オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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6章の終わりが見えてきました。
空間斬さんは、、まあお察しでした。


第6章 第25話 -六腕の終わり-

 

 

パルメーラには予てより疑問があった。

それは『蒼の薔薇』のティアとティナが“忍術”を使用しているという点だ。

 

ウルベルトとしての理解では、“忍術”を使用する『忍者』という職業は最低でも60レベル分シーフ系の職業を積み上げる必要がある。

なので精々30レベル弱と思われるティアとティナは、ユグドラシルのルールでは忍術を使えないはずである。

 

この矛盾から考えられることは、この世界では少なくとも職業取得の条件がユグドラシルとは違う事。

そして、それはつまり、この世界では低レベルながらもワールド職を取得できる可能性があるという事。

 

従って、この30レベル程度にしか見えない全身鎧のペシュリアンと名乗った男がワールド・チャンピオン職を低レベルながら取得し、超絶スキルの次元断切(ワールド・ブレイク)を使用できる可能性があるという事。

 

 

 

 

「いい練習台じゃねぇか……やってみろよ」

 

 

そう言うと、パルメーラは邪悪な笑みを浮かべ、悪剣を抜くことなく、わずかに腰を落として両手をゆるく開いた。

 

 

ペシュリアンは、武器も構えないパルメーラの様子に一瞬驚きを見せたが、すぐに鋭い視線を取り戻し、ゆっくりと歩を進める。

 

 

「ふん……愚か者な冒険者風情が。望み通り死んだことも気づかぬ速度で切り捨ててやろう」

 

 

そう言ったと同時、ペシュリアンは大きく踏み出しながら腰の剣を抜いた。

 

その距離は、明らかに通常の剣撃であれば届かない場所。

 

パルメーラはその邪悪な笑みをさらに深める。

 

そして、ペシュリアンの剣がわずかに抜かれた瞬間にスキルを発動する。

 

 

『スキル・〈アンテノーラの氷陣〉!』

 

 

そしてスキル発動と同時に自身も大きく踏み出す。

 

 

 

「ぐあっ!!」

ペシュリアンは、突然押し寄せてきた寒波のようなものに体が硬直し、自身の奥義である斬糸剣の抜刀速度が不十分となった。

 

スキル・〈アンテノーラの氷陣〉は、発動した領域に存在する敵に対して、硬直させるのみの効果を持ち連続使用はできない。

硬直時間はレベルによって変動するが、特徴的なのは、どんなに高レベルでも硬直時間を完全にゼロには出来ないという点だ。

 

従って例え100レベルが相手でも、本当にごくわずかの時間だけ硬直させることが出来る。

このスキルはこの効果しかないため、一見するとあまり使いどころがないものだったが、ウルベルトからすれば、100レベルのワールド・チャンピオンを一瞬でも硬直させることが出来るならば充分。

 

どうせ速度や攻撃力で勝てないことが分かっている相手との戦闘を想定していた彼は、“後の先”による剣撃、つまりカウンターのタイミングを計る事だけを考えた。

 

そして、タイミングを外された相手の攻撃を見極めながら、踏み込んで悪剣を抜刀し、カウンターダメージを狙う。

 

そして〈次元断切(ワールド・ブレイク)〉の唯一の弱点は、連続発動が出来ないことで、同じく発動後は即座に〈次元断層〉も発動できない。

 

なのでウルベルトは、“〈次元断切(ワールド・ブレイク)〉を一度だけ躱す”という事に全てを注ぎ込んだのだ。

 

 

 

レベル差によるペシュリアンの硬直時間は想像より長く、やっと抜刀された斬糸剣は、その特性を充分に活かすことも出来ず、複数の薄い刃が中途半端な距離の空間を舞う。

 

キラキラと輝く複数の刃を余裕で躱しながらパルメーラは理解する。

 

 

『とんだ期待外れだった』と。

 

 

そして、斬糸剣を持つペシュリアンの両腕を鎧ごと切り離す。

 

拍子抜けして途中から全力ではなくなったものの100レベルの速度の剣線は、突き出されたペシュリアンの腕に何の抵抗もなく吸い込まれていき、パルメーラがペシュリアンの居た位置を通り過ぎた後に、やっとその両腕から血が噴き出した。

 

 

 

