オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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8章が始まりました。

まさかこんなに長くなるとは…
素人が、頭の中の話を文字にするのって大変ですね。

よろしければ引き続きお付き合いいただければと思います。


第8章 第1話 -謎の行商人-

 

 

イビルアイは、とある廃都に降り立った。

その場所は、嘗て、本当に遠い昔、彼女が暮らしていた街、その外れ。

 

どうせ誰も居ないことは分かっているその場所では、彼女は自らの仮面を外している。

 

嘗て馴染んだ景色は失われ、最終的にその都は13英雄の大神官と呼ばれた仲間が中心となって神聖魔法で清められ、新たにアンデッドは生まれないようになっている場所。

 

しかし、そのまま時は止まり、景色はあの日のまま。

壊れた家屋と、瓦礫が散乱する廃都。

周辺国家のほとんどが滅びたために、この廃都を含めて周辺には生物が棲まない場所。

 

の、はずだった。

 

 

 

「……は?!」

 

 

 

イビルアイは目を疑った。

 

瓦礫は概ね綺麗に片づけられ、中くらいの小屋が幾つか立ち並んでいる。

 

明らかにヒトの手が入った状況。

 

小屋に入ってみると大量の牧草が詰め込まれていて、その横には農具と思われるものが手入れされた状態で並んでいる。

 

 

 

「なんだ……この状態は…?」

 

 

 

イビルアイの脳裏には、一瞬だけ遥か昔の記憶が蘇った。

この感じは……そうだ、まだ私が人間だったころ。

 

母と…そうだ、ナスターシャと共に見学した民の、農民の倉庫。

それにとても良く似ている。

 

 

しかしイビルアイはすぐに首を左右に振った。

いや、何を考えているんだ、私は。

そんなはずは無いだろう。

 

この土地は最早インベリア王国のものではない空白の場所。

 

周囲がアンデッド多発地帯だったから誰も住まなくなって久しかったが、もしかしたら物好きな者やある程度のことに対処できる強者が、住居として利用し始めたのかもしれない。

 

 

 

「そうなると、むしろ私が不法侵入者か……もし住人に出会ってしまったらマズいかもしれないな。仮面はつけておいたほうが良いか…」

 

 

 

ガチャリ。

フラグが即回収され、若い男が小屋に入ってきた。

 

 

 

「うひゃあ!!」

 

「おわっ!!」

 

 

 

若い男が尻もちをついた。

イビルアイは咄嗟に『しまった』と思った。

 

紅い瞳。

アンデッドあの証たるその瞳が、見た感じ明らかに人間種のこの男に見られた。

 

戦いに——いや、殺し合いになってしまうかもしれない。

 

イビルアイがそう考えた瞬間、男は尻もちをついて後退りながら震える声で言葉を発した。

 

 

「あ…あんた、まさか、クネヴィラさんか?!」

 

「……は?……いや……違うが…」

 

「な、じゃあアンタは誰だ?おいらはここの農作業を担当してるもんだが…」

 

「いや…その……旅人だ…すまないがクネヴィラという者は知らない」

 

「なーんだ、そうか。アンデッドみたいだし、もしかしたら行方不明のクネヴィラさんかと思っただよ。すまんな旅人さん、驚かせて」

 

「は……いや……私はアンデッドなんだが、驚かないのか?」

 

「ん?いや最近は国にもアンデッドのヒト増えてきたし、今のおいらはヒュエイオーン様んとこで働いてるしなぁ。あんたもそうだが、ちゃんと会話が成り立つヒトはアンデッドでも最近は別に気にならんなぁ」

 

「すまん……ちょっと、ちょっと待ってくれ……ヒュエイオーンはあの巨神人(タイタン)のナイトリッチで合っているか?」

 

「そーだよ?」

 

「そのヒュエイオーンは、お前みたいな人間種の者を雇っているのか?」

 

「ああ、そうだよ。あ、そうかあんた旅人だから知らないんだな。ここ1年くらいでヒュエイオーンさまとおらが元々住んでた城郭都市、それとエナ多種同盟国や他のいくつかの国が交易を始めたんだよ。そんで、この場所は昔はクネヴィラさんていうナイトリッチが住んでたらしいんだが、最近トンと見ないから、ヒュエイオーンさまがこの周りの放牧場のための倉庫として利用するって話になって、そんで農業の事が分かるおらみたいのが引き抜かれて、この倉庫とかを作ったんだ」

