オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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少し退屈な考察の話が続くのをご了承ください


第1章 第15話 -タブラの考察と錬金窯-

 

翌日、フォーサイトのメンバーが起きてきたのは昼過ぎだった。

昨夜の講義で、特にアルシェとロバーデイクは単なる夜更かし、というだけでなく、MPをかなり消費して特訓をしたようなものなので、疲労が蓄積して中々起きてこられなかった。

 

タブラは、複数の効果の中に睡眠不要効果も含んでいる指輪をしているため、早朝になるとルゥオン(アルベド)とともに馬車の外に出て、二人で村長夫妻のところへ行き、昨夜特訓をして疲れているためフォーサイトは起きるのが遅くなることを告げ、この空いた時間に少しでも情報を得るため、彼らの仕事を手伝いながら世間話をしている。

 

現在は村の子供とともに水を汲みながら、トブの大森林のことを聞いている。

 

「そうなんだね、それじゃあ君も守護魔獣様とか精霊様には会ったことが無いんだね」

 

「うん、会ったことはないです。でもお父さんもお母さんも、守護魔獣様はカルネ村を守ってくれてるって言ってるの。だから私も、安心して森の近くで水を汲んだり遊ぶことができるんです。それにね、守護魔獣様は木の実が大好きで、お供えしておくと時々なくなってることがあるから、お父さんとお母さんと妹がみんな安心して暮らせますようにっていつもお祈りしながらお供えをしてるんです」

 

 

エンリと名乗ったその少女は、水汲みから帰ると、今度はまだ幼児か赤ん坊とも言っていい年齢の妹のことをあやしだした。

「今日はパラケルさんのおかげで2往復で終わりました。本当にありがとうございます」

とおじぎをする。

 

確かにこのように小さな村ではこのような10歳かそこらの子供も大事な労働力なのだろう。

年齢の割に大人びた少女との会話を終わりながら、『ニグレドがいたら大興奮だったでしょうね。おそらくあちらの妹さんは2歳未満だったでしょうから』と考えていた。

 

一通り朝の仕事が終わったが、フォーサイトはまだ起きてこず、村の仕事は農作業に移行していたので、素人は手を出すべきではないなと思い、馬車の中で昨日、一昨日で集めた素材を見る。

 

この世界産の、知らないはずの薬草はなぜか解析すると名前と簡単な効果効能が表示され、しかもユグドラシル産素材の“○○に近い効果がある”等書かれている

気になったら試してみるのがタブラさんである。

 

まず“何もない荒野”で拾ったユグドラシル産と思われるインゴットにて『錬金窯』を複数作成。

『錬金窯』は鍛冶スキルが無くても、錬金系スキルがあれば作成できる。

この『錬金窯』を使用して水薬(ポーション)を作成すると、普通に魔法で作成するときに必要となるユグドラシル金貨が不要になり、材料さえ放り込んで完成品を指定登録しておけば自動的に作成され続ける。しかし代わりに、作成までの時間が魔法によるものと比べ20倍から100倍かかる。

 

基本的にユグドラシルでは、ポーション作成程度の金額だったら、作成時間20倍よりもましなのでこの窯は雰囲気を出すためだけのアイテムとして、何となく錬金系のプレーヤーの部屋に飾られていることが多かった。

しかしユグドラシル金貨が手に入る当てがないこの世界では、時間がかかってもこの錬金窯を使った方が良いとタブラは考えた。

 

次に“○○に近い効果がある”と記載がある薬草を、自身の知識にあるポーションのレシピのこの“〇〇”と置き換え、そのポーションが作成できるか試してみる。

何種類かのポーション試作品を同時に作成開始し、しかしそのどれも完成までは数時間はかかりそうなので、一旦転移で自宅へ戻り、全ての錬金窯を『仕事部屋』と位置付けた部屋へ置いてきた。

転移門を越えると、すでにニグレドは家臣の礼とった体制になっており、NPCは自身を作成したプレーヤーを感知できるのか?と疑問に思った。

 

ニグレドに簡単に錬金窯のことを説明し、カルネ村に戻る前に確認する。

 

「ところで、“急患”は居ましたか?」

 

タブラは今回の遠征時に客が来まくってもニグレド一人に対処させるのは難しいだろうと考え、『アトリエ・パラケル』の店舗入り口には『店長不在のため休店中。ただし急患の場合は玄関側からお声掛けください』と張り紙をしたのだった。

そして急患用にという事で、病気や怪我に対してのポーションをいくつかニグレドに渡しておいたのだ。

ちなみに“急患”に関する項目は、娘たちの進言で追加されたのだが。

 

 

「はい、タブラ・スマラグディナ様。一昨日お隣のフルト家の執事の方が見えられまして、子供が熱を出して痙攣をおこしているとのことでしたので2本ほど販売いたしました。それ以外はお客は来ておりません」

 

隣のフルト家の子供、というとあのアルシェの妹という事か。

対象が幼子であったという事からも、ニグレドは率先して対処したと思われる。

タブラは自身が設定したことながら、ニグレドの善性を心の中で少し笑い、

『承知です、特に問題なかったようですね』

と述べた後、再びカルネ村に戻っていった。

 

 

***

 

 

昼になってやっと起きてきたフォーサイトの面々は、カルネ村村長とタブラたちに寝坊を謝罪し、馬車に乗り込んで出発した。

本来午後からの出発というのは一般的ではない。

しかしパラケルが、『では、行きと同じスピードで向かってよいですかね?』と問うてきたので、夕方までにエ・ランテルに到着できると確信。

爆速馬車は出発したのだった。

 

 

エ・ランテルに着くまでの間に、タブラは昨日説明する時間が無かった『アーウィンタールへの帰路』について話す。

 