「あっ…あ…あ…がああああああああああ!!」

 

 

両腕を失い、夥しい量の血を流しながらペシュリアンが膝をついた。

 

 

「ペシュリアンと言ったか。とんだ名前負けヤローだったな」

 

「バカな…ばかな…」

 

 

両腕を失ったという事実をどこか理解できずに呟くペシュリアンに、興味を失ったパルメーラは速やかにその首を切り落とした。

 

 

「ふん、所詮は犯罪者のゴミか……貴様らに比べれば、何も成し得ない偽善の正義の方がまだマシってもんだ」

 

 

そう呟くとパルメーラは、ペシュリアンが出てきた屋敷の扉を開き、悠々とその中に入っていく。

 

 

「…外のゴロツキ共は残らず殺しておけ」

 

 

パルメーラのその言葉に反応して、影の中から数体の悪魔が現れ、屋敷の庭に散っていく。

腕と首を失ったペシュリアンの死体とゴロツキ達の断末魔の悲鳴を背後に聞きながら、パルメーラは屋敷の階段を上っていく。

 

 

屋敷の中にも幾人かのゴロツキが居る。

ゴロツキ共は侵入者であるパルメーラを視界に捕らえギョッとするが、次の瞬間には体がいくつかに分かれていて、速やかに命が刈り取られていく。

 

1階ホールの巨大なテーブルの上には、大きな箱や袋がいくつも置いてあり、そこからはどこかで嗅いだことがある甘ったるい匂いが漏れている。

 

パルメーラは、眉間に皺を寄せ、眉を顰めながら屋敷の階段を上がっていく。

 

目指すは最奥の部屋。

 

そこに居る者が、この屋敷の主で、麻薬取引部門の重要人物であることは確実である。

 

逃げまどうゴロツキ共を追いかけるは面倒になり、それらの処理は悪魔たちに任せる指示を出しながら、パルメーラはその扉を開けた。

 

 

 

「なっ…何だいアンタ!」

 

「ここの頭だな」

 

「ペ…ペシュリアンは…やられたのかい?!」

 

「…お前の名前を聞いておこうか」

 

「ア…アンタ…そのプレート…例の『漆黒の剣』の奴かい……アタシは確かに八本指の一員だけどね、もう足を洗ってこの国から出ようとしてたところだったのさ」

 

「ほぅ…良く言うものだ。1階に積み上げられていた麻薬の山を見るに、貴様がこの国に麻薬をばら撒いていた者の首魁の一人だろう?そんな者にムシの良い話があると思うのか?」

 

「そっ…それはアンタの言う通りだね。だけどさ、アンタ等は貴族やなんかが嫌いなんだろう?アタシだって同じさ」

 

「…なぜ、そう思う?」

 

「うちのお得意先の貴族共が次々と変死を遂げていることはアタシ等だって知っているのさ…きっとアンタらが手を下してきたんだろう?やり方は分からないけどさ」

 

「そうだとして、なぜ俺が貴様を見逃すという話になる?」

 

「アタシも根っこは同じだからさ。バカな貴族共はアタシらの力で言いなりさ。アタシは本当にもうこの国には見切りを付けようと思っていたのさ。ご自慢の『六腕』も殆どやられちまったようだし、この国はバカ貴族共のおかげで滅びる寸前さね……どうだい、アンタもこんな価値のない国を見限って、アタシと一緒に竜王国辺りに居を移すなんてのは…」

 

 

退廃的な雰囲気に深夜だというのに薄く化粧をしたその女がそこまで言うと、パルメーラの背後に静かに忍び寄っていたゴロツキが、そこで一気に剣を振り下ろそうとした。

 

 

「バカが」

 

 

パルメーラの小さな呟きと共に、そのゴロツキは胴体を何らかの巨大な力で握りつぶされて絶命した。

 

悲鳴を上げる暇もなく目を見開いた死体の背後から、ボンテージのような黒い服装を纏った女…いや黒い羽と鴉のような顔の悪魔が現れた。

 

 

「ヒィ!!」

 

 

その部屋にいるただ一人の人間が小さく悲鳴を上げると、パルメーラは暗く深い瞳のまま、その悪魔に命令を下す。

 

 

嫉妬の悪魔(エンヴィー)よ、この女に支配(ドミネート)をかけて俺の質問に答えるようにしろ」

 

