オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
誤字等のご指摘感謝です!
初心者のため、色々と気になる点がありましたら教えていただけるとありがたいです。
あとすみませんが、この回でトブの大森林には到着できませんでした。
アーウィンタールの南西側の検問所を越えて10キロほど進んだところで、フォーサイトは街道上に、黒いベールを掛けられ額に2本角が生えた馬に曳かれた馬車を見つけた。
馬車は豪奢と言っていい作りであったが、貴族用かというと、いささか粗末にも見える。
何より貴族の紋章らしきものがない。
馬車の中から見知った顔の男、パラケルが姿を現した。
「お疲れ様です、フォーサイトの皆様」
フォーサイトは事前の打ち合わせで、このことを聞いていた。
普通旅をする際は、街と街の間は乗合馬車を利用するのが一般的だ。
今回の行先はトブの大森林であるが、アーウィンタールから大森林に向かうまでには、まず帝国内の南西の都市へ行き、その後は王国領の都市へ行き、そこから北上して可能なら森林周囲の村にて休んだのち到着することとなる。
都市間の移動は乗合馬車が一般的で、これはもちろん任務の前に無用な疲労を溜めないことや場合によっては歩くより早く着くこと、また冒険者やワーカーはその戦闘力の高さから、馬車の警護を手伝うという契約をすれば、比較的安く馬車を利用できるという利点があるからだ。
しかし今回の任務はパラケル達と内密に同行する必要があり、また幸運なことに彼らは馬車を所有しているそうなので、それに乗せてもらうことができるという事になった。
しかし述べたように、ワーカーが乗合馬車にも乗らず、歩きで街を出るのはかなり目立つので、今回彼らは日が出るかなり前に検問所を越え、朝一番の乗合馬車に追いつかれないように足早に移動してきた。
ここまで来て、もし仮にパラケル達がこの場所にいなかった場合、フォーサイトは次の街まで歩き切らなければいけないという重労働が確定するのだが、フォーサイトの4人は皆、パラケル達に底知れぬものを感じていたので、疑うことはなく街道を歩いてきた。
「や、パラケルさん。なんというか、すみませんね。こんな早朝に、しかも馬車まで同乗させていただくなんて」
「いえいえ、早起きは慣れておりますので。それではお乗りください。中でこれからどのように行動するか話しましょう」
実際はここまで転移してきたのだが、当然そのようなことは言う必要はない。
見ると、御者の席にはルゥオンが手綱を握り微笑んでいる。
それを見た、イミーナが慌てて申し出る。
「さすがにここまでしてもらって、私たちが何もしないのは気が引けるので、私が御者をしますよ!ルゥオンさんは中へ入ってくださいよ!」
イミーナの申し立てに、ルゥオンは少し困った顔で答える。
「ありがとうございます、イミーナさん。ですが心配には及びませんよ。私はこう見えて、それなりに体力がありますし、それに、この子は私以外は制御が難しいかもしれません」
そう言われたイミーナが、馬車を曳く馬を見た。
馬は黒いベールを掛けられているが、肌は白く、ベールの隙間からは大きな瞳がのぞいている。
イミーナは優しげに馬に目を向けたが、馬は一瞬イミーナを見た後、明らかに不機嫌そうに瞳をそらした。
「ありゃ…本当だ。レンジャーとしてそれなりに馬には乗ってきたんだけど、自身無くしちゃうわー」
「ふふ…この通り、この馬の扱いはルゥオンが適任ですので、皆さまは中へどうぞ」
パラケルの2度目の言葉で、フォーサイトの4人はおとなしく馬車の中へ入った。
パラケルの馬車は驚くほど快適であった。
馬車であれば当然多少の揺れがあるものだが、そのようなものはほとんど感じられず、また、移動速度もとても速い。
乗合馬車であれば、次の街に着くのは翌日の夜であるが、なんと昼前には到着してしまった。
フォーサイトとパラケル一行は街で予定通り物資の補給(とはいっても想定の半分量であったが)を行い、その日のうちに王国領へ入った。
「しかし…やっぱりこの馬車はすさまじいスピードですね。このペースで行くと王国領の街『エ・ランテル』には後1時間で着くかと思いますよ」
「はは、先ほど申したように、私たち一族はフールーダ様を頼ってアーウィンタールへ赴く前は、この馬車で旅をしておりました。そのためこの馬車には先代の頃から幾重にも魔法をかけて、振動を抑え、非常に軽く感じるよう重心を変えています。加えて、馬には疲労軽減の効果があるベールを着せているので、常に最高速度で走ることができるのですよ」
フォーサイト一同はパラケルの説明を聞き、何度も感嘆を漏らしている。
実際、黒いベールには疲労軽減(というか疲労無効)の効果があるし、馬車はタブラが魔法で作成しているので、重量はほとんど無い様にしている。
それでも実際はアルベドに、“現実的に可能な範囲で最高速度を出すように”と言っているのでここまで1日かかった。
例えば
“旅をしたい”というのは、何も旅情を楽しみたいとか、リアルでは失われた自然を満喫したいとか、そういうのではない。いや、そういう感情が全く無い訳ではないが。
タブラの目的は、実際に街道、自然、街というものを観察して、今後の生活に要らぬ違和感を出さないようにするためという事と、AOGないしはユグドラシルに繋がる何かが無いか観察するためである。
現在のところ、ユグドラシルに関する痕跡は収穫なし。
ニグレドにも周囲を含めた観察をしてもらっているが、それらしきものは見つけられていない。
モンスターとの遭遇も2度のみ。
それも離れゴブリンと思われる3頭のゴブリンと、モンスターというか動物の
