オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
頭の中では途轍もない怒りと沈静化が繰り返し起きていて、精神がどうにかなってしまいそうだった。
だが幾度となく繰り返し沸き起こる怒りの中で、モモンガは少しだけ冷静に、そして非常に残酷に、ツァインドルクスという竜王を殺すための方法を考えることが出来た。
それはおそらく、その報告を聞いたのがアンデッド状態の時であったこと、そして、ブローチが餡ころもっちもちさんではない誰かが持っているという状況を先に知らされたことで、既に覚悟をしていた状態に近かったという2つの要因があったからかもしれない。
ザラジルカリアの記憶から、おそらく4体の竜は、餡ころもっちもちさんの件は知らない可能性が高いと分かっている。
だが、そんなことは知った事ではない。
こいつ等4匹を利用してやろう。
殺す。
必ず殺す。
殺し方はある程度シミュレート済みである。
なぜならば、こういう状況に陥った時のやり方というものは、すでに我らの軍師が考えていたのだから。
これは俺の戦いじゃない。
ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの戦いだ。
俺たちのギルドに喧嘩を売るとはどういうことなのか、思い知らせてやる。
「クズどもが………12秒だ」
「は…?」
「何を…?」
先ほどまでいた無礼な人間が突然消え、なぜかアンデッドが出現し、そのアンデッドが同胞を操り情報を抜きながら、魔法防御で近づくことが出来ない。
そこに来て、アンデッドが急に大声で叫び、今度は謎の言葉を呟く。
その場に居た4名の竜にとっては意味が分からなかったのはしょうがないことだっただろう。
しかしそのアンデッドの怒りは、もう取り返しのつかないところまで来ていて、4名の竜が交渉する余地などは残されていなかった。
「…12秒だけ時間をやる。その間に…言い残したいことがあれば聞いてやろう。〈
アンデッドが言葉を唱えると、その背後には巨大な時計の針が出現した。
意識が朦朧としているザラジルカリア以外の3体の竜は、その不吉な気配に本能的な恐怖を感じた。
そしてそのアンデッドは続ける。
「
瞬間、女の悲鳴が辺りに響き渡った。
その声は4体の竜の精神を貫き、生まれ持った即死耐性があるにもかかわらず、4体には言い知れぬ不快感が体を駆け抜けた。
見るとアンデッドの背後の時計の針が動き出している。
「何だ、これは?!どういうことだ?!!」
混乱する竜たちを、冷酷な眼差しで見つめながら
『パンドラよ、俺の姿になり、
『はっ、畏まりました』
『…』
モモンガは気付いた。
パンドラの声色がいつもと違うことに。
自分自身はアンデッドの種族特性と、この事態に対する事前の覚悟と、パンドラという頭脳のサポートにより、燃え上がる様な怒りはそのままながら、ある程度的確な対応をこなせている。
だがパンドラはどうか。
ナザリック最高峰の頭脳の一画(と設定した)である一方で、ここまでの旅で分かったことだが、認めたくはないがコイツは俺に似ている。
同じものに興味を示し、嘗ての俺のようにちょっと厨二病で、そして創造主である俺だけでなくギルメンの皆も大切に思っている。
怒っている…はずだ。俺と同様に。
だからこその、その声色だ。
『…パンドラよ』
『はっ』
『そいつは俺たちAOGに喧嘩を売った敵だ。俺は怒っている。絶対に殺してやる。殺した後はそうだな…例えば低位階の魔法で蘇生して、タブラさんになったお前に脳を吸わせて情報をすべて抜き取ってやる』
『はい』
『そしてこれからお前に任せる役割は、嘗て俺たちギルドの軍師、ぷにっと萌えさんが考案した作戦の一部だ。今はまだ、皆に再会できていないから人手が足りない。だから皆に擬態できるお前に任せるんだ。だから……お前の働きは俺たちAOGの一部なんだ。胸を張って、怒りをぶつけていい。我が息子よ!』
『かっ………畏まりました、我が父上!!!』
***
「スルシャーナ!やっぱり君だったか。ん…ミルンドールはどこへ行った?もしかして昔言っていた2人の位置を入れ替えるアイテムを使ったのかい?」
