オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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第2章スタートです。
悪魔の大暴れが書きたいと思っています。


第2章 第1話 -悪魔のような男-

 

この1年が楽しくなかったかというと答えは『否』である。

ロキの指輪(リング・オブ・ロキ)はこのゲームにおいて、できなかったもう一つの可能性に挑戦する機会となった。

 

人間種には純粋な人間の他、いくつかの種族がある。

エルフやドワーフと言った有名な種族の他、“●●の末裔の人間”という設定の種族だ。

この●●には、例えば天使や精霊の他、悪魔も存在する。

 

悩みに悩んだが、結局“末裔”よりも悪魔そのものを選び、最終的にワールド職の一つ、“ワールドディザスター”を得たが、結局あの男に単騎で勝つことはできなかった。

 

しかしもし、悩んだあの種族、人間種でありながら、例外的に種族レベルを持ち、種族レベルによって魔法も使えるあの種族を選び、そして、ワールド・チャンピオンを得ていたら…あの、むかつくヒーローオタクをぶちのめせていたのだろうか…そもそも人間種だからAOGには入れていなかっただろうが…

 

残りの1年でワールド・チャンピオン交代の大会があるかは分からない。

しかし本来は無かったチャンスだ。試しにやってみてもいいのでは?

 

 

彼、ウルベルト・アレイン・オードルがロキの指輪(リング・オブ・ロキ)の効果で選んだもう一つの種族は、人間種・悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)。外見は完全に人間なのだが、体のどこかに小さな悪魔の紋章がある、という中二病全開の設定だ。

そして、職業は暗黒騎士(ダークナイト)

彼は1年間、戦士職として鍛えに鍛えた。

 

だが残念ながら大会は開かれなかった。

打倒たっち・みーを掲げる武人武御雷とも、よく相談し、模擬戦をし、専用の武器も作ってもらった。

しかしワールド・チャンピオンを得られなかった状態で、たっち・みーと戦う気が起きず(負けた時、職業を理由に自身に言い訳をすることをプライドが許さなかった)結局、白黒をつけることは無かった。

 

嘘か誠か…いやあの竹を割ったような性格の男が言うのだから、真実として受け取っておこう。

彼は終盤、ウルベルト(人間種)の実力を見て言った。

『大会が無かったのが惜しまれるな…何回も挑んだ俺だから分かるが、ウルベルトさんが仮にワールド・チャンピオンになっていたら、間違いなくたっちさんといい勝負をする。俺が保障するぜ』

 

 

そう言う訳でウルベルトは、この1年、最後のユグドラシルを充分楽しんだと言っていい。

しかしサービス終了直前の出来事が彼の心をざわつかせる。

 

ベルリバーさん-鈴川-からの最後の電話。

たっち・みーの違和感。

茶釜さんは、最終日は午後は停電のためログインできないと言った。

事実、同じアーコロジーのペロロンチーノや、やまいこさんは最終日はログインしてこなかった。

しかし、たっち・みーは何故か、“呼び出し”がかかるまで、そう、23時過ぎまで、確かにログインしていた。

 

何かがおかしい…24時を過ぎて、強制ログアウトになったら、おそらく俺は家を飛び出して、あいつが住んでいるアーコロジーまで向かってみようと思っていた。

そこには鈴川もいる筈だ。

 

鈴川…どうか無事でいてくれ。

 

そうして、そんなゴチャゴチャした感情のまま00:00を迎えた。

 

 

 

 

瞬間、目に飛び込んできたのは、歴史の本で見たような、大昔の農家の納屋のような景色。

稲わらと思われる黄金色の乾いた草が山積みにされ、その横には巨大なフォークのような農作業具と思われるものが立てかけられている。

それらが満載された小屋のような場所の中に、自分は居る。

 

「な…んだ、ここは?」

辺りは暗く、なのになぜか草の色も鮮明に見える。

草の乾いた匂いと、古い屋外の部屋の、少しかび臭いような匂いが感じられる。

 

ウルベルトは戸惑う。

当然起こると思っていた強制ログアウトは起こらず、自身はなぜかゲームの中にいる?

 

“ゲームの中”と考えたのは、ふと見た自身の手が、『大厄災の魔』として作り上げたそれであったからだ。

視界には、自身の漆黒の髭も覗いているし、顔を触った感触はいつものヤギのそれだ。

 

しかし、瞬時に違和感に気づく。

 

“匂い”だと?

 

確かDMMO RPGで匂いの再現は禁止されていたはず…では今の状況は?

 

「まさか…これがベルリバーさんが言っていた“奴ら”の企みか?」

 

法律を無視して、プレーヤーを拉致し、何らかの実験を行うのか?

