オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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先に言っておきますが、南の大魔獣との遭遇はありません。


第1章 第11話 -大森林②-

 

「なっなんなのコレ!」

「あっ足が勝手に動いてるみてえだ!」

「わっ私はこんなに早く走れたのですね!」

「……」

 

フォーサイトとパラケル親娘の6人が、トブの大森林の林道を走破していく。

順番は、先頭にイミーナ、その右後ろにヘッケラン、さらに左後ろにロバーデイク、そしてそのさらに後ろの中央にアルシェ。彼らは平行四辺形の頂点のような陣形で、前後一人分の距離は3Mほど空いている。

加えてアルシェから5Mほど空けた後ろにパラケル、そのパラケルのすぐ後ろに最後尾のルゥオンが控える。

 

最初彼らは、歩いて森林を進んでいた。

しかしあまりにも遅い動きに業を煮やしたパラケルは提案する。

 

「カルネ村から、そう離れていない辺りでは敵も出ないと伺いました。どうでしょう、せっかく速度上昇効果と疲労軽減効果のあるポーションを飲んでいるのでもっと早く歩いては?」

ちなみに怪しまれないように、パラケルとルゥオンもポーション瓶に入った色を付けた水を飲んでいる。

 

ヘッケランが言う。

「確かにそうかもな…イミーナ、索敵、大丈夫そうか?」

 

「んー…確かにこの辺りでモンスターが出るってほとんど聞いたことないし、多少は精度落ちるけど少し走ろっか」

 

「…私も、魔法で警戒している。大丈夫」

 

「オッケー。じゃあみんな、私と同じ速度で着いてきて、きつかったら速度落とすから言ってね」

 

そう言った瞬間、イミーナは“ギュン!”と10Mほど進んだ。

 

「へ?」

 

イミーナが自身に起こった謎現象を理解する前に、他のメンバーも“ギュン!”と進んで、危うくぶつかるところだった。

 

「え?」

「なんです…今の?」

「……」

 

それからフォーサイトは少しずつ慣らしながら、今の速度まで加速した。

例えるなら、様々なRPGの中盤以降で一気にフィールド移動速度が上がるアイテムが手に入ることがある。

歩いていたら突然そういう状態になった、と言った感覚が近いかもしれない。

 

フォーサイトのアルシェを除く3人は、今までに体験したことがない状況にかなり戸惑いながら進んでいるが、アルシェだけは無言だ。

彼女は、パラケルと個人的な話をした関係で、彼がすでに自分の理解の外にいる可能性を受け入れていたし、カルネ村までの馬車の速度を体感していたので、何となく予想できていたのだ。

 

それよりも彼女にとって大事なことは、このスピードで進んでしまうと、魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての腕前をパラケルに見せる機会が減るのではという事だった。

要はアピールポイントを喋れないまま、面接がどんどん進んでいる状況だ。

 

一方のパラケルは、そんな彼女の心情など露知らず。これでもまだ遅いと考えていた。

 

フォーサイトやニグレドからの情報で、高い確率で森の奥まで入らないと高い経験値を持つモンスターが出てこないだろうと考えていたので、“何もない荒野”とやらまで一気に進んで拠点化し、そこで倒す価値のあるモンスターを探す算段となっていた。

“何もない荒野”については妖精の迷路(フェアリーズ・メイズ)の領域外であるという事がすでにニグレドから報告されていて、さっさと今日中にそこまで到着したいと考えながら歩いている。

 

『ニグレド、今のペースで進んだ場合、“何もない荒野”までどれくらいかかりますか?』

 

『はい、タブラ・スマラグディナ様。およそ2日半です。』

 

『なるほどありがとう。それではこれから移動速度を速めるから、強敵や怪しい領域がないか引き続き監視していてください』

 

『畏まりました』

 

 

ニグレドとの会話を切ると、その後はアルベドと状況を共有し、フォーサイトをさらに加速させる旨を伝える。

 

『という訳で、今日中に“何もない荒野”に着くのが目的ですので、後ろからこっそり支援魔法をかけて速度を速めます。万が一彼らがケガなどをしないように観察をしていていただけますか』

 

『承知いたしました、お父様』

 

 

タブラは無詠唱にて、集団上位硬化(マス・グレーターハードニング)集団上位加速(マス・グレーターヘイスト)を唱えた。

 

 

程なくして事故は起こった。

フォーサイトのメンバーは、全然疲れないうえに非常に快適に森の中を疾走していたので、気づかないうちに速度がかなり上がっていた。

そしてカーブになっている道を曲がった先にいた、 “悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”に直前まで気が付かなかった。

 

最初に、直前で気づいたイミーナがびっくりして飛び上がり避けようとしたが、飛び上がった足が“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”の顔にHIT。

直後に気づいたヘッケランが、腰の双剣を抜こうとしたが、間に合わずに双剣の柄の部分が、打撃を食らって顔が上を向いた“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”の喉にHIT。

