オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
仕事が忙しくて全然進められていませんでした。
ゴールまでのストーリーは頭の中では決まっているのでエタることは無いと思いますが、気長に見守っていただければ幸いです。
「……陛下」
日の光の差し込む、王城の一室。
部屋は整い、余計なものは余り置かれていない。
それは、この部屋の住人が先王であるということを考慮に入れれば、些か不思議な事であった。
先王———ランポッサⅢ世は、王位をその息子であるザナックに譲った後、殆どの時間をこの部屋で過ごしている。
世間的には、彼は、今となっては賢王だった。
優柔不断で、犯罪者組織をのさばらせ、あまつさえ長男の愚行に対していつまでも断罪をすることが出来なかった。
だが最終的に彼は、自らの手で腐敗貴族を、長男を裁き、引責により王位を優秀な次男に継がせた。
結果、冒険者たちの働きで犯罪者組織が一掃されたことも相まって王国の政治は安定し、斜陽と言われていた王国の未来は光が射している。
真に悪魔を宿す冒険者の勇姿を直接目撃した一部の者を除き、多くの国民は、そう考えている。
部屋は多くのメイドが清掃をし、幾人かの者、例えば彼の息子や娘、そして忠臣であった嘗て王派閥と呼ばれた貴族などが面会に来ている。
王城の者は、現在と、これからの王国の明るい兆しを作った全てが、先王の采配でなかったことを知っている。
だが彼らは、先王が善人であったことを知っている。
足掻いていたことを知っている。
バルブロの件で心を病んでしまった事を知っている。
そして、今王城に残る者達は基本的に善人であるので、もはや権力が無くなったその老人を、ありのままに哀れに思うことが出来る。
そんな中でも、特に忠義厚き者。
ランポッサが王として、貴族たちとの争いに神経をすり減らしていた頃から、自らの剣を王に捧げ、王命であれば自身の命すら投げ出せた者。
その者、ガゼフ・ストロノーフは現在、先王の現在の居室にて佇んでいた。
「……余は、もはや王ではない。当代の王……ザナックが、命じた事であれば、余はその決定に反対はしない。そういう権限もない。だから余に、いちいち報告をする必要など無い…」
「陛下…はい、存じております。ザナック陛下にも良くしてもらっております。ですが……私を見出し、私にこの国を、民を、陛下を…守る剣を与えていただいたのは、陛下でございます。ですので、出陣の前のご挨拶をすることをお許しいただければと」
「ふ……ガゼフ…余には、余には過ぎた家臣であったな……ザナックを、よろしく頼む」
「はい!全身全霊を以って、お仕えさせていただきます!」
ガゼフが部屋を出ると、そこには果たして、現王たるザナックの姿があった。
「陛下!」
すぐさま跪くガゼフに対して手をあげて「よい」とだけ述べた。
ガゼフが面を上げると、ザナックは目線を部屋の扉に向けたまま、まるで独り言のように喋り出す。
「……国として、エ・ランテル自治領への派兵を行えば、それは即ち帝国と我が国の戦争となる。先の竜王による被害と、
ガゼフは姿勢も表情を崩さず、むしろ嬉しそうに言葉を述べる。
「理解しております…そして、愚かな男が王命に背き1人で勝手に戦場に向かうこと、お許しいただき感謝に耐えません」
「…許した覚えなど無い。仮にそのような男がいて、戦場で暴れ、戦死したとしても、俺は帝国に対して知らぬ存ぜぬで通すのだからな」
「……感謝いたします」
「……」
決意を秘めた戦士長の目を見遣り、ザナックは諦めたような表情で何も言わず、先王の部屋へと入っていった。
「……父上。また痩せましたね」
「老人が痩せるのは当たり前の事…それにこの身体は既に自分自身の者ではない。……全ては悪魔に捧げたのだからな」
「父上……私も痩せましたよ。見てください。服がもう、ぶかぶかなのです。毎月のように新調するのは私的な浪費と変わらぬと思い、ある程度まではこのぶかぶかでやり過ごそうと考えているのですよ。しかしストレスが原因とは言え、体重が落ちるとこれ程快適に過ごせるのですね。階段の上り下りも苦しくなくなりましたし、なぜか眠りも深くなりました」
「……」