『まあ、モンスターのレベルはお察しですね。トブの大森林内にいるモンスターがどの程度なのか、少し期待しておきますか』
一方で、街の散策はタブラたちに様々な情報をもたらした。
物の物価、庶民の暮らし、住人の様子、裏路地、業種…
フールーダからは非常に多くのことを学べたが、彼はアレでも上流階級の人間であり、また魔法が絡まないことは無関心という性質なので、庶民目線の様々な情報を得るという意味ではこの旅は既に大きな収穫があったと言える。
少なくとも“街”には人間種しかいない。
それも、人間かエルフ。それと、ごくわずかのドワーフ。
帝国内で一度休憩した街の鍛冶屋にはドワーフがいたため、軽く話しかけてみたところ、彼らの故郷は帝国と王国の北側国境にそびえるアゼルリシア山脈という場所らしい。
しかし、数十年前からそこに住む親戚とも連絡が取りづらくなり、現在はほとんど交流が途絶えてしまっているとのこと。
山脈にはドラゴンや巨人が住むらしく、危険性が高いので普通の人間には気軽に訪問できないなどの情報も得られた。
エルフは、王国のさらに西にエルフの国があり、そこから移り住んだものなどがいるとのこと。エルフ国は比較的安全だが、領土のほとんどが森なので、人間には移動が難しいという事から、あちらからの移住はあれど、こちらからエルフの国への移住は滅多にないとか。
そして、王国については国境を越える辺りで、ヘッケランがいくつかの情報を教えてくれた。
曰く、王国-正式名称は『リ・エスティーゼ王国』。近隣の人間が住む国の中では最大の面積を持つが、いわゆる封建国家で、腐敗貴族による悪政が敷かれているとか。ただ、それは領主である貴族によるところが大きく、これから向かう『エ・ランテル』は王直轄領という事で比較的まともだとか。
加えて、現在住んでいる『バハルス帝国』は現皇帝が有能で、即位後に封建国家を廃し、いわゆる専制君主制国家となったことでかなりまともになったとのこと。
その話の際、アルシェは少しばつが悪そうに、馬車の窓から外を見ていた。
「まあそう言う訳で、もう少しで到着する『エ・ランテル』はまともな街です。我々も別の任務で過去に来たことがありますが、検問でいちゃもんを付けられるとかは恐らく無いと思いますよ」
『はいフラグ立ったー!!』
タブラの中に住む、あるバードマンの幻覚がそう叫んだのが聞こえた。
***
先ほどの某バードマンの警鐘を聞いて、タブラ・スマラグディナという男が何も対策しないはずがない。
検問所が見えるか見えないかのギリギリのところで馬車を止め、フォーサイトを下す。
「さて、ここからは歩いて先に向かっていただけますか?私たちは別のルートでもって都市に入りますので」
フォーサイト一同は『えっ?!』という顔をしたが、別のルートを聞いていいものか分からず、無言の時間が訪れる。
パラケルは特に動揺した様子もなく、理由を述べる。
「実は私たちは、フールーダ・パラダイン様の縁者という事で、通行証を頂いているのです。ただ、この通行証は私と娘たちのみしか使用できません。なので、我々は別ルートで街に入ります。今回、本来我々が同行しているというのはそもそも不都合なはずなので、そういう意味でも別々に入った方がいいのでは?」
「まあ…そうか。確かにそうですね。他国ともなるとある程度警戒はした方がいいですね。宿泊の時は宿帳に名前も書きますし、宿も別々にしますか?」
「ええ、そうですね。ちなみに皆さんが泊まる宿は決まっているのですか?」
「はい、以前使用した飯が旨い宵霧亭という宿に泊まろうかと」
「そうですか。それでしたら私たちも一度宿に入ったのち、そちらへ向かいます」
「分かりました。ではまた後で」
フォーサイトが遠ざかる様子を見ながら、馬車を作成していた魔法を解除し、アルベドの騎獣であるユニコーンをしまい、ニグレドに指示を出す。
『ニグレド、この先にある『エ・ランテル』を調査して、高位階の結界が張られていないか、また、レベルの高い者が居ないか調査してください』
『畏まりました』
しばらく後にニグレドから、少なくとも魔法的に強い者や、強固な魔法結界などの不自然な場所はないとの連絡を受けたタブラは、自身とアルベドに完全不可知化を施し、
ちなみにタブラは、件のフールーダ印の通行証は本当に持っている。
帝国内の街を通った際は、ワーカーの一員として認識され、特に個人の通行証を見せる場面が無かったのである。
もしニグレドの調査で怪しい気配が見つけられた場合は、
しかし、それらを看破する存在がいる可能性は極めて低そうなので、一番情報を残さないやり方で入ることにした。
また、宿泊すると宿帳に名前を書く必要がある。
現地言語は自身の名前や簡単な単語くらいは書けるようになっていたが、やはり無駄に情報を残したくないという事から、この町では宿泊せずにアーウィンタールの自宅へ転移するつもりだ。
街の中を透明状態で速やかに散策したのち、『黄金の輝き亭』というところが国賓の場合泊まる可能性が高いと当たりを付け、後でフォーサイトに宿の様子などを聞かれた時の対策に、中に侵入してくまなく調査した。
そして夕方、何食わぬ顔で、『宵霧亭』の食堂でフォーサイトと再会したのである。
そう言う訳で、先ほどのヘッケランとの会話、タブラは“全く噓を言っていない”。
***
心の中のバードマンが叫ぶ。
『タブラさん、ひど過ぎる!立ったフラグは回収するのが様式美でしょ!そうしないと登場さえしない子もいるんですよ!!』
『いや、知りませんよ。危なそうなフラグが見えたら、へし折る方が効率的でしょうが。あ、今回は警告いただき助かりました。今後ともよろしくお願いいたします』
『鬼!
まあ、これだけ手札が揃っていて、頭タブラさんだったらこうするだろうな…というお話でした。