ロバーデイクも腰のモーニングスターを構えようとしたが間に合わず、右手の肘が仰け反った“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”の脇腹にHIT。

三連撃を食らって吹っ飛んだ“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”だったが、やはり止まれず通り過ぎたアルシェは、パラケルに「アルシェさん、魔法」と言われて我に返り、『“魔法の矢(マジック・アロー)”』をとっさに唱えたら、水薬のおかげで上昇した魔法力のおかげか、いつもより太い矢が3本、目標を貫いて終了した。

 

タブラは最初のポーションを飲ませたり支援魔法をかける前から、フォーサイトのメンバーのステータスを解析していたのだが、特にポーションの効果が著しい。

確かにこの世界の住人に対しては、少々過剰ともいえる効果のポーションを飲ませたが、それにしても能力の伸びが大きい。

このことからタブラは以下のように考える。

ポーションや魔法薬と言ったアイテムは、アイテムのレベルが設定されている。この世界の人間は弱すぎてアイテムの方がレベルが高かったため、効果もレベルが高い方に引っ張られている。

つまり弱い人間に対して高レベルの魔法薬を使用すると、ユグドラシルの感覚よりも大きな効果が出るのではないか。

 

自身の中で、ある程度の結論が出たタブラは多少満足し、呆然と“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”だったものを見つめるフォーサイトに向かって気軽に嘘を言った。

 

「いや、すごかったですね。移動速度上昇と疲労軽減だけのポーションですが、効果が高まるように色々と混ぜた素材の相乗効果で、体の筋肉とかの動きも良くなっているのでしょうかね。さて、どんどん進みますか」

 

フォーサイトは、『じゃあなんで“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”に体が当たった時金属みたいな音がしたんだ』とか『なんでアルシェの魔法力まで上がっているんだ』とか色々と言いたげだったが、何だか考えるのが面倒になったのか、またすさまじいスピードで森の中を進みだした。

 

その後も何度かモンスターに遭遇したが、能力底上げもあって危なげなく撃破した。

そして夕方、日が暮れるギリギリ前には“何もない荒野”に到着した。

 

 

現在は、“何もない荒野”の最南端部でキャンプの準備を始めている。

普通、拠点づくりはもっと早い時間から始めて、日が落ちるころには食事を始めていたいところなのだが、今日は強行軍で1日(正確には半日)でトブの大森林奥地手前まで来たのであまり時間がない。

 

タブラは“自然の簡易テント(ネイチャーズ・シンプルテント)”で、ユグドラシル的にはほとんど使わない低質な宿泊場所を作成し、その後はフォーサイトを手伝いながら主にアルシェの様子を見ている。

理由は、彼女が“警報(アラーム)”などの警戒のための魔法のほか、いくつかの防御魔法をかけてキャンプ地の守りを固めているため、それらの行動が経験値に影響しているかを見ているのだ。

 

実はここまでの道のりで、フォーサイトのメンバーのレベルは皆1上昇している。

『あんなザコ達で…』と思ったが、後で確認したところ最初に遭遇した“悪霊犬の長(バーゲストリーダー)”などはフォーサイトとしてはかなり厳しい相手で、その後サクサク倒していたのも、いつもの探索に比べればかなりの好調と言えるペースらしかった。

加えて、経験値上昇の水薬(ブレス・エクスペリエンス・ポーション)で取得経験値も伸びている。

 

やはり先程考えたように低すぎるレベルによる急激な効果上昇か?

そうなると1本目のポーションの効果が切れる24時間までに検証できることはしておこうと、フォーサイトを確認していたのだ。

特に魔法を使うアルシェについては、『敵を倒すのではなく、拠点作成のために魔法を使った場合、経験値は入るのか』という点が気になっていた。

ユグドラシルにおいて、そのような行為で基本的には経験値は入らない。

例えば何かのチュートリアルとか、クラフト系のイベントとかで、達成に対する経験値ボーナスが設定されている場合は別だが。

タブラとしては、この“おそらくはゲームではない世界”での経験値の入り方が気になっているのだ。

 

結論から言うと、拠点作成のための作業では“ほとんど”経験値は発生していない。だが、“ほとんど”と言ったようにごくわずかには発生していた。

『やはりここは明らかにユグドラシルとは違うルールがありますね』

と一人タブラは考えるのだった。

 

一方のアルシェは、先ほどからパラケルにそれとなく見られていることに気づいているので、めちゃくちゃ緊張している。

ずっと試験官が張り付いて、全ての行動に対して点数をつけられている気分だ。

可能な限り丁寧に魔法をかけているが、それに意味があるのかは分からない。

緊張でだんだん気持ち悪くなってきたが、弱気は見せられないため気を引き締める。

 

ロバーデイクが皆を呼ぶ。

「皆さん、夕食出来ましたよ」

 

アルシェは少しホッとして、キャンプファイアーの周りに腰掛けるのだった。

 

