オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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おそらく6章はあと一話で終わるでしょう。
悪魔の迷いは最後の戦いに繋がっていきます。


第6章 第28話 -偽善の竜王-

 

 

冒険者組合前に転移してきたニニャを待っていたのは、イビルアイ、ラキュース、ガガーランだった。

 

それ以外の者達は引き続き治安維持に当たっていて、クライムを通して王城から来た騎士団と、街中の戦士団へ状況の共有が行われている。

 

ニニャとしては、イビルアイの説明で入ってくる情報がいずれも想像の範囲を大きく超えていると感じたが、とりあえずは件の敵対的な天使たちの元凶たる存在の討伐と、ガゼフ戦士長の救出をパルメーラさんが担当していて、自分はそれに参加すべきだと考えた。

 

道具袋には、出発前にカジット大司教がこっそりと持たせてくれた回復の水薬(ポーション)が何本か入っているため、ガゼフ戦士長が傷を負っているならばこれを使おうと考えている。

 

 

 

「…といったところだ。ニニャ。早速だがパルメーラのところへ行くぞ」

 

「はい、案内お願いします」

 

「待ってイビルアイ!私も連れて行って!」

 

「俺っちも行くぜ。何、ここいらはもう俺たちが居なくても大丈夫だ。あとは神殿と戦士団に任せておけば大丈夫だろうよ」

 

「まあ、数が多くて困ることは無いだろうが…いやラキュース、鼻血が出ているみたいだが大丈夫か?!」

 

「はぅっ、また…いえ、これは大丈夫!ケガとかそういったものに由来するアレじゃないわ!」

 

「そうなのか?まあ問題ない無いならいいが…じゃあ行くぞ、〈集団飛行(マス・フライ)〉」

 

 

 

 

3人がイビルアイの〈集団飛行(マス・フライ)〉によって到着したその場所には、果たしてパルメーラが居たが、その周囲には複数の悪魔が首を垂れて並んでいた。

 

そして一部の悪魔は気絶しているガゼフの周囲に居り、また一部の者は天使たちと戦っている。

 

 

「んふぅ!」

 

ラキュースがハンカチで鼻と口を押えながら、目をキラキラさせて声を漏らした。

 

ガガーランやニニャは、ラキュースの反応に何となく心当たりがあるので見ないふりをしているが、イビルアイはあまり理解できていない様で少し心配そうだ。

 

 

 

「ニニャ、それにイビルアイと…ラキュース、ガガーランも来たか。皆、とりあえずここまでお疲れ様だったな。で、だ。悪魔の件、詳しい話は終わってから説明するとして、今はとりあえずアレを見てくれないか?」

 

パルメーラが指差す先には、上部から天使を一定間隔で吐き出している、白い座り込んだ人型のような像があった。

 

 

 

「おいおい、アレがこの天使の群れの元凶かよ…悪ぃが今まで見たこともねぇな」

 

「僕も分かりません…伝承や御伽噺の類でも聞いた事が無いです」

 

「私も残念ながら……でも、あの像…見間違いでなければ六腕のゼロにとても似ている気がするわ」

 

 

「何……まさかゼロとやらの魔法かスキルか何かか?」

 

「どうでしょう…?戦った感じ、ゼロは純粋なモンクでした。それに恐らく私と同程度の強さだったので、そのゼロがあれだけの数の天使を召喚するなんて考えづらいかと思いますが…」

 

「ふむ…」

 

 

パルメーラは考える。

 

起きた事象だけを考えると、それは制御不能の天使の群れを召喚したという事。

 

これはユグドラシルの魔法で言えば第10位階の〈最終戦争・善〉に近い。

いや、天使のレベルを考えるとその劣化版か…

 

だがラキュースの言う通り、モンクがそのような魔法を使えるとは思えないし、ガゼフに憑いている影の悪魔(シャドウデーモン)の報告から、ゼロという犯罪者が神聖系の能力を行使できるとは考えづらい。

 

とはいえ、街中のほとんどの天使は各地に散っている悪魔が討伐済みで、残るはこの像から吐き出されるもののみ。

この像は壊さなければならない。

 

 

 

「パルメーラさん、どちらにしろあの像は壊さないといけないですよね?」

 

 

ニニャも同じ考えだ。

パルメーラは頷きながら答える。

 

 

