オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
立っていることも座っていることも辛くて、しばらく本業の仕事もまともにできない状態でしたがやっと回復してきました…
その
「俺が生まれる前の話だ。なんでもここら一帯は一度滅んだ…いや、理由は分からないが住人の多くがアンデッドになって何処かへ消えてしまったということだ。その元凶はどうやらあのケイテニアス山にいる竜のような存在だったという。だが、その存在はもう居ない。なぜだと思う?」
男は巨人用の樽のようなジョッキに注がれたエールを口に含み、一つ息をついた。
話相手の者が『分からない』というジェスチャーをすると、男はニヤリと笑って言葉を続ける。
「倒されたのさ。それも人間を中心とした集団に……まあ御伽噺に聞こえるかもしれないが、これは事実だぜ。俺の父は実際にその集団と話したことがある。集団の中には
男は、話相手から勧められたチーズを旨そうに齧ると、さらに話を続ける。
「そういう訳で、その凶悪なモンスターは倒されたが、アンデッドになって消えてしまった者は戻らず、聞いた話だと、その者達はその後もケイテニアス山に残って、そういう訳であの山は誰も立ち入れない、意思なきアンデッドの巣窟になっちまったという訳だ。この街、スルクー3や近くの街は、その後ゆっくり時間をかけて再び住人が増えていったが、やはりあの山から定期的に溢れてくる意思なきアンデッドのせいで、交易とか、食料確保とかは難しかったってのが実情さ…だが、そんな状況が変わったのが、そうだな…だいたい1年位前か」
男はジョッキ残ったエールを煽ると、追加で注文をする。
「理由は分からないが、アンデッドが減ってきたんだ。いや、本当に理由は分からん。それでこの街の当時の都市長に当たる侯爵が、あの有名なナイトリッチのヒュエイオーンと交渉を始めたというニュースが舞い込んできた。最初は皆驚いたさ。なんせアンデッドは恐ろしいだけの存在か倒すべき存在だって思っている者が殆どだったからな。あ、いや、気を悪くしないでくれよ。当時はって話だ」
男は新しいジョッキを受け取りながら、話相手の顔を観察し、その者が怒りなどの悪感情を覚えていないことに安堵すると言葉を続ける。
「それで、そこからは話がどんどん進んでいった。侯爵もヒュエイオーンも、もはや野良の意思なきアンデッドはほぼ存在しないし、ケイテニアス山のアンデッドはいなくなったという。それで、今後はヒュエイオーンの領地やこの都市、それにエナ多種同盟国の他の都市とも交易を活発化させていくというんだ。何ならヒュエイオーンは家畜を飼って乳製品なんかを卸すという。流石に最初は耳を疑ったね。だってナイトリッチが自分で食べない家畜を飼うというんだぜ。だけどどうやらその言葉は本当で、街の外で意思なきアンデッドを見掛けることは殆どなくなったし、乳製品や羊肉なんかが露店で売られるようになって、そんでこの都市では武器防具の生産とか、不思議なマジックアイテムなんかが生産されるようになった。あんたにおごってもらったこのチーズだっておそらくは例の家畜のだろうな。本当、ヒュエイオーン様様だよ。この辺りの者はそうやって生活は豊かになっていって、ヒュエイオーンをはじめとした意思のあるアンデッドに対して差別とかは薄らいでいったのさ」
男はそこまで話すと、話相手が持っている武器———それは『クナイ』と呼ばれるもので、最近このスルクー3で名産品、装飾品と実用の両方のタイプがある———に目を遣った。
