オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

171 / 178
キリの問題で長くなってしまいました。

この20話で、スレイン法国に起きた過去のことと輪廻聖典の説明を全てしているつもりです。


第7章 第20話 -神の眠る処-

 

『第1問。 ルファスの性質と性格は?』

 

 

「………は?」

 

モモンガは思わず声を漏らした。

黒い棺のような部屋の壁に、ポップなフォントの日本語が浮かび上がったのだ。

 

暫く呆然としていると、問題?の横に数字が浮かび上がった。

数字は“20”から始まり、だんだんと数が減っていく。

 

おそらくは制限時間なのだろう。

 

「あ……えーと……“賢く愛情深いが、寂しがり屋”か?」

 

 

 

モモンガは在りし日に、スルシャーナに嬉々として見せられたルファスのフレーバーテキストを思い出しながら答えた。

 

すると、モモンガの回答を受けて、壁の日本語は消え、大きなマル印が浮かび上がった。

 

 

「正解という事か…?」

 

 

モモンガ呟くと、マル印が消え、再び日本語が浮かび上がる。

 

 

 

『第2問。パンドラズ・アクターの趣味は?』

 

 

「げ」

 

 

モモンガから素の声が漏れた。

そして、このクイズを作った人物が誰だか瞬時に分かった。

 

『ほぼ確実にスルシャーナさんだな…』

 

パンドラのフレーバーテキストを見たことがあるのはAOGのギルメンと、スルシャーナ。

一方でルファスのフレーバーテキストを見たことがあるのは、おそらくネコさま大王国のギルメンと、モモンガ、そして当時のNPC見せあいっこで、興味を示して一緒にお邪魔したタブラと3人娘だけのはず。

 

スレイン法国が、ネコさま大王国のギルメンたちが作った国なのはほぼ確実だから、そうなるとこれはスルシャーナさんが作ったギミックだろう。

 

なぜ、こんなことをしたのか。

 

考えられるのは、この中に入る者を制限する必要があったから。

そして中には、ネコさま大王国のギルメン以外にはAOGのギルメンにしか共有したくない何らかの秘密があるという可能性が高い。

 

 

「はぁ……“マジックアイテムを磨き、整理し、語り、愛でること”だ」

 

 

壁の表示が再びマル印になる。

 

 

 

そこから数問、嘗てモモンガたちがネコさま大王国のギルドホームのお邪魔したときに交わされた他愛ない会話で話した内容をベースにした質問が続く。

 

モモンガは『やはりか…』と思い、第9問目に差し掛かる。

 

 

 

『第9問。モモンガさんのリアルの自宅住所のマンションは何号室?』

 

「……嘘だろ…………102号室」

 

 

壁には大きなマルが写し出された。

 

話した…確かに話した。

1階だから防犯の面で問題があるけど安かったとか、階段上がらないで済むから疲れた日は楽だとか、そういう話をした覚えがある。

 

スルシャーナさん…何で覚えてんの…?

 

 

 

 

『第10問。モモンガさんがオフ会で実際に会ったギルメンの女性の中で、正直一番タイプだなと感じたのは誰?』

 

「フゥン!!スルシャーナ!!バカ!!」

 

 

ああ思い出した。

女性メンバー抜きの何人かでネコさま大王国に遊び言った時、そういう話になったことがあった。

ペロロンチーノさんの口車に乗って、言わなくてもいいことを言ってしまった記憶がある…。

 

 

心の中のペロロンチーノが満を持してサムズアップをしている。

 

『いやぁーモモンガさん!やっぱこういう話はネコさま大王国(よそのギルド)でするに限るねー!!AOGで話すとさぁ、モモンガさん、ギルマスとしてある姿っぽくなっちゃうから全然情報開示しないじゃん。でもそのパターンはオレ的に複雑だなぁ。友人が義理の兄になるってエロゲーでは…』

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

『グエ!』

 

 

 

