オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「モッ…モモンガ様ァ…!」
「ああ!生きて至高神様にィ…!!」
「かみぃ…神ィ……!」
「うあああああああああ」
「あっあっあっあっあっ」
(沈静化)
その地獄絵図は、モモンガが自身をスルシャーナでなくモモンガであると名乗ったところから始まった。
いや、最初にスルシャーナと誤解されたところからすでに様子がおかしくなっていたのだが、それが誤解で、目の前の骸骨が至高神(笑)だと分かるや否や、11人の中年の男女は泣きわめきながら祈りを捧げ、良く分からないことをうわ言のように呟いたり、気絶したりしている。
余りの光景にモモンガが緑色に輝きながら呆然としていると、11人の様子は次のステージに突入した。
「ああ神よ告白いたします!わたくしめは神官として勤める以前、卑しくも食事のパンを自分の分だけ大きく切り分けたことがあります!ああどうか、この首をお刎ね下さい!!」
「神よォ!私は…私は……祈禱の時間に居眠りをしたことが数度あります!!どうか、どうか断罪を!!」
「私は、従属神たるミルンドール様の御姿に見惚れてしまいました…!どうか私の目を御潰し下さい!!」
「ああ…神よ…私は若き日に、妹の余りの可愛さ故、言い寄ろうとする男を幾度となく遠ざけた事がございます…」
(沈静化)
(沈静化)
モモンガはやっと理解した。
ファーインの反応は、この国の人間にとっては一般的かつ、何なら軽い方で、機関長などという、それこそ神のために安い給金で全てを投げ出して奉仕している様な連中の信仰心は、それはもう凄いことになっていたのだと。
精神的な限界を迎えそうになったモモンガは、パンドラに
『パンドラよ……どうしたらいいですか?』
『はッ!!まさに至高たるン~~モモンガ様の御威光に触れた者としてあるべき姿かとッ!!』
『そうじゃない!!何でこの人たち、急に自分の罪を告白しだしたの?!もう全然話進まないからどうにかしたいんだけど!!!』
『はッ!簡単でございますッッ!!ただ一言仰ればよいのです…全てを許すと!!至高なる神からの許しを得たものは救われるのです!!Deine Sünden sind dir vergeben!!』
(沈静化)
「…スレイン法国の機関長たちよ。私はお前たちの全てを許そう…だからもう泣くな。私の言葉を聞き、そして私の問いに答えるのだ」
「「「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」」」
モモンガの言葉を聞いた機関長たちは電撃でも打たれたように体をぴくんと跳ねさせた。
そして全員が整列し、正座となって首を垂れた。
11人の土下座を目撃し、そして言葉の通り涙もピタリと止めた者達の様子を見て、モモンガはもう一度鎮静化した後、『うわー…宗教って怖すぎるよぉーーー!』と心の中で泣いた。
それと、さっきパンドラが言ったドイツ語は知らなかったので、おそらくウルベルトさんかタブラさんが犯人だなと考えた。
***
「……ふむ、成程。永久評議員、5体かそれ以上の数の竜王、六大神の遺産、そして
モモンガは、11人が語るこの国の情報——それはこの国の持つ全ての秘匿情報と言っていい——を聞き出し、反芻する。
同時にその内容について、
既にナズルやファーインから得た情報に加え、より詳細な情報が手に入ったといっていい。
特に竜王が使うという
検証できないので現時点で真偽は不明だが、彼らが言うには
一方でワールドアイテムによる効果の一部も、
おそらくはネコさま王国の皆が持ち込んだと思われる【傾城傾国】——この国では訛って伝わったのか、ケイ・セケ・コゥクと呼ばれているようだが、その効果が竜王には効かなかったという伝承があるようだ。
この話を聞いたことで、一度はパンドラから回収していた【強欲と無欲】を再び装備させることにした。
また、後で【傾城傾国】も見に行こうと考え、ちょっとワクワクしている。
これらの事からも竜王がユグドラシルと何らかの繋がりがあるのではないかという疑いが深まったが、その疑いがさらに深くなる別の理由もある。
漆黒聖典に接触してきた白金の鎧が持っていた文書に署名があったツァインドルクス=ヴァイシオンというのは、どうやらアーグランド評議国の最高位の竜王であるらしい。
