オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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リ・アインドルにも無事、御伽噺(怪談)が生まれます。


第6章 第6話 -リ・アインドルの怪樹-

 

 

 

一同の反応は様々だった。

 

まず明確に動いたのはエドストレームだった。

アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダーが入り込んできた、彼女はそう理解し、そして自分の役目である、武力での対応、それを行使するために一歩前に出ようとした。

 

だがその出鼻はラキュースの一言で挫かれる。

 

「あれ、ごきげんよう。昨日はお世話になりましたわね。本日は改めてよろしくお願いいたしますわ」

 

明らかに冒険者としての言葉ではない。

それに身なりは貴族のそれ。

彼女は冒険者ではなく、貴族としてこの場に来た。

そう宣言したのだ。

 

その結果、オスキャスはラキュースの無礼な登場に異議を唱えられない。

あくまで“平民”の商人である立場のオスキャスが、伯爵閣下令嬢に苦言など呈することが出来る筈がない。

この国の貴族と平民というのは、そういうものなのだ。

 

 

「ラ…ラキュース…いや、ノックもせず突然入ってくるなど。失礼ではないか。それにこの会談は、」

 

 

そこまでアインドラ伯爵が言いかけると、ラキュースはアダマンタイト級としての殺気を会議室中に放った。

その殺気は先ほどのエドストレームの物よりもはるかに強く、不思議なことに、会議室内のそこら中から感じる気がするほどだ。

 

オスキャスやエドストレームは元より、アインドラ伯爵も驚いて押し黙る。

 

 

「あら、お父様、申し訳ございませんでした。ですが外を歩いておりましたら声が聞こえたのです。オスキャスと言いましたか。あなたが言っていたこと、素晴らしいですわ。この街は音楽の街。もっと音楽サロンを増やすことに賛成いたしますわ」

 

「そ…そうでしょうとも…ご令嬢様も素晴らしいお考えをお持ちですね…」

 

 

若干気圧されながらも、オスキャスは、この女は自分の味方かもしれないと感じ言葉を紡ぐ。

しかしその考えは次のラキュースの言葉でひっくり返る。

 

 

「ですが、そのために民に負担を強いるのは、心苦しいですわ。そうだ、お父様、これからは全ての民間サロン開設のために、アインドラ家が開設のための金銭を一部出資してはどうですか?そうすればこの街はより音楽という文化が花開くでしょう!」

 

 

その言葉に明らかに焦ったのはオスキャスだ。

民間サロンに伯爵家が出資する。

それはつまり“公”のカネが民間に入り、少なくとも伯爵家側の立ち入りを断ることが出来なくなる。

 

 

「ご…ご令嬢、それは素晴らしいお考えです。しかし全ての民間サロンに出資なさるとすると、かなりの資金が必要になるのでは?」

 

「ええ、ですので、そのお金は私も個人資産から出資しますし、民からの寄付を募りましょう。この街の民は皆音楽という文化に興味がありますので喜んで出資してくれる方も多いでしょう!」

 

 

ラキュースはそう言い、執事にウィンクする。

執事は速やかにラキュースの意図を酌む。

 

 

「御当主様、お嬢様のお考えは素晴らしいですね。差し支えなければ数日以内にお触れを出せる様、事務的な手続きを進めさせていただきますが?」

 

 

余りに突然の事態に呆気にとられていたアインドラ伯爵も、ようやくここに来て娘の意図に気づいた。

そして執事の言葉にすぐさま肯定する。

 

 

「うむ、ローリッツ。では1週間以内に布告できるよう準備しなさい」

 

「畏まりました、ご当主様」

 

 

オスキャスとしては非常にまずい展開である。

民の寄付というのは正直当てにならないだろうが、この女は今、“個人資産から出資”と言った。

この女は今、貴族としてこの場に来ていて、アダマンタイト級冒険者としての話は一切していないが、その個人資産はアダマンタイト級冒険者として稼いだカネが入ってくる可能性が高いという事。

アダマンタイトともなれば、その金額はバカにできない。

 

この短いやり取りで、新たな出店をしても店舗には“アインドラ家のカネ”が入り、立ち入りも拒めないだろう。

 

しかし、まだこちらの優位は揺るがない。

なにせ“黒粉”は合法だ。

少なくとも今ある店舗で売りさばくことで、時間はかかるが街中に蔓延させることは出来るだろう。

 

そう考えてオスキャスがラキュースを見ると、その顔にはとても悪辣な、悪意ある笑顔が張り付いていた。

 