「はっ、畏まりました」

 

 

悪魔の手が伸びたかと思うと、その女——ヒルマ・シュグネウスには魔法がかけられ、その表情は虚ろなものとなった。

 

 

 

 

「名前と、貴様の所属を言え」

 

「はい、アタシの名はヒルマ・シュグネウスです。八本指の麻薬取引部門長です」

 

「ふん、やはりか……貴様はこれから何をしようとしていた?」

 

「はい、麻薬やカネを持てるだけ持って、竜王国に逃げようと思っていました」

 

「なぜ、竜王国に逃げる?そこで何をするつもりだ?」

 

「はい、おそらく『漆黒の剣』という冒険者チームによって、八本指は壊滅させられると感じたため、そうなる前にどこかに逃げようと考えていました。ローブル聖王国やバハルス帝国は商売が難しくなったため、まだ手を伸ばしていない竜王国が良いと思いました。あそこはビーストマンとかいう亜人との戦争が終わった後の混乱に乗じて入り込めるかもしれないと考えたからです」

 

「ふん、やはりゴミか。殺……いや、待て……貴様は貴族が嫌いだと言ったが、それは本当か?そうだとして何故嫌いなのだ?」

 

「はい、貴族は嫌いです。若いころに貴族から謂れのない借金を負わされ、娼婦に堕とされました。ですがその娼婦の中で成り上がり、今の地位を得ました。だからアタシをこの世界に堕とした貴族共への復讐に奴らの全てを吸い尽くしてやるのです」

 

「……そうか。だが、麻薬は貴族共だけではなく平民にも被害が出るのではないか?」

 

「弱い者、騙される者が悪いのです。それに、麻薬には親近感が沸くのです。使い方を選べば薬にもなれたのに、使う者に悪意があれば破滅を齎すのは、自分と同じだと感じるのです」

 

「…………ヒルマ・シュグネウス。お前がこの国から逃げ出すことが出来た場合、お前は新たな別の国で麻薬を広げるか?」

 

「はい、勿論です。二度と他者に食い物にされないように、自分自身が他者を食い物にしなければいけないので」

 

「そうか…………睡眠(スリープ)

 

 

 

パルメーラは眠りに落ちたヒルマ・シュグネウスを見下ろす。

 

同時にこの屋敷に入りこんだ悪魔たちから、他の全ての者を片付けたという連絡が入る。

 

その連絡を聞き終わると、パルメーラは悪魔たちへ次の指示を出す。

 

先ほどから傍らに控えていた嫉妬の悪魔(エンヴィー)をチラと見、パルメーラは口を開く。

 

 

嫉妬の悪魔(エンヴィー)よ、この女を………いや、俺がやるべきか」

 

 

そう呟いたパルメーラは、100レベルの戦士として出し得る最速の抜刀を行い、一太刀のもと、ヒルマの首を落とした。

その顔は穏やかに眠ったままの表情で、自身が死んだことなど感じていなかっただろう。

 

 

ヒルマの穏やかな死に顔とは反対に、パルメーラの顔は何とも言えない深く、暗い色を湛えている。

そしてパルメーラは手をこめかみに当て、伝言(メッセージ)の呪文を唱える。

 

 

『…イビルアイか?こちらはペシュリアンとか言う奴を倒したとこだ。王城の様子はどうだ?城下町の混乱を収めるため衛兵などが出てくる様子はあるか?………………そうか。では俺は王城の様子を確認した後、他の皆に合流する。お前も引き続き頼む』

 

 

伝言(メッセージ)を切ったパルメーラは、未だ控える嫉妬の悪魔(エンヴィー)に指示を出す。

 

嫉妬の悪魔(エンヴィー)よ。お前もこれより街に混ざり、存在が露見しないように注意しながら、ゴロツキを駆除している冒険者たちをサポートせよ」

 

「はっ、畏まりました」

 

 

嫉妬の悪魔(エンヴィー)が去ったことを確認し、パルメーラは再び呟く。

 

「…愚かな王城の貴族共に決着をつける時が来たようだな」

 

そして透明化し、何処かへ転移していく。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハ!!ガゼフ!!近隣諸国最強という通り名は誤りだったようだな!!」

 