ツァインドルクスは、目の前に突然現れたのが、嘗て100年程にこの世界で同盟を組んでいた者と同じ
そして、その
確かこれは、戦士としての技量を上げることが出来る【竜の秘宝】を作成する前に試作品として作ったもの。
1レベルしか上昇効果が望めなかったが、この世界のアイテムとしては重宝するからという理由で彼らに渡し、その装備者であった者が寿命で死んだ後はスレイン法国で管理していたはず。
という事は、スルシャーナは既にスレイン法国に戻り、今の神官長たちと顔合わせをしたのだろうか。
「“戦士の腕輪”か懐かしいね。やはり君が復活したのか。しかしどうやって…」
ツァインドルクスがそこまで言い近づくと、
瞬間。
「〈
咄嗟に、ツァインドルクスはレジストをする。
元々高い耐性を持つ彼は、僅かな時間しか朦朧状態にならなかったが、それは間違いなく即死魔法。
「な…何をするんだ、スルシャーナ!」
その問いには答えず、
「〈
魔法エネルギーに包まれた、ふわふわと浮かぶ髑髏が出現する。
そのアンデッド——
「グッ!……な……なんだ、強化された氷魔法??君を怒らせるようなことをしたかい?!」
またしてもその問いには答えない。そして
「何をするんだ!止めろ!!」
殴打攻撃に非常に弱いはずの
続けざまに起こる、旧友と思っていた者からの敵対的な攻撃に、流石にツァインドルクスはおかしいと感じた。
「君は……スルシャーナなのか?」
その問い掛けに、
「さてな」
その声は、記憶の中のスルシャーナと異なる気がした。
どういうことだ?!
ツァインドルクスの顔に混乱の色が浮かんだ瞬間、
「なっ?!」
だが、次の瞬間には既に、純銀の聖騎士はその剣線を竜王の首筋に走らせた。
首筋には竜の血がにじんだが、大ダメージを与えるには至っていない。
「ぐうっ…貴様…誰だ?!」
剣線を走らせたのち、素早く距離を取ったその聖騎士は、そこでついに、はっきりと声を上げた。
「この世で最も至高なる、生と死を司りし
「生と死の神…?息子……?何を言って…」
竜王はさらに混乱したが、その純銀の騎士が懐から禍々しい何かを取り出したのを見逃さなかった。
「待て、貴様それは何だっ…!」
竜王が手を伸ばすよりも早く、その悪魔像は発動した。
数えきれないほどの悪魔が膨れ上がる様に召喚されていく。
竜王は、その悪魔達は自身には対処可能な強さであると感じた。
実際体を震わせただけで、何体かの悪魔は消滅したが、一方で、一部の悪魔は充分な“痛み”を自身に与える。
「ぐっ…!」
おかしい…消滅させた悪魔も、思った以上に硬かった。
悪魔との戦いなど、50年以上はしていなかったが、それにしてもこの悪魔の群れには、明らかに強い個体が混ざっている気がする…!!
竜王は一旦、周囲で暴れ回る悪魔たちを優先的に倒していくことにした。
なにせここには、“守らなければいけないアイテム”がある。
悪魔達がアイテムを壊せるのかどうかは分からないが、アレは守らなければいけない気がするのだ。
充分に距離を取って、再び
ツァインドルクスはそれに気づいているが、予想よりも強い悪魔の相手をしているためパンドラを追撃することが出来ない。
その様子を観察していたパンドラは、尊敬する父上に
『父上ッ!』
『ちち…いや、うむ、どうなった?』
『ハッ、ご報告いたします。死霊系魔法を放ちましたが、効果は対竜として考えると一般的かやや効果が薄いと感じました。これはたっち・みー様としての斬撃についても同様です。一方で召喚した
『ふむ』
『そして、悪魔による攻撃は明らかに効果が高いようです。また悪魔に対しての攻撃力も落ちていると感じました』
『よし…良く分かった。それではこれから俺は、お前に渡したアイテムを使って、俺とお前の位置を入れかえる』
『父上、お待ちを!ツァインドルクスは現在、召喚された悪魔にかかりきりですが、私という盾が無いのは危険でございます!!』
『お前の見立てでは、奴が広範囲攻撃系の