在りし日の記憶同様、キラキラするバードマンの心臓を掌握して朦朧状態にしたところで、モモンガため息をつきながら回答する。

 

 

「はぁ………■■■■■■さん…です」

 

 

 

壁に一際大きなマル印が写し出されると、そのマルが消えるのと同時に、壁の中央に扉が現れ、入り口が開く。

 

モモンガと、ここまで空気を読んで沈黙していたパンドラズ・アクターはその扉をくぐり、秘匿されたこの聖殿の真の最奥部に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

そこは室内であるにもかかわらず、静かな森の中の開けた一画のような場所であった。

 

足元には地面の上に苔のようなものと僅かに雑草が生えていて、周囲には蔦が絡まった樹々が茂っている。

 

中央には石で作られた祭壇のような場所があって、中央にはアストラル系が装備できる防具が幾つか置かれている。

 

モモンガが歩を進め祭壇の手前まで来ると、防具の上部につむじ風のようなものが起こり、やがてそれは形を成していく。

 

それはアストラル系アンデッドの追随する霊的存在(フュルギャ)

アンデッドであるが所属特性として〈ドッペル〉というスキルを持ち、二重の影(ドッペルゲンガー)ほどでは無いが他のモンスターの姿を模倣できる。

 

奇しくも、他のギルメンが逝ってしまった後、スルシャーナは寂しさを紛らわせるために、最初の頃はギルメンの姿を模倣させたりしていたが、モモンガはそんなことは知らない。

 

100レベルのルファスは、ガチビルドではないものの、アストラル系という種族的な特徴からも、この世界の人間には間違いなく脅威であるだろう。

 

始めモモンガは、スルシャーナさんがルファスを封印した理由が分からなかった。

ルファスに国の守りを命じておけば、ある程度の脅威からは守れたはずだと考えたから。

 

しかし、スレイン法国の歴史を神官長たちに教えてもらい、“魔神”という存在について聞いたときに、スルシャーナさんがルファスを封印した理由が分かった気がした。

もし仮に彼女が魔人化してしまったら、そしてもしその時、彼女を止めることが出来る者が居なかったら、この国は滅んでしまうと考えたのだろう。

 

そういう意味でモモンガは少し覚悟を決めてルファスと対峙する。

 

モモンガからすればネコさま大王国のギルドホームで何度も見た存在だったが、ルファスが、他ギルドのプレイヤーに対してどのような反応を示すか見当がつかなかったからだ。

 

 

 

ルファスは形を成し、ゆっくりとその大きな目を開く。

そして、その大きな瞳にモモンガが映りこむ。

 

 

 

「…アア、モモンガさまだァ!マスターの言った通り、やっぱりマスターはすごいなァ!!」

 

「へっ?」

 

 

意外なルファスの反応に、モモンガはキョトンとする。

 

 

「モモンガさまァ、マスターのクイズで入ってきたんだよね?あのね、マスターに言われてるの。モモンガさまが起こしてくれたら、モモンガさまにボクの記憶を記憶操作(コントロール・アムネジア)で読めるだけ読んでって言ってって」

 

「え…?スルシャーナさんが?えと…俺が、お前の記憶を読めばいいのか?」

 

「うん、そうそう!お願いお願い!」

 

「ん…?うん、良く分からないが分かった。じゃあ始めるぞ、〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉」

 

 

モモンガはルファスの頭に手を翳し、彼女の記憶を遡り始めた。

この魔法は、読むだけであればある程度の時間は遡れるが、そうであってもスルシャーナさんが居たと思われる350年前まで遡れるか分からない。

 

そう思ったが、ルファスの記憶には、すぐにスルシャーナが現れた。

そして、スルシャーナは明らかにモモンガに向けて話をしている。

 

懐かしい気持ちと、驚きと、そして大きな後悔を覚えながら、モモンガはその記憶を読んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

———モモンガさん、久しぶりですね。

 

って言っても、モモンガさんはこの世界に来たばかりかもですね。

この世界では記憶操作(コントロール・アムネジア)の燃費が大分悪いので、できるだけ手短に必要な事だけを話します。

 

