オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
第2章は15禁の嵐になると思われます。
村長と呼ばれた男は、始めに会ったヒューゴという男より、もっとくたびれた感じの老人だった。
「帝国よりももっと遠くから…そうですか大変な長旅だったでしょう。ただ、残念ながらこの村は旅の方が休めるような店は無いのです」
村長は先ほどのヒューゴと同じことを言う。
実際そうなのだろう。
この村はどう見ても農村。
農業なんてものが崩壊しているリアルでは農村なんてものは無いが、普通に考えて観光客が来ない村に宿なんて作らないだろう。
というかここはどういう場所なんだ?
ゲームの中なのか何なのか…正直もうログアウトせずにかなりの時間が経っている。
リアルの俺は排泄とか、空腹とか、そういうのは大丈夫なのか?
例えばゲームの中で何かを食ったとして、それはリアルでの食事とは違うはずだ。
しかし不思議なことに、ゲームの中であるはずの今の俺の腹が減ってきている気がする。
そこで俺はアイテムボックスから金貨を何枚か出して村長に言ってみた。
「ああ、分かりました。色々とご迷惑をおかけしました。それじゃ俺はそのリ・ブルムラシュールという街を目指してみます。ところで申し訳ないのだが、簡単な食事をいただけないだろうか。金はこの通り払うので」
俺が金貨を出すと、というよりはアイテムボックスから取り出した辺りから、村長と、ついでにヒューゴも目を丸くして言葉を失っている。
「ん?どうしたんです?もしかして通貨が違うか?」
「いや…あの…確かにそちらの金貨は見たことが無いのですが……その、今金貨を空中から出されました?」
「え、いや、アイテムボックスからだが?」
俺はそう言うと、再びアイテムボックスを開き、金貨をもう数枚出した。
その様子を、やはり二人は呆然と見つめている。
しかし数秒後、村長の方が思いついたように問うてきた。
「も…もしかしてパルメーラさんは
俺はドキリとした。
なぜならば、今の俺は暗黒騎士の人間種。
こいつ…俺の正体に気づいたという事か…?
「なぜ…そう思った?」
焦りから少し言葉が険しくなってしまったようだ。
村長は少し怯えたような声色で続けた。
「あ、いえ、詮索するようなことを言って申し訳ない。この村に
これは…どういう事だ?
彼らはアイテムボックスから金貨を取り出すという行為そのものに驚いていたという事か?
いや確かに、俺もさっきはこの仕様変更に若干驚いたが…
それにしてもこの男たちは、まるでリアルの人間の様に、空中から突然物が出てくるという現象をあり得ないと認識した。
リアルの様に?
さっきから感じていたことだが、今俺を取り巻いている現象-感覚、自然、人間…そう言ったものはまるでリアルの様だ。
俺自身がユグドラシルで作成したキャラクター、『ウルベルト・アレイン・オードル』であったから、その可能性は無いとハナから考えていたが、そう、ここはまるでリアルの様だ。
それも、自然環境が壊れる、何百年も前の、ヨーロッパかどこかの。
タイムスリップ?
いやそんな夢物語…じゃあそもそもなんで俺は、ゲームで作ったキャラなんだ?
というかこいつら、
この状況も含めて、“奴ら”が仕組んだことなのか?
