オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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善に偏り過ぎるとそれはそれで厄介。
セバス然り。


第1章 第17話 -愚かなる男とその断罪-

 

余り裕福ではない王国の商人の家に生まれた。

長男ではなかったので、大した教育を受けることはできなかった。

食い扶持を求めて帝国に流れてきて、帝国軍に入ることを志願した。

しかし体力的についていけず、正規の兵となる前に退任を余儀なくされた。

その後は何をやってもケチの付く人生だったな。

 

ある時、非合法と合法ギリギリの金貸しの下っ端として働く口を見つけた。

そこで会った相棒の男も、自分と同じような境遇で何かとウマが合った。

それに借金の回収は性に合っていた。

搾取される側が悪いと思っていたから特に罪悪感は湧かなかったし、曲がりなりにも兵隊崩れだったから、普通の人間よりは腕っぷしにも自信があったってわけだ。

 

ある時、王国から勢力を伸ばしてきた『八本指』という犯罪組織に出会った。

奴らはだんだんと政治が悪化している王国の裏社会で勢力を伸ばし、この帝国にも何とか拠点を作ろうとしてる最中だった。

俺と相棒は、これはチャンスだと思ったね。

今の仕事でつかんだ情報か金をもってこの『八本指』に鞍替えし、帝国の裏社会でのし上がろうと考えた。

 

帝国には例の鮮血帝の政策とやらで、没落した貴族がたくさんいる。

奴らなら何かいい情報は持っていないかと嗅ぎまわった。

フルトの借金親父なんかは鮮血帝に恨みを持ってるみてぇで、知ってることをペラペラと喋ってくれる。

ただ、さすが鮮血帝で、皇帝に関する弱みなんかは一切なかった。

気になったのは、最近高級住宅地に開店した薬屋『アトリエ・パラケル』だ。

 

なんでもここの店主は、帝国主席宮廷魔術師の爺さんの知り合いらしく、そのおかげで裕福な暮らしをしてるとか。

フルトの娘が病気になった時、金貨30枚は下らないようなポーションを安く譲ってもらったとか。

しかも店の受付の娘はすげぇ美人だっていう。

こいつは一度お邪魔して、色々とご相伴に預かりてぇものだな。

それにそんなすげぇ魔法薬を幾つも収めることが出来たら、俺らも『八本指』に移籍できるかもしれねぇ。

 

 

 

白く濁った焦点が合わない眼となった男の額には触手が刺さっていたが、その触手の持ち主である脳食い(ブレインイーター)は得られた情報からこれからの作戦を整理するため、一旦触手を抜いた。

 

 

先ほど男が部屋で震えながら酒を飲んでいたところ、突然後方に体が引っ張られた。

直後、自身の体が後ろから何者かに押さえつけられる。

辺りはわずかに光源がある地下室。

ここは…先ほど相棒の男が、突然激高した美しい女に殺された場所?

なぜ、突然移動した?

 

そう考えた瞬間、前方の暗闇から何者かが現れた。

その者は、水死体のような膨れ上がった頭に、軟体生物のような触手を何本持つ化け物。

 

耐えがたき臭気が立ち上るような錯覚。

ぐちゃり。ぐちゃり。

おぞましい化け物が近づいてくる。

 

余りの恐ろしさに目を逸らすと、そこには良く知った男の遺体があった。

その遺体は先ほど例の女に吹き飛ばされた時のような血痕はすでにない。

代わりに額に1センチほどの穴が開いていて、目は恐怖に見開かれているかのようだった。

 

目線を上げると、先ほどのおぞましい姿の怪物がもう目の前に迫っていた。

「ああ!どうか!!どうか!!」

震える声で助けを求めたが声は暗闇に消えていく。

気が付くと化け物は不気味な触手を持ち上げ、その先端が額へ近づいていく。

 

そこから先は覚えていない。

おそらく狂気を発してしまい、自らの意思で喋ることはもう無いのだから———。

 

 

 

「…という訳で、幸運なことにこの男は、先ほどアルベドが殺した男以外に情報は共有していなかったようです。ですが残念ながら、フルト氏はこれからも我々にとって不利な情報をばらまく可能性があることが分かりました。アルベド、ニグレド…分かりますね?」