まず、今僕はこの世界に来て100年と少しの時間が経っています。

僕以外の一緒に来た皆は、もうすでに寿命で死んじゃいました。

僕や皆がなんでこの世界に転移してきたのかは分からないけど、どうやらこの世界は100年おきぐらいの周期でユグドラシルのプレイヤーやNPCが転移してきているようです。

この情報は、この世界の竜王という存在であるツアーというドラゴンに教えてもらいました。

 

ツアー達は、はっきりとは教えてくれないけど、おそらく彼もユグドラシルのプレイヤーっぽい気がする。

彼はおそらくユグドラシル基準で言えば90レベル位の存在で、だけどドラゴン種だから非常に強く、戦ってもお互いが傷つくだけだから僕たちは盟約を結んだんです。

まあ、完全に信用できるという訳じゃないけど、そこはお互いさまって感じかな。

 

たぶんモモンガさんも、彼と会って僕たちのことを話せば少なくとも表面上は友好関係を築けると思うよ。

あるいは、ここに入ったってことは、もう会ったのかな?

ツアーは最近、ここから北西の方角にアーグランドという国を作って、そこで責任者みたいなことをしてる。

モモンガさんが来たのが、今の何年後か分からないけど、彼らは不死身に近いし、この世界では殆ど最強に近いからたぶんまだその辺に居ると思う。

このスレイン法国の人たちは、何だか僕たちのことを神様みたいに崇めてるけど、アーグランドとは盟約である程度友好関係を結んだと説明しているから、誰かに聞けば教えてくれると思います。

もし何らかの理由でギルド武器だけ手に入れていて、彼に会っていないなら、会いに行ってみてください。

 

もうこの国にはプレイヤーは僕しか居ないから、守りの観点で言えばより安全だと思って、うちのギルド武器はツアーに預けた。

今更アレを壊されたところで、僕たちのギルドはもう崩壊しているから、設置場所から移動できなかった豊饒の月(ナンナ)がむき出しになるだけだし、既にこの世界の人が簡単には近づけないように設定してあるから、ギルド武器はこの場所に入るための鍵でしかないしね。

 

次に、僕たちが来た100年後、だいたい今から半年前に、僕たちの次のプレイヤーが転移してきました。

彼らはあの有名な世界1位のギルド、あの天空城の人たちで、最初は僕たちとも、ツアーとも敵対していなかったんだけど、この世界に来て1か月後に、彼らは大陸南端に居た竜王の一体である、千刃の竜王(ソードマスター・ドラゴンロード)を倒した。

その竜王はどうやら、ツアーの仲間だったみたいで、彼らはツアー達と敵対してしまって、その後盟約のせいで結局僕たちとも敵対状態になってしまった。

 

もうこの国にプレイヤーは僕しかいなかったから、まともに戦って勝てる状態じゃないと思ったし、彼らがスレイン法国に攻めてきてしまった場合、多くの国民や、ねこにゃんさん達の子孫にあたる人たちが死んじゃうだろうから、僕は表立って敵対したくないとツアーと話したんです。

 

ツアーもある程度は賛成してくれた。

ツアーとしても真っ向勝負をすれば倒されるリスクも高いことと、彼らのほとんどは人間だから100年も放っておけば寿命で死ぬだろうと。

 

ツアーが止めても戦いを挑んでしまう竜王も居るけど、きっと彼らは倒されてしまうし、あのギルドにすればそれだけでも、かなりの数の竜を倒すことになるからそれで満足するんじゃないかと。

賢い竜はほとぼりが冷めて、彼らが寿命で死ぬまでの100年隠れているつもりだと教えてくれた。

 

だけど、唯一の懸念はギルドの中のエルフ種の男。

彼は100年後も生きているだろうし、ワールドチャンピオン職を取っているから、彼一人でも竜王を倒せるかもしれないということ。

 

