オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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いやー長くなってしまいました。

めちゃくちゃ15禁です。


第2章 第5話 -リ・アレクサンデルの怪-

 

結論から言えばパルメーラさんは2日後の朝、リ・ウロヴァール行きの乗合馬車に、僕らとともに乗り込んできた。

冒険者組合に出ていた依頼を見て、リ・ウロヴァールに向かう冒険者はそこそこ居たため、乗合馬車はいつもより混んでいたが、それを見越した組合は増便を出してくれたため、冒険者たちはある程度余裕をもって馬車に乗ることができたのである。

 

パルメーラさんは一人だったが人数合わせのため、ちょうど僕たち『漆黒の剣』と同じ馬車となり、パルメーラさんを含めた5人を乗せて馬車は出発した。

 

 

「パルメーラさん、結局ここの領主の依頼は受けなかったんですね」

 

「ああ、ニニャさんにご忠告いただいたこともそうだったのですが、なんと参加者が俺一人だったのでね…それに領主に馬車襲撃の犯人を捜してくれと言われたんだが、どうやらそれは獣か何かに感じたし、到底特定などできないと思ったから丁重にお断りしたんだ」

 

 

パルメーラさんは僕を見てニヤッと笑った。

馬車を襲撃したのが魔狼(ヴァルグ)だったことは、それを実際に見ていたパルメーラさんと僕だけの秘密なので、彼はうまくごまかす様な言い方をした。

 

仲間たちは、『参加者がパルメーラただ一人だった』という点について苦笑いしていた。

 

「いや、あんた一人って…流石のご評判だな」

「ノーコメントである!」

「まあ何にせよ、パルメーラさんが変なことに巻き込まれないでよかったな」

 

 

全くペテルの言うとおりだな、と僕は思った。

彼が今ここにいるという事は、あの領主()によって変な足止めをされなかったという事だ。

そしてそれは、彼がこれからしばらくの間、同じ任務をこなすために僕たちと一緒に行動するという事だ。

それは僕にとっては、貴族に対してのありのままの感情を吐露できるかもしれない仲間が増えたという喜びでもあった。

 

 

「パルメーラさんはかなり遠いところから来たって聞きましたけど、良かったらどんな旅をしてきたか教えてもらえますか?」

 

「ああ、そうだな。俺からも、良かったら、冒険者のことやこれから受ける任務とか、この国のことなども教えて欲しいと思っていたんだ。まずは俺からだな…俺が元々いたところは…そうだな、生まれたところはあまり自然環境が良いところじゃなくてな…」

 

 

 

まるで『漆黒の剣』に新たな仲間が増えたような、少しワクワクする感覚があった。

彼の境遇が似ているから、というだけではなく、一見取っ付き辛い印象の外見の彼が、話してみると意外と気さくであるという事も原因かもしれない。

僕だけでなく、チームの皆も気さくに話しかける。

 

そう言う訳で、僕たちの乗った乗合馬車はリ・ウロヴァールへ向けて楽し気に出発した。

だから僕たちが出発したおよそ5日後、ちょうどリ・ウロヴァールでの任務が始まったころに、リ・アレクサンデルが、正確に言うとアレクサンデル男爵家が、大変なことになっていたなどと、かなり後まで僕は知ることは無かったのである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

アレクサンデル男爵家の中に通されたパルメーラは、粗末な待合室に案内されて、今は“待ち”の状態である。

この時間が発生している要因は、一つはプライドが高い貴族が、客人を待たせることで自身の位の高さを見せつけるという幼稚な考えがあり、もう一つは、依頼に応じた冒険者がたった一人であったという事で、やはり軽い癇癪を起した主の機嫌が直るのに時間がかかったという下らない理由である。

 

飲み物を出されるでもなく、ただ部屋に放置されたパルメーラは、100レベルの悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)の戦士という、極限の存在としての感覚を開放し、周りの音や気配を探っていたが、一向に誰も来ないし、そもそも周囲に誰もいないという事でそろそろ飽きてきていた。

 

そこで彼は『あ、悪魔に戻ればスキルで影の悪魔(シャドウ・デーモン)を召喚して、この屋敷の隅々を調べられるな』と考えた。

悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)は人間種であるため、悪魔の召喚はできない。代わりに悪魔や敵対する天使などの気配をかなり鋭敏に察知するとともに、悪魔種に好かれヘイトを買いにくいが一方で天使のヘイトを買いやすい“悪魔の祝福”というスキルを持っている。

 

