オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
本当に色々ゴメンナサイとしか言いようがありません
ブレインとナーベラルは、それぞれ雇い主であり主である、ウィードとは別の場所へ転移させられたことに気づいた。
「これは……ッ!!」
ブレインは、言葉を発すると同時に、目の前にモンスターが居ることに気づく。
それはランド・ドラゴンと呼ばれる小型のドラゴン近縁種で、飛翔できない羽と頑丈な体を持ち、個体によっては土属性の魔法を使える。
ブレインは咄嗟に刀に手を添えた。
「キサマ…ナニモノダ……イヤ、ニンゲンノオトコトオンナ……マサカ、レイノテキカ!!」
そう言うと、そのランド・ドラゴンは、素早い動きでブレインめがけて走り出す。
「話が通じる感じじゃねーみたいだな…武技・〈領域〉!!」
ブレインの領域に入りこんだランド・ドラゴンは、たちまちのうちに居合斬りの餌食となった。
「倒せた…が、かなりの強敵だ。ふふ、俺の修行に丁度いい…」
そう呟いたまさにその瞬間、下の階から続々と敵が集まって来る。
戦いの音や気配を聞きつけたのだろう。
「面白れぇ……嬢ちゃん、俺の後ろに隠れてな。万が一の時はあの魔法陣に飛び込んでくれ。元の場所に戻れるのかは分からんが、その方がいいだろう。アンタにもしもがあれば、ウィードのダンナが悲しむからな!!」
「……」
“嬢ちゃん”と呼ばれた女は何も言わない。
ただ無表情のまま、その手で口を押えている。
当然ながら、益虫とはいえ、その人間の命令に従う気は無い。
彼女の、ナーベラルの行動方針は、主である弐式炎雷様が全て。
弐式炎雷様の命令に従い、最小限の言葉しか発さないし、魔法も行使しない。
もし命令外の行動をするとすれば、それは弐式炎雷様にとって益があると判断した場合と、弐式炎雷様にとっての害悪を取り除く場合のみ。
あの夜、弐式炎雷様は、私のような不出来な者を優しく抱きしめ、頭を撫で下さった。
それだけで私は、これ以上ないくらいの幸福であった。
だからこの胸のうちの不敬な思いなど、決して口に出すものではない。
それにしてもこのアシナガバチ(益虫)は、やはり弐式炎雷様にとって一定の意味を持つ存在なのだろう。
それは弐式炎雷様が、ワールドアイテムを貸し与えた事からも伺える。
今私がすべきことは、弐式炎雷様の御到着を待ちながら、このアシナガバチ(益虫)の安全と動向を見守ることだ。
こうして別行動となったのも、全能たる弐式炎雷様にはきっと御考えがあっての事だろうから、やはり
ナーベラルがそこまで考えた瞬間、階下よりひと際大きな者が姿を現わした。
その者は光り輝く様々な宝石の原石を身に纏う巨大な竜王———
「きっ…貴様らは……まさか
「アシナガバチッ!!」
咄嗟にナーベラルは、ブレインと竜王の間に割り込んだ。
それはブレインの目線が、竜王の鉱石の射出による攻撃を追えていなかったからである。
咄嗟に動いたのは、主の
だからナーベラルは、命令を忠実に守り、魔法を行使することは無く、主から渡された忍者刀でその鉱石を受けると同時に、ブレインを攻撃の範囲外へ蹴り飛ばす。
ナーベラルにとって不運だったことは、その竜王が、既に滅ぼされた西の果ての白金と呼ばれる竜王の直属の部下であり、
そして、ナーベラルにとって苦手な土属性の攻撃に特化していた事。
何より、その地には、大妖精様の加護が届いていなかった事。
弐式炎雷が再び飛び込んだ魔法陣の先は、最初に居た場所とも、先ほどの猫亜人が居た場所とも違う場所だった。
そこには、夥しい数のアンデッドが跋扈していて、その様は嘗てブレインと出会った山の様だった。
「アンデッド…?!いや、どうなんだ?!クソッ…言ってる場合じゃねぇ!!」
ウィードの左手の指輪が輝くと、その姿は速やかに隠密を生業とする者の姿となり、その者は凄まじい勢いでアンデッドを刈り取って進んでいく。
「…………居ない、居ない、居ない、居ないッッッ!!!」
