オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
頑張ります。
「…済まないな、お前たち。遅い時間に集まってもらって」
「何をおっしゃいますか戦士長!」
「そうです!俺たちの剣はとっくに戦士長に預けているんですよ!」
ガゼフ宅に、王国戦士団の者達が集まっていた。
王国戦士団は平民で組織された部隊である。
別にそういう身分による入団制限があるわけではないが、トップであるガゼフが平民であるが故、貴族は誰一人としてその部下などになりたいと思わなかったため、結果的にそのような部隊となったのだ。
先のリ・ロベル近郊での戦い。
その死地から戻ったのはガゼフ1人であった。
この戦いで大きく数を減らしたとはいえ、部隊員は50余人はいる大所帯である。
そして、その死地での戦いをガゼフから聞いたとき、部隊員は誰1人としてガゼフを責めなかった。
部下を守れなかった。
あまつさえ、アンデッド化を防ぐためにその死体に剣を突き立てた。
その結果救えたのは、ノアクと言う少年唯一人だった。
深く頭を下げ、激しい後悔と慚愧の念が読み取れる表情のガゼフを、部下たちは寧ろ誇りに思った。
この人は、正しく王国を守る英雄であって、そして自分たちが仕えるべき主であると。
以降、救われてガゼフ宅で暮らしているノアクも、部下たちにとっては可愛い後輩のような存在になった。
聞けば、またも愚かな貴族からの横やりで、被害者でしかないノアクと言う少年には国より何の補償も与えられず、その結果、ガゼフ宅で成人するまで暮らすことになったという。
王もこの結果は不適切と思いながらも、王派閥・貴族派閥問わず、八本指とつながりがある貴族たちの嫌がらせ故、表立ってノアクに補償を与えられず、ガゼフに対して事件解決の褒章という名目で追加の給金を渡すことが精いっぱいだったという。
ノアクは、はじめはどこか絶望した表情で殆ど喋ることも無かったが、時間が経ち自身の状況を理解し始めると、ガゼフや良くしてくれる戦士団の皆に触発されて、今は剣を振る練習をしている。
恐らく彼は、将来王位国戦士団に入るだろう。
誰もが、そう考えている。
そんな折、ある日の夜リ・エスティーゼの街の様子がおかしいと、戦士団の者は感じた。
ゴロツキが増え、街で騒ぎを起こしている。
店舗に押し入り金品を盗むものが居る。
比較的善良な貴族の屋敷にも火の手が上がっている。
『戦士団として働く事態かもしれない』
そう感じた折、信頼篤きガゼフ戦士長が、ノアクを伴い戦士団の家々を訪れた。
そして、この事態を収束させるために、一旦戦士長宅へ集まってほしいという。
結果、戦士長宅には30名ほどの戦士団員が集まっている状態だ。
団員全てではない。
ここにいるのは共通して独り身の者。
ガゼフは、家族がある団員には声を掛けなかったようだ。
その事実から、団員たちは薄々感づいている。
ガゼフの意図を。
「皆、聞いてくれ……現在、リ・エスティーゼの街中で八本指の者どもが暴れ出している」
ガゼフの言葉で納得がいった。
これ程の狼藉を平然と街中で行い、一方で城の衛士の者がそれを鎮圧しようとしない現状。
その主体が八本指であるというのならば、理解できる。
「俺たち王国戦士団の仕事は、第一に王を守ることだ。そして、王の命により、治安維持を行う事もある」
戦士団員たちは静かにガゼフの声を聞いている。
「だがこの騒ぎ、恐らく貴族たちの横やりで王は命令を出せず、俺たちは街の守りでなく、王城に召集させられて、王と、そして貴族たちを守ることを命ぜられるだろう」
ガゼフの言葉は、皆、理解しているが、だからと言ってそれを良しと思っている者は1人としていない。
王国戦士団は皆、ガゼフの命令に従う。
皆、ガゼフの立場も良く理解している。
彼は自分たち以上に正義感が強く、そして本心では平民を守りたいと考えている。
だが、彼が王命に、貴族の言葉に従わないというのなら、愚かな貴族共はこれ幸いにとばかりに、その行動を持って王を責め、最悪の場合この王国戦士団は、ガゼフは解任されてしまうかもしれない。
だからこそ、彼は歯を食いしばり、必死に王命に従い、自身の裁量の中でできる最大限の方法で民を守る。
だからこそ、そんな彼の次の言葉には耳を疑った。
「俺は今回……そういった命令が出る前に、勝手に民を守り、八本指どもと戦うことにした」
戦士団の皆は、今しがた聞いた言葉が聞き間違いではなかったか、あるいはガゼフが言い間違えたのではないかと、顔を上げ、ガゼフの表情を凝視した。
