オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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原作では最初期に出てくるガゼフがやっとこさ登場です。

キリが悪くてかなり長くなってしまいました。


第6章 第8話 -闇の剣士と光の剣士-

 

 

『漆黒の剣』がリ・ロベルに到着したのは、王都を出発して2日経った日の夕方だった。

 

今回の移動で、ついに『漆黒の剣』は馬車を購入した。

理由としては2つある。

 

まずリ・ロベルまでの道が乗合馬車では2日以上かかり、かつその途中に町や村が無いため、簡易休憩場所となっている中間地点で休まなければいけないということ。

しかしその乗合馬車も、最近起きていたリ・ロベル周辺のアンデッド騒動で便数が減っていて、安定して乗合馬車の席を確保するのが難しかったからだ。

 

もう1つは、『漆黒の剣』はもはや金銭的には困ることが無くなり、かつ王都だけあって、リ・エスティーゼにはそれなりに良質の馬車と馬が手に入った事による。

 

これらからペテルの提案で馬車と馬を購入し、今後は街と街の間は基本はこの馬車で移動することとなる。

まだ行った事が無い王国の街というのは、基本的には国の西側の街だ。

ニニャの転移のためのマッピングが終了すれば、この馬車の役目も終わるかもしれない。

マッピングのために西側をぐるっと回った後は再び王都に戻り、その後は売ってしまえばいい。

 

 

そういう訳で、『漆黒の剣』の皆は昨日は馬車を囲んだ野宿だったのだが、夜中に当たり前のようにモンスターに囲まれた。

 

ニニャの警報(アラーム)に引っかかった者が有ったので、野盗か何かかと起きだしてみると、それは10体ほどの骸骨(スケルトン)骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)。それを1体の骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)が率いている格好だった。

 

暗闇でもある程度の視界が確保できるスキルを身に着けたルクルットが、素早く敵の数と種類を共有。

 

ニニャが念のため矢守(ウォール・オブ・)りの障壁(プロテクションフロムアローズ)を唱え、ペテルは素早く馬を守る位置につく。

そしてダインが落ち着いて第四位階自然の獣召喚(サモン・ビースト・4th)を唱え、召喚された〈巨石の岩巨人〉の拳で、危なげなく骨を粉々に砕いていった。

 

パルメーラが手を出すまでもなく、モンスターの群れは接触から10分ほどでサクッと処理が完了した。

 

ちなみに骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)は難度48程度なので、白金級(プラチナ)以下が出会っていたら、ほぼアウトだっただろう。

 

今の『漆黒の剣』にとってこの程度はもはや問題ないレベルなので、その夜は戦闘後は通常の警戒レベルに戻って就寝したが、翌日の馬車の中でチームは話し合う。

 

 

「昨日の夜のアンデッドだけどよ、あのレベルのが普通に徘徊してるって言うんなら一般人の旅は殆ど無理なんじゃねーの?」

 

「ええ、僕もそう思います。リ・ロベルは物資の運搬とか大丈夫なんでしょうか?リ・エスティーゼの冒険者組合にはそれっぽい依頼ありませんでしたが…」

 

「だからこそガゼフ戦士長が治安維持に向かったんじゃないのか?『蒼の薔薇』の皆さんと、スレイン法国の部隊が合同でアンデッド狩りをしたって聞いたが、それにしては昨日のは普通に出現する強さのアンデッドではなかったな…」

 

「なあ、ラキュースとかが言ってた、“戦士長が大した装備もせずに”出陣したってのはどういう事なんだ?ガゼフって奴はなんか専用の装備とかあるのか?」

 

「ああ、パルメーラさん。王国戦士長は、国王から国の五宝と言われる装備を貸し与えられているんですよ。ラキュースさんの話によれば、それを装備せずに一般的な鎧とか剣で出陣したってことだと思います」

 

「成程………いや、教えてほしんだが、仮にそのガゼフって言うのが装備が万全じゃなかったからという事でアンデッドに殺された場合、国の戦士団の最も強い奴が居なくなって、そのうちリ・ロベルの方からアンデッドが押し寄せてくるってことだよな?それってリ・エスティーゼに影響でないのか?貴族は、嫌がらせとかしてる場合じゃないと思うんだが……俺がバカなのか??」

 

 

パルメーラの疑問に対して、ペテル、ニニャ、ルクルットの声が重なった。

 