明らかに大きな図体と、比較的高いレベルのドラゴンゾンビを屠ったところで、弐式炎雷は確信する。
『此処ではないッ……ハズレを引いたッッ!!』
灰色の風が、再び屋上を目指し、その魔法陣に飛び込む。
魔法陣を越え、次の瞬間その忍者が見たものは、絶望の光景。
鈍く輝く巨体を持つ竜王が、様々な色の宝石の雨を、この世界で最愛の者に浴びせる光景。
「クソがァァァァァァァァ!!!!!」
弐式はその場へ飛び込み、ボロボロのナーベラルを抱きかかえ距離を取る。
「ナーベラル!!!遅れた、すまない!!おい、ナーベラル!!!」
「弐式…炎雷、様。私は…御言葉の通り…魔法など使わず……失言なども……」
「いい!そんなことは今はいい!!おい、しっかりしろ!!ポーションを!!!」
「あの…弐式炎雷様の新たな手下たるアシナガバチは……あの瓦礫の奥に…無事に……ございます」
「ナ…ナーベラル…!!」
弐式は気付いた。
気付きたくはないことに、気が付いた。
ポーションをいくらかけても、ナーベラルの状態が回復しない。
忍術に属する鑑定を行うと、ナーベラルのHPは“0”の数値を示していた。
「バカ…な……」
「弐式炎雷様……御役目を…盾となる御役目を果たせず……申し訳……」
「ナーベラル!!」
ナーベラルの身体が光に包まれ、粒子となって消えた。
「ナーベ……ラル…」
「なぜ……バカな……ここがナザリックの外で…ナーベラルがNPC…だからなのか……?……俺の…せいだ……俺が魔法を使うなと……言いつけていたばかりに……」
瓦礫の中から、やっとのことで立ち上がったブレインが息も絶え絶えに、声を上げる。
「ハァ…ハァ……俺としたことが…いや…嬢ちゃんに助けられたのか……!!忍者?!いや…アンタ、危ない!!!」
それは先ほどまでいなかった忍者と思しき者が、今まさに、竜王から宝石の散弾を浴びそうになっている光景を見たことで出た叫びだった。
「なんだ?!何だ貴様は?!新手か?!先ほどの女と同じように、跡形もなく消し飛ばしてやる!!!〈
吐き出された鈍い光の石が、その忍者を襲う。
しかし、石が通り過ぎた場所には誰も居ない。
「な……何処に……?!」
屋上の半屋根を支える柱の最上部に、重力を無視するかのように、柱と垂直に立つ者が居た。
その姿が上天の月を背景にしており、竜王からは死角となっている。
だから最初に気づいたのはブレインだったが、彼はそのあり得ない光景に驚くとともに、明らかに知らないその者が、まるでついさっきまで共に旅をしていた、気の良い商人のように見えて、言葉を無くした。
「……許すものか……竜王も……その手下共も……俺自身も……許せるものか………発動せよ……【山河社稷図】」
「うおっ!!……なんだ?」
ブレインは尻もちをついた。
そこは先ほどと変わらないどこかの城の屋上。
しかし目の前には、何とも言い難い歪んだ空間が広がっている。
尻もちをついた位置から考えると、自分は先ほどの場所から背後へ吹き飛ばされたような感じがする。
その歪んだ空間は、手を伸ばして進めば入れる気がする。
だが、今はそれよりも先にすべきことがある。
自分を身を挺して吹き飛ばし、竜王からの攻撃を代わりに浴びてくれた恩人の、あの嬢ちゃんを探すこと。
先ほど一瞬だけ、その姿は、突然現れた忍者のような者に抱きかかえられていた気がする。
だが、今は姿が見当たらない。
あれだけの攻撃を受けたのだから無事では済まないはず。
急いで見つけ出し、ありったけのポーションを使用する。
なぜか分からないが、今はあの忍者や竜王を含め、全ての敵の姿が見当たらない。
探して保護するならば今しかない。
ブレインはやっとのことで体を起こし、辺りの瓦礫をひっくり返し始める…。
「な……何だここは……見た事が無い山…?それに紅い池??」
竜王と、その配下たちは、自分たちが一瞬で知らぬ場所へ転移されられたと考えた。
それは当然である。
その場所は赤黒い空の色。
見た事が無い血のような赤い水を湛える池。