「父上、知っていますか?ラナーは、今、私の補佐のようなことをしてくれていますが、いずれは政治からは離れ、自由に生きるそうです。勿論、“黄金”として国の象徴という立ち位置は変わらないでしょうがね……ラナーはおそらく、思い人と結ばれることが出来るのではないでしょうかね」
「………」
「嫁いだ2人も、幸運にも両家は腐敗貴族ではなかったからか、ご存じの通りこの度の混乱を生き延びました。先日久しぶりに会いましたが、2人ともこれから変わりゆくこの国に希望を持っていました」
「……ザナック」
「父上……まだ、兄上のことをお考えですか?」
「……儂は……儂は、バルブロを、殺した。この手で。この手にはあの時の感覚が……バルブロを、息子を殺した、感触が」
「父上、私はここに居ます!」
「ザナック…?」
「あなたの娘も、3人ともまだ生きているのです!そして、皆、希望を持てているのです!父上が、覚悟を持って、腐敗を断ち切ったからです!!」
「ザナック……儂は…」
「…それが、例え、悪魔の導きだったとしてもです!だから父上、今を、未来を、見てください!まだまだ未熟な私に、王として必要な事を教えて下さい!!」
ランポッサは、今まで見た事が無いザナックの表情に、目を見開いた。
自分が為した愚かな行いで、この次男は卑屈で、自分の意見など言わない者に育ってしまった———そう思っていた。
だが、それは間違えだった。
いつの間にか息子は、成長していた。
そして、いつ以来か。
その息子の強く真剣な言葉と、僅かな涙を見た。
———また、間違えるところであった。
バルブロの事ばかりを考えて、このザナックや、ラナーや、まだ生きている者達のことを疎かにするところだった。
それを今、息子に教わった。
「……ザナック……すまない…すまなかった…儂は…バルブロばかりを見ていて、お前を…お前たちを……見ていなかった」
「……全くです。まずはちゃんと食事を摂ってください。体調が万全でなければ、父上から教わることも難しい」
「…ザナック、お前もちゃんと食事を摂るのだ。忙しいかもしれないが、王というのは思ったよりも重労働だからな」
「分かりました、では一緒に食事をしましょう」
そう言うとザナックは手を叩く。
速やかにメイドが現れ、軽食を運んでくる。
「ふ……準備しておったのか……本当に成長したな、いや、今までも儂がちゃんと見ていなかっただけなのだろうな」
「いえいえ、ここのところ色々と、本当に色々と学びましたからね、主に妹から……ところで、父上、まずは戦士長の乗りこなし方を教えてください」
「はは……ガゼフか。苦労するであろうな。だが忠臣であるぞ」
「すでに苦労しております……この度のバハルス帝国からの侵略、一人で出ると言って聞かないのです」
「うむ……嘗ての自身の愚かな行いを棚に上げて言うことではないが…決して死なせてはならない者だ」
「ええ、まあ、なんと言うか……あの妹が『好きにさせて構わない』と言っているので大丈夫かと…」
***
王城を後にしたガゼフは、足早に自宅に戻り、所有する武器防具を鎧櫃にしまい込む。
そして夜遅くになると出陣のために厩へ向かった。
これは孤独な闘い。
そして戻れぬ可能性が高い戦い。
戦士団の誰にも言うことは出来ない。
言えば、あいつらのことだ。
きっと共に戦うと言ってくれるだろう。
だがそれでは駄目なのだ。
ザナック陛下が仰ったとおり、これは俺単独の判断であり、決して国を背負ってはいけない。
一方で希望もある。
パルメーラ殿をはじめとした『漆黒の剣』の方々。
冒険者は本来、国家間戦争に口出しをしない。
だがエ・ランテルを拠点としている彼らならば…。
彼らが動いてくれるなら、俺はその助けのために剣を振ればいい。
王国戦士長としてではなく、『漆黒の剣』の友人として。
可能な限り全速力で馬を走らせ、エ・ランテルの城門が近づいてきた。
思った通り、城門は閉じられていて、城壁の上には見張りの者。
戦争に備えた防御の体勢となっている。
しかし見張りの者が、自身の姿を確認した後、門が静かに開いていく。
「ん……これは………バ、バカな!……ノアク?!」
そこには自宅に置いてきた筈のノアクの姿、そしてその左右には『蒼の薔薇』のティナとガガーランが立っていて、3人を18体の悪魔が囲んでいる。
「なぜだ?!…はっ…そうか!影に潜む悪魔殿か!」
ガゼフの予想通り、ガゼフの影から1体の