 

「「「バカは貴族です(だ)(だぜ)」」」

 

御者をしているダインにも会話が聞こえていたようで、「であるな!」と声がした。

 

 

パルメーラは頭を抱えた。

いや、確かに自分は特別頭がいい方ではないが、そんな自分がちょっと考えれば分かることを、王都に居る貴族は分からないらしい。

 

貴族に対する憎悪とか、八本指との繋がりによって利益を得ようとする他を顧みない拝金的な考え、愚かな権力闘争…そういったものについては想像がついていたが、ここに来てパルメーラは、“王都の貴族はマジで例えではなく頭が悪すぎるか、あるいは何者かに魅了(チャーム)か何かかけられているのではないか”という考えさえ浮かんできた。

 

その後のニニャの説明で、ガゼフは所謂国王側の人間だから、対立している貴族派の者からは疎まれているとか、そもそも平民だからそれだけで王城で戦士長と言う立場についているのが気に食わないとか色々と教わったが、やっぱり“貴族はバカ”という考えしか浮かんでこなかった。

 

そう考えると、ラキュースとかレエブン侯とかパナソレイとかは奇跡の存在なのか。

あるいは王城に入るとバカになる魔法でもかけられるのか…あ、いやレエブン侯は王城に居るんだったなとか訳の分からない考えに囚われていたが、ともかく、王城に入りこんだ影の悪魔(シャドウ・デーモン)には、もし貴族の会議みたいなものが有ったらその内容を報告せよと命令した。

 

 

 

そういう訳で、王都を出発した2日後、リ・ロベルに到着した一行はまずは宿屋を確保した。

 

『水精達の囁き亭』と言う名の宿に入り宿泊の手配をする。

この宿は、恐らくだがリ・ロベルの最高級宿ではない。

格式は高そうだが、大通りにもう一軒、この宿よりも大きな建物の宿があった。

そしてその宿はなぜか門を閉じていて利用できなかったのだ。

 

アダマンタイト級になったばかりの『漆黒の剣』としては、最高位級宿に泊まるのは何だか落ち着かない。

そういう訳で今回の宿選択はどちらかと言うとありがたかったのだが、『水精達の囁き亭』の宿代は、他の街の最高級宿とそう変わらない値段だった。

 

財布事情的に問題があるわけではない。

しかしこれはかなり奇妙である。

 

まず、アダマンタイト級冒険者という人類最高峰の者達に吹っ掛けるような宿は普通存在しない。

なのでこれは正当な値段なのだろう。

 

そしていつものように宿の店主から情報を得るために、さっそく1階の酒場で飲み物を注文しようとしたところ、酒はエールが1種類しかなく、食事も量が出せないという。

 

これらの事から『漆黒の剣』の面々は理解する。

やはり、リ・ロベルはアンデッドの問題で物流が滞っており、結果、物価も異常に上昇しているし、最高級宿が出す様な一流の料理等は提供が出来なくなっていて、結果そういった店や宿は閉店しているのだろうという事だ。

 

ペテルが宿の店主にそれとなく聞いてみると帰ってきた答えは想像の通りだった。

 

続けてパルメーラが質問をする。

 

 

「なあ、聞いた話ではこの辺りのアンデッドを掃除するために王国戦士団が来ているそうだが、そいつらもリ・ロベルの宿に泊まってるのか?」

 

「ん、王国戦士団?…いや知らんな…ああ、もしかしたら村々を回ってるのかもな。ここから南に広がる平原の中にはいくつか村が有って、そっちの方がアンデッドの被害受けてるだろうからな。リ・ロベルはそういった村から農作物とかを仕入れるんだが、ここんところ仕入れも出来てねぇんだ。まったく、一度はアンデッドどもも数が減ったっていうのにここんとこ、どんどん増えていやがる…」

 

「…そうか」

 

 

夕食の後、『漆黒の剣』は明日以降の行動について相談をすることにした。

まずはペテルが発言する。

 

 

「やっぱり、まずは朝一で冒険者組合に行って依頼が無いか確認してみるべきだと思う」

 

 

今日、この街に到着した時間が遅かったからか、冒険者組合が閉まっていたのだ。

その意見にルクルットもダインも賛成する。

 

 

「オレも賛成だ。依頼見なきゃ始まんないだろうしなー」

 

「で、あるな。アンデッド退治の依頼が入っていたら率先して受けるべきであるな!」

 