「…という訳で、私とルゥオンは、エ・ランテルからは別行動をして、先にアーウィンタールを目指したいと考えています。新鮮なうちに薬草の処理をしたいので」

 

フォーサイトの面々は顔を見合わせ、お互いが納得した表情になると、代表してヘッケランが喋る。

 

「はい、承知いたしました。エ・ランテルから先は乗合馬車がありますし、強いモンスターも出ないので問題ないです。ここまで、本当にありがとうございました。アーウィンタールでお互い無事に再会しましょう」

 

その言葉はとても丁寧なもので、だがそれは心の距離が広がったのではなく、このパラケルという男を尊敬していることに由来するものだ。

 

「ええ、こちらこそありがとうございました。おかげさまで様々な発見もありましたし、作成したいと思っていた水薬(ポーション)の材料が揃いました。また、店でお待ちしています。あ、それとアルシェさん」

 

「は、はい!」

 

少し上の空になっていたアルシェは、既にこの時点で大恩人と言ってもいい、魔法詠唱者(マジックキャスター)の先輩に呼ばれ襟を正した。

なにせアルシェは、今朝(というか昼だったが)起きた際、パラケルから、自身が秘薬を使うことなく第5位階に到達したという事実を聞いたのだ。また同時にこのことは、しばらくはフォーサイトも含めた誰にも言わない方が良いことと、習得した第5位階魔法龍雷(ドラゴン・ライトニング)はあまり多用しない方が良いことも聞いた。

色々考えなければならないことがあるが、とりあえず今はロバーとともに第4位階魔法の鍛錬に励むこととした。

 

「アルシェさん、あなたが以前必要とおしゃっていた水薬(ポーション)ですが、今回の採集で素材が集まりました。おそらく作成できるのでアーウィンタールに戻ったら私の店に寄ってください」

 

「は…はい。ありがとうございます」

 

アルシェは仲間がいる手前、冷静に冷静に答えたつもりだったが、このパラケルの言い方はつまり“試験合格”を告げているという事だと理解してだんだん冷静ではいられなくなってきた。

第5位階に自身で到達できたという事は、件の位階上昇の水薬(オーバーマジック・ポーション)を使用することができた場合、それはつまり自身の使用位階が第6位階に至るという事。

それはつまり、あの逸脱者、帝国主席宮廷魔術師と同じ位階に到達するという事。

だめだ…具体的なビジョンが全く浮かばない…嬉しいはずなのに不安の方が大きい気がする。

アルシェは意識して、そのことは考えないように下を向いた。

 

「それにアルシェさん、ロバーデイクさん、使用魔法の位階上昇、おめでとうございます。採集もお手伝いいただきましたし、皆さんの難度上昇のお祝いを込めて、お安くしておきますので戻られましたら是非『アトリエ・パラケル』へ足を運んでください」

 

 

エ・ランテルの城門が見えたあたりで、フォーサイトの4人は馬車を降り、パラケル達と別れて歩き、城門をくぐるための検問の列に並ぶ。

今夜の宿も宵霧亭だ。

あの店の夕飯は本当に旨い。

けど今日の夕飯は、今まで一番旨い夕飯になりそうだ。

 

 

***

 

 

フォーサイトと別れて、しばらく道を進んだのち、タブラたちはさっさと馬車をしまい自宅へ転移した。

 

錬金窯の一部は合成が完了していた。

鑑定してみると、完成した水薬(ポーション)や魔法を込められる錬金溶液は、ユグドラシル産よりも効果が薄いながらも、類似のものとなっていて、一方で“適正品質期間”という新しいステータスが追加されて、その数字は減り続けている。

このステータスは恐らく消費期限を示している。

ユグドラシルにはそのようなものはなかったが、ここはおそらく現実世界であることや、薬草という生物由来の素材を使用したことを考えると、消費期限が存在することは当然だと考えられた。

この世界産に置き換えた素材の数が多いほど、効果は薄く、消費期限は短い。

 

全ての素材を、この世界産で作成したものは、効果は1/10程度で消費期限は3週間ほどだった。

しかし逆を言うならば、この“錬金窯”さえあれば、現地素材のみでこの世界の常識に合ったレベル(実はこれでも十分高レベルなのだが)の魔法薬が作れるという事が分かった。

 

次に知りたいのは、現地の人間がこの錬金窯を使えるかという事だ。

 

今回の遠征で少なくともフォーサイトからの印象は良くなっただろう。

タブラは、この錬金窯を使用させる協力者としてアルシェを考えていた。

この世界基準では比較的高位階の魔法を行使でき、こちらに恩があり、秘密を守れ、発狂しない者。

錬金溶液に魔法を込めてポーションを作成するとなると、使える魔法は多い方が良い。

それはつまりある程度高位階でないといけないという事なのだ。

 

「さて、それではアルシェに恩を売るための仕上げとして、あの魔法狂いとお話をしてきますか」

 

そう言ってタブラは跪く2人の娘を見遣る。

アルベドは、最初に会った際のフールーダの発狂ぶりにかなり引いており、ペロロンチーノさんが言うところの好感度はマイナスまで振り切れている可能性がある。カルマ値+150に殺人を決意させたほどだ。

ニグレドも間違いなく好感度は低そうだが、アルベドほどでは無く、ある程度冷静に対応できそうだ。

 

以上のことからフールーダとの密会はニグレドを連れていくこととし、アルベドには再度開店した『アトリエ・パラケル』の店番をお願いすることとした。

結果から言えば、この人選は間違いであったのだが、タブラがそれに気づくのはもっと後になってからだった。

 





また少し短いですがキリがいいのでここまでにします。

誤字報告感謝いたします
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