オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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忙しくて時間が空いてしまいました。


第6章 第23話 -激突の始まり-

 

 

…トントントン

 

 

「ん?」

 

用意された味の薄い夕食をノアクと一緒に食べていたガゼフは、自宅のドアがノックされているような気がした。

こんな時間の訪問者は普通はあり得ない。

 

王城での夜勤務があって、自分がそれを忘れていて部下が迎えに来たか、あるいはこの食事を用意してくれた、雇っている老夫婦が何用かで戻ってきた…

 

いや、どちらも違う気がする。

 

そんな事を考えていると、今度は声と共に再びノックがした。

 

 

 

…トントントン

『遅くにすまない。俺は『漆黒の剣』のパルメーラだ。ガゼフの家で合っているだろうか?』

 

 

「パルメーラ殿か!」

 

 

ガゼフは見知った者の訪問だと気づき、急ぎ扉を開ける。

 

 

「ああ、ガゼフ。すまないな、遅い時間に」

 

「いや、恩人である貴殿の訪問であれば、どんな時間だろうと歓迎するさ。して、どういった用件だろうか?」

 

「ああ、ん、そうか。ノアクも一緒に食事中だったか。タイミング悪かったか…いやむしろ逆か」

 

「ん、どういう事だろうか。とりあえず中に入ってくれ」

 

「いや…ありがたいが、時間がないからここで簡潔に説明する」

 

 

パルメーラの『時間が無い』と言う言葉に、ガゼフは表情を少し引き締めて緊張した。

 

 

「そうだな…順を追って説明すると、まず、クリストフェルが早々に釈放されて、こともあろうか14人も暗殺者を従えて俺たちに襲撃をしてきた」

 

「なっ…なんだと!!他の皆さんは大丈夫だったのだろうか?!」

 

「落ち着け、ガゼフ。当然、問題なく全て返り討ちにした。そして、奴らは俺たちだけでなく、恐らくはお前のことも敵と認定していて襲撃をしてくるだろう」

 

「なっ…そのような事が…?!」

 

「事実だ。ほら、これを見な」

 

 

そう言うとパルメーラは、扉を大きく開け、ガゼフに外の様子を見せた。

そこには5人の男が倒れ伏している。

服装から察するに暗殺者か何かだろう。

 

 

 

「な…なんという…!」

 

「とりあえず現時点で、この家の周りをうろついていた奴はこれだけだ。だが、奴らはこの後も刺客を送り込んで来るだろうな。で、だ。実を言うと俺たち『漆黒の剣』と『蒼の薔薇』は第三王女からの依頼で、近いうちこの街の八本指の拠点を一斉襲撃する予定だった。だが、奴らが迂闊にも先に仕掛けてきたことから、その予定は早まって、恐らくはこの後、その襲撃は始まる。俺はそのことをお前に伝えに来た」

 

「なっ…なんと急な…ラナー殿下が…そのような事になっていたとは…」

 

「…俺は以前お前に言った筈だ。いつか選択の時が来ると。それが偶々、今日来ただけのことだ……聞いた話では、お前は王を守るのが仕事らしいな。この後、この街は八本指との抗争が始まり、場合によっては街の者にも危険が及ぶかもしれない。その中でお前がどう行動するかは、お前が選ぶんだ。ただせめて、ノアクのことは守れよ…せっかく拾えた命を、手放すな……それじゃあ俺は冒険者組合に向かう」

 

 

それだけ言うと、パルメーラは漆黒のマントを翻し、王都の闇に再び消えて行った。

ガゼフはその姿を、ただ茫然と見つめていた。

 

そして思い出したように呟く。

 

 

 

「俺が守りたいもの……それは……」

 

 

ガゼフの瞳に、強い意志の炎が宿った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

パルメーラが神殿の扉を開けると、そこには、昼には居なかった初老の神官男性が居た。

男性は漆黒の石がついた杖を携え、まるでパルメーラを待っていたかのように出迎え、一つお辞儀をした。

 

 

「ん?ニグンさんは居ないか……いや、申し訳ない。俺は『漆黒の剣』のパルメーラという者。ニグンさんに伝言があってきたのだが」

 

「ああ、あなたがパルメーラ殿でござまいすか。私はこの神殿の大司教、名をハプソティと言います。この度はご愁傷様でございました……」

 

「ああ…ハプソティ大司教殿と言うのか…ニニャの姉の遺体を預かってくれて感謝している」

 

「いえ、良いのです。貴方のことはニグンからも、エ・ランテルのカジットからも聞いております。私は所用でエ・ランテルまで出かけておりましてな、今しがた戻ったところでございます」

 

「ん?ああ、そうでしたか」

 

「ニグンですね、少々お待ちくださいませ。今呼んできますので」

 

「ああ、すまない」

 

 

 

暫らくの後、奥の部屋からニグンが現れた。

 

 

「パルメーラ殿、どうされましたか?」

 

「ああ、ニグンさん。1つお願いがあってきた」

 

「私どもで出来る事であれば、何なりと」

 

「順を追って説明する。まずは…」

 

 

 