 

一方、ニニャとペテルは別角度からの意見も出す。

 

 

「これだけ物流が止まっているとなると、そっち方面の依頼もあるかもしれないね。他の冒険者たちの横取りにならないんだったら、多少ランクが低くてもそっちを受けた方が街のためになるかもしれないよ」

 

「そうだな…あとはもしアンデッド被害などで神殿で治療を受けている方がいたら、そちらを手伝うのもアリかもしれないな。神殿の方々からアンデッド被害に関する情報がもらえるかもしれない。パルメーラさんはどう思う?」

 

 

「そうだな…」

 

意見を振られたパルメーラは考える。

まず皆が言う通り、この街の情報について未だ不十分である。

そして影の悪魔(シャドウ・デーモン)をはじめとした、悪魔調査団もどこにも潜り込ませていない。

一方で南の村を回っていると思われる、ガゼフとやらも気になる。

 

思いつく作業のうち、自分が一人でやった方が効率が良さそうなのがガゼフ達戦士団の捜索だ。

なぜならば、アゼルリシア山脈のレベリング場所捜索の時と同じで、全力で飛んだり走り回ったりは他の『漆黒の剣』のメンバーと一緒ではなかなか出来ない。

 

他の作業、例えば冒険者組合の依頼などは、現在の『漆黒の剣』であれば自分抜きであっても問題なくこなせそうだ。

ただ、依頼でどこかの村とかに出向くとなると、その時一緒に行動していなかった場合、合流がやや面倒だ。

 

あとはあり得るか分からないが、死の騎士(デスナイト)クラスを越えるアンデッドが複数発生していた場合、さすがの『漆黒の剣』でもキツイかもしれない。

 

それと、この街の領主や違法娼館などが有るかの調査だが、これはペテル達に影の悪魔(シャドウ・デーモン)を何体かおまけで入れておいて、衛兵や怪しげな店などの者とすれ違ったところで潜入させればそのうちたどり着けるだろう。

 

これらを踏まえて、パルメーラは皆に提案をした。

 

 

「もし良ければ、今日の夜から明日1日は、俺だけ別行動をさせてもらっても構わないか?」

 

一同の顔に“?”が浮かんだので、より正確に説明する。

 

 

「やらなきゃならん事のうち、ガゼフ達の捜索ついては正直俺1人でやった方が効率良さそうだ。アゼルリシア山脈の時みたく、この後夜のうちに、南の村とやらを捜索してくる。で、それはもしかしたら明日までかかるかもしれん。だから、皆は明日朝に冒険者組合の掲示板を見たら、引き受けられそうなものを引き受けて、同時に街の中の衛士に聞くとか、怪しい奴とかが居ないかの情報収集をしてほしい。依頼については街の外に出るやつだと、俺と行き違いになる可能性があるから、とりあえず明日は街中で行動してもらえると助かる。俺の方はガゼフやなんかを見つけたら伝言(メッセージ)で伝えるから、村がここから近かったら、こちらに合流してもらうことになるかもしれん。どうだ?」

 

 

パルメーラの説明に一同はやはり少々呆れながらも、最終的には同意した。

 

 

「はぁ…相変わらずパルメーラさんの作戦は、ちょっと常識の外ですね…まあ既に僕たちはパルメーラさんがその無茶苦茶が可能という事は良く分かっていますが…一応、気を付けてくださいね」

 

「ああ、ありがとな。じゃあ早ければ明日の朝にはメッセージ(伝言)するかもしれん。行ってくる」

 

 

そう言うとパルメーラは、ごく普通の足取りで宿の正門から夜の街に踏み出していった。

残された『漆黒の剣』のメンバーは少々呆れながらも、頼もしすぎる仲間の背中を見送り、各自の部屋に入って眠りについたのだった。

 

 

 

 

日付を跨いだ頃、パルメーラはリ・ロベルの南の平原を歩いている。

徒歩移動をしている理由はいくつかある。

 

まず、リ・ロベルの南と言ってもそのエリアは広大で、闇雲に探すのは余りに非効率であった。

アゼルリシア山脈のように洞窟内の道があるわけではないので、歩きながら平原の中の道のようなものを辿っているのである。

 

別の理由として、目的のガゼフ・ストロノーフや、おそらく存在する村の村人などに突然遭遇したときに、相手に不信感を抱かせない方がいいと考えたためだ。

 