「ああ、そうだな。ニニャ、それにイビルアイ。あの像に出来るだけ威力が高い魔法をぶつけてくれないか」

 

 

「ああ、分かった…魔法最強化(マキシマイズマジック)水晶騎士槍(クリスタル・ランス)!」

「分かりました…魔法最強化(マキシマイズマジック)焼夷(ナパーム)!」

 

 

像は火柱に包まれ、さらに水晶の巨大な槍が通過した。

 

しかし、その2つの魔法の暴威が去った後、そこには問題なく天使を吐き出す像がそのままあった。

 

 

「なっ…!」

「えっ…?」

 

 

2人の魔法詠唱者(マジックキャスター)は驚きの声を上げる。

 

パルメーラもその結果に目を見開く。

 

幾つかの報告から、ゼロという者は精々が30レベル程の者。

この像がその者の能力によって引き起こされているのであれば、先ほどの魔法を受けて殆ど無傷というのは理解し難い。

 

あるいは、何故か分からないが魔法に耐性を持っている…?

 

 

 

「ガガーラン、ラキュース。悪いが、物理攻撃でアレを壊してみてくれないか?」

 

 

「おう、任せとけ!……おらぁあああああ!!」

「ええ、魔剣の力、お見せします!……はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ゴン!

カーン!

 

斬撃と打撃による攻撃が入ったが、依然として像は壊れない。

 

 

「マジかよ?!」

「うそでしょ?!」

 

 

物理攻撃をした2人も驚いた顔になり、そして像に対する警戒が上がったため、一同は距離を取る。

 

 

 

「おいおい…最後の最後でやべーな、ありゃなんだ……にしても変な感触だな」

 

「そうね……何て言うか、硬いというだけじゃなくて、攻撃したのに攻撃が入っていないみたいな変な感触があったわ…」

 

 

 

「ふむ……皆、少し下がっていてくれ………〈暗黒斬〉!」

 

 

パルメーラの姿が黒い陽炎のようになって、像を通過した。

そして元の位置に戻ってきたパルメーラは、黒い陽炎が上がる悪剣を見つめた。

 

一同は、今の一瞬でパルメーラがおそらくはあの像に斬撃を浴びせたのだろうという事を遅れて理解した。

 

 

 

「この感触……まるで…いや」

 

パルメーラが何かを呟いている。

そして意を決したように、仲間たちに向きかえり、口を開いた。

 

 

 

「俺はこれから、あの像を攻撃するために悪剣の連続攻撃を行うつもりだが、そのためには悪剣による悪魔支配を解かなければならない。そうすると召喚した悪魔たちが制御不能になるかもしれないから、これから、街に散らばる悪魔たちを一旦消す。どうやら街中の天使たちは倒しきったようだから、しばらくは大丈夫だろう。ただ、ガゼフを守っている悪魔も消えるから、念のためガゼフを回収して守ってくれないか?」

 

 

一同は頷き、行動を開始する。

 

悪魔を消すと言ったが、実際には悪魔像によって召喚した悪魔に命令をして消滅させるのだ。したがって元々召喚して街中に潜ませていた悪魔たちは消えないが、説明がややこしくなるので、それらも一旦街中に隠れてもらう事にするので、結果ガゼフの守りが無くなるのだ。

 

三重発動の悪魔像はまだ持っているので、どうしても必要ならばまた召喚すればいい。

 

パルメーラがこのような判断をした理由は、天使を吐き出す像を切った感触による。

 

ガガーランやラキュースが言ったように、像を切った感触に違和感を覚えた…いや、正確に言えば過去に似た感触を覚えたことを思い出したのだ。

 

それはユグドラシルで、ゲーム設定上壊せない物や倒せない敵を攻撃したときの感触。

HPも耐久値も設定されていないものを攻撃した場合の感触。

 

ここは、恐らくゲームではない。

ここまでの旅路でそれは何となく分かっている。

だが、だとすればこの感触は何だというのか。

 

そして、ゲーム上設定されている破壊不可能物に対しても、ルールを曲げて破壊できる存在というのがある。

それはワールドアイテムによる効果。

 

手の中にある悪剣にエンチャントしたワールドアイテム【幾億の刃】。

これの効果を以て攻撃したら、ルールを曲げて破壊できるのではないか?

