オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
あの時にヘロヘロさんは乗っていませんが。
「アーグランドへの定期船は次は半年後だ」
「ふーむ……ツイてないな。そのアーグランドとやらに向かうには別のルートはあるかい?」
「別ルートか。そんなもんは……いや、まあ気の遠くなる話だが、ここから大陸の東に行く船に乗って、陸路で行くことは出来るかもしれんが、アーグランドは大陸の西の果てだからな……一体何日かかるか分かったもんじゃねぇぞ」
「成程ねぇ……ちなみにだけど大陸の東から陸路で行くとなると、どういうコースになるの?」
「おいおいマジで言ってんのか……まあ一応説明するとだな、まず7日に一度、大陸東の港町であるマヴォイ=ミズラまでの船が出ている。そっから先は俺も行ったことがないから聞いた話だが、西に進むと最初は森に入り、その後は雪原になっていく。ここまでは亜人種が暮らしているらしい。その先には天を突くような氷の山が2つ、間を走る氷河を3つ。この領域には巨人族や気候に適応した、モンスターくらいしか住んでいない。それを超えると、見渡す限りの草原が広がっていて、この草原は主に
「ああ、ウィードのダンナ。その幾つかある人間の国の1つが俺の故郷だな、おそらく」
「なっ…!兄さん、そこから旅してきたのか?!」
「はは、そういう訳でウチの護衛は歴戦の剣士で旅慣れているから、陸路も行けそうでしょ!」
「いや…まあ…確かに驚いたが……だが氷の山はずっと南に進むと竜王の集団がいるらしいし、巨人族も脅威だ。聞いた話だと騎馬王ってのも人間に友好ではないし、何より道らしき道がねぇらしい……兄さんは大方砂漠の町を経由して南から迂回してきただろ?いや、それも常人には出来ねぇ芸当だが、道があるのと無いのとでは話が全然違うぜ…それに剣士の兄さんは大丈夫でも、アンタは見たところ普通の商人だし、ついていけないんじゃないのか…?」
「まぁそこんところは、そのマヴォイ=ミズラってとこまで行ってから考えるよ。無理そうなら帰って来るからさ」
「ま……止めやしねぇが、自分の目で見た方がいいんだろうな…」
「色々とありがとね。これ、情報料」
その顔の印象が薄い商人が銀貨を取り出すと、港番の男はニヤリと笑ってそれを懐に入れた。
「へへ、ありがとな。
その言葉に、青髪の剣士が反応する。
「……おやっさん。ソルディフってのは……ソルディフ・カーゴ・カルト・ヘロ=ヘロ卿の事だろうか?」
「なっ……アンタ……まさか竜王様の……?!」
「あー…いやそうじゃない。俺は、そのソルディフ卿と縁があってな。あの御方には恩があって、今は武者修行の旅の途中だが、いずれ再び会って稽古をつけてもらいたいと思っているんだ」
「な……じゃあアンタ、ソルディフ様のお弟子さんか何かなのか?!」
「いや…弟子なんて烏滸がましいな。俺はまだ、あの人の足元にも及ばないさ」
「そうか…成程。いや、あの人のお弟子ってんなら砂漠を越えたのも納得だ。ああそうか、だからアーグランド行きの船に乗りたかったのか。確かにあの人はあの船に乗ってったからな」
その言葉に、今度は商人の方が再び口を出す。
「やぱっりそうだったんだね。いやぁ、うちの護衛が縁があるっていうから、そのソルディフ卿とお会いして、できれば商談なんかしたかったんだけど、町の人に聞いても何となくはぐらかされて、ただ、どうやらアーグランドってとこへ行く船に乗ったっぽいってのは分かったから港番のあなたに声かけたんすよー」
