オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
まず、他のNPCが居ない状態なので、変身させたパンドラかもしれないけど、喋るとは思っていない状態からスタートです。
じゃあさっき、たっちさん声で何か言われたのは何だったんだって話ですが…
「たっ!……………じゃないよな……さっき擬態させたし、コレ、もしかしてパンドラズ・アクターか?」
「ン~~~モモンガ様ッ!!如何にもッ!!この私、モモンガ様の御勅命の元、純銀の聖騎士にして至高の41人の中でも最高位の剣技をお持ちの、たっち・みー様の御姿をさせていただいております、パンドラズ・アクターでございますればッ!!!」
「ひぇっ!!喋った!!!」
「はいッ!このパンドラズ・アクター、モモンガ様、ウルベルト・アレイン・オードル様より
「はァうッ!!!」
特殊ではあるが人間種である状態のモモンガには当然、アンデッド特有の精神鎮静化は起こらなかった。
そのため、覚悟無き状態で突然自身のNPCがオーバーリアクションをしながら全力で喋り出すという、余りのウザさと、顕在化した自身の黒歴史に対する羞恥心によって、モモンガは顔を手で覆いながら膝から崩れ落ちた。
膝をついて頭を抱えながらモモンガはブツブツ呟いている。
「なんでうそだろNPCがしゃべってしかもよりによってパンドラがしらんひとがみてるんだぞかんべんしてくれよゆめかこれはあるいはげんちょうとか…」
降臨なされた神が、その従属神と思しき鎧の御方と話された瞬間、しゃがみ込んでブツブツ言う機械になってしまった様子に、ナズルはどうしていいか分からなくなってオロオロしている。
「あ……あの、モモンガ様…大丈夫でございますか?こちらの鎧の御方は従属神様でございますよね…?」
「……」
ナズルの問い掛けも、混乱状態のモモンガには届かずに、返答がなかった。
そもそもモモンガは、現在の状態が全く分からない。
ログアウト時のバグか、あるいはユグドラシル2か、という予想を立てていたが、出会った中年女性のNPC?はめちゃくちゃ流暢に喋り、意志疎通も完全にできていると感じた。
ユグドラシルでも、聞いた話では他のDMMO RPGでも、NPCがここまで完全に受け答えをするというのは、あり得ない。
そして先ほどの〈絶望のオーラ〉も〈
そして極めつけはパンドラズ・アクター。
自身が過去に設定した黒歴史が動いて喋って踊っているという何かの罰ゲーム…いや、そもそも拠点から動かせない筈のNPCが何でここに居て、そして自由に喋っているのか意味が分からない。
そんな事を頭の中でグルグル考えながらしゃがみ込み、ナズルの言葉に返答していないでいると追撃が来た。
「Mein Vater, mein Vater, und hörest du nicht?」
「ブバァァッッ!!!」
そう、確かに自分は設定した。
ドイツ語の戯曲とか歌詞とか、当時カッコいいと思ったものを片っ端から『覚えている』とコイツに設定した。
でもここで『魔王』の歌詞を持ってくることないじゃないか!
他人が見ているんだぞ!
「もう!!一回ちゃんと整理させて!!!!!」
降臨さなれた白髪の神は、羞恥と怒りで顔を真っ赤にして涙を流しながら大声で叫んだ。
***
「…そんな馬鹿な…あり得るのか…?スルシャーナさんや、ねこにゃんさん達が450年前にここにやってきていて、しかもスルシャーナさん以外は皆寿命で死んでしまったということですか…?」
「はい…その、もちろんその時代より生きている者は居りませんが、この六大神様の御話はスレイン法国民であれば誰もが知る事実です。そして私や一部の高位神官であれば六大神様の御名前や御姿、そして六大神様たちが口伝にて残されたモモンガ様という至高神の御名前は知識として持っておかなければならないとされる事…本来であれば今すぐにでも神官長様などに、モモンガ様の降臨をお伝えしなければならないのですが…」
「い、いや、ちょっとそれは待ってください。状況をちゃんと把握するまで他の人に伝えるのは……それで、六大神と呼ばれる人たちはどこから来た存在だと言っていたのですか?あと、スルシャーナさんはどうなっているのですか?」
「はい…伝承によれば、神は当時絶滅寸前だった我ら人間を救うために、こことは異なる世界から降臨なされて、私どもは言葉の意味が分からないのですが、ご自身たちを“ぷれいやー”と呼んでいたとのこと……そしてスルシャーナ様ですが、先ほど申し上げた350年前に、六大神様が元居た場所から追放されてこの世界にやってきたという八欲王という者達と争いになり、何度も殺されて最後は消滅したとか、あるいはその者達と何らかの取引をしてその代償として姿を隠されたとか、あとは理由は不明ですがこの国から追放されたという御話もあります。とにかく、現在この国には、モモンガ様を除いて神は居りません。“八欲王”という存在も全員が殺し合い消滅したとか、あるいは竜王たちと戦い全滅したとか言われております」