ただ、この屋敷にはそのスキルに引っかかるような存在は無かったし、レベル100の感覚では敵になるような存在も感知できなかったので、特に警戒することもなく指輪の効果をオフにして『大厄災の魔』である山羊の姿に戻っていた。

 

そして速やかに影の悪魔(シャドウ・デーモン)を数体作り出すと、陰に潜ませながら屋敷に散らばらせていった。

2体だけは現在の自分の影に潜ませている。

 

そこでウルベルトはある事を疑問に感じた。

今この状態で、指輪を使い“パルメーラ”に戻った場合、この影の悪魔(シャドウ・デーモン)はどうなるのか、という事だ。

まだ部屋に遣いが来る様子はないので、一旦“パルメーラ”に戻ってみる。

しかし、自分の影の中の2体だけでなく、すでに屋敷に放った数体とも繋がっている感触があり消えてはいない。

ただ、やはり人間種の状態で新たに作り出すことはできないようだ。

 

一瞬本来の悪魔に戻ったことで思考レベルが上がり、未知のマジックアイテムや感知できないほどの高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の存在を考えていなかったことに思い至り、先ほどの特に警戒もせず本性を出している状態は軽率だったと反省し、それ以降は人間種のままでの影の悪魔(シャドウ・デーモン)を通じた調査に切り替えた。

 

 

領主と思われる男の部屋は簡単に分かった。

最も屋敷の高層フロアにある最奥の部屋だけは、扉も含めて豪華な装飾がなされている。

豪華といっても、ナザリックと比べれば大したことはないし、飾りも悪趣味で成金的な雰囲気があり、美的センスというものは感じられなかった。

 

その扉の隙間にするりと体を滑り込ませて侵入し、調度品の影を伝って中心の椅子に腰かける男の影に入りこむ。

送られてくる映像のイメージによって、男の豚の様に肥え太った様と、つい先日、ペナルティとして指を落としてやった愚か者に似た面影を見て取れた。

はやりこいつが、あの愚か者が口にしていた『父上』だろうか。

 

 

「えーい、クソが!!たった一人だと?!わが高貴なる者からの招集になぜ進んで身を捧げない?!光栄であるという事が分からぬのか!!」

 

「御当主様、そのようなことは決して。ただちょうど冒険者への依頼としてリ・ウロヴァール領で増え始めているモンスター被害の対処というものがありました。これは国王陛下からの依頼という事で、冒険者たちはこちらを優先したと思われます…」

 

 

初老の執事と思われる男性が、必死に豚に釈明している。

 

 

「ああ?国王からの依頼だと?あの無能め…さっさと殿下かボウロロープ侯に譲って隠居すればいいものを…そうすれば俺も六大貴族の一人に…クソッ……まあいい分かった。その唯一来たという(カッパー)の平民にはお前が対応しろ。うまい事話をつけて、鍵のかかる牢部屋へ放り込んでおけ。多少傷つけてもかまわん。むしろ暴れたという証拠になるだろう」

 

「御当主様、その…その冒険者を捕まえてどのようにされるのですか?何をもって罪を問えばいいのでしょうか?」

 

「はあ?貴様よく考えろ?!ローレンが死んだのだぞ?!領民に何て説明するのだ!次男のリュドに継がせるにしても、理由が必要だろうが。いいか、ローレンは獣に襲われて死んだのではなく、暴漢から家臣を守ろうとして名誉の戦死を遂げたのだ。その犯人がのこのこ戻ってきたから捕まえるんだ。分かったか?!!」

 

「はっ…畏まりました。寡聞にして浅慮のためそのような事実に気が付きませんでした…それでは冒険者のもとへ衛士団を向かわせます」

 

「ああ、それでいい…そうだ、少し疲れたな。夕食の前に“部屋”にアレを連れてこい。一番新顔のが良い」

 

「……畏まりました」

 

 

初老の執事は主の部屋の扉を閉め、一つため息をつくと、待機していた別の者へ告げる。

 

「御当主様は女をお望みです。最近連れてこられたあの娘を例の部屋へ連れて行ってください…それと、先日の様にひどい傷が残っては可哀そうだ…“終わった”あと、治癒魔法をかけてあげる様、治癒師も待機させておいてください」

 

「畏まりました」

 

執事はため息をもう一つつくと、衛士たちの部屋へ歩を進めた。

 

 

 

 

