オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
デミえもんが諸事情でついてこられなかったこのルートのウルベルト様は、そもそもここがどこなのかも正確に理解できていませんし、頭脳班の仲間もいないので多少慎重とはいえ、手探り&本能で動くと考えています。
また、人化したまま過ごしているので、異形種バフによる頭脳や悪魔的思考もまだ表面化していません。
「…という訳で、リ・ウロヴァールで出ている依頼は冒険者ランクごとに仕事内容が設定されているし、報酬は何かの達成じゃなく期限で支払われる。それに依頼主は国王だからさすがに虚偽もないだろう。俺はこの依頼は受けていいと思う。ただ、リ・ウロヴァールはここからさらに北東だし、エ・ランテルからもっと離れることになるからホームに帰るのは下手したら半年先になるかもしれない。その辺を含めてどうするか話し合う必要があると思う」
「オレは参加してもいいと思うぜ。ホームつったってカノジョが待ってるわけじゃないしよ…はー言ってて悲しくなってきたわ」
「で…あるな。私も参加して良いと思うのである。仕事が決まっているのは良いことである!」
「ニニャはどう思う?」
「……」
「おーい、
「ほわっ!!ご…ゴメン別のこと考えてた!う…うん、僕も問題ないと思う。ウロヴァーナ辺境伯はマトモ側の貴族だし
「よし、じゃあ皆オーケーという事だから、この仕事受けよう。リ・ウロヴァールには7日後に到着すればいいから、明後日の乗合馬車で出れば十分間に合うな。俺はもう少し市場で武器を見たかったからちょうどよかったよ」
『漆黒の剣』としての次の仕事が決まって、皆仕事に向けた話を始めた。
でも僕はさっきから、あの黒目の男が気になってしょうがない。
何せ、依頼板を何度も見返したかと思うと、冒険者組合の中をウロウロしながら、壁に貼られている注意書きなどを見て唸り、そうかと思うとまた依頼板に戻ってきて、何かメモをしている。
さっきの呟きといい、絶対あの人、文字が読めないんだ…。
確かに昨日、『遠方から来た』と言っていたし、冒険者に関する知識もなかったようだ。
でもじゃあどうやって登録を?
あ、そいう言えば文字が書けない人のために代筆をしてくれるんだった。
いや、それよりも、代筆代を払ってまで冒険者になったという事は、昨日言っていた
受けない方がいいと思うけどな…。
あ、でも受領する人は正午にラーション村へ続く街道への門のところに集まるように書いてあった。
このまま放っておけば、依頼内容が読めないから門に行かないかな?
そんなことを考えていると、その男はまた依頼板から目を離し、今度は辺りをキョロキョロしだした。
瞬間、僕は目が合ってしまった。
男はというと、僕の顔を見るなり、少し何かに気づいたような表情になりまっすぐこちらに近づいてくる。
『あっ…しまった』
そう思ったときは既に遅く、男は僕に、というか僕たちに話しかけていた。
「あー…その、昨日同じ宿に泊まってた冒険者の方たちですよね?ちょっと聞きたいことがあるんだが、少し時間を頂いても良いだろうか?」
「ん…あ、昨日伝令に質問してた方か」
「おーアンタ冒険者登録したのか!どーしたよ?」
「ふふ、なかなかどうして立派な剣をお持ちであるな」
僕の自慢の、善良な仲間たちがすでに相手を始めてしまった…。
「いやその、言いにくいんだが、俺は遠方から旅をしてきた戦士で、この辺りの文字が全然読めないんだ。そう言う訳で依頼内容が読めないから、せっかく登録したのに受けられなくて困っていたんだ」
『やっぱりそうか…』
僕は答え合わせができたので、心の中でため息を一つつくと立ち上がり言った。
「じゃあ、僕が依頼板を読みますよ。気になる依頼があったら言ってください」
会話の中でうまく、
男は、冒険者にしてはとても礼儀正しくお辞儀をすると、僕ら『漆黒の剣』に向かってお礼を言った。
「ああ、ありがとうございます。困っていたから非常に助かった。俺の名前は“パルメーラ・スラヴァン”。良ければ皆さんの名前も教えていただいても良いだろうか?」
チームの皆は、各々が自己紹介し、最後にペテルが僕たちのチーム名を告げた。
「じゃ、さっそく依頼板のところへ行きましょうか?」
