オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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ニニャ、正式に登場です。


第2章 第3話 -領主様からの緊急依頼-

 

「お、ニニャ。用事は終わったか?」

「おーい、こっちだぜ」

「早くしないとルクルットが全部食べてしまうのである!」

 

僕が所属する冒険者チーム『漆黒の剣』の皆が、宿屋兼食堂の1階で先に飲み始めていたようだ。

僕は今、荷物運搬護衛の依頼で、リ・アレクサンデルを訪れている。

依頼自体は昨日この街までの荷運びが終わっていて、今日は一日ここで休んで、明日の乗合馬車で拠点であるリ・エスティーゼに向けて出発する。

つまり今日はフリーなので、メンバーは各々の時間を過ごしていたのだ。

 

真面目なリーダーのペテルはこの街の市場で武器をチェックしていたようだし、普段の軽い感じからは分かりづらいが、仕事には真剣なルクルットもレンジャーとして必要な物資の補給をしていた。

ダインはダインで、薬品店に入り浸ってポーションの類を物色してたようだ。

 

僕は…というと、正直この街には複雑な思いがある。

この街そのものが悪いわけではない。それは分かっている。

でも、この街で買い物をして、その結果発生した税の一部が、この街の領主の懐に入るのが我慢できない。

今回の依頼の行先がリ・アレクサンデルであると分かったとき、理由をつけて断ることもできたが、僕の勝手な理由でチームの仕事の機会を失うのは駄目だと思った。

だから僕は、この自由時間の一日を買い物で済ませたくなくて、何となく街の外に出る。

一人での移動は危険だが、街道沿いなら普通は大丈夫だ。

 

足は自然と、ラーション村に向かっていた。

でも、あの村には戻らない。戻れない。

僕があの村に戻ることがあるとすればそれは、少なくともこのリ・アレクサンデルのあの館の中に住む欲深い豚どもをこの手でズタズタに引き裂いて、そして姉さんの行方を聞き出して、取り戻した後だ。

 

しかし気が付くと、僕はラーション村への街道を1/3ほど進んでしまっていた。

 

「しまった…気づいたらこんなところまで来ちゃった。そろそろ戻らないと日が暮れる前に戻れなくなるな…」

 

そう呟いたとき、街道の少し先、目視でやっと確認できる先に1台の馬車が見えた。

馬車には、あろうことかあの紋章。

アレクサンデルの紋章がある。

一瞬、血が沸き上がるような感触が駆け巡り、気が付けば右手は痛くなるほど強い力で杖を握っていた。

 

『いや…だめだ』

 

そう心の中で呟く。

今僕が、ここでそんなことをして何になる。

チームにも迷惑がかかるだろうし、その結果姉さんが見つかるわけでもない。

 

考え直し、ちょうどいいから踵を返してリ・アレクサンデルへ戻ろうとしたその時、馬車に後方から複数の獣が近づいてくるのが見えた。

魔狼(ヴァルグ)の群れだ。

魔狼(ヴァルグ)は馬車よりも早いスピードで、馬車に近づき、そして御者に食らいつき、止まった馬車から3人ほどの人間を引きずり出し、その人間たちを生きたまま貪る。

かなり遠くなので、わずかではあるが、断末魔の悲鳴が聞こえる。

魔狼(ヴァルグ)が首を激しく横に振るたび、死を前にした甲高いような声が聞こえる。

 

気が付くと僕は口の端を歪ませ、おそらく、笑っていたと思う。

苦しめ…もっと苦しめ…!

僕の中のどろどろとした僕が歓喜の声を上げる。

 

やがて断末魔の声は聞こえなくなり、後は必死に地面の肉塊を食らう魔狼(ヴァルグ)の動きだけ。

その時になって、僕はハッとする。

あの数の魔狼(ヴァルグ)、チームでなら問題は無いが、今僕は一人だけ。

数で押し切られたら、危ないかもしれない。

 

僕は、魔狼(ヴァルグ)を刺激しないように、そっとその場を離れ、見えなくなるほど十分離れた後に走ってリ・アレクサンデルの門を目指す。

門のところにいる衛兵に、一応、『魔狼(ヴァルグ)の群れが馬車の様なものを襲っているように見えたが、遠かったので走って逃げてきた』とだけ伝えた。

それから数十分の後、僕は宿泊先の1階で仲間たちと合流したのである。

 

 

 

「なんだよニニャ。なんかいい事あったか?」

 

「え、別に特に何もないけど?なんで?」

 

「ニニャがエールを飲むのは珍しいし、それに…」

 

「なんだか今日は良く笑っているのである!」

 

「…そうかな?いや、本当に何かあったわけじゃないけど、久しぶりの休みだったし、街をぶらぶらしてたから気晴らしになったのかもね」

 