パルメーラは、要点をかいつまんで、宿泊している宿に襲撃があった事、ニニャの姉が働かされていた八本指の拠点に踏み込んだこと、そして、この後、冒険者による八本指拠点への襲撃が始まるとともに、八本指側も何らかの騒乱を起こすだろうことを説明した。

 

 

 

「何たるッ……何たる事か…!」

 

「ニグンさん、それであなたに頼みたいことが2つある。まずは踏み込んだ娼館の中に奴隷として働かされていた女たちが複数いる。ケガが酷かったものは治癒を施し、現在は眠らせて1つの部屋に収容している。まずは彼女たちの保護を御願いしたい。違法な奴隷とはいえ、この国の衛兵に任せると、貴族と繋がる八本指によって再び奴隷にされる可能性があるから、あなたたちに任せた方が良いと思ってお願いしている」

 

「なんと…いや、仰る通りだ。任せてください。場所は分かっておりますので、必ず女性たちを保護いたします!」

 

「ああ、助かる。それともう1つ。おそらくだが、説明した通りで、この後、この街は大混乱となる可能性がある。その際には、ニニャの姉の遺体と、可能な限り街の住人を守ってほしい」

 

「分かりました。数は多くは無いですが、ちょうど私の部下も逗留していますので、出来得る限り無辜の民を御守りいたします。無論、ツアレニーニャ殿も」

 

「感謝する…では俺は冒険者組合へ向かう。よろしく頼む」

 

 

 

そう言って、パルメーラは速足で神殿を後にした。

そして、アイテムボックスの中に“堕落の種子”の小箱がある事を確認すると、人目の付かない路地裏へ入ると透明化し、そのまま何処かへと転移していった。

 

 

 

 

 

「……ニグン殿」

 

「ハプソティ様!」

 

「娼館の件はお任せしても良いですかな?私はこれから起こる騒乱に備えて、この神殿の守りを固めますので」

 

「はっ…勿論でございます!」

 

 

 

ニグンが部下たちを集め、速やかに娼館に向けて出発した。

彼は、娼館に幾人かの八本指の残党が居る可能性を考慮し、ある程度の戦闘力を持つ者達で館に踏み込んだが、その入り口の扉が壊された娼館だった建物の中には、なぜか眠っている娼婦しかおらず、八本指の者の姿は見られなかった。

 

確かに争った跡があったし、壁には血の跡なども見られ、いくつかの部屋では悪臭が漂っていたが、死体などもどこにも見られず、娼婦たちの保護は滞りなく行われた。

 

 

パルメーラによって召喚された暴食の悪魔(グラトニー)は既に仕事を終えて、その娼館を後にしていたのだった。

 

 

 

 

ニグンが出発した後、神殿の奥でハプソティ・ハナット・マルシャン大司教はその手に持つ杖を高く掲げた。

 

「では、〈招魂の宝珠〉よ。我が声に応えなさい。死者召喚(サモン・アンデッド)!」

 

 

その言葉と共に、杖の頭部に括り付けられた漆黒の石が輝き、周囲に骸骨戦士(スケルトン・ウォーリアー)腐肉漁り(ガスト)が複数出現した。

 

 

「お前たちに、この神殿の守りを命じます」

 

 

アンデッドたちが移動を開始するのを確認すると、ハプソティは呟いた。

 

 

「『占星千里』が予言した“天魔の戦い”…この八本指と冒険者の争いと関係があるのか…ですが、カイレやカジットからの報告、それにカッツェ平野のあの様子を考えると『漆黒の剣』のパルメーラ殿は、もしかしたら……いや、憶測はいけませんね。ありのままを伝えましょう……定時連絡はもうすぐですね」

 

 

そしてその直後、ハプソティに何処より伝言(メッセージ)が入る。

 

 

「…はい『隔世盟主』殿。こちらリ・エスティーゼ担当の『屍死破軍』ハプソティ・“リンカ”・マルシャンでございます…」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

少し時間は進み、深夜と言って良い時間。

本来はこの時間にしてはあり得ない事なのだが、冒険者組合に人が集まっていた。

 

そこにはアダマンタイト級冒険者チームの『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』だけでなく、自発的に集合したいくつかの冒険者チームの姿もあった。

 

それは何故かというと、このリ・エスティーゼの街中でおそらくは八本指のゴロツキと思われる者達が暴れ出し、店を壊し、金を盗み、さらには貴族の屋敷を含めたいくつかの家に火が付いているためだ。

 

娼館という拠点が潰されたこと、『漆黒の剣』に仕向けられた暗殺が失敗したことで、八本指が大規模な報復戦を始めてしまったと思われる。

 

火を付けられている貴族の屋敷は、恐らくは八本指との関係を拒否している側の貴族なのだろう。

 

リ・エスティーゼの街は明らかに暴動が起きていると言っていい状態で、本来であればg兵士たちが治安維持のために動かなければならない事態なのだが、暴動の元凶が八本指であるという事で、彼らとつながりがある貴族などはだんまりを決め込んでいて、王城の扉は開かないのだ。

 