尖った剣のようなものが突き出した無数の山。
幾つかの巨大な窯に火がくべられていて、何処からともなく何者かの悲鳴のような木霊が聞こえる。
もし、その光景を、日本人が見たならば、その場所は間違いなく『地獄』と呼んだだろう。
「…ここは無間地獄……一匹とて……生きては返さん……!!」
その言葉が聞こえた方を見た瞬間、数十の者の首が飛んだ。
だがその方向には誰も居ない。
「……こっちだ」
生き残っている者がそちらを向く。
瞬間、新たな数十の首が吹き上がる。
それを五度繰り返した後、首が繋がっている者は
周囲の光景に、流石に穏やかではいられなくなった
「何だこれは!!どういうことだ!!ここはどこだ!!我らに攻撃をしている者は姿を現わせ!!!」
その声と同時に、ザクリという鈍い音がした。
瞬間、目の前に、この場所に来る直前に目撃した、包帯で全身を覆った謎の男が現れる。
たった今、自身の左半身から
「……俺は忍……名乗る名など無い……差し詰めこれは〈羽殺し〉…」
次の瞬間、捥がれた羽がぼとりと落ちて、その者は再び姿を消す。
ザクリ
「……〈羽殺し〉」
竜王は右半身が捥がれたのを遅れて感じ、急いで声の方へ振り返るが、そこに姿は無く、耳元で声がして、直後バランスを失い体が地面に倒れ込む。
「〈足殺し〉」
見ると、自身の両の足に短剣が突き刺さり、それは自身の身体と地面を繋ぎとめている。
「くっ…侵入者の人間無勢がぁぁぁ!!!」
「五月蠅い。忍術…〈幻刀暗閃〉」
最後の声は、なぜか自身の腹の中から聞こえた気がした。
そしてその声がした気がする腹の中から無数の黒い刀が踊り出して、竜の巨体は内側からバラバラになった。
「……………俺は……甘かった……な……ナーベラル……必ず……お前を取り戻す……【山河社稷図】、解除」
ブレイン・アングラウスは、いくら探しても、自身の命を救った雇い主の従業員の女———おそらくその名は“ナーベラル”というのだろう———の姿を見つけられないでいた。
そして、一度瓦礫の山から頭を上げ、先ほどの歪んだ空間の方を見た瞬間、その変化が起きた。
歪みは正され、上天には月が浮かび、背景は古城の屋上そのもの。
だがそこに現れたのは、夥しい数のモンスターや亜人の死体。
そしてバラバラになったおそらくは竜王のだったものの残骸と、噎せ返るような血と死骸の中央で佇む、冷酷な忍者。
忍者はゆっくりと、しかし明確にブレインに向かって歩いてくる。
歴戦の戦士であり、この世界でも上から数えた方が早い強さに成長したはずのブレイン・アングラウスは、自分の腰が抜けているのが分かった。
その忍者からは、一切の強さを感じ取れないというのに。
「……ブレイン・アングラウス、お前に問う」
「な……なんだ」
「これから先、お前が進める道は2つに1つ———1つ目は、闇に生きる悪たる俺の傍にあり続け、決して俺を裏切らず、決して俺の正体の一切を口に出さない。命終わるその日まで、影に在る俺の、表側の顔を補佐する者として、俺と旅を続ける道」
「………もう1つは…?」
「……苦痛無き死」
忍者の表情は見えない。
その顔を覆う、仮面のような包帯のようなものが、その忍者の顔を完全に覆っているから。
しかし、今忍者が口にしたことは、おそらく一切の嘘は無い。
それだけは、理解できた。
「1つ……1つだけ、お願いしたいことがある。それさえ叶えてくれるなら…俺はあんたの付き人として、あんたの表の顔を支え続ける。そして決して裏切らない。約束する」
「……言ってみろ」
「手が空いている時でいい……俺に……稽古をつけて…ください」
「……いいだろう」
その言葉の直後、忍者の包帯がするすると解けるように霧散し、そこには何の特徴も無い、しかし良く見知った顔の商人が姿を現わす。
予感していた…いや、確信していたブレインは、その事実そのものには、一切驚かず、その商人に頭を下げ、そのまま膝をつき、言葉を述べた。
「許してくれとは言わない、言えない……だが……護衛役の俺がついていながら……!!」