 

だがそのためには悪剣の特殊効果を一度オフにする必要があるため、その結果制御を失う悪魔たちは一度消さなければならないのだ。

 

 

 

仲間達がガゼフを回収したのを確認し、パルメーラは黒い陽炎が揺らぐ悪剣を掲げ宣言した。

 

 

「悪魔像により召喚されし悪魔よ、貴様たちの役目は果たされた。一体残らず魔界へ戻りその姿を消すが良い!」

 

『そして、俺が召喚した者共は再び街の中に隠れるのだ』

 

 

パルメーラの言葉に呼応するように、悪魔たちは皆深々と礼をして、それぞれの足元に現れた漆黒の闇の中に消えて行った。

 

 

 

「さて、続けてあの像を攻撃する。衝撃波が出るかもしれない。皆自分自身を守ってくれ」

 

 

そのパルメーラの言葉を正確に理解したのはニニャだけだった。

彼女は一度トラウマ級の攻撃を目の当たりにしているため、目を見開き、仲間たちに物理防御の障壁を展開した。

 

そして次の瞬間。

 

 

恐らくは常人には目で追えないスピードで、パルメーラは像に手加減した物理攻撃を何度も繰り出した。

そして10秒ほど経った後、それは起きた。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!

 

 

 

突然、数えきれないほどの剣線が像を中心に巻き起こり、召喚された天使も、地面も、周りの瓦礫も巻き込んで、嵐のような烈風が押し寄せた。

 

 

「~~~~!!!!」

「ぐっ………!!」

「こ……これ程の……!!!」

 

 

ニニャの守りにより、仲間たちは何とかその烈風の影響を受けなかった。

 

果たしてその嵐が過ぎ去った後、その場所に何も残っていなかった。

無論、例の像も含めて。

 

 

 

「…ふう……何とかなったようだな」

 

いつの間にか既に剣を鞘に納めていたパルメーラが呟く。

 

 

 

仲間達が口々にパルメーラに尊敬の言葉を投げかけるが、一方でパルメーラは強烈な違和感を覚えていた。

 

普通の魔法や攻撃で破壊できないが、ワールドアイテムの効果によって破壊できる存在。

 

それは、ユグドラシルであれば、可能性は2つ。

 

クエストなどで破壊不可設定のもの、あるいはワールドアイテムによる創造物。

 

…ワールドアイテムにはワールドアイテムでしか対処できない。

 

しかし、そんなことがあり得るか?

この世界で、他のワールドアイテムが…それこそAOGか他のプレーヤーが…

 

 

 

 

「…にしても、これにて敵は倒せたって訳だな。八本指も、良く分かんねぇ天使も、倒しきったってやつだ!」

 

「ええ、あとは腐敗貴族ね。捕縛した八本指を解放させないためにも、押収した書類をラナーに渡して、ちゃんと後処理をしなければいけないわね!」

 

「ま、待てお前ら!まだそういう事を言うんじゃない!嘗てリーダーが言っていたが、早すぎる勝利を確信したセリフは“ふらぐ”とか言うやつで……!!」

 

 

 

イビルアイがガガーランとラキュースを窘めた瞬間、パルメーラの左手の紋章に、凄まじい痛みのような反応が奔った。

 

それは今までに感じた事が無い規模のもの。

 

街中に大量の天使が現れた時も、熾天使と対峙したときも、これほどの反応は無かった。

 

 

 

「お前ら!上だ!!自分たちを守れ!!!」

 

 

パルメーラの声に反応して一同が武器を構え、上空を見上げると、そこには信じられないモノが姿を現わした。

 

白く輝く鱗に、青味がかったオーラを放つ、途轍もなく巨大な竜。

 

その巨体はリ・エスティーゼの街を覆うほど大きく、その蜷局を巻いた身体を伸ばせば、その巨体は遠くの街まで届くかもしれない…そんな竜が、こちらを見下ろしている。

 

 

 

竜から何らかの波動のようなものが放たれた気がした。

 

 

 

咄嗟に、ニニャとイビルアイが防御魔法を展開し、続けて攻撃魔法を放った。

ガガーランは〈飛翔の靴〉で飛び上がり、渾身の鉄砕きの一撃を放つ。

飛翔する手段がないラキュースは、浮遊する剣群(フローティングソーズ)を放つ。

 

そしてパルメーラは速やかに、ハジマリノ悪(オリジン・オブ・エロヒム)の特性をオンにして〈暗黒波斬〉を放った。

【幾億の刃】の場合、効果が出るまでの時間もランダムなため、速やかに牽制するためにこちらを選んだのだ。

 

