オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
建物の入り口の門をくぐった後、サトゥルヌス達は
ミルンドールからの
だがスレイン法国の人間のレベルや、それこそアーグランド評議国内の街にいた者達と比較すればだいぶ高レベルであるので、やはり門番を務める者は選りすぐりの者が担当しているのか。
あるいは、サトゥルヌス達をある程度は警戒しているのかもしれない。
「こちらの扉の先です」
筋骨隆々で、いかにも戦士然とした
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
反射的にサトゥルヌスは礼を言ったが、眼前の巨大な扉をどう開けたらいいのかと考えた。
しかし次の瞬間、その扉は自動的に開かれていった。
「……ミルンドール様入りましょうか」
「はい、そうですね!」
あくまで今回の訪問は、スレイン法国に対する呼び出しであるので先頭を歩くのは法国の神官ということになっているサトゥルヌスである。
扉の中の部屋は非常に広大で、木で作られた道のようなものが部屋の中央付近まで伸びていて、そこにはテーブルのようなものが物が置かれている。
数歩歩いたところで彼らは気付いた。
部屋の中、壁際には4体のドラゴン。
そして中央のテーブルの向こう、正面側には1体の鎧の騎士。
それはデケムを倒した後、〈冥界下り〉の中で確かに確認した白金の鎧の者だった。
白金の鎧は素顔が見えないので顔の向きだけでしか判断できないが、少なくとも4体のドラゴンたちはこちらを強く見つめ、観察している。
そしてその視線は、どちらかというと後ろのミルンドールに集中しているように見える。
「スレイン法国の使者。わざわざ来てくれて感謝するよ。良ければこの机のところまで来てくれるかな」
白金の鎧が喋った。
その声はやはり、デケムの記憶にあった声に酷似している。
「分かりました」
サトゥルヌスはそう答え、部屋の中央まで歩を進める。
ミルンドールもまた、サトゥルヌスについて歩く。
「あなたが、ツァインドルクス=ヴァイシオン様でしょうか。私はスレイン法国の使者としてきました神官長補佐で、名をサトゥルヌス・トゥア・クインティアと申します。お手紙を頂いた件については文書にしたためてきましたのでお渡しします」
事前情報として、法国民は洗礼名を含めた3つの名を持ち、公式な場ではその3つの名を名乗るのが一般的であると聞いていた。
だが洗礼名を含めた残り2つの名前については下手に偽名を考えると違和感が出そうだったので、イジドールの名前をそのまま丸パクリさせてもらったのだ。
『そのまま使っていいですか?』とイジドールに聞いたところ、余りの畏れ多さに痙攣しだしたことは、サトゥルヌス的には忘れたい記憶になったので思い出さないことにしている。
「そうか、サトゥルヌス。私は…ツァインドルクス=ヴァイシオンではないよ。そうだな。私のことはストレンジと呼んでくれるかい」
「…畏まりました。ストレンジ様。では文書をお渡しします」
サトゥルヌスは、白金の鎧の物言いに少し違和感を覚えたとともに、“ストレンジ”という言葉に何となく懐かしいものを覚えた気がしたが、ともかくも文書をその白金鎧の者へ渡した。
白金の鎧の者は受け取った文書を軽く読む素振りを見せたが、その内容についてその場で深く吟味する様子はなく懐に仕舞った。
「この文書は後でじっくり読ませてもらうとするよ。この場では、例のエルフの王を討った者から話を聞きたかったのだが、直接戦った者は死んでしまったと理解している。これは正しいかな?」
「はい。エルフの王は我が国の戦士、ファーイン・ルジェナ・フーシェ様が討ち取りましたが、同時にファーイン様もその戦いで命を落とされました」
「ふむ…やはりそうか。だが正直なことを言うと、エルフの王は非常に強く、君たちの国の人間が彼を倒すのは難しいのではと考えていたんだ。そのファーインという者、あるいは同行者が何らかの力、例えば八欲王の力を利用しているということは無いか気になったんだよ」
「なるほど。そういった理由で、ファーイン様をエルフ国内で道案内したミルンドール様を呼び出されるような内容だったのですね。まず、これは断言いたしますが、ファーイン様は六大神様の正当なご子孫であり、八欲王の血縁ではありません。そして私が伺った話ではミルンドール様はエルフ国内の案内をしていただいた方で、そもそも憎きエルフの王を討ったのはファーイン様御一人です。ストレンジ様はご存じないかもしれませんが、エルフの王は暴虐を尽くした悪王であり、その被害は我が国にも及びました。ファーイン様もまたその被害者なのです。戦闘については私は正確には分かりかねますが、ファーイン様我が国では随一の使い手であり、そのファーイン様が命を犠牲にしてやっと討つことが出来たと理解しております」
