オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
ですが弐式さんにとっては地獄かもしれないです。
「そうか。ということはお前は、嘗てあの地を治めていた人間だったアンデッドか。ということは探していたクネヴィラはむしろその後に勝手に住み着いていた者と考えた方がよさそうだな…そうなるとやはり俺があの場所を倉庫小屋として使用しているのは些か問題があるな…」
「あ、いや。あの場所は、話したようにもはや誰も住んではいなかったし、インベリア王国は知っての通り滅んでいるからな…だから、あの城をそのまま保存しておいてくれるのであれば、今のまま倉庫として使用して構わない」
「む、そうか……正直、ありがたいな。俺としても交易資源として、乳製品や家畜などは確保しておきたいところだからな。だが今まで無断使用していたし、タダというのは良くないであろう。なにか…そうだな。エナ多種同盟国か人間の国で使用されている金貨を渡すべきかな」
「金貨は…正直私は間に合っているし、言ったようにあの地は最早私がどうこう言える権利はない。特にそいう言ったものはいらんよ」
「…そういう訳にはいかん。“タダより高くつくものはない”という…らしい。あの地を確かに使用させてもらっているという証明と…俺自身の精神的な安寧のために、あの地の元の権利者として最もふさわしいお前に対価を支払わせてくれ」
「いや……うむ……まあ、わかった。それならば情報を貰えると有難い。私は、先ほど話したように、嘗て滅んだインベリア王国の国民を、何とか救える方法が無いか…あるいはそれが無理でも、嘗ての民達の魂の安寧のために出来ることは無いか探している。そういったことに対して何かヒントになりそうな情報や、アイテムなんかがあれば教えて欲しい」
「うむ、分かった…と言っても今すぐ提供できるようなアイテムなどは、残念ながら持ち合わせていない。ただ……お前にとって役立ちそうな情報は多少心当たりがある」
「ほっ…本当か?!」
「精緻な情報ではないので、結果的に役に立たないかもしれないが…お前は所謂“聖域”などと呼ばれている場所を知っているか?」
「“聖域”?…例えば何らかの宗教などを信仰する者達が、何らかの理由で定めた場所のことか?」
「いや、そういう類のものではない。呼ぶ者が異なれば、それは“神域”やあるいは“魔域”などと呼ぶ者もいる。つまりは、通常の手段では立ち入れないような場所のことだ。そういう場所には人知を超えた力を秘めたアイテムや何らかの存在が潜んでいると言われている」
「それは……折角教えてもらってこんなことを言うのは何だが、所謂、その土地の御伽噺や夢物語の類ではないのか?」
「…俺もそう思っていた。だがここより東に数十キロ先に行ったところに、真に長らく“聖域”と呼ばれた場所があって、そこは誰も立ち入ることが出来なかった…ほんの1~2年前まではな」
「成程…その場所に侵入することに成功し、何らかのアイテムを見つけたのか」
「いや、俺ではない。俺も長らく存在を知りながら、立ち入ることは叶わなかった。立ち入った者は……いや、正確には分からない。分からないが、確かに立ち入った者が居て、その者は幾つかの超級のアイテムを見つけた。そしてそのアイテムは、巡り巡ってある商人が手に入れ、その商人が俺のところへ訪れたのだ」
「夢物語ではなかった、ということか。それで、その商人とやらからアイテムを購入したのか?」
「ああ。と言っても、その聖域で見つかったという一点もののアイテムは売ることは出来ないということで、幾つかのスクロールや魔導書、それに珍しい効果が付与された武器などを仕入れた。お前にとって残念だろうが、その中にインベリア王国に役立ちそうなものは無かったが、だが、俺が言いたいのはそういった“聖域”の中には、お前にとって価値のあるものがあるかもしれないということだ。そこ以外の聖域の場所について、俺が知っているものを教えよう」
「なるほどな…いや、確かに有益な情報だと思う。何も情報もない手探りな状況がもう100年以上も続いていたから、今までに比べればはるかに意味がある内容だ。にしても…なんだろう。気を悪くしないで欲しいんだが、その商人とのやり取りといい、家畜を用いた交易といい、随分とちゃんとした考えを持っているんだな。私も…アンデッドだから良く分かるが、多くの意思を持たない他のアンデッドは生きている者を憎み、ましてや交易など聞いた事が無かったからな」
