オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
法都シクルサンテクスの一画、普段は使用していない広大な聖殿の最奥に、1人の男とその娘達が転移してきた。
「はぁ………」
その男——パラケルは、明らかに疲弊した表情で、いつの間にか用意された椅子に腰かけた。
「お父様、その…本当に御疲れ様でございました」
「ああ、いえいえ。お前も疲れたでしょう。それに今回は、表情に出すことも無く、本当によく我慢していましたね」
「あの、はい。あの者は、その、行いは非常に過剰でございますが、お父様への敬意からあのような状態になっていると理解することで、怒りといった感情は起きなくなりました」
「そうですか……さて、それではフールーダから得た情報を基に
「はい、ペストーニャ・S・ワンコ、御身の前に、あ、わん」
「お留守番していただいていたあなたは状況が分からないと思いますので、簡単に説明します。戦争で行う作戦のため、これから私はホムンクルスをおよそ2万体召喚する必要があります。勿論、普通に作製するのでは時間が足りない。しかし私にはそれを可能にする切り札があります。用心のため、この世界に転移してきてからは一度も使用していませんでしたが、今回はこのワールドアイテム・【クィンタ・エッセンチア】を使用します。このWIは錬金術によって作製できるものであれば、その作製量を10~100万倍まで増やすことが出来る代物。ただしその倍数は10のn乗倍と規定されていて、nに入る数値は使用時にダイスロールが行われ、1~6の数がランダムで選ばれる。なので今回は2体作製としてダイスロールで4が出れば、2万体が一瞬で作製できる。ただしこれにはリスクもあって、選ばれた数で作製する際に本来消費するはずであったMPの1/5が強制的に一瞬で消費される。ダイスロールが1~5であれば何とかなりますが、6が出た場合、私のMPが一瞬で枯渇して、さらに不足した分のMP分、回復ペナルティーがついて、しばらくの間私のMPがゼロの状態が続いてしまいます。なので、その場合はあなたにMPの譲渡を行っていただきたいと考えているのです」
「畏まりました…しかし、タブラ・スマラグディナ様、危険ではないでしょうか、わん」
「ええ、リスクがあるからこそ今まで使用していなかったのですが、今はMP譲渡が出来るあなたが居ますし、何より私は、都合が良く“4”が出るのでないかと考えています」
「それは…なぜでございましょうか?……わん」
「他でもない、あなたの創造者、餡ころもっちもちさんのおかげですよ。私はこの世界に来てから、なぜか妙に運がいいと感じている。そしてあなたから聞いた、餡ころもっちもちさんの為した事で納得がいった。高い確率で彼女は、この世界に対して幸運値の操作をしている。それも我々にとって都合がいいように……なので私は、それに賭けてみようと思ったのです」
「餡ころもっちもっち様が……あ、わん」
「ええ。そういう訳で、あなたにMP譲渡をお願いするのは本当に万が一の場合です。輪廻聖典の皆さまにお願いして、この最大200万人収容可能な場所をお借りしました。召喚後の
「畏まりした、わん」
「承知いたしました、タブラ・スマラグディナ様」
「よし、では始めましょう。【クィンタ・エッセンチア】開放———ホムンクルスを2体召喚!」
本性の姿に戻ったタブラの前に、五角形の輝く物体が現れた。
そしてその物体の上部にはルーレットが回転し出し———やがてその数字は“4”を示した。
***
『ウルベルトさん、今大丈夫ですか?』
『………ああ、今自室に入ったから大丈夫だ。どうなった?』
『餡ころ様の御導きで大成功です』
『マジか。ナザリックに戻ったら、やまいこ神社に餡ころさんも祀らなきゃいけないな』
『ええ、本当に。それで、準備は整いましたので、
『ああ。この世界に来てから召喚した悪魔で
『ええ、そこはアルベドが指示しますので、その旨、悪魔の皆さんへ伝えておいてください。