悩んだ結果、僕は彼——クロー・ホウガンさんとこっそり会うことにしました。

そして彼から色々なことを教えてもらった。

 

まず、彼のギルドは、彼も含めてアーコロジーの富裕層の子供たちが、元々のプレイヤーから購入したアカウントだったという事。

そしてクローさんも友達から誘われて参加した結果、この世界に転移したらしい。

 

彼を除く7人のプレイヤーはとてもワガママで、正直クローさんもついていけなくなっているが、皆アバターが非常に強いため、下手に反対意見を言うと仲間内で殺し合いになるかもしれず、ギルマス権限の者に従っている状態とのこと。

 

そして竜王もまた、何人かはアーコロジーの富裕層が転移してきた存在で、ギルマス権限の人は千刃の竜王(ソードマスター・ドラゴンロード)の息子であったらしく、彼らは親子喧嘩の末に竜王側が殺されて、そこから悪乗りして竜王狩りを始めたという事らしい。

 

クローさんは正直呆れているけど、反対意見も言える状態じゃないからとりあえず従ってるという。

そういう訳で僕は、クローさんと裏で連絡を取り合うことにしました。

 

僕はクローさんに許可を貰って、クローさんだけは人格的に問題なさそうだという事をツアーに教えた。

ツアーは心から信用している感じではなかったけど、とりあえず彼だけが生き残ったとしても大きな問題にはならなそうだということは納得してくれた。

 

クローさんも、ツアーを完全には信用していないみたいで、幾つかの秘密を僕だけに共有してくれた。

 

まず、千刃の竜王(ソードマスター・ドラゴンロード)を倒したときに不思議な鍵の様なアイテムをドロップしたらしい。

モモンガさんはこの世界でモンスターとかまだ倒していないかもしれないけど、ここではリアルと同じでモンスターを倒してもデータクリスタルやアイテムをドロップすることは無いです。

だからこれはかなり不思議な事なんです。

 

その鍵のアイテムは、竜王を倒したら手に入ったものだから、それが何なのか正確にわかるまでは同じ竜王であるツアーには隠した方がいいと。

 

それとクローさんがツアーを信用しきれない別の理由として、彼らが持っているワールドアイテム、無銘なる呪文者(ネームレス・スペルブック)が関連している。

このアイテムはこの世界で使用された全ての魔法が記載されていくらしいのだけど、竜王たちが独自で使用する始原の魔法(ワイルド・マジック)も記載されていて、そして、魔法の解説部分には『○○という竜王が、○○に対して初めて使用した』という記載があるらしい。

 

この中にはツアーが過去のプレイヤーに使用したという記述があって、彼が場合によっては容赦なくプレイヤーを攻撃する可能性があると考えているみたいです。

だから彼は、その鍵のアイテムをこっそり倉庫から持ち出して、僕に託してくれた。

 

それと、もう一つ。

クローさんはこの世界のエルフとこっそり子供を作ったらしい。

万が一クローさんが誰かにやられてしまった場合に、装備とかアイテムとか、今話しているこの情報を、もっと後から来る善良なプレイヤーに伝えるために。

 

子供の名前はデケムと言って、このスレイン法国から南西に広がる森の中で、彼の妻に育ててもらっているとのこと。

 

 

ふぅ……。

 

さて、とりあえずこんなものかな。

 

僕はこれから、クローさんと話をするため出かけてきます。

このタイミングでこのメッセージを残したのは、万が一クローさんのやっていることが、彼のギルドの他のメンバーにばれた場合、僕もクローさんも殺されてしまうかもしれないから、その保険です。

 

 

僕は……

 

僕は、正直最近、寿命で死んだギルドの仲間のことを忘れ始めています。

 

うまく言えないけど、だんだん心が、死の支配者(オーバーロード)らしくなってきていて、誰かが死ぬことに鈍感になってきている気がする…。

 

このままではいつか……皆が遺したこの国や、国民のことも、大切に思えなくなるかもしれない。

 

