オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「では、いよいよ王城に向かいます!サトゥルヌスさん、改めて作戦内容の共有お願いします!」
「はい。2人とも透明化効果を見破る指輪はちゃんと機能していますね?先頭はファーインさん、真ん中が私、後ろがミルンドール様です。王城の中の構造やエルフ王を含めた城内の者の顔をある程度知っているファーインさんが案内役です。私は真ん中で透明化やバフをかけるとともに万が一の場合の転移等の対応をします。ミルンドール様は
「畏まりまりましたッ!ミルンドール様、サトゥルヌスさーーーん!!」
「じゃあここからは
三日月湖と呼ばれる湖を越えた場所に、ひと際大きな樹——それは“エルフツリー”と呼ばれるものでエルフの魔法によって繋ぎ合わされ、人が住めるほど巨大化したもの——があった。
そしてその巨大な樹にいくつかの直線的な形状の建物?が組み合わさったもの、それがこのエルフ国の王城で、例のエルフ王とやらもここにいるらしい。
王城が見えた時点で一行は透明化して、まずは王城内に一旦忍び込んで、転移地点を設定し、何度も拠点と往復をしながら情報を抜いていく作戦となった。
同時に、ここに来るまでのいくつかの村で聞いた、“連れ去られた女”を救出するというのも目的となっている。
エルフの職業構成としてレンジャーというのは一般的なため、サトゥルヌスとしてはそういった監視を警戒しているが、今のところ周囲にこちらに気づいているエルフも居ないようだし、覗き対策のカウンター魔法にひっかかる様子もない。
森の中には愛らしい小鳥やヘラジカのような姿の動物がいたが、それらも襲ってくる気配は無かった。
『それでは僭越ではございますが、私が知る王城の裏手の入り口へ向かいます』
『お願いします!』
ファーインの先導で、一行は三日月湖を迂回し、速やかに巨大樹の近くまで来た。
そしてそのまま巨大樹を迂回し、その裏側にある空洞までたどり着く。
『私が捕まっていた時は、この入り口はあまり使っていなかったと感じています。おそらくはいくつかある搬入口の一つで確かここは倉庫に繋がっています。エルフ王は転移の様な手段か、正門と思われる入り口からしか出入りしていませんでした』
『なるほど!では念のため私がスキルで中を確認します。スキル・〈戦士の直感〉……倉庫に繋がっている一本道の様ですね…倉庫を抜けて廊下を進むと広い部屋があり、そこには複数の者が居るようですが、そこまでは誰も居ないので問題なく入れそうですね!』
『では、まずは倉庫まで侵入してしまいましょう』
『畏まりました!』
メッセージの中でも非常に畏まっているファーインは、速やかに空洞に進んでいく。
このメンバーの中では、言うまでもなく最も弱いのだが、聞いた話ではこの城の中でファーインより明らかに強いのはエルフ王と、エルフ王が召喚すると思われる
また、少し前にナルドリという少女と約束したため、少なくとも“ミューギ”という子供は救出すべきで、その事を考えると囚われている女を救出するまでは衛兵のような者達には侵入がバレるわけにはいかない。
明らかに冒険というかミッションともいえる作戦のために、邪悪なエルフの王の居城に侵入するというイベントに、モモンガはかなりワクワクしていた。
***
エルフ王城の高所にて見張りをしていたエルフの男は、その手に愛らしい小鳥が止まるのを確認し、自身のレンジャースキルで以て、その小鳥——
「これは…?!」
「どうした?」
見張りの同僚と思われる他のエルフが、その男に話しかける。
「侵入者かもしれない……三日月湖の手前で3名の見慣れぬ者が居た。緑髪の女、金髪の女、白髪の男。どれも200歳かそれ以下くらいの者だ。だが……突然その姿が消えた」
「何?!それは何らかの魔法で透明になっているということではないのか?!」
「恐らくそうだ。警備に…いや警備と、それと王に伝えてくる!」
「分かった!俺は引き続きここで監視を続ける!」
警備の男は一瞬警備だけにそのことを伝えるべきかと考えた。
しかし侵入者の中に子を産める年齢の女が居た事から、王から出ている御触れ———強い力や魔法力を持つ女を献上せよというものを思い出したためである。
正直な話、自分の妻や娘を献上せよといつ言われるか分からず、そうなる位であれば素性の分からない敵対者に王の意識が向いてくれた方がいいと考えたためであった。