『ああ、なんか色々と揉めてたが、全員配置は決まってそれぞれ準備している感じだ。俺の方は作戦通りだ。だが、なんと言うか……ラナーについてはタブラさんの予想通りの動きをしている……お供にクライムを連れてきているし、一見すると心酔しているなんて感じには見えないんだが、やっぱりそうなのか?』
『ええ。間違いないですし、それだけ彼女は演技も上手いのでしょう。そういった職業レベルを持っていてもおかしくないですね』
『そうか……なあ、後の2人って誰なんだ……ガガーランは確定に近い気がしてきてなんか怖いんだが…』
『それは自分で考えましょうか。では
ブチッ
「……タブラさーん……泣」
***
ローブル聖王国、玉座の間。
現在そこでは、3名の者が静かにその時を待っていた。
3名の者のうち、真にローブル聖王国の政を取り仕切る2名——カルカとケラルトは、緊張で自分の心臓の音が聞こえるほどであった。
始まりはおよそ1日前。
暫く本国に帰る用事があるとのことで、大聖殿を留守にしていたミューギ司祭が戻り、その足でケラルトに謁見、伝えるべき重要事項があるのでカルカと共に聞いてほしいとの事であった。
城の衛士に入り口を守らせ、3名で行われた即席の密談で、ミューギは信じられないことを語り出した。
曰く、ショータロー様と同等の神が2名降臨され、近い未来に起きるバハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の戦争を回避するために御力を貸されると。
そしてスレイン法国はこの神の御業に全面的に協力をするとともに、ローブル聖王国にも、これから起きることで混乱が生じないよう、神が直々にご訪問され、そのあらましを説明するとのこと。
2人は息を飲むとともに、ケラルトは、なぜミューギが自分とカルカだけに声を掛けたのか理解した。
あの、バ…純粋な姉であるレメディオスは、意図せず不敬な何かを起こしてしまうかもしれない。
だからこその最小人数なのだ。
尤も、当のレメディオスは、現在旧南部で、元気にアンデッド残党狩りの遊撃部隊を率いている状態なので、呼び戻すこと自体が難しいのだが。
「……状況は理解いたしました。それで…私たちは神をどのようにお迎えすれば宜しいのでしょうか…?」
カルカの問いに、ミューギは微笑みながら答える。
「神は、御2人とも、本当に御優しい方でございました。ショータロー様と同じく、畏まったような対応は寧ろ望んでおられない御様子でした。おそらくはごく普通に、そうですね、他国の国賓の方をお迎えするような形式でよろしいかと思います。それに、今回は、既にショータロー様を含めた神々はバザー統一王陛下とネイア・バラハさんとお話をされ、御2人が神をこのホバンスへご案内してくれるとのことでございます」
ミューギの言葉に、カルカとケラルトは、やはり、と目を合わせた。
神の御友人であり、アベリオン統一国王であるバザー陛下は当然かもしれないが、神に愛された巫女であり、現在は急速に力をつけて、例えでなく父親であるパベルに匹敵する弓の名手となったネイアは、やはり神々と繋がる重要な存在であると認識した。
その弓の力量や、民衆からの人気、そして何より神ショータロー様の祝福を受けた少女であるネイアには早急に国としての地位を与えなければならない。
あの竜王の襲撃後、スレイン法国の協力により情報漏洩は起きていないと思われるが、国土の中の敵対的なアンデッドが概ね倒され、旧南部の領域に複数の街———しかもそれは人と亜人が共に暮らす街が自然発生的に形成されてきていて、そろそろ国の情報を他国に流しても良い次期だと考えられていた。
これは、国力が回復し、他国の侵略を受ける心配がなくなってきたこと、また隣国の政情が不安定だったリ・エスティーゼ王国がまともな国に生まれ変わりつつあることなどから、最早情報を開示して、他国との貿易を再開した方が、ローブル聖王国の発展に寄与すると考えられる状況になったからだ。
“神”の降臨も、聖王女が積極的に発信をしなくても広まっていくことだろう。