しかしその顔は、いつにも増して誇りに満ちており、それどころか晴れ晴れとしてすらいた。
戦士団の者達全ての心に、諦めていた熱い思いが燃え上がった。
「戦士長!」
「では、ついに…あの犯罪者どもに剣を向けることが出来るのですね!」
「ああ…だがな、おそらくこの俺の行動は、この作戦の後何らかの罰を受けることになるだろう。八本指が生き残り、それらが貴族を操って手を回せば、処刑になってもおかしくはない。だからお前たちには強要はしない。それでもいいと思う者だけ、力を貸して欲しい」
「ガゼフ戦士長、今更何を言っているんですか」
「そうですよ。そんな話を聞いて、怖気づく奴なんざ、ここには一人も居ません!」
「それに、リ・ロベルで先に逝った仲間たちに、やっと胸を張れるってもんですよ!」
全ての者が『そうだそうだ!』と合唱し、誰1人として不参加を示すものは居ない。
「お前たち……お前たちは、本当に、俺には過ぎた部下達だ…!」
ガゼフは目頭が熱くなる想いだった。
そして、パルメーラ殿に投げかけられた問いの答えを、今ならはっきりと言うことが出来ると感じた。
「俺の守りたいもの。それはこの国の民、そしてそのために陛下をはじめとした正しい心をお持ちの方々の剣になる!」
もう迷わないガゼフは、さっそく作戦を開始することとした。
集まった者の中で、最も若い者には他とは異なる命令を下す。
それは、陛下とラナー殿下への伝言。
陛下には、勝手に動くのは全て自分の責任であり、部下たちは自分の命令に従っただけだという事を伝える文書を渡し、ラナー殿下には、万が一自分が死ぬか処刑された場合にノアクを騎士見習いとして傍において欲しいとの嘆願書。
そして、その最も若い団員を含めた幾人かには、伝言の仕事の後はガゼフ宅に籠り、騒乱が終わるまでノアクを守る役割を与えた。
「それでは、出陣だ!街で暴れまわっている者どもを片っ端から制圧していく!!」
ガゼフを含めた20人強の王国戦士団が、騒乱のリ・エスティーゼの街に解き放たれた。
既にガゼフ宅の周りには新たな暗殺者が数名集まっていたため、最初の戦いはこの者達を返り討ちにすることであった。
6名の暗殺者が倒れ伏したところで、ガゼフは団員を4人チームに分けて、そのチーム5組を別々に警邏するよう指示をした。
そして自身もまた、残る団員と共に暴れる八本指を1人でも多く倒すため、深夜の街に走り出していく。
***
影が、闇の中を駆ける。
その影は、火の手の上がる屋敷の門の隙間から、敷地に入りこむと、印を結びながら小さく呟く。
「…忍術・大瀑布の術」
すると忽ち、地面から水が吹き上がり燃える屋敷を洗い流す。
そしてその影は、火の消えた屋敷の中に速やかに入り込み、火事場の狼藉を働いていたゴロツキ共をのしていく。
ゴン
「あう」
ドス
「うぐっ」
パコン
「はう」
…
「…だいたい済んだ。あとはお任せ」
「はい、ティナ殿、任せてください!」
赤いバンダナのニンジャが概ねの制圧を終えて、燃えていた比較的善良な貴族の屋敷を後にする。
ティナと入れ替わりに、王国戦士団の1チームが屋敷に入りこみ、気絶しているゴロツキの拿捕と、怪我人の手当てを始める。
「…全く、火消し担当が1人と言うのは、鬼ボスも人使いが荒い…終わったら少々胸を揉ませてもらわないと割が合わない」
赤い方のニンジャは、そんな文句を言いながら王都の影を移動し、火の手が上がっている建物の担当任務をこなしていくのだった。
***
「おう童貞、準備はいいか?」
「…はいっ!」
「んじゃ行くぜ、せーのっ!!」
ドォォォォォン!!!
ガガーランの鉄砕きの一撃が、屋敷の扉をひしゃげさせた。
扉はその普通な外見にそぐわず、内側は金属で目張りされていて、普通ならばこじ開けることが出来ないような作りになっていた。
それ自体が、この扉の先にあるものを隠そうとする意志を物語っている。
そして、その扉の先は地下に続く階段がある。
「はっは!この扉といい、内部のつくりといい、明らかにカタギの住む家じゃないわな。安心したぜ、間違いだったらどうしようかと思ってたが、さっすがパルメーラの調べた通りだぜ……そうら、よっと!」
ガガーランは階下へ、火のついた『鳥の子』を放り投げる。
八本指の拠点から、内部の人間を炙り出すための、言うなれば爆弾のようなもので、これは今回の潜入のために双子ニンジャが複数作成した。
ドーーーーーーーーン!!