「ガ、ガゼフ様。ボクには悪魔さん達がいます…だからボクはもう戦えます!そ、それに、ガゼフ様に助けていただいたご恩をまだ返せていません!」
「この子は一昨日到着した。ストライクゾーンなので私は自主的に護衛している…くんかくんか」
「…で、俺っちはチームメンバーが犯罪を犯さないように見張ってるのと、あと、アンタに状況を説明するために待ってたって訳よ。ティナだけだとちゃんと説明されるか怪しいと思ったからな」
「ティナ殿、ガガーラン殿!」
「ま、とりあえず街に入んなよ。『漆黒の剣』の皆もお待ちだぜ」
ガゼフがガガーランたちに連れられて向かったのは、冒険者組合の2階だった。
「ガゼフ…やはり来たか」
「パルメーラ殿!」
そこには、『漆黒の剣』のメンバー、『蒼の薔薇』のメンバー、冒険者組合長、魔術師組合長、薬師組合のリイジー・バレアレ、パナソレイ、そして一番奥にフードを深く被って誰だか分からない小柄な人物と、同じくフードを被って誰だか分からないが、隣の者より若干体格がいい者が座っていた。
ガゼフはノアクと共に空いている椅子に座る。
「やれやれ、やはりガゼフ殿も来てしまったか…こうなると最早、冒険者たちの動きを止めるとかいう次元の話ではなく、リ・エスティーゼ王国として戦っていると言われても言い訳が出来そうにないわい…」
パナソレイが、後から後から溢れる汗をハンカチで拭いながら言葉を漏らす。
「いや、俺は戦士長ではなく、唯の一国民としてこの場に来ているつもりだ…が、どういうことだろうか?」
「はぁ…私が説明するわ」
若干疲れた顔をした、『蒼の薔薇』のリーダー、ラキュースが説明を始めた。
「今回のバハルス帝国の宣戦布告、過去のカッツェ平野の小競り合いとは違う、明らかに国力が落ちている時期を狙った侵略戦争ね。リ・エスティーゼ王国は明らかな負け戦になることを理解して、このエ・ランテルに派兵をしない…つまり切り捨てることを選択したわ。まぁ、これが1年前だったら負けることを想像することすらできずに突っ込むバカ貴族が居たでしょうから、それから考えれば随分と良くなったのだけど、でも、エ・ランテルの住人からすればそれは別の話よ。住んでいる場所が侵略を受けるのだから」
「…う、うむ」
ガゼフは“1年前の状況”という部分については、安易な賛成は今は無き王族を批判するものに繋がると感じたから、曖昧な返事をした。
「で、そうなるとエ・ランテルの民は、諦めてバハルス帝国に降伏するか、多くの犠牲を覚悟で徹底抗戦をするかの2択となるのだけど、ここの住民が降伏という選択を取るわけもなく、戦うという雰囲気が街中に溢れていた。そして、特にこの街をホームとする冒険者たちは、冒険者の身分を捨ててでも戦うと言い出した。正直言うと、私たちもそういう気持ちでこの街まで来たの。でも、冒険者組合長のアインザックさんはその意見に反対した。まあ、当然よね。街の危機だから一旦冒険者を辞めて、戦争が終わったらまた戻るなんてのは、きっと認められない。それをやれてしまったら、冒険者というものの地位の信頼が揺らぐことになる。うちのチームのイビルアイにも窘められたわ」
「……特に私たちのような“アダマンタイト級冒険者チーム”の者達が戦うというのはマズい。名前は他国にも知られているし、これから先の全てを捨てる必要があるだろうし、戦いの後、バハルス帝国から何て言われるか分かったもんじゃないからな…」
イビルアイが、静かに付け加えた。
「そういう訳で、私たち『蒼の薔薇』は、戦争で発生する可能性があるケガ人を最小限にとどめて、戦闘能力のない一般市民を守ることに専念しようと考えていたの。運が悪いことに、ちょうど神殿のカジット大司教様も急用で本国へ戻っているという話だったから、神聖魔法を使える者が必要でしょうし」
「む…そうか。カジット大司教殿が…それは何とも間が悪いな」
「でもね、正直言って、私たちはエ・ランテルの冒険者たちを甘く見ていたわ。彼らは、国家間争い以外の点では長年このエ・ランテルを実質守ってきたという思いと、この街からアダマンタイト級冒険者チームが生まれたという誇りで、例え組合を追放になっても戦うと言い出した。これは…まあ、結果的には王国に見放されたという失望もあったのでしょうね」
「……」
ガゼフは、ぐっと拳を強く握った。
