オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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アダマンタイト2チームでうち逸脱者級以上が4名ともなると、プレイヤー絡まない依頼はほぼ楽勝でしょうね…


第6章 第12話 -麻薬根絶作戦-

 

 

合同チーム①の2人は、燃え上がる麻薬畑を姿を隠しながら見つめている。

村人が慌てながら家々から出てきているが、既に火の手は畑全体を包み、もはや消火は叶わないだろう。

 

闇に溶け込むような漆黒の全身鎧を着たペテルが、全身鎧とは思えない素早い動きで畑に油を撒いて回り、最終的にラキュースが小さな火をともす神聖魔法の聖火(ホーリー・トーチ)でもって火をつけた。

 

村人に気づかれないように大掛かりな魔法などは最小限の作業で終わらせる。

奇しくも両チームのリーダー同士の組み合わせとなった彼らは、危なげなく効率的に動いたのだ。

まあ、中身は“厨二病(天然)”と、“厨二病(無自覚)”なのだが…

 

 

 

「問題なさそうですね」

 

「ええ。…ですが村人の動きから考えると、彼らは自分たちが栽培していたものが麻薬だと理解している可能性が高いですね。かなり警戒して煙を吸わないようにしている気がします」

 

「ということは、村人も八本指の一味という事でしょうか?」

 

「何とも言えませんね。ですがその可能性が高いと私は考えています。この村は不自然なくらい子供が居ません。この規模の村でしたら少しおかしいかと…ですが保管庫の書類を奪取できればそれも分かるかもしれません。とりあえず私たちは集合場所へ向かいましょう」

 

「そうですね」

 

 

ペテルは、同じアダマンタイト級と言えど随分と先輩である『蒼の薔薇』リーダーの冷静な洞察力に感心し、自身もニニャに頼りきりでなく今以上に洞察力を磨かなければならないなと考えていた。

 

一方ラキュースは、ペテルがパルメーラから借りているという、不思議な文様がわずかに浮かび上がる漆黒の全身鎧に釘付けになっていた…

 

 

 

***

 

 

 

「おっし、俺の方も良いぜ」

 

「はいよ。それじゃあ放つぜ。〈火炎弓・散〉!」

 

 

ペテルが放った矢は複数に分かれ、ガガーランとペテルで手分けして油を撒いた複数の畑に一斉に火をつけた。

 

 

「いや、しかし恐れ入ったぜ。ウチのニンジャたちに引けを取らねぇ動きだな、お前さん…いや、なんなら影移動なんかのスキル抜きに考えるならお前さんのが速そうだ」

 

「何言ってんだ、ガガーランさんの方が驚きだぜ。重戦士でそこまで動けて、空飛べるってどうなってんだよ。流石熟練アダマンタイトの英雄級だな」

 

「ハッハッハ!こいつは装備のおかげってのもあるし、まだ英雄級じゃねーさ!だがな、俺はいつかその領域に至れるって、お前さんの御仲間のパルメーラに言われたのよ!お前さんは童貞じゃなさそうだが、お前さんも気に入ったぜ。本当は今ちょっと体あっためていきたいところだが後にするか!集合地点に行こうぜ」

 

「いや、あの、勘弁してください」

 

 

 

***

 

 

 

「…悲しいことであるな。森の植物も皆同じ命。悪しき者に使われたことで望まれぬ運命(さだめ)を押し付けられただけである…せめて正しき心をもつ薬師に出会えればお前たちも焼かれずに済んだはずである…」

 

「長い」

「ヤバい」

 

 

当初の予定では、ダインが召喚した獣が畑に油を撒き、そこに双子が忍術…爆炎陣を放って焼き払い、オサラバするだけの簡単なお仕事の予定であったのだが、ダインがその作戦に待ったをかけた。

そして現在、“森の賢者モード”になってしまったダインが植物と心を通わせているというカオスな状況になっている。

 