「……いいよ。ブレインは、悪くない。あれは俺がそう指示していたことに責任があり、そして、“善”のあの子は、あんたを助けることを選んだ……それに、あの子を取り戻す方法がある…ある場所……説明することは出来ないけど、俺が探しているある墳墓へ向かえば、あの子は生き返る……そのためにはもう少し、金と……それと非情になる覚悟が必要だ……ここから先の旅は……修羅の旅だ。忘れないでいて欲しいことは、忍者は…俺は、本来は“悪”の存在だ」
「……ダンナ……」
「ブレイン、すまないが立って、付いてきてくれ……俺は、ここでやらなきゃならないことがある………証拠を…痕跡を……残すわけにはいかない」
ブレインは、ウィードが渡してきた赤いポーションを飲むと、彼の後ろについて歩き出した。
ウィードは迷うことなく、屋上の魔法陣を潜る。
その先には、猫亜人の者が1人。
ウィードはその猫亜人に声を掛ける。
「なあ、お前さ、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「ニャッ!なんだ…さっきの人間かニャ…戻ってきたのかニャ!ん?そっちの新しいニンゲンは誰ニャ?!」
「ああ、コイツは俺の仲間。気にしないで大丈夫だよ。そんでさ、戻ってきたのは、さっきお前が言ってた、この城に攻め込んできたっていう人間の男女についてもう少し詳しく教えて欲しいからなんだ。名前とか聞いてないのか?」
「名前?知らないニャ…ボクは怖くて隠れてたから……」
「じゃあさ、外見を教えてよ。人間だったんだよな?もしかして女の方は金髪縦ロール……えっと、こんな感じの髪型で、男の方は、こんな感じの顔で、こんな感じの腕輪をしていなかった?」
ウィードはどこからか取り出した筆記具を使って、城の壁に男女の人相書きを描いた。
「アッ!!そ…そんな感じニャ!!あんた、やっぱりあいつの仲間なのかニャ?!」
「……やっぱりか…いや、現時点では仲間では、無いかな……合流できていないし……それよりも、この人間たちがどこへ行ったか分かる?最後、この魔法陣を通っていった?」
「え……良く分からないけど、その魔法陣には戻っていないと思うニャ……たぶん、あっちの方の海の先にある、ニンゲンたちの町に行ったんだと思うニャ…」
猫亜人が、城壁から頭を出し、その方角を指差す。
「成程なーありがとう……ところでさ、お前はこの後どうするの?もしどうしても行く当てがないなら、俺についてくる?ただ、その場合はここにいた竜王とか、そう言うのとは二度と会えなくなると思うけど」
「ボクは……とりあえずは生きているっていう
「まじかー……どうしても俺と一緒に来るのはだめか?」
「うん…ごめんニャ」
「そっか、分かったよ。じゃあさ、お別れにもう少し干し肉と、後、飲み水をやるよ」
「あ、ありがとうニャ!」
猫亜人はやはりまだお腹がすいていたらしく、干し肉を頬張る。
そして干し肉を食べ終えると、渡された水を勢いよく飲みほした。
「ふぅー…久しぶりのお腹いっぱいにゃ……なんか……眠くなってきたニャ……ニンゲン……気を付けて……ニャ……」
「ああ…………ゴメンな」
完全に眠りに落ちた猫亜人の首に赤い線が奔り、その猫亜人は眠ったまま静かに呼吸を止めた。
「……ブレイン、行こうか。ここから東の町だ」
「……待ってくれ、ダンナ……今、その亜人が言っていた風貌の御方……心当たりがある…」
「……何?」
『加護』の外側で、ヘロヘロはお宝を持つ竜王のダンジョンを一つ見落とします。
そして見落とされた竜王は、『エア』のエレメンタリストと相性が悪い(という設定)の土属性の竜王で、しかも、そいつはツアーの腹心で、ワイルドマジックは使えないですがかなり高レベルです。
そして運悪く弐式とナーベラルは引き離され、“善”側に変更差されたナーベラルはついブレインを助けてしまい、応用が利かないので弐式の言いつけ通り魔法を行使せずに戦うことになってしまいます。