オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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前半はフールーダの狂人回です。


第1章 第16話 -逸脱者フールーダ・パラダイン-

 

メッセージで久々に喋った件の魔法狂いは、口調が老賢者風から、元々の感じに戻っていた。

しかし“師”と呼んだり、大声で讃えてくるようなことはなかった。

『大丈夫だろうか…』と少し悩んだが、結局例の死の騎士(デス・ナイト)がいる地下室で会う約束をした。

 

約束の時間よりかなり早く、転移で到着したタブラとニグレドは、まずニグレドが完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で姿を隠し、部屋全体に静寂(サイレンス)をかけて、部屋の外を含めた広いエリアを探知しながらフールーダを待つ。

 

しばらくするとニグレドから伝言(メッセージ)が入る。

 

『フールーダ・パラダインがこの部屋に向かっております。約束通り一人です。ただ…』

 

『ただ…どうしました?』

 

『その…他の誰からも見えない廊下に入った途端、スキップしております…』

 

『はぁ…まあ、ちゃんと他の者に見えないようにしているという事で、正気は保っていると判断しましょう』

 

 

それからしばらくして、部屋のドアが開き、フールーダが階段を3段飛ばしでこちらに近づいてきた。

タブラは外見と行動のギャップにひきながら、『ギャップがあるのにこんなに萎えることってあるんですね…』と謎の新発見をしていた。

 

タブラの2メートル手前まで来たフールーダは跪き首を垂れる。

 

「お待ちしておりました、パラケル様。私は貴方様が再びおいでくださいます日を今か今かとお待ちしておりました。残念ながらいただきました魔導書の解読には未だ至っておりませぬが、このフールーダ・パラダイン、パラケル様からのご指示でしたらどんなことでも従います。本日はどういったご用件で?」

 

「あー…うん。まず“様”は止していただけますかね。外見的にも肩書的にもどう考えてもあなたが私を様付けで呼ぶのはおかしいかと。以前の様に“殿”にしていただきたい…まあそれはともかく、今日フールーダ翁にお聞きしたいことは私が今住まわしていただいている家の隣家、フルト家のお嬢さんの件です。実はここ3-4日ほど素材採取のためにトブの大森林へ行っていたのですが、そこでフルト家のお嬢さんで元あなたの弟子であったアルシェ嬢を含むワーカーチーム会い、しばらく行動を共にしたのです」

 

「アルシェ…アルシェでございますか…才能があったにも関わらず、あのワーカーなんぞに成り果てた愚かな娘…それが、貴方様とともに活動したですと?!何ともうらやましい…!!えーい、あの娘、私のもとを去っただけに飽き足らず、パラケル師とお近づきに…!!」

 

魔法最強化・獅子ごとき心(マキシマイズマジック・ライオンズ・ハート)……落ち着きましたか?」

 

「はい…すみません、つい興奮してしまいました…それでそのアルシェが何かやらかしたということですか?」

 

「いえ、そうではありません。彼女から近況を聞いたのですが、そもそもフールーダ翁は彼女がなぜ帝国魔法学院を辞めてワーカーになったかご存じですか?」

 

「いえ…詳しくは知りませんぬな。小金稼ぎかと思っていましたが…」

 

「彼女の家、フルト家はどうやら当代の皇帝陛下のご判断で爵位剥奪となったようです。にも拘らず、その当主である彼女の父は、貴族のころと変わらぬ生活を続け、結果家計をやりくりするために彼女は仕方なく帝国魔法学院をやめ、ワーカーとなって金を稼いでいるという訳の様です」

 

「なんと…そのような愚かな親の行いの犠牲となっていたとは…しかしなぜアルシェは私に相談もせずにワーカーを続けているのですか?皇帝陛下の決定ですので、爵位剥奪は覆せんだろうが、アルシェのみを弟子として保護することなど難しくないのですが…」

 

「彼女は、あなたが皇帝陛下の側近であるから、手を差し伸べてくれるのは難しいと考えた様子。それに、彼女にはまだ赤子と言っても良い、非常に幼い妹が2人いるようです。彼女のみが保護された場合、この2人の妹は愚かな親元に残り不幸になる可能性がある。あとは…まあこれは彼女の甘さでしょうが、愚か者とはいえ親を見捨てることができないのでしょう」

 

「成程…確かに私としては魔法的素質の高いアルシェのみを保護することは吝かではないが、才能も分からぬ幼子や、愚かな親を救う気は無いですな…して、パラケル殿は彼女をどうするおつもりで?パラケル殿のご命令であればアルシェを呼び戻すことに加えて何らかの手を差し伸べさせていただきますが?」

 

「いえ、もうそういう次元ではないですよ。おそらくこの事実をあなたが聞けば、彼女の望むことを何でも叶えてでも、彼女を保護すると言うでしょう」

 

パラケルの言葉に老人の目は少しだけ“狂”の色を浮かべた。

パラケルほどの神が“そういう次元でない”と言う何かが、あのかつての弟子にある、ということだ。

 

