オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
空は爆炎と高熱で白く染まった。
アンデッド化した者は元には戻せないという事を理解しているツァインドルクスは、後輩である4体の竜をも巻き込み、そのプレイヤーであろう
いつの間に4体をアンデッド化させたのかは分からない。
評議室に置いてきた、力を感じなかったスレイン法国の人間は神官であったから、それを成したというのは考えづらいが、状況からしてこのプレイヤーとは関係があるか、あるいはミルンドールのような、何らかの協力者だったのかもしれない。
いずれにしろ先に排除すべきはプレイヤーであると考えた。
しかしこの者はいつ転移してきたのだろうか。
アンコと名乗っていたプレイヤーは約50年前の転移者だった可能性が高い。
口ぶりから、このプレイヤーはアンコと同じギルドであると考えられるから、実は50年前には
そうだとするならば、この後、プレイヤーを捜索する旅に出る必要があるかもしれない。
この者のせいでアーグランド評議国の中枢部は破壊され、せっかく育ってきていた竜たちも殺されてしまった。
この国での統治実験はひとまず終わりにして、東の拠点へ戻り、彼らの育成と、彼らを使ってプレイヤーの捜索を本格化させて…
そこまで考えたところで空中の煙が晴れてきた。
しかし晴れた煙の中には、2対のドラゴンゾンビが佇んでいる。
そして、それらは、凄まじいスピードでツァインドルクスに突進し、その白金色の巨体に喰らいついた。
「な…なんだと?!」
身体を守る事よりも驚愕が勝り、ツァインドルクスは喰らいつかれながら体を硬直させた。
そして2体のドラゴンゾンビの背後から魔王の声がする。
「中位アンデッドは流石に破壊されたか…
その魔王は、あの
「な……何故だ?あの【スクナミカミ】ですら2発で倒せたというのに…!」
「ほう…餡ころさんをやったのはこの魔法か……つくづく……つくづく不快な奴だ……!!」
骸骨には表情など無いはずなのに、その
「くっ…スヴェリアー、オムナードセンス!やめろッ!!」
しつこく喰らいついてくる嘗ての後輩を激しく振り掃う。
だが、ドラゴンゾンビたちは傷つくことも厭わず、さらにツァインドルクスに纏わりつき、喰らいつく。
「何故だ…スヴェリアーですら私には遠く及ばない筈なのに…お前も…クソッ!!」
そうこうしているうちに、
怒りに燃えた表情の
『パンドラよ、俺は大丈夫だ。最後の仕上げに入るからお前は奴の背後に転移して、上位アンデッドの召喚をせよ』
『はっ畏まりました!』
「来い、〈アンデッドの副官〉よ」
闇の中から
「またアンデッドか……何?これは…どういう?!」
ツァインドルクスは新たに召喚された高位のアンデッドに驚いたが、それ以上に自身の背後に現れた新たな者———それは目の前の
「どういうことだ?!プレイヤーが…同じアンデッドが2人?!分身??」
「〈
2体のドラゴンゾンビ、2体の召喚された上位アンデッド、そして2人のプレイヤーと思しき
何故だ…アンデッドに対しては高い耐性を持っていた筈だし、蟲についてもこれほどダメージを受けるのはおかしい。
それに先ほどまで大量に居た悪魔からの攻撃も、想像よりかなり深手となっている。
そして明らかに高位のアンデッドに囲まれている現状———これは不味いかもしれない。
「ツァインドルクス=ヴァイシオン…不可解であろう。貴様の攻撃は思ったように通らず、蟲、悪魔、アンデッドからの攻撃によるダメージは予想以上に大きい」
「……く…何かしたのか…?」
「ハハハハハ……教えるわけがないだろう!!だがな、敢えて言っておく。この事態はお前自身が招いた!!お前が……餡ころさんを殺した瞬間から決まっていたことだ!!!」
******
———在りし日。
ナザリック地下大墳墓の宝物庫に3名のギルメンが集まっていた。
それは餡ころもっちもちとモモンガ、そしてモモンガに呼ばれたぷにっと萌えである。
ちなみにギルメンみんなのお気に入り、もふもふのペストーニャも、餡ころもっちもちにご同行中である。
「あ、ぷにっとさん。すみません、呼び出してしまって」
「いえいえ、ざっくりとは聞きましたが、面白そうだから大歓迎ですよ!」
「あー助かります。私だけだと適切なアドバイスできない気がしまして」
「いえいえ。で、餡ころもっちもちさんのワールドアイテムの件ですよね?」