「ああ、そういえばあんたが買ったソレの話も聞きたいと言っていたな。その『クナイ』ってのは、今ではこのスルクー3の名産みたいになっているが、そうなったのは、おそらくここ1年くらい。ああ、ちょうど例の意思なきアンデッドが減ってきた時期辺りから見掛けるようになったな……ちょっと記憶曖昧だが、確かアンデッドが減って行商人が訪れるようになったんだが、その中の何とかっていう行商人が売っていてな。侯爵やヒュエイオーンも使っているとか、回数制限ある魔法効果を付与できるとか、何かそういった触れ込みで良く売れていた。俺も買ったぜ。使ってみると、武器にも調理にも使えるし、魔法効果付与されたものは、最近でもごくまれにみる意思なきアンデッドにも対応できるってんで便利だぜ。他にもいろいろな店が増えたな……例えばあんた、『カブナカマ』って知ってるかい?」
話相手はまたしても『知らない』というジェスチャーをする。
男はその様子を見て、楽しそうそうに話しを続ける。
「まあ俺も、正確には分かっちゃいないがな、なんでも同じような商品を扱うチームみたいなモノらしい。例えばこのチーズを商品として扱う者は、チーズの『カブナカマ』に皆属していて、価格が低くなりすぎたり高くなりすぎたり、あとは特定の権力者だけが利益を独占しないよう調整したり、住人数に対する在庫数を管理したり、まあ、そんなことをするらしい。正直俺もな、なんでそんなモノが必要なのかは良く分からないんだが、そうすることで、こうやっていつでも旨いチーズが食えるから必要なんだろうな。なんでもこの組織が出来たのは、最初の頃になんかの商品で利益独占をしようとした有力者が居て、どこの誰だか知らないが、そいつを懲らしめた奴が居たらしく、その後はそういう組織が作られていったとか……ああ、その有力者か?はは、アレは滑稽だったな。往来の柱にグルグル巻きで縛られたんだよ。そんでその足元には不正なやり取りの証拠が積み上げられてたんだ。まあ、今ではそいつも心を入れ替えて真っ当な商売をしているが、そいつを懲らしめた奴は結局誰だか分からなかったな」
話相手はその話を聞くと、少々驚いた顔をしたが、そのまま引き続き幾つかの情報を貰うと、最後に礼としてもう一杯のエールを注文し、席を立った。
「色々と話を聞けて良かった。ありがとう」
「おう、俺も酒とチーズ奢ってもらったからな。良かったらまた来な。って言ってもあんたは食事はしないか。まあ、またどこかで会ったら話そうや。それと、さっき言ったケイテニアス山だが、随分様変わりして……まあ時間あるなら行って自分の目で見たらいいやな」
「…ああ」
赤い目をした
「聞いていた話から、だいぶ様変わりしているだろうとは思っていたが……これ程とはな」
街の中にはアンデッドも含めた様々な種族の者が行き交う。
住人は皆、表情は良く、活気に満ちている。
イビルアイには読めない文字———「ゆ」と書いてある、建物からは独特の衣装を着た者達が出入りし、聞くとそこは、湯を貯めた入浴施設で、非情に安価な値段でだれでも利用できる。
「これは正直、リ・エスティーゼ王国や、場合によってはバハルス帝国よりも技術が進んでいるし、なんなら政治も安定していそうだ……
イビルアイは先ほど男から聞いた話、ケイテニアス山の凶悪なモンスターについて、ある程度のことは知っていた。
それはおそらく、自分の祖国を、そしてこの付近の多くの国を滅ぼした竜王。
私が13英雄としてリーダーたちと合流した後、彼らが私から得た情報で討伐した、13英雄史上最も難敵(“神竜”を除く)だったと言える存在。
私はその戦いに参加しなかった、いや正確には参加させてもらえなかったが、リーダーたちは何らかの手段を使ってそれを成し遂げた。
懐かしい名前———サンダルデル———のことを思い出し、そういえば彼はその戦いに参加したのだったなと過去の記憶をよみがえらせた。
「ケイテニアス山か……先ほどの
イビルアイの足は、スルクー3からでも良く見える山の方へ向かっていったが、その山に続く道と思われる入り口の様子に、改めて面食らった。
「何だこれは…」
山道に続く道には幾つかの屋台。