一方でパラケルはというと、フールーダの“狂”を敏感に感じ取り、慎重に言葉を選ぶこととした。

 

「まず確認ですが、あなたは彼女が第何位階を使用していたところまで知っていますか?」

 

「位階…ですか?アルシェを最後に学院で見かけたときは第2位階でしたな。年齢の割には非常に早い習得で、おそらくはすぐに第3位階に至ると踏んでおりました」

 

「そうですか…まず、彼女は戦闘時、移動のために飛行(フライ)を使用していました」

 

「おお…飛行(フライ)とは…やはり第3位階に到達しおったのですね…」

 

「いえ、それ以上です。その後の戦闘で、第4位階支援魔法を使用。そして最終的に龍雷(ドラゴン・ライトニング)を放ちました」

 

「…なんと………そのような…それは第5位階の…」

 

「そうです。少なくとも彼女は第5位階に至っている。私はフールーダ翁の様に位階を見抜く生まれついての異能(タレント)を持っていませんので正確にどの程度まで、というのは分かりませんが、彼女は短期間で少なくとも位階を3つ上げた。皇帝陛下であっても第5位階魔法詠唱者を、くだらない家庭の事情などで放っておいて良いわけがないというのはご理解いただけるのでは?」

 

「か」

 

「か?」

 

「かみよぉぉぉぉぉ!!あなたさまこそ真の神!!!あなた様がいなければ私は、アルシェという若い才能の塊をみおとして!!!わたしは!!私は!!!!今こんなにもしあわせなきもちに!!!!」

 

暴れるフールーダの指にはめられた指輪の一つが音を立てて破裂した。

タブラはそのあまりの出来事に驚きを通り越して呆れ、何だか逆に冷静になった。

 

『いやいや…“逸脱者”って、こういう意味ではないですよね?逸脱する場所おかしすぎるでしょう…』

と心で呟く。

 

タブラは、ニグレドからの戸惑う伝言(メッセージ)に『大丈夫ですので探知だけ怠らないでいてください』と返し、フールーダに魔法最強化・獅子ごとき心(マキシマイズマジック・ライオンズ・ハート)を何度かかけ、動きが落ち着いてきたところで、念のため用意してきていた『永続的かつ非常に高い精神安定効果がある指輪』を先ほど指輪がはじけ飛んだ指にはめてやった。

 

はめた瞬間フールーダは白目を向き『あああ』とか言っていたが、だんだん目は落ち着き、知性の輝きを取り戻した。

 

 

「はぁ…はぁ…すみませんでした…あまりにも…はぁ…あまりにも衝撃的だった故、取り乱してしまいました…して、私はどうすれば?」

 

「ええ、今回の旅で私は彼女の信頼をある程度得ることができました。なので一度会って彼女の意向を聞いてみるとともに、彼女の魔法力をじっくり解析してみたいと思います。そのうえで…そうですねフールーダ翁には、帝国魔法学院に彼女の席を用意してほしい。はっきり言って、第5位階詠唱者など教師にもいないでしょう。だから用意すべき椅子は“学生”のそれではなく“教授”の椅子です。そうすれば彼女は妹を養うのに十分な給料を得るでしょうし、あなたやこの国にとっても、重要な魔法詠唱者を手元に置いておくことができるようになる。彼女の愚かな親のことは…彼女と話してから考えてみます」

 

「おお…確かにそれは私としても非常に魅力的な提案です。私はこの事実はまだ皇帝陛下には伝えない方が良いですかな?」

 

「ええ、そうですね。それは時期尚早でしょう。彼女の能力が分かり、問題なく帝国魔法学院に入れると分かったのち報告すればよろしいかと。時期は私からお伝えします。それと、もう一つ。彼女が現在所属しているワーカーチームの名は“フォーサイト”と言うのですが、彼らを優遇しろとは言いませんが、アルシェ嬢が抜けた後のチームが苦労をしないよう計らう事をおねがいします。これはアルシェ嬢がすんなりと帝国魔法学院に所属するために必要なことです。彼女は自身を拾ってくれたチームメンバーに恩義を感じていますし、彼女の位階を上げるためにサポートしたのは彼らなのですから」

 

「はい、パラケル殿の仰る通りかと」

 

 

こうして狂人との密談を終えて、アルシェの就職先をある程度決め、かつフォーサイトのその後も配慮するように釘をさせた。

アルシェがこの地位についてくれれば、フールーダはより身近な第6位(予定)詠唱者にある程度気が向くので、被害が減りそうだ。

 

それにしても今日渡した指輪もはじけ飛んだら、もう本当に次はない。

そうならない為にも、アルシェ先生があの狂人のガス抜きをしてくれることに期待しよう。

 

作戦は終わったので、速やかに自宅へ転移する。

しかし店のカウンターにアルベドの姿が無かった。

おかしいな?と思い伝言(メッセージ)をつなぐと、アルベドの今にも泣きそうな声が飛び込んできた。

 