しかし、さすがは英雄級の森司祭(ドルイド)だけあって、その気配は自然に紛れていて、研ぎ澄まされた双子忍者のセンサーをもってしても、そこには自然の樹か何かがある様にしか感じない。

 

とはいえ、双子たちもそろそろしびれを切らしてきたところだったが、そこでやっとの事、ダインが動き出した。

 

 

「御二人、お待たせしたであるな。それでは任務を終わらせるのである…第四位階自然の獣召喚(サモン・ビースト・4th)第四位階自然の獣召喚(サモン・ビースト・4th)第四位階自然の獣召喚(サモン・ビースト・4th)第四位階自然の獣召喚(サモン・ビースト・4th)!」

 

 

ダインが魔法を唱えると、4つの麻薬畑の土がゆっくりと起き上がった。

そして目の前に土の巨人が4体。

 

 

「作物を全て取り出すのである!」

 

 

ダインの言葉に反応して、土の巨人たちは体の中の作物——つまりは麻薬植物を排出していく。

目の前には麻薬植物の山。

 

土の巨人たちは、土だけになった身体でもとの場所に歩いていき、それぞれ畑の姿に戻っていく。

 

 

「大地よ、感謝するのである!そして次は祝福された作物をその身で育むことを祈るのである!」

 

 

ダインが祈りを捧げる姿に、双子忍者は呆然とするしかなかった。

 

 

「森の賢者、ヤバい」

「私たち、要らない?」

 

 

「何を言うのであるか。御二人には、望まれずに生まれた植物たちに、安らかな眠りを御願いしたいのである」

 

 

「「あっ、ハイ」」

 

双子忍者は仲良く、一か所に集められた麻薬植物に、忍術…爆炎陣を放ち、3人も速やかに合流地点へ向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

パルメーラは透明化して元の本性の姿になり、林の中の麻薬畑をどう焼くか考えたが、やはり悪魔に任せることにして地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)を3体召喚した。

 

本当は広範囲を燃やせる魔法を使いたくて悪魔の姿になったのだが、威力とか、周りの林とかへの影響とか色々考えた結果、やはりここは我慢した方がいいなと結論づけた。

彼の中の“大魔法ぶっぱなしたいメーター”はまた少し溜まり出したが。

 

ちなみに見回りの者が2名いたが、彼らも麻薬畑と同じ運命を辿ることとなった。

 

 

「あっという間に終わってつまらんな…保管倉庫の方、ちょっと見ておくか。邪魔そうなものが有ったら先に排除しとこう…転移(テレポーテーション)

 

 

麻薬と八本指の末端構成員2名をこんがり焼いた地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)は、パルメーラの指示に従って林に身を潜め、再びここに麻薬畑を作ろうとするものが居たらオヤツにしていいと命令を受けたので尻尾を振りながら次の犠牲者を待つことにした。

 

 

 

***

 

 

 

「さてと…第三位階死者召喚(サモン・アンデッド・3rd)…よし、お前、畑に油を撒きな」

 

 

リグリットが召喚したアンデッドに仕事を任せていると、遠くからランプの明かりが近づいてきた。

 

それは見回りの男2人だったようだ。

彼らは、ランプを掲げて畑を照らすと、アンデッド、続いてリグリットに気づいた。

 

 

「げぇ!アンデッド?!いや…ばーさん、あんた何してんだ?!」

 

「なんだ、年上は敬うもんだろ。まったく…決まってるじゃないか。この麻薬畑を処分しているのさ」

 

「なっ、てめ…いや、そのプレート、まさかアダマンタイト級?!」

 

「おや、気付いたかい。どれどれ、久しぶりにコレを使ってみようか。どうやらパルメーラ殿に感化されてしまった様じゃな」

 

 

その言葉が終わるや否や、老婆の姿が消えた。

直後、背後から声が聞こえる。

 

 

「末端のお前たちに腐剣・コロクダバールはちと過剰だったか…リーダーが言うところの“おーばーきる”だったか」

 

 