ザナック陛下や、その周囲の様子を間近で見ている彼は、今の中枢が安易な考えで此度の決断に至ったわけではないと知っているからだ。
苦渋の末、その他多くの王国民を守るために選んだ選択なのだ。
だが一方で、平民出身であるガゼフ自身は、切り捨てられる国民の気持ちも痛いほどわかる。
だから、その気持ちを、言葉にすることは出来なかったのだ。
「はぁ……でもね、もうそんな事言ってられなくなったの」
ラキュースは呆れたような、疲れたような顔で、部屋の最も奥に座る、フードを被った者の方を見た。
そしてそのフードの者は、それに呼応するようにフードを脱いで言葉を発した。
「もう、ラキュース。まるで私が悪いみたいじゃないですか」
「あなたが悪いのよ!ラナー!!」
そこには、頬を膨らませて起こったような顔を作る黄金の姫———現在は王妹と、その御付きの騎士であるクライムが申し訳無さそうに目を伏せて、座っていた。
そこからガゼフは、ラキュースからラナーが何をしたかの説明を受けた。
ラナーは、バハルス帝国の宣戦布告を知るや否や、クライムに命じて彼と共に王都を脱出。
今のリ・エスティーゼ王国が、正面切ってバハルス帝国と戦争など出来ないだろうと理解していたために、王国がある意味でエ・ランテルを切り捨てる可能性が高いと予測したためだという。
また、天魔の戦いの終結による浮かれた雰囲気と、マトモな王の即位、そして八本指の壊滅という出来事により治安が良くなった王都は、抜け出すのは簡単だったという。
そしてエ・ランテルに到着したラナーは冒険者組合の前まで行き、バハルス帝国と戦いたいと言い集まったこの街の冒険者たちの前でその正体を露わにし、国を憂う“黄金”として声を上げた。
『私はこの国の王妹のラナーでございます!国としてバハルス帝国と戦争をすることは難しく、兄であるザナック王は断腸の思いで軍を動かさない判断をいたしました。兄の判断は間違っておりません……国として戦いに参加すれば、侵略を受けるのはこのエ・ランテルだけではないでしょう……ですが私は、この戦いによって罪なき方が傷つくことを、どうしても見過ごすことが出来ませんでした!私の私的財産からのみとなってしまいますが、可能な限りエ・ランテルの皆様のご支援をさせていただきます。そして、もし、この戦いで仕事や家を失ってしまうような方がいらっしゃれば、兄か私が管理するいずれかの場所で生活が出来るよう、紹介いたします!!』
冒険者たちは突然の“黄金”の登場に目を見開き、そして一気に沸き上がって歓声を上げた。
ラナーの宣言はつまり、冒険者が組合を抜けて帝国と戦った後、仮に元の冒険者組合に戻れなかったとしても、私的なコネを使って戦後の職業や暮らしを保証するというものだったからだ。
冒険者たちは、このラナーの言葉に勇気を貰い、多くの者が『冒険者離脱届』を書くため組合のカウンターに長蛇の列を作った。
当然組合は大混乱となり、アインザックは頭を抱えた。
その様子を、他の者達よりは冷静に見つめていた、『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』の者達は即席で話し合い、一旦はこの混乱を鎮めるために、2つのアダマンタイト級冒険者チームとこの国の有力者、それにラナーを交えて話し合い方針を決めるので、それまでは『冒険者離脱届』を含めた申請や、帝国への攻撃といった先走りも起こさないよう説明した。
エ・ランテルの冒険者たちは、この街が生んだ英雄たる『漆黒の剣』の意見には従順であったために、とりあえずの混乱は収まった。
それが2日前。
そこから、この会議室に居るメンバーで話し合い、秘密裏な幾つかの合意事項が取り決められた。
まず、ラナーが関連してしまった事でこの戦いは、王国と帝国の戦争となってしまうだろうということ。
ラナーの宣言は組合前とはいえ、往来で行われたため、冒険者だけでなく一般国民の耳にも入ってしまった。
そして、この国境の街には、どれほど注意しても帝国の密偵が侵入している可能性が高く、すでにラナーの宣言は帝国へ持ち帰られている可能性を考えなければならない。
それはつまり、あの鮮血帝に戦争の口実を与えてしまった可能性が高いということで、エ・ランテルが帝国の手に落ちれば、バハルス帝国はその後、他の街へも侵略に出ていくかもしれないということ。
