オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
飲み過ぎには注意しましょう…
「くっ……
神竜が放った、何らかの魔法——それは灼熱の爆発だった——により、信じられないことに仲間たちは一撃でその命を失ったと思われる。
唯一、
仲間を蘇生させることが出来る暗黒邪道師のルミノスの姿だけが見当たらない。
もしかしたら彼は、いち早くこの神竜との実力差を理解し、姿を隠したのかもしれない。
そうであれば好都合だ。
ルミノスさえ生きていれば、この神竜が去った後、皆が蘇生できる可能性が高い。
だからエルフ王のデケムは、自身がこの後、もう一度神竜に殺されようとも、その希望だけは悟られないよう、一方で可能な限り情報を集めるため神竜を見据えて言葉を放った。
「神竜…いや白金。残念ながら私ですら汝には敵わないようだ…だが教えて欲しい。なぜ汝は私たちを裏切った?最初から殺すつもりであったなら、なぜリーダーと、我らと、共に旅をしたのだ?!」
神竜……その本性は仲間と思い共に旅をした“白金”。
“神竜”という存在の討伐に乗り出すと決めた時から予感はあった。
そしてその悪い予感は的中し、その場で待ち受けていたのは白金色の竜王。
瞬間、自分たちが“白金”と呼んでいた鎧はその動きを止め崩れ落ちた。
そう、“白金”とは神竜こと
そして本性となった竜王は無慈悲に、仲間たちに魔法を向けた。
「……裏切った訳ではないよ。リクの考え方次第では、こういう結末にはならなかったかもしれない。魔神を倒し終えて、私のこの真の姿を君たちに打ち明けて、その後は共に世界の秩序を守る…そういう未来もあったかもしれない」
「だが、リクはそれを選ばなかった……それだけのことさ」
その言葉の直後、竜王の爪が、まだ蘇生して間もないため充分に動けないデケムの身体を引き裂いた。
デケム・ホウガンが、正しきエルフの王として生きた時間はそこで終わったと言えた。
「…ルミノス。こちらは終わった。ギルド武器に問題は無いか?……そうか。ではこれから鎧はここに残して本体で帰るから待っていてくれ」
そして先ほどまで動かなくなっていた白金の鎧が立ち上がる。
程なくして、その場に転移してきた存在があった。
その者は、猫背でボサボサ髪の男。
その男は、仲間だった者達の死体を一通り見遣り、その場で待っていた白金の鎧に話かける。
「…お疲れ様です。さて、先ほど話したようにエルフ王のデケム・ホウガンだけは一旦は生き返らせて国に帰すべきです。魔法工のヴィンダールヴル=ルフェオル・トールドアイは国を出るとき、自分が居なくても国のシステムがまわるような摂政会なる組織を作ったと言っていましたので旅の途中で死んだとしても大丈夫でしょうが、エルフ国にはそのようなものが無いと思われます。単純に国が混乱するでしょうし、私たちの知らないデケムの子、つまりクローの孫が複数いて、それらに私たちの存在に気づかれた場合は面倒なことになるかもしれませんので」
「そうか…だが、それならば我々の存在に気づかれないよう、念のためデケムの記憶は消してしまうべきだと思うが。お前はそういった
「ええ、そうですか…それでは記憶を消しますよ。うまくいくか分からないですけど。なにせ、
「ああ。とりあえず我々のことを忘れてくれれば、それでいい。デケムはいずれにしても国へ帰して様子を見る必要があるから殺すわけにいかないのだろう?」
「ええ。それでは、〈世界記憶干渉〉…。ふむ、概ね記憶は消えましたね。多少消し残しはありそうですが、リクとか私たちに関連することは消せたと思います」
「八欲王の父親の記憶は残っているか?後々こいつの状況を調査したりするための理由を残しておく必要があるから、八欲王との繋がりは必要だと思うが」
「ええ、そういったかなり昔の記憶の全ては消えていませんよ。では今のうちに私たちは立ち去りましょう、イチノセ博士。デケムは蘇生ペナルティーでレベルダウンが起きたため、レンジャー関連の職業レベルを優先的に消しました。なのでレンジャーのスキルで私たちを感知される可能性は低いと思いますが、混濁した記憶の状態で下手に姿を見られるのは良くないです。他の仲間には、リクたちは“神竜”との戦いで相打ちとなったと見せるためにも、あなたも私もしばらくは拠点に帰って姿を隠した方がいいですよ。特にイビルアイはアンデッドなので不死です。彼女には今後、二度と会わないように気を付けるべきですね」
「そうだな。他の者の死体は処分しておこう……そういえばリーダーが持っていた剣はどうする?これはワールドアイテムなのだろう?」
「ああ、そうでした。ではそれは私が持っていっていいですか。人間形態を持っている私のほうが活用できそうですし」
その会話の後、およそ50年、
あいつの名は確か……何だったか?