結果、ガガーランの攻撃も、ラキュースの攻撃も、そしてパルメーラの攻撃も効いているようには見えなかった。

 

そして何らかの攻撃が来ると身構えた瞬間、予想した攻撃は放たれず、代わりに竜は良く響く声で語りかけてきた。

 

 

 

「…私は聖天の竜王(ヘブンリー・ドラゴンロード)。聖き者を守る、この大陸の監視者だ。人間よ。此度、私が姿を現わしたのは他でもない。異物たる悪しき存在——悪魔を取り除くためである。よって人間たち、先ほどの攻撃、私はお前たちを許そう」

 

 

一同はごくりと息を飲んだ。

 

突然現れた、明らかに威容な存在たる竜王。

 

戦士職3名の攻撃も、逸脱者級の魔法も全く効いていない様子。

 

そして、竜王の言葉。

 

悪魔。

 

それが指し示す者が誰であるか、その場の5人は恐らく知っている。

 

 

 

「…故に、悪魔よ。貴様の邪悪な力、見過ごすことは出来ん。大人しく滅ぼされるのであれば楽に死なせてやろう。だが抵抗するというのなら、容赦はせん」

 

 

 

竜王の視線は、パルメーラに向けられた。

 

 

 

王都中の人間が、その声を聞いていた。

それは王城の者も同じ。

 

巨大な竜王の声は、リ・エスティーゼの隅々まで届き、人々はそれを受けて何やらざわざわ呟いている。

 

 

「…悪魔…」

「しかし、悪魔は俺たちを守って…」

「…いや、王城では悪魔が暴れたって話が…」

「…じゃあ天使は何だったんだ?」

 

 

 

 

パルメーラは何も言わない。

ただ、その巨大な竜王を見つめている。

そしてその弱点を探りながら、竜王の言葉について考えている。

 

 

刹那、ニニャが声を上げた。

 

「…竜王様!パルメーラさんは確かに悪魔の末裔の人間ですが、悪魔そのものではありません!それにパルメーラさんは…邪悪なんかじゃない!!」

 

 

ラキュースも声を上げる。

 

「そうです!パルメーラさんはカッコい……ではなく、むしろ邪悪な犯罪者や愚かな貴族から民を守っています!!」

 

 

 

2人の人間の言葉を聞いた竜王は、視線をパルメーラから動かさず、再び喋り出す。

その声はまるで、子供をあやす親のような口調だ。

 

 

「ふむ…随分と悪魔に魅入られているようだ。実に哀れな人間だな…悪魔というのは人の心に気づかぬうちに入り込む。それにその者は、末裔の人間などでなく、既に悪魔となっている。この竜王の目を誤魔化すことは出来ぬ」

 

 

その竜王の言葉を信じたわけではない。

だが、3名の者は少し驚いた顔で、それと1名の者は少し熱の籠った顔で、パルメーラに目線を遣った。

 

 

 

「ふん……竜王だか何だか知らんが、俺が悪魔だろうが人間だろうが、そんなことは重要な事じゃない。俺は、俺が嫌いな偽善や愚かな為政者どもを潰す。それだけだ。それにお前、“偽善”の匂いがプンプンするぜ」

 

「ふむ…悪魔よ。貴様は分かっていないようだな。古来より悪魔は人間や聖なる存在の敵。倒すべき邪悪な存在だ。貴様が何を成そうと、人間の中では生きられぬ。やがてお前自身も悪魔本来の精神となって、近しいと錯覚している者達を傷つけ、殺すことになるだろう。貴様が今、聖なる我が御業で消滅することこそが、貴様のためにも、周りの人間のためにも善きことよ…貴様も分かっているのだろう?どれだけ殺した?貴様の勝手な思いで、貴様の勝手な正義で、どれだけの人間を惨たらしく傷つけた?そのことを周りの人間は、全て知っているのか?」

 

 

竜王の言葉に、5人はうまく喋ることが出来なくなっていることを感じた。

これは、密かに展開されていた始原の魔法(ワイルドマジック)の精神干渉効果によるものだったが、その事には誰も気が付かなかった。

 

悪魔と言われた男だけが、やっとのこと口を開く。

 

 

