オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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転移前後のリアルで起きたことは、これで殆ど説明終了です。

竜王たちのリアルの名前は私が混乱しないように安易な番号制になっています。
深い意味はありません。すみません。


第0章 第7話 -それぞれの7月1日-

 

 

5人の者が、最高峰のセキュリティレベルのオンラインミーティングサービスにログインしていた。

利用料やライセンスの観点から、このサービスを利用できるのは、本当に限られたごく一部の人間だけである。

 

それはアーコロジーに住む者の中でも特に高い地位を持つ者、例えば巨大複合企業の最高幹部クラスの者や、それをサポートするような特殊なポジションを持つ者。

 

本日そこにログインしている者も、その例外に漏れず、主要エネルギーインフラ関連企業の社長である二宮氏、某総合商社の会長である三宅氏、日本に本社を置く駆動機械メーカーの取締役である四谷氏、警察機構の長官である六反田氏、そして巨大複合企業が100%出資する大学の大学長にして、若くして物理学の教授をしている一ノ瀬博士だ。

 

バーチャル空間の中で会議をファシリテートしているのは、その中で最も若い一ノ瀬博士である。

 

 

「……以上が7月1日に起こりうる可能性のある事です。皆さん、そういう訳でうまくいけば我々はもうこの場所には戻ってこないことになる。この場所、この世界でやっておかなければならないことがあるのならば早めに済ませておくことです」

 

 

「一ノ瀬、今更だが、本当にこのレポートに書かれているようなことが起こるのか…?俄かには信じられないし、仮にそれが起きた時に、我々は無事に、その別の宇宙とやらで暮らせるのか?」

 

 

二宮の言葉に、一ノ瀬は心の中でため息をつきながらも、眉一つ動かさずに冷静に答える。

 

 

「そう思っているから私自身も参加する。それにそうでなかったとしても了承するという契約で出資をお願いしたはず。違いますか?」

 

 

一ノ瀬の次に若い二宮は、自分より若いにもかかわらず、言葉で言い表しようがない気迫を持つ彼に苦手意識を覚えながら、それでも威厳を保ちながら『う、うむ。まあ確認だ。了承している』と答えた。

 

 

「二宮君はまだ若いからね。こちらに残していくモノも多いのでしょう」

 

 

かなりの高齢である、肥満体形をした白髪の男、三宅会長が張り付けたようなニコニコ顔で言葉を発する。

しかしその作ったニコニコ顔は、次の一言と共に霧消して、老人とは思えぬほど鋭い目つきで一ノ瀬を睨む。

 

 

「だがね、一ノ瀬君。なんだっけ、イガラシとか言ったか?部外の者を連れて行くというのは賛成しかねるな。そういう良く分からない者が一緒に来て、後で離反でもしたら君、責任とれるのかねぇ?」

 

 

普通であれば、立場も含めたその老人の言葉は、多くの者を萎縮させるはずだが、一ノ瀬はそんな些事には気にも留めず淡々と返す。

 

 

「何度も説明したのをお忘れですかな?あちらに行って、万が一ユグドラシルのシステムなりが取り込まれていた場合、その道のエキスパートが居ない状態で対処するのは非常に困難。そのパターンの方がよっぽどリスクあるのです、敢えてリスクを上げる選択をするのは承認しかねますね。それに2回目ですが、それも含んだ契約では?」

 

 

「…ふふ。そうだったねぇ。いや、君の言う通りだ……だが、そうまで言ってあちらで我々の安全が脅かされるようなことは、無いようにお願いするよ」

 

 

老人の笑顔が深まったが、一ノ瀬は特に気にせず話は終わりとばかりに老人に送っていた目線を中空へ戻した。

 

 

「ええ。で、他に質問のある方は?」

 

 

黒いスーツを着て、静かに目を瞑っていた初老の男が手を上げる。

 

 

「四谷さん、なんですか?」

 

 

四谷と呼ばれた男は目を開けて言葉を発する。

 

 

「当日の流れなどについては特に疑問は無い。一点、いや二点か。気になることがある。まず、そのゲームの中で情報収集のために協力を仰いだとか言うモニターが居たな?“ホログラフィ”と言ったか。こちらの情報は開示していないのだろうが、我々に辿り着く可能性がありそうな者をそのままにしておいていいのか?それともう一つは、博士の推論が正しく、我々が移動(・・)を成功させた場合であっても、そのゲームで遊んでいる他のプレイヤーも意図せず移動(・・)する可能性があると言っていたな。その点について問題は無いのか?」