忘れてしまったが、13英雄と呼ばれていたチームの時の名はルミノスだったか。
ともかくもあいつが言ったように、
だから今回の件は、久しぶりにあの白金の鎧を動かしたと言える。
例のデケムが殺された。
殺したのはデケムが拐かしたという、人間の国家、スレイン法国の女。
スレイン法国はあの盟約を結んだ六大神の子孫たちが住んでいる国で、その女もおそらく50レベル程度はあった。
だがデケムは70レベルを超えていたから、七彩の話では20レベルの差をうめるのは普通は不可能なはずである。
それが、この世界の人間が持つ特殊な力を持って可能となったのか、あるいは別の何か。
例えば認知していない他のプレイヤーあるいはその子孫が関わったか。
今回の呼び出しではその情報を得るのが目的だ。
七彩が言っていた予想によるとプレイヤーは100年おきにやって来るらしいから、リクが来てから50年程しか経っていない現時点でプレイヤーがやってきた可能性は低いと考えている。
だが、認知できていない子孫のケースは充分にあり得ると思った。
実際に同行していたというエルフの女は、もしかしたらデケムかそれこそクローの子孫かもしれない。
ともかくも実際に関係者にその話を聞いて、ある程度の情報が集まったら久しぶりに七彩に連絡を取って確認してみようと思う。
———この世界の秩序を守るため。
…いや、そうだったか?
秩序。確かにそうだ。
私は、父である竜帝が招いた災厄の後始末をつけるため、この世界を汚すプレイヤーを監視している……。
…いや、それもそうだが、七彩によれば特に要注意なプレイヤーがいるのだった。
あの世界で上位3位までに入っていたギルドはどれも強力なプレイヤーで構成されていて、既に滅ぼした八欲王についてはその子孫に注意すればいいが、それ以外の2位、3位。
特に2位の……アインズ……いや、ナインズ・オウン………??
そういった名前のギルドのメンバーには注意すべきだと七彩に聞いた。
ああ、最近引きこもっていたから忘れがちになってしまったようだ。
この件の後、もう一度七彩から情報を貰わなければ。
少なくとも50年後、次の100年の揺り返し前にはちゃんと準備をしなくては。
自身の塒でとぐろを巻きながら目を閉じていたツァインドルクス=ヴァイシオンは、薄目を開けると、その眼前にあのギルドのギルド武器がちゃんと存在していること、また50年ほど前にプレイヤーから奪った赤色の小さなブローチがその首元にある事を確認して、再び目を閉じようとした。
だが評議会の場に置いている分身たる白金の鎧に、同じく評議員であるオムナードセンス=イクルブルスが声を掛けたのに気付いた。
「ツァインドルクス=ヴァイシオン様、“金剛石”のオムナードセンスでございます。少しよろしいですか?」
「…ああ、オムナードセンス=イクルブルス。どうしたんだい?」
「はい。部下から報告がありました。例のスレイン法国からの使者ですが、2名の人間種の者がドラゴンズブレスの門をくぐりました。現在は人間種・亜人種用の宿に入った模様です」
「そうか…2名というのは、例の緑髪の女エルフと白髪の神官の男かい?」
「はい。そのようです。こちらから使者を出しますか?」
「いや…そうだな。じゃあ念のため、明日以降、評議会に顔を出すように伝えておいてくれるかい」
「畏まりました」
ツァインドルクスは、スレイン法国の使者が人間の国の国境を越えて、アーグランド評議国に入ったあたりからその様子を確認していた。
彼らは人間の国で調達した馬車を使い、人間としては一般的なスピードで首都であるドラゴンズブレスに向かってきていた。