「くっ…貴様らのような犯罪者どもに、これ以上王国の民を傷つけはせん!!」

 

「ふっ、ぬかせ。この状況を見て分からんのか?貴様の部下たちは悉く倒れ、残るは貴様のみ。やはり十分な装備も付けていないお前は、この俺よりも弱いな」

 

 

ゼロは余裕の笑みを浮かべながら、肩で息をするガゼフを見下ろし優越感を得ている。

正直この戦場に、ガゼフが出てきたことは想定外であった。

馬鹿な貴族を焚き付け、王国戦士団は王城から出さぬようにさせるつもりであったが、コッコドールの居る娼館の襲撃など、予想外のことが起こり、開戦のタイミングがズレたことで、ガゼフを王城に縛り付けるタイミングを逸してしまったのだろう。

 

だが、少なくとも例の五宝の装備を身につけさせないことには成功しているし、この状態のガゼフは相性の問題から自分が有利に戦えそうだ。

さらに言うと、ここまでガゼフが、多くのゴロツキと戦っていたことによる疲労も自身を有利にしている。

なので問題はない。

 

吠えるガゼフに笑みを返し、ゼロは悠然と進む。

 

 

「だが、さすがは王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ。そのしぶとさと意志の強さに敬意を表して、俺様の奥の手で葬ってやろう…〈足の豹(パンサー)〉!〈背中の隼(ファルコン)〉!〈腕の犀(ライノセラス)〉!!」

 

シャーマニック・アデプトを発動したゼロの全身は膨れ上がり、歯をむき出したように笑うと、その右腕を、弓を引くように大きく引いて構えた。

 

 

「ガゼフ・ストロノーフ!!これで貴様は終わりだ。今日からは王国最強の名はこの俺、六腕のゼロが引き受ける!!喰らえ、〈猛撃一襲打〉!!!」

 

 

その声と共に、ゼロの身体が輝き、凄まじいスピードでガゼフに突進していく。

避けられないと悟ったガゼフは、歯を食いしばりながら剣を構え、迎え撃つ姿勢を取った。

 

 

だが、その瞬間。

 

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!!」

 

ゼロの突き出した拳の先の地面に、6本の剣が突き刺さる。

剣はそれぞれが少しずつ斜めに傾いて刺さっていて、ゼロの拳はその早さ故に、6本の剣で作られた斜めの剣の壁に沿って軌道を変えられ、ガゼフの居る位置から大きく左に逸れた。

 

 

 

「悪の輝きに導かれ、闇の力を魔剣に纏いし神官戦士、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、ここに見参よ!!」

 

 

そこには、リアル世界の感覚で言えば恥ずかしいポーズを決める『蒼の薔薇』のリーダーの姿があった。

 

 

「ラ、ラキュース殿!!」

 

「戦士長!王城に戻らず、街の民を守るご選択、心から感謝いたします!でもまだ、倒れるのは早すぎるわ!!」

 

そう言ってラキュースは、ポーションの瓶をガゼフに投げる。

 

「か、かたじけない!!」

 

ガゼフは急いでそれを飲み干すと、自分の頬を一つ叩き、再び鋭い目線で剣を構える。

 

 

土煙の中から、ゼロが姿を現わす。

そして嘲笑するような目線で言葉を紡ぐ。

 

 

「フン、『蒼』か。だが、貴様が一人増えたところでこの戦いの結末は変わらん。貴様は他のお仲間の心配をしていた方が良いぞ。この街は既に俺たちが落としたも同じ。幾人かの手練れと暗殺者が、貴様ら『蒼』と『黒』を陰から狙い、確実に仕留めていくぞ」

 

「あら、本気でそんな事言っているのかしら?御言葉はそっくりそのままお返しするわ。私たちが貴方達『八本指』に後れを取るわけがないし、それに『漆黒の剣』はすでに貴方のお仲間を始末したわよ?」

 

「ぬかせ、ハッタリは良い…王国最強などと言われているガゼフですらこのザマよ。俺には届かないまでも、俺に近しい力を持つ『六腕』がお前たちを仕留めていくだろう」

 

「『六腕』?……フフフ」

 

「…何が可笑しい?」

 

「『六腕』…『六腕』ねぇ…それって、リ・ロベルで討ち取られて首だけになったデイバーノックとか言うアンデッドの事かしら?それとも、最近姿を見せていないサキュロントの事?」

