オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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リ・エスティーゼ王国と、ランポッサへの断罪です。

人間たちへの断罪の話はここまでとなります。


第6章 第26話 -リ・エスティーゼの断罪-

 

 

 

ガゼフ配下の王国戦士団に密かに守られながら、ヴァランシア宮内の自室に戻ったラナーは、ベッドには入らずに薄暗い部屋の中で椅子に腰かけていた。

 

宮殿の外、城下街の方向の空は所々が赤く色づき、恐らくは大混乱の様を呈しているだろう。

 

 

「…とはいえ、あの御方が動かれているのであれば私が心配することなど無いのでしょうね…」

 

 

ラナーは窓の外を見ながら呟いた。

 

彼女には予感がある。

それは、送り出した自身の最愛の子犬(クライム)が無事に帰ってくるという事だけではない。

 

あの御方から追加の指示がある筈。恐らくはもうすぐ…

 

 

 

「…ラナーよ」

 

 

彼女の予感は当たったようだ。

部屋の中、何もないはずの空間から、あの御方の声がする。

 

 

「お前が働く時が来た。八本指に加担する愚かな貴族、そしてこの街の混乱においても最低限の治安維持すら行わぬ莫迦者共と、全ての元凶たる者共に裁きを下す」

 

「はい、何なりとお申し付けください」

 

「…では、お前に渡したあの小箱を、バルブロに渡せ」

 

「……はい、畏まりました。渡すだけでよろしいのでしょうか?」

 

「ああ、そこから先(・・・・・)は俺が直接行う……安心しろ、有用な者…例えばレエブン侯などは死なぬように配慮する。お前はバルブロにそれを渡したのち、事の成り行きをよく見ておけ(・・・・・・)

 

「畏まりました」

 

 

 

ラナーが小箱を携えて部屋を出るのを確認した後、透明化状態のパルメーラは悪魔たちに指示を出していく。

 

 

 

 

 

「バルブロお兄様」

 

「ん、なんだラナーか。このような時間に起きていたのか」

 

「はい、私は参加していませんでしたが会議が執り行われていたようですので」

 

「ふん、国政に参加する必要のないお前には関係が無い会議だ」

 

 

 

 

実際、つい先ほどまで会議が行われていたのだ。

それはリ・エスティーゼの街で起きている八本指による暴動について。

 

王としてはこの暴動は間違いなく民に大きな被害が出るだろうから、戦士団や城の衛兵を派遣してでも治めるべきと考えていたが、そもそもの戦士団はすでに独断で行動を開始しているという報告があった。

 

その報告に対して貴族たちは、ここぞとばかりにその場にいない戦士団を糾弾する。

戦士団の仕事は、王、そして王が居る王宮の守りであり、勝手に行動をするとは許しがたいとか。

緊急事態に王のそばを離れるとはどういうことだ、これだから平民出身はなどと言ったいちゃもんである。

 

常識的な判断が出来、隣接する領地を持つペスペア侯やレエブン侯は、心の中でため息をつきながら、この暴動を完全に放置した場合、民からの求心力を失い、さらに被害を受けた建物などの復旧に多額の予算がかかる事を説明し、少なくとも貴族側が何らかの援助をする姿勢は見せなければいけないと説明。

 

実際は八本指とつながりがある貴族が責任を逃れるためにだんまりをしているのだろうなと気づいているので、本心では苦々しい気持ちとなっている。

 

こういった常識的な意見をレエブン侯などが発言すると、今までは貴族派閥の他の6大貴族などが遮ってくるのが通例であったが、既にそういった者はこの場には居なかったため、彼らの意見が採用されるかに見えたが、ここで口を挟んだのはバルブロだった。

 

 

曰く自分は、偶々この場にいないボウロロープ侯の義理の息子であり、将来的にボウロロープ侯が持つ精鋭兵団なども自身が管理する。

なので、今回の騒乱は自分が命令して精鋭兵団に介入させ治めればよい。

そして、王命に従わずに勝手に行動している戦士団は責任を取り、騒乱後に解体するか自身の直属として再編成する、などと言い出したのだ。

 

 

王派閥の貴族や、ザナック第二王子など、まともな思考や少しでも軍事の知識がある者は、このバルブロの発言に『何言ってんだこのバカは』という顔をした。

 