鎧も含めて自ら赴いてはいないが、各街で対応した者の話によれば人間のほうは殆ど力を感じないが、エルフのほうはかなり強い気配がするという。
人間はおそらくスレイン法国の神官なのだろうが、やはりエルフのほうはデケムの縁者かもしれない。
だが彼らの旅の様子は一般的な人間のもので、竜王からすればひどく遅い足取りだったために、やはりそこまで警戒をする必要は無いかもしれない。
「いずれにしろ、会ってみないと何とも言えないね」
竜王は呟き、またその眼を閉じるのだった。
***
「なるほど、やはりアーグランド評議国の露店は亜人や異形向けのものが売られているのですね!」
「はい、その様ですね、ミルンドール様。私もアーグランド評議国に足を踏み入れたのは初めてですので知りませんでしたが、国境を越えてから人間は殆ど見ていませんから、やはり国民向けのものとなるとそうなるのでしょう。こちらの薬品は…説明を読むとこの国の方にとっては回復薬のようですが、人間にはかなり効果がキツイというか、逆に毒となってしまいそうですね」
大人しめの法衣のような服を着た白髪の人間の男が、緑髪のエルフの女に説明をしている。
その片眼鏡をした男は、どうやらこの国の言葉が読めるようで、エルフの女に露店に書かれている説明を読み、商品の解説しているようだ。
そんな様子を見ていた店主と思われる亜人の男が、その2名に話しかけてきた。
「おぅ、客人たち。エルフに人間なんて珍しいなァ。人間の兄ちゃんはここの文字が読めるのかい」
「ああ、店主の方ですか。ええ、私は文字を読めますので、文字が読めないこの方の通訳を兼ねているのです」
「そうかいそうかい。にしても、ホントに珍しいぜェ。俺ァこの店の店主になってから人間とエルフの組み合わせなんざ初めて見たヨ。あんたらにとっちゃこの国は安全でもないだろうに。観光かなんかかい?」
「いえ。私達は国の用事で訪問していましてね。この国の評議員の方に呼ばれて、私の国からの文書を持ってきたのですよ。評議会が行われている建物は、あの街の中心にある巨大な屋根の建物ですか?」
「おいおい国賓かよ!まあそうでも無きゃアンタらみたいのが来ることは無いのかもねェ。ああ、そうそう。あのでっかい屋根の建物さ。評議員にはドラゴンもいるから。それらが入れるでっかい建物が必要なんだよ。まあでも国賓なら金もいっぱい持ってるだろ?アンタらにとっちゃ珍しいモンもあるだろうから買っていってくれヨ!」
「ハハ、そうですね。国のお土産にいいかもしれません。ミルンドール様どうします?」
「買いましょう!とりあえず全て1つずつ、確保しておくべきです!!」
「あ…はい、そうですね…ですが踊らなくてもいいですよ、ミルンドール様」
その珍しい組み合わせのお客によって、『ンディルの道具店』のその日の売り上げは通常の約1か月分となり、店主のンディルは上機嫌になって店仕舞い後、酒場に駆り出してお気に入りの火酒を10杯ほどお代わりし、妻にしこたま怒られたという…。
宿に戻った2人に、宿の店主が羊皮紙を渡してきた。
それを受け取った人間の男は、片眼鏡をかけてそれを読むと、その内容をエルフの女に説明する。
「ミルンドール様、これはどうやら評議会からのお手紙ですね。街の入り口のところで門番の方にお伝えしましたし、我々がこの街に入ったことを評議員の方が察知してお手紙をくださったのでしょう。明日以降、昼までに評議会の中央門に来てくれと書いてあります。中央門のところで名前と用件を言えば中に通すと」
「なるほど、そうでしたか。それでは早速明日に向かいましょうか!では明日は遅刻しないように今日は早く寝かせてもらいますね!」
「ええ、ではまた明日、朝食の折に」
女エルフと人間の男は別々の部屋に消えて行った。
