オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
商会長として喋っているので余所行きの喋り方です。
「おーい、ペテル。この依頼それっぽくないか?」
「ん、どれどれ…“ウルステリエ村、ソルーナ村、クーニヴィステア村からの物資運搬の代行”か。依頼主は“オルソン商会”か…確かにな。冒険者ランクが書いていないが他に関連ありそうな依頼出ていないし、一度内容を聞いてみるか」
***
「しっ『漆黒の剣』の皆様!えっと、そちらのご依頼ですが、冒険者ランクの限定はありませんが、一度ご依頼主の商会長に面談していただく必要があります!」
「そうですか。皆、どう思う?」
「いーんじゃね?他の冒険者チームの迷惑になりそうなら、その商会長と話してやめればいいし」
「なんかあまり聞かない条件だね…とにかく商会長と話してみて、それで問題なさそうならいいかもね。でもパルメーラさんが言っていたように、今日の出発は断らないと」
「私も一旦面談を受けるのに賛成であるな!」
「よし、じゃあ受けてみようか。あの、そう言う訳なので、商会長と面談させていただきますか」
「はっ、はい畏まりました!」
「それにしても、今日は余り他のチームが居ないですね」
「あっ、えっと。この街の冒険者チームの方々の多くは同じ依頼を受けられて、現在この村に行っているんです」
「なるほど…やっぱり物流の問題が深刻なんだな…ちなみにこの村は、リ・ロベルからどれくらいの距離ですか?」
「あっ、はい!最も近いソルーナ村がここから南に15kmくらいです。そこからさらに南西に20kmくらい行くとウルステリエ村で、南東に25kmくらいのところにクーニヴィステア村が有ります」
「そうですか。それと念のため教えて欲しいのですが、この依頼を受けた他の冒険者チームのランクはどのようになっていますか?」
「はっ、はい。えっと、
「そうですか。ありがとうございます」
「こっ…こちらこそ!!」
アダマンタイト級冒険者として、組合の受付嬢から緊張した態度で接せられるのに未だに慣れないペテルだったが、とにかくパルメーラを除く『漆黒の剣』はこの依頼を仮受注し、“商会長の面談”とやらを受けることにしたのである。
既に受注しているチームのランクがかなり低いことから、やはり低ランクチームの仕事を奪ってしまうのでは?という懸念があったが、それにしても物流の状況は深刻そうだし、一旦は話をすることにした。
面談は午前中であったが、その時点でパルメーラからの連絡が無かったので、今日は出発しない事だけは確定で、一旦4名だけで面談を受けることにした。
「こっ…これは、まさかアダマンタイト級冒険者の方がこちらの依頼を受けていただけるとは!私はこの商会の商会長をしているクリストフェル・オルソンと言う者です。最近はまれに村までの道でアンデッドが出ることが有るので、運搬業務を念のため冒険者の方にお願いしているのですが、やはりリ・ロベルから遠いほど危険があると判断して、この面談で冒険者ランクに応じて行先を割り振らせていただいているのです」
「成程、そう言う訳でしたか。聞いた話ではクーニヴィステア村というところが最も遠いと伺いましたが」
「ええ…その通りなのですが…さすがにアダマンタイト級の方にこのような仕事を依頼するのは気が引けるというかなんと言うか…」
「あの、この街に到着して思ったのですが、アンデッドが増えているからなのか、だいぶ物流が滞っているように感じます。私たちが仕事を受けることで他チームに迷惑が掛からないようでしたら喜んでお受けしますし、依頼料も最低限で構いませんよ」
「う…うーむ…そうですな……しかし…うーむ、少し時間を頂けますかな。少々調整をして、準備が整いましたらこちらから再度連絡を差し上げますので」
「わかりました。私たちは『水精達の囁き亭』に居ますので」
「畏まりました。それでは」
面談が終わって、とりあえず依頼主からの要望的にも今日中の出発という事にならなかったため、改めてこの件はパルメーラが戻ってから話そうという事になった。
しかしニニャが、先程から何かを考えている素振りを見せ、最終的に『ペテル、悪いんだけど、もう一度冒険者組合に行ってもいいかな?』と聞いてきた。
断る理由もないので、一行は冒険者組合に向かい今度はニニャが受付嬢に話をする。
「先ほどはありがとうございました。クリストフェル・オルソン殿にお会いしたのですが、すぐに出発という事にはならず、商会の方で準備が整ったら連絡が来ることになりました。僕たちは『水精達の囁き亭』に滞在しているのでそちらに直接使者の方が来るかもしれません。御繋ぎ頂きありがとうございました」
「いっいえ、こちらこそアダマンタイト級の皆様のお役に立てて光栄です!」