そこでミルンドールも口を開いた。
「ストレンジ様、ファーイン様の戦いについては私が分かる範囲で説明します。ファーイン様は、ご自身が王城に囚われていたことがあったとのことで、王城内部のつくりを把握しておられました。王が私室に戻り休んでいる時間に合わせて突入し、ご自身の身体への負荷を顧みず、複数の武技を重ね掛けされました。いくつかは聞いた事が無い武技で、王を倒す為だけにご自身で編み出したものだと伺いました」
「ふむ……ミルンドール。出来ることならエルフの森を案内している時からの状況を詳しく聞いておきたいな。これについてはサトゥルヌスは関係のないことだろうから、君一人でもいいのでもう少し時間を貰えるかな」
ミルンドールはサトゥルヌスのほうをちらと見ると、少し考える素振りをしてからもう一度ストレンジと名乗った白金鎧に向き直った。
「ええ、構いませんよ!確かにこの話は私だけでも良いかもしれませんね。日にちを改めますか?」
「いや、君が良ければこのまま私についてきてくれるかな。ツァインドルクス=ヴァイシオンのところまで案内しようと思う」
その言葉に、サトゥルヌスは少し驚いたような顔をして声を上げた。
「ミルンドール様、よろしいのですか?」
「ええ構いません!ファーインさんの話は私でないと分からないですし、せっかくここまで来たのですからツァインドルクス様にも会ってみたいですしね!」
「そうですか。ミルンドール様がそう仰るなら構いませんが……ではその前に、ストレンジ様。スレイン法国の者としてこちらからも聞きたいことがあるのですが良いですか?」
「ん、なんだい?」
「聞きたいことは2つあります。まず1つ目はこの国の評議員の方々ですが、聞いた話では評議員は20名ほどいて、ドラゴン以外の種族の方もいらっしゃる筈。このような国家間の話、ドラゴン以外の方を除いた状態で進めて良いのですか?種族間不和の原因になるのでは?」
サトゥルヌスの質問で、その場の空気が少し変わった気がした。
特に周囲を取り巻く竜の一部から穏やかでない雰囲気が伝わってくる。
サトゥルヌスはそこで言葉を一度止めたが、ストレンジと名乗った白金の鎧は続きの言葉を促した。
「……とりあえず、もう1つの質問を先に聞こうか」
サトゥルヌスは周囲の雰囲気など、まるで気にする風なそぶりは見せず、「それでは」と言って言葉をつづけた。
「それでは、もう1つ。世界盟約では、我らスレイン法国は八欲王に力を貸さないという条件と引き換えに、竜王は八欲王の脅威があれば積極的にこれに対峙し、スレイン法国もまた可能であればそれに力を貸すと記されていたと理解しています。エルフの王はどうやら八欲王の子孫であると我々は理解していますし、ツァインドルクス様がこのように我が国を呼びつけたのも、それを理解していて警戒していたからでしょう。なぜ竜王は、八欲王の子孫を認知しながら放っておいたのですか?」
サトゥルヌスの2つ目の質問に、今度こそ周囲の竜からの殺気のようなものが飛んできた。
「貴様……!」
左側に居た竜——外見はワームや蛇のように胴が長く、小さな羽を持つ者が何かを言いかけた。
しかし、それをストレンジが手を上げて制した。
「…サトゥルヌス。君は優秀な神官なのだろうが、若いな。ふむ…そうだね、1つ目の質問については、世界盟約の話は竜王と君らが言う六大神の間で交わされたもの。他の竜王でない評議員にとっては本来は関りのないことだからね」
「そうですか。評議員と言っても種族ごとに情報の精度が異なれば、いずれ不和を招くことになるかもしれませんよ」
「…ふむ。一意見として受け取っておこう。で、2つ目だが、残念だけど私には答えることが出来ないな。そうだね、ツァインドルクスに聞いておこう。答えが得られるかは分からないけど」
「それはどうも。良ければミルンドール様にお伝えください。竜王がより早く動いていればエルフの国も乱れることは無かったでしょうから、エルフも被害者だと思いますし」
「……そうだね。では、ミルンドール、ついてきてくれるかい。それとサトゥルヌス。もし他にも質問があるのならば、この後、彼ら4名に聞くといい」
白金の鎧と、緑髪のエルフは連れ立って評議会の建物を後にした。
2名の者が遠ざかる音が消えて、十分な時間が経過した。
竜が入れるほど高い天井のその広大な空間は、その竜が発する剣呑な空気に支配されている。
特に強い殺気を放っている左側の竜とは反対側に居る、美しい青い鱗を持つ竜が声を上げた。