正直パルメーラとしては、悪魔の本性となって完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で移動しても大丈夫な気もするが、『漆黒の剣』の皆の“教育”で、そういった方法はあまり一般的ではないかもしれないと理解し始めたことと、今回はそもそも作戦の流れを先に『漆黒の剣』の仲間にも伝えているから、あくまで“パルメーラ”として訪問しようと考えた。

 

加えて、この辺りでアンデッド被害が広がり始めているとはいえ、王国の管理する正式な村が危なければ、さすがに兵士などが派遣されて守りを固めているだろうし、そもそも戦士団はその目的で来ているはずだから、そこまで急ぐことは無いだろうと考えたのだ。

 

しかし、パルメーラのその様な考えは甘かったと言える。

 

いや、正確に言えば、王国や八本指の腐り具合を甘く見ていたといったところか。

 

 

平原の中の道を進んでいった先に、畑と建物群が見えた。

しかし同時に感じたのは、血の匂いと腐臭。

 

パルメーラはすぐさま、透明化をかけて姿を隠させていた護衛の悪魔のうち、地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)を先触れとして送り込み、自身も速度上昇のスキルを発動して後を追う。

 

結果、その村の中に生ける者は居なかった。

多くの村人と思われる死体は頭を割られていて、一部は動死体(ゾンビ)化したうえで滅ぼされたと思しき者も見られた。

 

現在人間の姿であるパルメーラにとって、それはいい気がしないし、明らかに農業を営む寒村のような場所に住む農民たちが残らず殺されている姿を見て、この惨殺の原因がどうであれ、底辺の者が簡単に殺される不条理さに怒りを覚える。

 

パルメーラはまずは状況を検分することにする。

 

村の中は明らかに争った跡があり、頭を割られた死体は刃物で切り付けられたことが伺える。

そして、今自分が来た道とは反対側の道に、赤黒い、血か何かを引きずったような跡。

馬の足跡が複数、その方向へ向かって続いている。

 

住人が消えてしまった民家の中を覗く。

その中は比較的荒れておらず、恐らくだが何かが盗まれたような形跡もない。

 

これらから考えると、馬に乗った武装した何者か達がこの状況を引き起こしたのはほぼ確実だろうが、死体の状況から、何者かが無抵抗の村人を惨殺したというよりは、村人がアンデッド化してその何者かに襲い掛かりそれに応戦した。

そしてこれ以上アンデッドが増えないように死体の頭部を破壊した。

 

つまり村は既にアンデッド被害に遭っていて村人はアンデッド化してしまっていたか、あるいはすでに殺されていて、そこに何者か——恐らくは戦士団が到着し、やむなく参戦した、といったところか。

 

アンデッド化していない死体の血の様子から、その戦闘が行われたのは数時間以内だろうと感じた。

 

 

「間に合わなかったという訳か…」

 

 

パルメーラはそう呟き、馬の足跡の続く方の道を見つめた。

もう一度ぐるりと村を見回したとき、パルメーラはもう1つ、不可解な点に気づいた。

 

この村に入るときにも見えた畑だが、畑が村の内外に無秩序に広がっている感じがする。

ブルー・プラネットのような知識は無いが、それでもさすがにおかしいと感じる。

このような畑は管理の点で不便ではないのか。

まるで、土地も無いのに急いで畑を拡大させたような…

 

そう思い、畑に近づくとそこには見慣れぬ青々とした葉を持つ植物が植えられている。

見たことないが何かの野菜だろうかと思い、茎を折ってみたところ、その折られた場所からは黄白色の液体が溢れ、その匂いはどこかで嗅いだことが有る甘ったるい匂い…。

 

 

「…あの麻薬の匂い……これは、麻薬畑か?……気分が悪いものを…地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)畑に植えられてる植物を焼き払え」

 

勅命を受けた地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)は、獣の外見には似つかわしくない丁寧な御辞儀をすると、炎の吐息(ファイヤーブレス)を撒き散らした。

 

全ての畑に火の手が上がったのを確認すると、パルメーラは馬の足跡が続く道を、少し速足で進んでいく。

 

 

2時間ほど進んだところで、かなり先に、先ほどと同じような畑に囲まれた村が現れた。

100レベルの戦士職としての鋭い五感でその方向に意識を向けると、瞬間村の中から男の声が聞こえた。

 