この事態に街の中にいた冒険者たちは、仕事の気配、と言うだけでなく、まさに自分たちが住む街の危機を察知して、誰が言うでもなく組合へ集合している。

 

組合も、状況の把握を行っており、情報収集が終わったところでランクに応じた依頼を発表するため準備をしている状態だ。

 

 

 

 

 

パルメーラが少し遅れて到着すると、ペテルが『蒼の薔薇』のメンバーに状況を説明しているところだった。

 

八本指の、恐らくは暗殺部隊が、『漆黒の剣』の宿泊する宿に攻め入ってきたこと、そしてその結果、ニニャが例の娼館へ突入してしまったことを説明すると、『蒼の薔薇』の面々は驚きと心配の表情を浮かべた。

この場にニニャだけが来ていなかったことについて、彼女たちの脳裏に嫌な予感がしたのだ。

 

 

 

「ペテルさん、その……ニニャさんは大丈夫だったのですか?」

 

「ええ、大丈夫です。ただ、ニニャは怪我等は無かったのですが、かなり魔法力を消費して疲労が重なっているので、現在はエ・ランテルに移動して休息しています」

 

「そうですか…!安心しました」

 

「ハハ…いや、たった1人で1拠点、しかも奴隷売買部門長コッコドールや『六腕』のマルムヴィストまでやっつけちまうとはな……まあ、あそこに関しては、ニニャが担当したかっただろうしな…」

 

 

ガガーランは、例の娼館で行われていたと思われる非人道的な所業に深い怒りを覚えていたが、それを、被害者の身内が制圧したという事実に、ひとまずは留飲を下げた。

 

 

「しかし、娼館の後始末は必要だろう。生きている者が居れば戦士団に引き渡す必要があるし、それに違法に働かされていた娼婦などを保護する必要もあるんじゃないか?」

 

 

イビルアイの質問には、パルメーラが答えた。

 

 

「…あの娼館には、もはや生きている犯罪者は居ないし、そもそも犯罪者は死体も残さずに消滅した。そして娼婦は全て保護して眠らせてあり、神殿のニグンに保護を頼んである」

 

「なっ…消滅……いや、ニニャとパルメーラが関わったのなら……その通りなんだろうな。だが、拠点には証拠になる文書なんかもあったんじゃないか?」

 

「ああ、それは俺が集めて今持っている。この後、第三王女の御付きの騎士…クライムがこの組合に来るだろうから、そいつに渡すつもりだ」

 

 

 

パルメーラがそう言ったのと同時に、冒険者組合の扉が開かれた。

 

そこに居たのは、クライム……だけではなく、数名の戦士団の者と、フードを深く被った女性が居た。

 

そしてその女性がフードを脱ぐ。

それは、深みのあるブルーサファイアの瞳と艶やかな黄金の髪。

 

誰もが知る——特に冒険者にとっては自分たちの味方であると認識されているこの国の『黄金』、ラナー第三王女その人だった。

 

 

 

「冒険者の皆様、ごきげんよう。私はこの国の第三王女ラナーでございます。この度は王都における未曽有の事態に自発的にお集まりいただき誠にありがとうございます。この事態を少しでも早く解決し、民の安全を確保するため、私自らご依頼を出させていただきたく、この冒険者組合まで馳せ参じました。どうかよろしくお願いいたします」

 

 

 

多くの冒険者と、組合の人間にとってそれは青天の霹靂であった。

しかし、人気が高いラナーの登場と、彼女が後ろ盾になって依頼を出すという事実から、冒険者たちの士気は一気に高まった。

 

ラナーは、王都の地図に八本指の拠点を記載したものを準備していて、それを冒険者組合と冒険者に配ると、てきぱきと作戦を説明し、それぞれの拠点へ踏み込む班や、それ以外の街で暴れている者達への対処をする班などを分け、最後に自分の騎士である青年をこの場に残し城に戻ることを告げた。

 

 

 

「皆さま、私は立場上、本来はこのような形で参加することは許されておりませんので無断で城から出てきています。なのでここから先は皆さまを信じ、私は城へ戻らさせていただきます。私の騎士であるこのクライムを作戦に参加させますのでよろしくお願い申し上げます」

 

 

ラナーは視線を『蒼の薔薇』のラキュースへ送る。

ラキュースも、ラナーの覚悟を理解して、心の中で『ありがとうラナー、ここから先は任せて頂戴』と言うと、小さく頷いた。

 

 

ラナーはパルメーラの方を見ることは無く、『漆黒の剣』のリーダーのペテルに視線を向けて一つお辞儀をし、戦士団に護衛されながら城に戻っていった。

 

 

 

 

 

「……パルメーラ様、超越者たる貴方様の存在のおかげで、私はこの決断が出来ました。あとはお任せいたします。そして、私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください」

 

ラナーが小さく呟いた言葉は、その影の中に染み込んでいった。

 

 




この辺りで、法国の新しい聖典部隊の皆さんの名前を決めておかなければと思いまして、そのあたりを考えるのにも時間がかかってしまいました。

この章が終わった後、恐らく閑話で、聖典の皆さんの話を1話挟むことになります。
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