男たちが腕を見るとそれぞれ小さな傷がついていた。

 

 

「こっ…こんな傷が何だって…!」

 

そこまで言った瞬間、傷口から靄のようなものが上がった。

 

 

「お前さん方はもうアンデッドと同じじゃ」

 

 

老婆の持つ剣から、傷口と同じ靄が発生している。

剣を持っていない方の手を上げると、男たちは目が虚ろになり、畑の中の作業してるアンデッドの方へふらふらと歩いていった。

 

 

「撒き終わったかい?」

 

 

最初に召喚したアンデッドが頷いた気がした。

老婆は満足そうに笑うと、一つ呪文を唱える。

 

 

火球(ファイヤー・ボール)

 

 

老婆が放った火球は、麻薬畑と召喚したアンデッド、そして見張りの男2人を巻き込み燃え上がった。

 

 

 

***

 

 

 

「やれやれ、拍子抜けだったな」

 

 

イビルアイはすでに麻薬畑を焼き終わり、飛行(フライ)で集合地点へ向かって飛び始めていた。

 

彼女が担当になった畑には、見回りの者が来る事も無く非常に簡単に仕事を終えたのだった。

 

『危険な可能性がある』と言うだけで、実際は危険はなかった、外れくじ、いや、本来は当たりくじか、それを引いただけの事。

 

『蒼の薔薇』として任務にあたるとき、時として今回のように各員分散して行動することもある。

そう言った時、自分が今回のような当たりを引いて、他の誰かと敵が戦うというパターンも良くある。

 

その場合は、チーム内では最高戦力である自分としてはさっさとその場所に駆けつけて助太刀することもあるが、今回は特にそう言った話にはなっていないし、心配もしていない。

 

この感じはまるで、200年前、リーダーと共に旅をしたときのようだ。

 

『パルメーラ』という、おそらくはリーダーと同郷の者の存在が、間接的にではあるが、この状況を作ってくれたのだ。

 

『蒼の薔薇』は居心地がいい。

リーダーが帰ってこなかったあの日以降、初めて得た安心する場所かもしれない。

 

だが、吸血種である自分と異なり、他の皆は寿命と言うものがある。

 

ババアだって同じ時間を歩いてくれてはいるが、彼女は人間でキンジュツで時間を引き延ばしているに過ぎない。

いつかは別れがくる。

 

それがとても恐ろしい。

 

いつか、もう少し落ち着いたらパルメーラに聞いてみたいことが有る。

 

彼は悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)という特殊な人間種だと言っていた。

彼の寿命はどのようになっているのだろうか。

 

森妖精(エルフ)のように長いのだろうか。

普通の人間と変わらないのだろうか。

それとも私のように寿命が無いとか…それは無いか。

 

だが時間が『蒼の薔薇』を引き裂くまでに、私は彼の故郷を旅してみたいと思うのだ。

 

彼が長く生きられる種族なら嬉しいし、そうでなくても彼の故郷にはアンデッドの仲間すらいるという。

彼が生きているうちに、どうか彼の故郷へ行って……本当の意味でともに時間を過ごせる友達が欲しいのだ。

 

 

そんな事を考えながら飛んでいると集合地点に到着した。

どうやら自分が一番乗りだったらしい。

 

次に来たチームは、岩と苔で創られた召喚獣に乗るティアとティナ、そしてダインと言う『漆黒の剣』の森司祭(ドルイド)だった。

 

なんだか双子が遠い目をしていた気がしたが、気にしないことにした。

 

 

 

***

 

 

 

「『魔法属性変化(チェンジアトリビュートマジック)魔法の矢・火炎撃(フレイム・マジックアロー)

 

 

何度目かの詠唱で、畑は一面、炎に包まれている。

詠唱のたびに7本の炎の矢が飛び出し、容赦なく畑を焼いていく。

 

