オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「…どう思う、ブレインさん」
「なんつーか……ここはもう盗賊にでも入られた後ってとこじゃないか?要は、俺たちと同じことを考えた奴が既に侵入した後というか……」
「やっぱそう思うよなー」
ナーベラルが手に持つランタン状のアイテムが、概ね30メートルほどの範囲を照らしている。
このランタンはこの世界の者との交易で手に入れたもので、錬金術が込められていて暗闇で光を灯すことが出来るだけものだが、ナーベラルが持つWIの効果で、その光の範囲が大幅に広がり、暗黒の廃城を探索するにはうってつけであった。
ランタンに照らされた光景はブレインが言う通り、荒らされていて、めぼしいアイテムは落ちていない。
ただし金貨や白金貨、それに低レベルのポーションなどがそこら中に散乱していて、どういう訳か、ウィード一行より前に入った者は、高レベルなアイテムだけを拾い、カネには手を付けていない。
いや、あるいはある程度は盗んでいったが、持てる量の限界が来たために打ち捨てられたものだけが残っているのかもしれない。
「それに恐らくだが、モンスターかなんかが侵入したかもしれねーぞ…あるいは酸系の魔法を使う者か分からんが…」
ブレインがそう言うのには理由があって、所々に竜王の配下と思われる者の死体などがあるのだが、その死体は酸か何かに溶かされた形跡がある。
白骨化している者も多い。
酸を飛ばしてくるアンデッドや、酸を攻撃手段とする異形種、例えば植物系モンスターやスライム系モンスターが入り込んでいるかもしれないということが想定できたため、一行は少々慎重に探索するが、結局モンスターも、宿の主人が言っていた『連れてこられた富豪』らしき者も見当たらない。
城の奥にあった大きな扉を開けると、そこには果たして、白骨化したドラゴンの死体があった。
白骨化していることでゾンビ化は起こらず、さらにその骨がかなりひどく砕かれていたためにスケルトン化も起きず、結果的にアンデッドしなかったその死体は、おそらくドラゴンの寝室と思われる巨大なクッション上の布が中央に置かれた部屋に捨てられていた。
そして寝台と思しきそのクッションには、おそらく強力な酸と毒が混じった粘液がかかり、半分ほどは溶けてしまっていた。
「俺の予想だが……これはたぶんモンスターによって全滅した感じがする。あの
「なーる…まあ確かにそうかもね。しかし…うん、スライムか。いや、まさかね…とりあえず部屋はだいたい確認したし、落ちてた金貨なんかも拾ったから、城の屋上へ行ってみようか。まだ行ってないでしょ」
「ああ、そうだな」
ブレインは
だが、城の中の様子を見るに、その可能性は低いと考えなおした。
城の中の者や、主であるドラゴンは、明らかに酸を主体とした攻撃で倒されている気がする。
ソルディフは明らかにモンクであったし、御付きのメイドの女も戦士のような力を感じたので、少なくとも酸を用いる
そういう訳で、ブレインの中では、この城は不運にも、主である深霧の竜王とやらでも対処できない何らかのモンスターの襲撃に遭い、滅ぼされたと考えた。
逆にブレインからすれば、そう言った強敵たり得るモンスターの出現は願ったりで、自身の強さを高めるための相手として戦ってみたいという気持ちがある。
だが、酸を使うモンスターが何なのかは分からないが、自身の得物である刀は金属製であるから、気をつけなければ酸によって溶かされてしまう可能性があるとも考えている。
弐式としては、ブレインの『スライム系モンスター』という言葉から、AOGの仲間である2名が頭に浮かんだ。
しかし、仮にヘロヘロさんや茶釜さんがこの場に来ていて、何らかの理由で竜王と戦った場合、アイテムや金貨をすべて回収しなかったのかということに違和感がある。
この状況は、実は先のアンデッドだらけになった山でも同じで、山に住んでいた
ユグドラシルプレイヤーがこの世界に来てしばらく過ごせば、この世界の通貨がユグドラシル金貨とは違うことに気づき、何らかの手段でこの世界の通貨を手に入れる必要があると理解するだろうから、むしろ金貨の類は持ち去る筈だと思う。
ましてや皆、