 

「……貴様」

 

「それとも、違法娼館である人の逆鱗に触れて消滅したマルムヴィストとかいう奴の事かしら?」

 

「な…に…マルムヴィストが…消滅?」

 

「それとも、それとも、リ・アインドルにお出かけしたまま帰らない、エドストレームの事かしら?」

 

「エドは、やはり…貴様らが…」

 

 

 

ラキュースの挑発的な物言いに、ゼロの頭は茹蛸のように赤くなっていく。

一方ラキュースは、とても楽しそうに、悪辣な笑顔を張り付けている。

 

その、らしくない(・・・・・)様子のラキュースに、若干戸惑いの色を見せていたガゼフの背後から声がする。

 

 

「・・・ガゼフ、『蒼の薔薇』のイビルアイだ。透明化してお前の背後にいる。聞こえたら、無言で頷いてくれ」

 

 

ガゼフは一緒だけ驚いたが、聞き覚えのあるそのくぐもった声を理解し、小さく頷く。

 

 

「見ての通りラキュースが挑発して奴の気を引いている。ゼロに気づかれないように私の指示通り移動してほしい」

 

 

すると、ガゼフの手を見えない何かが掴み引っ張るのが感じられた。

 

ゼロの方を見ると、ラキュースの浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)がふわふわと動きながら自然にガゼフとゼロの間を漂い、目隠しの役割をしている。

 

この隙に動けという事かと理解し、ガゼフは透明なイビルアイに手を引かれるまま、空き家となっている民家の中に移動した。

 

 

「ガゼフ、あまり時間がないから簡潔に言う。これからラキュースがゼロの気を引いて攻撃を引き出し、それに対応して、この辺り一帯を巻き込む力を解き放つ。だがそれでは倒しきれないかもしれないから、ラキュースの後にお前の武技を奴に叩き込んでくれ」

 

「承知した…だがイビルアイ殿、この辺り一帯を巻き込むと言ったが、民に被害は出ないのだろうか?」

 

「安心しろ。既にうちのニンジャがこの辺りの住民を避難させている…私はまだやることがあるから先に行く……頼んだぞ」

 

「さすがだな…ああ、任されよう!!」

 

 

 

ガゼフは無人の民家から、気配を消しながらゼロ達の様子を確認する。

 

 

 

 

「そうそう、最後の一人のペシュリアンとか言う奴は、私たちの中の最強の人に当たっちゃったみたいよ…どこかのお屋敷でバラバラにされたって聞いたわ。ご愁傷様。それで、『六腕』最後の1人のあなた程度が、何を出来るのか、もう一度教えてくれるかしら?」

 

「ふ…ふふ……いい、度胸だ。貴様を殺し、ガゼフを殺し、蒼も黒も全て殺してやる。結局のところ、俺一人がいればそれで事足りるってことを、てめえらにじっくり教えてやるよ…〈足の豹(パンサー)〉!〈背中の隼(ファルコン)〉!〈腕の犀(ライノセラス)〉!〈胸の野牛(バッファロー)〉!〈頭の獅子(ライオン)〉!!!自分が死んだことも分からずに消えちまえな!!!〈超・猛撃一襲打〉!!!!」

 

 

先ほどとは比べ物にならないほど膨らんだ筋肉の塊が、先ほど以上の速度で突進を開始した。

 

ラキュースはその様子を確認すると同時に、魔剣・キリネイラムを大上段から地面に向けて振り下ろし、剣先が地面にぶつかる瞬間にありったけの魔力を込めた一撃を解き放った。

 

 

暗黒刃超弩級核撃波(ダークブレードメガニュークリアインパクト)!!!……パルメーラさん、私に力を!!!」

 

 

少々名前が渋滞気味な、特に叫ぶ必要のない技名を叫びながら、ラキュースは魔剣の力を地面に向かって開放した。

 

その衝撃波は突進してきたゼロにクリティカルヒットしただけでなく、当然ながら中心に居たラキュース自身にも当たり、自身を上空に吹き飛ばした。

ラキュースは浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)で自分自身を守ってはいたが、それなりに大ダメージを負って、王都の上空に放り出される。

 