オスキャスは知っている。

この顔は、権力者がそうでないものを食い物にするときの顔。

 

 

「それはそうとお父様、このオスキャスが現在サロンを開いている場所ですが、あの場所の使用をなぜ許可したのですか?」

 

「え?」

「なに?」

 

オスキャスもアインドラ伯爵も意味が分からず素の声が漏れた。

 

「あの場所は、土地も建物も、お父様から私が頂いた筈では?私はあの場所に私だけの趣味のお店を開きたいと考えておりましたのに」

 

 

一瞬、その場に居る全ての者が、“この娘は何を言っているんだ?”という顔を浮かべた。

だが次のラキュースの言葉は、再びオスキャスにとって非常に都合の悪い展開を齎す。

 

 

「あの場所は私がお父様からいただきましたよ。お忘れですか?こちらを見てください。あの場所の土地も、建物も権利書は私が持っています。オスキャス、あなたは権利書をお持ちですか?それと業を成すのであれば営業許可証もなければいけないと思います。それもお持ちですか?」

 

 

ラキュースが出した羊皮紙を執事が受け取る。

権利者の名称の欄が荒っぽく修正されている跡があるが、そんなことは気にしない。

 

 

「これは…確かにあの場所の権利書でございますな。ご当主様、昔お嬢様に御買い求められたのをお忘れなのでは?それとオスキャス殿、お嬢様の言うとおり、営業許可証が無ければそもそもサロンの経営も出来ぬ筈。お持ちでしたら一度見せていただけますでしょうか。売買や立ち入りは仰る通り権利はございませんが、営業許可書類の確認は当家の権利でございます」

 

「ローリッツの申す通りだな。オスキャス、そなたを疑う訳ではないが、念のため営業許可証を確認させていただこうか。それと、現在のサロンの場所だが、申し訳ないが一旦たたんでもらう必要がありそうだ。私としたことが娘に与えた場所を勘違いしていたようだ。そうだな、新たな場所は、1週間後、我が家からの出資の後に再度申請されるとよい。出資の分、今よりも安く済むだろうから、そなたとしても良いことであろう?」

 

「なんと…貴様…我々に対して、このような仕打ち…どうなるか覚えて…」

 

 

「そうですわ!」

 

殺気と共に放たれたラキュースの言葉でオスキャスは再び押し黙る。

 

「ちょうど今この街に、アダマンタイト級冒険者『漆黒の剣』の方々が滞在されている様子。現在のサロンの場所の“御片付け”は彼らに依頼しましょう!アダマンタイト級の方々であれば、お仕事も早く終わるでしょうし、オスキャス達が重い荷物(・・・・)を運ぶ手間も省けるでしょう。ご依頼料は私の個人資産から出しますかご安心くださいませ」

 

言葉と共に、もう一度強い殺気をぶつける。

戦闘力が高いわけではないオスキャスは気圧され、立ち上がる。

 

 

「…っく。帰るぞ、エドストレーム」

 

「…はっ」

 

 

「ごきげんよう。またお会いしましょうね」

 

ラキュースの厭味のこもった言葉と共に、会議室の扉は閉じられた。

 

 

ラキュースは足音が遠ざかっていくのを確認すると、ため息をついて空いている椅子に座り込んだ。

 

 

「はぁ…疲れたわ」

 

「ラキュース…お前…」

 

「お父様…私はもう守られているだけの“ご令嬢”ではありません。私はこれからも、アダマンタイト冒険者チーム『蒼の薔薇』の一員であるとともに、アインドラ家の者です。そしてこれからは、綺麗ごとだけでなく、手を汚すことも厭わずに、仲間と、民を守っていきます。だからお父様、私にもお父様を、この街を、守らせてください」

 

 

 

 

『俺たちは先に出ていよう、ニニャ』

『そうですね』

 

 

ニニャの上位転移(グレーター・テレポーテーション)で、2人は宿に戻る。

 

「パルメーラさんはこの後どうしますか?」

 

「俺はやることが有る。悪としての後始末だ」

 

「…分かりました。僕は観劇場に行ってみます。もし間に合うようだったら皆と一緒に演奏会を聞いています」

 

「ああ」

 

 

宿の部屋から出ていくニニャを見送り、パルメーラは呟く。

 

「第一王子か…たしかリ・ボウロロールの領主の屋敷に出入りしていたか……」

 

 

影の悪魔(シャドウ・デーモン)よ。リ・ボウロロールの領主の屋敷に出入りしてるこの国の第一王子…確か名前はバルブロと言ったか…そいつの影に10…いや11体入り込み、そいつが王城に戻ったら知らせろ』