全然わからん…とりあえず固まっている目の前の男二人に返事をしないといけない。
「あーすみません。
そう言って俺は、アイテムボックスの入り口が見えないように、手の上に金貨を出したり仕舞ったりして見せた。
男たちは相変わらず不思議そうな顔をしていたが、“手品”と聞いてとりあえずは納得した様だった。
「あ、すいません。何か食べ物でしたね。その…すぐに食べられるものとなると黒パンくらいしかないですが…」
そう言って村長は戸棚から茶色い塊を出してきた。
パンというのは知識としては知っているし、そういう名前のものは当然食べたことはあるが、知識の中にある“パン”は成形されたブロック状のものだった。
なので、その茶色い塊がパンだとは一瞬分からなかったのだが、わずかに穀物の様な匂いがし、ウルベルトは確かに食欲が刺激されたのを感じた。
「…さっき通貨が違うと言っていたと思いますが、この金貨でもそれを譲ってくれるだろうか?」
「え…構わないのですが、今おつりがありません…その…銅貨はお持ちではないのでしょうか」
「銅貨?いや…この金貨しか持っていない。俺は…かなり遠いところから旅をしてきたのでこの国の硬貨の価値が分からないんだ。この金貨で買えるならお釣りはいらないから譲っていただけないだろうか」
村長は、かなり空腹の様子の男を見て、正直なことを言うとあまりに粗末で固くなったパンなど無料で譲ってもいいと思っていたが、男が出した金貨が非常に高価そうで珍しく見えたことと、仮にこの金貨が全く価値がないものであったとしても空腹な者にパンを渡しただけなので、別にいいかと思い、金貨一枚とパンを交換した。
ウルベルトはたった今購入したパンを齧ってみた。
僅かな酸味と強い穀物…と思われる味。
香ばしい。
強く唾液が出て頬の下の方が痛いと感じる。
はじめて味わった、おそらくは本物のパン。
気が付くとがっつくように食べ、パンはきれいに無くなった。
村長がコップに入った水を出してくれる。
確かのさっきのパンは少し喉が渇く食感だった。
水も一気に飲み干す。
「大丈夫ですか…その、粗末なパンで申し訳ないですが…」
「いえ…ありがとうございました。実を言うとかなり長時間食べていなかったので本当に助かりました」
村長とヒューゴは、『やはりそうだったか』と考え、空腹な者の腹を満たしてやることができた、という単純な喜びに二人して微笑んだ。
「おかげさまで、人心地がつきました。何か俺ができることがあればお礼に手伝いますよ」
「いえいえ、おそらくはかなり多めにお代を頂きましたし大丈夫です。それに実を言うと、今日は領主様がこの村に来て今年の税金の検分を行うのです。なので逆にご迷惑をおかけしてしまうかもしれないので領主様が来る前に出発された方が良いかと思います」
「…領主…か」
一瞬、パルメーラと名乗った男の目の黒が深くなったように見えた。
しかしその感覚は一瞬で消え、男は口元を微笑ませて言った。
「そうですか。それはタイミングが悪い時にご迷惑をおかけした。では俺はリ・ブルムラシュールへ向けて出発します。ありがとうございました」
そう言うと男は丁寧に頭を下げ、リ・ブルムラシュールへの道を聞くと、そちらへ歩き出し、気づいたときには見えなくなっていた。
思い掛けない客人が去った後、村の男たちは領主を迎える支度をする。
これがなかなか難しく、領主を迎えるために余りに質素にすると領主がもてなされていないと癇癪を起すし、かといって過度に豪華にすると金があるだろうと言って税を上げようとする。
「こんなものか…」
村長の男は、もてなしを行う予定の自身の家の中を、それなりに飾り付け、領主を待つ体制に入った。
豪華な馬車の中で、ローレン・ヴェレン・クィリィ・アレクサンデルはふんぞり返りながら供である執事と護衛の男を見遣る。
彼は今回の税の検分が初めての単独の仕事である。去年までは父であるグリーデン・ヴェレン・クィリィ・アレクサンデル男爵の長男として、父と共に村々を回ることがあったが、今年は父は侍女の娘と遊ぶのが忙しいようで、自分のみにお鉢が回ってきた。