 

***

 

 

「しかし…アレだ。なんというか、今日はすごい体験をしたな」

 

「うん、そうね。アタシ、自分の体がここまで動くとは思っていなかった」

 

「ええ、全くです。間違いなく人生で一番早く走りましたよ」

 

「私も…わざとではないけど魔狼(ヴァルグ)に蹴ってダメージを与えたのは初めて…」

 

フォーサイトの一同はスープにパンを浸しながら今日の移動と戦闘を振り返る。

 

「ええ、皆さんとてもいいチームワークでしたね」

 

パラケルの言葉に一同は再び苦笑い。

皆心の中では『いや、アンタ絶対変なもの飲ませただろ』と喉の上まで出かかっていたが、結果だけ見ればここまでの道のりは彼らのおかげで信じられない速度と成果だし、このまま表面上はお互い気づいていないふりをすることが、わずかでも恩に報いることだと認識していた。

実際は知らない間に支援魔法もかけられているのだが。

 

 

「さて明日なんだが、どういう風に動きますか?」

ヘッケランが少し気を取り直してパラケルに問う。

 

「そうですね、まずは皆さんが薬師組合から受けた依頼を終わらせてしまいましょう。ここに来るまでの道沿いに、どの種類のものも生えていたと思います。イミーナさん、そうでしたよね?」

 

「へっ、あ、はい。そうね。全てあったと思う。ていうか…今更だけど、すみませんでした。この依頼をするときに色々と…ね」

イミーナは、はじめパラケルに依頼をする際に、ある程度のブラフと情報隠匿をしたうえで交渉したことを思い出して言葉の最後が小さくなった。

 

「いや、パラケルさん。その件は言わなきゃいけないとは思ってたんだ。申し訳なかったです。ああいう感じで交渉するってのはオレの意見で決めたことだ。他の皆はオレの指示に従っただけで、ちゃんと謝らなければいけないのはオレだ」

 

そう言われてしまっては、アルシェもロバーデイクも何も言えなくなる。

頭を下げるヘッケランを見て、ルゥオンはいつもの柔らかな微笑みを浮かべている。

パラケルはというと、こちらも少し笑い言葉を紡ぐ。

 

「いえいえ、あの時言ったではないですか。それは分かったうえで私はこの依頼を受けましたし、交渉というのは時としてブラフも必要なものです」

 

パラケルがそう言っても、フォーサイトのメンバーは少し頭を低くして申し訳ないというジェスチャーを続けている。

 

「私は本当に気にしていないのですが、そうですね、あなた達の気が済まないというならば、一つ、私から忠告をすることでこの話はおしまいとしましょう。」

 

フォーサイトは顔を上げたが“忠告”という想定外の言葉に少し戸惑いの顔をしている。

 

「私は、どうやらこの中では一番年寄りの様だ。帝国に来るまでも長い旅をしてきました。その中で様々な仲間や敵と相対して、時には交渉もしました。そういう観点から言いますと、ヘッケランさん。あなたの交渉術はほとんどの場合、適切だ。先ほど言ったように、交渉には時には虚実も隠匿も必要ですからね。あなたはおそらく、その才能が元々ある。だからこれからもそのような交渉術を磨いていけば問題ないでしょう。ですが、あのような交渉をしてはいけないタイプの相手というのが2種類存在する」

 

「それは…?」

 

「一つは、非常に高い地位の肩書を持つ者。分かりやすく言えば皇帝や王族の方などでしょうか。彼らは同じ人間ながら、時に非常に気位が高い。合理的でないとしても気に入らなければ簡単にあなたの首をはねてしまうかもしれない。あるいは合理的な思考を持ち合わせていても、立場としてあなたの首をはねなければいけないこともある。そう言った場合、あなたはそう言った権力者からは逃げられないでしょう。まあ、このタイプは言われなくても分かっていると思いますが」

 

「…そうですね」

 

「もう一つは、非常に大きな“力”を持つ者。これはあなたに分かりやすい例というのを示すのが難しいですが、まぁ例えば難度300の人間とか、第10位階詠唱者とか、そういう逸脱した力を持つ者です。こういう者と会ったら交渉は意味をなさないかもしれない。逆にそれがその者の逆鱗に触れたら、あなたは問答無用で吹き飛ばされるでしょう。その場合良くてあなただけ、悪くてフォーサイト全員および関係者と言ったところですか」

 

「いや、難度300とか第10位階とか逆に想像つかないけど…まぁでも、言いたいこと分かりましたよ。なんか、何らかのペナルティ覚悟で謝ったのに、逆にアドバイス貰っちまったな…本当にありがとうございます」

 

パラケルの例えは彼らにはあり得な過ぎて、冗談にも聞こえたのか、その後夕食の団欒が再開した。

ただ、アルシェだけは、パラケルの例えは、なぜか全く“例え”に聞こえなかった。

 

 





次回、ちょっとだけトカゲが出ます。
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