ニニャは最近、魔法の矢(マジックアロー)を好んで使用している。

これは第1位階魔法で魔力の消費が少ないことや、敵に合わせて属性変化することで非常に効率よくモンスターを倒せるからである。

 

同時に、パルメーラさんに教えてもらった事——この魔法は現在使える位階数と同じ数の矢が放たれる——を確認するためと言うのもある。

 

この矢の数が8本になった時に、僕は位階数で憧れの人と並ぶ。

そうしたら、自分の中で、何か一つの決心がつく気がするのだ。

 

僕の秘密を、想いを、伝えるのはまだ早いと思う。

それは姉さんを救い出してから。

 

でも8本目の矢は、それとは別に、僕に勇気を与えてくれる気がするんだ。

 

僕には、最近現れた“ライバル”には勝てなそうなところがいくつかある。

 

僕はあの人みたいに、自信に溢れているわけじゃないし、“貴族”みたいな分かりやすい表の顔もない——いや、これは欲しくないけど。

それに性別を隠しているという負い目だけじゃなく、僕の中のドロドロしたもの。

 

そういったものを、全部ちゃんと見せて、胸を張る勇気。

そのための切っ掛けになる気がするんだ。

 

あの人はそんな僕の想いを、“悪”として認めてくれるかもしれない。

でも僕は知っている。

あの人はあんなことは言っているけど、本質はきっと単純な“悪”じゃない。

そんなあの人が、僕の持っている感情を、心の底から認めてくれるかは分からないから。

 

 

畑に植えられていたもののほとんどが炭化し、どう見ても収穫や再生が不可能であることを確認した。

 

そう言えば、と思い、僕は視線を下に向ける。

 

 

足元には、1つの炭化した人型の塊と、手足が黒焦げになって失われた、まだ生きている男。

男の目には恐怖と絶望が宿っているのが分かる。

 

不思議なくらい僕は何も感じない。

 

この男が、アレクサンデル男爵やまだ見ぬ姉を奴隷として買っていった者ではないことは分かっているので、燃え上がるような激しい怒りは湧いてこない。

だが一方でこいつは、恐らくは姉や多くの者に不幸をもたらしている八本指の一員だという事も分かっている。

だからそのような者が、絶望しようが命を落とそうが、それは因果応報と言うもので、憐れみの気持ちすらわかない。

 

 

男にかけた静寂(サイレンス)が解ける。

 

 

「たっ…助けて!助けてください!!」

 

「…奴隷部門や非合法娼婦を扱っている娼館に関することで知っていることを全て言え」

 

「おっ俺たちは麻薬取引部門の末端だっ…別部門の詳しいことは知らないんだ!本当だ!!」

 

「リ・ボウロロールには奴隷市場や非合法の娼館は無いのか?」

 

「いっ今はまだ無い!だが第一王子が王に即位したら、八本指(俺たち)関連の店を増やしていくとシュグネウス様が仰っていた!!」

 

「…そうか、じゃあお前はもう用済みだな」

 

「ヒィ…どっどうか!!」

 

「お前が逆の立場だったら、目撃者の僕を生かして返さないだろ?同じことだよ…魔法の矢(マジックアロー)

 

 

五月蠅い悲鳴と共に四肢が燃え落ちた男の頭に、光る7本の矢が刺さった。

 

 

 

「さて、集合場所行かなきゃ!僕が行かないと皆で転移できないから遅れないようにしなきゃね」

 

 

 

 

***

 

 

 

ニニャが集合場所に到着すると、パルメーラを除く他のメンバーは仕事を終えて集まっていた。

改めて情報共有をし、どのチームも問題なく目的を達成したことを確認したが、一向にパルメーラは戻ってこない。

 

『蒼の薔薇』の面々が、“もしかしたらパルメーラの身に何かあったのでは”と心配し始めたところで、ニニャ、というか『漆黒の剣』は気付いてしまった。

 

そう言えばこの作戦でパルメーラに自由行動を許してしまったと。

 

 

案の定そのすぐ後に、ニニャに伝言(メッセージ)が入る。

 