パンドラによれば、その白金の鎧の声色が、デケムの記憶の残滓にあった、2名のうちの1名と酷似しているとのこと。
従って、もう1名はもしかしたらそのツァインドルクスとやらかもしれず、そうなればデケムの記憶をいじったのは竜王である可能性が高いこと。
以上から、竜王とやらと接触し、その動機と共に聞き出す必要がある。
そして、これはパンドラにはおそらく分からないだろうが、モモンガにはその白金鎧の者が自分と同じユグドラシルプレイヤーである確率がやはり非常に高いと考えている理由がある。
それはデケムの記憶にあった、2名の者の会話。
『……そうですか……では…記憶を……すよ。うまくいくか…………ですけど……………』
『ああ……われのことを忘れ………れば、それでいい。デケムは……して………ているから殺すわけに…………』
『それでは、〈世界…………。……、概ね………したね。多少……ありそうで………』
『…欲王の……は残って……か?後々……理由を………ておく必要………』
『ええ、そういった……………は消えていません…。……のうちに……………う。イチノセ博士』
“イチノセ博士”と、確かに言った。
その名前は明らかに日本人。
そう呼ばれていたのは白金鎧の騎士とのことだから、それを喋っていたのがツァインドルクスかもしれないのだ。
だがまだ証拠は何もない。
ユグドラシルプレイヤーである可能性が高いため十分に警戒をする必要がある、ということが分かっただけ。
従ってこれからすべきことは情報戦。
AOGにとっては当たり前の戦法。
いかに情報を抜いてから戦いを始めるか———戦いは始める前に終わっている。
ちょうどツァインドルクスとやらは、スレイン法国の責任者とエルフ国の責任者、あるいはファーインを案内した者、つまりはミルンドールを呼び出している。
パンドラの説明によれば、ミルンドールがプレイヤーあるいはNPCであると疑われている可能性は低いが、明らかにこの世界では高レベル帯だったデケムを殺したのが本当にファーインだけの力によるのかは疑っているのかもしれないとのこと。
そしてアーグランド評議国へ向かう猶予として1年もあるのだから、それまでに情報は集められるだけ集めておきたい。
まず今すべきことは、この国、スレイン法国の実際の戦力や、ねこにゃんさん達が遺したと思われるユグドラシルの武器、そして行方が分からないとされているスルシャーナさんの捜索だ。
「…お前たち、情報の提供感謝する」
「かっ感謝など!!至高神様の御役に立てることはこの上なき幸福でございますれば、至高神様が感謝などと!!」
「よせ…恩には感謝を持って応えることは当たり前の事だ。これは人であろうと神であろうと同じ事。過剰な謙虚さは、時として不愉快となることもある…」
「……ッ!!」
モモンガの言葉に謝ることも出来なくなった『光』の神官長は、額を床にこすりつけたまま動かなくなった。
「さ…さて、お前たち。私はこれからこの国の現在の戦力について理解しておきたいと考える。この国に張られている結界を作り出しているアイテム、そして先ほど言っていた“巫女姫”なる存在を見せてもらえないだろうか?」
「はいッ!勿論でございます!!」
「ああ…それと、私がこの国へ来たことやこのパ…純銀の聖騎士のことは今この場に居る者以外には他言無用だ」
「畏まりましたッ!!」
「そして、これから私は、お前たちと共にこの国の様子を観察するため、人の姿となる。当然、その姿についても秘匿とし、また人の姿の時は決して神のように扱わない事。そうだな、同僚の神官のように話すのだ。敬語で構わないが変に遜ったり、神と呼んだり、様をつけたり、後、泣いたり土下座したり、そういうことは絶対にしない事。良いな?守れるな?」
「なッ…そのような試練…かッ…畏まりましたぁ!!」
「う…うむ。では…」
純白のローブを着た、白髪赤目の優し気な青年が目の前に現れると、11名は再び雷を打たれたように硬直した。
そして、勅命を守ることと、溢れ出しそうな敬意との板挟みにより、数名が顔を青くして倒れてしまった。
結局、サトゥルヌスに同行できるのは、最高位神官長のイジドールだけということになったのだった。
***
「…では、イジドールさん。次は巫女姫と呼ばれている、この国の高位魔法使用者と会わせてもらえますか?」