 

 

一ノ瀬が答えようすると、その言葉を遮るように、大柄な男である六反田がだみ声で口を挟んできた。

 

 

「博士の話に合ったナントカというゲームの中のワールドチャンピオンとやらが多数在籍しているグループは、ワシの息子とその仲間たちにアカウント買い取らせて成り代わったから大丈夫だ!それに、その“ホログラフィ”とかいうのとゲームの中の残りのワールドチャンピオンの者は同じアーコロジーに住んでることが分かったからな、その辺はこちらで対処(・・)しておくぞ!構わんな、博士!」

 

 

一ノ瀬がチラと横目で三宅がニヤリと笑っている。

ああ、そういえば三宅(この豚)のとこは通信系の事業も牛耳っているから、調べて六反田(バカ)になにか入れ知恵したか、と一ノ瀬は考えた。

 

 

「契約上は問題ないですが、因果領域の移動に支障をきたすようなことが起きると計画自体が破綻しかねないので、一応何をどうするか教えてもらえます、三宅さん」

 

 

話していた六反田をスルーして、さらに裏で糸を引いているということを表面上は口にしていなかった三宅に直接話しかけてきたことに、六反田は面食らって目をぱちぱちさせたが、三宅や他の者にとってそれはいつものことなので、少々の怒りを覚えながらも、結局は頭の回転が自分たちより明らかに早い一ノ瀬の言葉に答えることが時間の短縮につながること知っている三宅は笑顔を深くして答えた。

 

 

「…ああ。勿論だよ一ノ瀬君。6月30日はその、我々と一緒に来てほしくない者達が住んでいるアーコロジーを停電にし、ゲームにログインできないようにするんだよ。それで、テロの鎮圧にかこつけて警察機動隊を出動させ、そのどさくさに、ね。契約書にはこれについて書かれていなかったと思うが、どうかね?」

 

「ふむ…」

 

 

三宅は先ほどからの意趣返しをしたつもりだったので、すこし悩む素振りを見せた一ノ瀬の反応に少し上機嫌となったが、彼から帰ってきた言葉は、やはり三宅の愚かな優越感を満たすことは出来なかった。

 

 

「それ自体は契約書にはないが、計画失敗の原因となる可能性のある事象については私の指示に従って止めてもらうというのは書いてありましたよね。で、停電ですが実際に停電にするのは止めてください。エネルギーのバランスが通常と比較して崩れると、別の因果領域との通信が不安定になる可能性がある。だから“停電になるから電力を使うな”と指示を出すのは良いですが、実際に停電にはしないでください。いいですね?」

 

「………ああ、君の言うとおりにするよ」

 

 

三宅はまたも思い通りにならなかったことに苛立ちを覚えたが、相手も若造とはいえ、この国の最高権力の一画であるし、ムカつきはするが言っていることは恐らく正論なのであろうから、怒りを露わにするような真似はしなかった。

 

 

「他に質問が無いようでしたら、これで。それでは決行日は必ず0時の30分以上前からログインしていてください。その他、質問等があればチャットでお送りください」

 

 

一ノ瀬がミーティングルームから退出し、続けて他の4人も退出していく。

 

 

 

 

接続を遮断した一ノ瀬は、秘匿回線を切断すると、いつもの白衣を纏い自身の研究室兼学長室の扉の鍵を開け、廊下に出て足早に歩いていく。

 

先ほどの愚かな者達との会話を振り返り、少しだけ頭の中に、とある聖騎士の姿がよぎった気がした。

 

 

「馬鹿どもが……まあ、あちらに移動さえすれば、カネも権力も意味を成さなくなる…必要なのは知識と理解だ」

 

 

そう呟くと、彼はイガラシという協力者へコールをする。

 

 

「……もしもし、五十嵐さんですか。ちょっと住所を調べて欲しい人物がいるんですが。で、その人物の自宅を数時間だけ通信回線をシャットアウトさせて、外部からのお知らせとか届かない状態にできないですか?……そうそうハッキングですよ……ああ、理由は知らない方がいいな……で、出来そうですか?……ええ、じゃあ人物の情報は後で説明しますよ」

 

 

コールを終えて一ノ瀬は呟く。

 

 

「………昔のよしみだ。チャンスを生かすか、そうでないかはお前次第だぞ…たっち」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

7月1日。

 

 