 

 

『ニニャか?もう皆終わったか?』

 

『ええ。約束の地点に皆集まっています……パルメーラさんは今どこですか?』

 

 

ニニャのちょっと低いトーンの声に、パルメーラは口ごもりながら返答した。

 

 

『あっ…あー……あまりにも早く終わってヒマだったから様子見だけと思って、麻薬倉庫に』

 

『はぁー…だと思いました。今回の作戦は蒼の薔薇の皆さんも一緒なので、余り予定外の行動はとらない方がいいと思います』

 

『…すまない』

 

『まあいいです。こっちは皆問題なく終わりました。これから転移しますがパルメーラさんはそっちで待ってますか?』

 

『ああ。入り口の見張りは無力化して、扉の鍵は外してあるから、念のため皆に透明化掛けて、そのまま入ってきて大丈夫だ。扉を入るとなんか豪華な待合室みたいなとこに繋がる廊下がある。目につく限りの書類集めてその部屋に待機してるから、そこまで来てくれるか?』

 

『えっ…?!いや…相変わらず仕事が早いですね。分かりました、向かいます』

 

 

 

***

 

 

 

「これは……すごいですね、さすがパルメーラさんとしか言いようが有りません…」

 

 

ラキュースは応接室のような場所の机に積み上げられた羊皮紙の束に目を通しながら呟く。

ラキュースだけでなく『蒼の薔薇』の面々は、呆れを含んだ驚きの表情を浮かべている。

『漆黒の剣』は、呆れの表情だけだった。

 

 

まず、麻薬保管庫の入り口と思われる建物に続く門まで来ると、昨日と同じように屈強な男2人が見張りをしていたのだが、その目はぼんやりとしていた。

恐らくは魅了(チャーム)に類する魔法を掛けられていると思われたが、イビルアイもニニャも良く分からず、扉も空いていたのでそのまま皆で中に入った。

 

廊下が有り、進むと確かに豪華な応接室のような場所に繋がっていた。

応接室の入り口にも見張りのような者が居たが、その者もぼんやりした目で佇んでいた。

 

部屋の中には、テーブルに座るパルメーラが居て、皆が入ると『ああ、来たか』と言った。

どうやらパルメーラには透明化は意味を成さないらしい。

 

パルメーラもと透明化状態ではなかったので、皆も透明化を解き、パルメーラにここまでの経緯を聞く。

 

 

“とある方法”で認識を阻害して侵入し、目につく者には速やかに魔法をかけて無力化したとのこと。

そして奥にある保管庫を含め、気になる場所は全て探索しめぼしい羊皮紙は全て集めたとのことだった。

 

そういう訳で、ラキュースは渡された羊皮紙の内容を確認し、その後、皆で麻薬保管庫の方を確認する流れとなった。

 

 

 

「なんつーか、思ったより在庫されてる麻薬は少ねぇな」

 

「ちょうど王都あたりに運ばれた後だったのかもしれないわね…でも残っている麻薬は処分してしまわないといけないわ」

 

「処分すると考えるとなると結構な量ですね…ニニャ、魔法で焼き払えるか?」

 

「可能だけど、ここでやるのは止めた方がいいね。有毒な煙とか出るだろうし。さっきの林まで運んで燃やしてしまった方がいいんじゃないかな。どこか一か所に集めて、転移(テレポーテーション)で林まで行って来るよ」

 

「じゃあ皆で集めようかの。口と鼻を覆った方がいいね」

 

 

リグリットの指揮で麻薬を一か所に集めながら、イビルアイがパルメーラに質問をした。

 

 

「パルメーラ、その、当然分かっていると思うが、この屋敷や倉庫の者達は支配(ドミネート)か何かをかけているのかと思うが、そういった魔法はかかっていた時の記憶が残るものだ。安全を期すのであれば全て口封じをした方がいい」

 