僕はパルメーラさんを誘導し、依頼板へ向かって歩き出した。
***
「…という訳で一通り今張り出されている依頼は説明できたかと思います」
「成程…いや、ニニャさん、昨日の夜の忠告も含めて本当に感謝する。ただ、忠告を貰っておいてなんだが、やはりこの街の領主の依頼は受けてみようかと考えているけどな」
「あ…いえ。はい。感謝は受け取っておきます。でも、パルメーラさん、その、昨日言ったようにここの領主の依頼は本当にあまりお勧めしませんよ。僕たちはこれから、最初に説明したリ・ウロヴァールの依頼を受けるつもりです。こちらの方がリスクも少ないし、それに依頼主が信用できます…その…ぱっと見た感じでこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、パルメーラさんは装備とか見る限りお金に困っているようにも見えませんけど、なんでこの依頼を受けようとしているんです?」
『アレクサンデルは真正の屑ですよ』と喉のところまで出かかったが、なんとか言葉は飲み込む。
しかし帰ってきた答えは意外なものだった。
「ニニャさんは、ここの領主のことを良く知っているのか?」
ドキリとしたが、それは悟らせないように平静を装って努めて静かに答える。
「いえ、ただ、尊敬できる領主ではないという事は聞いています」
僕がそう答えると、パルメーラさんは目線だけで辺りを見回した。
そして、声が届く範囲に人が居ないことを確認すると、声のボリュームを落として囁いた。
「あの領主の紋が付いた馬車がモンスターに襲われていたのを見ていただろう?」
今度こそ、僕の心臓は早鐘を打つように鳴り響いた。
この人は、知っている。
やはり、この人は、あの豚の関係者で、僕のことを…
そこまで考えたとき、パルメーラさんは言葉をつづけた。
「実を言うと、俺もあれを見ていた。俺は危険を冒してまで知らん奴を助ける義理は無いと思って静観していたんだが、あんたも同じように助ける素振りを見せず傍観していたからな…てっきりあの襲われていた奴か領主と何か因縁でもあるのかと思ったんだ」
パルメーラさんの説明を聞いて、僕は考える。
彼もまた、あの光景を見ていて、しかし助けようとはしなかった。
それが嘘であったとしても、そんなことをあの
なのにそのことを知り合ったばかりの僕に言う。
それはつまり、この人も僕と対等な状態という事だ。
「そう…ですか。あなたも見ていたんですね。僕もあなたと同じで助けるには危険が大きいと思いあの場を立ち去りました。ただ…そうですね、僕も平民ですから、搾取するだけで義務を果たさないような貴族は嫌いです」
「そうか…」
パルメーラさんは僕の説明を聞いて納得してくれたのか、それ以上は特に何も言わなかった。
ただ少し時間をおいて、もう一度依頼について確認してきた。
「俺も…そうだな。貴族は嫌いだ。だが、この依頼、俺の腕だめしにちょうどいいと思ってな。
「…そうですか」
それ以上は僕からは特に何も言えないと思った。
ただ、彼が言った『貴族が嫌い』という発言は、同じ思いを持つ僕としては少し気になってしまった。
もしかしたらこの人は、僕と同じような思いをしたことがあるのかもしれない。
リ・ウロヴァールの依頼をこの人も受けるのであれば、その道中でもう少し話す機会があるかもしれない。
僕は、そんな軽い気持ちから、彼にリ・ウロヴァールの依頼を受けるように勧めてみようかと思い、門のところまで一緒に歩くことにした。
「…そう言う訳で僕たちは、明後日の朝に出るリ・ウロヴァール行きの乗合馬車に乗るつもりです。もしパルメーラさんもこの依頼を受けるんでしたら、同じ馬車に乗りませんか?そうすれば、僕のチームと色々情報交換もできると思うんです」
「成程…そうだな。お誘い感謝する。ここの領主の依頼内容を詳しく聞いて、魅力が無い内容だったらご一緒させてもらうかもしれないな」
「……余計なお世話かもしれませんが、ここの領主の依頼、本当にやめた方がいいですよ。なんていうか、報酬が支払われないなんてのはまだいい方で、あの馬車襲撃犯人の濡れ衣とか着せられることもあり得ますよ」
「なんだ…そこまで腐っているのか?ここの領主とやらは」
「ええ…まあ」