***
倉庫に到達したサトゥルヌス達一行は、再びミルンドールのスキルで辺りの様子を伺っていたが、倉庫の先の廊下を抜けて大部屋に居る者達の動きがどうもおかしいということでメッセージ会議をしていた。
『サトゥルヌスさん、大部屋の中の者達が集まり、こちらに向かって歩いて来ています。足取りから少なくとも警戒対象が居ると判断した動きに感じます』
『成程な…手段は分からいが侵入者に対する準備が出来ているということか。面白いじゃないか…ファーインさん、まだ扉は開けないでください。ミルンドール様、人数とその者達の強さは?』
『人数は8名、少なくとも戦士としての力を持つ者で20レベルに到達している者は居ませんよ!』
『ファーインさんの情報の通りだな。大部屋には誰か残っていますか?』
『はい、指揮官か連絡係かは分かりませんが1名だけ残っています』
『よし、それでは念には念を入れていこうか…奴らがこの部屋の扉を開ける瞬間時間を停止します。目的としては敵の中に時間対策をしている者が居るかの確認。いなければ奴らの横をすり抜けて、時間停止中に大部屋まで一気に進み、その残っている1名に接触します。2人とも指輪はしていますね?』
『はい!』
『はッはい!!』
『では、タイミングを見計らって…………
一行は2秒ほど立ち止まった。
廊下に続く倉庫の扉が向こう側から開かない事を確認すると、ファーインは慎重に扉を開ける。
そこには8名のエルフが固まったまま佇んでいる。
ファーインは先代より受け継いでいた時間停止対策の指輪の効果を初めてその身で実感した。
…これが至高神様の御力。
だがいつまでも感動をしているわけにはいかないので、至高神様の御言い付けの通り、先頭に立って廊下を足早に進み、速やかに奥の大部屋に入る。
大部屋の中は記憶と同じで、おそらくは兵に当たる者達が詰める場所と思われた。
そしてそこにも佇んだまま動かないエルフが1人。
その男の顔にファーインは見覚えがあった。
エルフ王の私室で何度かアイツと会話をしていた者。
部屋に入ると、今度は至高神様が先頭に立ち、そのエルフに近づく。
「…やはり、少なくともこのレベルの者達は時間対策無しだな………良しそろそろか。
数秒後、時間停止が解けたと思われた瞬間、男エルフの前には魔法陣が現れ、速やかにそのエルフの目はぼんやりとしたものに変わった。
『これから私はこの者から情報を可能な限り聞き出します。ミルンドール様はさっきの倉庫から誰か戻ってこないか、あと、あの奥の扉側から誰か来ないか見張っていてください』
『はーい!』
『ファーインさんは、この者から色々と聞き出す為のサポートをお願いします』
『はッ!畏まりました!!』
***
『…こんなものか。しかしこいつはアタリだったな。思った以上に情報を持っていた。王の側近ぽかったし運が良かったな……さて、捕まっているエルフの場所も分かったし、何より、少なくともこいつが知っている範囲ではこの城に覗き見対策の魔法がかかっていないことも分かったから、ここから先は
『はい、サトゥルヌスさん。ちょうど別のエルフが、奥の扉側からこの部屋に向かって進んできていますので良いタイミングです!』
『うん…さて、後はこいつをどうするかだな。
『サトゥルヌスさん、私としてはその方法は僅かですがリスクがあると考えます。やはり記憶を消してしまう方が確実ですよ!』
『ふむ…そうなると
サトゥルヌスが少し悩んでいると、ファーインが
『……殺すべきでございます』
その言葉に、サトゥルヌスは一瞬ドキリとした。
ファーインが言っていることは正しいし、本心ではそうすべきだと考えていた。
だが人間状態の彼は、それを本能的に避けていた。
ミルンドールは何も言わない。
『はっ……申し訳ございません!!私などが意見を申すなど!!』
『いや…良い……意見はどんどん言ってください』
サトゥルヌスは同時に、ファーインからすればこの城は、自分を強姦した者が住む場所で、もしかした幾人かは彼女にとって憎しみの対象なのかもしれないと気づいた。
彼女が、彼女の娘を虐待するのは良くない事だと思うし、あの娘はそんな目に合う罪があるわけではない。
だが、この城の者はどうか。
この男エルフはどうやら、ある程度王の側近のようだし、エルフになっているパンドラの見立てでは、年齢は400歳以上だろうとのこと。
