オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「ファーイン・フーシェ、面を上げよ」
死の神が厳かに言葉を述べた。
ファーインは、その言葉に従い顔を上げたが、同時にその内容に、自分の心臓が早鐘を突いたように鳴り響き、全身が汗を伝うのを感じた。
ごくり、と唾液を飲み込んで死の神の御尊顔を見る。
今、仰った御言葉———死の神は、私の名を呼んだ。
それが意味するところ、つまり神にとって私は、洗礼に値しないという事。
思い当たることはいくつかある。
漆黒聖典第一席次の地位を賜りながら、あのエルフ王という敵を打倒できなかった事?
あの国から戻った後、漆黒聖典としての責務を果たせていない事?
あるいはそれ以外、何か、本来この国を守護する立場として不十分な点があるという事?
私は、神がその答えを告げ、そして断罪するために御降臨成されたのだと確信して、もう一度その御尊顔を強く見つめた。
「……まず、言っておく。私はスルシャーナではない。だが私の名は、スルシャーナによりこの国の者に伝えられていると聞いている」
私は再び目を見開いた。
スルシャーナ様では……ない?
であるのに、このプレッシャー、溢れるような闇と死の気配…。
そして、スルシャーナ様がお伝えになっている御方…。
その瞬間私は、闇の神殿本部に伝わる伝承とイコンを思い出した。
まさか……それでは…この御方は……!!
「しっ…至高神……モモンガ様でございますか!!」
「ああ、やはり知っているのだな…そう、私こそモモンガだ」
「六大神様全ての御盟友のモモンガ様でございますか!!」
「うむ」
「スルシャーナ様のご師匠様であり、“おし”のモモンガ様でございますか!!」
「う……うむ、たぶん、そうだ」
ファーインは、スレイン法国に生きる者として、300年以上も待ち望んでいた新たな神——それも、伝承によれば六大神様が皆、ご自身よりも上位の存在として語られていたという至高の神、モモンガ様の御降臨されたことを、心より嬉しく思った。
そして同時に、その至高神が言外に、自身に洗礼名を語る資格なしと述べたのだ。
私の行為の何が過ちだったのかは分からない。
あるいは分からないという今の状況こそが、過ちなのか。
ともかくも私が出来る事、それは至高神様の仰る全てを受け入れ、至高神様の望むままにこの身を捧げる事であろう。
そう思い、ファーインは、その首を切り落とされても構わないとばかりに首を深く垂れ、至高神モモンガの次の言葉を待った。
モモンガは思った。
スルシャーナさん達、何伝えちゃってんの、と。
いや、盟友、確かに盟友というかフレンドだよ。
ていうか、
だけどスルシャーナさんの師匠になった覚えはないし、“推し”ってなんだよ!
ペロロンチーノさんじゃないんだから、人をアイドルみたいに伝承させないでよ!
この人めっちゃ畏まってるし、ナズルさんの話でも、俺の事はねこにゃんさん達よりも偉いみたいに伝わっちゃってるぽいし、今のこの状況は、その勘違いを利用させてもらう前提でパンドラが考えた作戦なんだけど、それにしても(推定)生きている人間相手に魔王ロールとかしたくなかったよ!