モモンガさんは、あの指輪で人間になれるから大丈夫だと思います。

それにクローさんも人間種だから、きっと大丈夫。

 

もし、いつか、僕がクローさんのとこのギルメンとか、竜王とかに殺されたとしても、それはもうしょうがないことで、この情報と、先に死んでしまった僕以外の皆の意思が、次の誰かに引き継げれば、僕は、それでいいんじゃないかって思うんです。

 

それが、モモンガさんだったら、嬉しいな。

 

 

ああ、そうだ。

それとルファスだけど、この子はすごく優秀です。

 

僕が未来のモモンガさんにメッセージを残す方法……ルファスにメッセージを言ってから封印して、起きた直後に記憶操作(コントロール・アムネジア)で読んでもらう方法を提案したら、喜んで引き受けてくれました。

 

だから万が一…万が一僕がそこに居なかったら、お願いなので、ルファスが望むことを出来るだけ叶えてあげてください。

その場合この子は、100年、いや、それ以上の時間を封印されてたことになるから。

 

ルファスにはモモンガさんのこと話してあるから言う事聞いてくれると思う。それに、例の鍵はルファスに預けたから、受け取ってください。

 

 

……それじゃあ、このメッセージが最後にならないことを祈って。

行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンガの視界は再び暗くなった。

スルシャーナが、ルファスに話しかけていた時間が終わって、過去のルファスが封印されたのだろう。

 

モモンガはしばらく言葉を発することが出来なかった。

 

自分がここまでにしてしまった事。

 

デケムは、スルシャーナさんが、どうやら唯一心を許した他ギルドの者の息子、そして過去にあった事を何らかの方法で未来に伝える役を持たされていた可能性が高い。

 

確かにデケムは、既に竜王たちに記憶を壊されていて、害悪と言っていい存在になっていた。

そしてこの場にスルシャーナさんが居ないという事、そしてクローというプレイヤーも居ないこと、それはつまり、ツァインドルクスも言っていたように、彼らは他の八欲王に殺された可能性が極めて高い。

 

だから、ここまでにしたこと、それはしょうがないことのはずだ…。

 

だが……それでよかったのか?

 

本当に他に手は無かったのか?

 

俺が、嘗てのクランの仲間を殺さないで済む方法が、スルシャーナさんの友人の子孫を殺さないで済む方法があったのではないか?

 

 

 

見つからない答えを探しながら呆然としていると、目の前の存在、追随する霊的存在(フュルギャ)のルファスが、目をキラキラさせながら話しかけてきた。

 

 

 

「モモンガさま、モモンガさま!ボクのマスターは、スルシャーナ様はどこにいらっしゃいますかァ?ボク、随分と眠ってた気がするから、久しぶりにお会いしたいなァ!」

 

「ルファス……」

 

 

モモンガは言葉に詰まった。

 

スルシャーナさんは…おそらく…もう…。

 

パンドラを見た。

 

が、先ほどの記憶は記憶操作(コントロール・アムネジア)で覗いたものだから、パンドラは共有しておらず、助言を求めることは出来ない。

 

…ありのままを伝えるしかない。

 

モモンガ覚悟を決めた。

 

 

 

「ルファス……スルシャーナさんは……350年前に、お前を封印した後、八欲王と呼ばれる敵対的なギルドの者と戦った……この国に残る伝承では、スルシャーナさんはそれ以来、姿を隠している」

 

「……え?」

 

「八欲王と呼ばれるものは、今はもう誰も居ない。おそらくはスルシャーナさんや、他の仲間達が…決着をつけたのだろう。俺はスルシャーナさんに……お前が望むことは何でもしてやってくれと頼まれている」

 

「……そんナ……他の皆様が亡くなられて……それでもマスターだけは、いなくならないよって…約束したのにィ……」

 

 

ルファスの大きな瞳から光が消える。

身体は半透明化と実体化を繰り返しながら、ブツブツと呟きだした。

 

 

「イヤダ…イヤダ…イヤダ…イヤダ…イヤダ………」

 