『…はい、お伝えした通り奴はおそらくギルド武器と思われるアイテムを守っており、それが壊れる可能性がある魔法などは使用しないと考えられます。悪魔への対処も広範囲魔法を使わずに物理で対処しております……ですが広範囲攻撃以外の未知の効果を持つ魔法を使ってくる可能性もあります!』
『安心しろ、パンドラ。俺がお前と入れ替わるのは、その場所を転移地点として登録することと、さらに魔法を1つそこで発動すること。それが終わったら、この評議会の部屋にすぐに戻る』
『…畏まりした、父上…ですが、評議室に居た4体の竜は?』
『安心しろ。既に奴らは……………』
数瞬後、アイテムにより、2人の位置が入れ替わる。
評議室でパンドラが見たものは、4体の竜……のアンデッドだった。
一方、パンドラと入れ替わったモモンガは、速やかに超位魔法を唱え、即座に課金アイテムを握りつぶした。
ツァインドルクスによる攻撃は元より、召喚されている悪魔もまた、召喚者でないモモンガを攻撃してくる可能性があるためだ。
悪魔達は、この場で唯一の敵対者であったツァインドルクスに群がっていたが、案の定、転移してきたモモンガに向かって来る者もいた。
幾分距離があったので、悪魔の手が届く前に魔法は発動する。
ツァインドルクスも、スルシャーナの姿をしていた何者かが居る位置で、積層型の魔法陣が展開されたことに気づいたが、悪魔の相手をしていたことで対処は遅れ、速やかにその魔法陣が消滅し、スルシャーナではない何者かの姿も見えなくなっていた。
モモンガは、というと、相変わらず餡ころさんを殺されたことに対して激しい怒りに塗りつぶされている状況だったため課金アイテムを握りつぶす瞬間に『昼飯代が…』などとは考えなかったが、一方で悪魔に群がられているツァインドルクスに対しては、今にも襲い掛かりたい衝動にかられ、必死にその感情を抑え込んだ。
「クソドラゴンが…必ず…必ず殺してやる……だがそれはもう少し後だ…餡ころさんの覚悟とぷにっとさんの策を無駄にはしない……まずは喰らえ…〈
課金アイテムで長い詠唱時間を短縮した超位魔法を発動した後、モモンガは速やかに元居た評議室に転移で戻る。
「父上!」
「パンドラ。ここにもやがて“シュオールのイナゴ”が押し寄せてくる。召喚者である俺と召喚モンスター扱いのアンデッドは攻撃対象とはならないが、お前は攻撃を受けるかもしれない。なので“神印”を与えておく」
モモンガはそう言うと、左手でパンドラの額に触れる。
すると
「では、様子を観察するとするか」
モモンガ複数のカウンター対策呪文を展開すると、ツァインドルクスの様子を魔法で覗く。
「なんだ?今度は?!サソリ?いやバッタか?!」
気が付くと周囲に大量の蟲が出現している。
バッタの様なサソリのようなその蟲は、悪魔とツァインドルクスの見境なく、その尾に持つ針で刺してまわる。
「グアッ!!」
大したダメージではないが、明らかに痛みを覚える。
そして恐らくは、その攻撃には毒や麻痺といった効果が付与されているようで、ツァインドルクスは完全耐性があるため全てレジストできる筈なのだが、何回かに一回かは毒を受けているような感触があり、そのつど自力回復をしている状態である。
このような、言ってしまえば雑魚による攻撃で、ある程度ダメージを受けているという状態に焦りを感じたが、周囲を見渡したツァインドルクスは、さらに焦りが大きくなる。
蟲達は、塒の中に自生している植物を凄まじい勢いで食い荒らしている。
薬草などの生物由来アイテムも同様に食い荒らされているが、一方で武器や鉱物などは被害を受けていない。
さらに蟲達の一部は塒の天井の穴や、ここに至るための道を通って外に溢れ出していく。
「ま…まさか!」
ツァインドルクスは塒の天井の穴から空に飛びあがった。
彼の予想通り、蟲達は塒から溢れ出し、周囲の樹々を食い荒らし、さらにドラゴンズブレスの街に広がっていく。
このままでは街の住人たちにも被害が出る。
少なくともこの国で最強との自負がある自分ですら毒を受けるような強力な蟲たちだ。
力を持たない住民は元より、評議員ですらダメージを負う可能性が高い。
「くっ…鬱陶しい!!」
上空に飛び上がったにもかかわらず、自分の身体に纏わりついてくる蟲達と悪魔の残り。