あ……沈静化した。
昨日、パンドラと2人で今後の作戦を考えている時、深夜でだんだんお腹がすいてきたのだが、「何か食べさせてください」という理由だけでナズルさんを起こすのも悪いと思ったモモンガは、もしやと思い
同時にパンドラの言動についても、人間種の時よりもだいぶ心に来ないと気づいた。
そしてどのあたりまで心に来ないのか実験したところ、あるラインを越えると精神が鎮静化されるという事が分かったのだ。
これは恐らくアンデッドの種族特性に由来するもので、以降、冷静な判断が必要な局面は
ナズルさんの話では、モモンガの人間種の姿はこの国に伝わっていないようだし、素性を隠す必要がある場合など、うまく人間種の姿を活用していこうと決めた。
なお、ナズルさんには人間種の姿になれることは、他の人には言わないよう口止めしている。
同時に、この国の首脳部?にもモモンガが転移してきたことは言わないように口止めしている。
パンドラが言うには「あのご婦人の態度から考えますと、至高神たるン~~モモンガ様との約束を破ることは有り得ないでしょう!」とのこと。
ただ、何らかの魔法で記憶を覗かれたりしたらバレてしまうかもしれないが、話によるとこの国で最高クラスの使い手でも第5位階程度が限界のようなので、後はチャーム系を警戒すればよいだろうとのこと。
そういう訳でナズルさんにはチャーム系に対する完全耐性の指輪を渡している。
ちなみにモモンガは、ナズルにファーインの“苗字”は聞いたが洗礼名のことはちゃんと聞いていないので、別にワザと洗礼名を呼ばなかった訳ではない…。
「さ、さて、ファーインよ。私はお前に聞かなければならぬことがある」
「……!はい、何なりと、お申し付けください。私が持てる全て、全身全霊を持って答えさせていただきます。勿論、この命を含めた全てを捧げる覚悟でございます!」
(沈静化)
「……ファーインよ。私が聞きたいことはエルフの国の王の事だ」
「ッッ!!は、はい。何なりと…。」
エルフ王のことを口にした瞬間、ファーインの顔が強張った。
モモンガは『しまったな』と思った。
聞かなければならない事とは言え、自身を強姦した男のことを聞き出そうとするなど、普通に考えて気分を害するに決まっている。
一方で神とか勘違いしている存在に聞かれたら、本心は嫌でも答えなければならないと考えるだろう。
そこに思い至らなかった自分の愚かさと女性との会話経験の少なさにモモンガは激しく反省した。
だが一方で魔王ロールをしている手前、今更そういったことを配慮している風の言い方もできない。
一方でファーインは、勿論激しい憎悪の感情があったのは事実だが、同時に『何のことで断罪されるんだろう』と考えていた状態であったから、その原因がやはりエルフ国、あるいはエルフ王を打倒できなかった事なのだと瞬時に理解(勘違い)した。
「……私はエルフ国、エルフ王という者の情報が必要だ。まずはお前が知るその全てを教えるのだ」
「畏まりました!!」
一通りファーインからエルフの王国があるエイヴァーシャー大森林や、エルフ王の状況を聞いた。
その上でモモンガが感じたことは2つ。
『エルフ王、ガチ屑じゃん』というのと『エルフ王だけは、明らかに高レベルだな』という事だ。
まず、ガチ屑の件は言うまでもない。
ファーインの話では、エルフ王国の王城に当たる場所では、エルフの若い娘たちが監禁されていて、本人の意思とは関係なく王の子を産ませられているらしい。
そういうのはエロゲーの中だけにしとけってペロロンチーノさんも言ってたぞ。
俄かには信じられないけど、目の前にいるファーインという女性も被害者な訳だから、事実なのだろう。
しかも国の政治は周囲の大臣とかに丸投げで、自身はただただ、そのハーレムでふんぞり返っている状態らしい。
ホント屑だな。塵殺だ、塵殺。
だが一方で、そのエルフ王はかなり強いだろう事が伺える。
ナズルさんの話によれば、ファーインはこの国の最高戦力であるとのことで、現在たっちさんに擬態しているパンドラの見立てでは、彼女は戦士として60レベルに達していないくらいの強さだろうとのこと。
第5位階が限界との話から、仮に実力を隠している者が居て第7位階まで使えたとしても、最大でもレベルは50台くらいだからその辺りが最高レベルというのは事実のような気がする。