 

「…放牧?…交易??……えっと…何を放牧しているんだ?ヒュエイオーンは家畜は食べないんじゃないのか??」

 

「ああ、交易で必要だから家畜を飼育していて、ヒュエイオーンさまは代わりに魔導書や魔法のアイテムなんかを仕入れているみたいだな。家畜は主に羊だよ。そうだ、もう少し南に行けば羊のミルクを使って作ったチーズなんかを買える自由市もあるよ」

 

「そ……そうか。参考になった。いや…むしろ勝手に倉庫に入って済まなかった…その……昔ここに来た時はこの建物は無かったから、気になって入ってしまったんだ。あなたの話を聞く限りだと、エナ多種同盟国なんかは、私みたいなアンデッドが行っても大丈夫なのか?」

 

「ああ、まあ時々怖がる人もいるかもだけど、今更会話がちゃんとできるアンデッドを迫害するような人はいねーと思うだよ。むしろ食料品の交易相手として歓迎されとるからなー」

 

「そうなのか……随分と変わったんだな、この辺は……」

 

「そうだねぇ。おいらが子供ん時はアンデッドは見たら逃げろ、だったけど、今は随分と安全になったからね。あーそう言えば旅人さん、もしこれからの旅先でクネヴィラさんてアンデッドに会ったら、この場所を倉庫に使ってるって言っといてくれねーかな」

 

「あ…クネヴィラというのもアンデッドなのか……まあもし会ったら言っておく。お前のことを言えばいいか?」

 

「いんや、ヒュエイオーンさまが言ってたと伝えてくれるかい。勝手にこの場所を使っちまってるからばつが悪いと。交易で利益を得ているからちゃんと筋を通しておきたいと仰っとるんだよ。“商売は三方よし”っていうらしいだよ。おいらには意味は分からんけど」

 

「そうか……なんか…ちゃんとしている奴だったんだな…うん、もし会ったらちゃんと伝えよう」

 

「助かるだよ」

 

 

 

イビルアイはしばらくふらふらと歩きまわり、元実家があった街の現在の様子を見て回った。

 

旧王城に続くエリアにはちゃんと柵が作られていて、『この先はかつてこの地に住んでいた者の居住区並びに遺跡であるので、敬意をもって決して立ち入らぬこと——ヒュエイオーン』と巨大な看板に書かれていた。

 

こっそりと忍びこんで中を確認したが、中は手つかずであの日のまま保存されている状態だった。

 

 

 

「なんか…何だこれは……どうなっているんだ……ババァに…いっそパルメーラに……いや、もう少し情報を集めてから相談しよう……一度エナ多種同盟国に行ってみるか…」

 

 

頭の中を混乱させながら、その吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)は南へ進むことにした。

 

 

 

数キロほど進むと、そこには幾つかの家屋と、露店が立ち並ぶ、比較的活気がある集落を見つけた。

入り口には『カマリ交易村』と書かれている。

 

 

「こんな村、無かった筈だが……いや、さっきの男が言っていた自由市というやつか?」

 

 

念のため仮面をつけた入ろうか迷ったが、遠くから村の様子を覗くと明らかにアンデッドが買い物をしている。

店主は人間のようだが、その者も特に気にせずに魔道具に説明をしている。

 

 

「……このままで行ってみるか」

 

 

イビルアイは思い切って仮面をせずに村に足を踏み入れた。

 

 

「お、そこのお嬢ちゃん!お遣いかい?」

 

 

声を掛けてきた露店の店主は、店先にチーズなどの乳製品を並べている。

イビルアイの脳裏に、嘗ての記憶が一瞬よぎった。

が、次の言葉で思い出は霧散した。

 

 

「…ん、アンデッドか?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、イビルアイは後悔をした。

やはり仮面を外すべきでなかったと。

最悪戦いになる…身構えたが、それに続く店主の言葉は想定外だった。

 

 

「ごめんごめん、チーズは食わないよな!魔法のアイテムとかスクロールの店はあっちだよ!」

 

 