「いえいえ、ところで、同じ依頼で既に出発した冒険者でもう戻ってきているチームはありますか?」
「あっ、いえ、居りません。一番最初に出発した
「そうですね。僕たちもこの街に滞在中は組合に顔を出しますので、その時に教えてください。あ、それと結構前に『蒼の薔薇』がアンデッド討伐を行っていたと聞いたのですが、彼女たち——ラキュースさんとかリグリットさんがこの街を離れたのってどれくらい前ですか?」
「あっ『蒼の薔薇』の皆様ですか?!はい、えっと…ちょうど6週間前です!」
「そうですか…ありがとうございます」
「こっ、こちらこそ!」
冒険者組合を出ると、ニニャは他のメンバーに『ちょっと一旦宿に戻って話がしたい』と言った。
ちょうど昼時だったので、宿1階の食堂で食事をしながらニニャは話をする。
「皆、えっとさ、今回の依頼なんだけど、ちょっとおかしい気がするんだ」
「ん、どういうことだ?」
「ちょっと待って…
名実ともに“
「今回の依頼は冒険者ランク関係ないって言ってたけど、実際に依頼を受けて出発しているのは銅級が多くて最高でも白金級。そして南に15㎞、往復で30㎞の物資運搬の出た冒険者チームが銅級とはいっても5週間もかかるかな?」
「確かに…いつかエ・ランテルからカルネ村に薬師の護衛で行った時も移動時間は精々往復10日ぐらいだったな」
「あんときのオレらは銀級だったから、銅級っていうランクの差を考えても、5週間てのは確かにおかしいな」
「そう言えば、この街に着くまでに遭遇したアンデッドはプラチナ級ぐらいでないと対処が難しいのも居たであるな!」
「そうなんだよ…つまりこれって、実質
「言われてみればそうか…だけどニニャ、だったら冒険者組合はなんで依頼を出し続けてるんだ?」
「これは僕の推察だけど、依頼内容は“物資運搬”だから一見すると
「確かに…でもそーなるとよ、あの商会長が俺らの参加を即決しなかったのおかしくねー?だって危険な依頼だって言うんならアダマンタイト級に頼んだ方がいいだろ?物流止まって困んのは商会だろうし、ペテルが報酬安くてもいいって暗に言ったのによ」
「そこなんだよ。ルクルットが言うように物流止まって困るのは商会のはずだし、それに普段から自分たちで物資の運搬をしているはずだから今回の依頼が危険かもしれないって一番理解しているはずだと思うんだ。それに、『蒼の薔薇』の皆さんがアンデッド討伐を終えたのが6週間前で、この依頼に最初に出発したチームが5週間前。『蒼の薔薇』の働きでアンデッドが一時的に減ったって聞いてるから、そのタイミングだったら冒険者なんて雇わずに自分たちで普通に運搬をするか、依頼をするなら運搬そのものではなくて“護衛”になるんじゃないかな」
そこまで聞いていたペテルはニニャが考えている可能性に気づいた。
「つまりニニャは、あの商会長はアンデッドの状況を知ったうえで“比較的弱い冒険者”を選別して送り込んでいる可能性があるって言いたいのか」
「そうだよ。正直理由が分からないけど、逆に考えると、そうやって弱い冒険者を送り込んだことでその冒険者が犠牲になってアンデッド化し、結果的にアンデッドがまた増え始めたって考えた方が時系列的に合っている気がするんだ」
「おいおい、それが事実なら大問題じゃねーか!ていうか組合がそれに気づいてないなら教えた方がいいんじゃねーのか?!」
「いや…ルクルット。ニニャの言っていることが全て正しいなら、“オルソン商会”というのはこの街では権力を持っていて、組合もそのことに気づいても簡単に口出しできないのかもしれない」
「いや、だからと言ってよ、冒険者チームが犠牲になってるかもしれねーんだぜ!組合にとっても損失だし、このままじゃ被害が広がるばっかりだろ!」
「…俺もそう思う。だけど、そういう事を平気でやって、しかも組合に、いや正確には組合長とか一部の人間に圧力をかけそうな奴らが関わっているかもしれないってことだ」
「…“八本指”、であるな」
リ・アインドルの事件の後、ニニャは詳細な部分をぼかして、八本指が街で麻薬販売拠点を築こうとし、それをすんでのところでアインドラ家とラキュースが阻止したことをチームの皆に話した。
パルメーラがちょいちょい別行動していたのは、実はそのためであったというのも暗に伝えてある。
これまでの冒険者として生きてきた経験や、実力も兼ね備え、パルメーラによって物事の裏側を見る機会が増えたニニャの成長も相まって、『漆黒の剣』は名実ともに“アダマンタイト級”にふさわしいチームに成長しつつあるのだ。
そんな彼らのセンサーに、今回の“違和感”が引っ掛かった。