『お父様…ごめんなさい…私は…私は…人間を殺してしまいました…』

 

『なん…ですって?!いや…今どこにいますか?すぐに向かいます』

 

アルベドが指定してきたおよその方角を、ニグレドに探知させる。

場所は帝都の路地裏にある、あばら家の地下。

アルベドの周りに誰もいないことを確認できると、タブラとニグレドは再び速やかに転移する。

 

その地下室には、わずかなランプの明かりのみが灯る、少し広い場所。

幾つかの椅子とテーブルがあり、密談などで使われている場所かもしれない。

部屋は埃臭く…そしてそれに加えて血の濃厚なにおいが漂う。

 

膝をついて呆然とするアルベドの右手は血で汚れており、その横には腹の付近が吹き飛び、胸から上と、両足だけを残して二つに分かれた男の死体。

床には販売用に店に置いておいた、ちょっとした病気や怪我に対するポーションがいくつか転がっている。

 

タブラは努めて優しくアルベドに尋ねた。

 

「何があったか、教えてください」

 

アルベドは語りだす。

店番をしていたところ、2人の男が店を訪れた。

彼らは子供が怪我をしている、病気の者もいる、だから可能な限り治療のためのポーションを持ってきて、ついてきてほしいと懇願したという。

 

案内された場所は、現在のこの場所。

地下室に降りていくと治療すべき者はおらず、男たちはアルベドを脅し、ポーションを奪おうとした。

だが歴然としたレベル差で、攻撃など効くわけもないし、アルベドも毅然とした態度で臨む。

ついにしびれを切らした片方の男が言った。

 

「魔法薬を出さないなら、お前が助けたあの借金男のガキを殺してやってもかまわない」

 

―それは恐らく、ニグレドがポーションを販売したフルト家の幼い双子のことと思われた。アルベドはそこでなぜアルシェの妹が出てくるのか分からず、一瞬戸惑ったが、男たちはその様子を勘違いし、脅しが有効と判断してさらに言葉を発した。発してはいけない言葉を。

 

「お前は多少強いみたいだが、お前の親父は所詮ひ弱な薬屋だ。あいつがいなければ商売だってできないだろう。お前がいない隙にあの親父を殺—」

 

その男が言葉を紡げたのはそこまでだった。

至高の御方を、それも自身の創造主を、莫迦にされ殺すなどと宣うものを許せるNPCなど居ない。そうなってしまえば、もはやカルマ値など関係がない。

気が付くと殺意に染まったアルベドの半身が意識より先に男の体を貫いていた。

 

もう一人の男は、突然の惨劇にしばらく呆然としていたが、事態が飲み込めると悲鳴を上げ階段を駆け上がっていった。

 

 

「わたしは…お父様のお言いつけを破り…人間として暮らすには決して…決してしてはならぬことを……どうか、私の首をお刎ねください…」

 

「アルベド」

 

「…はい」

 

「確かにあなたの行為は軽率でした。しかし、今は反省をする前にするべきことがあります。もう一人逃げた男を探す必要があります」

 

「はい…お父様…」

 

「ニグレド、この館に人が来ないように見張りなさい」

 

「畏まりました」

 

「私は今から本来の姿に戻り、この男の脳を食って記憶を読み込みます。それで逃げた男の手掛かりを探します。アルベドはいつも渡している清潔(クリーン)のスクロールを使用し、部屋の清掃と、汚れた服の血を落としなさい。」

 

「はい…畏まりました」

 

タブラは速やかに脳食い(ブレインイーター)の姿に戻り、死体の男の脳を吸う。

死後わずかな時間しか経っていない死体からは、ある程度情報を吸うことができるが、時間が経てばそれも難しくなる。

 

1~2分ほどで吸い取れる情報をすべて吸い上げた。

幾つかの言葉とイメージが見える。

その中で、この男と、逃げたと思われる男が、何やら密談をしている場所をいくつかピックアップし記憶する。

ニグレドにその場所を伝え、遠隔視(リモート・ビューイング)にて検索。

アルベドに逃げた男の顔を確認させ、目標を見つけた。

 

恐らくそこは、その男の自宅なのだろう。

このあばら家と同じような質素な家の中で震えながら酒を飲んでいる男が見えた。

 

「ニグレド、この部屋に静寂(サイレンス)をかけなさい」

 

「畏まりました」

 

「アルベド、これから転移門(ゲート)でこの男を連れてきます。あなたはこの男が暴れたり逃げたりしないように押さえつけなさい」

 

「はい、お父様」

アルベドは、自分が今、しなければならないことを理解して、冷静さを取り戻し答えた。

 

転移門(ゲート)

 

震える男の背後に暗闇の空間が広がった。

しかし男はそれに気づかない。

暗闇の中から伸びてくる、水生生物の触手のような手にも、当然気づかない。

 

 





あと2話で1章は終わります。
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