやらの内容を聞いてからだ。表向きは“領内での複数のサロン開設願”だったか…ラキュースの情報から考えると、奴らは合法的に我が街に複数の拠点を持とうとしているという事か…会談の中でどこまで求めてくるつもりか…」

 

 

 

 

領主と執事の会話を聞いた後、パルメーラは表情を変えずに伝言(メッセージ)の魔法を起動した。

 

「ラキュース…パルメーラだ………今はそんなことはどうでもいい…明日、俺のために一日、時間をくれないか?詳しくはその時話す」

 

 

伝言(メッセージ)を切ると、パルメーラは指輪に触れて、その姿を本来のウルベルト・アレイン・オードルのものとした。

 

そして完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)を唱えると、静かにリ・アインドルの夜の闇に姿を消した。

 

 

 

 




大体の事情を知った悪魔が動き始めます。
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