そもそもリ・ボウロロールの精鋭兵団は、謎の失踪を遂げているという噂があるし、そうでなくても兵站の事などを考えると、今から招集に間に合うと思えない。

 

これは、ボウロロープ侯がなぜか急激に力を失っている状況を見たバルブロが、自身の権力を誇示するためにボウロロープ侯が持っていた戦力を吸収し、さらに王都の争乱を収めたという実績を以て、次期王の椅子を盤石にしようと単純に考えているに過ぎない。

 

 

レエブン侯などは、それを正確に理解して頭が痛くなっていたが、彼が発言するよりも早く、元々ボウロロープ侯の腰巾着だった貴族たちがバルブロのヨイショを始めてしまった。

 

 

「さすがバルブロ殿下、ご慧眼でございますな!」

「まさに!この国の次代を担う第一王子殿下は流石でございます!」

「本日ボウロロープ侯はこの場にはいらっしゃらないですが、侯もきっとご賛成なさるという事ですな!」

「では、このアルチェルがリ・ボウロロールまでの早馬を準備いたします故!」

 

 

収拾がつかなくなった会議は一旦休憩となった。

 

会議室では、レエブン侯が頭を痛くしながら、ぐるぐると策を考えている。

まず、ガゼフ戦士長が独断とはいえ動いているという事は、すぐさまリ・エスティーゼの民たちへの被害が急拡大はしないだろう。

さらには、この街いる冒険者に犯罪者討伐の名目で依頼を出せば、そこまで被害は広がらないだろうから、この会議が終わったらすぐに自身の部下に使いを出し…

 

全く、あのバカ王子は…!

なんならこの騒ぎを八本指が起こしているという事なので、つながりが強いバルブロも関わっているかもしれない。

その上で、自分が糾弾されないように精鋭兵団を出すとか言い出したのかもしれない…いや、あのバカはそこまで考えていないか…

 

盛大なため息をつきたいが、他の者の目があるので努めて表情は変えない。

だが、会議が終わったらすぐに陛下と話さなければ。

 

冒険者に依頼を出す資金や、戦士団の事などを…。

 

 

一方でバルブロは一旦退室しボウロロープ侯の派閥であったアルチェルという貴族と何やら話をしていた。

すでに、抜け殻のようになっているボウロロープ侯に見切りをつけつつあったアルチェルは、ここぞとばかりにバルブロにすり寄り、計画に加担する姿勢を見せる。

 

 

「…では精鋭兵団への連絡は頼むぞ」

 

「はい勿論でございます、殿下」

 

 

 

そんな折にラナーが話しかけてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

「はい、存じております。ですがある御方から、お兄様にお祝いの品を渡すよう言付かっておりましたので」

 

「ん?それは何者だ?」

 

「ボウロロープ侯さまでございます」

 

 

 

そう言うとラナーは、黒色で不思議な文様が浮かび上がる、バルブロから見てそれはとても美しく魅惑的に見える小箱を取り出した。

 

 

 

「侯が仰るには、この小箱は選ばれた方でないと開くことが出来ないとか。私では開きませんでした。バルブロお兄様であればきっと開くことが出来るから、と。中身は私には良く分かりませんが、リ・ボウロロール周辺の特産品の最上級品とのことです。きっとお兄様ならお気に召すと仰っておりました」

 

「なるほど…義父上から俺への祝いの品という事か。ふふ…分かっているではないか」

 

 

愚かなバルブロは、それはまるで、ボウロロープ侯が自身の領地を含めた一切をバルブロに譲ると言っているように錯覚を覚えた。

 

そしてラナーからその小箱を受け取る。

 

受け取った小箱は、バルブロの手の中でその不思議な文様を光らせ、そして静かに蓋が開いた。

 

 

「まあ!さすがお兄様でございますね」

 

 

開いた箱の中には、何かの植物の種のようなものが入っている。

『選ばれた者でなければ開けない』と言われた箱が開いたこと、そしてその中身が、恐らくは例のライラの上物であると考えたバルブロは上機嫌となり鼻を鳴らす。

 

当然、その箱を持ってきた腹違いの妹が、耳まで避けたような三日月形に口を開き、空虚な瞳で嗤っている顔など視界に入らない。

 

 

そして不思議なことにバルブロは、何かに操られるようにその種をつまみ上げ自身の口に運ぶ。

 

それが飲み込まれ、体の中に何かが沁みわたっていく感覚の数瞬後、バルブロは今まで感じた事が無い不思議な感覚に囚われた。

 