「そうか?まあ、気分がいいのはオレもだぜ。見ろよこの弓矢、わずかだけど魔法効果が付与されてるのに、結構安かったんだぜ?」

 

 

危ない危ない。どうやら表情に出てたみたいだ。

僕は努めて平常心を保つように表情を引き締めながら、皿の中のシチューを掬って口に運ぶ。

シチューを口に入れる瞬間、一瞬向かいのテーブルにいる男と目が合った気がした。

普段ならばそんなことは気にしないのだけれど、その男の目は、どこか深く、暗く、吸い込まれるようで、その深淵のような目が僕を捉えているような気がして少し怖くなり、すぐに目を逸らしたのだった。

 

 

しかし楽しかった夕食は、突然邪魔が入る。

食堂のドアが開いて、貴族の護衛の騎士の様な服装の男が入ってきたのだ。

 

「食事中すまないが、この街の領主様から緊急の話がある!少し聞いてくれないか?!」

 

僕はとっさに小さく舌打ちをしてしまった。

幸い僕の舌打ちは、チームの皆にしか聞こえていなかったようだ。

チームの皆は、ちょっと呆れたような顔で僕を見ている。

 

「この宿は冒険者が多く宿泊をしていると聞いた。明日、冒険者組合に正式に依頼を出すのだが、可能であれば受けて欲しいので使いとして宿屋を回っている!」

 

騎士のような男はうるさい声で説明している。

 

「実は今日の夕方、この街の領主様の関係する馬車がモンスターか何かに襲われ金品等も奪われた。領主様は襲った者を討伐してほしいとのことだが、この街には最高位で(ゴールド)級の冒険者しか在籍しておらず、その冒険者チームも遠征中で今はこの街にいない。なので、ランクは問わないからこの街に来ている冒険者に討伐に参加してほしいとのことだ」

 

 

僕はその騎士風の男が言っている事件をおそらく目撃したが、面倒だし関わり合いになりたくないので当然知らないフリをした。

僕が貴族が嫌いという事を知っているチームメートの皆も、僕に配慮してか、特に反応は無い。

『あの騎士(イヌ)、はやく主人のもと(豚小屋)に帰らないかな』

と考えていると、さっき一瞬目が合った男が手を上げながら質問を始めた。

 

 

「失礼、伝令の方。2点聞きたいのだが、良いだろうか?」

 

「ん…ああ、構わない。討伐に参加してくれる気があるならば、答えられることは答えよう」

 

「では、一つ目。俺は遠方から旅をしてきた戦士なのだが、あいにくこの国の冒険者ではない。その場合も参加可能なのか?」

 

「ん…いや、すまないが分かりかねるので帰って領主様に聞いておこう。遠方から来たという事で知らないのかもしれないが、冒険者組合の依頼というのは冒険者に対してのみ行われるのが一般的なのだ」

 

「成程…ではもう一つ。さっきあんたは“領主様の関係する馬車”と言ったが、領主様とやらが乗っていた訳ではないのか?」

 

「いや……そう言う訳ではない。そもそも依頼を出すのは領主様本人だからな」

 

「成程。つまり、領主様本人ではないが、関係者あるいは身内などが襲われたという事かな?」

 

「………いや、そういう事は知らんな。それに、そういうことは詮索しない方がいい…ともかく、明日の依頼、前向きに検討してくれたまえ」

 

 

それだけ言うと、騎士風の男はそそくさと店を後にした。おそらくは他の店にも回る様、言いつけられているのだろう。

しかし、騎士風の男が去ったのち、店の注目は質問をした男に集まっていた。

 

多くの視線の主が考えていることは、『この男、ここの領主のことを知らないな』とか『本当に遠方から来たんだろうな』というものだ。

 

なぜなら、ここの領主(ブタ)はクズであることが有名で、下手に喧嘩を売ったり詮索したりすると、貴族の力を使って嫌がらせや報復をしてくると噂されているからだ。

 

男が聞いたこと-誰が襲われたのか-は確かに気になることだったが、少なからずここの領主を知っている者ならば、関わり合いにならないため無視を決め込むか、少なくとも余計な詮索はしないというのが普通だろう。

 

案の定、店の客たちはボソボソとあの男のことを話しているようだ。

しかしその男は特に気にする様子はなく、特に急ぐでもないペースで食事を済ませると、周りの目などは気にせずに2階の宿泊部屋へ上がっていった。

 

 

「あいつ、長生きできねーな」

ルクルットが呟く。

 

「あるいは、遠国では高い身分の方かもしれないのである」

ダインが言う。

 

「それか、実はすごく強いとかな…まあでも、あまり関わり合いにならない方がいいと思うな」

ペテルが最後に締めくくった。

僕の手前、貴族にかかわる話題を急いで打ち切ってくれたのかもしれない。

 

