オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「…あなたがツァインドルクス様なのでしょうか?」
「ああ、そうだよ、ミルンドール。改めて自己紹介しよう。アーグランド評議国の永久評議員をしているツァインドルクス=ヴァイシオンだ」
白金の鎧は動きを止め、その代わりと言わんばかりに、白金の鱗を持つ巨大な竜がその首を持ち上げて言葉を紡いだ。
『白金の竜王
「確認させていただきたいのですが、“ストレンジ”様とはツァインドルクス様が外で御活動される時の御名前、と考えてよろしいのですか?」
「ふむ……そうだね、ミルンドール。そう理解してもらって構わないよ。だが、私がこの事実を君に伝えたように、君もまた私がこれからする質問に正直に答えて欲しいね」
「私が答えられることでしたら」
ミルンドールは、そう答えながら竜王の塒をこっそりと見渡し、幾つかの新たな情報を手に入れていた。
先ほど父上に報告した、餡ころもっちもち様のワールドアイテムだけでなく、この空間にはいくつかのアイテムがあり、しかもそれは叡者の額冠のようなこの世界のものだけでなく、明らかにユグドラシル産の馴染みのあるアイテムの気配がする。
そしてその中に明らかに異質のもの、それは竜王の巨体によって巧妙に隠されているが、明らかに高いエネルギー量——それは言い換えれば明らかにデータ量の多いもの。
ワールドアイテム程ではないが、
理由は分からない。
だが竜王は明らかにそれを
「単刀直入に聞こう。君はプレイヤー、あるいはプレイヤーの子孫ではないかな?」
「違いますね」
ツァインドルクスは、自身の持つ〈ドラゴン・センス〉により、直感的にミルンドールというエルフが真実を言っていると感じた。
同時に彼女が、間髪入れずに答えたことに違和感を覚えた。
もし何も知らなければ、『プレイヤー』という言葉は理解できず、それを聞き返すのが普通であったはずだから。
「…では、加えて聞きたいのだが、」
「お待ちください、ツァインドルクス様」
相変わらずなぜか強さを感じないそのエルフは、はっきりとした物言いで竜王の言葉を遮った。
「…何かな?」
「私は、おそらくですがツァインドルクス様が知りたいと思っていることの一部について有益な情報を持っています。私はそれをお伝えしても構わないと考えていますが、私も知りたいことがあるのです。なので私も質問させてください。お互い一つずつ、相手の質問に正直に答える、というのは如何でしょうか?」
「そうか……まあ私が知っていることであれば答えよう」
「ありがとうございます。それでは私から質問です。サトゥルヌスさんも言っていたと思いますが、エルフ王の蛮行はエルフの国においても被害が大きかったのです。スレイン法国とあなたが結んだという盟約について概要を聞きましたが、なぜあなたは王が八欲王とやら子孫と知りながら、放っておいたのですか?」
「ふむ…いきなり答えにくいことを聞いてくるね……だがまあエルフの国の住人からすれば迷惑だったというのは事実なのだろうね……理由はいくつかあるよ。まずは彼が中々強かったことかな。私であれば倒すことは出来ただろうが、他の評議員では難しかった。それと安易に彼を取り除けばエルフ国の統治が不安定になるだろうと思ったのさ」
ツァインドルクスの答えに、ミルンドールは怪訝な表情を浮かべた。
そして意を決したように、ツァインドルクスをまっすぐと見据え、言葉を発する。
「私は“正直に”と申しました……私は知りたいのです。あなた様がエルフ王に施した記憶改竄の真意を。なぜ、エルフの国に被害が及ぶような形で王の意識を変えられたのかを……!」
「!!アレは七彩の魔法で、どのような事態になるかなどは…!いや……君は……何故だ。なぜそれを知っているのだ?」
「それがあなた様の次のご質問ですか?私の質問に関してのお答えを頂いていないような気がしますが…いいでしょう。少なくとも、その事実をお認めになられたということで納得いたします」
緑髪のエルフからは、相変わらず強い力は感じない。
竜王がその気になれば、簡単に殺してしまえるとさえ思える。
しかしながら彼女は、明らかに何かを知っている。
それが何なのか、理解しなければならない。