屋台では歩きながら食べられるような串焼き肉や、樹木の節を利用して作られた簡易の水筒に飲料できる水を詰めたもの、さらには山道の地図が示された羊皮紙などを売っている。
そういった実用性?のあるものはまだマシで、中には明らかに何の魔法的効果も持たない子供向けの玩具と思われるものや、“ケイテニアス山”と刺繍された服まで売っている。
エ・ランテルの広場か、あるいはもっと賑わった様子から、何らかの祭りなのかと疑ったが、行き交う者達を見ているとそういう訳ではないらしく、言ってしまえばケイテニアス山が観光地かのように扱われているのだろうということが推測できた。
イビルアイは混乱しながらも、『あの男が言っていたように、もはや安全という訳か…』と呟き、とりあえず地図を買って人が行き交う山道を登っていった。
その道は非常に快適で、所々には明らかに整備された状態で、おそらくかつては急峻だったと思われる斜面は何か強大な力で切り出され、階段が設置されていて、観光客はその階段を上っていく。
2時間程歩くと、おそらく山頂の広場と思われるところに到着した。
そこには山道の入り口と同じような屋台が立ち並び、広場中央には巨大な岩が置かれていて、そこには理由が良く分からないが、稲藁か何かを編み上げてねじった巨大な縄のようなものが巻き付けられている。
周囲には赤く色が付けられた丸太をくみ上げた簡易な門のようなものがあり、観光客はその門をくぐって巨大な岩の傍に近づいている。
やはり意味が分からないイビルアイは、手近な場所にあった屋台の店主に、広場のことを聞いた。
「おお、いらっしゃい!ああ、この広場のことかい。ここはな、大昔に悪いモンスターが討伐されたところで、あの岩はその討伐を果たした英雄が遺した石碑らしいな。誰も読めないが、何らかの文字が彫ってあるのさ。え、あの門とか縄のこと?ああ、あれはね、1年くらい前にここを知ってもらうためにナントカっていう商人が飾り付けたらしくて今じゃ観光地になったのさ」
「…商人というのはもしかしてウィードって奴か?」
「あー、ごめんね。俺は最近商売を始めたから、その辺は良く知らないんだ。でもうちで売ってるこの“お面”もその商人が広めたとか。ホラ、これなんかどうだい?」
イビルアイに差し出されたそれは、青い塗料が塗られた狸のような顔の面だった。魔法的効果はない、唯の面だ。
イビルアイの遥か昔の記憶にある神…例えばベ・ニアラやル・キニスではないのは明らかだ。
「これは……何かの神的なものを象っているのだろうか?狸か何かに見えるが…」
「いや、俺も良く分からっが、猫を象っているらしい」
「……そうか……」
イビルアイは情報量としてその面を買うと、とりあえずいつもの仮面のように顔を隠してみた。
「ああ、お嬢ちゃん。この辺では“お面”はそう被らないよ。いいかい、こんな感じで…そうそう顔の横に斜めにかぶれば、お嬢ちゃんの顔もちゃんと見えるし視界も遮らないだろう」
「あ…どうも」
イビルアイとしては面というのは顔を…アンデッドの証たる目を隠すためのものだったが、もはやその必要はないこの辺りであっても、そもそもこの被り方では面としての意味も無いだろうと考えた。
ともかくも他の観光客に交じって、赤い門をくぐり、岩を見学する。
そこには確かに文字が彫られていた。
その文字は……読めはしない。
だが、イビルアイは、その文字を知っていた。
「リーダー……」
その文字は、確かリーダーが綴っていた日記などで記されていた文字だ。
そして文章の中に、唯一といってもいい、覚えている文字。
リーダーの名前、【リク】というのを見つけた。
「やはり…ここはリーダーが……あの時の私は……悲しみと混乱で、碌な戦力にもならなかったし、今考えれば私にとっての仇だったからリーダーは敢えて私をこの戦いから外してくれたのだろうな……私はあの時、ちゃんとリーダーに礼を言えなかったな……リーダー……ありがとう。私の家族と民の仇を討ってくれて」