そこで上空で待機していたイビルアイが、飛んできたラキュースをキャッチし、ポーションをぶっかけた。

 

 

「…もう二度とこんなムチャはするなよ」

 

「はぁ…はぁ……ありがとうイビルアイ。でもイイ感じだったでしょ!」

 

「お前な…明らかにパルメーラの技を意識しているだろ……一度ちゃんと奴に指導してもらえ。でなきゃこんな危ないこと、二度とサポートしてやらんからな」

 

「うう…分かったわよ……とりあえず今はゼロのトドメを!」

 

「それは戦士長がやってくれるさ」

 

 

 

瓦礫の中から、ボロボロのゼロが現れる。

ボロボロとは言え、シャーマニック・アデプトで強化した肉体により絶命は免れた。

 

 

「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

叫ぶゼロの背後に人影が現れる。

 

 

「ゼロよ、お前の負けだ。大人しく投降すれば、戦士としての尊厳だけは守ると約束しよう」

 

「ガゼフゥゥゥ!!!貴様も!!蒼も!!!絶対に許さん!!!」

 

「そうか…残念だ!俺も全身全霊を持ってお前を倒す!!」

 

 

そう言ったガゼフの身体が輝きだした。

ゼロも再び全身の刺青に光が灯り出す。

 

 

「があああ!!!〈超・猛撃………」

 

「武技・〈真・閃光列斬〉!!!」

 

 

ゼロが必殺の一撃を放つよりも早く、光となったガゼフが通り過ぎる方が早かった。

ガゼフが通り過ぎた場所は、まるで切り取られたように瓦礫が消し飛び、ガゼフ自身もコントロールを失い、その先にある家屋に突っ込んでしまった。

 

未だ不完全ながらも、個として最強の武技をまともに食らったゼロは、全身から血を吹き出し、その場に膝をついた。

 

シャーマニック・アデプトのおかげで即死することは無かったが、徐々にその身体破壊され、崩れていく。

 

 

「ば…か…な……この俺様が……肉体が…崩れて…」

 

 

ゼロは膝をついたまま動くことも出来なくなった。

僅かに動くのは右腕のみ。

 

そこでゼロは、少し前に聞いた不思議な言葉を思い出した。

 

 

『お前の敵は、邪悪な悪魔。悪魔を討つためのアイテムを授けよう。悪魔に対峙したならば、この像を壊せ』

 

 

“邪悪な悪魔”

 

 

それがラキュースのことを指しているのか、ガゼフのことを指しているのか、はたまた、この戦場でまだ出会っていない敵の誰かを指しているのかは分からない。

 

だが、崩れていく、恐らくは死に向かっている自分の肉体を理解し、なんとか動く右腕で、その渡された天使の像を取り出す。

 

そして薄れゆく意識の中、たしかにゼロは、その像を地面にたたきつけて壊した。

 

 

 

 

 

王都に不吉な様な、神聖な様な、不可思議な気配が広がった。

 

それは明らかに、壊れた天使像から発せられた。

 

その瞬間を見た者は居なかったが、壊れた天使像の破片は、確かにそれを壊したゼロの身体に吸い込まれていった。

 

そして、命尽きたはずのゼロの身体は、膝をついた姿勢のまま、その顔だけが上空を向き、その口を大きく開ける。

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……………

 

 

 

 

ゼロだったものの口からいくつもの白い影があふれ出す。

 

それは無数の天使。

 

天使たちは一定のスピードで、依り代であるゼロの口から召喚され続けていく。

 

 

そのアイテムの名は『天使の傀儡』。

 

ワイルドマジックによって作り出された竜の秘宝であり、破壊した者を天使を吐き出すアイテムに変える。

 

効果は第10位階魔法の〈最終戦争・善〉に似るが、天使たちのレベルは、1レベル~吐き出すアイテムとなった者のレベルとランダムであり、一方でその召喚は、吐き出すアイテムとなった者の肉体を破壊しつくさない限り続く。

 

リ・エスティーゼの街に、無差別に破壊を撒き散らす、最大で30レベル強の天使たちが無数に溢れていく。

 




ヒルマは元娼婦という事から生まれた妄想でした。

実はツアレと同じ境遇、でもその境遇に対してどう対応したかが道を分けた。

そしてそれに気づいた悪魔はまた悩みます。
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