激しい爆発音と、階下から上がって来る激しい煙。
ガガーランはすかさず体を扉の外の壁に張り付け、煙を吸わないようにする。
この煙には催涙効果がある薬が使われているそうだ。
「なっ!何だ?!」
「ゲーホゲホゲホ!!」
「くそっ!何も見えねぇ!!」
「おめえら一旦外に出るぞ!」
階下から複数の声がする。
そして複数の者が階段を駆け上がって来る音。
ダッダッダッダッダッダッダ!!
足音がひしゃげた扉を越える瞬間、ガガーランが死角から、思いっきり鉄砕きを打ち込む。
ゴーーーーーン!!
「うわーーーーーー!!!」
ガラゴロガラゴロ……ドーン!!
先頭に居た者がぶっ叩かれて階段を転げ落ち、それに多くの者が巻き込まれて階下まで落下していった。
「ふぅ…構造まで分かってると、マジで簡単に片付くな。さてと、童貞の方は…」
ガガーランが、隣家を見ると、クライムが剣を構えながら隣家の扉の横の壁に体を張り付けている。
隣家の扉の隙間からは、煙がわずかに漏れている。
どうやらパルメーラが齎した情報が正しかった様で、隣家はこの地下の暗殺部門本拠地に繋がっている別の出口となっているようだ。
瞬間、その隣家の扉が開いた。
クライムはそれに反応して、剣を振るったが、その剣は空を薙いだ。
「バカッ!」
ガガーランは咄嗟に叫び飛び出した。
しかし扉から一拍遅れて現れた、口を布で抑えた男は、ニヤリと笑うと紫色の刃をした短剣を懐から取り出し、剣を振って隙だらけのクライムの首筋に迫る方が先であった。
『クソッ!間に合わない!』
ガガーランがそう思った瞬間、不思議なことが起きた。
短剣の刃がピタリと止まったのだ。
短剣を持った男も、ガガーランも、クライムも、一瞬何が起こったか分からずに固まった。
しかし自らの剣が空を切り、逆に相手が短剣を向けてきたことで、ある意味死を覚悟していたクライムが最も早く冷静に我に返ることができ、『オオオオオオオ!』と叫ぶと、短剣を持った男の腕を蹴り上げ、男が短剣を落としたところで、とっさに大上段からの切り下ろしを喰らわせて男を昏倒させた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
「童貞!」
「ガッ…ガガーラン様!」
「危なかったな…しかし、どういう訳か、奴さんが一瞬手を止めたおかげで倒せたな…こんな幸運は普通はねぇから、次も上手くいくとは限んねぇぞ」
「はぁ…はぁ…仰る通りです……ですがガガーラン様に教わっていたおかげで、一撃で昏倒することが出来ました」
「ん…まぁ、それについては結果オーライだわな…おし、そんじゃ煙がひいたらこのアジトん中の証拠書類とか探すぜ」
「はい!」
クライムの影に潜む悪魔は、主の許可があるまではこのクライムという青年を殺してはいけないと命令されていたため、逆説的に、命令が下るまでは死なないように守る存在となっているのだが、当然パルメーラは、このような効果まで狙って命令したわけではないのだった…。
***
賭博部門の最も主たるアジトである、とある屋敷では、部門の構成員たちが運び込まれる金品を慌ただしく整理している。
この光景は、各部門の倉庫機能を持つアジトでは同様にみられる状態だ。
王都の騒乱のどさくさに紛れて、店舗や貴族宅から様々な品を運び出し、各部門の私腹を肥やすためである。
部門ごとに連携しているわけではないが、かといって部門間での抗争になるわけにもいかないから、どこの店や貴族宅から盗むかなどは、あらかじめ部門間で取り決めている。
「ふぅ…ノア様も人使いが荒ぇぜ」
「まぁ、今回のアガリの一部は俺たちにも分け前があるって話だからな」
「ああ、らしいな。へへ…やる気が出るってもんだ」
「だが女とかは攫ってこないのか?」
「それは基本的には奴隷売買部門がやるらしいぜ。ただ、噂ではコッコドール様が行方不明らしく、今回攫って来るのは子供がメインだとか」
下っ端どもがそんな話をしていると、聞き慣れない声が会話に混ざってきた。
「いやー、たぶんお前らに報酬は回ってこないと思うぜ?」