5人の衛士たちは、その冒険者が待機しているという待合部屋の戸をノックした。

中から男の返事があった。

衛士の代表の男が扉を開けると、銅級(カッパー)のプレートを首に着けた、黒髪黒目の男が、微笑を浮かべながら礼儀正しくお辞儀をする。

 

衛士の男たちは、いつものことながら暗い気持ちになる。

事情を知らない、おそらくは善良な者を、これから虐げ、罪を着せる必要があるからだ。

 

「御当主様がお話をされるという事です。私たちに着いてきていただけますか?」

 

「それはそれは。ではよろしくお願いいたします」

 

衛士たちはさりげなく冒険者の男を取り囲む陣形を取り、部屋を出る。

そしてこれから向かうのは、領主の部屋でなく地下の牢屋だ。

『出来ることなら攻撃したくない。途中で気づいて暴れないでくれ』

そう祈りながら階段を下りていく。

冒険者の男がふと、思いついたように喋る。

 

 

「領主様の部屋は地下にあるのですか?」

 

「あ、いや。そう言う訳ではないのだが、地下に執務をされる部屋があって、そちらにお連れするようにとの仰せなのです」

 

「成程」

 

 

質問をされた衛士は『気づいてくれるな…』ともう一度祈る。

しかし、次に冒険者の男が想像もしていなかったことを口走る。

 

「地下には、性奴隷として連れてこられた少女の部屋しかないと思っていたのですがね」

 

 

「き…貴様なぜそれを!」

 

 

瞬間、冒険者の後ろにいた衛士が持っていた槍で男の足を突こうとしたが、槍は男に触れることなく弾かれた感触があった。

よく見ると男の足は毛むくじゃらで、先ほどとは異なるローブを纏っている。

 

「やはり知っているな。お前たちは有罪だ。魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)集団人間種魅了(マス・チャームパーソン)

 

衛士たちが意識を手放す前に見たものは、酷薄な笑みと抑えきれない憤怒を同時に湛えた山羊顔の悪魔であった。

 

 

 

 

 

グリーデン・ヴェレン・クィリィ・アレクサンデルは地下の隠し部屋への道を歩く。

行先の部屋は、奴隷部屋と繋がっていて、速やかにお気に入りの奴隷を連れてくることができる。

しかもその部屋は地下であることから、どんなにそれが泣き叫ぼうとも声が漏れることはない。

お抱えの商人から購入した、選りすぐりの道具や薬も揃っている。

 

 

グリーデンは舌なめずりをし、下腹部が熱くなるのを感じる。

部屋の前には5人の衛士と1人の回復術師(ヒーラー)が待機していた。

衛士たちは、冒険者の誘導を完了した旨を速やかに伝えた。

回復術師(ヒーラー)は、執事から呼ばれて、あまりに傷ついた際に回復をかけて壊れないように待機していると言った。

確かに前回の娘は、裂けてしまって回復が間に合わず死んでしまったことを思い出した。

 

 

部屋に入ると、金髪碧眼の娘が薄い布をかけられ、ベッドで震えている。

年齢の頃は10歳前後か。

好みの年齢と外見、そして仕草に、グリーデンは速やかに人払いを済ませると、その巨体をベッドにのしかからせた。

 

怯え切って涙を浮かべた娘の顔を舐めまわすように確認し自身の下半身の衣服を脱いだ瞬間、違和感を覚えた。

 

娘の涙でぬれた眼が、動物の様な毛むくじゃらの掌で隠された。

そして聞き慣れぬ声。

 

「お前が見るものではない。睡眠(スリープ)

 

 

そして下腹部に感じる熱感。

しかしそれは、いつもの高揚感を伴う熱感でない。

 

 

のしかかったベッドが赤く染まっていく。

 

「今までで最も汚いものを切り落してしまったようだ。このナイフは廃棄決定だな」

 

そう言うと、いつの間にか娘はおらず、目の前に山羊の顔。

 

静寂(サイレンス)

 

山羊の顔のおそらく悪魔がそう呟くと、声を出したくても声が出ない。

下半身から襲い来る痛みに耐えられず体が震える。

 

麻痺(パラライズ)。この部屋にはちょうどいいものがあるようだ」

 

そう言うと山羊の悪魔は、グリーデンを張り付け台の様な木の板に括り付ける。

その板は、本来は娘を括り付けて動けないさまを楽しむものだった。

 

そこでちょうど、先ほどの回復術師(ヒーラー)と衛士たちが入ってくる。

 

グリーデンは「助かった!」と声にならない声で叫び、「早くこの悪魔を排除しくれ」と心で叫ぶ。

 