「テメェは…俺のことを覗き見していたんだろうな……確かに俺は、幾人もの人間を殺している。だがな、それは無能で愚かな貴族共や、八本指なんかの犯罪者どもだけだ。俺が仲間を、こいつらを殺すことなんざ、あり得ないな」

 

 

悪魔と竜王の会話は、竜王のスキルによって拡張化され、その声が王都中の者の耳に届いていた。

 

だがその声は竜王にとって都合よく切り取られ、 “だがな”以降の悪魔の言葉は、王都民の耳には届いていない。

 

 

竜王は笑う。

 

 

「人殺しの悪魔よ。私はお前のような邪悪な者を見過ごすわけにはいかぬ。悪魔に魅入られた周りの者達もやがて気が付くだろう。聖天の名のもとに、お前を排除する。【世界天軍招来】」

 

 

その声——始原の魔法(ワイルド・マジック)の発動と同時に、その竜の巨体の背後より複数の天使が現れる。

 

その多くは主天使(ドミニオン)座天使(ソロネ)、僅かに智天使(ケルビム)の姿も見られる。

 

 

天使たちのレベルを殆ど正確に把握したのはパルメーラだけだったが、他の4人も、そして王都の街の民たちも、その天使たちが非常に高い力を持っているという事だけは何となく理解できた。

 

 

パルメーラは焦る。

 

自分自身がそれぞれと戦って倒せない訳ではない。

 

だが、その数と、周りにいる仲間、そして王都の民を守りながらとなると、それは非常に難しい。

悪魔たちも一度消滅させてしまったので、もう一度悪魔像を使用して最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)を多重発動させる必要がある。

 

正直、今回の天使たちのレベルを考えると、召喚した悪魔では厳しいレベルの奴が混ざっているから、それは自分が素早く処理しなければならない。

 

だがそれでも、被害を全く出さずに倒しきるのはかなり難しいし、何より、この竜王とかいう存在に対しては対処が出来ていない。

 

先ほど攻撃をした感じ、少なくとも魔法にも物理にも耐性があり、HPも非常に高い。ユグドラシルで言えばレイドボスのような印象を受ける。

 

そう言った一瞬の躊躇いの時間。

竜王が悪魔に語りかけた。

 

 

「悪魔よ。安心せよ。天使は正しき者を見守る存在。今はこの街の民と、この国の多くの街の民を見守っているだけの事。私が排除すべきと考えているのは、邪悪な悪魔のみ。邪悪な悪魔が滅びれば、天使たちは役目を終えて還っていくであろう」

 

 

その竜王の言葉に、パルメーラはさらなる焦りを覚えた。

 

『今はこの街の民と、この国の多くの街の民を見守っているだけの事』

 

つまりは天使たちは、おそらく他の街にも召喚されていて、そして、それが意味することは、この国の多くの人間が人質にとられていると同義であるという事。

 

 

ああ、覚えがある。

 

この感じ。

 

元のリアルで幾度となく感じた、偽善者共の所業。

 

自分たちの都合のために、弱者の事など微塵も配慮しない、為政者共の所業。

 

都合が悪くならないように、言葉を切り取り、取り繕ったように説明する屑どもの行い。

 

 

 

「この国の人間を、人質にとっている…そう言いたいのか。この偽善者が」

 

 

「…何を言う、邪悪な悪魔。私は監視者にして正しき者を守る存在……では、その証拠に、私からその横の人間に慈悲を与えよう。命尽きたる肉親の魂、私が再び呼び戻してやろう。無論、体が灰になることなどはない」

 

 

その言葉の意味を理解し、目を見開いたのは、パルメーラとニニャだった。

 

 

「りゅ…竜王様!本当ですか?!本当に姉は、生き返ることが出来るのですか?!」

 

「…この、聖天の竜王(ヘブンリー・ドラゴンロード)の名に誓い、偽りなどは言わぬ…だが、」

 

 

そこまで言った竜王は、一拍空けて言葉を続ける。

 

 

「…だが、それは、その邪悪な悪魔を滅ぼした後の話だ」

 

 

「そっ……そんなこと!!」

 

叫び声をあげるニニャを、パルメーラが手で制した。

 

 

「…偽善の竜王、貴様、それは嘘ではないのか?俺が倒れれば、コイツの姉を生き返らせ、そしてこの王国の人間に危害を加えないという事か?」

 

 

「…そのとおりだ。邪悪な悪魔。貴様という存在が取り除かれた暁には、その者の願いが叶えられることになるとともに、この国の人間たちは繁栄を続けることが出来るだろう」

 