 

結論づけるには証拠が無いが、しかし、“ユグドラシル”以上の現実感のある感覚。

 

いずれにしろ、その可能性も考慮して行動しなければいけない。

 

ウルベルトはまず、自身の所持アイテムなどを確認するためにコンソールを開こうとした。

 

「ん?」

 

手を空中でスワイプしても、コンソールが開かない。

反応が悪いのかと、少し角度を変えたりして何度か試すが、やはり開かない。

だが、“アイテム”と心で考えながら手を再びかざした瞬間、空中に闇のようなものが出現し、その中に手が覆われ、目的のものがその手に収まっていた。

 

「なっ…!」

 

余りの事態にウルベルトは、背側にある乾草の山へ、もたれ掛かった。

コンソールは開かないというのにアイテムは気持ち悪いくらい滑らかに取り出すことができる。

 

『これはマジで“奴ら”による拉致を視野に入れたほうがいいか…』

 

コンソールを開けないという事は、自発的なログアウトができないという事。

先ほどから、緊急時に強制ログアウトする手法-リアルの体を動かし電源を切る-も試しているが、リアルの体を動かすという感覚が無い。

というか今の体がリアルの体の様に、全ての感覚が感じ取れ、そもそもリアルの体など元々無いかのような感覚すらある。

 

そんな中でも、アイテムは使えそうだし、自分の中に意識を向けると、自分のステータスが“感じられる”ような感覚がある。

 

「拉致か、あるいは大穴予想で、ヘロヘロさんが言っていた“ユグドラシル2”体験版に移行したってとこか?」

 

未だに自身の状況は正確に掴むことはできなかったが、ともかく現状を把握するためにウルベルトはこの納屋のような場所から外に出ることにした。

 

 

できるだけ物陰に隠れるように静かに移動する。

ウルベルトがいた場所は、予想通り農家の納屋のような場所で、外には広い牧草地のような場所に十数頭の羊のような動物が固まって眠っている。

 

リアルでは実際に見たことがない家畜というものが珍しく、ウルベルトは少しの間その羊たちを観察していたが、やがてそれ以外のものは無いか暗闇に目を凝らす。

恐らくは真夜中のような時間なのだろう。

少し遠くに集落のようなものが見えたが、各家に明りは灯っていない。

 

というより先ほどから驚いているのは、満点の夜空だ。

空を見上げると、まるでナザリック地下大墳墓第6階層のような夜空が広がっている。

いや、それよりも広く、高く感じる。

 

ウルベルトはふと、昨日旅立っていった仲間であるブルー・プラネットのことを思い出した。

まぎれもない善人で、それもたっちの様な体制側の人間でなくて、自然を愛して、そしておそらくは、もう壊れてしまった、汚れてしまった空の下で、遠くない未来に息絶えるであろう友人。

 

「………クソッ」

 

ウルベルトは再び、『奴ら』に対する憎しみを強く噛みしめながら、ともかくも今はその集落に向かって歩き出したのだ。

 

 

 

民家を窓から覗いてみると、人間種が眠っているのが確認できた。

窓から覗ける家は全て確認したのだが、この場所は人間種しかいないようだ。

ユグドラシルでは、NPCは近づくと名前が表示されたのだが、その距離まで近づくことができないのでNPCかどうかの判断ができない。

仮にNPCでなく、この人間種がプレーヤーであった場合、ここは言うなればギルドホームの様なものかもしれないから、とりあえずは家の中に勝手に入るのはやめておこうと考える。

そして、人間種だけの集団に溶け込むために、左手の指にはめた“ロキの指輪(リング・オブ・ロキ)”の力を発動させ、人間の姿となり、日が昇るのを待つことにした。

 

 

 

 

翌朝。

 

王国北部の名もなき村で、その日最初に起きだした男-ヒューゴは小さく一つ欠伸をすると、ベッドから這い出して朝の水をくむために外に出ることにした。

 

朝の水くみなどは、子供がいる家などでは子供の仕事なのだが、この家は男しかいないから全ての仕事は自分でしなければいけないのだ。

 

かつて、そう10年以上前には男には妻と子供が2人居たが、皆もういない。

子供たちは家から居なくなって久しいし、妻は5年前に亡くなった。

一人目の子供がいなくなった日から、この家は少しずつ終わりに向かって歩いていて、自分ももう長くは生きたいとは思わない。

それでも今日を生きるために、領主に収める税を収穫するために、働かなければならないのだ。

それに今日は領主が税の取り立てのために様子を見に来ると聞いている。

最低限迎える準備をしておかないと、どんな難癖をつけられるか分かったものじゃない。

 