「そうなの!このアイテムさ、6個特殊能力が設定できるんだけど、あと2個何にするか、良いのが思いつかなくてさー」
「ふむ…まずは既に設定した内容と、分かっている限り全ての【スクナミカミ】の種族特性教えてもらえますか?」
「おっけー!まずはね……」
「ふむ…隠し種族だけあってバフデバフ要員としては恐ろしく優秀ですね。これ以上そこを伸ばす設定はいらないかもですね…にしても〈常世渡り〉が強力ですが使用が大分制限されますね。これ使って負けたらワールドアイテムを確実にドロップしちゃう訳ですよね………ん、そうだ。いいこと思いつきました。6個の特殊能力って、自分に不利な内容も設定できます?」
「え、試してないなぁ。ちょっと調べてみるね……あ、できそうだよ。でもそんなことして意味あるの?」
「仮にですが、餡ころもっちもちさんが〈常世渡り〉を使って敗北するってどういうシチュエーションだと思います?」
「えー…〈常世渡り〉使って負けるって相当だよ?」
「私もそう思いますね。少なくともギルド戦クラスの戦いじゃないですか?」
「そうですよね。で、ギルド戦クラスの戦いで負けたら、我々アインズ・ウール・ゴウンとしてはどうしますか?」
「そりゃもうさっさと復讐に行きますよね」
「あはは、ヘロヘロさんとか嬉々としてギルド武器狙いそうだねー」
「ですよねー。なので、残りの2つの特殊能力は復讐目的にしちゃいませんか?」
「どういうこと?」
「仮に、我々が他ギルドに乗り込んで戦うとして、他ギルドにトドメを刺すのは誰になると思いますか?」
「まあ、そこはウルベルトさんか、たっちさんじゃないですか?」
「あとはヘロヘロさんかなー?」
「そうですね。それと場合によっては即死とか超位魔法がうまくハマってモモンガさんがトドメさすこともあると思いますよ」
「たしかに」
「まあ、私がトドメってのは余程運がいい場合ですけどね」
「それと、ギルド戦だった場合は、ヘロヘロさんはギルド武器破壊に集中させたいので、プレイヤーキルは、ウルベルトさん、たっち・みーさん、モモンガさんのいずれかになると私は考えます」
「そうかもですね」
「という訳で、特殊能力の1つ目は、悪魔系、蟲系、アンデッド系に対する弱体化を限界まで設定しましょう。そして2つ名は【
「うわぁ…えぐーい」
「いやぁ、奪ったワールドアイテムが一気に呪いのアイテムになるとは…流石AOGの軍師ですね」
「じゃあさっそく設定してみるね……うん、その3種族からのあらゆる攻撃や効果は元々の相性とか無視して200%に増加、逆にその3種族へのあらゆる攻撃は20%まで落とせるね…あと1つは特殊効果を見えないようにする…うんこれも出来るね」
「ふーむ…正直ちょっと不確定要素もありまして、弱体化対象を種族で縛った場合、召喚したモンスターはどうなるのかとか、後は悪魔とかドッペルゲンガーとかが擬態した場合、それはその種族扱いなのかとかは検証したいところですが、仲間内で検証するのはアレですし…まあ奪われないことが最善ですからね」
「確かに餡ころさんが最前線出るような戦い、これから先あるかって話ですね。Wikiに【スクナミカミ】の記事、結構載ってますし、敵からすると能力が未知の隠し種族がいるギルドに敢えて喧嘩売って来るってのは考えづらいかもです」
「いやー、でも最後だからやったれーってヒトいるかもよ?」
「あー……最後じゃなくても、やったれーって人ならうちのギルドにも何人も居そうですね」
「ま、とりあえずはそんな感じでいいですかね?」
「はい、ありがとうございます、ぷにっと萌えさん」
「ぷにっとさん、ありがとー!」
「いえー、私も未知のワールドアイテムを触れて楽しかったです。あ、ちなみにこのことはとりあえず3人の秘密にしておきましょう。起きるか分からない事ですし、この作戦は敵に事前に情報が行ってしまえば一発でアウトですからね。“兵は詭道なり”ということですよ」
******
『……ぷにっとさん。検証の結果、ドッペルゲンガーによる擬態は、どうやら種族はドッペルゲンガーのままとして扱われるようですが、召喚されたモンスターなどは、そのモンスターの種族が反映されるようです。“兵は起動なり”…でしたっけ?あなたの計略、そして餡ころさんの覚悟……俺が引き継ぎます!!』
魔王が絶望を宣言する。
「全てのアンデッドよ、持てる力全てを使い、ツァインドルクス=ヴァイシオンこと我らが敵、