実に気分がいい。

 

そして力が溢れてくる気がする。

 

ああ、これは本当に上物だな、などと考えたその時、影から這い出してきた存在が耳元で声を発した気がした。

 

 

『全てお前の思い通り、全てお前の物だ。その力、お前の欲望のまま、使えば良い』

 

 

 

様子がおかしいバルブロをみたアルチェルが声を掛けた。

 

「殿下、どうされたので……ヒィッ!!!」

 

 

「なんだ、アルチェルよォ。ああ、気分がいィ。そんなに驚いてどうしたのだ?」

 

 

「バッ…バケモノ!!」

 

 

「何を言ゥ、アルチェルよ」

 

 

バルブロが手を伸ばして逃げようとするアルチェルの腕を掴んだ。

 

少しだけ力を込めると、その枯れ木のような腕は簡単に折れて、引きちぎられた。

 

 

「ひいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

アルチェルの悲鳴と血の匂い。

 

バルブロは不思議と、その両方を心地よいと感じた。

 

手元にある血だらけの細い腕に、続けてアルチェルの首筋に思わずかぶりつく。

 

とても心地が良い味がする。

 

そして耳元の声が再び囁く。

 

 

『さあ、会議室へ戻らなくては。お前を待っている者達がいるのでは?』

 

 

「ああ、そうだったなァ。俺様がこの国の王になるために話をしなければなァ」

 

 

そう言うとバルブロは踵を返して会議室の方へ戻っていく。

 

 

一部始終を見ていたラナーは、少しだけ震えが来た。

それは目の前でうるさく泣きわめいていた老人が、絶命したことでも、バルブロの額に角が生え、背中に小さな羽が生え、体色が変わり、まるで悪魔のようになったこと、その者への恐怖からではない。

 

あの箱が空いていた場合の、あり得ていたかもしれない自身の運命。

恐らくは悪魔として寿命が無い存在となり、クライムが居ない世界を永遠に生かされるというもの。

疑っていた訳ではないが、あの漆黒の御方が言っていたことが事実として眼前に突き付けられたこと、そういった人知を超えたものに対する恐怖による震えだった。

 

 

あの御方は言った。

 

『事の成り行きを見ておけ』と。

 

その言葉に従うために、ラナーはゆっくりと会議室までの道を歩いていく。

 

 

 

 

 

会議室は、簡単に言えば地獄絵図だった。

 

悪魔が現れ、次々と貴族たちを殺し、食っていく。

 

逃げまどい、窓や扉の方へ走る貴族たち。

 

だが窓も扉も開かない。

 

正確には、なぜか会議室に訪れたラナーが入った後、その扉が開かなくなったのだ。

 

バルブロのような悪魔が、バルブロの言葉を喋りながら、次々と貴族たちを殺し、食っていく。

 

椅子に座っているランポッサやザナックは座ったまま動けず、ペスペア侯やウロヴァーナ辺境伯などは腰が抜けてしまったのか、座り込み、そしてレエブン侯は恐怖の中、やっとのことでザナックを守る位置に移動した。

 

多くの貴族が殺され——ラナーは、ここまでに殺された貴族が皆、八本指と繋がっている者だと気づいていた——そして、バルブロがぼんやりとした表情で玉座を見つめた時、不思議なことが起きた。

 

 

時間が停止した。

 

しかし、その時点でそれに気づいているのは、時間を止めた山羊頭の漆黒の悪魔のみ。

 

悪魔はゆっくりとランポッサに近付き、その指に指輪をはめた。

 

その瞬間、ランポッサの時間もまた動き出す。

 

 

「ふおっ!!」

 

 

ランポッサは、突然目の前に現れた山羊の悪魔に、一瞬心臓が止まりそうになった。

しかし、その山羊の悪魔は自分をじっと見つめている。

そして、おかしなことに自分と、その山羊の悪魔以外の者が停止していることに気づく。

 

 

「これは…どういう…」

 

目を見開いて驚愕するランポッサに、その山羊の悪魔が話しかける。

 

 

 

「…ランポッサ、この国の王よ。俺は悪。俺の話を聞け」

 

「悪…?!この状況は…?!」

 

 

戸惑うランポッサに、悪魔は語りかける。

 

 