「ふ……まあな。その“商人”のせいかもしれんな。例の聖域から持ち出したアイテムを販売する交渉のためにこの場所に来たそいつは、ナイトリッチである俺のことを恐れる様子もなく、まるで遥か昔からの友人のように、するすると俺の懐に入り込み、気がつけば交易などを始めさせられてしまった…まあ、結果お互いが得をすることになったし、今ではこの辺りでは、意思を持ち対等な交易を持ちかける俺のようなアンデッドは、生者に受け入れられるまでになってしまったからな…恐らくはあの商人、俺にやったのと同じように、他の者、アンデッドだろうが生者だろうがお構いなしに、声を掛けていったのだろうよ」
「…この辺りの変わり様、まさかその商人とやらが1人で為したというのか…?!そいつは…まさかとても強い力を持った者だったか?」
「力?…いや、少なくとも俺には、アレはただの人間に見えた。特段目立つ顔でもなかったし、服装もこの辺りに居るようなただの人間だった……恐ろしく口は上手かったがな」
「よく…分からん奴だな。まあ、時としてそういう商人としての才能に恵まれた奴もいるということか。ちなみにその者は何て言う名前か聞いているか?」
「ああ、確か名は“ウィード”だったか。他にもう1人、女の従業員が居たが、そいつは一言もしゃべらなかったし名前も聞いていないが、ともかくそんな2人組だったな」
「“ウィード”…か。もし旅先で会ったら、あんたに教えてもらったと言っていいか?聞いた話では様々なアイテムを持っていそうだから、それこそ交渉をして、私の目的に合うものがあれば買いたい」
「ああ、勿論だ。もし会ったら、また面白いものを売りに来てくれとヒュエイオーンが言っていたと伝えてくれ」
「承知した」
そんな会話の後、イビルアイはヒュエイオーンから所謂“聖域”と呼ばれている場所を教えてもらい、ヒュエイオーンの屋敷を後にした。
久しぶりに訪れた故郷やその周辺が様変わりしていた理由について、概ねヒュエイオーンから聞いた内容で理解が出来た気がした。
いつだったか、リーダーと同じ故郷を持つというパルメーラの態度から、いつの日か仮面をせずに暮らす日が来るかもしれないという遠い夢を見た日に事を思い出したが、果たしてその日々は思いがけず早く訪れた。
気がつけば、インベリア王国の廃都に転移したときから、仮面をつけずに行動できていしまっているのだ。
「ふっ……なんか…不思議な気分だな……ヒュエイオーンという者、名前だけは知っていたが、こんなに普通に話せる奴だったとはな。まあ
小さな
あのウィードとか言った商人———確かに力を感じなかったし、イビルアイと名乗っていた者に言ったことに嘘は一つもない。
“駆け引きはしても、商売相手に嘘はついてはいけない。誠実さが無くなれば、結果的に商売は上手くいかず、損をするのは自分自身だ”
ウィードが言っていたことをそのまま実践した形だ。
だが、あの商人……本当は何者なのだというか……。
力は感じない、というか不気味なほど、
なのにアイツは、ナイトリッチの俺を恐れる様子は皆無で、何度もこの屋敷に足を運んでは幾度も幾度も商売をしていった。
俺はアイツが時折口にしていた、商売の心得のようなものを覚えてしまうほどだというのに、アイツの顔はとんと思い出せない。
そしてあの従業員の女……最初あいつらが訪れた時、正直脅してアイテムを奪ってしまおうかという思いが頭をよぎった。
だがその瞬間、あの無表情な女から、言いようのない殺気が溢れた気がしたのだ。
そして直後、ウィードが女の肩を軽くたたくと、その殺気のような気配は霧散して、普通の、不気味なくらい普通の、商談が始まった。
あの時、もし仮に判断を誤っていたら……。
いや、そのような事を考えるのはやめよう。
そしてアイツのことを深く詮索するのもやめよう。
結果だけを見れば、俺は非常に有意義な取引が出来る商人と知り合えたし、そのおかげで様々な魔道具や、周辺の者達との健全な交易も始められ、この辺りに住む知性あるアンデッドたちも非常に暮らしやすくなった。
それでいいじゃないか。
ドラゴンの尾を踏む必要はない。
長年この付近で活動していた“深淵なる躯”と思われる者達の姿が、ここのところ見えないのも気にしないでおこう。
アイツが現れた時期は、“深淵なる躯”が見えなくなった後だが……いや関係あるかもしれないし無いかもしれない…俺にとって害になていない現状、それは
