オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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7章はもう少し続きます。
ここからは、3名の御方がスレイン法国に到着してモモンガさん、というか純銀卿と対面するまでのお話です。


第7章 第21話 -竜を屠りし者たち-

 

 

王国北部に位置するラーション村で、1人の男が目を覚ました。

 

その男は小さく一つ欠伸をすると、ベッドから這い出して日課の朝の水汲みために外に出ることにした。

 

村の中にはまだ誰も起きている者は居ない。

正直、こんなに早く起きる必要はない。

 

この村は、いや、もしかしたらこの国は、ほんの数年前と比べて変わった。

 

領主が何度か変わり、現在この村と、リ・アレクサンデルを治める新しい領主はとても人道的で、税も昔に比べれば非常に安くなり、村の皆は生活に余裕が出始めていて、朝から晩まで体に鞭を打って働かなくても良くなったと言える。

 

 

もし、この状況がもう少し……あと10年早く変わっていれば、娘は、家族は……いや、それは領主の罪だけでない。

 

村を、自分を守るために差し出してしまった、自分自身の罪に他ならない。

 

もう戻らない。

 

だからせめて自分は、この後の残された時間、少しでも善良で、清貧で、誰かのためにあろう。

そんな事で、罪滅ぼしになどならないことは分かっているが。

 

 

男が木桶を持って井戸の近くまで行くと、そこには見慣れぬ……いや、嘗て一度だけ見た男が居た。

 

 

若い黒目黒髪のその男は、黒を基調とした服に黒いコートを羽織り、同じく黒い鞘に納めた細身のロングソードを腰に掛けている。

黒を基調とし、赤いラインが入った動きやすそうなコートの下に、やはり黒い皮の服を着こんでいる。

 

その瞳は、暗く落ち着いていて、どこか魅了されるような、その奥に深い何かを湛えたような、そんな深く黒い瞳。

 

残酷で優しい、悪魔のような男だった。

 

 

 

「ヒューゴ……ベイロンさん、だったな」

 

「あ……あなたは……いつかの旅人の……パルメーラさん、でしたか」

 

「ああ……その節は、世話になったな」

 

「いえ……私など……それで、どうされたのですか?前の時は色々とありまして、何もおもてなしを出来ませんでしたね。今は……時間もありますし、よろしければ村長も呼んでお茶などを飲んでいかれませんか?」

 

「……善人…なのだな」

 

「…え?」

 

「ヒューゴ・ベイロンさん……あの時の礼…という訳じゃないか。俺が為したのではなく、本人が選んだことだからな。だから俺は、あんたに報復をしたり、罰を与えたり、礼を求めたりはしない……だが、約束してくれ。二度と、大切なものから手を離したりしないと」

 

「な……何を仰って…?」

 

「…あんたの娘のことだ。」

 

「なっ……!」

 

「約束、出来るか?もう二度と、大切なものを手放さない。それをこれからの人生、守っていくことが出来るか?」

 

「あ…ああ………はい……勿論で…す…ですが……娘は、もう……それになぜあなたが、それを…」

 

「約束したからな。悪魔との契約は、絶対だ。ゆめゆめ忘れることの無いよう」

 

 

 

悪魔のような男はそう言うと、その姿をかき消した。

 

そしてその直後、悪魔のような男が居た場所に、別の2人が現れた。

 

 

 

「……父さん」

「……おとう、さん」

 

 

「そ…んな……セリーシア……?ツアレニーニャ……?嘘だ…私は……お前たちを……」

 

 

「父さん、私は………父さんに色々と言いたいことがある。でも、まずは……ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

ニニャ達をベイロン家に送った後、パルメーラは王都で『蒼の薔薇』が常宿にしている酒場兼宿屋の1階の酒場に姿を現わした。

 

 

「いよっ、英雄!」

「パルメーラさん!」

 

テーブルで、昼間だというのに酒を飲んでいる『青の薔薇』と『漆黒の剣』のメンバーが“こっちこっち”と手を振ってきた。

 

無論、『漆黒の剣』はニニャを除く3名で、奇しくもパルメーラがいつか想像した、ガガーランとダインの飲み比べ対決が勃発していた。

他のメンバーはその様子に少々呆れながらも、自分たちが掴み取った平和を肴に、幸せな気持ちで酒を飲んでいる。

 

何も、この2チームだけがサボっているわけではなく、この酒場には他にも大勢の冒険者や国民が居るし、ここ以外の店でも多くの者が食事や酒を楽しんでいる。

 