「ああ……あの人の縁者ってなら言ってもいいだろうな。たぶんこれは聞いているだろうが、この街を含む郡を管理していた竜王が討伐された。それをやったのは例のソルディフって人らしい。俺たち人間はな、この列島諸国では弱い種族だから、表向きの差別なんかは無いけど、やっぱり竜王直属の奴らと比べたら発言権が無い。だから昔から俺たちはこっそりと反竜王の同盟を組んでいたんだ。だけどあの貴族、ソルディフさんが竜王を片っ端からやっつけた。なんで戦うことになったのか理由は分からないが…。だがおかげで俺たちは自由を得たんだ。同盟のリーダーが、ソルディフさんにこの国に残ってもらって、この列島諸国を統治して欲しいと頼み込んだんだが、ソルディフさんは竜王の親玉がいるという噂のアーグランドに向けて旅立たれてしまった。ただ、アーグランドで竜王の親玉を倒したら戻ると言ってくれたから、俺たちはそれを待つことにしたんだ」
「ふーん…いや、そのソルディフって人は強いんだねー。他に仲間とかは居なかったの?ひとりで竜王倒したのかな?」
「あ、いやメイドのお供がいたな。ただあれは雰囲気的にそれこそ身の回りの世話をするメイドか、あるいは愛妾なんじゃねーかな。すげぇ美人だったし、いつも幸せそうにソルディフさんにくっついていたしな。だからおそらくだが、あの人が1人で竜王を倒したんだろうな……ま、でも、商人のアンタの嗅覚は正しいぜ。あの人は恐ろしく羽振りが良かったし、この港でも色々と買い物をしてカネを落としてくれていった。アンタも気に入られて商売が出来れば大儲けできるだろうさ。見てくれよ、この金貨。これはさ、俺があの人達の荷物を持ったりしてアーグランド行きの船に乗る手伝いをしたらくれたんだぜ。見たことも無い精巧な彫金と、普通の金貨の倍はある重さだ。きっとどこかの国の記念硬貨か宝物なんだろう。これだけで一財産になりそうだぜ!」
そう言って港番の男が見せた金貨は、明らかにユグドラシル金貨だった。
***
マヴォイ=ミズラの港に向かう船の中で、ウィードは声を落としてブレインと話す。
「……という訳だ。ヘロヘロさんはアーグランドという国へ向かったのは間違いないだろうが、船を待ってたら最短で半年後。行き違いになる可能性の方が高い。だからあのおっちゃんが言っていた陸路でアーグランドを目指す。その過程である程度の敵が出てくるだろうから、それらを使ってブレインの修行もするよ」
「ああ…いや…恩に着る。しかしヘロヘロ殿の行動…どういうことなんだろうか。聞いた話だと竜王を追ってアーグランド…おそらくアーグランド合議国へ向かったようだが」
「ブレインが言うことが正しければ、そのアーグランド合議国にはもう竜王は居ないんだよな?ただ、その話は間違っているのか、あるいはこの列島諸国には伝わっていないか…ともかく、この列島を支配していた4体の竜王もそうだし、おそらくは
「…途方もない話だな。いや、詳しくは聞かないが、ダンナやヘロヘロ殿の故郷……途轍もない場所なんだろうな。もし俺が、ダンナやヘロヘロさんの足元には及ぶようになったら…行ってみたいぜ」
「……それが出来るかは分からないが、考えておくよ。とりあえず今はヘロヘロさんとの合流が先だ。どうやらヘロヘロさんも、この世か…この大陸やなんかに、俺みたいな仲間がいることに気づいていて、旅をしながら合流するためのメッセージを送っていると考えられる」
「マジか?!いや…あの人は、“国から出て、強い人を探している”と言っていたが…」
「成程な…“強い人”…つまりは同郷の存在。やはり、俺ら同郷にしか分からない形でメッセージを残している。さっきのおっちゃんが貰ったと言っていた金貨、あっただろ。あれはな、俺たちの祖国の金貨だ」
「正直…想像の…上を行っているぜ。ヘロヘロ殿に対峙して話した言葉、俺にはそのままの意味にしか感じなかったが、言葉の中や行動に、同郷の者しか分からないメッセージを隠して…あれだけの強さがありながら、とんでもない知恵も持っているというのか…」