某大学で教授をしているとある男は、やっと教授会から解放されて自分の研究室に戻ってきたところだった。

 

 

「はぁー……まさかこんなに延びるとは…老体には堪えますね……ですが学長が無断欠席とは珍しい。彼が明日出勤して来たら今日の内容を誰かが伝えないとですが、また私がやるんですかねー…もう少し年長者を労わってほしいですね……さて、もう帰りましょうか。結局ユグドラシル最終日だったというのに……あ、そういえばモモンガさんへ資料送るとか言って住所やら聞いていませんでしたね。それに職務経歴書出してもらわなければいけないからひな形を送ってあげなければ。あ、そういえばMobileの方はまだ生きていた筈ですからチャット送っておきますか」

 

 

ユグドラシルの世界で【死獣天朱雀】と呼ばれていた妖怪博士は、会議中オフにしていたスマートガジェットの電源を入れたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ユグドラシルの世界で【たっち・みー】と名乗っているその男は、6月30日は停電であるということをすっかり忘れていた。

 

元々の予定では非番であったその日は、少し遅くまで寝ていたが、遊んでほしいとねだる娘に起こされる形で目を覚ました。

 

 

「パパー、せっかくのお休みなんだから起きてよー」

 

「うーん……あ…おはよう」

 

「あ、やっと起きたー!」

 

 

ぼんやりした状態でベッドから起き上がった彼は、そのまま朝食の匂いにつられてリビングまで行き、家族で食事をした。

 

そして食後は、娘の要望で一緒にオンラインのゲームをすることになった。

 

 

「パパはいつもどんなゲームやってるの?」

 

「ん、パパがやってるゲーム一緒にやるかい?じゃあまずアバターを作らないとね!」

 

「アバター?可愛いのがいい!」

 

「うん、じゃあ天使だな!」

 

「わーい、天使ー!」

 

 

親バカぶりを発揮しながら、娘に似せたアバターの天使を作成し、一緒にログインする。

昔、妻も一緒にこのゲームを出来たら楽しいと思って誘い、彼女もアバターを作ってログインしたが、自分のアバターの姿である蟲族を目の当たりにして、妻は『ちょっと…生理的に…』と言われてしまって、それ以降妻は一度もログインしてくれなかった。

 

…あの時の轍は踏まない!

 

そういう訳で、自分は純銀の鎧を決して脱がない。

 

今日でサービス終了のゲームだ。ちょっとぐらい我儘を言っても皆許してくれるのではないだろうか。

 

そういう思いから、たっち・みーは小さな天使と共に、自分のギルドホームであるナザリック地下大墳墓へ向かうことにした。

 

 

 

「さ、この奥にパパのゲーム内のお家があるんだよ」

 

 

指差す先には、いかにも毒々しい色をしたグレンデラ沼地が広がり、ツヴェークがのそのそと徘徊している。

 

 

「……こわい」

 

「え?」

 

「パパ、あそこ怖いから、私、やっぱりママと遊ぶ」

 

 

そう言って彼の娘はログアウトした。

膝から崩れ落ちたたっち・みーは、しばらく反省した後、ギルドホームへ向かう事にした。

 

 

 

 

ユグドラシルの最終日を仲間たちと満喫していると、リアルの身体を誰かがゆする感触があった。

 

一度感覚をリアル側に向けると、自分の体をゆすっているのは妻だと分かった。

 

 

「どうしたの?」

 

「あなた、あなたのお仕事用のスマートガジェットに何度も着信が入っているのだけど…」

 

「え?!表示は?」

 

「“班長”って出てるわ」

 

「う……分かった。切り上げてログアウトする」

 

 

 

こんな日に呼び出しかぁ…

そう思って彼は、ギルマスにどうしても抜けなければいけないことを伝え、ログアウトの準備に入る。

 

兜の隙間から“大災厄の魔”を見た。

 

モモンガさんがその気なら、別のゲームに移籍して、またそこで、彼と会うこともあるかもしれない。

でも、このゲームの中で、最後ぐらいはちゃんと、彼に伝えておきたかった。

喧嘩などせずに、ちゃんと謝罪して……。

 

まあしょうがないか。

Mobileはまだ生きているらしいし、そこで連絡を取ろう。

 

そう考えて電源を落とす。

 

 

リアルに戻ってきた彼は、仕事用のスマートガジェットを確認してかけなおす。

 

 

「あ、班長お疲れ様です」

 

「タツミー!お前、ちゃんとメッセージ見とけ!」

 