そう言った理由から、断定はできないが、この城に侵入し、竜王やその配下と思われるものを倒した存在は、ブレインの言う通り野良のモンスターや、あるいは酸系魔法を行使できる何者かだろうと想定した。
ちなみに真実はそんな複雑な話ではなかった。
ここに侵入した“富豪の男”は、町から離れ隔絶された城型ダンジョンに拉致され、そこに配置されたNPCすべてに命を狙われるというイベントだと理解した。
そして町の者の目もないし、最近スライム形態で戦っていなかったから今回はスライムで行きますかーという気まぐれから、主従共にスライムとして戦い、当然のように全滅させた。
実際のところイベントボス?である“
そしてスライム形態の精神性になった彼は、敵を全滅させてスッキリし、そのまま竜王の居室の広々としたクッションで、お楽しみの時間を過ごした。
翌日、メイドの目覚ましで正気を取り戻した彼は、城の中を探索し、見た事が無いようなめぼしいアイテムだけを失敬。
金貨については、各街の門番NPCに言えばいつでも両替できるし、そもそも、まだ1万枚以上の金貨を持っているので、特に必要性を感じずに放置した。
そういう訳で彼を別方面から良く知る2名は、
「何だよこれは…」
城の屋上に到着したブレインが呟く。
そこには巨大な魔法陣が描かれていて、それは光を失っておらず、明らかに何らかの効果を持っている。
ウィードは鑑定スキルによりその魔法陣を鑑定したが、何度やってもそれは失敗に終わる。
ナーベラルもそれが何だか分からないという。
最高レベルまで鍛えている鑑定スキルで分からないということは、この魔法陣の効果は、少なくとも弐式が知っている一般的なユグドラシルの魔法等の効果ではないということ。
考えられる可能性は、例えばユグドラシルで言えば何らかのイベントのための特設魔法陣であること、あるいは弐式も知らないこの世界特有の魔法か何かによる産物ということ。
つまりどちらの可能性であっても、未知の者であるので、安易に飛び込むのは危険であるということだ。
本来の“弐式炎雷”にとって、それは願ったり叶ったりのものであったはずだ。
彼の本質は『ザ・ニンジャ』。
未知の場所に単騎で乗り込み、ギリギリでトラップを避けながら最奥まで侵入し、無事に情報を持ち帰る。
だが現在の“ウィード”はそういう存在ではないし、この世界においては破格の高レベルであるナーベラルも、ユグドラシル運営が本気で仕掛けた様な罠に対処できる程ではないし、ましてや現地人のブレインはより対処が難しいだろう。
「魔法陣みたいだけど……正直何だか分からないな。今まで遺跡とかに潜った経験から考えると、可能性としては何らかのトラップ…どこからかダメージを受ける罠が飛んでくるとか、強制的にどこかに転移させられるとか、かな」
「おいおい…そんな危険な遺跡に潜った事あんのかよ…商魂たくましすぎるだろ。まあ今までダンナたちが無事だったことを考えると、ちゃんと準備してんのか、よっぽど運がいいのか」
「まあ、言われてみれば運はいいな。で、どうする?危険を承知で魔法陣を踏んでみるか、あるいは一旦町に帰るか」
「いやそこは雇い主であるダンナが決めるんじゃないのかよ…いや、まあ正直言えば、武者修行っていう俺の目的だけを考えれば飛び込んでみたい気持ちはあるぜ。ダンナの推測が正しくて、この魔法陣を踏むとどこかに転移するってんなら、この城の住人を倒した何らかのモンスターがそこに居る可能性もあるわけだしな」
「おっけー。それじゃあブレインさんの意見を採用しようか。商人としても、仮に転移するならその先にある宝とかを仕入れられるかもしれないし、それに護衛が居る今の状況の方が上手くいく可能性が高い」
「マジかよ…いや、ダンナ。ありがとな。俺の目的のことも加味してくれたって訳なんだろ…精々期待に応えられるよう全力であたらせてもらうぜ」
「さーてね。まあ、進んでみなければ分からないってのはそうだから、俺たちの運がいいことを祈ろう。さて進む前にブレインさん、念のため、これを貸すから持っててくれ。ああ、間違っても持っているだけで、“使用”はしない事。まあ御守りみたいなもんだよ」
そう言ってウィードが差し出したのは、黄色い星のような記号が描かれた石。
それはただの石のようにも見えるが、名状し難い不思議な力も感じる。