「この斜陽の国、愚かな犯罪者が国の中枢まで入り込み、貴族共は私腹を肥やすのみで犯罪者と繋がり、民は理不尽に奪われ、犯され、殺されている現状…王である貴様は理解しているのか?」

 

 

ランポッサの目が再び見開かれる。

分かっている。

この悪魔が言っていることは全て事実。

分かっている。

だが、自分にはどうすることも出来なかった。

民の幸せを考えてきたつもりだった。

だが愚かな貴族たちは私腹を肥やすのみで民に配慮などせず、八本指ははびこり、国の状況は年々悪くなっていく。

 

何故か自身と敵対する貴族派閥の者達が、ここ最近力を失っている。

やっと運命が味方してくれたと考えていたところに、今度は長男の暴走。

八本指と繋がり、麻薬を使用し、民の事など考えず、今度は理不尽にも戦士団を解体するなどと言っている。

いや、自分は知っていた。

息子を甘やかし、憐れんで罰を与えなかった結果が、この現状だ。

 

バルブロが玉座に座ればどうなるか。

息子はこの国の現状など理解できていない。

更なる重税を課し、民は弱り、やがて帝国辺りに滅ぼされるだろう。

その過程で八本指は力をつけ、この国の弱体化を加速させ、滅んだ後は別の国に移るだけだ。

長年尽くしてくれたガゼフも、良くて閑職、悪くて処刑されるかもしれない。

 

 

「わかって…おる。悪魔殿よ、そなたは余に断罪しに来たのか。王国を…このリ・エスティーゼ王国の民を苦しめた原因、全て余の責任じゃ……どうか…余の命で…」

 

「甘えるなよ、愚かな王が!」

 

 

山羊の目が怒りに燃えているのが分かった。

 

ランポッサは、想像できる範疇を越えた余りの出来事の連続に、もはやこれが現実なのかどうかも分からなくなっていた。

しかしはっきりと分かるのは、山羊の悪魔が言う通り、この国の衰退を招いたのは自分自身の愚かさ故であり、そしてこの悪魔はそれを断罪しに遣わされた何者なのだろうという事。

 

怒りに燃える山羊の悪魔が言葉を続ける。

 

 

「…かつての、とある国の話をしてやろう。その国では愚かな支配者たちが、この国以上に蔓延り、秩序は失われ、自然は失われ、そして“正義”なんてものは完全に失われた。その結果、残ったのは偽物の正義と悪のみ。その国は、世界は、全ての者が死に絶えることを止めることが出来ない段階まで進んだ。結果、支配者も貧民も、いずれ等しく死に絶える。そんな国があった」

 

 

悪魔の話は、ランポッサには完全には理解できなかった。

だが、その悪魔が言う国は、確かにこのリ・エスティーゼ王国の行き着く先の姿なのだと理解できた。

 

 

「だがこの国は…まだ自然が残っている。住人たちの正常な暮らしが残っている。そして僅かだが、正義も残っているようだ……だがこの状況から、この国をマトモな形の戻すには、強く、絶対的な悪が必要だ。情けを捨て、非情になり、罪人に等しく罰を与える悪が必要だ。そういう劇薬をもってすれば、この国はまだ間に合うだろう……どうする、ランポッサよ。その絶対的な悪にその身を、魂を委ねてみるか?貴様自身の甘えを排され、断罪されながらも、この国の王として、民のために全てを捧げることが出来るか?それは死などという優しいものではないぞ?」

 

 

ランポッサはごくりと唾をのんだ。

 

頼りになる戦士長はいない。

いつも相談しているレエブン侯も動きを止めたままで相談など出来ない。

自分で決めなければならない。

 

思えば昔から、貴族たちの影響を恐れ、恐らくは自身の保身もあって、強い政策を打つことは出来なかった。

 

2人の娘も、結局は政治の道具として嫁がせてしまったようなものだ。

 

哀れなバルブロは、自身が甘やかしたゆえに、愚かに育ってしまった。

 

次男のザナックも、その影響で自由に発言などしない捻じれた兄弟関係となってしまったし、賢く美しい末の娘も、きっとこのままでは、いずれどこかの貴族との政略結婚の道具となってしまうのだろう。

 

全ては自身が愚かである故……。

 

 

悪魔の提案は、具体的にどうなるか分からない。

それは文字通り、“悪魔との契約”なのだろう。

だが、この悪魔は何一つ間違ってことを言っていない。

 