 

『畏まりました』

 

 

“大災厄の魔”はその顎髭をしごきながら、速やかに転移する。

 

 

 

 

 

「あのアマがぁああ!!この八本指、金融部門長たるオスキャスを虚仮にしやがって!!許さん!!絶対に許さんぞ!!」

 

「オスキャスさん、言っとくけどアタシはあんたの指示に従った。それは間違いないからね」

 

「クソッ、エドストレーム!六腕のお前がついていながら、契約書一式があのアマに盗まれたという事だぞ!」

 

「ハンッ、知らないよ。アタシがあんたに言われた仕事は、あんたの護衛と、サロン入り口の守り、そして『蒼の薔薇』や他の兵士なんかが攻めてきた時の撃退だろ。警備部門にあんたのミスの責任を押し付けないでくれない?」

 

「クソッ、クソッ!!貴様ら、何故契約書類の見張りを怠った?!」

 

 

手を後ろ手に組み、目線を落とす金融部門の下っ端たちの様子を見ながら、エドストレームは思う。

確かに、あのラキュースの行動は想定の外の出来事だった。

ゼロの調べでも、『蒼の薔薇』のラキュースというのは、戦闘力では間違いなく一流だが、どこかアタマが固いところがあり、特に貴族としての力を行使するような真似はしてこないだろうと言っていた。

 

だが、今回のあの女の行動。

あのやり方をされたら、最低でも六大貴族の誰かを旗印に据えた形で対処しないといけない。

八本指が傀儡の貴族を使い、いわゆる“表”の権力で理不尽に平民を陥れるやり方。

それをそのままやられた訳だ。

アインドラ家はそれをやってこないだろうと踏んで臨んだ、完全にこちら側のミスだった。

 

だがさっきも言ったように、これはあくまで金融部門のミス。

このオスキャスは腐っても長なので、責任を取るのは奴の部下だろうが、金融部門の発言力が低下するのは必至。

警備部門としては、今回あったことをゼロに共有し、より八本指らしい逃げ場のないやり方で利益をかっさらえばいいのだ。

 

そこまで考えて、エドストレームはふと違和感を覚える。

 

 

オスキャスの部下、下を向いて俯いておるように見える者達の気配がおかしい。

まるでそこには誰も居ないような…いや、少なくとも“人”が居ないような…

 

そう感じて不意にその者達の表情をのぞき込んだ。

覗き込んでしまった。

 

エドストレームはそのことを、恐らくはその後続く、永劫にも近い時間、後悔し続けることになるだろう。

 

 

その部下たちの顔は、無かった。

無かったのだ。

 

目と口があるべき場所には虚空が広がっていて、それ以外はつるんとした卵のような素肌。

 

表情など無く、ただ顔の位置に、顔のようなものがあるだけ。

 

 

「……ッ!!」

 

アダマンタイト級とも言われるエドストレームは、すんでのところで悲鳴を上げなかった。

だがその直後、自身の身体が全く動かないことに気づいた。

 

 

「なっ…何だこれは…何なのだこれは?!お前たち、なんとかしろ!!私の身体がァァッツ……」

 

 

オスキャスの言葉。

その内容から、彼の身体にも同じことが起こっているのだろう。

だが、その声は突然途切れた。

 

その直後、深く、重く、魂に響くような声が耳元から聞こえる。

 

 

「この街は“音楽の街”と言うらしいな」

 

「ヒィッ!」

 

エドストレームは今度こそ声を上げた。

だがその哀願するような音色の悲鳴は、その声の主には正しく届かなかったようだ。

 

 

「五月蠅い方の人間には、少々口を閉じてもらった。人間の女、貴様はどうする?」

 

 

エドストレームの喉元からヒューヒューと空気が漏れる。

本能に語りかけてくるような言いようのない恐怖。

この声の主に逆らってはいけない。

機嫌を損ねてもいけない。

 

その声の主から感じるプレッシャーは、先ほどアインドラ邸でラキュースが放っていたものと比べても、言葉に表わしようが無いほどの差があった。

 

エドストレームは後から後から溢れ出る汗を拭う事も出来ず、必死に必死に心を落ち着かせ、やっとのことで首を縦に振った。

 

 

「そうか…ならばこのまま話そう。人間の男と女よ。私の仲間にはな、“暗闇の調べ”などと自称する、気の良い節制(・・)の者が居る」

 

 