 

 

パルメーラは、言葉を止めた。

そして悩む。

 

この偽善者のような竜が言っていること、事実かどうかわからない。

約束を反故にする可能性も、勿論あるだろう。

 

だが直感的に、この竜は真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)かそれと同等の魔法を行使できるだろうと感じる。

 

上位天使の召喚という事実と、左手の紋章が感じる強い聖の気配がそれを物語っている。

 

 

だから、悩む。

 

この世界ではおそらく行使できる者がほぼいない、ペナルティーのない蘇生。

それを行使し、ニニャの姉を蘇生できる数少ないチャンスであると理解している。

 

それと引き換えに、この竜が望むのは自身の死。

 

ユグドラシルのように、魔法で蘇ることが出来ることは確認済みだ。

 

そして仲間には、低位ながらその魔法が使える者が居る。

 

 

…思えば竜の言葉。

 

それはずっと引っかかっていたこと。

 

この世界で俺は——それが結果的に一般国民や貧民などにとって良い結果になっているとはいえ——人間を殺し過ぎた。それは理解している。

 

この行いは、リアルの世界の、まるでテロだ。

 

確かに死ぬべき愚か者も多数いた。

 

多くの民を傷つけた領主などは死んで当然の者達だった。

 

だが、その屋敷で働いていた者は?

 

嫌悪感を抱きながらも、主の命令に従っていた衛士は死ぬほどの罪だったか?

 

弱者として虐げられないために、自ら弱者を虐げる側に回らざるを得なかった者は?

 

ベルリバー…鈴川が言った言葉を思い出した。

 

 

『ウルベルトさんは正しい悪を貫いてくれ』

 

 

俺の悪は、正しかったか?

 

 

 

 

 

 

「…ラキュース」

 

ウルベルトが呟くように名を呼んだ。

 

 

「パルメーラさん…」

 

「俺は灰にはならん…だから悪いが後で死者復活(レイズデッド)を頼む」

 

「パルメーラさん!」

 

 

ニニャが叫ぶ。

 

「僕の姉さんのために、パルメーラさんが犠牲になる必要なんて…!!」

 

「…ニニャ、大丈夫だ。俺は灰などにはならずに復活できる。それにお前の姉を蘇生できる機会、次にいつ来るかなど分からん。だからこの選択肢が正しい…それにあの偽善者の竜のいう事、間違いではない部分でもある…俺は余りに殺し過ぎた。そして悪魔たる俺は、ここらで一度身を退くべきだ。ペテルの道具箱の中に、冒険者の離脱の届を入れておいた。俺は一旦お前たちとは距離を取るべきだ…あまりに多くの者に、悪魔を目撃された」

 

「でも…!!!」

 

 

ニニャの言葉を遮るように、竜王が言葉を発した。

 

 

 

「悪魔よ、話はまとまったようだな。安心せよ。その者の姉は生き返らせることを約束しよう」

 

 

竜王がそう言うと、召喚された天使たちがパルメーラに近づいてくる。

そして竜王自身も、その巨体から伸びる手を、パルメーラに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーに、言っちゃってんの。クソドラゴンがさぁ。ウルベルトさんもさ、そんなキャラじゃないでしょ?さっさと一緒にブチのめしちゃおうぜー!!」

 

 

14歳くらいの、いかにも悪ガキのような笑顔を張り付けた子供が、突然姿を現わした。

 

 

 

「こら、るし★ふぁーさん、無防備すぎるでしょうが…まあお気持ちは分かりますし、アルベドが防御壁を張ってくれますので大丈夫ですがね……で、ウルベルトさん。そういう訳です。ご事情、詳しくは分かりませんが復活の件、問題ありませんよ。こちらには、るし★ふぁーさんも、ペストーニャもいるのですから」

 

 

茶色がかった黒髪と、茶色がかった黒目をした男が現れて、ヤレヤレといった表情を浮かべる。

 

 

 

「嘘…だろ…?!るし★ふぁーさんに…タブラさんか…?!アルベド?ペストーニャだって…?!NPCまで?!」

 

 

突然現れた2人の背後から黒髪の妙齢の美女が姿を現わす。

 

「タブラ・スマラグディナ様、発動いたします……〈世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)〉」

 

 

ニグレドの宣言の直後、王国は不思議なベールに包まれた。

 