 

「はい、タブラ・スマラグディナ様」

「はい、お父様」

 

「今回の件は、まず、ニグレドがフルト家を憐れんで、ポーションを非常に安価で販売したことが始まりです。そして、アルベドはこの者たちは怪しいと感じながらも病気やけがを負った子供という情報から憐れみを感じ、最終的には善性を信じてしまった。しかし結果裏切られ、あまつさえ私に対する侮辱を聞き、殺してしまった。今回は奇跡的にこの者が情報を広げておらず、また、不利となる情報をばらまく元も見つけたので、これらが消えれば問題はないでしょう。ただ、もし彼らが『八本指』とやらに我々のことを知らせていた場合は、我々がこの国に住むことは難しくなるだけでなく、おそらくはフルト家の者たちも被害を受けていたでしょう」

 

「はい…仰る通りでございます」

「はい…全てお父様の仰ることが正しいです」

 

「アルベド、ニグレド。覚えておきなさい。過剰な慈悲は時として悪影響をもたらす。良き行いも後先考えずに行使すればそれはただの甘さとなる。今後はこの点をよく考え、問題が起こるかもしれないと感じた場合は、行動を起こす前に私へ必ず相談すること。それを守るという事で、今回は不問とします。よろしいですね」

 

「はい…勿体なきお言葉…今まで以上に誠心誠意お仕えし、二度とこのようなことが起こらないよう注意いたします」

「はい…お父様のご慈悲に心から感謝いたします。お姉さま共に、心からお仕えし、お父様の娘として恥ずかしくないように行動いたします」

 

 

「ええ、それでよいのです。それではこの男のことは私が処理しますので、お前たちはこちらの死体を消しておいてください」

 

「「畏まりました」」

 

 

 

その日の夜、とある暴漢が元貴族の男を殺した。

暴漢も事件を起こしたのち、衛兵に囲まれると持っていたナイフで自殺した。

その後の調べで、元貴族の男は暴漢の所属している組合から借金があり、その取り立ての過程でトラブルがあったのだろうと結論づけられた。

金を貸していた組合も、これ以上帝国や衛兵が介入してくるのを嫌い、借金さえ戻ればもう関わらないとした。

 

殺された者の娘は、ちょうど仕事で家を離れていたが、家に戻るなり5日ほど前に我が家に起きた出来事を知り、ごく普通の、父を想う娘として涙を流した。

殺された男は、ただの普通の帝国民として教会から祈りを受け、静かに埋葬された。

 

父の死から精神的に立ち直り、実質、新たにその家の当主となった若い娘は、組合に金を返し、家と借金取りの関係を終わらせた。

若き当主の妹たちは、まだあまりに幼く、父の死というものを悲しむことはなかったことは救いであったと言える。

 

 

***

 

 

それから1週間ほどの時間が経った。

共同墓地の一角に男と二人の美しい娘が花を手向けていた。

アルシェは、その3人を見つけると駆け寄り、頭を下げた。

 

「パラケルさん、ノアーさん、ルゥオンさん。父のために…花を手向けてくれてありがとうございます」

 

「アルシェさん。この度は大変でしたね」

 

「はい…いえ、もう大丈夫です。私はこれからフルトの者として、お母様と、妹たちと、それに世話をしてくれる方々を守っていく責任があります。だから、お父様のダメだった所も、そうでない所も、ちゃんと受け止めて先に進もうと思います」

 

「そうですか…お強いですね」

 

ノアーもルゥオンも、どこか吹っ切れて少し大人びたアルシェの顔を見て微笑んだ。

 

「こんな時に…いえ、そうですね。あなたが前に進めると仰ったので、先日の遠征の際にお伝えした魔法薬の件、ご説明したいと思います。お時間あるとき店へいらしていただけますか?」

 

「はい、では今夜伺います」

 

 

 

 

その夜、アルシェはワーカーとしての服装で店を訪れた。

ルゥオンが紅茶を用意し、パラケルは何本かの魔法薬を持って対面に座った。

アルシェは少し緊張した面持ちで、パラケルの持ってきた魔法薬を視界に入れた。

 