実際一人の仕事はうまみも多いだろうとローレンは考える。
今回は、税の決定のための確認であるが、何かと理由をつけてこのタイミング搾り取るもいいし、父の様にお気に入りの娘を見つけて連れ帰るのもいい。
実際、今日向かう村は数年前に父がなかなか美しい娘を見つけてきた村だ。
結局その娘は父が味わい尽くして最後は奴隷商に売ってしまったので、まだ若かった自分は味わえなかったが、同じ村という事はもしかしたら親族の娘もいるかもしれない。
ここ何日か、年老いた執事とむさくるしい護衛の顔しか見ていないローレンは、溜まった獣欲のはけ口がいないか期待に胸を膨らませるのだった。
***
結論から言うと、村にローレンの好むような若い女は居なかった。
腹いせに、税率を少し上げてやった。
村長の爺は何だかごちゃごちゃと言っていたが知ったことか。
帳簿に税率を上げる旨の記載をして質素な家を出ようとしたとき、開けていない戸棚があることに気づきそこを無理やり開けてやると、中から見たこともない金貨が出てきた。
「おい、なんだこれは」
「はい、前に来た旅人の方が食事代代わりに支払われたものです。外国の方の様で、見たこともない金貨でした」
「ふん…これはもしかしたら偽金かもしれんな、オレが預かっておいてやろう」
「…」
何も言わない村長からその珍しい金貨を取り上げると、ローレンはいやらしい顔で笑い、馬車に戻っていった。
『ほう。絵にかいたような“領主様”だな…この俺が渡した金貨を奪うとは。身の程というものを教えてやる必要があるようだな』
村長の家の中で
自身の父が治める領地の主要都市であるリ・アレクサンデルに帰る馬車の中、ローレン・ヴェレン・クィリィ・アレクサンデルは少し上機嫌そうに、先ほど村長から奪った金貨を指でつまみながら眺めていた。
「こいつは、中々の細かい細工がされているし、普通の金貨の2倍くらいの重さがあるように感じるな…これは2~3倍の価値があるんじゃないのか?なあ、お前」
「左様ですね。ローレン様は流石慧眼をお持ちでございます」
ローレンから顎で呼ばれた護衛の男は、バカ長男の機嫌が悪くならないよう精いっぱいのおべっかを言う。
しかしその瞬間、どこからともなく声が聞こえた。
「ほう、2~3倍の価値か。それでは代償として貴様の指を2~3本頂こうか。知っているか、ある土地では盗人は戒めにその指を落とすのだぞ」
瞬間、ローレンは金貨をつまんでいた自身の親指と人差し指が、金貨と共に馬車の床に落ちるのを目撃した。
「………あ?あ…あああああああああ!い、いたいいたいいたい!!!」
助けを求めるように横を見ると、今までしゃべっていた護衛の男は目を見開いて硬直していおり、麻痺をしているのかブルブルと震えながら口からは泡を吹いている。
「ひっ…ヒィィィ!!!」
ローレンは突然の出来事と鋭い痛みに、指が3本になった右手を抑えながら馬車の外に這い出そうとする。
馬車の後ろの扉を開けたとき見えたのは、新鮮な血の匂いに惹かれ、いつの間にか集まった
そして、一部始終を見ていたにも拘らず、決してその馬車を助けようとしなかった冒険者風の青年に少し興味を惹かれ、顔を覚えた後、その青年と同じ方に進むことを決めた。
結果、パルメーラ・スラヴァンが次に向かう街は、リ・ブルムラシュールではなくリ・アレクサンデルとなる。
この変更が、ウルベルト・アレイン・オードルとリ・エスティーゼ王国にとってどのような変化をもたらすか、それはまだ分からない。
———しばらく後、ラーション村の村長は自身の家の戸棚から、領主の息子に難癖をつけて奪われたはずの金貨を見つける。
その後、その金貨が、盗まれるなどの悪意によって他人の手に渡った際は、しばらくしてその盗人なりに災難が降りかかり、必ず後日村長の元に戻ってくるという怪奇現象が起こったという。
村人は何時しかこのことを、『ラーション村の怪』と呼び、親たちは、子供たちに“人のものを盗ってはいけない”という当たり前のことを教えるときの寓話として語るようになるのであった。
ウルベルト様「いやー怖い話だなぁ」