それにこの男が言っていたエルフ王のこと、『最近は少々、女癖が悪くなった気がするが、元々成してきた功績が大きいから敬い従うべきだ』と、おそらくはファーインにとっては相容れない考えの者だ。
いずれエルフ王とは戦わなければならず、聞いている所業から考えると、殺す必要があり、レベル的にその役目は自分となるだろう。
俺は殺さなければならないのだ。
おそらくはゲームではないこの世界で、生きている人間種を。
ゲームっぽい世界の中で冒険が出来るということに少々浮かれていたサトゥルヌス——モモンガは、急にその事実を突きつけられて迷いが出た。
その迷いは、モモンガがいつか向き合わなければならない事実、殺人をするということを、もう少しだけ先延ばしにする選択肢を模索することに繋がった。
『ファーインよ……この男、お前にとって殺すべき者か?』
少なくともエイヴァーシャー大森林に侵入している時は、あくまで同僚的な物言いだった至高神様が、突然本来の神たる高貴な御言葉で話しかけてきたことに、ファーインの心臓は早くなった。
『わた…しは…』
『良い。試しているわけではない。お前の意思が聞きたいのだ』
『……はい。殺すべき…殺したいです。この男は、あの憎き者の側近として、私のことや捕らえられている他の女に対して慈悲の心など持っていなかった者の1人でございます……!』
『そうか…それでは、処分はお前に委ねる。だが、死体を残すのは好ましくない。死の直前にその魂を輪廻に戻し、速やかに別の生命として生まれ変わらせる…そうすることでもお前の憎しみを晴らしたことになるか?』
『はい…はい!勿論でございます!!私などのことをご配慮いただき…誠に…誠に感謝いたします……!』
一見するとそれはファーインの復讐という心を満たすために配慮したように見えるかもしれないが、結局は手を汚すことも、その理由も、ファーインに丸投げしたのと同じだ。
そして最終的には、自分にとって後味が悪くならないように、スキルを使うのだ。
『〈
HPがゼロになる直前に発せられたその言葉によって、エルフの男はその姿を鳥に変えて、エイヴァーシャー大森林の中へ飛び去って行った。
『……さて、スレイン法国へ一旦帰りましょう…〈
その日、エルフの王城では王の側近である古参の男が姿を消したということ、また、見張りの者からの報告で何らかの侵入者があったかもしれないという情報が共有された。
だが結局、件の侵入者も、消えてしまった古参の男も見つかることは無かった。
にもかかわらず少し遅れて報告を聞いたエルフ——玉座の腰を下ろし、白髪とオッドアイの瞳を持つその者は上機嫌な様子だった。
「若い女が2名か。そして余のアイテムにあった反応は明らかに時間を停止させたもの——強き子の胎となる者があちらからやって来るとは、実に良き日だ。父上が示された強き種として余の軍団を完成する日もそう遠くはないようだな」
側近を見遣ると、いつもの男エルフの姿が無い。
ああ、そういえば行方不明とか言っていたな。
名前は憶えていないが…まあ新たな強き胎が来るのであれば、そのような些事、どうでもいいことだ。
「余は気分がいい。慈悲をくれてやるからついてこい、お前」
そう声を掛けられたエルフの女は、暗い表情のままエルフ王の後について彼の私室に消えて行くのだった。
玉座の間に残された側近たちは、速やかに侵入者の調査に戻る。
彼らとて、今の状況が良いとは考えていない。
王が妃を複数持つことはおかしなことではないが、それにしてもここ50年ほどの王の行動は少しおかしい気がする。
近くの村々へ調査を出させ、肉体的、魔法的に優れている女を見つけては王城へ連れ去る様指示をしていて、本人意思とは関係なく子を成す行為を繰り返している。
それで子供や妃に愛情を注いだり、後継としての教育をするのであればまだわかるが、力や魔法の才能が無いと分かるや否や興味を無くし、次の女を探す。
そんな事を繰り返している。
以前は自らが先陣を切って森の中を駆け、悪しき存在を滅ぼし、統治も優れていたのに…今では愛用していた弓を装備されることも無くなった。
『王は優秀な後継を探しているのだろう。それが叶えば元の素晴らしき王に戻ってくれるだろう』
側近たちは皆、口には出さないがそう考え、王の命令に静かに従うのだった。
基本的には優しい鈴木悟さんは、人間状態で人を殺すことが出来るか悩むと思うのです。