 

「まず、始めに大事なことはお伝えしておきましょう。位階上昇の水薬(オーバーマジック・ポーション)は完成いたしました。そしてあなたは私が言った以上の結果を残してくれました。したがって私は約束通りこれをあなたに使用します」

 

そう言ってパラケルは、机の上のポーションから、名状しがたき色のものを選び、アルシェの方へ置く。

「これが……今聞いても信じられません」

 

「以前お伝えしたように、このポーションの存在は内密に。そしてこのポーションのつくり方は秘匿とします。なので、よほどのことがない限り、今後新たに作ることはないでしょう」

 

「はい…理解しています」

 

「よろしい。では、このポーションを使用する前に注意点と、教えておかなければならい事があります。長くなりますがよろしいですか?」

 

「はい、よろしくお願いいたします」

 

「ではまず、あなたに、魔法取得の法則をお教えします。まずは魔法の系統と、魔法を覚えるための職業レベルというものの存在です」

 

 

そこから始まったパラケルさんの講義は、はっきり言って魔法の理を紐解くようなものだった。

 

難度と位階の関係。

職業レベルとそれによって覚えられる魔法の種類。

そして各位階に存在する魔法の知識。

 

それらの知識は帝国魔法学院でも習っていなかったし、おそらくはかのフールーダ・パラダイン様でも知らないであろう知識が含まれていた。

フールーダ様の魔法取得が魔力系に特化していないために、位階が低くなっているという説明から、パラケル様はおそらくフールーダ様よりも魔法の深淵を覗けている。

 

そして念を押されたのは、私自身の強さだ。

私は、先日の遠征で非常に強くなった。

フォーサイト全体の強さはオリハルコンレベルだが、私個人だけであればアダマンタイト級だという。

ただしアダマンタイト級は上限がないため、上には上がいることを忘れてはいけない。

現に難度で言うと、私は87だが、フールーダ様は138だという。

位階上昇の水薬(オーバーマジック・ポーション)で位階が並んでも、“強さ”には大きな開きがある。

そのことを決して忘れないことと言われた。

同時に、私の強さはこれ以上大きく伸びる可能性は低いこと。

これは、正直私自身も感じ始めていた。

だんだんと、成長が遅くなっている。

 

そしてパラケルさんは私にこう言った。

「これからあなたがすべきことは、おそらく強くなることではなく、今ある強さを活かすことです」

 

私はその言葉がとても腑に落ちた。

私はこれから、家族を守っていかなければいけない。

借金も返し終わって、無理をして戦う必要もない。

でも、そうなるとフォーサイトの皆は?

 

フォーサイトの皆も強くなった。

でも、魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいないパーティーの戦力は急激に落ちるだろう。

私がいなくなることで、皆に迷惑がかかるかもしれない…

 

そんな不安がよぎったが、パラケルさんはそれさえも見透かしていたらしい。

 

「アルシェさん、フォーサイトの今後も含めて、あなたに提案があります。錬金術に興味はありませんか?」

 

「え…?」

 

「錬金術は、道具がある程度揃っていれば、高位の魔法詠唱者には難しくない仕事です。今日持ってきたこれらの魔法薬は“錬金溶液改”。魔法詠唱者がこの溶液に自身が使える魔法を付与することで、特定の魔法が込められた魔法薬となります。そして込められる魔法は第5位階まで。誰かさんにちょうど良いと思いませんか?」

 

パラケルさんは少し悪い顔で笑い、その“錬金溶液改”を渡してきた。

 

「その溶液を両手で持ち、そうですね、この間覚えた全種族魅了(チャームスピーシーズ)を心の中で唱えながら、溶液に向かって発動してみてください」

 

言われた通りに何度か試してみると、魔法が溶液に吸い込まれていく感じがあり、溶液はピンク色になった。

 

「素晴らしいですね。第4位階の魔法薬が完成しました。さて、アルシェさん、人にものを教えるのは苦ではないですか?」

 

 

それからの1か月は、本当に目まぐるしく時間が過ぎていった———。

 

 





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