何を言っているか分からない。

それがたまらなく怖い。

だがその言葉を、恐らく人間ではないその者の言葉を、ただ黙って聞くしかない。

 

 

「奴が作った楽しげな楽団がある。エーリッヒ擦弦楽団と言ってな。それを纏めるのはチャックモールという可愛い奴だ。奴の指揮する音楽はそれはそれはとても心が揺さぶられる。だがな、その音楽のためには少々特殊な楽器が必要でな」

 

 

そこまで言うと、声の主はエドストレームとオスキャスの間を縫って歩き、2人の前までやってきた。

その姿は悪魔。

南方に伝わるというスーツという服。

それにシルクハットをかぶった山羊頭の悪魔。

服も髭も、全てが漆黒。

 

今度こそ、エドストレームは声にならない声を漏らした。

 

「ハッ…ハアアアァァッッ…!」

 

「おや、もう音楽を奏でるのか?まだ早いぞ、女よ」

 

 

オスキャスは、恐らくは何らかの魔法で声が出せなくなっているのだろう。

がくがくと震えながら、口をパクパクと開閉し、既に足元には悪臭を放つ水溜りが出来ている。

 

 

「話を戻そう。この街は“音楽の街”という事で、私も楽し気な音楽を聴きたくなったのだよ。このエーリッヒ擦弦楽団は私が急ごしらえで創造した、擬態の悪魔(イミテーター・デビル)によるまがい物でな、だが、お前たちのようなたった2つの“楽器”を奏でるには十分だろう…なに、すでに消してしまったお前たちの本当の部下たちから、昨夜事情は聞かせてもらった。随分と楽しんできたそうじゃないか。今までの行いがそのまま時間をかけてお前たちに戻ってくる、ただそれだけのことだ。これまで楽しんだ分、沢山いい音楽を奏でてくれ」

 

 

山羊の悪魔がそこまで言うと、オスキャスの部下であったはずのそれらは、上から糸でつられた人形のように、どこかぎこちない動きでエドストレーム達に向き直る。

その手には、小さなナイフのようなもの、糸ノコギリ、鋏のような何か。

 

 

「そうだな…まずは“腑分け”から始めようか。なに、防音の事などお前たちが気にすることではない。存分に“音楽”を奏でてくれ。それにお前たちはもはや簡単には意識も命も手放せん。何小節も、何楽章も、音楽を奏でてくれたまえ。期待しているよ」

 

 

身体は動かない。

だが口が動くようになっている。

隣のオスキャスの命乞いがうるさい。

 

人形のようなそれらの持つ小さなナイフが、自身の腹に当てられる。

 

その手が縦に、上から下に移動して、何度も嗅いだことのある鉄のような生臭い匂いが鼻をくすぐる。

 

柔らかい何かが自身の腹から弾け出す。

 

目から、口から、排泄器から、体の中の液体が溢れ出る。

 

そこにあるのは2つの楽器。

 

悪魔にとって心地よい、“音楽”を奏でる楽器でしかなかった。

 

 

 

 

 

パルメーラは深い闇色の目で、目の前の2つの捻じれた樹を見つめる。

それは榛木の悪魔(クニス・オルダー・デビル)が犠牲者を取り込んだ姿。

 

下位の悪魔でありながら、巧みな言葉で犠牲者を誘い込み、自身の中に取り込んでしまう。

取り込まれた者は、悪夢を見続けながら、樹が切り倒されるまで緩やかに栄養を吸われ続け、最期の時まで意識を手放せない…とフレーバーテキストには書いてあった。

 

ウルベルトは召喚した榛木の悪魔(クニス・オルダー・デビル)に、犠牲者にエーリッヒ擦弦楽団の悪夢を見続けさせるよう指示し、音楽サロンの中に待機させた。

 

そして愚かな犠牲者が取り込まれたことを確認し、その2本の樹を、街外れの林に移した。

 

パルメーラとしては、この2名の扱いについては少々悩んだ。

影の悪魔(シャドウ・デーモン)を忍ばせて拠点に帰すか、あるいはこの場で罰を与えるか。

 

昨日書類を盗むとともに、部下たちを始末する際に、部下たちに魅了をかけて聞き出した内容から、速やかに口を封じた方がこの街や他の者のためになるだろうと判断し、処分することとしたのだ。

 

以降、この捻じれた2本の樹からは時折、人間の悲鳴のような声のようなものが聞こえることが有り、それは“音楽の街”にちなんだ怪談として、長くこの街で語り継がれていく。

 