残っている悪魔はツァインドルクスからしてもかなり強いと感じる個体ばかりだ。
今までいた塒を見下ろすと、そこには植物などは全て食い尽くされていて、残るは集めていた非生物系のアイテムや武器などしかない。
「今は、下の方が安全か…いずれにしろこのままでは何もできない」
ツァインドルクスは、嘗てスルシャーナから預かった
何度目かの攻撃で悪魔は全て倒すことが出来たが、蟲達は倒しても倒してもキリがなく、少し離れたドラゴンズブレスの街中から住民の悲鳴が聞こえ出した。
「くっ……被害を最小限に抑えるしかないか……〈世界断絶障壁〉!」
半透明のヴェールが広がっていき、そのヴェールはツァインドルクスを中心に、ドラゴンズブレスの街の一部まで包み込む。
蟲達は全てヴェールの中に納まって、そこから先に出ていくことは出来ないようだが、ヴェールの中の住人、植物、動物などのあらゆる生物は、食い荒らされ、毒を打ち込まれ、苦痛にのたうち回っている。
「ほう……これは知らない魔法だ。これが
評議室の中でツァインドルクスの様子を覗き見しているモモンガは呟いた。
「父上!ツァインドルクスの様子…これはもしや、ぷにっと萌え様が仰っていた効果によるものでしょうか?!」
「ん?お前なぜ知って……ああそうか。ぷにっとさんと餡ころさんと話をしたのは宝物庫だったな。聞いていたという事か」
「はい、仰る通りでございます!!」
「ふふふ…我らの軍師、ぷにっとさんの予想の通りだ。検証もほぼ終わった。最後の仕上げに向かうとしようか……アインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売ったこと、深く、深く後悔させてやらねばなァ!!!」
あとから後から溢れてくる蟲達と終わらない格闘を続けながらツァインドルクスは怒りの声を上げる。
「先ほどのスルシャーナに扮していた者!!姿を現わせ!!お前は誰だ!!何が目的だ!!このアーグランド評議国の者達を傷つけるのを止めろ!!」
その声が木霊するのに応えるように、空中に巨大な闇が出現する。
そこから最初に姿を現わしたのは、4体の評議員たる竜——のなれの果て。
2体の【エルダー・ドラゴン・ゾンビ】と2体の【エンシェント・ドラゴン・ゾンビ】だった。
「な……まさか、スヴェリアー…?オムナードセンス?それに、ケッセンブルトにザラジルカリアか?!」
4体のドラゴンゾンビはその問いには答えず、続けて闇から出現した者——記憶の中のスルシャーナに似た
「御明察だ……ツァインドルクス=ヴァイシオンよ」
「何という事だ……お前は……少なくともスルシャーナではないようだな。誰だ?ミルンドールとも、どういう繋がりだ?……命弄ぶ者よ!」
「
「負けフラグ……?いや…何を言っている?」
「永久評議員だか、世界の守護者だか知らないが、お前は手を出してはいけない者に手を出した。それがお前の罪だ……餡ころもっちもちさんの仇を討たせてもらおう」
「餡ころもっちもち……アンコ……まさか…あのプレイヤーの…!」
ツァインドルクスの薄れ始めていた記憶が、一瞬霧が晴れたようにクリアになった。
そうだ、七彩が言っていた注意すべきギルド。
父が犯した罪の清算のために滅ぼさなければいけない危険な者達。
50年前に倒した【スクナミカミ】のアンコと名乗ったプレイヤーが属していたギルド。
コイツはおそらくその仲間。
何故揺り返しの100年のタイミングでない今に現れたのかは分からないが油断していた。
そうか…だから〈世界断絶障壁〉を超えて転移してきたのか。
この者もまた、“ワールドアイテム”を持っているという事。
殺さなければならない!
そして自身の種族特性として、アンデッドに対しての攻撃は強化される!
迷う暇はない!!
「……〈世界爆熱撃〉!」
空中で核熱の如き爆発が起こり、空が白く染まる。
幾重もの衝撃波が巻き起こり、それは、モモンガから命を受けて、その様子を離れて観察していたパンドラの目にもはっきりと見てとれた。
「ち…父上ッッ!!!」
ツアー戦、この回で終われませんでした。