リ・エステーゼの街は、はっきり言ってかなりの広範囲が破壊された。

ゴロツキやそれに続く天使の攻撃で、負傷した者も死んだ者も多数いる。

 

だが今日は、街をあげての無礼講である。

 

それはこの国の第2王子であるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフにより布告された、街の全ての飲食店の代金が無料でその代金は国庫と周辺領地の貴族が支払うという御触れのためである。

 

その理由は2つ。

 

1つは、傷ついた住人や家を失った住民が大勢居り、治療については神殿勢力が担っているが、一方で財産の貯えがない者が飢えを感じないように、という事から。

 

もう1つは、王の交代を祝うもの。

全ての国民に詳細は聞かされていないが、第1王子がこの度暴れた八本指の麻薬取引に関与していたことが分かり失脚、現王はその件の引責で退位、そして次に継承順位が高いザナックが即位することとなったため、それを民に知らせるという目的から。

 

貴族とつながりなど無い、本当に一般の民たちは、この今までに無かった貴族側からの振る舞いについて、いわゆる“アピール”であると邪推する者が殆どだが、少しでも王城の内情を知っている者からすれば、明確にバルブロの失脚を記載したお触れの内容に、このリ・エスティーゼ王国の大きな変革を予感している。

 

 

 

「はぁー……なんかよー、オレ、まだ信じられないぜ……ホームのエ・ランテルを旅立って、リ・アレクサンデルの街に向かったのが、もう何年も前みたいに感じるわ」

 

「そうだな……パルメーラさんに出会って、『朱の雫』の皆さんとドラゴン狩りをして、『青の薔薇』の皆さんとアンデッド退治をして……なんか、夢の中にいるみたいだ」

 

「で、あるな」

 

 

『漆黒の剣』の皆がそんなことを言いながらワインを飲む。

ダインは樽ごといっている。

 

 

「……胸を張っていい。お前たちは、まごうことなき“英雄”だ……私が13英雄として旅をし始めた時も、おそらくは……お前たちと同じ気持ちだった」

 

「ほっほ。その割には、だいぶ長い間泣き虫だったように記憶してるがの」

 

「それとイビルアイは胸を張っても変わらない…だが、それはそれであり」

 

「はぁ…おまえらなぁ……ん?ティナはどこに行った?」

 

「ティナは少年を探しに街に向かった」

 

「おい……誰か止めなかったのか?もう衛兵に一回捕まればいいんだ、あの阿保ニンジャは」

 

 

『蒼の薔薇』達も、相変わらずの軽口をたたいている。

 

ちょうどそのタイミングで、注文した酒と肉をそれぞれの手に持ったパルメーラが席に座った。

 

 

「パルメーラさん、その、どうでしたか、ニニャさんの件は?」

 

「ん、ラキュース…ああ、大丈夫だろ。ニニャは父親を許すと言ったし、姉のツアレニーニャさんも、父親の元へ行くことは大丈夫だと言った。まあ、しばらくは実家でゆっくりして来るんじゃないのか?」

 

「…そうですね」

 

「おう、パルメーラ、おめえさんも飲め!俺は、おめえさんも滅茶苦茶強いこと知ってるぜ!」

 

「そうであるな!さ、その手の中のジョッキをさっさと空にするのである!」

 

「お前ら…」

 

 

パルメーラが目線で他のメンバーを見ると、皆、苦笑いをしている。

 

 

「ま、今ぐらいはいいか」

 

そう言うと、パルメーラはこっそりと毒無効をオンにしてジョッキの中のエールを飲み干した。

 

空になったジョッキに、ガガーランが嬉々として樽のワインを注いでくる。

 

 

「あー、そうだ。俺の故郷の仲間達はどこ行ったか知らないか?ちょっと悪いんだが俺も仲間たちとやることがあって、飯食ったら一旦そっちに手を付けたいんだ」

 

「あ、パルメーラ。それなんだが、私がパラケル殿から言付けを預かっている。何でも神殿に呼ばれたらしいから、食事が終わったら一旦来て欲しいと」

 

「ん、そうか。じゃあ俺はちょっと行ってくるわ。また後で……いや、皆夜まで飲み続けてそうだな…とりあえず後で連絡するか、この宿に戻って来る」

 

「パルメーラさん、お気をつけて」

 

 

ラキュースの言葉にパルメーラは手を上げて少し微笑んだ。

 