ホバンスの民は、自分たちの住む街を『聖なる神たる熾天使が降臨した街』として『聖天都』などと勝手に呼んでいるし、そこ彼処の街には天使のレリーフが存在しているし、亜人たちとの日常的な会話の中にも『神が』とか『天使様が』とかいった話題が普通に行われている状態だ。
だがそこで問題となりそうなのがネイアの事。
ネイアは最早、ローブル聖王国として、神との繋がりの観点から最も重要な人物である。
国民たちは、彼女のことを天使様に愛された聖なる娘として認識していて、非公式(ネイアが恥ずかしがって認めないため)ファンクラブの会員数は一万の大台に乗りそうだという話である。
そうでなくても彼女は、弓兵として非常に強力な力を持っていて、間違いなく国始まって以来最年少で『隊長』位を与えられている。
だが、国で最も神に近い存在が、高官であっても特別扱いされていないというのは如何なものか。
例えば、ネイアの実力を、かの帝国が正確に把握した場合、そういった苦言と共に帝国への引き抜きを画策するかもしれない。
そのような懸念から、カルカとケラルトは、ネイアに九色の一色を与えるタイミングを見計らっていた。
そしてそれは、真に、南のアンデッド討伐が一段落下と思われる今が最適だと考えていたのだった。
だがここに来て、『新たなる2柱の神の降臨』である。
そしてその手引きをネイアが行う。
最早、タイミングを見計らっているなどという悠長なことを言っている場合ではないと、カルカとケラルトは言外に意見を一致させたのだった。
そこから3名は、玉座の間に神々がお座りになる席を設け、華美が過ぎないよう、しかしながら最高級ではある茶や菓子を準備した。
本来そう言った仕事は彼女たちがするはずもないのだが、今回は極秘の話し合い故、聖王女自らが手を動かす必要があるのだ。
そして同時にネイアに与える九色の一色たる『赤』の称号を示す刺繡が入った徽章の準備を開始した。
程なくして、空間が歪み、その中から4名の者が姿を現わす。
バザー、ネイア、神御付きの赤い天使様、そして神・ショータローである。
いつもと違い、ショータローは仮面をしておらず、その御顔を晒している。
すかさず、ミューギが姿勢を低くした。
それに続き、ケラルトが、そして最後にカルカが頭を下げる。
本来であれば、王であるカルカが頭を下げることは有りえない。
成長し、強かさを身に着けた彼女であれば猶更、それをしてはいけないことを理解している。
だが目の前の存在は、神。
人間や亜人の王など、いくら頭を並べても、決して届かぬ存在。
そしてこの国は、例えでもなんでもなく、その神に救われたのだ。
一斉に3名が頭を下げる様子を見て、ショータローは非常に嫌そうな顔をした。
しかし、転移でどこかに飛び去ることはしなかった。
代わりに小さな声で、「いいから…そういうの、いいから。話しづらいから、普通にしてて」と言った。
その言葉に呼応して、3名の中では最も神の性格を知っているミューギが頭を上げて喋った。
「ショータロー様、ありがとうございます。それでは、カルカ聖王女陛下、お伝えしていました通り、皆で席についてお話をしてもよろしいでしょうか?」
ミューギの言葉に促されるように、カルカもケラルトも頭を上げた。
「はい、畏まりました。皆様、席へ御付きください。本日はよろしくお願いいたします」
一同は席につき、ショータローも、もぞもぞしながらも席にちゃんと座った。
「パパ、これ、お菓子?」
ショータローの横の天使の少女がニコニコしながらテーブルの上の菓子をつついている。
その言葉に、ケラルトがすかさず声を掛ける。
「天使殿、はい、仰る通りでございます。遠慮なく召し上がってください。お口に合いましたら追加で準備いたしますので」
「ありがとう!」
ルベドのおかげで場が和んだところで、カルカが話を始めた。
「ショータロー様、本日はこのホバンスにお越しいただき誠にありがとうございます。ミューギ司祭様から、概ねの内容について伺いました。また、ショータロー様の他にも神が降臨されたと…本日はよろしくお願いいたします」
「うん…。ちょっと、待って。仲間が来たら、説明するから」