「ニニャさん、さっき『搾取するだけの貴族は嫌い』と言っていたが…それはこの国の人間には普通の考えか?それともあなたが特別なのか?」
『貴族が嫌い』という言葉に反応したのは、どうやら僕だけではなかったらしい。
パルメーラさんも僕と同じことを考えていたようだ。
少しの親近感は、つい僕の口を軽くしてしまったようだ。
「一般的な平民なら普通の感覚だと思います…ただ、僕には姉がいたのですが…僕が幼いころ貴族に無理やり連れ去られて、そのまま行方知らずになってしましました。奴隷にでも売られてしまったのでしょう……それ以来、僕は貴族が嫌いです…まあこんな話、この国じゃありふれた事なんですがね」
会話が止まった。
歩みは止まっていないが、僕は少し『しまったな』と思った。
こんな話、初対面に近い人にすることじゃない。
確かにありふれた話だけど、そうじゃない人にはきっとつまらない話だろうから。
僕は横目でパルメーラさんをちらと見た。
その瞬間、僕は、僕の考えは間違っていたと理解した。
パルメーラさんの目は黒く、深く、怒りを湛えていた。
彼は僕の気持ちを理解して怒ってくれたのかと一瞬思った。
しかし彼の言葉は、彼の持つ感情がそれだけではないことを僕に理解させた。
「そうか…どこの世界にも屑の為政者というものはいるようだ…俺もそうだ。俺の親も莫迦な支配者の犠牲になった。危険な場所で働かせられ、命を落とし、それなのに奴らには哀悼の気持ちなどは一切なく、雀の涙の様な金を投げて寄越しただけだった」
その後は、門に着くまで特に会話は無かった。
僕は、僕が想像した以上に、パルメーラさんの環境が僕と似ていて、僕の気持ちを理解してくれる人がいて嬉しいという気持ちと、彼が醸し出す重い感情から、簡単にそのことに触れてはいけないという気持ちがごちゃ混ぜになり、ただ、見つけた“同志”が、
「ここまで道案内ありがとう。手間をかけてすまなかったな」
「いえ、良いんです。その…気を付けてください。それに可能ならリ・ウロヴァールの依頼、前向きに考えてください。パルメーラさんとはもっと話したいと思いました」
「そうだな…同感だ」
パルメーラさんはそう言うと、門の方を向き、小さく手を上げて歩いて行った。
「おお、もしかしてあなたは領主様のご依頼を受けてくださる方か」
「いや、そうだな。とりあえず具体的に何をするか説明を受けてから依頼を受けるかどうか考えようと思って来たんだ…それにしても、もしかして参加者は俺だけか?」
「あ…ああ、現在はそうだ。では時間になったら、まずは領主様のお屋敷へ向かうことになる。分かっていると思うが、領主様は高貴なお方。冒険者といえども、最低限の礼儀は守っていただきたい」
「ああ、善処するが、こちらも作法を学んだ者ではないから、多少はご勘弁してほしいな」
「無論だ。領主様は寛大なお方。その辺のことはご理解いただけるであろう」
冒険者を連れてくるよう仰せつかった衛士はホッと胸をなでおろした。
自身が仕える領主の評判は低く、案の定冒険者は集まらない。
このままでは、また癇癪を起し自身を含めた家臣に当たり散らすのではと考えていた。
先の事故で、領主を宥め慣れている衛士と執事が死んだのも問題だ。
正直、あのバカ長男が消えたのは嬉しかったが、あの2人も一緒に死んでしまったことで、今後の宥め役が誰になるのかと家臣たちは戦々恐々としている。
それにしても、
まあ初心者だからこそ、この依頼を受けたのかもしれないな。
今回の事故は魔獣か獣に襲われたのは分かっている。
領主様が求めているのはおそらく濡れ衣を着せる相手だ。
メンツを保つために“犯人”が欲しいのだろう。
幸い、屋敷の衛士の中には腕の立つ者もいて、
可哀そうだが、こいつにはスケープゴートになってもらって、精々、領主の機嫌を取ってほしいものだ。
領主も衛士もまだ気づいていない。
そのスケープゴートは、生贄になるようなgoatではないことを。
生贄となるのは、どちらなのかという事を。
結局、アレクサンデル領主からの依頼を受けたのは、その男ただ一人だった。
ともかくも、グリーデン・ヴェレン・クィリィ・アレクサンデル男爵は自身の家へ、その笑顔を張り付けた黒目黒髪の男を迎え入れた。
迎え入れてしまった。
いやあ、冒険者登録後に最初に絡んだのが、善良な『漆黒の剣』で本当に良かったと思います。お互いに。