ドラゴン・センスにより、少なくとも彼女はプレイヤーではないことは事実だと理解している。
だが誰かしらのプレイヤーとの繋がりがある可能性は濃厚である。
彼女が敵となり得る存在なのか、秩序を乱す存在なのか、それを確認してからでも排除するのは遅くないと、ツァインドルクスは感じた。
「では、ツァインドルクス様からのご質問に対する私の答えでございますね……それは私が、さる御方…人間の国、スレイン法国において神と崇められている御方に実際に会い、あなた様のことについてご助言をいただいたからでございます!」
「な…六大神が?!彼らは既に…いや……」
明らかに驚愕の表情を浮かべる竜王に対して、ミルンドールはいたって冷静に言葉を続ける。
「それでは私の次の質問をさせていただきますね。これもまた、スレイン法国の神からご助言いただいた…いえ、質問するようご指示いただいたことです!」
「指示……まさか、六大神の誰かが生きて…いや復活したのか?!」
「…まずは私の質問にお答えください。質問は…そのブローチです。私にご助言をくださったスレイン法国の神は、そのブローチは“プレイヤー”が持ち込んだ、超級のアイテムだと仰られました。ツァインドルクス様はそのアイテムをどのようにして手に入れられたのですか?私は、そういった強力な力が、またもやエルフ国やスレイン法国に災禍を齎すのではないかと考えております!!」
「な……このアイテムか……」
ツァインドルクスは驚愕した。
そうだ、アイテムの名前は忘れてしまったが、これは50年ほど前、“アンコ”と名乗るプレイヤーから奪ったもの。
六大神の誰かが、このことを知っている?!
ここまでのミルンドールの言葉、ドラゴン・センスによって観察したが、どうやら
そういえばプレイヤーのスキルには、アイテムを鑑定するというものがあった。
気付かないうちに覗かれ、アイテムを探し、鑑定をされたのか?
何のため?
いや…おそらくはコレだ。
ギルド武器。
スルシャーナが八欲王との交渉に赴く際に、万が一のために預かったこの武器。
何故かは分からないが、本能的にこのアイテムが八欲王に渡り、そして壊されるのはいけないと感じたために預かったもの。
それ以来私は、彼らのギルド武器をこの場所で密かに守り、そのために自身の本体が外に出ることが叶わない。
それを復活した六大神の誰かが、このエルフを使者にして伝えに来ているのか?
そう考えると、八欲王の子孫であったエルフ王に対する危機意識やエルフ国に対する災禍を防ぐという観点から、このエルフは利害が一致したために私に対するメッセンジャーを引き受けたと考えれば辻褄が合う。
少なくとも六大神たちとは敵対的関係にはなっていない筈。
七彩と話し合った結果、彼らとは八欲王という同じ敵を持つ者として、また、
その結果が『世界盟約』であったのだから。
だとすれば、このエルフ——メッセンジャーである可能性が高いミルンドールには、“ギルド武器”のことは伝えず、一方で私が敵対していないという事を伝える必要がある。
ミルンドールとしては、あくまでエルフ国、ついでにスレイン法国に被害が発生しないことを聞きたいのだろうから、誤った情報は出来るだけ伝えずに私が味方であると暗に伝え、なんなら八欲王の子孫であるエルフ王が取り除かれた今後のエルフ国も『盟約』の一部として参加してもらった方がいいかもしれない。
辻褄が合う解答を見出し、ツァインドルクスは冷静さを取り戻した。
そして、落ち着いてミルンドールからの質問に答える。
「ふむ……ミルンドール。大体のことは分かったよ。先に言っておくけど、私が次に君にする質問は決まっている。君を遣わせた“神”。復活したのか、生きていたのか、それは解らないけど、私にとってそれは喜ばしいことだ。だから、君に助言をしている“神”と会わせて欲しい。積もる話もあるからね」
ミルンドールは小さく頷いた。
「ああ、ごめんよ。先にこのブローチのことを言わないといけないね。安心していい。私はこのブローチを使って君の国やスレイン法国に災いを齎したりしないよ。むしろ私はコレが災いの元とならないように、君たちが知らない場所で八欲王のような危険なプレイヤーを倒し、その者が持っていたこのアイテムを守っているのだから」
その言葉を聞き、ミルンドールは下を向いた。
何故かは分からないが、僅かに震えているように見える。