ショータローは珍しく、ちゃんと自分の口で言葉を発した。
その様子をバザーは、ウンウンと頷きながら眺め、ネイアはハラハラした気持ちと、聖王女様たちの前に来て一緒に座っていることによる緊張が混ざった状態になっている。
———ここに来る前、ショータロー、ネイア、バザーの3名は、一旦バザーの私室に転移した。
そこでショータローは、案の定、この後の会議の中での会話をバザーに丸投げすると言い出した。
だが、バザーはそこで明確に待ったを告げた。
「ショータローよ、今回に関しては、それは出来んな。これは貴様が、貴様の仲間たる先ほどの2名から託された仕事なのだろう?俺やネイアはあくまで貴様の友として共に向かおう。だが、今回の話は神である3名の者達との話であって、俺はそれを代弁することは出来ん。それにな、ネイアのことをよく考えてやれ。俺はいい。俺は曲がりなりにも王だからな。カルカ聖王女陛下の前に出ることも何ら臆することは無い。だがネイアは貴様と友になり、結果的に人間としてはまだ幼い年齢ながら、鍛えられ、助けられ、本人が意図するよりも先に聖王国の重要人物になってしまったのだ。今回だって貴様の友であるから、一緒に行動しているが、ネイアからすれば国の重鎮や、神と言われる存在に予告なく謁見させられている状態だ。貴様が逆に、自分の意志とは別に、知らん国の王や知らん世界の神やなんかと会わせられたら緊張するだろう?もう少し、ネイアの———友のことを大事にするのだ」
「えっ…あの、その!バザー陛下、ありがとうございます!でも、ショータローくん、わ、私は緊張はするけど、嫌じゃないよ!ショータローくんと友達になれて、知らなかった事とか行ったことないところとかに行けるのは、楽しいよ!」
「………わかったよ。ネイア、その、色々とゴメン…」
「わ、私は、大丈夫だよ!」
そんなやり取り(ガチ説教)があった結果の会談であった。
もしその場にどこかのギルマスが居たら、涙を流しながらバザーとネイアに最上位の感謝を伝えていただろう。
程なくして、ルベドの目が光ると、彼女が声を上げた。
「パパ、お父様からメッセージが来ました。ここの座標を送っていいですか?」
「ああ、頼む」
そして、再び空間が歪み、新たな者が姿を現わした。
美しい黒髪の女性が2名———よく似ているので姉妹かもしれない。
そしてその後ろから、叡智を目に宿した、茶色が混ざった黒髪の男性。
男性が会議室に足を踏み出すと、黒髪の2名の女性が速やかに頭を下げた。
それにつられて、ショータローを除く、他の者達も頭を下げる。
「そのような対応は不要ですよ。私の名はパラケル。他にも仲間はいるのですが、本日は私が代表して伺わせていただきました。今は旅の錬金術師ですので、その様に扱っていただければ結構です。というか、国の重鎮の皆様とお見受けしますので、このような対応は不自然です。今後別の場所でお会いする際は、御身分に合ったご対応をしていただければ幸いです」
そう言って微笑む男はぺこりと頭を下げた。
そして、目線をカルカとケラルトの方へ遣ると、改めて口を開く。
「あなた方が、ローブル聖王国の聖王女陛下と…大臣の方でしょうか?」
その言葉に、カルカたちが速やかに回答する。
「私が、ローブル聖王国の当代の聖王、カルカ・ベサーレスでございます。パラケル様、どうか、お座りいただけますでしょうか」
「私は、ローブル聖王国、神官団団長のケラルト・カストディオでございます。本日はよろしくお願い申し上げます」
そうして、3名の者が席につくと、最初に口を開いたのはやはりパラケルであった。
「カルカ・ベサーレス陛下、ケラルト・カストディオ神官団団長、まずはここまで、私どもの仲間であるショータローさんへのご対応誠に感謝しております。色々とご迷惑をかけたのではないですか?」
「えっひどくない?」
ショータローのツッコミに、バザーだけが表情を緩ませ、ネイアは少し目を逸らした。
カルカは慌てて、パラケルに言葉を述べる。