ダインとガガーランの飲み比べは佳境に入り、2人はやがて店の外に出て樽ごと飲み始めた。

 

見物人は異なるアダマンタイトチームの英雄による飲み比べという、おそらくは今後目にしなそうなイベントに大盛り上がりで、店側も面白がって酒をどんどん提供している。

 

『漆黒の剣』も『蒼の薔薇』も、マジメチームのメンバーはハラハラしながら見守っており、他の者は呆れながらそれを肴に酒を飲んでいる。

 

 

 

「きゃーガガーラン様!!がんばってーーー!!」

 

「うおー!!森の賢者ダイン様!!負けるなーーー!!」

 

 

それぞれが、主に同性に応援されながら、樽酒を飲み干していく。

気分が良くなった2人は、飲酒量以外でも勝負を始めた。

 

ダインが祈ると、未だ撤去できていない瓦礫の山から石の獣が起き上がり、獣は瓦礫の撤去を始める。

ガガーランもニヤリと笑うと、石の獣でも簡単には運べなそうな巨大な瓦礫の塊をグーで殴る。

 

 

「すげー!!!」

「(いい意味で)バケモンだ!!」

「ああ、賢者様!!」

「姐さんサイコー!!」

 

 

そんな歓声の中、ガガーランは違和感を覚えた。

なんか、瓦礫を殴った時の感触が、以前と違う気がする。

 

首を傾げて、今度は、全壊となってしまっている民家そのものを触ってみる。

 

「なんか…なんだ?この感じ?瓦礫が、すげー軽いな…?」

 

その壊れた民家は、まだ基礎がしっかりと残っており、瓦礫というよりは壊れた家のそのものだったが、ガガーランは何となく直感的に、それ(・・)が出来る気がして、家そのものを持ち上げてみた。

 

 

バキバキバキバキ……

 

 

民家は壊れかかっていた基礎部分が引き千切られて、ガガーランは家そのものを持ち上げた。

 

 

「うおっ!!」

 

 

持ち上げたガガーラン自体が驚いているが、それを見たルクルットは目を丸くして固まり、イビルアイも飲んでいたジュースを吹き出した。

 

ティアは『ついに人外になった』と呟き、酔っているダインだけは『流石である!』と笑っている。

 

ラキュースは、何かの間違いで持ち上がってしまった瓦礫がガガーランを押しつぶしてしまうかもしれないと咄嗟に考え、彼女に駆け寄ろうとした。

しかし、それはラキュースにとっても謎の現象を引き起こす。

 

『ギュン!』という音と共に、ラキュースが一瞬でガガーランの横まで移動していた。

 

「え?!」

 

ラキュース自身も意味が分からない。

軽く駆け寄ろうとしただけだったのに、気付いたら自分が想定したよりも遥かに速いスピードで移動してた…そんな感じだった。

 

その様子を見ていたイビルアイは零したジュースを拭き、次に自分の手を見つめながら呟いた。

 

「ま……まさか…これは…」

 

 

一方でギャラリーたちは突然始まったガガーランの怪力ショーに沸き立ち、王都の街にガガーランコールが木霊したのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あ、パルメーラさん。来ましたか。お仲間と食事だったのではないですか?」

 

「ああ、タ…パラケルさん。いや、飯は食ったし、なんか皆で酒盛りが始まったからちょうど出て来るにはいいタイミングだった。で、スレイン法国だったか。早速行くか?」

 

「あー、そうしたいのはやまやまなのですが、ちょっとこれを見てください」

 

「ん?」

 

 

神殿の一室に転移してきたパルメーラは、パラケルが指差す方向を見た。

 

そこには座っている14歳くらいの少女形態のルベドと、その様子を隈なく確認してるショータローが居た。

 

人間に擬態しているアルベドとニグレドは、心配そうにその様子を見ている。

 

 

「ショータローさん、ルベドがどうかしたのか?」

 

「あ、ウル…えーと、パルメーラさん。なんかさー、ルベドちょっと調子が悪いみたいなんだよね」

 

「ん、大丈夫か?」

 

「フルパワーにしなければ大丈夫だと思う。たぶんだけどさー、あの聖天とか言ってたクソドラゴン倒す時にだいぶムチャさせたからさ。材料があれば修理できるんだけど、この世界素材乏しいからさー」

 

「まじか…その状態なら支障は無さそうか?」

 

