オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
ファーインは神に心酔し、アンテリーネは少しずつ心を取り戻し、パンドラはモモンガの心をちくちく攻撃します。
「…そうですか。お話ありがとうございます!」
「い、いや、特にお教え出来ることが無くて悪かったね」
「いえいえ!それじゃあ私たちは、そろそろ旅立ちますので!」
「あ、ああ。気をつけな」
一行は、とあるエルフの村で聞き込みをしていたが、この村の長老のような立場の者は、エルフ王について特に情報を持っていないということだった。
隣村で聞いた、少女が王城に連れ去られたという話も知らないという。
正直、長老やその周りにいる、この村の責任者達?の様子が少しおかしかったから、サトゥルヌスやミルンドールは、何か隠しているかもしれないと感じていたが、全員に
ちなみにファーインは、サトゥルヌスによる幻術で、本来の顔からはかなり遠い別の顔の少し若いエルフに擬態させている。
これはモモンガとパンドラで話し合った結果であり、ファーインの元の顔にそのままエルフの特徴的な耳だけの幻術をかけるとどうやらダークエルフに見える様であるということ、また、3人の中で1人だけ年が離れているので不審がられること、さらには万が一、人間のファーインの顔を知っている王城の者などと遭遇した際に怪しまれるだろうことなどの理由から、王城に近くなってきたこの辺りからは、このような変更を行う事としたためだ。
そのためファーインは人前では極力喋らないようにし、他2名は名前で呼ばないようにしている。
そして、正直この世界の人間のスキルや武技というものに興味津々なモモンガは、色々と理由をつけてファーインの技構成を聞き出し、戦い方のアドバイスのようなことをしている。
何ならエルフ王の件が片付いたら、ファーインの育成とビルド構成をしてみたいとすら考えている。
モモンガ的には、一度【聖騎士】方向でビルドを組んでいたこともあり、ある程度はファーインの戦闘に助言を与えられる状態だったのだ。
ファーインはファーインで、至高神から直々に戦いを教えていただいているというあまりに光栄な状況で、至高神が仰ったことは一言一句漏らさぬ様、戦闘後の移動中や、夜に与えられた私室で休む際に、メモを取っている。
村を出るということで、移動しながらのモモンガによる戦闘講義が始まりそうとなっていて、村はずれの林道入り口付近まで来たところで、村人と思われる若い女性のエルフに声を掛けられた。
「ねえ、旅人さんたち。アナタ、さっき長老たちに王様の事聞いてたでしょ?」
「はい!あなたは?」
「アタシはナルドリ。長老たちはさ、きっとアナタ達に嘘を教えたと思うから、アタシがこっそりホントの事教えてあげようか。代わりにアタシのお願いを聞いてくれればだけど」
その言葉にミルンドールはサトゥルヌスと目を合わせた。
実際は2人の間で
サトゥルヌスが「では…〈
「ナルドリさん、今私の仲間が、この周りに音が漏れないように魔法をかけました。もし良ければあなたが知っていることを教えてくれませんか。私たちに出来ることであれば、あなたのお願いを叶えますので!」
「魔法…?!そっか、そっちの人、魔法使えるんだね。アナタとか、後ろのお姉さんも魔法使えるの?」
「私と彼女は戦士だから、魔法は使えませんよ!」
「そうだんだ…。じゃあ大丈夫かな…?あ、えっと王様の話だったよね。えっとね。何から言えばいいんだろう。ほんの30年前くらいなんだけどね、この村にまだ20歳くらいの子供と、そのお父さんとお母さんだけの家族が居たんだけど、その家族は事故でお父さんとお母さんが死んじゃったんだ。でね、残された子供、ミューギちゃんていう名前だったんだけど、その子、うちで一緒に暮らしてたんだ。でもある日お城からエルフ王の配下の人が来て、そのミューギちゃんを連れて居ちゃったの。なんでか分からないけど、それから長老たちはミューギちゃんの事、前から居なかったみたいな言い方するし、アタシのお父さんもお母さんも、ミューギちゃんの事忘れろって言うの。これっておかしいよね?」
「…そんなことがあったんだ。連れていかれたのはそのミューギちゃんて人だけ?」
「うん。なんか王城の人達、村の女の子の事色々聞いてたんだけど、最終的にミューギちゃんが若いのに魔法使えるってことで選んだみたい」
「そうなんだ。教えてくれてありがとうございます!それで、あなたのお願いって何?」