王国戦士団見習いのノアクと戦士団団長のガゼフが姿を現わしたことも、口実の1つとなってしまう可能性が高い。
次に冒険者たち。
ラナーの宣言により勢いづいた冒険者たちは、間違いなくこのエ・ランテルのために戦う道を選ぶだろ言う。
今は『漆黒の剣』をはじめとした者達の説得で、『冒険者離脱届』の提出を停止しているが、戦争が始まってしまえば、彼らはその様な届け出の有無など関係なく戦いに参加する可能性が高い。
この国の王族たるラナーの言葉が、彼らに力を与えてしまったのは間違いない。
仮に冒険者たちが戦争に参戦した場合、帝国の侵略を防ぐという観点では一定の効果がある可能性が高い。
帝国はあくまで職業軍人が攻めてくるわけだが、その最高峰たる四騎士は冒険者で言えばおそらくミスリル~オリハルコン程の強さと考えられている。
これは嘗てのガゼフとの戦いを基に考えた場合の強さだが、少なくとも四騎士を除く軍人たちは、エ・ランテルに所属する3つのミスリル級冒険者チームよりは弱いはずである。
だが、ある程度強いということは新たな問題が生まれてくる。
それは帝国が持つ最大級の戦力———勿論それには帝国四騎士も含まれるが、懸念はかの国が所有する2名の逸脱者。
言わずと知れたフールーダ・パラダインとアルシェ・フルトの存在だ。
第6位階という、常人には到底到達できない領域の魔法を使いこなす2名が戦場に現れた場合、エ・ランテルの冒険者と言えどもそれに対抗することが出来ない———表向きは。
そして、エ・ランテルが攻め落とされれば、逸脱者を要した帝国軍は、王国の他の街へも攻め入る口実を持ってしまうだろう。
以上からこの戦いには、最早絶対に勝たなければならないし、その勝利は可能な限り王国としての力ではなく得なければならないし、さらには2名の逸脱者を所有する帝国さえも二度と王国に手を出す気が失せるような圧倒的なものでなければならない、ということになった。
この会議室の中にはそれを単騎で可能にする可能性を持つ者が2名いる。
1人は、先の天魔の戦いを経て、遂に前人未到の第8位階に到達した“
もう1人は、その天魔の戦いを収めた張本人、“覚醒せし大悪魔の末裔”ことパルメーラ。
なお、これらの二つ名は、ペテルとラキュースが大真面目に考えたものだ。
この2名に関する情報が帝国へ伝わっているかどうかという点について。
パルメーラについては先の王都での戦いが伝わっている可能性は大いにあるが、目の当たりにした者達ですら俄かには信じられない、『末裔たる悪魔の血を覚醒して、自身が大悪魔となり、王都の全ての場所から目視できる程の大魔法を2度にわたり放って竜王を倒した』などという御伽噺級の話がそのまま伝聞され、さらに帝国がそれを丸ごと信じている可能性は低いのではないかという意見がでた。
ニニャについては、ほぼ間違いなくその詳細な力は伝わってはいないだろう。
第7位階に到達したという事実も、現在のこの部屋のメンバーにしか共有されていないし、遂には第8位階に到達したというのも、『蒼の薔薇』と『漆黒の剣』のメンバー以外には伝えていない。
これらの事から、実質的に帝国軍と正面をきって戦うのはパルメーラが担うしかない。
100%事実としては捉えられていないかもしれないが、既に天魔の戦いを収めたことは伝わっているであろうパルメーラの戦闘力は見せても良いが、まだ帝国には使用可能位階数も伝わっていないであろうニニャの力を安易に見せるべきではないからだ。
また帝国としても、2名の逸脱者が両方とも戦場に出てくる可能性は低いと思われる。
絶対的な戦力を持つ者が2名いるならば、1名は戦場、もう1名は皇帝の護衛として配置するのが普通だからである。
そういう訳で、ラナーの介入が切っ掛けとなり、結果的にパルメーラが戦場に立つしかない状況となったのだった。
パルメーラは深く黒い目を仲間たちに向けながら「…仕方ないが、それが最も危険が少ないのも事実だな。精々、帝国の軍隊にも被害が余り出ないよう配慮する」と答えた。
そして一度はペテルから突っ返された『冒険者離脱届』を、正式にアインザックに渡した。
他の『漆黒の剣』のメンバーは主に、このエ・ランテルの冒険者が暴発しないためのまとめ役をすることになり、『蒼の薔薇』はエ・ランテルの城壁の外に待機して、帝国軍の動きを秘密裏に監視し、かつエ・ランテル以外の都市が攻められないように守る役目を担う。