「舐めるな!〈六光連斬〉!!」

 

まさに今この瞬間に戦闘が起こっていると理解したパルメーラは、100レベルの戦士職として全速力で村の中に駆け込んだ。

 

目に飛び込んできたのは、2体の死の騎士(デス・ナイト)とそれらに挟まれるように立つ剣士のような男。

それを取り囲むように20体ほどの動死体(ゾンビ)が佇み、その遥か背後に黒いフード付きのローブを着込んだ者が居る。

 

先ほど叫んだのはこの死の騎士(デス・ナイト)に挟まれた男だろう。

叫び声と共に発動したと思われる何らかの技を死の騎士(デス・ナイト)に打ち込んだと見え、2体のうち1体は仰け反るような姿勢をしているが、男自身も疲労していると見え、肩を落としている。

 

そしてもう1体の死の騎士(デス・ナイト)がその隙を見逃さず、まさに今、その血塗られた剣を振り下ろさんとしている。

 

 

瞬間的な感覚で、少なくとも(パルメーラ的に)戦士として強い者はこの場に居ないと判断したパルメーラは、速やかにその中に飛び込み、剣を振り上げた死の騎士(デス・ナイト)の振り上げた腕を掴み、そのまま放り投げた。

 

ズズゥゥゥゥゥンンンン!!!

 

放り投げられた死の騎士(デス・ナイト)は、取り囲む動死体(ゾンビ)を数体巻き込みながら人形のように転がっていく。

 

 

「なんだ…?!何が…?!!」

 

黒いフード付きローブの者が驚愕の声を上げる。

死の騎士(デス・ナイト)と戦っていた剣士風の男も、驚愕の表情でパルメーラを見る。

 

しかしパルメーラはそんな視線は意に介さず、淡々と剣士風の男に声を掛ける。

 

 

「俺はアダマンタイト級冒険者チームのパルメーラと言う者だ。アンデッドに襲われているのが見えたから来た。お前の名は?」

 

 

漆黒の服装と漆黒の剣を腰に下げた黒目黒髪の男の言葉に、剣士風の男は我に返り、そして、男の首元に光る冒険者プレートを見てから叫んだ。

 

 

「助太刀感謝する!俺はガゼフ・ストロノーフ!王国戦士団の者でこの地域のアンデッド討伐を行っている!良ければ俺に雇われて、そのまま助太刀してくれないか!!」

 

「承知した」

 

 

その言葉の直後、ガゼフの横を黒い風が奔った。

ガゼフがそれに気づいてその黒い風を目で追いかけた時には、男はいつの間にかガゼフの前にいた死の騎士(デス・ナイト)に向けて、その腰の黒い細身のロングソードを横薙ぎに払い終わった後だった。

 

剣撃がデスナイトを横一文字に切り離し、衝撃波が周りに居る動死体(ゾンビ)を粉々にする。

 

 

「なんっ…という…っ!!」

 

 

ガゼフには見えなかった。

パルメーラと名乗った男が移動したことも、剣を鞘から抜き、それを薙いだことも。

ただ漆黒の風を肌で感じ、その感覚を目で追った時には、それは既に終わっていた。

 

 

「あなたは…っ!」

 

「ガゼフ、油断するな」

 

 

余りの神業に、ガゼフの視線が一瞬パルメーラだけに向けられた。

その瞬間を、パルメーラと言う男は感じ取り、そして注意した。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)はどんな攻撃も一撃だけ耐える。まだ終わっていない」

 

 

ガゼフは“死の騎士(デス・ナイト)”と言う名のモンスターを知らなかったが、恐らくは今まで自分が戦っていた恐ろしく手ごわいアンデッドの騎士の事だろうと理解し、急いで目線を向ける。

すると、パルメーラに上半身と下半身を切り離されたはずのそれは、時間を蒔き戻すように繋がって、再びその手に剣を持つ。

 

「オオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

死の騎士(デス・ナイト)は魂に恐怖を刻み付けるような声で咆哮する。

しかしパルメーラは冷静に口を開く。

 

 

「…が、一度耐えた後の奴のHPは残り1だ。だから軽い攻撃で倒せる。もし遠距離の攻撃法があるならば、やってみるが良い」

 

「な……いや、貴殿の言葉、信じよう!武技〈四光連斬〉!!!」

 

 