「…スレイン法国の使者、サトゥルヌスよ。特に質問が無いなら宿に戻っているが良い」
その言葉にサトゥルヌスは、やはり質問をする。
「その前に、お名前を伺っても?」
しばしの静寂があったが、その青い竜は口を開いた。
「…スヴェリアー=マイロンシルクだ」
その名を聞いたサトゥルヌスは、目線をまっすぐスヴェリアーに向けて再び口を開く。
「そうですか、スヴェリアー様。ではその前にもう1点だけ質問をさせてください。アーグランド評議国の永久評議員であるというツァインドルクス=ヴァイシオン様は、いつもあのような仮の姿で行動されているのですか?」
「貴様ッ先ほどから聞いていれば人間風情がッ!!!」
「止せ、ザラジルカリア!!」
部屋の中の空気が動いた。
それは、ザラジルカリアと呼ばれたワーム型の竜が、その身をしならせて白髪の人間を攻撃しようとし、寸でのところで攻撃を止めたからである。
「……サトゥルヌス。余り我々を刺激するような発言をしないでいただきたい。そして先ほどの質問、私は答えることが出来ない。先ほどミルンドールと共に出ていった鎧の者。彼はストレンジと名乗ったはずだ」
「…そうですか。ですが私とてただ文書を渡す為だけにここまで来たわけではないのですよ。世界盟約の話、竜王が守らないのであれば我々だけが愚直に守るというのは不公平極まりない。それに先ほど言ったように、今回の件はわが国だけでなくエルフの国にも影響があった話。責任を取れとまでは言いませんが、竜王側の御認識をはっきりと聞いておきたいのです。これはスヴェリアー様からお答えいただけますか。それともツァインドルクス…おっと、ストレンジ様伺った方が良いですかな?」
ドォォォォォォンンンンン!!!!!
「虫けらがァァァァ!!」
轟音は、ザラジルカリア=ナーヘイウントが今度こそ振り下ろした尾の一撃だった。
彼は
「愚か者が!」
4体のうちの一体、光り輝く鱗を持つ『
先ほどまで人間と話していた『
「オムナードセンスの言う通りだ…例え無礼で矮小な人間であっても、他国の使者を殺すなど有ってはならんことだ」
「す…すみません…ですがこの人間はツァインドルクス様を侮ったような発言の数々を…」
「はぁ…もうよい。私が蘇生させよう。尾をどけるのだ」
スヴェリアーがそこまで言うと、ザラジルカリアの尾の下から声がした。
「全く、野蛮なドラゴンだ。スヴェリアーとやらが言った通り、使者に手を出すなどおよそ知性が無い獣と同じだな」
その声に驚いたのは、その場に居る4体全ての竜。
ザラジルカリアが慌ててその尾を上げると、そこには先ほどまでいた白髪の人間はおらず、豪奢な黒いローブに身を包んだ1体の
「ザラジルカリアと言ったか。お前、60レベルにも達していないな。お前の攻撃は俺にはダメージを与えられないぞ」
「な……んだと?貴様、アンデッド…?!先ほどの人間はどこへ行った?!」
「ふ…さてな。もしかしたらストレンジ殿と同じからくりかもしれないな」
「な…何?!」
混乱する4体の竜のうち、おそらくは最も上位と思われる青い竜が口を開く。
「お前は先ほどの人間か?幻術…いや、その様な様子はなかった…転移か何かで入れ替わったか?!」
モモンガは、控えていた竜が思っていたよりも短気であったことで、想定よりも情報を引き出すことが出来なかったことを残念と思うとともに、少なくともこの場にいる4体の竜は自分やパンドラと比べて非常に弱いと理解した。
またパンドラの事前予想で、ツァインドルクスという竜がミルンドールだけに聞き取りをする可能性が高いと言っていたことが的中し少々驚いたと同時に、他の4体の相手から手を出されてしまったから、この場でこの4体の竜は葬ってしまっても良いだろうかとも考え、一旦パンドラと
『パンドラよ、そちらの状況はどうだ』
『モモンガ様』
『ん?』
モモンガは少々違和感を覚えた。
パンドラに
だが今回の返事の声量は非常に常識的かつ、まじめなトーンだったのだ。
『どうした、パンドラ。何かあったのか?』
『はい、モモンガ様。現在、ツァインドルクスという竜王の住処のような場所へ案内されたところです。やはりあの鎧は、ツァインドルクスが操っていたと思われます』
『そうか…それで、どのような会話をしているんだ?』
『いえ……会話はまだ始まっていません。ですが……』
言葉を言い淀むパンドラの様子に、今度こそ強い違和感を覚えた。
何か想定外のことが起きている可能性が高い。
『モモンガ様…ツァインドルクスという竜王はワールドアイテムを身に着けております。そのワールドアイテムは……餡ころもっちもち様がお持ちになっていた【
『………何だと?』
アイテム大好きパンドラさんが、それに気づかない筈もなく…