そのベールはまるで、巨大な映画館のスクリーンのように機能し、人々を襲う天使と、それを召喚する、現実よりだいぶ人相が悪くなった聖天の竜王(ヘブンリー・ドラゴンロード)と、悪魔を召喚し、人を襲う天使を次々に撃破していく、ややイケメン寄りに加工された顔のパルメーラが写し出される。

 

そして天使たちを倒しながら幻術中のパルメーラが叫ぶ。

 

 

『天使こそが人を襲った存在だ!皆、騙されるな!!』

 

 

繰り広げられる活劇にラキュースが顔を押さえながら蹲った。

ガガーランとイビルアイが心配して駆け寄ったが、ただ鼻血を出しながら感動していただけの様で問題なさそうだった。

 

 

「ウルベルト様、この者達の守りはお任せ下さい!〈アイギス〉!!」

 

黒髪の美しい悪魔、アルベドがパーティー全体を守る防御スキルを発動する。

 

 

 

「クソドラゴンが出した弱い天使はこっちで何とかするよー。ルベド、ゴー!」

 

「ぱぱ、まかせて!!」

 

 

るし★ふぁーの言葉に合わせて、赤い陽炎を纏った、6枚羽の幼女天使が、空を駆ける。

朱い恒星のような輝きが天を素早く舞い、通過するたびに上位の天使たちが消滅していく。

 

 

 

「ウルベルトさん、いえ、今はどうやらパルメーラさんですか。他のことは任せてください。それに、遠隔視(リモート・ビューイング)で見たところ、他の街もしばらくは大丈夫そうです。あとはアレを滅ぼせば終わりです。断言しますが、アレは我々の敵。絶対に葬らなければなりません」

 

パラケル——タブラ・スマラグディナがはっきりと告げる。

 

その目には、親愛と信念と、そしてパルメーラ——ウルベルトに対する絶対的な信頼の光が輝いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リ・アインドルの領主が、執事に指示を出す。

 

「ローリッツ、屋敷の衛士に街の住人を守ることを最重要任務として伝えなさい。そして、あの突然街中に現れた悪魔……あの、民を守る悪魔を恐れず、援護することも伝えるのだ」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

リ・アレクサンドルやエ・レエブル、それにリ・ボウロロールやエ・ペスペルにおいても、突然現れた天使たちに対し、街中から染み出すように現れた多数の悪魔たちが、住民を守りながら睨み合いを始めていた。

 

街の領主やその代行達は、悪魔という存在に恐怖を感じながらも、自分たちがすべきこと——民を守るという事、を最優先とし、結果的に悪魔たちと肩を並べて、天使たちをけん制するに至った。

 

 

 

 

リ・ロベルでは、片目片耳の領主が、残った右目に燃えるような意思の光を宿しながら、自身が天使たちの居る街の広間の最前線に立ち、衛兵たちに指示を出す。

 

「いいかお前たち、絶対に民を傷つけさせるな!天使ども、貴様らのような得体の知れない者、例え何者であろうとも、民を傷つけるつもりであればこの私が相手となろう!この身体ねじ切れても、絶対に民には触れさせん!!」

 

街の中から染み出す様に悪魔が溢れ、その領主を含めた街の者を守り始める。

 

 

 

 

エ・アナセルでは『朱の雫』をはじめとした冒険者の面々が、突如現れた天使たちに対峙している。

神殿の者達は民を避難させ、代表たるカイレは援護のために『朱の雫』の横に並ぶ。

 

 

「ふっ…まぁた天使か。だがパルメーラが居なくたって、俺たち『朱の雫』でもアレを抑え込めるってのを証明してやるぜ。なあ、皆」

 

「勿論です、ですが油断は禁物ですよ、アズス」

 

「…遅れました。私も参戦いたします」

 

いつの間にか反対隣には、クアイエッセが並び、魔獣召喚の準備に入っている。

 

 

「…という訳でカイレ様。この街は私と冒険者の皆様で民を守ります。あの天使はまだ動いていないですが、先の熾天使のことを考えますと敵である可能性が高い……カイレ様は手薄になっているエ・ナイウルの守護を御願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「クアイエッセ殿…ああ、任されよう。だがの、恐らくこれは【占星千里】の見た大災厄の一端…決して無理をしてはならぬ」

 

「分かっております。この街の民のことはお任せ下さい」

 