「さて、今年のチーズを仕込む時期が近付いてきたな。雇った者達の中にいた職人の意見を参考にして蔵を作る準備をするか……ふ……我ながらアンデッドにあるまじき考えだな」
***
「…おっ、集落が見えてきたな。この辺りからはスピードを落として普通の人間に見える速度で歩ていくぞ」
「はいっ!弐式炎雷様!!」
「んじゃあ、街に入ったらまた喋らないように、それと、街の住人が無礼なことを言ったりやったりしても、けっして手を出さず、魔法も使わずガマンするんだ。この姿でもオレは殆どダメージは受けないから安心しろ」
「畏まりました!」
“ウィード”こと弐式炎雷は、アイテムボックスの中を確認し、この世界の通貨と、商人として見せても構わないアイテムをチェックする。
弐式炎雷は、この世界に来て既に1年以上が経過しているが、すでにここはおそらく異世界で、かつユグドラシルのプレイヤーやNPCが転移してきていることを理解している。
だから行動方針は、とりあえず商人として路銀を貯めつつ、この世界に来ているかもしれないAOGの仲間を探すことである。
この世界に来た当初は混乱の極みだった。
アバターの姿で見たことない場所に居るし、ユグドラシルと同じように忍術が使えるし、そして極めつけはNPCのナーベル・ガンマが隣に居て、喋り、行動し、絶対服従である。
状況が理解できずとも、とりあえず行動しなければと周囲を歩き回っていると旅の途中の人間がアンデッドに襲われているところを見つけて、何となく助けたところその者からこの周囲の街のことや、ある程度の常識について情報を得ることが出来た。
そこからは人間の商人として行動しながら、旅人に教わった“聖域”というダンジョン?について興味が出たため、そこへ向かうことにした。
その場所は、文字通り誰一人立ち入ることが出来ない“聖域”といわれていた。
だがどういう訳か、弐式炎雷とナーベラルは特に問題なくその領域に足を踏み入れることが出来た。
領域の境界を越えるとき、持っているワールドアイテムが少しだけ光ったことに2人は気が付かなかった。
聖域の中心には白骨化した死体と散乱するユグドラシル産アイテム。
そして殴り書きされた日記のようなもの。
日記からは、家族を置いてきた元のリアルとは違う異世界での生活が耐えられないこと、リアルな殺し合いが常であり、リアルなアンデッドに狙われる状態も精神的に耐えられないこと。
そして人間以外の存在になるなんてとても耐えられないことが読み取れた。
そして偶々持っていたワールドアイテムによって、他の誰も立ち入れない場所を作って、その中で眠りにつくという記述が最後だった。
白骨の指には、アンデッド化を防ぐ指輪と、
商人のスキルで鑑定すると、その効果は『発動すると一定の領域に指定した者以外が立ち入れなくなり、一方でその領域ではあらゆる魔法の行使が出来ず、また生産も行えない』というものだった。
弐式炎雷は、その白骨化した元プレイヤーの意思を理解し、アンデッド化を防ぐ指輪は外さないまま、墓を作って丁重に葬り、もはや持ち主が居ないそれ以外のアイテムは貰うことにした。
この出来事が決定的となり、弐式炎雷は自身の状況を概ね把握したのだった。
辿り着いた集落は、旅人が行き交うルートの途中に作られた、言うなれば宿場町のような場所だったので、弐式炎雷は宿を確保し、ナーベラルと共に部屋に入る。
「ナーベラル、部屋の音が外に漏れないように
ナーベラルは片膝をついて頷くと、魔法を唱え、その後は再び家臣の礼を取る。
「だから、そんな畏まらなくていいって…まあとにかく、今日はここに宿泊だ。楽にしてていい。俺は食事を貰って来るから部屋で食べよう」
「はっ!そのような雑事、私が!」
「あー…いや、大丈夫。メシ貰いながら宿の人から情報収集して来るからさ。そういうのはホラ、俺のが得意だし、それに見たところ俺にダメージ与えられるようなレベルのヒトいなかっただろ?だから大丈夫。ナーベラルは着替えて待っていてくれ」
「しかしっ……いえ、畏まりました。何かあればすぐにお伝えください!」
「うんうん、じゃあ」
部屋を出て1階のカウンターへ向かいながら考える。
人前で喋らせない、言われたこと以外はしない、これはここまでの旅でのナーベラルの行動から導き出した苦肉の策だった。
どんなに言いつけても、彼女は焦ると自分のことを偽名の“ウィード”ではなく“弐式炎雷様”と呼んでしまうし、少しでも相手が無礼な行いをすると殺気を飛ばして場合によってはいきなり魔法をぶっ放す。
確かに彼女をそう言う風に設定したのは自分だ。