 

モモンガは見ていられなくなった。

 

死の支配者(オーバーロード)の身体で、アンデッドであるはずなのに、目のまえの存在の悲しみが、痛みが、チリチリと心を刺す。

 

死んでしまった者、喪ってしまった者に対する悲しみ。

 

モモンガも、ルファスも、アンデッドであるはずなのに、そこまで歩いてきた道のりか、あるいは、片や人間種の姿を持つが故の不完全なアンデッドであるからか、片やそうあれ(・・・・)と創られた存在であるからか。

 

パンドラズ・アクターもまた、言葉を発することが出来ない。

スルシャーナに何があったか、この時点で彼には正確には分からない。

だが、賢い彼はモモンガの言葉から概ねそれを察し、そして同じくNPCであるルファスの気持ちも痛いほど分かってしまったから。

 

 

そしてルファスは、その大きな瞳に涙を湛えながら、ついに呟いた。

 

 

 

「…モモンガさま…ボクを……マスターのところへ、送って」

 

「…ルファス…それは…」

 

「…マスターが言っていたの。モモンガさまなら、アンデッドでも殺すことが出来るって。だから……ボクのお願いを…聞いてくださィ」

 

「ダメだ…できない……そんなこと…スルシャーナさんに…何て謝ればいいかわからない…」

 

「オネガイ…オネガイ…オネガイ……ボクは…ボクは…ボクは……このままじゃ……この国のヒト達を……」

 

 

 

ちょうどその瞬間であった。

 

夜中に目を覚ましてしまった2人の子供が、いつもは決して開いていない扉を見つけ、覗き込んでしまった。

 

 

「ひっ!」

「幽霊っ?」

 

 

扉から顔を出したミューギとアンティリーネは、激しく点滅するルファスの姿に本能的な恐怖を覚えた。

 

瞬間。

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

ルファスの目が紅く光り、魂へのダメージを伴う声を発した。

 

耐性があるモモンガとパンドラはレジストできたが幼い2名は真っ白な顔になり、その場で倒れ込んだ。

 

 

 

「殺さなきゃ…マスターが居ない世界…全部…ゼンブ…コワサナキャ…!!!」

 

激しく体を点滅させるルファスが、素早く、扉に向かって進んでいく。

 

先ほどの声を聞きつけて目を覚ましたナズルが、居住スペースの扉から出たところで、ルファスは迷うことなく、ナズルに飛び掛かっていく。

 

 

 

「モモンガ様!!」

 

パンドラが叫んだ。

 

叫んだ理由は分かっている。

 

分かっている。

 

俺は…。

 

俺は……。

 

 

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉・〈星幽界の一撃(アストラル・スマイト)〉!!」

 

 

ルファスの爪がナズルに届く前に、モモンガが放った魔法がルファスの身体を貫いた。

 

こんな時だというのに、モモンガは戦略的に正しい決定的な一撃を放った。

 

嘗てスルシャーナが説明してくれたルファスの防御特性。

100レベルでありながら、支援や幻術に特化させ防御を含めた他のパラメーターは殆ど上げていない。

つまり星幽界の一撃(アストラル・スマイト)をはじめとした、ただでさえ元々弱い対アストラル魔法には非常に脆い。

 

一撃を受けてルファスの身体に亀裂が走る。

 

弱いとはいえ、100レベルが一撃で沈むなど普通はあり得ない…モモンガはそう思った。

 

 

だが、亀裂は体中に広がっていき、ルファスはナズルへの攻撃をやめ、モモンガの方に振り返った。

 

その瞳からは大粒の涙を流し、しかしどこか穏やかに、最期の言葉を呟く。

 

 

「……モモンガさま…ありがとう…ボクをマスターのところへ送ってくれて……あの子供たちは生きているヨ…治療……してあげてネ……サヨナラ」

 

 

 

モモンガはルファスの性質と性格を、扉をくぐるための最初のクイズの答えを思い出した。

 

 

“賢く愛情深いが、寂しがり屋”

