オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
法国編ですので、この章で色々な事が明らかになる予定です。
「パンドラズ・アクターよ、たっち・みーさんを模倣せよ」
わちゃわちゃした空気の中で、モモンガは自身が創造した黒歴史…もといNPCに命令した。
数十分前、自分にとっては恩人で憧れの人である、たっち・みーは残念ながら急用という事でログアウトしていった。
自分がこのゲーム、『ユグドラシル<Yggdrasil>』を辞めずに来れたこと、そしてこんなにもたくさんの友達が、ギルドの中にもギルドの外にもできた事、それは元をたどれば彼のおかげなのだ。
だから最後ぐらい自分の我儘で、その恩人と一緒にスクショに写りたいと思ったのだ。
「じゃあ、残り1分切りました。皆さん、これまで本当にありがとうございました。ここにいる皆と、今日ここに来れなかった皆のおかげで、このナザリックは最後まで栄光の時間を過ごしました。ワールドアイテム所持数レコード1位は本当にすごいです。それじゃあ、強制ログアウトの前に皆でスクショ撮りますよ。あ、今日来られなかった人には私から後で送ります」
ギルド長として最後の挨拶をする。
正直、自分はギルド長としての才能があってここまで来れたわけではない。
皆が居て、皆が支えてくれたからこその、今日なのだ。
ふと脳裏に、ずっと昔に亡くなった母親の言葉が浮かんだ。
『悟、たくさん勉強して、たくさんの人に出会いなさい。そのたくさんの人に優しくして、たくさん友達を作りなさい。友達がたくさん出来れば、あなたの人生は素晴らしいものになるからね』
アインズ・ウール・ゴウンの栄光を讃える、仲間の声が響く。
…ああ、母さん。
俺、たくさんの友達が出来たよ。
この『ユグドラシル<Yggdrasil>』で出来た友達は、このゲームが終わってもきっと友達でいられる気がするんだ。
楽しかったな。
本当に、楽しかった…。
そう心で呟きながら、鈴木悟——モモンガは、最後の瞬間に目を閉じた。
00:00
00:01
00:02
……
暗闇の中、目を開いた。
ログアウト……していない?
その景色は見慣れた自室のそれではなく、まるで神殿か礼拝堂のような厳かな造りの建物の中のようだ。
辺りは暗闇…のはずなのに、モモンガにはなぜか周りの様子が良く見えている。
「なんだ…?何かのエラーかな??」
真っ先に考えたのは、ログアウトがうまく出来ずに、待機ルームのような場所に飛ばされたという可能性。
あり得るな…なにせ最後の瞬間はかなりの人数が同時にログアウトをしたはずで、サーバーがそれに耐えられず、何らかの処理落ちやエラーが発生、そしてログアウトが完全に行えなかったというパターン。
正直、鈴木悟はヘロヘロさんのように、そちら方面に明るいわけではないので正確なことは分からなかったが、今までもこのゲームは処理落ちやらバグやらで、こういったことはよくあったから、なんとなくそのような可能性に行き着いたのだ。
「はぁ…やれやれ。最後の最後でバグってとこが、ユグドラシルだよなー…明日は4時起きだし、強制終了して寝よ…」
そう言って鈴木悟は、リアルの身体を動かして接続を遮断しようとしたが、どうもうまくいかない。
というかリアルの身体を動かすという感覚がなく、代わりに現在のユグドラシルのアバターである
「ええ…なんだ、なんか上手くいかないぞコレ…」
そう言ってどうにかログアウトできないか四苦八苦していると、目の前に広がる闇の中、おそらくは200メートル程先の辺りから声が微かに聞こえた。
「……ごっ…ごめんなさい…もう、いやだよ、おかあさ…あうっ!!」
「…その程度で気絶しているようでは、まだまだあいつを殺すことは出来ない…明日はもっと厳しくする……ナズル、
「……承知いたしました」
良くは分からないが、その声は全て女性の声に聞こえた。
そして、最初に涙声を上げていたのは、明らかに幼子の声だった。
『なんだ…これは、どういうことだ?バグではなく、何かのイベント??いや、そうだとして、時間は零時を過ぎているし、ユグドラシルのサービスは終わりのはず………まさか!』
モモンガの脳裏に浮かんだのは、ここ最近ヘロヘロが何度も言っていた言葉、<Yggdrasil 2>の存在。
『これは…まさかのヘロヘロさん予想大当たりか?!いや、やはり何かのバグで、別のDMMOに接続されたとか言う可能性もあるかな…でも何かのイベントっぽいのは確かだし、一応確認しよう。とりあえずはステータスを確認して……あれ?』