だが、まさかこんな風に、フレーバーテキスト通りの設定のまま動き出すなって予想できなかったのだ。
ユグドラシルサービス終了の1年と少し前だったか。
ぷにっと萌えさんの提案を受けて、何人かのNPCのカルマ値が見直された。
他のプレイアデス作成者は特にカルマ値変更をしないと言っていたが、弐式炎雷はぷにっと萌えのいうことも一理あると考え、ナーベラルのカルマ値を含めた設定を変えるか少し悩んだ。
7姉妹のうち前線に出る6名のカルマ値を考えた時、平均をとっても悪に大きく傾いているのは事実で、他の姉妹が変更されないならばナーベラルを善側にしてバランスをとるのもあるかと思ったのだ。
何より、思い入れのあるナーベラルが、カルマ値のせいで瞬殺されるのは可哀そうだと思ったのだ。
だがそこで引っかかるのはフレーバーテキストのこと。
(ビルドは全然違うが)クノイチのように和風美人なのに滅茶苦茶口が悪く何なら罵ってくる設定は、なんと言うか、フフ…。
要は、弐式炎雷の癖に刺さる設定だったのだ。
だから罵倒のレパートリーを増やすために、わざわざ絶滅した生物も載った電子図鑑を買い、昆虫の名前を調べたりもした。
悩んでいると、何処から聞きつけたのか、
「弐式さん。あなたのお悩みは私の癖と通ずるものがあります。どうでしょう。カルマ値を善にしつつも、あなたの癖に刺さる形のままになる様に設定を変えては?」
弐式は
その結果出来上がったのは、『主に心酔していて敵対者には容赦なく、カルマ値は善で根はいい子だけど、口はめっちゃ悪くて誰彼構わず罵倒して来るポンコツでドジでおっちょこちょいのニンジャかぶれな魔法詠唱者』という業の深いものだった。
弐式は正直、この和風美人さんに罵倒されながら××をする妄想を捗らせなかったというと嘘になるが、茶釜さんやその他の女性メンバーの手前、それを口に出すことは無かった。
そしてその癖の塊が動き出して、そして自身に心酔して献身的に尽くしてくれる様に、色々と、色々と思うところはあるのだが、
あれはあくまで
そう自分に言い聞かせながら、ナーベラルの失態には目を瞑り、同じ部屋に宿泊するときも努めて彼女には近づきすぎないようにしている。
ちょっと我慢がヤバいことになった時は、ハーフゴーレムの姿に戻って心を落ち着けている。
だがハーフゴーレムは異形種ではあるが、あくまでゴーレムは
そういったアレを発散するためにも、例の“聖域”のようなダンジョンもどきを見つけたら、ためらわず冒険をすることにしている。
「ふう……よし、落ち着いてきた。メシ貰ったし、部屋でナーベラルと食べるか」
弐式が部屋のドアを開けると、そこにはサラシに褌姿のナーベラルが、真に着替え中だった。
これらは『ニンジャかぶれ』という設定のために、意味もなく彼女に持たせていた装備であったが、彼女的には崇拝する創造主様から下賜された物なので大切にしていて、商人として行動するときの下着となっている。
宿などの私室などでは、本来の職務を全うするためにメイド服を着ているのだが、今はその着替え中だった。
なお、この着替えドッキリイベントは初めてではなく、これは『ドジでおっちょこちょい』という設定により発生しているのだが、弐式はまだ気づいていない。
弐式は笑顔でドアを閉めて、彼女が着替え終わるまで廊下で待つことにした。
心の中のバードマンが親指を立てながら、光り輝いている。
『やっちゃえ☆NISHIKISAN』
『ふざけんな娘に手ェ出せるかエロバードマンがァ!こちとら限界ギリギリなんじゃ!!お前はヘロヘロさんを見習えよ!!あんだけメイド好きを公言しときながら、シモ発言は一切なく、ソリュシャン・イプシロンの扱いは娘を愛でる父そのものだっただろうが!俺が目指してんのはあの領域なんだよ!』
心の中のバードマンの幻想に怒りをぶちまけたところで、弐式炎雷は一つ深呼吸をし、ノックしてゆっくりと部屋に入る。
ナーベラルはメイド衣装に身を包み、完璧な礼を取って弐式炎雷を迎える。
「お…御見苦しいところ、大変申し訳ありませんでした」
ナーベラルは頬を赤らめている。
弐式は心の中で『そういうところだぞ』と呟き、食事を始めるのだった。
彼がヘロヘロに出会って、彼の所業を理解したとき……いや、まだそれは考えないでおいた方がいいだろう……。
転移してきた人の中には、きっとこんな風に異世界での暮らしに耐えられない人もいると思うのです。
それはそれとして、ヘロヘロさんは多分色々な人から殴られるでしょう。