服を着て家を出ると、予想通り村の他の者はまだ起きていなかったが、村の真ん中にある丸太の椅子に見慣れぬ若い男が腰を掛けていた。

 

ヒューゴは初めての事態にひどく驚き、警戒したが、男の身なりを見て、その男の服装が見慣れぬが上等なものであることが分かると、もしかしたら領主の先触れかもしれないと、違う意味で改めてひどく警戒をした。

 

 

「あの…おはようございます。どうされたのでしょうか。失礼ですがこの村に何か御用でしょうか」

 

男は振り向くと、一瞬その深く黒い眼を大きく開いたが、すぐに普通の表情となり、そして立ち上がると、想像とは異なる丁寧な口調で話しかけてきた。

 

 

「すみません…俺は“パルメーラ・スラヴァン”という者。旅をしていて休めるところを探していたのですが見つからず、ここを夜中に見つけて到着してしまったので、座って休んでいました。こちらはどういった場所なのでしょうか?」

 

 

男は20台前半と言ったところだろうか。

黒を基調とし、赤いラインが入った動きやすそうなコートの下に、やはり黒い皮の服を着こんでいる。

腰には細身のロングソードがかけられていて、これの鞘も黒く繊細な文様が掘られている。

予想では刀身も黒いのだろう。

髪も黒く、眼も黒い。

肌は自分たちと比べると少し色が濃い印象だ。

恐らくは異国の出身なのだろう。

全体として、兜や鎧を着ているわけでもないのに騎士のような印象を受けたが、身に着けているものはどれも非常に高級品であることが一目でわかった。

そして、それより印象的なのはその黒い眼。

暗く沈むような、一切光の届かないような、それでいてどこか魅了されるような、そんな深く黒い瞳。

 

ヒューゴにとってその男の最初の印象は、残酷で優しく、どこか悪魔のような魅力を持つ男、というものであった。

 

 

 

「ここは…アレクサンデル男爵領のラーション村。最も近い街は南西のリ・ブラムルシュールです。その…パルメーラさんはどちらから来たのですか?」

 

「ラーション村、アレクサンデル男爵領…そうですか。俺はあの山を越えてきました」

 

男が指をさすのは東に連なる山々。

 

「アゼルリシア山脈を越えてきたのですか?!」

 

「え、ああ。その、あの山のずっと向こうから旅をしてきたんだ」

 

「という事は帝国からですか?!」

 

「いや、そのさらに向こうだ」

 

「なんと…それは相当な長旅でしたね。ただ、ここは小さな村で、食堂や宿はありません。少し休まれたらリ・ブラムルシュールまで行かれた方が良いかもしれませんね」

 

「そうか…ありがとう」

 

 

できるだけ違和感が生じないように必死に話を合わせていたが、ウルベルトは心の中で大混乱だった。

 

『このおっさん、何て言った?リ・ブルムラシュール?アレクサンデル男爵?ラーション村?アゼルリシア山脈?どの地名も人名も聞いたことがないぞ。少なくともユグドラシルの地名ではない気がする。それにこの人NPCじゃないな。人名が見えないし、会話がちゃんと成立している。どういうことだ?やはりユグドラシル2体験版か?いや、それにしてはこのおっさんプレーヤーはロールプレイし過ぎだし、それともユグドラシル2はNPCも名前は表示されず、会話もここまで流暢なのか?』

 

 

一方でヒューゴの方もひどく困っていた。

領主が来るという日に、申し訳ないが客人をもてなしている暇はない。

それどころか、新たな村人が増えたなどといちゃもんを付けて税を増やすなど言い出すかもしれない。

ヒューゴとしては、このパルメーラと名乗った旅人はさっさとリ・ブルムラシュールに行ってもらって、面倒ごとを増やしたくないと思っていた。

しかしながら一方で、聞くと相当な距離を旅してきたようで、おそらくは相当疲れているだろうから休ませた方が良いのではという、一般的な善意も無いわけでない。

村そのものや、他の者を守るため、様々なものを犠牲にしてきたこともあった。

可能であるならばこれ以上罪深くありたくないという気持ちもある。

それらを加味した結果、この男のことは村長に任せるべきだと最終的には判断したのだった。

 

「パルメーラさん、一旦村長のところに案内しますのでついてきていただけますか?」

 

「ああ、ありがとう。よろしくお願いします。ところであなたの名前を聞いていなかったので伺ってもいいですか?」

 

「あ、そうでしたね。私はヒューゴ・ベイロン。この村で農民をしている者です」

 

 





第2章はウルベルト様編です。
よろしくお願いいたします!
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