「うん、80%なら影響は無いかなー。スレイン法国ってとこ行った後さ、ルベドの素材にできそうな高レベルの希少金属探すのも目的にしてもらっていい?」

 

「私は構いませんよ」

 

「俺も別にいいぜ」

 

「さんきゅー2人とも!」

 

「つーか、ルベドってその状態でもアイツ(たっち)越えなんだよな?やべーよな…でも80%とか60%とか、良く設定できるな…ゴーレムってそんな細かく口調とかまで変更できるんだな」

 

「あ、オレもそれは良く分かんないや!」

 

「えー…じゃあ設定はタブラさん(そっち)か」

 

「ええ、そうなんですよ。私も驚きだったですがね、ゴーレムの設定てのはメモ欄にしか記載できなくて、後はパラメーターの設定くらいしか存在していなかったのでここまで細かくフレーバーテキスト的なもの入れられなかったのですが、おそらくはニグレドの設定に影響されていると思います」

 

「「ニグレド?」」

 

「ええ、サービス終了の1年位前にNPCの設定を変えたりしたことあったでしょ。あの時に皆さんに怒られたのでニグレドのドッキリイベントの強制終了合言葉を設定して、ついでに色々と他の設定もいじったのですよ。その中にルベドのことも記載したのですが、どうやらフレーバーテキストが影響を及ぼすこの世界では、そのニグレドの設定と、ルベドのメモ欄とステータス設定がうまく作用して、現在のルベドの設定となっているように感じるのです」

 

「まじかー……初耳ー」

 

「いや…ショータローさんは知っとけよ……で、どんな設定なんだ?……ってコンソール開けないから確認できないか…」

 

「いえ、暗記してるのでお答えできますよ」

 

「…は?」

 

「さっすがー」

 

「あー…じゃあ一応教えてくれ」

 

「承知いたしました。それでは我が長女の設定をお教えしましょう……名前:ニグレド。テキスト:ナザリック地下大墳墓の第五階層氷結牢獄地上階の領域守護者にしてアルベドとルベドの姉である怪人のアンデッドである。黒の喪服を身に纏い、長い黒髪に隠れた顔は表皮が無く筋肉のみで構成されているが、仮初の皮膚で擬態した素顔はアルベドに似た美女である。彼女の本質は慈悲深く思慮深い性格で、基本的にはどのような者に対しても等しく慈愛を注ぐ。しかし、自身の守護する領域に何者かが立ち入ると、普段愛でている赤子の人形を投げ捨て、立ち入った者に「自身の赤子を奪った」と言い襲い掛かる。これは立ち入った者が赤子のカリカチュアを拾ってニグレドに渡すか、“マグヌム・オプス”という合言葉を言う事で解除される。彼女が抱える二面性は、その生まれが関係している。本来彼女は人々の悲しみを浄化する役目を持つ精霊であったが、その純粋さ故、人間の持つ悪感情に中てられて、いつの日か怪人として姿を変えた。特に赤子を亡くした母親の悲しみと嫉妬心は彼女を蝕み、赤子の頃から知る者が2歳を超えると処分すべき肉塊としての認識に変わるという呪いを受けている。一方で、多くの人々の感情を浄化する過程で生物の感情を深く理解したことで、精神系や情報系の魔法やスキルにおいて彼女の右に出る者は居ない。彼女の愛は自身の二人の妹にも等しく注がれ、次女のアルベドが守護者統括としてナザリック地下大墳墓で働くことは彼女の誇りである。一方で末の妹であるルベドについては思うところがある。ルベドは内包する力が強力すぎた故、普段はその力を3段階に制御されている状況である。1つ目の鍵は第一段階モード名称とコードを知っていれば誰でも開くことが出来る。ニグレドが恐れるのは、この状況の妹が何者かに操られ、ナザリック地下大墳墓へ災いをもたらすことである。2つ目の鍵と3つ目の鍵は、彼女を共同で創造したタブラ・スマラグディナとるし★ふぁーが、モード名称とコードをそれぞれ持ち、完全な力を発揮するためにはこれら3つの鍵を開ける必要がある。2つ目以降の鍵が開いたルベドは、もはや創造主の命に従う気高き戦士であるため、ニグレドも誇りを持てる妹である。自身の守護領域にて過ごす時、実は恥ずかしがりやな彼女は趣味のホラー映画をこっそりと一人で視聴していることが多い。仮初の姿はお淑やかで慈愛に満ちているが一方で悪戯好きな一面もあり、守護領域から出て誰かと交流するときは、ホラー映画から得た知識を使って、油断している者を脅かしたいという欲求に駆られている。」