次の瞬間、回復術師(ヒーラー)が回復呪文を唱える。

悪魔に切り取られた局部の傷がわずかにふさがる。

しかし失ったものは生えてこない。

 

 

「この者たちは、お前の罪を清算する手伝いをしてくれるそうだ。なに、5日ほど罪を清算する時間をやろう。この部屋は声が外に漏れないようだし、大いに叫んで懺悔してくれたまえ。それに、お前は少し太り過ぎの様だ。衛士に手伝ってもらい、少しずつ体を軽くした方が良い。その回復術師(ヒーラー)はたいして高度な呪文は使えないようだが丁度いい。お前が意識を手放さず、ちゃんと懺悔を続けられるよう手助けをしてくれるだろう。まあ、私の予想では5日程度では、お前の罪を洗い流すことはできないだろうが…残りは地獄で懺悔を続けるとよい」

 

 

グリーデンは痛みと恐怖と混乱で、悪魔が言っていることをすべて理解することはできない。

ただ、周りに控える衛士たちと回復術師(ヒーラー)の目がぼんやりと光っており、どこか上の空の様な顔をしていることがさらに恐怖に拍車をかける。

 

「そうそう、これはサービスだ。第7位階悪魔召喚擬態の悪魔(サモン・デーモン7th・イミテーター・デビル)

 

闇の中から、顔のない人形のような異形が現れ、瞬時にその顔はグリーデンそっくりになる。

 

「この子は人に擬態するのが得意な悪魔の僕だ。二重の影(ドッペルゲンガー)ほどの擬態能力は無いが、5日ほどならば問題なく成りすましてくれるだろう。擬態の悪魔(イミテーター・デビル)よ。5日後、この豚の懺悔の舞台が地獄へ移ったら、この屋敷にいる全ての者を豚と同じ場所へ送る役目を与える。その際は、まずこの衛兵の一人に化け奴隷の少女たちを教会へ届け、その後本物の衛士は“狂を発した主人を命がけで止めた”と見えるような死体にしなさい。それ以外の者の殺し方も、人間に可能な方法で行う事。奴隷の少女たちはこれから私が記憶を消すので、教会へ連れていくまでの5日間は食事等を与え介助すること」

 

 

山羊の悪魔はすらすらと命令を下し、擬態の悪魔はグリーデンの姿のまま、跪く。

山羊の悪魔の説明後、擬態の悪魔は先に階上へ登っていく。

山羊の悪魔は最後に、縛られた本当のグリーデンに向かって恐ろしく優しい口調で呟く。

 

「それでは、麻痺と静寂を解いてあげましょう。麻痺で多少まぎれていた痛みはここからが本番ですよ。声も出るようになりますから、思う存分鳴きなさい」

 

 

そう言うと悪魔は階上に消え、絶望の扉が閉まった。

 

 

 

5日後、ぼろぼろの衣服をまとった6人の娘が、これまたぼろぼろの鎧を着た衛士に連れられ、教会に保護される。

衛士は「まだやり残したことがある」と告げ、急ぎ教会を後にした。

 

その日の夕方、いつもの様に食材を届けに来た商人が領主の館の扉をいくら叩いても返事がなく、不審に思った彼は教会と冒険者組合へ通報し、事件は発覚する。

 

狂を発した領主が、屋敷の中の者に次々に切りかかり、衛士がやむをえず応戦。

衛士のうちの一人が、人道的判断から、領主が違法に所持していた奴隷のみを速やかに教会に保護させ、自身は同僚とともに討ち死にしたという事が分かった。

これは保護された奴隷の少女たちの証言もあったが、彼女たちはおそらく恐怖から皆記憶があいまいで、その後は、神殿勢力によってメンタルケアが為されることになった。

 

その後、無人となった、リ・アレクサンデルの領主屋敷には、中央から何度か新しい領主が送られてきたが、その領主が悪政を敷けば、同じように不幸な事故や発狂といった事態に見舞われた。

最終的には、エ・レエブルを収める領主の親戚筋に当たる者が領主となり、以降はこのようなことは起こらなくなる。

 

人々は、旧アレクサンデル屋敷には不正を許さない影の存在が目を光らせていると噂をし、これを『リ・アレクサンデルの怪』として、子供たちに“誰も見ていない所で善行を行う事こそが大切”ということを教えるための寓話として語るようになるのだった。

 

 





ブチ切れ凌遅刑で、期間は自身やニニャに万が一でも疑いがかからないよう、5日間としました。
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