しかしながら僕は、さっきの男のことが少し気になってしまっていたようだった。

皆が寝静まった後、興奮もあり、あまり眠れなくて1階の食堂スペースへ降りていく。

この時間はもう店は終わっているし、きっと誰もいないことは分かっているが、水を一杯飲みたいと思い、食堂備え付けの甕に水を汲みに来たのだ。

 

 

薄暗闇の中、自分の水筒に水を汲んでいると、突然背後から話しかけられ、僕はビクッと肩を震わせながらゆっくりと振り返る。

 

「ああ、アンタ、ちょっといいか?」

 

振り返った先にいたのは、あの男。

深く吸い込まれるような黒い眼をした、さっき質問をしていた男だ。

 

 

「アンタ、さっき領主様のお使いで伝言を伝えに来た奴の話を聞いてたよな?」

 

「え…あ…ハイ。何でしょうか?」

 

「さっきの話、俺が参加するにはどうやら冒険者になる必要があるみたいなことを言っていたが、冒険者ってのは、明日突然なることができるものなのか?」

 

「え…えっと、はい、登録すれば誰でもなれると思いますが…ただランクは最下級の(カッパー)から始まるので、普通は討伐依頼みたいな危険があるものは受けられないことが多いですが…」

 

「“(カッパー)”…成程、レベルみたいなものがあるのか。だがとりあえず冒険者とやらにはなれるんだな。教えてくれて感謝する…アンタはさっきの依頼、参加しないのか?」

 

「え…えっと、参加するしないは、チームで決めるので僕が決めることではないですけど、多分しないと思います。余計なお世話かもしれないですけど…あなたも、参加しない方がいいと思いますよ?」

 

「…なぜだ?そこまで危険な依頼なのか?」

 

「えっと…ここだけの話にしていただけるとありがたいのですが、貴族からの依頼っていうのは、何かと面倒なことが多いんです。成功しても報酬が支払われなかったり、そもそもいちゃもんをつけて失敗扱いにしてきたり…とにかくそういうことがあるから、冒険者は貴族からの依頼はその貴族の素性なども吟味したうえで受けることが多いです」

 

「成程…忠告感謝する。つまり、ここの領主とやらは、良くない素性という事か」

 

「いやっ…まあ…そう言う訳では。それでは僕はもう寝ますので」

 

途中から、この男はもしかしたら領主の側の人間かもしれないという疑念が浮かんだ。その場合、僕が領主(あの豚)を悪く言っていることが知られるとあまりよろしくないだろう。

僕はこの男に顔を覚えられないように、少し下を向いて顔を隠し、そそくさと自室の戻ったのだった。

 

ただその夜は、なぜだか分からないが、その男のことが気になって遅くまで眠ることができなかった。

 

 

翌朝。

僕たち『漆黒の剣』は冒険者組合で、新しい依頼がないか確認をしていた。

 

これは別にあの男が気になったからでも、昨日の領主の依頼を受けようと思ったからでもない。

冒険者の日課として、これを確認するのは当たり前のことだからだ。

 

ふと依頼板を見ると、昨日言っていた領主の依頼が張られている。

 

『アレクサンデル男爵家からの依頼-領主様所有の馬車が襲われ、金品等が強奪された。この犯人を調査し、奪われた金品を回収されたし。成功条件-犯人の捕縛(モンスターの場合はモンスターの特定及び討伐)、奪われた金品の回収。成功報酬-金貨40枚』

 

事件の様子を概ね見ていた僕としては、アレクサンデル(ブタ)の魂胆が透けて見えた。こいつは調査だけを行わせて金など払う気がない。襲ったのは魔狼(ヴァルグ)の群れでそいつらを全て見つけて討伐など難しいし、金品-本当に奪われたのかすら怪しいが-を魔狼(ヴァルグ)が気まぐれで持ち去ったなら、それこそ回収は不可能だ。さらに言えば、討伐参加者にいちゃもんをつけて犯人に仕立て上げるくらい平気でやるかもしれない。

 

本当に反吐が出る。

僕はむかつきが顔に出ていないか気を付けながら、その依頼については特に気づいてもいないフリをして仲間と共にその場を去ろうとしたが、ふと横を見ると、昨日宿で話した黒い眼の男が依頼板を凝視している様子が目に入った。

 

首には(カッパー)の冒険者証。やはり登録をしたらしい。

 

しかし、という事は、この男は依頼を受けるつもりなのか。

関わり合いにはなりたくないが、貴族(豚ども)の犠牲になる者が出るのも見ていられないという気持ちがある。

 

声をかけようか迷っていると、男から意外な言葉が漏れた。

 

「…全然読めん」

 

 





2章は長くなりそうです…
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