 

「………(なげぇ)」

 

「長すぎでしょー笑!(さっすがタブラさん!)」

 

「ああ、お姉さま!」

「姉さま、私、誇り高き戦士だよ!」

「ああ、タブラ・スマラグディナ様…お恥ずかしいです」

 

 

 

「あー……パラケルさん、ショータローさん。その、良く分かった。とりあえずスレイン法国行って、その後はルベドの素材も探そう」

 

「ええ、そうですね。というか、ナザリック地下大墳墓を発見できれば、素材も備蓄分で行けるんじゃないですかね」

 

「そうだねー。でもこの世界で素材見つけとかないと将来的には足りなくなるかもだから、やっぱ冒険しながらさがそーよ」

 

 

そんな話をしながら皆がスレイン法国へ出発する準備を始めていると、部屋をノックする音が聞こえた。

 

 

 

「…ニグンでございます。パルメーラ様と…御仲間の皆様にお会いしたいという方がお越しですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

 

「ん…ニグンさんか?」

 

 

パルメーラはその声に反応するとともに、ニグンに憑いている影の悪魔(シャドウ・デーモン)に短く質問をする。

 

『危険は無いか?』

『はい、御座いません』

 

 

「皆、俺の方(・・・)で見た限りでは危険は無さそうだが、いいか?」

 

「…ええ。どうやらパルメーラさんだけに用があるという訳では無さそうですし…面白いのではないですか?」

 

「オレもおっけー!」

 

 

ニグレドとアルベドがそれぞれの方法で危険察知をしてみたが、特に引っかかるものは無かったと見えて、彼女たちも頷く。

 

 

「皆もいいそうだ。入っていただいて構わない」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 

扉が開くと、そこにはニグン、そしてその後ろにはフードを深く被った小柄な者が居た。

 

 

「私は外へ出ていますので」

 

ニグンが退出すると、その小柄な者がフードを取った。

 

 

「うふふふ…パルメーラ様。またお会いできましたね」

 

そこには、少しハイライトが薄めの瞳でにっこりとほほ笑む、黄金の姫が居た。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数年ぶりに家族の食事を終えたベイロン家の者3名は、お互いの足りない所を埋めていくように、ゆっくりと、ゆっくりと会話をしていた。

 

未だ、完全に心の傷が癒えたわけではないツアレニーニャだけは、微笑みながらうんうんと時々頷いて自らの辛い過去を語るわけではなく、話は主にセリーシアがここまで歩いてきた冒険の話であった。

 

勿論それは、彼女が悪となり成した凄惨な復讐劇を具体的に語るわけではなく、彼女の仲間との出会い、ドラゴンスレイ、アンデッド討伐、そして王都の悪を一掃した話を、冒険者としての秘匿事項は伏せたうえで話していた。

 

 

「セリーシア……本当に…本当に……成長したんだな…こんな…不甲斐ない父で…本当に…」

 

「父さん、もう、そういうのは止めよう。私も姉さんも、これからはさ、普通に、普通の家族でいたいから…」

 

「セリーシア……ああ、うん。わかった」

 

「…セリ」

 

「なぁに、姉さん?」

 

「私も、セリの魔法…見てみたいな」

 

「魔法…うん。任せて。って言っても、あんまり効果がすごいのは危ないから……じゃあさ、本当に基礎の攻撃魔法。〈魔法の矢(マジック・アロー)〉って言って、魔法で作り出した矢が出る魔法があるから、人に当たらないように空に向かって撃ってみるね」

 

セリーシアの言葉に、ちょっと楽しそうな表情となったツアレニーニャとヒューゴは、指差された空の方を見る。

 

 

「じゃあ行くよ…〈魔法の矢(マジック・アロー)〉!!」

 

 

軽い気持ちで放ったその魔法は、8本の光の矢を作り出して、空の彼方に飛んでいった。

 

 

「いや、本当に魔法というのはすごいな」

「すっごくキレイね」

 

 

「……こ」

 

 

「ん?どうしたセリーシア」

「セリ、どうしたの?」

 

 

「告白しなきゃ!!」

 

 

「セリーシア、ちょっと、どういうことだ?」

「きゃー!!」

 

 




聖天の竜王は、言うなれば100レベルプレイヤー用のレイドボスです。
レイドボスを倒す時、レイド戦に参戦していた人のこと、覚えていますか?
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