一方で少なくとも60レベル近いファーインを圧倒しているし、何よりベヒーモス——聞いた話、おそらくは
一般的な魔法での召喚は出来ず、高位の
ユグドラシルと同じ精霊かは分からないが、そうであった場合、
ユグドラシルプレイヤーであれば100レベルは当たり前である。
そしてエルフ王の行動、レベル差に物を言わせてハーレムを作り、エルフという種族の王になって自分は好き放題に暮らす———この行動方針、ユグドラシルプレイヤーが転移してきた場合、こういった行動をするものが居てもおかしくない。
なんと言うか、悪に染まったペロロンチーノというか……。
これらの情報から、モモンガはパンドラと話し合って概ねの行動を決めていった。
その密談をする間、ファーインはナズルと共に、アンテリーネが住む住居で待機してもらっている。
モモンガとしては虐待のような鍛錬にも思うところがあったので、ファーインによるアンテリーネへの戦闘指導はしばらくお休みにするように告げている。
そういう訳で、モモンガとパンドラが相談している間、ファーイン、ナズル、アンテリーネは同じテーブルを囲んで座っているのだが、このようなことは今まで一度もなかったので、3者ともどうしていいか分からない時間が流れている。
「……」
ファーインは無言でアンテリーネを凝視している。
だが現在は、至高神様の御言い付けによって、
一方でやはり、その顔、形成する半分の白い髪は、あの憎い男を連想するため、つい険しい表情となってします。
アンテリーネは何も聞かされていない。
昨日の傷が起きたらなくなっていて、なぜか昨日はとてもよく眠れたのは、ナズルおばちゃんが介抱してくれたからだと思っているし、大人たち2名はモモンガの降臨については口止めされているから、それについては何も言えない。
ただ、いつもは目も合わせず、ただただ自分を厳しくしごいてくる母が、今日は何故か厳しい表情ながらもこちらを見つめていて、そして鍛錬は行われずに無言で一緒に茶を飲んでいる。
アンテリーネはいつもと違うこの状況に、少しだけ、本当に少しだけ希望のようなものを感じて、小さく呟くように呼び掛けた。
「………おかあさん」
瞬間、ファーインの顔は憎しみを含んだような険しいものに変わった。
アンテリーネはいつもの癖で、「ひっ!」と小さく叫び、手で頭を守る様に小さく縮こまった。
「………チッ」
ファーインは反射的に舌打ちをしたが、特に何かをするでもなく、目線を逸らした。
瞬間、頭の中に声が響く。
『ファーインよ、
『畏まりました。直ちに!』
「ナズル。私は
それだけ言うと、速やかに扉から出ていった。
ファーインが部屋から消えると、アンテリーネは恐る恐る頭を上げた。
「……ナズルおばちゃん?」
ナズルは微笑みながら、アンテリーネの頭を撫でた。
「アンテリーネ、今日は一緒に本を読みましょう……きっと……きっと何かが変わっていきます。あなたにとって良い方向に。だからそれまでは一生懸命、お勉強をしましょう」
「……うん」
神殿の闇の中を進んでいくと、そこには闇と死そのものと言える至高神モモンガ様と、その御付きの従属神だという鎧の御方が居た。
ファーインは直ちに膝をつき、神の言葉を待つ。
「…ファーインよ。私はこれより、エルフ王国並びにエルフ王の調査を始めることとする。それに伴い、お前を案内係としてエルフ国の王城まで我らを導く役を負ってもらいたい……出来るか?」
「はっ!勿論でございます!!」
「そうか…それではこれより私たちは、我らの身分を隠すため姿を変える。姿を変えることが出来る事、およびその姿そのものもお前だけが知ることとし、その他の者には秘匿とする」
「かっ…畏まりました!」
そのファーインの言葉の後、目の前の2名の姿が速やかに変わった。
鎧を着た従属神の方は、その鎧が剥がれ落ちるように消え、そこから現れたのは片手剣を持った若々しく緑髪のエルフの女。
至高神様は、漆黒のローブが消えてゆき、その中から現れたのは純白の法衣を来た白髪の若い人間だった。
正直、原作のアンテリーネが実母の姓を名乗っているか甚だ疑問なのですが、この二次創作では姓はそのままという事にしました。