光る四つの剣線が、咆哮を上げた死の騎士(デス・ナイト)に到達すると、先ほどまでとは打って変わって、あっさりとその呪われた巨体が傾き、灰となって消えていった。

 

 

「疲れているところ悪いが、あの奥にいる黒いフードの奴。あれはあんたの仲間じゃないよな?」

 

「あ、ああ。おそらくは奴こそが首魁。あの者が死の騎士(デス・ナイト)とやらを操って俺たちを襲ってきたのだ」

 

「操って?奴はネクロマンサーか?」

 

「いや、違う…奴はッ……奴は子供を操って、それを囮に俺たちをおびき寄せたのだッ!!」

 

「子供を……そうか」

 

 

吐き捨てるように叫んだガゼフの表情は、怒りに満ちていた。

そして彼は確かに“俺たち”と言った。

にもかかわらず、この場にはガゼフと黒ローブの者以外が見当たらない。

 

恐らくは…既に全滅したのだろう。

 

 

 

「き……貴様。何者だ…いや、一人増えたところでこの『不死王』デイバーノックを倒すことは出来ん。死の騎士(デス・ナイト)、行け、まだ生きている人間がいるぞ」

 

 

その声に合わせるように、先ほどパルメーラが放り投げた死の騎士(デス・ナイト)が起き上がる。

 

 

「パルメーラ殿、気を付けろ。あのローブの者、恐らく魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。離れた場所から炎の魔法を放ってくる!」

 

「ふむ…成程な。奴の死の騎士(デス・ナイト)に対する言葉、子供を魅了(チャーム)か何かで操り、おそらく火球(ファイヤーボール)を行使する、人間の気配のしない者…」

 

 

そこまで言ったパルメーラの姿が再び掻き消える。

 

次の瞬間、パルメーラの左手がフードの男の頭を掴んでいた。

いや、フードはすでに切り裂かれ、そこから覗かせたアンデッドの顔の頭に、パルメーラの手が置かれていたのだ。

 

デイバーノックの視界の端では、つい今、起き上がったはずの死の騎士(デス・ナイト)が、その身体をバラバラに切り裂かれ崩れ落ちたのが見えた。

 

 

 

「やはり、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)か。その程度のアンデッドが随分と舐めた真似をしたな…『不死王』だ?随分と大層な名前だな。誰につけてもらった?ああ?」

 

「なっ…死の騎士(デス・ナイト)がっ…それに、クローク・オブ・ファイヤープロテクションがッ?!」

 

「で、どこの誰様なんだよ、お前は?」

 

「ヒッ!!」

 

 

呆気にとられていたガゼフが再び我に返り、叫ぶ。

 

「はっ、八本指の実力者である六腕に、デイバーノックと言う魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居ると聞いている!死者の大魔法使い(エルダーリッチ)とは知らなかったが、その可能性が高い!!」

 

 

その言葉を聞いたパルメーラが、視線をデイバーノックに移す。

 

「そうなのか?『不死王』?」

 

 

デイバーノックの心は既に折れていた。

なぜならば、自身の頭に乗せられた手、触れられているのはそれだけなのに、たったそれだけで隔絶した力の差を理解してしまった。

感じるオーラが桁違いなのだ。

その感じはゼロを含めた、今まで出会った何者よりも強い。

 

そしてさらに恐ろしいことに、アンデッドであれば精神作用やデバフ系は効かないはずなのに、体が動かないのだ。

まるで見えない何かに体中を強く掴まれているかのようだ。

 

 

「ヒイイイ!!そっ、そうだ!魔法の深淵を除くため、ゼロに雇われ、今回の任務を!!」

 

「…ゼロとやらも八本指か?」

 

「そうだ!奴は六腕の最強の男だ!」

 

「本当に不快な奴らだ…ガゼフ!このアンデッド、始末しても構わないか?」

 

「ヒィ!!」

 

 

ガゼフは一瞬躊躇ったが、パルメーラの気迫に押されたのか、すぐに首を縦に振った。

それを見たパルメーラは小さく呟く。

 

「…首から下を粉々にしろ」

 

 

瞬間、パルメーラが左手で持っている顔を残し、デイバーノックの身体が粉々に砕け散った。

透明化状態の悪魔たちが、掴んでいた力を強めた結果であった。

 

こうして、六腕の一人、〈不死王〉デイバーノックは、その偽りの生命を終えた。

 