「え、ホームのメッセージですか?何も入っていなかったと思いますけど…」

 

「え、マジか?自宅の方のメッセージボックスに今日は特別警戒が入ったって入れといたぞ?!」

 

「す、すいません…やっぱり入っていないですね…あ、もしかしたら今日停電とか言っていたからその影響かもしれないです。とにかく急ぎます!」

 

「ん、警察のメッセージは停電でも送れるはずだったと思うが…まあとにかく急いで024機動隊事務所まで来ること」

 

「承知いたしました!」

 

 

 

たっち・みーは、そういえば停電だって聞いていたのに何でユグドラシルにログインできたんだろう?と思いつつも、急いで詰所へ駆けつける。

 

そこには同僚たちが既にフル装備で待機していた。

 

皆、『お前が遅れるなんて珍しいな』と笑っている。

 

急いで装備を整え、班長からの指示を聞く。

 

 

「本日、このアーコロジーに対してテロ行為が発生する可能性があるとの情報が入った。皆指定の場所に待機して備えること。現場についてから次の指示を出す。なお今回の作戦は発砲も許可されているので市民の安全が脅かされる可能性があれば躊躇わず対処すること」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

日付が変わり、そのアーコロジーは混乱の中にあった。

 

“ホログラフィ”からの忠告にもかかわらず、彼らはテロを決行した。

 

厳密にいえばそのメンバーでない鈴川は、彼らの中で何があったのかは分からないが、彼らが自暴自棄になっている、あるいは、やはりこのテロは奴らに捕捉されていて、うまいこと踊らされたのかもしれない。

 

おそらくは厳戒令のようなものが敷かれていて、アーコロジーの一般住民の姿はなく、一方でかなりの数のテロリストと警察が銃撃戦をしているという混乱状態だ。

 

鈴川は、その銃撃の対象にならないように慎重に隠れながらコンタクトを取っていた元“三眼”の男を探した。

 

さきほど大きな爆発音がした方向へ走ると、そこには幾人かの者の死体があり、周囲には武装した警察官が居る。

鈴川は物陰からその死体を観察するが、その中に知り合いの顔は無い。

 

瞬間、鈴川の方を誰かが叩いた。

 

血の気が引く思いで恐る恐る振り返ると、そこには目的の男が居た。

 

 

「“ベル”、やっぱり来たのか」

 

「“ヤミ”、無事だったか」

 

「いや、無事とは言えないな。仲間は殆どやられた。俺が生きて帰っても、もう活動を再開するのは難しいかもしれないな…多分だが、仲間の中に裏切者が居た。“ホログラフィ”とか言う奴からの忠告にもかかわらず、今日の作戦決行を煽る連中が居た。そんで、来てみればこの機動隊の群れだ…いつからかは分からないが、筒抜けだっただろうな」

 

「“ヤミ”…隙を見て離脱するんだ」

 

「いや……俺はもう住所も何も奴らに特定されてるだろうから、戻ったところで消されるさ。それより、お前にこれを渡しておきたい」

 

「なんだ……ディスク?随分古いタイプだな…」

 

「ああ、ここに俺たち、いや俺が仲間にも伝えずに掴んだ、奴らのいくつかの情報がある。特にあのゲーム、ユグドラシルについて、奴らがしようとしていたことの断片的な情報と関わった者の名前がある。お前は“仲間”じゃなかったからな。たぶん奴らもお前のことはマークしていない……カギはやはりユグドラシルのMobile版だ。俺は最早退会しているしWIを持っていなかったからダメだったが、お前は可能性がある。すぐにあのMobile版を開いて……」

 

「な、“ヤミ”、どういう……」

 

 

その瞬間、声が響いた。

 

 

「貴様ら、手を上げろ!」

 

「チッ!!」

 

“ヤミ”と呼ばれた男は、とっさに鈴川の前に出て彼を庇った。

瞬間、聞こえる銃声と、弾丸が柔らかいものに突き刺さるような音。

 

「に…げろ!」

 

「…クソッ!!」

 

鈴川は形見のディスクを掴み、発砲した警官から遠ざかるように駆け出す。

背後からは銃声が続く。

 

その発砲が自分に当たったかどうかも分からない。

おそらくはアドレナリンが分泌されていて、ただただ逃走する。

 

幾つかの瓦礫を渡り、段差を飛び降りて、1キロ近くも走ったかもしれない。

 