イビルアイは面食らった。

店主も、その露店にいる他の客も、誰もイビルアイを警戒していない。

寧ろ店主は、彼女がアンデッドであると気づいて、アンデッドが買いそうなものが売っている店を親切に教えてくれた

 

 

「あ……ありがとう。だが、人間の仲間にお土産を買いたいんだ。買うのは今日じゃないが、少し商品を見てもいいだろうか」

 

「おう、勿論だぜ!おすすめはな、脂肪が多い冬の羊乳だけで作って半年ほど寝かせたこのハードタイプでな……!!」

 

 

今はもう食べても美味しいとは感じないだろう、そのオレンジがかったチーズは、遥か昔の記憶を呼び覚ますとともに、仮面をしていない状態で、こんなに普通に露店の商品を見るという行為に、なんだか、言いようのない気持ちになった。

 

 

「帰りに……買わせてもらうよ。きっと、仲間も喜ぶ」

 

「おう!忘れずに寄ってくれよ!!」

 

 

チーズ屋の後は武器屋を覗いた。

それには訳があり、おそらくは南から流れてきたと思われるカタナや、カタナよりももっと小型の投げナイフなどが取り扱われていて、チームの双子忍者へのお土産はこちらの方がいいかもと思ったからだった。

 

 

「店主、これらの武器は随分と珍しいものだと思うが、やはり南から流れてきたのか?」

 

「いや違うよ?…もしかしてお嬢さんはこの辺のヒトじゃないのか?」

 

「ん…ああ、実を言うともっとずっと北から旅をしてきたんだ」

 

「ああ、やっぱりね。この辺りの武器は半年くらい前から流行っていて、ほとんどはスルクー3で作られたもんだよ」

 

「そうなのか……私が知っている頃とだいぶ変わったんだな」

 

「ああ、お嬢ちゃん。アンデッドみたいだし、長生きしてるんだろうね。昔はこの辺に住んでたのかい?」

 

「あ……ああ。まあそうだな。少なくともこの村は無かったと記憶している」

 

「この村が出来たのもここ1年だしね。この辺りの国々で交易が盛んになって、売るものが増えてきたから自然とできたって訳さ。最初の頃は、何とかっていう名前の行商人がよく来て、商品を色々と卸していったんだ。その行商人がよく珍しい武器やアイテムを仕入れていて、これらの武器もその行商人が取り扱っていたことから流行りだしたらしいよ」

 

「なるほどな…いや、私の仲間に忍者が居るから、土産に買っていってもいいかと思ったんだ。その行商人は今も来るのか?」

 

「いやぁ最近はとんと来ないな。色々な土地を渡り歩いて商売をしているとか言ってたからね、今は別の街に移っていったんだろうさ」

 

「成程な。私は旅の途中でこの後は南に方へ行くつもりだけど、帰りに寄れたらここにまた寄るかもしれないから、その時に土産に買わせてもらうかもしれないな」

 

「ああ、待ってるよ」

 

 

 

どの露店でも、例の行商人の話は聞くことが出来たが、皆記憶はあいまいで名前を憶えている者は居なかった。

それに男1人だったとか、男と女の2人だったとか、顔も印象に残る感じではなかったとか、記憶はバラバラで、もしかしたら複数の行商人の記憶が混ざってしまっているのかもしれない。

 

イビルアイは一通り露店を見ると、その足でさらに南に進むことにした。

とりあえずインベリア城のことはヒュエイオーンとやらに言っておいた方がいい気がするし、過去の記憶と異なっていると思われるエナ多種同盟国も覗いた方がいいと考えたためだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……恐怖(フィアー)さま。こちらご要望の品でございます。いかがですか?」

 

 

大陸南端部に近い、とある屋敷にて。

黒目黒髪の男が、一体のナイトリッチと会話をしている。

 

その男——恐らく彼は商人であるのだろう。

商人として十分な程度の笑顔であるが、不思議とその顔は印象に残らない。

 

男は隣の女——おそらくは彼の元で働く者——に包みに巻かれた幾つかのスクロールを渡し、女はナイトリッチの前でその包みを広げる。

 

印象的なのは、その女は男と比較してとても目立つ美人であり、しかし一方で冷淡な表情を浮かべたまま一切喋らない。

 

 

「…違うな」

 

 

ナイトリッチは広げられたスクロールを一瞥し、しかしスクロールには手を伸ばさない。

 

