オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
タブラさん、ニアミスをします。
「というわけで、ご説明したように私は支援魔法としては第4位階まで使用できますが、あのモンスターに有効な強い火力を出すのは難しいのです。なので私がまず皆様に、
フォーサイトのメンバーは覚悟を決めたようにうなずく。
その様子を確認したパラケルはフォーサイトに支援魔法をかける。
当然
そして、トロールの方を向くと、こちらもサービスで
瞬間、トロールが叫ぶ。
「グ…ウ…ナンダ……!」
素早くヘッケランが近づき、魔法武器と思しき剣を持つ右手に集中砲火をする。
酸属性が付与された剣により、3度目の剣線で右手が落ちる。
その手を剣ごと、すかさず蹴り飛ばし、剣をつかんだ右手をロバーデイクが火属性武器で蒸発させる。
丸腰になったトロールを、ヘッケランは武技:双剣斬撃で切り刻む。
この間、イミーナは同じく酸属性の連射弓攻撃を行い、アルシェも
右手を焼き終わったロバーデイクも、自身の武器に改めて火属性を宿らせ近接攻撃に参加。
トロールの体力は見る見るうちに減っていき、ついにパラケルが手を挙げた。
「アルシェさん!」
「はい!
「グオオオオ…キサマラ…ナンナン…ダ…トモヨ…ドコニ…」
「もう一発!」
「はい!
ジュオオオオ!!!
肉が焼け溶ける音がして、トロールは完全消滅した。
特に体力を消費したアルシェは、自身の杖でやっと立っている感じだが、彼女を含めて、MPの枯渇や、目立ったケガは無い様だった。
「やった…オレ達だけで、トロールの集団を倒した」
「そのようですね…いやはや…一体何匹倒したのでしょう。私ももう限界が近いです」
「ハァ…ハァ…めっちゃ疲れたわ……今のやつなんて普段じゃ絶対ムリ。難度幾つくらいだったんだろ…アルシェも平気?」
「へ…平気。MPを全部攻撃に使った…パラケルさんが…支援魔法を全て担当してくれたから…何とか倒せた」
「お疲れ様でした。それではこの辺りを軽く調査したら、一旦キャンプへ戻りましょうか」
そう言うとパラケルは、トロールが持っていた武器を手に取りまじまじと見た後、それをヘッケランに渡す。
「差し上げます。これは戦利品としてフォーサイトが持って行ってください。私は鉱物をいくつか採集できればそれで大丈夫です」
それだけ言うと武器を置いて、さっさと洞窟の壁などを調べだした。
実を言うと、危険性が低いようにトロールには事前に接触し
うまくいっていたが最後に『友よ』とか言い出して、ちょっと焦った。
おかげで、すでに洞窟の中は調査済みで、ここにはユグドラシルアイテムを含むめぼしい物は全くないことが分かった。
確証は無いが、ユグドラシルアイテムがあるのは、先ほどの“何もない荒野”だけかもしれない。
またせっかく
唯一分かったことは、あの“何もない荒野”は荒野の北のモンスターには恐れられていて、基本あの場所を超えて南へ行きたくないという本能があるようだ。
そして、あの場所で強い魔物が争ったとも言っていたが、それについてもこのトロールが生まれる前の話らしく、口伝のような形なので信ぴょう性は何とも言えないと考えた。
1時間ほどたって、パラケルが「やはりこの洞窟に欲しい鉱石がありました。私はこれで目的を達成したので大丈夫ですが、ここに他に何か用事はありますか?」と聞いてきた。
正直な話、この洞窟はトロールが住処にしていただけあってかなり匂うし、パラケルが採集していた鉱石もそれが価値があるのかさっぱりわからなかったので、特に用はないとしてキャンプへ戻ることとなった。
この6時間ほどの行動で、レベルは以下の通りとなった。
ヘッケラン レベル24(+3)
イミーナ レベル21(+3)
ロバーデイク レベル22(+2)
アルシェ レベル27(+5)
パラケルは解析で4人の経験値とレベルの伸びを見ていたが、最初にレベルが上がったのはアルシェであったが、途中から伸びが悪くなってきていた。
特に最後のトロールはレベル33程度あったので、本来の彼らからするとかなり格上との戦いだったはずであるが、そのトロールを含めてラストアタックをさせまくった割には、想定より伸びていない。しかも
これらからタブラは以下の二つの可能性を考察する。
『この世界のレベルはある付近から非常に伸びづらくなる』
あるいは
『レベルキャップが100ではなく、より低く設定されている可能性がある』
フールーダの話によれば、この世界の人間は難度90~100まで行けば“英雄”と呼ばれるという。
そしてフールーダの難度は“逸脱者”と呼ばれていて、人間では近隣に4人しかいないらしい。
彼のレベルは46だったので難度で言うと大体130~140。
まあ、もっと実力ある奴は隠れている可能性が高いとも考えるが、それにしても難度90つまりレベル30程度で英雄という事だ。
このレベルが英雄ならば、このレベルに至るのは非常に難しいという事。
それらと、アルシェのレベルの伸びを見た結論が上記の2つの仮説だった。
ちなみに、自身やアルベドの経験値やレベルが全く増加していないことも確認している。
これはユグドラシルのレベルキャップが100だったからだろう。
そう考えるとレベルが100以下でこの世界に来た場合、レベルアップができるのだろうか?