特にニニャは、万が一、帝国の2名の逸脱者のいずれかが、エ・ランテルまで攻め入った時に対処する役割を持っている。
ガゼフとノアクは、教会の者や魔術師組合、魔法薬師組合の者と共に、冒険者以外の街の者を守るとともに、治安の悪化が怒らないように見張る役目を担う。
パルメーラを戦場に立たせて帝国軍に圧勝する、というシナリオが上手く進んでいることに、ラナーは一人、ハァハァしながら笑顔になった。
ニニャとラキュースは、それぞれが担当する持ち場について言い合いをしている。
2人とも、できるだけパルメーラの戦いを見たいので、彼にできるだけ近い領域を担当したいと考えているのだ。
もっと言うと、エ・ランテルで何日かぶりに再会したニニャは、いきなりパルメーラに抱きつき、瞬間、ラキュースのこめかみに青筋が奔った。
パルメーラはそんなニニャの行動に、むしろ安心感を覚えていた。
それは、『蒼の薔薇』あるいは、それ以外の関係がある女性のうち2名が、自分に対して思いを抱いているというタブラからの指摘を受けて疑心暗鬼になっていて、そもそも男と認識しているニニャからはどんなにスキンシップを受けようとも、男だから安心という感覚だったからである。
パルメーラの中では、消去法でガガーランが怪しいと考えてしまっていたため、ガガーランを中心に『蒼の薔薇』に対する視線が何だか不審者のようになっていた。
いや、男子中学生のようになっていたとでも言った方がいいかもしれない。
概ねの作戦が決まって解散となったところで、ガガーランが首を傾げながらパルメーラを観察し、遂に話しかけてきた。
「なあパルメーラ。前にリ・アインドルで話した事の続きなんだだがよぉ、前はそうは見えなかったのに、今は何だかお前さんが童貞に見えるぜ。モノは相談だがよぉ、戦争の前にどうだ?俺っちが男にしてやるぜ」
「なっ…ガガーラン……やはりお前……いや、止めてくれ。今、そういうのは、止めてくれ」
そのやり取りを見ていたラキュースが血相を変えて飛んできた。
「ガガーラン!!ダメよ!!大悪魔の末裔たるパルメーラさんには、貴女は、その、正義すぎるわ!!」
いつの間にか、瞳のハイライトが消えたニニャがパルメーラとラキュースの間に音もなく転移してきていた。
「ふふふ…ガガーランさん。ダメですよ。パルメーラさんが敵に後れを取る事なんてあり得ませんが、それでも戦いの前に気を乱すようなことを言ってもらっては困りますよ……ねっ、パルメーラさん!」
ニニャは素早く瞳にハイライトを戻して、パルメーラに向き直ってウインクした。
「お…おう。そうだな。今は戦いに集中すべきだ、な」
「ですよね!あ、でも、戦いが終わったら、僕、パルメーラさんに言わなきゃいけないことがあるんです。ほら、前に言ったじゃないですか。第8位階に到達したらお伝えすることがあるって」
「あー、そういえば言っていたな。まあその件は戦いが終わったらだな。それにしてもニニャ…何か髪が伸びたんじゃないか?まあ、
「これは、フフフ…いいんですよ。もうちょっと伸ばそうかと思っていまして。それで、肩ぐらいまで伸びたら、その。えへへ」
「ニニャさーん!!!アナタも、戦争の前にパルメーラさんの気を乱すのはダメなんじゃないかしらーーー!!!」
「ラキュースさん、そんなことは無いですよ。これはただの、チームメイト同士の会話です。今はまだ、ね」
相変わらずのニニャとラキュースのやり取りに、『漆黒の剣』の男性陣は一歩引いて、我々は関係ない、という顔をしている。
ラナーはそのやり取りを見ながらにっこりと笑い呟いた。
「英雄にして大悪魔様の末裔たる御方の妃が1人しかいないというは実に奇妙な話…ラキュースもガガーランさまもニニャさまも、何を慌てているのでしょうね」
「…姉ちゃん」
「…な、面白くなっただろ?」
「そうだけど!でも、思ってたんと違う!!ガッツさん参戦してんじゃん!!しかも2/4ヤンデレって何?!」
「いいから黙って見とけ。あとネイアちゃん10歳に手ェ出そうとしてんじゃねーよ」
「え”ッ?それオレじゃなくて、るし★ふぁーさんが作ったゴーレムじゃ…?」
「お前の思考をコピーした結果がアレなんだろーが!」
「さすがにそれは濡れgi…ぐばぁ!!」