 

「行商人、確か…ウィードと言ったか。俺が欲しいと言ったのはお前が腰につけているソレ。その途轍もない魔法力を秘めたその巻物よ」

 

 

女の方がピクリと動いたが、その瞬間、ウィードと呼ばれた行商人が言葉を発し、女の動きは止まる。

 

「恐怖(フィアー)さま。何度も申しておりますが、これは非売品です。申し訳ありませんがこちらは売れないのです」

 

 

その行商人の答えに、恐怖(フィアー)は明らかに不満そうに、その赤い双眸を光らせた。

 

 

「ふん……ならば行商人、お前はこの屋敷からは出られぬ。噂の行商人は、この恐怖(フィアー)様の屋敷で商売をした後、何処か後に旅立って行方知れず…そういうことになるだろう」

 

「それは困りますねぇ」

 

 

剣呑な空気が流れた。

そして、次の瞬間。

 

「グゥッ!!」

 

恐怖(フィアー)の持つ杖がピクリと動いた次の瞬間に、女の拳が恐怖(フィアー)に顔にめり込んでいた。

 

 

 

「うわ、やっちゃたか」

 

「はっ…!こっ……これは…申し訳…!」

 

「あー…もういいよ。コイツは駄目っぽかったし。まあ1回目は我慢してたみたいだし、成長した、ということにしておくか」

 

 

突然雰囲気が変わった2人の行商人の様子に、恐怖(フィアー)は混乱する。

 

 

「な……なんだ貴様ら…??!」

 

 

実際のところ、女の拳のスピードには驚いたものの、威力はそこまででもなかった。

 

訳が分からないがとにかく、恐怖(フィアー)は再び杖を構え、行商人たちの自由を奪うべく魔法を唱えようとした。

 

だが、次の瞬間。

恐怖(フィアー)の視界は上下が反転する。

 

 

 

「ざんねーん」

 

「は……え…??」

 

 

 

少し遅れて理解する。

自身の首が刈り取られ、上下が反転しているのだ。

そして弱いはずの行商人の男を見ると、その姿は先ほどまでとは異なり、布で顔を撒き、目立たない色の、しかし明らかに高レベルの装束で包まれている姿。

 

 

「ナーベラル、静かに処理」

 

「はっ!〈魔法二重化・魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)〉・〈連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)〉!!」

 

 

光り輝く龍雷が、恐怖(フィアー)の身体を包み込み焦がしながら、そのアンデッドの偽りの生命の火を消した。

 

余りに強い雷は床を焦がし、一部からは火が上がっている。

 

 

「静かにって言ったじゃーん…」

 

「あっ…申し訳ありません!!」

 

「ま、いいや。さっさとこの屋敷のお宝を頂こう」

 

 

 

忍び装束の男と、これまたクノイチのような衣装に身を包んだ女が、屋敷の中を素早く動き回り、隠し扉の先の金品を奪っていく。

 

 

ものの10分ほどで、2人は屋敷から脱出し、やがて屋敷は先ほどの雷でついた火に包まれていく。

 

 

 

「はぁ…まあ、この屋敷は人里から離れてるし、コイツは領地経営ちゃんとやってた感じじゃなかったから消えちゃっても何とかなるでしょ。でも、さっきみたいにいきなりキレるのはもうちょっと我慢できるようにならないとな」

 

「もっ…申し訳ありません!」

 

「いやま、オレが設定したからさ、強くは言えないけど…とりあえずこの辺りでは大分商売をしたし、アイツがため込んでた金品でこの世界の通貨の路銀もだいぶ集まったから、次の場所行こう。なんか北は砂漠とか言ってたから、東の方に進んでこうか」

 

「はっ畏まりました!!」

 

「じゃあオレはまた商人に戻って、市井に溶け込む草(ウィード)になる。お前はオレに仕える従業員だ。そこんとこ忘れないように」

 

「畏まりました!!」

 

「引き続き人前では喋らないようにな」

 

「畏まりました、弐式炎雷様!!」

 

 




忍者が、忍者ロールプレイをしながら二つ目の種族と職業を選ぶとしたら何にするか…
考えた結果、「草」として商人になり街に溶け込むのではと考えました。

最初の方はキーノちゃんがたくさん出てきますが、シュガーにはなりません。
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