 

 

「演技…だったというのか……ルファス……わざとレジストもせずに……スルシャーナさん…俺は…俺は…………どこが…神だ……生と死を司るなどと……こんなの……ストレンジさんが言う通り……ただ…命を弄んでいるだけだ……」

 

 

 

光の粒になって消えたルファスの装備から、輝く銀色の鍵が落ちた。

 

パンドラはその鍵と、持ち主を失った装備を持ち上げると、膝をついて言葉を失ってしまった主に、ただ寄り添っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

———20年が過ぎた。

 

 

「…パンドラよ………ナズルは……納得して逝けたのだろうか…?」

 

「はい。勿論でございます。ナズルは、寿命を迎えるその日まで、モモンガ様に感謝しておりました」

 

「そう…であればよいが…」

 

 

 

 

———50年が過ぎた。

 

 

「パンドラよ………なぜ……なぜ皆は…来てくれないのだろうか……?50年の節目にも……誰も見つからない……皆、俺に愛想をつかしてしまったのだろうか。それとも……考えたくはないが皆、もうすでに輪廻の向こうへ行ってしまったのだろうか…やはり俺が……ストレンジさんを殺し…餡ころさんを救えなかったから…」

 

「いいえ、モモンガ様。そうではありません。皆、きっとモモンガ様と会える日を待ち望んでおられます。次の50年、あるいは100年の時に来られるかもしれません。部隊を…至高の皆様とナザリック地下大墳墓を探すための、部隊を作りたいと存じます。ご許可いただけますでしょうか?」

 

「……ああ、任せる」

 

 

 

 

———100年が過ぎた。

 

 

「パンドラよ……この国は…平和になったか…?誰も…悲しみを覚えていないか…?」

 

「はい、勿論でございます。御言い付けの通り、たっち・みー様の御姿のみを借りて働いておりますが、この国も、エルフ国も、皆生活が向上し、笑顔が絶えない国と成りつつあります」

 

「そうか……引き続き、頼む。困っている人が居たら、助けてあげてくれ」

 

「勿論でございます」

 

「…パンドラよ」

 

「はッ!」

 

「俺は…少し休もうと思う……ルファスが居たこの場所で…輪廻の入り口を見ながら…少し…休む。何かあったら…教えてくれ」

 

「…モモンガ様」

 

「……………スキル・〈冥界下り〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———本日の朝の会議を始めます。

 

 

スレイン法国の法都シクルサンテクスの聖殿の一区画。

嘗てそこには、不幸なハーフエルフの少女が閉じ込められていた。

 

しかしある時降臨された至高神様と従属神様が少女を憐れみ、少女の母を憐れみ、そして手の届く全ての民の幸福を願った。

 

少女の母は悲願を達成するとともに、神の愛に触れて、母としての愛を取り戻し、満たされて輪廻に帰っていった。

 

救われたエルフの少女は、その恩を返すため神と従属神が降り立った国の発展に尽力しながら、新しく得た家族であるハーフエルフの少女を本当の妹の様に可愛がった。

 

救われたハーフエルフの少女は、母の遺した手記で全てを知り、やがて従属神様の手ほどきを受けて、この国で歴代最高の力を持つ神人に覚醒した。

 

 

結果、その一角はやがて、従属神様が組織された7つ目の聖典部隊が住まう、この国の最も神聖で、最も神に近い場所となった。

 

9名の名前を持つ特殊部隊の者、そして、戦う力はなくとも事務方として彼らを支える幾人かの神官が、秘匿されたこの領域の住人となっている。

 

特殊部隊の9名はその力を認められ、この部隊に与えられた本当の目的———至高神様の御目覚めと、至高神様に連なる40名の神々の御降臨を、真の任務として請け負っている者達。

 

 

 

「第9席次、【疾風聖女】クレマンティーヌ・リンカ・クインティア、ここに」

 

「第8席次、【慈光薬師】カジット・リンカ・バダンテール、ここに居ります」

 