「めっ迷惑など、滅相もございません!我が国は、例えでなく、ショータロー様に救われました。こんにち、私やケラルト、ネイアがこの場所に座っていられるのも、バザー陛下並びに亜人の皆様と友好的な関係を築けたことも、全て、全てショータロー様が齎したことでございます!」
同じくケラルトも言葉を添える。
「ショータロー様は、我らに種族の壁を越えた融和を説かれ、ご自身の行動でもそれを示していただきました。そしてこの国と友好国となれたアベリオン統一国の全ての民の宿敵となりえた悪しき竜王を撃退され、このホバンスの土地では竜王に殺された全ての民を蘇らせる奇跡を成されました。ショータロー様に感謝しておらぬ者など、この国には一人も居りません」
「ふふ……そうですか。仲間がお役に立てたようで良かったです。ですが彼がそれを成すに至ったのは、おそらくこの国やアベリオン統一国での出会いがあったからこそ。その出会いが彼をそうさせたのだと思います。ね、ショータローさん」
「なんだよー。結局クソドラゴンにトドメさしたのはパラケルさんだったじゃん。まー、ネイアとバザーと友達になったからってのは確かにそうかもだけど」
ショータローの言葉にバザーもネイアも、嬉しい気持ちとなった。
まあ、出会いはアレだったが。
特にバザーはアレだったが。
一方、すかさずそこでカルカが言葉を挟んだ。
「パラケル様、ショータロー様。本日は大切なお話があると伺っておりますが、大変失礼ながらその前に、一点お伝えしておきたいことがございます。真に今仰っていただいたバザー統一王陛下と我が国のネイアについて。我が国では、特に国家への貢献を成した者へ聖王から九色という称号を与えることが伝統となっております。先の竜王との戦いで活躍し、その後の復興にも多大な貢献をしていただいた、バザー統一王陛下には、他国の王ではありますが例外的に永世名誉称号として“金”を受け取っていただきました。勿論ご本人の許可を頂いた上です」
「うむ。俺がその九色を受け取ることが、我が国とローブル聖王国の長い友好関係にも寄与できると考えた結果だ」
「そしてこの度、我が国のネイアに対して新たな九色の一色である“赤”を与えようと考えております」
「?!」
ネイアは突然の話に、その四白眼を見開いた。
「おー、良く分かんないけど、良かったじゃん」
特に深くは考えていないショータローがネイアを見ながら言ったが、ネイアはまだ目を白黒させている。
一方で、そのカルカの言葉に対して、パラケルが発言する。
「ふむ…私には良く分かりませんが、ネイアさんもこの国の復興に大きく貢献しているということでしょうか。ただ、それは私やショータローさんの許可を必要とすることではないですよ」
パラケルの言葉に、口を開いたのはケラルトだった。
「パラケル様、はい、勿論、仰る通りでございます。我が国の事情ですので、これはご参考までにお話しているに過ぎません。ただ、ネイアの成長は間違いなくショータロー様のご加護あってものと我々は考えており、その点、非常に感謝しておりますので、本日お耳に入れさせていただいた次第です。これから先、我が国は今まで秘匿してきた、竜王の襲撃や、アベリオン統一国との友好関係を他国にも開示していくこととなるでしょう。その過程で、友好国となった国の統一王陛下や、ショータロー様と縁深いネイアといった新たな九色を発表する
パラケルは、ケラルトと名乗った女性の額に僅かに汗が滲んでいるのを見た。
一方はケラルトは、悟られないように必死に、まじめな視線をパラケルに送る。
パラケルは、瞬時に全てを理解し、「ふっ」と笑顔をこぼした。
「成程……そうですか。私はその九色という制度を正確には知りませんが、そういった配慮も必要でしょうね。ええ、私もそういったご対応、
パラケルの言葉にケラルトは、心の中で深く安堵し、しかしながら決して表情には出さず、一つ礼をしながら続けた。
「感謝いたします、パラケル様…ですがこのネイアは本当に我が国へ貢献をしております。南部に増えてしまったアンデッドの討伐においては間違いなく最も貢献しておりますし、民の精神的な支えになっている側面もございます」
「そうですか。お若いのに素晴らしいですね」