「ミューギちゃんを、お城から連れ帰って!あ、いやえっと。お城でお仕事とかしてて忙しいかもだから、せめて無事でいるってこと確認して、できればお手紙とか出すように言って欲しい!アナタたち、お城行くんでしょ?」
「分かったよ!じゃあミューギちゃんて子がお城に居たら、ナルドリさんがそう言っていたって伝えますね!」
「うん、ありがとう。それと…アタシは良く分からないけど、なんかここ最近は、村の大人たちもお城とか王様のこと怖がってる気がする…理由は良く分からないけど。だからアナタたちも気を付けてね」
「ありがとう!」
ナルドリと名乗ったエルフが村に向かって戻ろうとしたとき、白髪の男エルフが思い出したように彼女に話かけた。
「ああ、ナルドリさん。ちょっといいかな?」
「え、何?」
「念のため…いや、教えてくれたお礼だ。このアイテム…お守りを上げるから肌身離さず持っているといい。君を守る魔法がかけてあるから」
そう言って白髪の男エルフが差し出したのは、盾のようなものを持った白い土人形のようなものだった。
ナルドリは『うーん、可愛くないなぁ…それにアタシもう150歳だから人形遊びする年齢じゃないんだけどなぁ…でも魔法も使えるこの人、悪い人じゃなさそうだし、それに結構カッコいいし…お守り、貰っておこう』と心の中で思った。
「ありがとうございます」
ナルドリはペコリと頭を下げると、元来た道を戻っていった。
ナルドリが十分に離れたところで、サトゥルヌスが口を開く。
「……まだ
「はっ…サトゥルヌスさーーん、誠に…誠に、申し訳ありませんが、囚われている時に他の者の名前を確認しておりませんでした……ですが、ナルドリが申していた者のような子を産めない年齢のエルフが成長するまで囚われている場所がありましたので、そこに居るかもしれません」
「囚われている…?!本当に…本当に不快な奴だな、エルフ王は……!」
明らかに怒りに顔をゆがめる神の御姿を見て、ファーインは、その怒りの様子が自身に対して配慮いただいている故か、あるいは慈愛に溢れた神が悪辣なエルフ王の所業に純粋にお怒りになられているのか分からなかった。
だが、いずれにしろ、神は本当に御優しい。
ここ数日の傍仕えで、これははっきりと分かったことだ。
死の神としての御顔。
慈愛に溢れた人間神としての御顔。
どちらも等しく、至高神モモンガ様の真実の御顔であり、私は本当に恐縮ながらそのご様子を最も近くでご拝謁させていただいている。
もし神が私の名を、洗礼名も含めた私の名を呼んで下さるのならば、私は全霊を以って至高神様の御姿を善国民へ伝道する役目を全うしなければならない。
「ああ、そうだ。ファーインさん。確認しておきたいんだが、エルフ王に囚われていた人や側近なんかには、ファーインさんよりも強い人は居なかったということで合っていますよね?」
「はっ…はい!少なくとも戦士職の者で私以上の者は居なかったと思います。先ほどの話に合ったミューギのような、おそらくは魔法職については完全には分かりかねますが、エルフはそもそも高位階の魔法を使用できる者は比較的少ないですし、少なくとも私を救出した漆黒聖典との戦い時に、高位階の魔法を使う者はエルフ王以外居ませんでした」
「ふむ…それならばスキルで殆どの魔法は無効化できるか…いや油断はいけないな……よし、ファーインさん、ミルンドール様。今日は
「はい、サトゥルヌスさん!」
「はい、畏まりました!」
***
スレイン法国の法都シクルサンテクスの聖殿の奥深く。
闇に支配されるその領域に、3名の者が転移してきた。
白髪の男性は速やかにその姿をアンデッドの神たる姿に変え、緑髪のエルフはその身に鎧をまとう。
幻術が解けて元の人間の姿になったファーインは、死の神とその横に膝をついて控える従属神の前に、両膝をつき、さらにその額も床に擦り付ける。
要は土下座である。
「至高神モモンガ様、並びに従属神の御方、此度の遠征もお疲れ様でございました!」
「あ…うむ…ファーインよ。そのように頭を低くされては話しづらいので、普通に立つが良い。お前も、膝をつくな。その姿の時はたっちさんだといっただろ」
「も、申し訳ございません!」
「ン~~モモンガ様ッ!これは大変失礼いたしました!!モモンガ様より溢れる御威光により、体が勝手に膝をついてしまった事をお許しいただければ幸いでございます!ファーイン殿も、おそらくは私と同じくンモモンガ様の偉大さ故にかのような姿勢をとってしまったのでしょう!」