多くの観光客が行き交う中で、イビルアイは目を閉じて祈っていた。
岩には、嘗てこの場所に居た竜王を倒した者の言葉、そしてもう一つ。
この山の野良アンデッドを一掃し、この山自体を観光地化させてプロデューサーとしての大量に利益を得た後にこの場所を去った者の言葉が彫られていた。
【悪しき蛇竜イグ改めキュアイーリムは、リクが討ち取った!】
【ニシキ参上!リクさん、これを読んだらメッセージ残して→1年経ったから旅立ちます】
***
「よし、だいぶ情報が集まったから一旦情報を整理しようか」
「はい、二式炎雷様!」
弐式とナーベラルは宿の部屋で食事をとりながら会話をする。
正直ナーベラルに情報共有をしても、彼女は弐式の命令に100%従い、自ら作戦を立てることは無いのだが、少なくとも行動するための目的を伝えておくことで、うっかりの失敗も減るだろうと考えてのことであった。
また会話の中でナーベラルの意見を聞き、彼女に自分で考えるということを練習させたいと思っている。
「地形の話をすると、この町の北には山岳地帯が続いていて生物は多くない。一方でこのまま海沿いに東に進んでいくとここと同じような宿場町が幾つかあって、だいぶ先には複数の島から成る列島諸国があるらしい。ここまでいいな?」
「はい!」
「で、ナーベラル。まず山岳地帯だが、こちらに向かうメリットはあると思うか?」
「は!……えと……はい!その……そのことを言っていた露店のナナホシテントウ(益虫)は、山岳地帯は複数のドラゴンが住んでいて、人間種にとっては危険と言っていましたので…危険…いや…弐式炎雷様であればそのような竜など問題にはなりませんが…やはり…」
「うん、まあ、ちゃんと露店のおっちゃんが言ってたことは覚えていたみたいだしオッケーだ」
「はい!ありがとうございます!!」
「あー、えっと。まあ、聞いた話だとその竜たちが居ることで、人間を含めた生物の集落は無さそうだということだから、そこで商売は出来なそうだ。俺の人間種のクラスは商人系でスキル駆使すればめっちゃ人と話すのうまくなるし、商人としての心得も音改さんから猛特訓受けたおかげで色々と儲けるやり方とか格言を覚えたけど、そういったことは出来そうにない……だけど、宿の主人が言っていたこと覚えているか?」
「は、あのヒラタアブ(益虫)の言葉でございますか?えっと……この町は海に近いから魚が美味しい……ですか?」
「あーうん、それも言ってた。言ってたな!だけど、今回はそれじゃなくて、山岳地帯に住んでいる竜の集団が、魔法のアイテムを集めているって話だ」
「あ、はい!言っておりました!!」
「うんうん。まず、AOGの皆とかを探すとか金を稼ぐって目的では人が多く集まるところ、つまり東の列島諸国とやらに行くべきだけど、路銀は充分だし、何より竜の集団が集めてるという魔法のアイテム、これはあの“聖域”とか言われたところで見つけたものと同じものがあるかもしれないってことだ。だから、竜の強さは良く分からないけど、一旦は潜入して勝てそうだったら倒してお宝ゲットすればいいってことだ」
「さすが弐式炎雷様です!!」
「うん、という訳で次の目的は北の山岳地帯への潜入と、おそらく竜集団のボスである
「畏まりました!!」
弐式さんが何か商業系なろうみたいなことをしていたのは、商人スキルによってそういった能力が上がっていたことによる無意識です。
格言みたいのは音改さんからの伝授です。
カルマ値善寄りになったナーベラルは、他の者を罵倒するため虫の名前で呼んでますが、『あいつは有益な情報くれたな』とかの好印象寄りの者は益虫の名前で呼んでいます。
弐式さんはその辺は気付いていません。
腰がじわじわ痛いのが続いているので、ちょっとペース落ちそうです…