 

 

夜の闇の中、漆黒の衣を纏い、漆黒の剣を下げた漆黒の男が、その左手に禍々しい紋章を光らせながら、今しがた粉々に砕いたアンデッドの首を掴んでいる。

 

男が深い闇色の目でガゼフを見つめると、ガゼフはその男は確かに自分を救ってくれた者であったはずなのに、まるで人を喰らう悪魔のように見え、本能的な恐怖を感じた。

 

 

「ガゼフ…」

 

「あ…ああ」

 

「この首はお前に渡す…倒した証拠として持ち帰る必要があるんじゃないのか?」

 

「あ…ああ、その通りだ。重ね重ね、感謝する!」

 

 

そう言ったガゼフは、突然何かを思い出した顔をして、『失礼、少々待ってくれ!!』と言うと、村の最奥にある物置小屋の方へ走っていった。

 

パルメーラが後を追うと、その小屋の前には無残に殺された兵士たちが折り重なっている。

ガゼフの表情から、恐らくはガゼフの仲間、王国戦士団の者だろう。

傷の感じから、死の騎士(デス・ナイト)動死体(ゾンビ)か何かに殺されたようだ。

そしてその死体たちは、小屋の扉を守るかのように力尽きている。

 

ガゼフが急いで小屋の扉を開けると、血を流し、今にもこと切れそうな少年が蹲っていた。

床には空き瓶がいくつか転がっている。

恐らくは戦士団の者が与えたポーションの空瓶だろう。

 

 

「遅くなって済まなかった!追加のポーションだ!これを早く!」

 

 

ガゼフが差し出したポーションは、ユグドラシルのものとは違う青色であった。

ガゼフがなんとかそれを少年の口に入れたが、効果が薄いのか一向に少年の容体は良くならない。

 

見かねたパルメーラは手持ちのポーションを1つ取り出し、ガゼフに渡した。

 

 

「ガゼフ、これを使え」

 

「赤色…?!いや、感謝する!!」

 

 

ユグドラシル産のポーションを飲んだ少年の身体は薄く光り、傷が直ちに消えて目には生気が戻った。

 

 

「なんと…!感謝する…本当に…感謝する!!」

 

 

 

仲間の死体に囲まれた小屋の中で、1人で立てるようになった少年にガゼフは話しかける。

 

「良ければ、名前を教えてもらえるだろうか」

 

「……ノアク」

 

少年が小さく答える。

 

「そうか、ノアク…本当に済まなかった…俺は王国戦士団のガゼフと言う者だ。俺は、君の家族を救うことは出来なかった…本当に済まない!!」

 

ガゼフは少年に深く頭を下げた。

少年は家族を失った自覚による悲しみと、大の大人が唯の村の子供である自分に頭を下げているという事実に混乱したような、複雑な表情を見せている。

 

「君が望むなら、君が成人するまで困らない支援が得られるよう国に相談する。もしそれが叶わないなら、俺が君の面倒を見る。約束する」

 

 

少年はその言葉を聞き、どうしていいか分からないという顔をしたが、恐らくは極度の疲労により、しばらくすると眠りについた。

 

その様子を見てガゼフは、再びパルメーラに向き直った。

 

「パルメーラ殿、重ね重ね済まないが、少しの間、ノアクを見ていてもらえないだろうか。俺は……やらなければならないことが有る」

 

 

パルメーラが頷くとガゼフは再び頭を下げ、その物置小屋を出て行った。

 

外で待機している透明化した悪魔たちが、パルメーラに報告する。

 

ガゼフは、外に散らばる村人と仲間の死体の頭部を破壊している、と。

 

信仰系魔法等を治めていない彼が、死体のアンデッド化を防ぐためにはこの方法をとるしかなかったのだ。

 

彼はそうして、守れなかった村人と、犠牲になった仲間の身体に剣を突き立てて回った。

 

朝日が昇り始めた頃、ガゼフは再び物置小屋の扉を開ける。

 

 

「お待たせした、パルメーラ殿。子供を守ってくれていて感謝する」

 

 

優しい朝の光を背負う男の顔には、深い悲しみと怒り、そしてそれを恩人に必死に隠そうとする笑顔が見て取れたのだった。

 




王国編は他の章と比べると、めちゃくちゃ人間種が死にます。すみません。

六腕、残り3/6です。

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