これについては現時点で検証ができないので、次回のテーマにしようと頭の中にメモをした。
いずれにしても、現時点での問題は、アルシェのレベルの伸びが思ったより悪かったので、おそらく第4位階に到達できていないという事だ。
タブラとしては、第5位階アルシェをさっさと作って、面倒なことを押し付けつつ、更なる実験をしたいと考えていたのに、これでは計画がパアだ。
『はー…しょうがないですね。ポーションの効果が切れる明日の昼までにもう一度レベリングしますか…』
そう言う訳で翌日は朝から、再び北の森に入り、パラケル式パワーレベリングが行われた。
昨日のトロールの1個体のように、とびぬけて強いモンスターは居なかったが、数をこなしたことで彼らのレベルはさらに1~2ほど上昇していた。
彼らはその後、手元に残った最後の
***
この森の
彼の役目は、連合集落とその入り口となる“道”付近の警備であり、強いモンスターや他種族が侵略してきた場合は最初に戦わなければいけない可能性が高く、弱い個体には務まらない仕事だ。
だが同時に警備頭は、道で迷った
この役目から、彼は森の安全圏である“大妖精様の守り”の外に出ることが許される、通称“旅人”とも呼ばれる。
今回彼は、連合集落の近くで複数の“
もしかしたら“
ともかくも、“異常なし”の旨を連合族長である兄へ伝えようと集落へ帰る途中、彼は林道を複数の人間が歩いているのを見つけた。
しばらく観察していたが彼らは薬草を摘むために入ったようで、薬草を摘んでいない者は恐らくその護衛と判断できた。
人間とは特段対立していないので、このままあちらが気づかずに通り過ぎてくれればいいと、“大妖精様の守り”の中から様子を見ていた。
最終的にその者-長い黒髪で金色の瞳をしたおそらく女性-はそのまま通り過ぎてくれた。
その人間は優しげな表情をしていたが、護衛役をしている割には強さというものが全く感知できなかったので少し不気味であり、接触しないで済んだことを少し喜んだ。
集落へ着くとちょうど入口の生け簀の前に兄-連合族長、シャースーリュー・シャシャの姿が見えた。
「兄者」
「おお、帰ったか」
「また生け簀の魚を狙っていたのか」
「何を言う、様子を見ていただけだ。それに食べたければ夕食に食べたいと言えばいつでも食べられるではないか」
「まあそうだが…族長が食欲を丸出しにしているのもどうかと思うぞ」
「うむ……そういえば、巫女頭がお前を待っているぞ」
「ああ…クルシュ、妻ををそう呼ぶという事は、守護神様の神殿か」
「ああ。そこで今回の報告をすれば、守護神様へのご報告も一度に行える」
「そうだな」
兄弟は連れ立って歩き出す。
集落の最奥、そこには明らかにこの集落の他の住居とは異なるつくりの天然の鉱物や堅固な木材で建てられた神聖な建物。
この建物には魔法的結界がかかっていると言われている。
実際、ザリュースが入口をくぐると、空気が変わったような不思議な感覚がある。
その建物の最奥。
広い空間に坐する守護神様。
その横に最愛の妻にして巫女頭という6大役職の1つを務めるクルシュ・ルールーが控えている。
彼女の手には柔らかな布。
中央に坐する守護神様のベールに隠された瞳からあふれる涙を拭き、慰めるのが代々の巫女頭の大切なお勤めの一つだ。
やがて、守護神様の涙が止まり、場が落ち着くと、俺は今回の警備について皆へ報告する。
警備頭のもう一つ大切な役目は、警備の過程で会った者について、守護神様へ報告することだ。
俺が、人間の女に会った話をしたとき、守護神様は興味を示され、その特徴について説明した。
黒髪、金の瞳の人間、そう説明すると、守護神様は「そうですか…」と呟き、いつもの様にその手に持つ秘宝の盃を傾け言う。
「傷ついた子がいたら、早く連れてきてこの水を飲ませなさい、あ、わん」
連合族長、巫女頭、警備頭の3人が退出した建物の最奥で、メイド服を着て犬の頭を持った“守護神様”が呟く。
―人間のお姿をした女性の御方は皆、黒髪、黒目。
―違う。
―はやく、会いたいです。
―わたくしのお務めはいつまで続くのでしょうか。
―わたしは、もう…
守護神様、ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコは待ち続ける。
優しい御方がこの扉をくぐり、迎えに来る日を。
そろそろ第1章の終わりが見えてきました。