そんな悪魔の提案は、要約すれば自身の全てと引き換えにこの国の復興を約束するようなもの。

無能な王にできる、これが唯一の事なのかもしれない。

そう思ったのだ。

 

 

「悪魔殿……貴方に余の全てを委ねる…どうかこの国を…民を…子供たちを、どうか」

 

「…いいだろう。貴様は王として、そして親としての責務を果たせ。それを以て、俺は悪として、この国を導いてやろう」

 

 

その言葉が終わると同時に、悪魔の姿が掻き消えた。

 

ランポッサの指からするりと指輪が外された。

 

再び止まった時間の中で、僕の悪魔が一振りの剣を運んでくる。

 

それを受け取った山羊の悪魔は、剣をランポッサに持たせる。

 

そして時間が動き出す。

 

 

 

 

 

「父上ェ、このバルブロこそが、そこに座るべきだァ」

 

 

口から涎と血を垂らしながら、ゆっくりと玉座に近づいてくる悪魔となったバルブロ。

 

 

「バルブロ…もう…やめるのだ…」

 

 

悪魔が掻き消え、我に返ったランポッサは、バルブロに言葉を掛けるがその声は恐らく届いていない。

 

 

「父上ぇ…その剣はァ、俺が持つべきだァ…寄越せェ!」

 

いつの間にか手に持っていた剃刀の刃(レイザーエッジ)にバルブロが手を伸ばそうとしたが、瞬間バルブロの動きが止まる。

 

 

「なんだァ…動けん」

 

 

 

ランポッサの耳元で先ほどの悪魔の声が聞こえる。

 

『ランポッサよ、親として、王としてケジメをつけろ』

 

 

ランポッサは理解した。

悪魔が望むのはランポッサの命ではない。

悪魔は、自身に息子を、バルブロを斬れと言っているのだ。

 

 

「バル…ブロ…なぜ…」

 

戸惑うランポッサの耳元でまた声がする。

 

 

『どうしたランポッサ。国のため、民のため、責務を果たすのではないのか?その男は、八本指と繋がり国に不和を振り撒くだけではなく、多くの民を苦しめ、そして無垢なる者の命を100以上奪っているぞ。王子であることなど、お前の息子であることなど、関係はない。お前は国のため、民のため、その大罪人を処刑せねばならない』

 

 

「どうか…どうか息子の命は…どうか」

 

 

『ランポッサよ、耳を傾けてみろ。この場にいる、生き残っている者達の声を聞いてみよ』

 

 

その言葉にランポッサは顔を上げる。

 

そこら中に血だまりと死体が折り重なる会議室の中で、生き残っている者達が口々に声を上げる。

 

 

「陛下!早く!」

「お願いいたします!陛下!」

「その悪魔を!どうか!」

「剣を!早く剣を!」

 

 

ランポッサは左右を見る。

 

レエブン侯がこちらを見て、小さく頷いている。

ザナックが目で訴えかけている。

いつの間にか部屋に入ってきていたラナーが、手を組んで祈るようにこちらを見る。

 

 

ランポッサの手が震える。

涙が溢れる。

 

 

息子の、バルブロだった者の顔を見る。

その口の周りにはべったりと血が付いている。

伸ばしている両手の伸びた爪にも血がこびりついている。

 

額には小さな角が生え、皮膚の色は黒いような緑のようなものになっている。

 

 

「あ あ あ……あああああああ!!!!」

 

 

剃刀の刃(レイザーエッジ)が、その醜い悪魔の胸に吸い込まれた。

 

醜い悪魔の口から血の泡がゴボリと溢れ、その悪魔が小さく呟く。

 

「ぢぢうえぇ…」

 

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

泣き叫ぶランポッサの耳元で再び声が聞こえた。

 

 

『よくやった。ランポッサよ。ここからは俺も手伝ってやろう』

 

ランポッサの剣を持つ手の手首が何者かに掴まれた感触があった。

その透明の何かが、ランポッサの腕を掴み操って、何度も醜い悪魔に刃を突きさす。

 

振り回されるようになったランポッサは何度もその手に肉を切る感触を味わい、最後にその首を落とす感触、刃が途中で硬いもの——おそらく首の骨——に当たり、そしてそれを通過して皮膚を切り離した感触を味わった。

 