モモンガは何度も、その
それはつまりGMコールはおろか、他のプレイヤーに連絡を取ることもできないという事。
最初に試した強制終了も出来ないので、どちらにしろ明日の4時起きに備えて寝ることが出来ない。
『まじかー…まあしょうがない…別ゲームなのか本当にユグドラシル2なのか分かんないけど、声の方行ってみるか。NPCじゃなくプレイヤーの可能性もあるし、そうだったらその人にお願いしてGMに繋いでもらおう』
コンソールが開けなかったことから、モモンガはこの場所は別ゲームにバグで接続されてしまった可能性の方が高いかなと考え、また、コンソールが開けないため魔法もおそらく使用できないかなと思ったため、その声の発生源たる者へ近づくにあたり、透明化などの魔法も試さずにトコトコ歩いていったのである。
背後に音もなく付き従う、純銀の聖騎士の姿の者には気づかずに。
法都シクルサンテクスの聖殿に当たる場所、その中のとある一区画は、
その少女は、諸事情からそこから出ることは許されておらず、彼女の母に当たる者も、普段は聖殿の外の自宅で生活している。
その一区画は、夜の聖殿という窓から差し込む月明かり以外は闇に支配された領域の中で、唯一と言っていいほど人工的な明かりがある場所。
少女の世話をする女性であるナズルは、傷だらけになって気を失った少女の介抱のため、抱きかかえた少女と共にあてがわれている居住スペースに入るところだった。
「あのー…すみません。あなたはプレイヤーの方ですか?」
ナズルは驚いて振り返った。
それは、この法都の中で最も秘匿性が高いと言っても過言ではない場所であり、先ほどまでこの場所に居た自身の主であるファーインも自宅に帰った後、さらには男性の声、というあり得ない状況で、声を掛けてくる相手に全く心当たりが無かったからだ。
だが振り返ってその姿を見たナズルはさらに驚くことになる。
「どなた様であ………あ…あ…あ……そっ……そんな…まさか……ああ……スルシャーナ様……!」
「へっ?!スルシャーナさん??」
モモンガはまず、振り返ったその人が、中年の人間の女性であったことから、彼女は高い確率でNPCかなと思った。
それはユグドラシルに限らず、操作キャラクターの外見が選べるDMMO RPGで、あえて中年の女性を選ぶという行為が一般的ではないからだ。
続いて、その女性が発した言葉の中に“スルシャーナ”という、ユグドラシルでの友人の名前があった事に驚いた。
なんでNPCがユグドラシルのプレイヤーの名前を?
え?ていう事は、やっぱりここはユグドラシル2??
いや、彼のギルドにこんな外見を選択したプレイヤー居なかったよな??
驚愕に目を見開く中年女性を前に、モモンガの頭の中は大混乱だったが、ふとその女性の腕の中に抱きかかえられている子供に目を向けた。
その子供———白と黒のツートンカラーの髪で、少しとがった耳の子供は、体中傷だらけで意識が無い様子だった。
年齢は精々3歳やそこらと言ったところ。
子供というよりは幼児だ。
「その……傷だらけの子供は…?」
そう問いかけたモモンガ自身は、不思議な感覚に支配されていた。
普通に考えれば、傷ついた子供を見たら、先にくる感情は『心配』などの同情的なものの筈。
だが今、自分の心に広がっている感情のうち最も大部分を占めているのは『興味』だった。
もちろん『心配』の感情もあるが、それよりも、この推定ユグドラシル2の中での情報を集めなければという思い、そしてこの中年女性と子供が何かヒントを言ってくれるかもしれないという思いが強かったのだ。
『うわー…これ完全にゲーム脳って奴かなぁ…』
モモンガがそんなことを考えながら話しかけたところ、中年女性は、先ほどよりもさらに驚いた様子で、言葉を詰まらせながら、一方で腕の中の子供を強く抱きしめながら言った。
「あっ…ああ死の神様と新たな従属神様、どうか、どうか…御慈悲を御願いいたします…この子は確かに大罪人の血を引いておりますが、同時に六大神様のご子孫でもあります…それにこの子はまだ幼く、産まれのせいで実の母に甘えることも許されない人生を送ってきたのでございます…どうか…どうか…寛大なご判断を……!!」
膝をついて泣き崩れる中年女性に、モモンガはさらに理解不能となった。
大罪人?六大神??何を言っているんだ??
やっぱりこれはユグドラシル2で、何らかのイベントか??
だが仮にこれがイベントだとして、少々気になる言葉があった。
“産まれのせいで実の母に甘えることが許されない”
どういう事だろうか?