「うむ…では、権大司教カイレ、改め、輪廻聖典第7席次【三門魔導】のカイレ・リンカ・ギベール、我らが神の御意思たる、困窮する民の救済のため、エ・ナイウルへ向かう。〈転移(テレポーテーション)〉!」

 

 

 

 

エ・ランテルの街では、突然現れた天使群が万が一攻撃をしてきた場合に備えて、足が速い冒険者たちが依頼とは関係なく一早く動き、民たちを避難させていた。

 

 

「おっと、坊主。気を付けな。転んじまったら痛い思いするぜ。俺たちが守るからお前はかーちゃんと安心して神殿に避難してな」

 

「うん、分かった。ありがとうおじちゃん!」

 

「おじ……いや俺の名はイグヴァルジ。ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』のリーダーだ。そこんとこ忘れんな」

 

「うん、わかった。ありがとう!」

 

 

子供が母親と共に神殿に入っていくのを確認するリーダーに向かって、その仲間が彼を茶化す。

 

「よし、じゃあアインザックさんのところに戻るんだよな?イグヴァルジおじさん!」

 

「てめぇ…殴られたいのかよ?」

 

 

広場では戦闘力が強い冒険者が速やかに広場に集まって天使たちと睨み合いをしていた。

先頭はこの街の冒険者組合長のアインザック、そして魔術師組合長のラケシルである。

 

 

「ふふラケシル…どうやら俺もいつの間にか彼らに触発されていたようだな。この街から生まれた英雄『漆黒の剣』に」

 

「ああ、アインザック。それは後ろの現役冒険者たちも皆そうだろうさ。だが『漆黒の剣』の面々は本当に戻ってきてくれるだろうか?特にあのニニャ殿の神の如き魔法…ぜひとも拝みたいものだが」

 

「安心しろ、彼らは絶対にこの街を裏切ったりはしないさ。それに、彼らが居なくたって、この街の安全は守れるという事を示さなければならんし、皆もそう思っている」

 

 

背後の冒険者たちから、それに賛同する声が上がる。

 

 

そして最後尾には、魔法力の奔流を隠さずに滾らせ、その聖なる力を冒険者たちへそそぐ者が居る。

 

 

 

「冒険者の皆様、ご安心を。もしもあの天使が攻撃を開始いたしましたら、私は皆さまに守りの魔法をかけたうえで、広範囲回復魔法をかけ続けます!」

 

 

この街のカジット大司教が叫んだ。

そしてそれに続き、彼は他の誰にも聞こえない小さな声で呟く。

 

 

「純銀卿と隔世盟主さまにお救い頂いた私が、今度こそ、御恩を返す時ですね……あの日の幼かった私のような、涙を流す子供がうまれないように……輪廻聖典第8席次【慈光薬師】カジット・“リンカ”・バダンテールが全ての悲しみを癒します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハ……マジかよ……」

 

暗く沈むような、一切光の届かないような、それでいてどこか魅了されるような、そんな深く黒い瞳をしていた男は、どこか楽しそうに笑い出した。

 

 

「はぁ……目が覚めたぜ…るし★ふぁーさんやタブラさんに、そうまで言われたら、やるしかねーな……ニニャ、すまない。俺はちょっと疲れてたみたいだ。お前の姉の事…あのクソ偽善ドラゴンの事、全て解決してやる…良く見ておいてくれ。それで全てが終わったら、お前がちゃんと、その名前を名乗れるように、俺が全力で協力してやる」

 

「パルメーラさん…」

 

 

「ラキュース、悪かったな。蘇生の話、アレはやっぱナシだ。なぜならば、死ぬのは俺じゃなくあのデカブツだからだ……言い忘れていたが、ゼロとの戦い見事だった。お前は確かに闇も悪も使えるようになってきている。だが、まだまだだ。今度は俺が約束通り、この身に流れる悪魔の血を使いこなしてやろう。見ておけ、真の悪というものを」

 

「パッ…パルメーラさん……はぁう!」

 

 

さっき、やっと止まった鼻血がまた出てきたので、ラキュースはハンカチで顔を押さえた。

その様子を仲間たちがジト目で見つめている。

 

 

 

 

「悪剣・ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)よ。その特性をオフにせよ。そして【幾億の刃】発動。これより詠唱に入る!」

 

 




合流!!

そして大魔法へ向けた詠唱が始まります。
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