同時にモモンガはパンドラにメッセージを繋ぐ。
『パンドラ、お前だけは【
『父上、しかし、お一人でアレに対峙し、仮にも御身に何かありましたら…!』
『パンドラ、安心しろ。俺にはギルドの皆がついている…それに、お前が離れるのは一時的にだ。俺が超位魔法を放ったら戻ってくるのだ』
『父上…畏まりました。どうかご無事で!』
ツァインドルクスは理解できない。
何故、自分にとって有利なはずのアンデッドに対して攻撃や
必死に藻掻きながら、何とかその中でも弱かった2体のドラゴンゾンビを下したところで、頭上の
「大盤振る舞いだ…喰らえ、
ツァインドルクスには理解できない。
おそらく炎系で爆発を伴う魔法。
高い耐性を持つはずの身体に、なぜこうも深々と刺さるのか。
「…プ…レイヤー…!」
体力が残り少ないと感じたツァインドルクスが見上げた先に居る、その魔王然とした
「く…させるか……〈世界爆……」
「遅いな。課金アイテムを舐めるなよ!」
「
範囲指定された、ごく狭い領域。
それはツァインドルクスとそれに群がる蟲達と召喚された2体のアンデッドが居る場所に放たれた超高熱源体の崩壊。
アンデッドに非常に有効なその一撃は、召喚された2体も共に飲み込み、また蟲達も蒸発していく。
モモンガは
そしてその灼熱の光が消え始めたところで
『…パンドラよ』
ツァインドルクス=ヴァイシオンは視界が白く染まり、この身体を得てから一度も感じた事が無かった痛み、熱さ、そして恐怖を感じていた。
身体が動かない。
分からないことだらけだ。
アレは誰なのか?
アンコというプレイヤーとの繋がりは?
ミルンドールとは何者だったのか?
アンデッドに見えたあれらの攻撃が、なぜこうも効き、そしてなぜ自分の攻撃が、こうも効かないのか。
竜の評議員は皆死んでしまった。
私も死ぬのか。
そうなれば、この国はどうなるのだ?
世界断絶障壁が消えれば、あの蟲達が国民を、国土を食い荒らすのか?
灼熱の白が薄れて、視界が少しだけ戻ってきた。
どうやら本当に、ごくわずかだが体力が残っている。
逃げるべきか。
いや、せめて蟲達が国民を食い荒らさぬよう何か出来ることは…
だが視界が戻った瞬間、目の前にはさらに未知の者が現れた。
それは、ぶよぶよとしたピンク色の肉体が薄いアーマーを着ている存在。
手には短剣を持ち、その怪物は短剣に禍々しいオーラを凝縮する。
「スキル・〈アンラック・スピアー〉!!」
その声は……そうだ。
50年ほど前に倒したはずのプレイヤー、アンコと名乗った者と同じと感じた。
ツァインドルクスには分からない、思い出せない。
何故、その怪物——【
怪物の一撃によって最後のHPが消えゆく中で、ツァインドルクスはアーグランド評議国の行く末を案じた。
「プレイヤー…なにも理解できないが…私は負けたのだな…だがアーグランド評議国の国土と国民はお前たちの仇ではないはず…貪る蟲達は退かせるべきだ…」
その様子を見ていた
「確かに道理だな…だが評議国…評議国か。お前の罪は重い。この国の国民に罪はないかもしれないが、お前が作った評議国という形は、俺が壊してやる。それをもってお前の罰としよう。そして安心せよ。〈
そこまで言うと、その
その姿は白髪で赤目、神聖な白い衣を纏う神官の若い男。
「サトゥルヌス…君が…プレイヤーだったのか…」
サトゥルヌスは、ツァインドルクスの呟きには答えず、最後の断罪を告げる。
「クラススキル・〈明けぬ夜・沈まぬ太陽〉発動……この国において“評議員”の存在を【禁止】する。ツァインドルクス=ヴァイシオン、最後に俺の真の名を伝えておこう。俺の名はモモンガ。お前が殺した餡ころもっちもちさんと同じギルメンのモモンガだ」
ツァインドルクスのHPが消滅した。
その竜王の身体が光り輝く。
しかしその瞬間、ツァインドルクスの精神は今までにないくらい澄んだものになっていく。
まるで長い間かかっていた靄が消えるような。
混ざっていた不純物が消えて、記憶を正しく取り戻す様な。
…モモンガ。
その名前が彼の、消えゆく意識の狭間で何度も反響する。
そして決定的な言葉を口にする。
「……モモンガ……ナインズ・オウン・ゴールの……スケルトンメイジの、モモンガ…か?」
いつもお読みいただき本当に感謝です。
来週からまた忙しくなるので更新頻度落ちるかもですが、引き続きよろしくお願いいたします。