「午後なんだけど、パルメーラさんから連絡が来るまで、街の中を探索して違法店舗…例えば奴隷市場とか娼館とか賭博場とか、そういうのが無いか探索してみない?もちろん危ないところまで深追いはしないで、あるかどうかだけの確認をね。パルメーラさんから連絡が来たら、この状況をパルメーラさんにも共有して、そこから先は合流してから動くのはどうかな」
ニニャの提案に一同は頷く。
ちょうど
***
現在パルメーラは左手の紋章を光らせながら、スキル〈
このスキルは追加デバフを与える効果を持つ
さすがにガゼフと村の子供が見ているところで
「パルメーラ殿、貴殿は…魔法まで使えるのか?!」
「ああ…俺の職業は
「い、いやその通りなのだが、パルメーラ殿の神のごとき戦士の技量を見た後では、な」
「それにこれは厳密に言うとスキルだ。俺の種族
「悪魔…いや…うむ、そうか…俺としては貴殿のような極限の強さを持つ戦士が正しき心を持った義憤篤き人類の英雄であったことが素直にありがたいな」
「“正しき心”か…いや、違うな。俺は“悪”だ。たまたま今回の件は目的が重なっただけだ。俺は目的のためには“悪”の手段も取る。それを忘れないでくれ」
「…そうか。肝に銘じておこう。だが俺にとっては、やはり貴殿は尊敬できる英雄だ。貴殿は俺だけではおそらく達成できなかったことを達成した。そして…無辜の村人を、子供を救うことが出来た。それは事実だ」
「…そうかよ」
朝日が昇り落ち着いたところで、パルメーラは『蒼の薔薇』のラキュースと成行き上共闘し、別任務で別れる際にガゼフのことを聞いたという一連の流れを説明した。
そしてその後、現在いる村、そしてここに来る前に通過した村に麻薬が植えられていて、リ・アインドルではその麻薬が持ち込まれかけていたことも説明し、王国の今後のために焼き払った方がいいと言ってガゼフと共に焼き払っているのである。
デイバーノックがどうやってガゼフ達をおびき寄せたのかについても説明を受けた。
最初に到着した村であるソルーナ村は、ガゼフ達王国戦士団が到着したときは既にアンデッドに襲われ、ほとんどの村人が
戦士団はやむなく、元村人たちを倒したが、その作業が終わるころになってある民家から子供が出てきた。
そしてその子供は信じられないスピードで走り出した。
生存者という事で保護しようと追いかけたが戦士団でもなかなか追いつけず、最終的には現在いる村であるウエステリア村に到着した。
その瞬間子供は倒れ込み、体中、特に脚が傷だらけになっていた。
恐らくは
すぐさま戦士団の者がポーションを与えたので命はとりとめたが、そこまで生きていたこと自体奇跡だったかもしれない。
そして、そうこうしているうちに、村の家々から
ガゼフを除く戦士団員たちは、この騎士に太刀打ちできず、次々と殺されていき、最終的にはガゼフだけが残ったという訳だった。
「…しかし、六腕の一人が
「いや…おそらくだがデイバーノックは
「な…ではどうやって奴は?」
「最も可能性が高いのは、デイバーノックは村の人間を操って、人間を餌に
「なんだとッ…そのような…そのような外道……ッ!!」
パルメーラは、怒りに燃えるガゼフ見ながら思う。
ガゼフの怒りは尤もだ。
彼は今回の作戦で仲間(部下?)をすべて失った。
しかもその仲間の死体に剣を突き立てた。
これは自分に例えるならば、死んでしまったAOGの仲間の死体に剣を突き立てる事。
もしこれが自分の身の起こり、そうしなければならない状況になったならば、自分ならそれを仕向けた敵に対し、凄まじい憎悪を抱くことになるだろう。
そうなった場合、犠牲になった村人など眼中に入らないかもしれない。
例えばその犯人が何処かのギルドの1人であったならば、そのギルドごと潰すことになるだろう。
そのためであれば善悪光闇関係なく取れる手段は何でもするだろう。
だがこの男は、確かにその事実に怒りを覚えているが、同時に救えなかった無関係の者への哀悼、そしてそれを許してしまった自分自身に怒りを覚えている。
嫌いな男ではない。
今まで他者に聞いてきた前評判の通り、この男は真の意味での“善人”で、権力や体制に阿る者でもない。
そして物語に出てくるような“英雄”と呼ぶにふさわしく、闇の世界に生きてきた
だが、決定的に理解できない所もある。
口ぶりから彼は“八本指”を知っている。
その行いを知っている。
そして今回の犠牲は、“王国戦士団を抹殺する”という目的の元行われた可能性が高い。
ラキュースの話と、行動を起こした者が八本指の六腕とやらであること踏まえて考えると、このガゼフと言う男1人を殺すために、八本指が愚かな貴族を操り、専用装備を剥いでこの戦場に立たせ、その結果関係が無い村2つが消えた。
いや、麻薬を栽培していたから、八本指の息がかかった村かもしれないが、そうであってもこのノアクの様な子供などは何も知らないだろう。
この男は分かっているのか?