「ああ…俺もそう思う。そういった汚れは俺が最後にやるから気にしなくていい。だが一応確認だが、責任者みたいな奴を残さなくても大丈夫か?…俺としては反対だが、まともなやり方で裁くならば責任者はガゼフみたいな奴に預けるのかと思うが…」

 

 

そのパルメーラの言葉に、ラキュースが答える。

 

 

「パルメーラさんの仰る通り、本来は衛兵などに身柄を預けるべきなのでしょうが、今回の任務はラナーからの依頼で秘匿性が高く、私たちが実行したという証拠を残すわけにはいきません。それにここで身柄を預けてしまえば…おそらくはすぐに釈放されてまた同じようなことをするでしょう」

 

「…じゃあ決まりだな。ここに居る者達は俺がまとめて処分しておく。やり方は何でもいいか?」

 

「私たち『蒼の薔薇』や『漆黒の剣』の皆さんが直接関わったとバレるわけにはいきませんが、八本指に対して警告となるような方法が良いいかと」

 

「わかった。じゃあ皆は先に林に行って麻薬を焼いて、そのまま宿に戻ってくれて構わない。俺もここに居る者を処分したら向かう。明日出発するまでは表沙汰にならない方がいいだろうから、派手なことはしない」

 

「わかりました…大丈夫だとは思いますが、お気をつけて。宿で会いましょう」

 

 

 

集めた麻薬を持ち、パルメーラを除く一行はニニャの上位転移(グレーター・テレポーテーション)で消えた。

 

パルメーラはそれを確認すると、この建物に配置した悪魔たちに指示をし、この館の者達を応接室に集める。

そして、青の薔薇たちが来る前に密かに集めた完成品の黒粉をアイテムボックスから取り出す。

 

 

「悪魔たちよ。精神支配している人間たちに、この麻薬を食えるだけ食うように指示をしろ。全ての者が息絶えたのを確認したら、この街の領主が管理する建物へ移動し待機せよ」

 

『畏まりました、我が主よ』

 

 

 

***

 

 

 

翌日早朝。

 

『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』の皆は急いで身支度を整え、それぞれ馬車に乗り込む。

 

リ・ボウロロールの住人か領主に関連する誰かが、麻薬保管庫や村々に起きた異常を感知する前にこの街を離れるためである。

 

 

「それでは、また一旦のお別れですね。今回は本当にありがとうございました。ラナーにもいい報告が出来そうです。ですが本当に私たちと一緒に王都に来ないのですか?」

 

「ええ、昨夜皆で話したのですが、俺たち『漆黒の剣』は北を目指します。ここから北の港町であるエ・ナイウルと、『朱の雫』の皆様がホームにしてるエ・アナセルを踏破すれば、王国の主要な街はほぼすべて巡ったことになるので、今後の移動が非常に楽になるのです」

 

「確かに仰る通りですね。では私たちはしばらく王都に居ますので、戻られた際はお声掛けください。ラナーに話を通しておきますので、報酬の件も含めて一度会っていただければと思います」

 

「王女殿下ですか…かなり緊張しますね」

 

「大丈夫ですよ。ラナーはとても気さくです。良ければパルメーラさんもご一緒にお願いできればと思います」

 

「ああ、まあ、その時が来たらチーム内で話し合って適任者が会えばいいんじゃないのか?それと今回、俺が色々と動き回ったこととか、ニニャの転移とかは第三王女さんには言わないでくれよ。企業秘密ってもんだからな。なあペテル」

 

「ええ、どちらもパルメーラさんの言う通りですね。リ・エスティーゼに行った際はお願いします」

 

「だけどよ、ペテルは会うの確定だぜ、リーダーなんだからな。オレも絶世の美女の“黄金”には一度会ってみてーな!」

 

「あー…ルクルットは外した方がいいかもね」

 

「であるな!」

 

「えー?!マジかよ!」

 

「ふふっ…それでは『漆黒の剣』の皆様、この度は本当のありがとうございました。それでは後日、王都で!」

 

 