「……なるほど…少し、パンドラズ・アクターと2人で話してもいいですか?」
「はい、勿論でございます。私はあの子——アンテリーネの寝室に居りますので、何かあればお申し付けくださいませ」
ナズルが部屋を出るのを確認して、モモンガはナズルが煎れてくれた茶を一口飲んだ。
美味しい…味がする。
味覚の再現、それはDMMO RPGでは許されていない筈だった。
やはり、ここは…。
「パンドラ」
「はっ!」
まだ少々オーバーリアクションではあるが、立って踊り出すことも無く、無難に返答するパンドラを見て少しホッとする。
あの後、色々とあって、試行錯誤の後にモモンガはパンドラに『その姿の時は、たっちさんらしい言動をすること』と命令した。
その結果、パンドラによるモモンガへの精神攻撃力はだいぶ落ちた。
ゼロにはなっていないが。
モモンガは少し冷静になった後、仮にパンドラが自身が設定した通りの状態であるならば、ナザリックでも3本の指に入る賢さであるはずなので、この訳の分からない状態の解明のためにパンドラにも意見を求めた方がいいのではと考えたのだった。
「パンドラ、ナズルさんの話から考えると、この場所はどういう場所だと思う?」
「はい、モモンガ様。あの
「やはり…そう思うか……。パンドラ、実を言うとな、俺にはそれ以外にも、ここが異世界で…ユグドラシルじゃないと確信できる理由がある。これはお前に説明できない事だがな」
そう言ってモモンガは紅茶が入っていたティーカップをチラと見た。
「なんとッ!さすがは
「おい…オーバーリアクションになってるぞ。それとドイツ語は控えろと言ったよな……まあ兎に角、俺もお前の考えに同意だ。それで、これから先、俺たちはどうすべきだと思う?俺としてはアインズ・ウール・ゴウンの皆を探したいと思うんだが」
「はっ!私もモモンガ様の御意見に賛成でございます。私たちのように、他の御方々もこの世界に転移している可能性は充分にありますれば!ですが、モモンガ様の御名前や、
「うん…その通りだな」
モモンガは、情報の秘匿という観点から、このパンドラの意見には大いに賛成だった。
やはりNPCは創造者に似るのだろうか…そういう設定をした覚えはないんだが…
それはそうとして一方で、モモンガ、いや鈴木悟には気になることがあった。
それはアンテリーネという少女の事。
現在の人間種の姿になってからより一層感じるようになったのだが、あの少女の扱いがあまりにも不憫すぎる。
自分自身は何も悪くないのに、母親に疎まれ、国に疎まれ、おそらくは孤独に生きてきて、これからも孤独に生きていかなければならないと運命づけられている少女。
脳裏に浮かぶ自身の母の事——。
あの子には自分と違って、まだちゃんと母が居るというのに、あれほど幼い子供が母に甘えることもできないなんて…。
そして、目の前の存在。
それがガワだけだと分かっているに、目の前にいる純銀の聖騎士がいつも言っていた事を思い出すのだ。
『困っている人が居たら、助けるのは当たり前!!』
だから鈴木悟は、自分が作り出したNPCに対して言い訳するように、なんとか理由を探しながら説明する。
「なあパンドラ、あのアンテリーネという少女のことだが…その母親、ファーインという者には、ある程度俺たちの事開示するのはどうだろうか。ファーインはどうやらこの国では強くて偉い地位にいるみたいだし、その、なんだか俺の事、神様とかと思ってるみたいだから、いい感じに説明すれば情報集められそうだし、アンテリーネに対する虐待みたいなのも無くなるかと…思うんだが」
特別頭が良い訳でもないモモンガは、必死に考えて説明したつもりだったが、案の定しどろもどろになっていた。
だが、そのモモンガの発言を聞いたパンドラは、一瞬その身体を硬直させたかと思うと、瞬時に立ちあがり、胸に手を当てるとオーバーなリアクションで歌う様にモモンガを褒め称えだした。
「ああ、流石、流石でございます!!モモンガ様はこの国では真に至高神ッ!!そしてファーインなる者はこの国の最強格にしてモモンガ様の信徒ッ!!彼女を利用して、その最強格の者より強いと思われるエルフ王とやらの情報を集める事で、ユグドラシルの痕跡を探すという訳でございますねッ!!私もナズル殿の説明から、そのエルフ王および『盟約』を結んでいる竜王とやらがユグドラシルと関係があるのではないかと愚考しておりました。まずはそのうち、エルフ王からアプローチをするという事でございますか!!仰るような、最も効率よく情報を集める方法まではこのパンドラ、思い至っては居りませんでしたッ!!!」
「あ、うん…まあ、そうだな。とにかく、座れ。落ち着け」
「はッ!!Wenn es meines Gottes Wille!!!」
「はァうン!!ドイツ語ォ!!」
***
法都の一角、アンテリーネが住む領域とは別の神殿で、この国の最高機関長達が会議を行っている。
軍事機関の責任者である大元帥。
魔法の開発を担当する研究館長。
司法、立法、行政の三機関長。
『水』・『火』・『風』・『地』・『闇』・『光』の6つの宗派の神官長。