「ああ、ヘロヘロさんはすごいぜ。祖国では…まあ、なかなか大変な仕事をしていたけど、その分、知識はとんでもない……それにヘロヘロさんは……ちゃんとソリュシャンを…守り抜いている。メイド服を着せ、まるで愛妾のように片時も離れないように付き従わせているって話、つまりはあの人は、
「ダンナ……あれは…ダンナのせいじゃない。責任があるとすれば俺の方だ」
「いや…悪かった。この話は今はよそう。合流して…それであの場所へ行けばナーベラルは取り戻せるんだからな」
男2人がそんな会話をしていると、甲板から声がした。
「モッ…モンスターだ!!海の怪物が出たぞ!!」
その言葉を聞き、ブレインは立ち上がる。
「ダンナ……この間ダンナに教わった事、活かす時が来たみたいだぜ」
「…ああ、そうだな。じゃあ俺は“商人”として見ている」
「ああ、見ていてくれ、師匠!」
波間から顔を出したのは巨大な烏賊か蛸のような姿の軟体動物。
ブレインは臆することなく甲板から飛び降りると、その軟体動物の体に乗り移る。
軟体動物は触手を伸ばし、ブレインを捕まえようとするが、ブレインが抜刀をする方が早かった。
「武技・〈急所感知〉……そこだッ!!」
ブレインの剣は軟体動物の額に突き刺さると、軟体動物は一瞬で硬直し、動きを止めた。
そしてブレインは素早く甲板に飛び戻る。
殆ど数瞬の出来事に、船員たちは言葉を発することも出来ずにいたが、モンスターがたったの一撃で息の根を止められ、海の底に沈んでいく様を見るに、一気に歓声が上がった。
ブレインは軽く会釈をすると、野次馬のようなふりをしてそれを見物していた雇い主の商人と共に元の船室に戻って来る。
「…どうだった?」
「使用した武技は1つだけ。うん、上達したな」
「…ありがとうございます」
ブレインの脳裏には、
ナーベラルという魔法を使える者がやられてしまった事で、絶海の孤島のような場所からどうやって戻って来るのかということが問題になった。
答えは簡単……いや本来は簡単ではないが、忍者の姿のウィードは『忍術…〈水黽走りの術〉』という技で、普通に海面を走って渡ったのだ。
ブレインは、そんなウィードに背負われていた。
だが運が悪いことに、港町に着くまで幾度となくモンスターに遭遇した。
そのつどウィードは『苦無』という短剣で、一撃でモンスターを屠っていたのだが、何度目かの遭遇で思いついたように言い出した。
『こっから先のモンスターはブレインの修行に使おうか』
ブレインはギョッとして言う。
『いや、ダンナ。足場があれば戦えるが、流石に背負われながらというのは…』
『何言ってんの。モンスター自体に乗っかればいいじゃん』
『…』
そういう訳で、次に出会った軟体生物のモンスターに放り投げられたブレインは、死にそうになりながら、足場を安定する武技を掛け、さらに何度切り落としても再生してくる触手を武技の連続で切り裂きながら、やっとのことで倒すことが出来た。
しかしその戦いを見ていた忍者は苦言を呈する。
『その“武技”ってさ、使いすぎると疲れるんだろ?だったら使用する数は最低限にした方がいい。足場が安定しないかもしれないけど、それは修行して慣れれば身体能力だけで行けるし、攻撃も無駄が多かったから、できれば一撃で殺せる急所とかを探して速やかに倒した方がいいぞ』
陸が見えるまでそのスパルタは続き、ブレインは安定しない足場でもなんとか叩けるようなバランス力と、最少の手数で敵を葬るための技を磨き始めたのだった。
ヘロヘロさんの××やその他の所業はバレずに、いいように勘違いされてしまいました。
全部一気にバレた時の貯金として取っておくことにしました。
恐らく次回から視点が変わります。