 

こうして、『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』の合同作戦はひとまず終わりを見せた。

 

麻薬保管庫のある屋敷に居た者——その中には実は密輸部門長のエンディオも含まれていたのだが——彼らが応接室で折り重なるように、黒粉の急性中毒で死んでいることが明るみになるのはもう少し後である。

 

そして、この街の領主の屋敷と、領主が管理する建物には続々と悪魔が集まっている。

悪魔たちは待っている。

偉大なる主様からの次の指令を。

 

 

 

そして王都では、王国戦士長が、自身が剣を捧げた当代の王、ランポッサ三世にリ・ロベルで起きた事を報告し、当てが外れた貴族たちは苦々しい表情でガゼフ戦士長を睨む。

 

愚かな貴族たちは、次の機会をうかがうため何やらひそひそと会話をはじめ、投獄されたクリストフェル・オルソンは、パルメーラが危惧したように、その日のうちに釈放される。

 

オスキャスは速やかに八本指の本部へ送られ、ペナルティーと次の行動の指示を貰うために、自身の部門の長であるエンディオの帰還を待つことになった。

 

 

 

 

「クライム、戦士長様がお戻りになられたそうですね」

 

「はい。戦士団の他の皆様は御戻りになることが出来なかったそうなので、ご無事に…とは言えませんが八本指の幹部を捕えて帰還されたとのことです」

 

「そうですか…大変でございましたね。戦士長様が戻られたことはとても素晴らしいことですが、犠牲になった皆様のご冥福をお祈りしなければいけませんね…明日、お庭のお花を摘んで“英雄の碑”に手向けるよう、お父様にお願いしてみます。クライムも一緒に来てくださいね」

 

「はい…もちろんでございます」

 

 

クライムは、自身の主である慈悲深い王女が、犠牲になった戦士団の者達を悼んでいる悲し気な御顔となっていることに気づき、何とも言えない辛い気持ちとなった。

そして、自分は何としてもこの方を御守りし、これから先、出来るだけこの方にこのような悲しい顔をさせないように、さらに鍛錬に励まなければいけないと心に誓うのだった。

 

 

ラナーは張り付けた哀悼の意を示す顔のまま考える。

 

戦士長が帰還した。

これは自分が考えていた可能性では低い方のパターンだった。

 

貴族たちがガゼフの装備を外させて出陣させた。

これはおそらくその先に何らかの罠が仕掛けられていて、その罠には八本指が関わっている。

それだけのことをするのだから、八本指としてはそれなりの罠を準備しているはずで、その結果ガゼフを除く戦士団が殺されたというのは一定の理解が得られるが、そうであれば八本指の幹部がガゼフに捕らえられたというのは少々おかしい気がする。

 

あるいはその捕まった者は、実は幹部などではなく、八本指として切り捨ててもいい者だったのか。

 

そしてもう1つ、ガゼフが帰還したタイミングが予想よりもだいぶ早い、早すぎる。

リ・ロベルまで限界まで馬を走らせたとしても、出発から1週間も経たないで戻ってくるのはおかしい。

 

仮にリ・ロベルでの戦いがたった1日だけだったとしても、計算が合わない。

 

前に『蒼の薔薇』のイビルアイから、一瞬で移動する魔法と言うものがあると聞いた。

しかしその魔法は、自分だけしか移動できず、今回のように捕まえた幹部を連れてくるのは出来ないと考えられるし、そもそもガゼフは魔法は使えないはずだ。

 

何だか分からないが、見えないイレギュラーな何かが動いている。

しかし、その存在が今のところ分からない。

 

 

『働きを労うという名目で、ガゼフと直接話が出来る様、お父様にお願いをしてみますか』

 

 

ラナーが“見えないイレギュラー”の存在に気づくまで、後わずか。

 

 

 




ボウロロープ侯との戦い…ではなく、ラナーとの戦いです。

まあボウロロープ侯もしっかり裁くことになるでしょうが
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