ウィード———弐式としては、万が一このトラップがワールドアイテム由来のものであった場合、【宝蓮灯】を持つナーベラルや【山河社稷図】を持つ自分自身はその効果を防げても、丸裸のブレインはもろに影響を受けてしまうことに対する懸念があったのだ。
ブレインという男———ナーベラルのドジには見て見ぬふりをしてくれるし、この世界の者としては非常に気さくで話しやすく、何より『忍者』である弐式にとって、『侍』のようなこの男はかなりのお気に入りとなっていた。
ナーベラルは、主が、ブレインにワールドアイテムを下賜する様子を見て、少々驚きながらも、『やはり』と納得した。
「御守りか…いや俺にはコレが何だか分からんが、途轍もない力を秘めているような気がする。ありがとな、ウィードのダンナ」
そうして、それぞれがワールドアイテムを所持した状態で、3人は魔法陣に進むことにした。
護衛役であるブレインが先頭、その後ろにナーベラルが続き、最後にウィードが進む。
先頭のブレインが魔法陣に乗った瞬間、その姿が消失し、続けてナーベラル、ウィードも姿を消す。
最後尾から見ていたウィードは『やはり転移トラップか』と考えながら、光に包まれた。
ウィードは見えている光景が変わった事に気づいた。
その光景は、やはりどこかの城の屋上のように見えるが、先ほどまでいた場所とは異なるようだ。
なぜかブレインとナーベラルの姿が無い。
そして目の前には、腰を抜かしている小さな猫のような獣人。
「あー、そこの猫亜人のヒト、言葉分かる?」
「ひィ!食べないでくださいニャ!!」
「あー……大丈夫、てか俺見ての通り人間だから、亜人は好んで食べないよ」
「ほ……本当かニャ…?」
「ホント、ホント。あーそうだ。干し肉とか食う?良かったらこれあげるから、ここがどこか教えてくれない?」
取り出した干し肉を見た獣人の顔は明らかにそれを欲していることを見て取れたが、一方でウィードを警戒してか近寄ろうとはしない。
仕方なくウィードは、干し肉を獣人の方に放り投げた。
獣人は「ニャッツ!!」と言うと、その干し肉の匂いを何度も嗅いだ後、それを頬張り出した。
「…ニンゲン、アナタの事、信じるニャ……肉、ありがとうニャ………ここは
「
「えっと…ボクは良く分からないけど、その場所は竜王様たちしか使っちゃいけないことになってるニャ……ずっと西の、すっごく偉い竜王様が、ナントカっていう魔法で造ったもので……でも最近はその偉い竜王様が来なくなって、繋がりが不安定になってるって
「ふぅん…やっぱりこれは魔法かなんかで作り出した道みたいなもんか…これはつまり別の竜王の居城と繋がってて、だが不安定ということは、行先がランダムみたいになってる感じか?……それにしても竜王やその手下を倒した奴がいるのは確定だな…人間か。なあ猫亜人のヒト、その恐ろしく強い人間ってどんな奴だったか分かるか?」
「ひっ…思い出したくないニャ……男と女の二人で……男の方は武器も使わずに素手で皆を殺していったニャ……女の方はただそれを見つめてたニャ……」
「男女…?素手…?モンク系か?………酸の攻撃……いや、まさか……」
ウィードが、その可能性に気付きかけ、思考の海に落ちそうになったところで、猫亜人は言葉をつづけた。
「あ…あの。アナタはどこから来たニャ?ボク、行く当てがないから、他の竜王様のところに行って、お仕えしたいと思っていたニャ…」
「ああ、俺は
「え……やっぱり
「お、おい、猫亜人!その
「ヒィ!お、怒らないで欲しいニャ…竜王様は全部で4人おられるニャ。
「クソッ…しまった!」
「??」
干し肉をくれた人間が、焦って再び魔法陣の中に入り、その姿を消した。
猫亜人は意味が分からず、しかしながら久々に食べた肉の味を味わいながら、この肉が無くなったら何とかして
ツアーの手下設定の東の竜王4体のうち、すでにどこかの富豪の男が3体を殺していました。
富豪の男からすれば、発生したイベントの敵対的なモンスターNPCを全滅させただけです。
4つの居城のうち、不安定な転移魔法陣で行けたのは3つだけでしたが、富豪の男は全部で何体の竜王がいるかとかは確認していなかったので、とりあえず3体の竜王を倒し、イベント終了かな?と満足して街に向かいました。