さっき、ちょうど自分の母のことを考えていた。
自分の母は、自分のために身を粉にして働き、そして若くして過労死した。
今の鈴木悟——一応は職業に就き、ユグドラシル<Yggdrasil>を楽しむことができ、そしてその中で友人にも恵まれた——が在るのは、間違いなく命懸けで自分を学校へ入れてくれた両親のおかげだ。
そういった自分が持つ経験と思いが、少しだけ人としての残渣を表面に浮き上がらせた。
「……母にも甘えることができないとは、どういう事だ?傷だらけであることと何か関係があるのか?」
モモンガのその質問に、自分をナズルと名乗った中年女性は、モモンガへの畏怖の姿勢を崩さないまま説明を始めた。
その子供は、とあるエルフの王が人間の女性を騙して攫い孕ませた結果、産まれた子であること。
人間たちが多大な犠牲を払い、女性を救い出したが、彼女は子を産んだ後、エルフ王に対する憎悪をつのらせ、子にエルフ王を殺せる技量をつけさせるため、来る日も来る日も死と隣り合わせの鍛錬を行っていること。
その女性は戦力的にこの国で最強格なので、他の誰もこの状況に異を唱えられず、また、国としてもエルフ国への報復は必要であるから、鍛錬を傍観していること。
さらには、“盟約”に違反する存在であるため、その子供の存在は公にはできず、子供は、この神殿の中で密かに暮らさなければならない事。
“六大神”や“八欲王”、それに“竜王”や“盟約”といった言葉の意味は良く分からないし、スレイン法国やエルフ国、アーグランド評議国などといった国も知らない。
だが、モモンガの中では、その子供を取り巻く理不尽な行いに対し、確かに静かな怒りを覚えていた。
その怒りは、母に関する自身の思い出に由来して覚えることが出来た感情だったが、一方で
故に種族特性による精神の鎮静化は起こらず、静かな怒りがチリチリと燻っていた。
「なんだよ、それ…その子供には…何の罪もないじゃないか…なのにそんな扱い…」
モモンガを黒色のオーラが包み、そのオーラは本人は予期しない形で広がっていった。
〈絶望のオーラ〉が発動した。
「ヒィッ!!!」
ナズルが座り込み、ガタガタと震え出した。
その様子は明らかに異常で、目からは涙を流し、大量の汗が顔を伝っている。
すぐに恐慌状態になってもおかしくはないように見える。
ナズルの腕の中の子供も、気を失っているにも拘らず、その身体はがくがくと震えていて、明らかに顔色が悪くなっている。
ナズルは今にも嘔吐しそうな程えずき、「おゆ…お許しを…お許しを…」と、うわ言のように呟いている。
その様子に、モモンガはやっと気づいた。
これは自身のスキルが発動していしまったかもしれないという事に。
「えっ…嘘?!コンソールも何も開いてないのに、なんでスキルが??やばっ…どうすればいいのコレ?えっと…えっと…!」
焦るモモンガの背後から声がした。
「
その声質から、モモンガはつい条件反射で言葉を返した。
「そうか!ありがとうございます、たっちさん!」
そして速やかにモモンガは、指輪の力を解放する。
すると
「
青年がそれを発動すると、周囲には暖かな光が溢れた。
焦ってモモンガ発動したそれは、今の彼が使えるものとしては最上位クラスの癒しの力。
周囲に存在する仲間プレイヤーとNPCの状態異常とHPを一度に回復する切り札で、これを取得した頃にはユグドラシルはサービス終了直前だったため、実際には殆ど実戦使用できなかったもの。
ナズルと子供の震えは止まり、さらには子供の全身の傷も癒え、子供の苦しそうな表情も消えて、穏やかな寝息に変わった。
膝をついていたナズルは再び目を見開き、目の前の神々しい光を放った白髪の青年を見上げた。
「あなた…様は……スルシャーナ様……ではないのですか?」
「…違う。スルシャーナさんは友だ…フレンドだが、私はスルシャーナさんではない」
「では…あなた様は…?」
「私はモモンガ。今は……
「モッ…モモンガ様!!……ああ、ついに…ついに…!!伝え聞くスルシャーナ様の御言葉にある、大いなる存在、モモンガ様が我々をお救い頂くために降臨成されたのですね!!」
「えっ…あ、うん。たぶん、そうです」
今度は、おそらく感動の涙を流して祈る姿になってしまったナズルに、モモンガは若干ドン引いていた。
そしてその次のナズルの言葉に、先ほど聞こえた声のことを思い出す。
「ああ、モモンガ様!!なので後ろの従属神様も別の御方なのですね!!」
「えっ?」
モモンガ振り返るとそこには、
モモンガさんの到達した種族の説明は次回以降です。
まずは黒歴史とのご対面からです。