「は?お前何言って……だ、誰だ貴様!」
「オレか?オレは、そうだな…〈漆黒の野伏〉とでも言っておこうか。にしてもお前ら本当にむさ苦しい奴しかいないんだな。すげー萎えるぜ。部門長も居ないハズレみたいだしよ…まあ、お前らはもう動けないぞ。既に〈真・陰留めの矢〉がお前らを捉えている……」
「なっ…貴様…あ……足が…動かねぇ…」
ゴロツキ共は、自身の影を、影よりも暗い漆黒の矢が貫いているのを確認した。
そして、その矢は未だ黒き輝きを失わずに、黒き陽炎のごとく揺らめいている。
「そのまま大人しくしていれば、お前らはちゃんと生きたまま、戦士団にしょっ引いてもらうけどよ、もし矢を抜こうなんてしたら…」
黒い装束に身を包み、揺らめくように存在感の薄い金髪の男がそこまで言うと、幾人かのゴロツキは動かせる上半身を曲げて、その闇色の矢を抜こうとした。
「へっ!こんなもん!!」
「あーあ…」
ルクルットがそう呟くと、矢を抜いたゴロツキの胸にすぅーっと穴が開き、そこから血が噴き出した。
「無理に抜けば“栓”が外れちまうぜ。〈真・陰留めの矢〉は影だけでなく、お前らそのものも貫いている……さて、別のアジトに行くか」
***
「おやおや、お主ら、どこへ行くんじゃ?」
「ひっ……なんだババァか、驚かせやがって。テメーには関係ないだろ、そこをどけよ!」
「そういう訳にはいかんな。八本指密輸部門の皆様」
老婆の言葉に、その20名ほどの一団は言葉を失った。
彼らはリグリットが言う通り、八本指の密輸部門の者達。
それも比較的、部門の中では上位の者達である。
部門長が消され、さらに幹部の位置にいたクリストフェルも返り討ちに遭い、八本指全体の中でも落ち目と言っていい状態であると悟った者達がこっそりと王都を抜け出して逃亡しようとしていた訳である。
そのような者達が一定数居るだろうという事は、事前にラナーから伝えられていたため、リグリットは王都の西側の門の外で張っていたのだ。
「やれやれ…だがの、お前たちはまだ幸せな方じゃぞ。抵抗せずに大人しく捕まるというならば命は奪わないでおいてやろう」
老婆がそう言って手を上げると、地面が盛り上がり、10体ほどの
「ヒィッ!」
「アンデッド使いの老婆…まさか貴様…!!」
「さて、この『死者使い』リグリット・ベルスー・カウラウがお相手してしんぜよう」
***
『ラキュース、様子はどうだ?』
『イビルアイね?どこにこれだけのゴロツキが潜んでいたのか分からないけど、街で暴れている者の数が多すぎて、完全に対処できていない状態だわ…王城の方はどう?』
『ああ、残念ながら、予想通り、門を閉めてだんまりだ』
『チッ…バカ貴族!』
『だが嬉しい誤算がある。ガゼフが王城に戻らずに街で治安維持にあたっている』
『本当?!それは助かるわ!!』
『戦士団はいくつかの班に分かれて、主に街中で暴れるゴロツキの制圧を行っている。ティナが火消しした屋敷や民家の中の人を回復したり、アジト制圧で取りこぼしたり、逃げ出した八本指の捕縛も行っているようだ……ん?』
『どうしたの?』
『あれは…まずいな、“ゼロ”が出てきた。ガゼフ本隊と衝突する可能性が高い。ラキュース行けるか?』
『行くわ!場所を教えて!!』
***
「『蒼の薔薇』も『漆黒の剣』もアジト制圧は概ねうまくいっているようだな…さて、俺も仕事するか」
パルメーラは、潜ませている
バギン!
パルメーラの蹴りで、屋敷の敷地の外門が吹き飛んだ。
「なっ…何だ貴様は!!」
「うるせぇな」
屋敷の守りをしていた者が近寄ってきたが、いずれも軽く小突かれただけで吹き飛んでいく。
その侵入者の、余りに隔絶した力量差に、ゴロツキ達は逃げださないまでも後ずさりして距離を取り始めたところで、屋敷の門から全身鎧を着た一人の男が現れた。
「ふん…『黒』がここにも来たか……お前は通さん。六腕の一人、この『空間斬』のペシュリアンが相手をする」
「あ?……『空間斬』だぁ?」
名前だけで可哀そうな目に遭う人が出ました。