やっとのことで、追って来る者の気配が無くなり、建物の影に身を隠し、荒い息を整える。

 

 

「ハァハァハァ……」

 

そこで初めて鈴川は気付く。

 

わき腹から血が滲んでいる。

 

どこかの時点で被弾してしまったようだ。

 

だが致命傷じゃないじゃない。

 

弾は懐のスマートガジェットに当たり、僅かながら傷が浅かった。

 

まだ、歩ける。

 

アイツに託されたものを…しかるべき所へ…

 

そう思った瞬間、声がした。

 

 

 

「動くな。手を上げなさい………ま…まさか……鈴川さん?」

 

「あ……そうか…警察だったもんな…たっちさん」

 

「う…動くな。鈴川さん……あなたもテロリスト…だったんですか?」

 

「ちがう…と言っても信じられないだろうが、俺は、知り合いがこのテロを起こすというのを、止めるために来たんだが……どうやら間に合わなかった」

 

「…鈴川さん…」

 

「それに……恐らくだが、警察の中にも敵が、いるんだろうな……だから俺は止めとけと言ったんだ…はは」

 

「な…何が……どういうことですか…?」

 

「たっちさん、このディスク。この中に複合企業や警察上部なんかの、まずい情報が入っている…と思われる。たっちさんに託してもいいかな?」

 

「まって…下さい、それは、どういう…?」

 

 

たっち・みーは受け取ったディスクと鈴川を交互に見ながら、状況を把握できずに混乱している。

 

 

「タツミ!撃て!!」

 

 

その瞬間、声がした。

 

 

「班長、その人は…!!」

 

「くっ…」

 

 

腹部から血を滲ませながら、走り出した鈴川に、“班長”と呼ばれた男が無慈悲に銃撃を浴びせた。

男は崩れ落ちる。

 

“タツミ”と呼ばれた警察官は、その光景がまるでスローモーションのように見えて、動けずにいた。

 

倒れ伏すギルメンを見ながら、それを止めることも、班長を責める言葉を発する言葉も出来なかった自分を、ただ、情けなく思いながら呆然と立ち尽くしていた。

ここで自分がテロリストの仲間と疑われ、万が一失職でもしたら、家族は…?

そう、考えてしまったのだ。

 

 

「大丈夫か、タツミ!!」

 

「はん…長…はい、大丈夫…です」

 

 

班長が駆け寄り、彼の様子を確認する。

 

 

「怪我は…無いようだな」

 

「…はい」

 

「そうか……すまないな」

 

「…はい?」

 

 

パン!

 

 

乾いた音が響き、“タツミ”と呼ばれた男の腹部から血が噴き出した。

 

 

「…班長…なぜ…」

 

「俺も……家族がいるんだ」

 

「……班…長」

 

 

もう一度乾いた銃声が聞こえた。

 

身体が言うことを聞かず、たっち・みーは地面に崩れ落ちた。

 

班長がゆっくりと近づき、彼の懐からディスクを取り出す。

 

 

「……テロリストに撃たれて殉職した…だから二階級特進で退職金も出る…お前の家族も、そう困ることは無いよう、計らう……すまないな」

 

 

ディスクを持って立ち去る班長の姿が薄れていく。

こと切れる直前、微かに声が聞こえた。

 

 

「……っちさん…」

 

目線だけで声の方に意識を向けた。

その声は、さっき、自分が見捨てたに等しいギルドの仲間のもの。

 

 

「スマートガジェットが…生きているなら……ユグドラシルを…開け。俺のは……銃撃で壊れてしまったから…ダメだが……たっちさんのは……」

 

 

たっち・みーは殆ど反射的に、その声に従いプライベートのスマートガジェットを取り出す。

血に汚れたそれは反応が鈍く明らかに故障しかけていたが、それでも何とか、家族と一緒に写った写真の背景の中にアプリをアイコンを映した。

 

樹のマークと大きな“Y”が記されたアプリに、血の付いた震えた指で触れる。

 

 

「た……ちさん……まかせた…ぜ…」

 

鈴川は、仲間の身体がゲームのバグで見られるモザイクのようなものに包まれる様子を見たのを最後に、その意識は闇の中に沈んだ。

 

 




ベルリバーさん、ごめんなさい。

次話から8章が始まります。
8章はストーリーの都合上、全体の半分ほどが原作には明確には出てきていない場所や亡国の場所が舞台となるので、怒られない程度にぼかして捏造しながら、私の妄想と共に進めます。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。
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