人間にはやや大きいベッドに腰を掛けると、白髪の男は無言で
『パンドラよ、聞こえるか?』
『はいッ、モモンガ様ッ!!』
『ちょっとボリューム落とせ、というかメッセージで大音量ってどういうことだよ…まあとにかく明日の作戦を決めておこう。しかし、まさかいきなり宿へ手紙を出してくるとはな。やはり街中では常に監視されていると考えて会話は引き続きメッセージで行い、口頭の会話はカモフラージュの内容でいくぞ』
『ハイッ、畏まりましたッ!!』
『ていうか、さっきの道具屋の時、ちょっと素が出てたぞ。気をつけろよ』
『ハイッ!未知のアイテムの数々を前に少し昂ってしましましたッ!後日鑑定して、聖殿の中に並べさせていただいてもよろしいでしょうかッ!!』
『はぁ…まあ構わないけど、一応俺にも見せてくれよ』
『勿論でございますッッ!!!』
『音量デカッ!!』
サトゥルヌスとミルンドールの旅は、敢えて魔法的手段は使わずに徒歩と場所のみでここまで移動してきた。
そして外見上ではあくまで、エルフの国の重要人物であるミルンドールと、法国の代表として文書を持ってきた若く優秀な神官というロールプレイをしている。
その結果、法国の国境を越えた後に立ち寄った街々では、普通の旅行者らしく露店や街の施設を覗き、サトゥルヌスが文字を読める魔法のモノクルを使って、ミルンドールに解説をしている体となっている。
これはこの世界では、エルフが人間や亜人の街に居ることは非常に珍しいということをイジドールに聞いたからである。
出発するときも大変だった。
モモンガの正体を知る機関長の全ての者が、『神のご同行、いや、万が一の場合の肉の盾となることをお許しいただきたい!!』と懇願してきたのだ。
だが、まだそれなりに会話が成立するイジドールですら、会話の端々に神との対話の雰囲気が見え隠れしているので、ロールプレイという観点から論外だった。
最終的にパンドラが機関長たちを説得し、2人はロールプレイをしながら旅に出ることが出来た。
そういう訳で、気を遣う他人が居ない旅に、サトゥルヌスことモモンガは非常にワクワクしていた。
スレイン法国の北に広がる人間の国の大きな街には『組合』と呼ばれる互助会のようなものが存在し、そこで腕の立つ者に対して護衛や調査、討伐などの依頼が出ていた。
どうやら北の人間の国は、ここ数十年で独立した国があるようで、一部の街では急速な発展が始まっていて、その影響で森を開墾してモンスターが多くなっている場所があるとのことだ。
まるでファンタジーの冒険者家業のような仕組みに、非常に興味がそそられ、この竜王に関するアレコレが片付いたら、ぜひ身分を隠して冒険をしてみようと考えていた。
またアイテムに関しては、スレイン法国である程度聞いていたのでユグドラシルよりも低レベルであるということは知っていたが、アーグランド評議国に入ってからは毛色が変わり、一部は共通しているアイテムもあるのだが、多くは未知のものであるのだ。
アイテムコレクターとしては、とりあえず見たことないものは1個ずつ確保して、後でじっくり鑑定したいと考えていたが、どうやらパンドラも同じ考えだったようで、何だか自分を客観的に見ている気がして恥ずかしくなった。
『さて、明日は本丸に突入だな…どうなるか分からないけど、まずは出来るだけ敵対せずに情報を抜けるだけ抜こう』
サトゥルヌスはそう心で呟くと、先ほど露店で買ったこの国の食べ物———何かの肉の串焼きと、果物を机に並べ、念のため鑑定して毒等が無いことを確認すると、それらを頬張るのだった。
「にしても、食べ物は本当に旨いよな……アンデッドだったら食べられなかっただろうから、
お互い、本当に敵なのか良く分からない状態での邂逅間近です。