戦士長と言う、恐らくは高い地位にある自分自身がバカな貴族を律し、八本指がはびこる環境に抗っていたならば、今回のことは起きなかったかも知れないという事を。
そういう訳でパルメーラは、この男のことは嫌いではないが、“甘い男である”という感想を持った。
だがもしかしたら、現時点で自分が持っている以外の別の情報が隠されているかもしれないという可能性もあるので、今はまだそれを言うべき時ではないとも理解している。
ともかくもパルメーラは、せっかくの邂逅であったから、ガゼフに
パルメーラとしてはガゼフに会うという目的を果たし、恐らくは八本指により村が潰され、その過程でアンデッドも増えていたからリ・ロベルの物流も悪なっていたのだろうという状況も理解した。
ただ、『蒼の薔薇』やスレイン法国がアンデッド狩りをしたにもかかわらず、恐らくは
日も高くなってきたので、この状況を一度仲間に共有しようと思い、ニニャに
「ニニャ、俺だ。こちらはガゼフと合流した。それと八本指がらみで色々あったから情報を共有したい。今大丈夫か?」
***
「はぁ…さっきのあれは娼館でしたね。これで3つ目ですか」
「ああ。賭博場に奴隷売買場、スラムも2か所…この規模の街として考えても、随分と“裏稼業”の店が多いな」
「パルメーラさんからの情報も併せて考えると、あのオルソン商会、やっぱり八本指との繋がりがあるんじゃないかな。パルメーラさんが疑問を持っていた
「可能性はあるだろうな。ともかくパルメーラさんがガゼフ戦士長をこの街までお連れするって言ってたし、合流したら報告した方がいいな」
「ペテル、奴隷売買場だけは明確に法律違反だけど、他はどう思う?」
「…娼館なんかはそこで売られた奴隷が居るかもしれないな」
「戦士長様に、オルソン商会のことを説明したとして、この街の腐敗を一網打尽に出来ると思う?」
「それは……難しいかもしれないな」
「…こんな時パルメーラさんならば、こっそり忍び込んで事前に証拠になりそうな書類なんかを集めてくると思うんだよね」
「ニニャ……いや、でもそれはパルメーラさんだから出来ることで、俺たちだけでは危険だ」
「ペテル、今の僕は“第7位階魔法詠唱者”で、ペテルもルクルットもダインも、英雄級のアダマンタイト級冒険者だ。僕が透明化して踏み込めば難しいことじゃないし、万が一敵に気づかれて反撃されても返り討ちにできると思うんだ」
「それは…そうかもしれないが…」
「いーんじゃねーの、ペテル。オレは我らの誇る“
「そうであるな。私も力になれるのである!鳥や虫や草や樹の“声”が正しい道を教えてくれるのである!」
「…分かった。それじゃあこうしよう。踏み込むのはとりあえず奴隷売買場と娼館だけ。侵入するのはニニャだけで、踏み込む前にルクルットとダインで中の様子を確認。俺は入り口で待機して万が一の場合の応戦と殿担当。ニニャは透明化して単独潜入し建物の中では人間への攻撃や保護などは行わず、情報と証拠の入手だけを行う。もし透明化を見破る者が居たら速やかに
「オレはいいぜ!」
「私もである!」
「ありがとうペテル。僕もOK!」
「それじゃあ決まりだな」
ペテルの判断は、同時にニニャの姉がいるかもしれない場所の事前潜入という意味合いも含んでいる。
当然その事には、ニニャも他の皆も気づいている。
どこかの悪魔に鍛え上げられた『漆黒の剣』が、リ・ロベルの街で動き出す。
現時点の『漆黒の剣』の実力はレベル的にイビルアイ、リグリットには劣りますが、それ以外の『青の薔薇』を越えています。
原作のクレマンさんとカジットが、現在の『漆黒の剣』と不意打ちで交戦した場合、2対2でニニャが居なければ経験の差でかなり苦戦、ニニャ無しの2対3ならば『漆黒の剣』が辛勝。ニニャありで2対3か、2対4ならば『漆黒の剣』がほぼ勝利と考えています。
次回は街の名前がタイトルに入りそうです。