王都に拠点を構える八本指の者達が、一部門の長とその10名あまりの部下、そしてその護衛をしていたはずの“六腕”の一人、〈踊る三日月刀(シミター)〉エドストレームがいつまでたっても帰ってこないと気づいたのは、それから大分後になってからだった。

 

パルメーラはついぞ、エドストレームの二つ名を知ることは無かったのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「パルメーラさん、ニニャさん。この度は本当にありがとうございました」

 

 

ラキュースは、後日改めて2人を呼び出し、深い礼を述べた。

 

 

「ラキュース、お前が俺たちに礼を言うことは無い。お前が選んだ選択が、今の状況を作っただけだ」

 

「そうですよ。それよりも、今後、この街に八本指みたいな犯罪者が入ってこないよう、法整備とか色々と大変なんじゃないですか?」

 

「ええ…その通りです。ですがローリッツがすさまじいスピードで法制化の準備を進めています。5日以内には準備が整うでしょう…それよりも気がかりなのは、あのエドストレームとオスキャス、それに奴らの部下達。例のサロンから忽然と姿を消していたのです。行方も掴めていません」

 

「…そうか。まあ居なくなって、戻ってこないならばそれでいいんじゃないか?」

 

 

そのパルメーラの言葉に、ニニャだけでなくラキュースも、ジト目の視線を送った。

 

 

「はぁ…まあいいです。許しがたき八本指の幹部たちは、闇の理に囚われ、予定よりも少しだけ早く地獄の門を越えていった…そういう事にしておきます」

 

「そうそう。ああ、ところでラキュース。お前が言っていた民間サロンとやらの資金を、お前の家と寄付で賄うという話だが、寄付はもう受け付けているか?」

 

「え…?いえ、まだ制度化までできていませんのでもう少し時間がかかると思いますが…」

 

「だったら、その寄付とやら、この街の住人以外からも受け取れるようにしておくといい。微々たる額かもしれないが、俺も協力しよう」

 

「あ、僕もしますので」

 

「御二人とも…本当に、本当に感謝します」

 

 

後日、この世界の金銭価値を未だにちゃんと把握できていないパルメーラは、リ・ブルムラシュールの屋敷から失敬してきた資金の残りの約半分を寄付したところ、それだけで向こう5年ほどの予算額に届いてしまい、アインドラ家は寄付をしたのが誰なのか、大騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

 

「…パルメーラさん」

 

「ん、なんだラキュース」

 

「私は…あなたの物語の中に、これからも登場することが出来ますか?」

 

「ん?よく分からんが…同じアダマンタイト級冒険者同士、うまくやっていけばいいんじゃないか?それにお前はまだまだレベ…いや強くなれる。色々とこの国の問題が解決して時間が出来たら、お前が良いなら鍛えてやるよ」

 

「ふふ…嬉しいです。その時は是非、お願いいたします。その…パルメーラさんが良ければ、リ・アインドルにパルメーラさんが泊まれる場所を準備しておきます。ちょうどあのサロン跡地が有りますし…」

 

「なんだ、そんな特別扱いはしなくていいぞ。色々な街の宿に泊まるってのも中々楽しいしな」

 

「はいはい、パルメーラさんの仰る通りですよ!僕たち『漆黒の剣』はいつも一緒!パルメーラさんだけ、そんな特別扱いは不要です!ね、パルメーラさん!!」

 

「え、ああ、そうだが…なんだ、なんか変だぞ、ニニャ」

 

「あらあら、そうですか、ニニャさん。私たちはチームの枠を越えて同じアダマンタイト級冒険者。今回のことで私はパルメーラさんに色々とお世話になりましたから、特別扱いの一つもさせていただきたいものですわ」

 

「あはは、そうですね。僕たちは同じアダマンタイト級冒険者。つまりは“ライバル”ってことですね」

 

「ええ、その通りですね、“ライバル”のニニャさん」

 

「あははは」

 

「うふふふ」

 

 

「なんだお前ら…なんか…怖いぞ…」

 

「あはは、そんなことないですよ、パルメーラさん」

 

「うふふ、その通りですよ、パルメーラさん」

 

 

 

こうして『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』はリ・アインドルを旅立つ。

 

次の目的地は王都、リ・エスティーゼ。

 

腐敗と裏切りの渦巻く斜陽の王都で、彼らは何を見つけるのか。

 

 




ペロロン「…姉ちゃん、さすがに、さすがにもう言っていいよね?」

茶釜「いや…まだダメ。今大事なとこなんだから」
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