慌てて立ち上がり、それでも頭を低くしているファーインと、今にも踊り出しそうで、どう見てもたっちさんではないパンドラの姿に頭が痛くなるが、このやり取りは、この場所に戻ってくるたびに繰り返されているのでもう正直慣れてきた。
「はぁ…もういい。でだ、森で言ったように、私とパンドラはこの後作戦会議、ファーインは今日はゆっくり休んでくだ…休むが良い。集合は明後日の朝だ」
「畏まりました!」
深く深く礼をして、その場を去ろうとするファーインの様子を見て、モモンガは思い出したように付け加えた。
「あー…ファーインよ。数日会っていないのだから、少しは娘と顔を合わせておくように」
「はっ…はい!畏まりました!」
ファーインがチラと従属神様の方を見ると、その鎧を着た従属神様はウンウンと頷いているようだった。
聖殿の一画に設けられた住居スペース。
その家屋の扉を、ファーインは押し開けた。
扉が開いたことに気づき、ナズルが速やかに奥から現れて礼をする。
その横にはナズルに並び、目を閉じて礼をするアンテリーネの姿もあった。
部屋の中には食材を調理している匂いが溢れていた。
おそらくは夕飯の支度の最中か、あるいは夕飯最中だったのだろう。
「お帰りなさいませ、ファーイン様。神へのお務め、お疲れ様でございました」
「…ああ」
ナズルの言葉に、ファーインは短く答える。
「ファーイン様、ちょうどこれから夕飯でございます。よろしければご用意させていただきますが、如何でしょうか?」
「いや、私は……いや……いただこう」
「畏まりました。ではすぐに準備させていただきます」
食卓のテーブルに座る。
思えばこの住居の食卓につくのは初めてかもしれない。
至高神モモンガ様の御言い付け、そして恐らくは従属神様のご配慮を理解し、ファーインは初めて、“娘”という存在と共に食卓についた。
一瞬だけ、チラとその子供の顔を見た。
子供の顔、それはここ何日かの旅の中で、至高神様がまるで息をするかのように救っていったエルフの子供たちのものと一瞬だけ重なった。
だが、その顔の半分。
僅かに感じる、あの憎き男の面影を思わせるそれに、おそらくは顔を顰めてしまったようだ。
子供は一瞬だけ「ふぅっ…!」と息を漏らすと、肩を震わせて下を向いた。
その顔の残りの半分は、確かに自分の面影があった。
あの男から受けた仕打ちに対して絶望する私は、もしかしたらそんな顔をしていたのかもしれない。
だがやはり、半身があの男のものであるという思いから生まれる感情は怒りであり、それ以上その娘を凝視することで、再び顔が歪んでしまうだろうことを理解している私は、それ以降は娘の方を努めて見ないようにした。
食卓に皿が運ばれてきた。
皿には肉と、野菜と、オムレツが載っていた。
3人は無言でそれらを食べる。
食事が終盤に差し掛かった頃、ファーインはナズルの方を見ながら口を開いた。
「…至高神様、従属神様との旅は、本当に何事にも代えがたい光栄なことで、お2人の戦いもまた、目を開かされる思いの連続だ」
「はい。左様でございますか」
ナズルが答える。
「私の力などまだまだ未熟…あの御2人にかかれば、言うまでもないことだが憎きエルフ王など敵ではないだろうと思う。それに御2人は、私の前では努めて人間らしく振舞われている…あまりにも恐れ多いことだが、神々は御優しく、卑しい御付きでしかない私のことを配慮して下さっているのだろう…六大神様の伝承と同じ、いや、それ以上に、神々は私たちの全てを見通し、そして愛に溢れておられる」
ナズルは頷きながら、その言葉を聞いている。
一方でその隣に座るアンテリーネも、“母”が語る、初めての戦い以外の言葉に耳を傾けていた。
「至高神様によれば…神々とは違う我らヒトは、良く食べ、良く眠り、健康であること…良くは分からぬが“オールグリーンを目指すべき”とのこと…要は日々万全な状態で過ごし、鍛錬も怠るなということだろう…戦いという側面でこの国を背負うものは、そうあるべきということだと私は理解した……ナズル、食事の支度、感謝する。美味しかった」
「お粗末様でございました」
ナズルの言葉に頷くと、ファーインは席を立ち、その住居から去った。
食べるのが遅かったアンテリーネは、“母”が出ていった扉の方をしばらく見つめていたが、思い出したように皿に残っていた好物のオムレツの残りを口に運ぶと小さく呟いた。
「ごちそうさま…でした」
『母と一緒にオムレツを食べる』
実績解除完了