「はッ!サトゥルヌスさm…殿ッ!!」
「………」
サトゥルヌスことモモンガと、イジドールによるこのようなやり取りは、もう何度となく繰り返されている。
サトゥルヌスは、もうこれは、しょうがないものだと割り切り始めた。
それにしても、ここまでで見せてもらった国を守る結界装置とやらを見て確信したことがある。
それらはいずれもユグドラシルのアイテムで、サービス終了間近にネコさま王国のギルド内で見せてもらったものばかりだったこと。
最上位ギルドから見ればレベルは低いと言わざるを得ないが、広範囲、正確に言えば一ギルド全体を覆うような魔法防御結界を作り出すアイテムが作動しているという事実。
つまりやはり、ネコさま王国の皆は、この場所に居たのだ。
『すでに寿命で亡くなってしまった』
その事実が、モモンガにとってはやっとのこと、現実として理解できた気がした。
そして同時に覚えた違和感として、ギルドホーム全体を守る様なアイテムがなぜここにあるのかということ。
自分たちの状況から考えても、ネコさま王国の皆もサービス終了の瞬間に転移した可能性が高いとパンドラも言っていた。
だがそうなると、ギルドホームに設置していたアイテムをわざわざ外して携帯していたというのは少しおかしい。
そこで考えられるのは、ネコさま王国の皆は複数の設置型アイテムと共に転移した、あるいは、ギルドホームと共に転移した。
では、その答えが後者だった場合、今いるこのスレイン法国というのがネコさま王国のギルドホームを作り替えた存在なのか?
だがそれにしては外見や造りが違う気がする。
そのことをイジドールに尋ねてみると、恐れおののきながら次のような言伝えを語った。
曰く伝承では、六大神はここより北の地にその神の住処と共に降り立った。
そして当時、絶滅寸前だった人類を神の住処に匿い異種族やモンスターと戦ったが、戦いの末神の住処は壊れてしまい、助けた人間と共に現在のスレイン法国の場所まで訪れて建国をした。
国の中の防御結界を作る遺産は、嘗ての神の住処から持ち出したもので、現在は壊れてしまった嘗ての神の住処には年に一度だけ秘匿部隊が赴き、聖域として言伝えにある儀式を行うとのこと。
これらから考えると、やはりネコさま王国はギルドホームと共に転移したが、ホームは失われてしまって、アイテムだけを持ち出したと考えるのが妥当だろう。
「サトゥルヌスさァ…殿!もう少しで光神殿でございます!光の巫女姫がお務めを行う場所でございますッ!」
「あ…ああ、はい。ありがとうございます。巫女姫さんは6人いると仰っていましたよね?それぞれ別の神殿に居るということなんですね」
「はっ、はい。左様でございます!光の巫女姫は代替わりして間もないのですが、百万人に一人の適合者ありましたから、問題なくお務めを果たしておりますっ!」
「百万人に一人…確か第5位階まで使えるという話でしたよね?5位階まで使える人が百万人に一人ということですか?」
「あ、いえ、そうではなく、叡者の額冠を装備できる者という意味でございます!」
「“叡者の額冠”?アイテムか?そんな名前のもの、あったかな…?」
イジドールに促されて扉をくぐると、そこは、天井がステンドグラスのような様々な色のガラスで覆われた厳かな神殿で、部屋中を反射した天然光が眩しく照らしていたが、部屋の中にはおよそ調度品と呼べるものは何もなく、ただ、色とりどりの布によって編まれたた布が敷かれていて、その上に一人の少女が佇んでいた。
「なっ、ちょっ!裸!…見てない、見てないです!服着てください!!」
その少女の全身をしっかりと見てしまった白髪の神は、速やかに自分の目を隠し、顔を真っ赤にしていた。
なにせその少女は、両目が布で覆われて、頭には蜘蛛の巣のような繊細なサークレットをかけているが、それ以外は非常に薄い布一枚を纏っているだけで裸足である。
そして纏っている布の薄さは、服としては殆ど意味を成しておらず、その少女が上も下も、その布以外一切の下着も付けていないことが分かる位であったから。
神の言葉に、イジドールは不思議そうな表情を浮かべた。
「サトゥルヌさ…殿。巫女姫はお勤めのため自我はございません。その御役目が終わり、代替わりの時が来るまで、この状態のままでありますが…?」
「な…え…?どういうことですか……?」
人間状態なので裸を見ても沈静化は出来ません