そして、下を向いたまま、言葉を述べた。
「そう…でございますか」
そして、少しの間を開けて、ミルンドールは続く言葉を述べる。
「エルフ国とスレイン法国に災禍を齎さぬようご配慮いただいていること、理解いたしました。それでは私も…ツァインドルクス様のご質問に答えなければなりませんね。神を…私がご助言をいただいている神を、お呼びいたします。よろしいですか?」
「呼ぶ……そうか、君は
「そうですか……それでは」
その言葉の後、ミルンドールの姿は跡形もなく消え、そこに現れたのは1体の
***
少しだけ時を遡り、モモンガがパンドラからの
モモンガの精神は様々な感情が沸き起こり、そしてその昂りは一瞬で限界に達した。
奇しくも
一旦は冷静になったが、今にも再び限界に達しそうな感覚がある。
モモンガは、在りし日の会話を思い出していた。
餡ころもっちもちさん、そしてぷにっと萌えさんとの会話。
いや……まだだ。
まだ慌てるのは早い。
確認…確認しなければならない。
なぜ【
『パンドラよ…ツァインドルクスがそれを持っている理由として3つの可能性が考えられる……その①、何かの理由で、餡ころもっちもちさんがツァインドルクスに渡したパターン、その②、何かの理由で餡ころもっちもちさんが【
そこまで言って、モモンガは一呼吸を置いた。
最も考えたくない、しかし確かに存在する可能性を口にするため。
『………そしてその③、ツァインドルクスが餡ころもっちもちさんから、それを奪ったパターン…以上だ。他に可能性はあると思うか?』
『いえモモンガ様…私も大別すればその3つのうちのどれかと考えます』
『ああ…お前はツァインドルクスとの会話で、①から③のどのパターンか聞き出すことは出来そうか?』
『不確定要素が幾つかありますので、確実とは言えません。会話の中で多少賭けに出る必要があるかと考えます』
『構わん、多少強引でも構わない。必ず聞き出せ。そして速やかに俺に共有するんだ』
『畏まりました』
パンドラとの
「いずれにしろ、アンデッドのような存在が、この評議会に足を踏み入れて良いはずがない!!」
しかしやはりモモンガの〈上位物理無効化Ⅲ〉により、その攻撃は全く意味を成さない。
「…いい加減五月蠅いぞオマエ。今それどころじゃないんだ…〈
いつの間にかその
ザラジルカリアは魔法を受けると目が虚ろとなり、その攻撃を止める。
「折角だ。今のうちに情報を集めようか。ザラジルカリア…と言ったか。この国の評議員という制度について教えてくれ」
「ああ、友よ……評議員というのはこの国に住まう者の中で特に強く意見力が大きい種族の代表が務めていて、現在22名、我ら竜を除くと……」
「なっ、ザラジルカリア!貴様何を!!」
「今良いところだ。離れていろ。〈
「ぐっ…!何だこの壁は!!どこから出た!!」
他の竜が攻撃をしようと近づいても、その
様々な魔法を駆使して距離を取られ、引き離される。
評議室の間を壊したくないという思いが先行してしまい、3体の竜たちはブレスのような広範囲に影響を及ぼす攻撃をしなかった。
そうこうしている間に、ザラジルカリアはこの国の秘匿事項、評議員のことなど、知っていることを、その
「くっ、背に腹は代えられない!!炎系魔法を放つから、皆一旦離れるのだ!」
スヴェリアー=マイロンシルクがそう宣言し、他の2体の竜が距離を取った瞬間だった。
明らかに場の空気が変わった。
今までペラペラと喋っていたザラジルカリアが言葉を止めた。
それは、背後の
モモンガ視点ではそこまでレベルが高くないザラジルカリアであっても、生まれ持った特性として即死耐性を持っていたから、モモンガが意図せず溢れ出させてしまった闇色のオーラ——〈絶望のオーラⅤ〉で、幸運にも死には至らなかった。
まさにその時、モモンガの頭の中には自身のNPCの声が届いていたのだった。
『モモンガ様、ツァインドルクスから聞き出すことが出来ました……③でございます』
「……………」
「……餡ころもっちもちさんを……」
「………俺の大切な仲間を………」
「……許さん…………」
「絶対にィ……許すものかァアアアアアアアア!!!!!」
超絶賢いパンドラが、事態のヤバさを理解して、遊びを捨てた心理戦を仕掛け、証拠となる言葉を引き出しました。
モモンガさんブチ切れです。