そして、この国のトップである最高神官長。
以上12人が、この国の行く末と安定のため、日々この会議室で話し合っているメンバーである。
現在の最高神官長は、元『闇』の神官長を務めていたイジドール・トゥア・クインティアである。
イジドールは若いころの金髪は半分ほどが白髪となり、高齢に差し掛かりながらも、その鋭い目つきは衰えておらず、一方で現在この国が抱えている大きな問題について、心の中で常に嘆息をついている。
「…では、始めようか。まずは、“漆黒”の状態から共有を願いたい」
「畏まりました…まずは欠員となっていた、第三、第四、第五、第八のうち、第八を除き補充が完了いたしました。すでにこちらの3名には新たな名を与え、住民台帳は修正済みです」
「では、あの憎きエルフ王国並びにエルフ王に対して報復の戦線を構える準備が出来たという事か!」
『光』の神官長の言葉を、イジドールは手を上げて制す。
「待て、まだ情報は不十分だ……して、その新規3名の戦力は如何程か?」
「はい……英雄の領域には到達しております。ですがいずれも前任者を大きく超える力を持っているとは言えません」
「ふむ…当然、ファーインには遠く及ばぬという事か……エルフ王は、あのファーインをして、歯が立たぬ存在であったのだから、直接対決は依然難しいという訳だな……“火滅”はどのような状況か?」
「イジドール殿、“火滅”は隊長が“漆黒”に引き抜かれたが、副隊長の2名が力を伸ばしているし、全体の隊員数も2割ほど増えている」
「そうなると、やはり主力は“火滅”によるゲリラ作戦とすべきか…大元帥、どう思う?」
「“火滅”を主体にするというのに賛成だ。我が隊は森林という足場が悪い場所で、エルフのような魔法と弓に長けた者達との戦闘を想定していない。攻めはそのような戦闘に長けた“火滅”、エルフ王や一部の強力な個には“漆黒”があたり、我が隊は開けた場所で国の守りを担当する方がそれぞれの力を発揮できると思う」
「そうだな、私もそう思う。反対意見の者はいるか?」
11名の者は無言で賛成の意を示す。
「…では、まずは“風花”がエイヴァーシャー大森林に潜入し、概ねの地理を抑える。そして準備が整い次第、“火滅”が入り込み、このタイミングで宣戦布告とする」
イジドールの言葉で本日の会議は終了となったが、会議の後、イジドールは自身の後輩で現在の闇の神官長である男へ声を掛けた。
「…ところで、ファーインの様子はどうだ?」
「彼女は……そうですね。やはり今後、漆黒聖典の第一席次として活動するのは難しいかと。現在は第二席次が隊長代理のような状態ですし、何よりファーインは……あの娘の“鍛錬”に没頭している様子です」
「“鍛錬”か……あの娘は憎き者の血を引いているとはいえ、我らが神の血を引いている者でもある…死んでしまうことは無いとは思うが、折を見て引き離すことも視野に入れるべきか」
「…そうで御座いますね。宣戦布告の後、良きタイミングで実行いたします」
「それが良いであろうな」
***
日が昇り、件の漆黒聖典第一席次であるファーインと呼ばれた女が、法都の秘匿された領域に現れた。
その眼は深く黒く、常に何か怒りを抱えているような、そんな表情をしている。
黒く美しかった髪には白髪——それは加齢というよりはストレスが原因と言った方がよいであろう——が混じり、一方でその力は衰えておらず、少なくとも現在のこの国の国民で、彼女に勝てる存在は居ない。
「…ナズル、どうしたのです。
ファーインがその領域に入ると、いつもは使用人であるナズルと共に待っている筈の者——あの憎き男の子供で、その男を殺すための道具——が見当たらなかったので、そう声を掛けた。
するとナズルは深々と頭を下げ、目線を下に落としたまま言葉を発した。
「ファーイン様。本日はその前に、お客様が居ります。是非ともその御方にお会いいただければと存じます」
「客…?」
ファーインは耳を疑った。
客?あり得ない。
なぜならばこの場所は、この国で最も秘匿された一角。
限られた者しか入ることが許されない。
そうなると、その客は闇の神官長か最高神官長、あるいは第二席次と言ったところだが、それらが来る場合は事前に通知がある筈。
では誰だ?
この家事手伝いのナズルは時に
疑問はあるが、ともかくも会ってみなければ分からぬし、もしかした緊急案件で事前通知なく神官長あたりが来ているのかもしれない。
そう考えながら闇の領域に足を踏み入れる。
そしてその闇に目を凝らした。
闇が、形を成していく。
そしての闇は、漆黒のローブと豪奢な杖を持った存在、幼いころより何度も聞かされ、経典に残るその御姿そのものとなる。
その御姿はあの時、何度も祈った存在。
あの男を殺してくれと、殺す力をくれと、何度も祈った存在。
その御姿は、想像していたよりもずっと、濃厚な『死』の気配を纏っていた。
「…スルシャーナ様!」
ファーインは膝をついて、その『死』に再び祈った。
少なくとも原作時間軸で生きているリーネちゃんは生存です。