「第7席次、【三門魔導】カイレ・リンカ・ギベール、これにおりますじゃ」

 

「第6席次、【屍死破軍】ハプソティ・リンカ・マルシャン、ここに」

 

「第4席次、【幽幻黄櫨】リュカ・リンカ・ボワソン、です」

 

「第3席次、【堅牢錦旗】アデル・リンカ・カールソン、ここにおります」

 

「第2席次、【万能精霊】ミューギ・リンカ・ヤアセ、でございます」

 

「第1席次、【輪廻聖典】アンテリーネ・リンカ・フーシェです。皆、おはようございます。本日はこれから行われる作戦についてお話いたします。この作戦には第5席次、【隔世盟主】エーギル・リンカ・サルモンも順次呼び戻し、全ての聖典隊員で実行することとなります」

 

 

アンティリーネの言葉に、ミューギを除く全ての者は、その表情をいつも以上に引き締めた。

ミューギにとっては、その作戦は自分が立案したものであった。

 

 

 

「先日、漆黒の【占星千里】が、ローブル聖王国とリ・エスティーゼ王国に、何らかの大災厄が降りかかるという予言をしました。私たちは表向きは、この災害に対処するため、そして、言うまでもありませんが、この出来事が節目の年付近である事から、“神々”の降臨と関連している可能性ありと考え行動いたします」

 

 

アンティリーネが、想定される災厄の内容や、隊員の配置を伝えていく。

 

 

そして朝の会議が終わり、それぞれが、それぞれの仕事のために活動を始めた頃、最奥の間から御簾のようなヴェールを潜って、純銀の聖騎士が現れる。

 

 

「純銀卿、おはようございます……本日は如何でございましたか?」

 

「変わらず、でございます。ですが至高の…40人のどなたかでもおいでになれば……至高神様はお声を上げて、こちら側へお戻りいただけるかもしれません」

 

「そうで…御座いますね」

 

「ええ、ですので引き続き、よろしくお願いいたします。【輪廻聖典】」

 

「はい、畏まりました」

 

 

 

 

 

嘗て不幸だったハーフエルフの少女は100年前のことを、つい昨日のように覚えている。

 

その日、もう長らく“ミルンドール”という御名前を名乗らなくなった純銀の聖騎士様が、一冊の聖典を手にアンティリーネに話しかけた日のことを。

 

 

「…アンテリーネ・リンカ・フーシェ。以前よりお話していた、新たな部隊を作る許可が下りました。あなたは最早、この国随一の使い手。第1席次として、部隊を導いていただけますか?」

 

「わ…私などが…いえ……大変光栄なこと、ご推薦いただけるのであれば、全力を以て務めさせていただけます」

 

「ああ……在りし日の…あなたの母上様のように凛々しくなれましたね……まずはこの聖典を」

 

 

そう言って純銀卿が渡した本には、40体の異形の神の姿が記されている。

 

 

「ここに描かれている御姿は、お話している40体の神々のそれでございます。部隊の目的はこの40体の神々を探すこと。当然ながらこの聖典は、最秘匿事項であり、この聖典を管理するあなたは、聖典を御守りすることも任務の一部となります」

 

「これが……至高神モモンガ様の御仲間の神々…」

 

「輪廻の世界をも支配する至高神モモンガ様のため、その聖典に記された神々を探す部隊…部隊の名を輪廻聖典(リンカナーチオン・シュリフト)。この名は同時に、第1席次であるあなたの二つ名でもあります」

 

 

 

 

 

 

至高神たる存在が、この世界の者も、ユグドラシルの者も、誰一人干渉することが出来ない場所に閉じこもり、既に50年の時が過ぎていた。

 

およそ150年ぶりにこの世界に降臨した3名の神が、スレイン法国の、その秘匿された最奥部へ近づいている。

 

その者達たちが、輪廻の狭間で眠りにつく至高神の心を引き戻すことが出来るかは、まだ分からない。

 

 




7章はもう少し続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。