バルブロだった悪魔は白目を向き、紫色の血のようなものを首から口から鼻から流し、白目をむいて床に崩れ落ちた。

 

手首を解放されたランポッサは、床に倒れ込み、剣を落として、息子を自らの手で断罪した感触を思い出し、あとから後から涙が溢れてきた。

 

 

「あああ!!!バルブロ!!!!すまぬ!!すまぬーーーー!!!」

 

 

 

泣き崩れ、正気ではない状態となってしまったランポッサを、生き残っていた者達は呆然と見つめていた。

 

だがラナーだけには、“声”が聞こえた。

 

 

『ラナーよ、後は任せる…お前がすべきだと思う事(・・・・・・・・)をせよ』

 

そう言い残し、声と気配が消える。

 

 

ラナーはハッとする。

 

パルメーラ様が仰った言葉…“有用な者…例えばレエブン侯などは死なぬように配慮する”

 

 

 

「成程、そういう事ですか…本当に…恐ろしい御方ですね」

 

そう呟いたラナーは、目の前のレエブン侯に話しかける。

 

 

「レエブン侯、ザナックお兄様が錯乱されているお父様をお連れするように進言すべき時、そうは思いませんか?」

 

 

レエブン侯は起きた事の余りの事態に呆然としていたが、ラナーの言葉にハッとする。

そして、速やかにザナックに耳打ちをした。

 

 

ザナックが『父上は御疲れの様子』といい、何処かへランポッサを退避させたのち、生きている各尚書たちを呼び集め、指示を出し始めた。

 

 

これはまさに、国が変わる瞬間。

ランポッサが、乱心の第一王子を討ち、引責して国王を下りる。

そして最も王位継承順位が高いザナックが場を仕切り、スムーズに王位を受け継ぐ。

 

その場にいた貴族たちは皆そう理解した。

 

なにせ今の今まで、命の危機が迫っていたし、ここに残る貴族たちはマトモ寄りの者が殆どだ。

バルブロではない、ザナックへの交代を喜ぶ者の方が多数であるし、どうやら貴族筆頭と目されるレエブン侯もザナックについている様子だ。

 

 

ザナックの指示で、城下への治安時部隊が結成されつつあるなか、やっと落ち着きを取り戻したレエブン侯は、ラナーへ話しかける。

 

 

「殿下…さすがでございました。まさかとは思いますが、バルブロ殿下のことも、貴方様の差し金で…?」

 

 

その問いにラナーは、張り付けたような笑顔で微笑みながら返す。

 

 

「いいえ、レエブン侯、それは違います……あの御方は盤面をひっくり返す力がありながら、あえて再び盤面の駒を元に戻し、あまつさえそれを私に握らせた……全てはあの御方の掌の上…本当に恐ろしい御方」

 

 

レエブン侯には意味が分からなかったが、ラナーが言う“あの御方”という存在が、恐らくは人知を超えた存在で、そしてその存在について深く詮索してはいけないのだという事だけは理解できた。

 

しかし、そんな恐怖の存在のことを呟くラナーの表情は、どこか楽しそうで恍惚としたものだった。

レエブン侯は、そのラナーの表情にこそ恐怖を感じたのだった。

 

 

 

ラナーは考える。

クライムに対する感情は変わらない。

首輪をつけて、永遠に飼いたい。

 

では、あの御方に対するこの感情は何なのか。

少なくとも今まで感じた事が無い感覚。

 

全ての他者は私より愚かで、私がそれを操っていた。

だがあの御方は違う。

あの御方は私を、この私さえも他の者と同様操って見せた。

そんなことをしなくても、全く問題が無いほどの人知を超えた力を持っているというのに。

 

この私が、操られている。

 

そのゾクリとした感覚に、ラナーは少しだけ下腹部を熱くした。

 

 

 

……当のパルメーラは、操っている感覚など無く、ただ言葉そのままの意味で、後の面倒なことをラナーに丸投げしただけなのに。

 




金色のバードマンがブチ切れながら叫んでいる。

「おいいいいいいいいい!山羊ィィィィィィィ!!!何新しいヤンデレヒロイン登場させてんだコラァァァ!!!一級フラグ建築士かよぉぉぉぉぉ!!!」



ピンクの肉棒はここまでの様子を見て、何だか逆に面白くなってきた。

「ウルベルト・アレイン・オードルよ…お前には失望したが、やっぱり面白そうだからそのままでよい」
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