皆の視線がネイアに集まると、ネイアは顔を赤くして必死に言葉を紡いだ。
「あっ…あの。大変、光栄にございます。こっ、これからもこの国と、アベリオン統一国との友好のために、ぜっ全力でお勤めさせていただきます!」
ネイアの言葉に、彼女を幼いころからよく見ていたミューギは柔らかな笑顔を浮かべた。
そうして場が和んだ後、少しの間皆、茶と茶菓子を愉しみ、そしてその後、パラケルが本題の話を切り出した。
「……それでは、本題の話をさせていただきます。これから先、おそらくは1か月以内に、バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国のエ・ランテル自治区の間で起こる事です。ここに居らっしゃる方は信用できる方であると考え、我々がしようとしていること、また、起きうると予想していること、そういったお話をします。それらに対して、この国とアベリオン統一国には影響が出ないよう配慮いたしますが、国民の皆様が不安を覚えないよう、うまくご説明していただければと考えています」
パラケルは、『信用できる方』と言った瞬間、チラとケラルトを見てウインクをした。
ケラルトはそれに気づき、一瞬目を見開いた気がしたが、すぐに元の表情に戻った。
***
神からの情報提供が終わり、バザーは自国に戻った。
現在ホバンスの王城には、ネイアに九色を与えるための儀典準備が進められていて、急ぎのため内容は簡略版と言えど、他の九色メンバーと官僚団の集まりを待っている状態である。
玉座の間では、カルカとケラルトが会話を続けている。
「ケラルト、私の判断は問題無かったでしょうか?」
「はい。バハルス帝国への文書の件、良い判断であったと思います。パラケル様とミューギ司祭が敢えてスレイン法国からも文書を出すという話をされたのは、我が国も文書を出すべきではと御考えだったのかもしれません」
「よかった…ネイアの件も、良きタイミングだったと信じたいものですね」
「それは、はい。パラケル様のご承認を頂けたとみて間違いありません。神々は、我が国の判断を支持すると、そしてやはり、神々のネイアに対する評価も非常に高いのでしょう」
「“ご承認”?そういった話をしていましたっけ?」
「はい……会話の中で、織り交ぜてお伝えしました。パラケル様は、“支持いたします”と仰いました……正直、非情に緊張いたしました」
「そうでしたか…私ももっと勉強をしなければいけませんね。そして、ケラルト。ありがとう。きっとまた、貴女に助けられたのですね」
「いえ…これが私の仕事です。それに、パラケル様の深い叡智を理解することが出来とこと、嬉しく思いました」
「そうですね。神でありながら、パラケル様もショータロー様もとても気さくに接して下さる…特にパラケル様は深い叡智をお持ちなのは間違いないのでしょうね」
「……カルカ様、パラケル様は黒髪の美女を御二人お連れでしたが、会話の印象から、あの御二人は娘様のように感じました」
「そうですね。私もそう感じました。ただ、パラケル様の御年齢からすると、実の娘様ではないのかもしれません。ショータロー様と御付きの天使様の様な関係なのかもしれません」
「……仮にそうであれば、パラケル様はご結婚はされていないと…そう考えて良いですよね」
「……ケラルト、あなた、まさか…」
「……カルカ様だって、スレイン法国の神である純銀卿の事……」
「…………不敬にならないのであれば、応援いたします……」
「……感謝いたします」
カルカとケラルトの間で、後ろ暗い契約が成立したのだった。
「……姉ちゃん、オレさ、そろそろ暴れそうなんだけど」
「アハハ!あんちゃん、やるぅ!」
「ねーちゃん、聞いている?!」
「あーうっさいな。アンタも真っ当に頑張ればいいじゃん」
「なんだよ真っ当にって!オレはどんなエロゲやるときも真摯に向き合ってるんですけど?!」
「アンタ、そういうとこだよ。はーこれは一生チャンスないわ」
「…モモンガさんのこと邪魔してやろうかな」
「あ”?!」
運命神『あ、そうだね。ちゃんと茶釜さんもハッピーにしてあげなきゃね!!』