オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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リ・エスティーゼ王国は後に『寓話の国』と言われるようになったとかならないとか…

しばらくは漆黒の剣との旅が続きます。


第2章 第6話 -漆黒の剣-

 

「そういえば、皆のチーム名はどういう理由で『漆黒の剣』なんだ?誰も黒い剣を持っていないように見えるが?」

 

 

馬車の中で、パルメーラが思いついたように問うた。

 

 

「あーそれは…はは若気の至りといいますか」

 

ニニャは苦笑いを浮かべる。

一方でペテルは、カバンから小さな黒い短剣を取り出す。

 

「これさ。パルメーラさんも13英雄の『黒騎士』が持っていたという4本の魔剣って知ってるだろ?」

 

「13英雄…?すまない、俺の国では聞いたことが無かったな。おとぎ話か何かか?」

 

 

漆黒の剣の一同は、皆『えっマジこの人?』という顔を浮かべた。

ウルベルトは心の中で、しまったな、と思う。

どうやらこの話は元のリアルで言う『桃太郎』みたいな話かもしれない。

何とか取り繕うため、必死で話を合わせる。

 

 

「いや、その、俺の住んでいたところはかなり辺境というか、それこそこの国と文字も違うレベルだからな。申し訳ないけど、本当に知らないんだ」

 

「まあ、パルメーラさんの様子を見れば文化圏が違うの良く分かります。これは僕の若気の至りなので正直恥ずかしいのですが…」

 

ニニャは自身が知る『13英雄』の伝説と、その一人『黒騎士』が持っていたとされる4本の魔剣の説明をする。

その説明を聞いたことで、ウルベルトは2つのことに思い至る。

 

まずは、今のところ人間種しか見ていないこの世界にも亜人種や異形種も普通に居て、場合によっては一緒にパーティー組んでるんだ、という感想だ。

『黒騎士』はどうやら悪魔のハーフっぽいと言われていて、ウルベルトの中で悪魔とのハーフは『ネフィリム』とか『カンビオン』の様な種族であり、これはユグドラシルでは異形種扱いだったからだ。

 

そしてもう一つは、『黒騎士』ってなんか俺の設定そっくりじゃね?ということだ。

まず自身が指輪の効果で選択した種族は悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)でこれは人間種ではあるが“悪魔の末裔の人間”である。

また『黒騎士』はどうやら話を聞く限りでは職業は暗黒騎士(ダークナイト)かカースドナイトっぽいので、これも自身にかぶる。

そして自身も同じく黒い魔剣を持っている。

ちなみにこの剣は対たっち・みーとして、武人武御雷と作ったガチ仕様で、神器級(ゴッズ)アイテムである上に、相性がいいWIの『幾億の刃』をエンチャントしているというとんでもない代物になっている。

 

 

ウルベルトは、そもそも現時点で、この世界のことを正確に把握できていない。

『漆黒の剣』が自分よりずいぶんと弱いことは分かっているが、“そういう駆け出しもいる”という認識だし、他のAOGギルメンが来ているかもとか、他のプレーヤーが来ているとかも考えていないし、NPCと一緒に転移したわけでもないので、まさかこの世界ではNPCが動き出しているとも考えていない。

 

なので、『13英雄』の中にプレーヤーがいるかもとか、『魔神』がNPCだとかという可能性に気づけていない。

 

なお、この世界に来てからすでに数日経過しているにもかかわらず、リアルの自分が餓死等で死んで接続が強制終了という事態が起こっていないことから、もうこれは夢なのか、あるいは良く分からないけど今自分はここで生きている、という事を何となく受け入れている状態だ。

 

そう言う訳で、人間の精神と人間の常識で考えてしまっている彼は、本来の中二病な性質も相まって、仲良くなってしまった『漆黒の剣』に得意げにそれっぽく語る。

 

 

「成程な…その“黒騎士”はもしかしたら俺と同郷かもしれんな。実を言うと俺の故郷には様々な人間種や亜人種、異形種が共に暮らしていて、俺も人間ではあるが遥か昔に悪魔と交わったと言われる、“悪魔の末裔”だ。俺の職業も“暗黒騎士”。そして俺が持つこの魔剣は名を悪剣:ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)」という。その“黒騎士”の剣とやらも俺と同じ起源かもしれんな…」

 

 

『漆黒の剣』は一瞬押し黙る。

伝わる黒騎士の剣は4本。魔剣・キリネイラム、邪剣・ヒューミリス、腐剣・クロコダバール、死剣・スフィーズ。

このうち魔剣・キリネイラムはとあるアダマンタイト級冒険者が所有していて所在地が判明しており、この伝説がおとぎ話の類ではないことを証明している。

そこに悪剣・オリジンオブエロヒムという5本目の存在が、目の前の、人は良さそうだが少々怪しい戦士から告げられる。

 

ニニャも『若気の至り』と言う通り、このお話は真実であると同時に、夢見る少年少女には人気のおとぎ話でもある。

 

それらから『漆黒の剣』の4人は、このパルメーラという男が、“ちょっとイタい人”なのか“伝説の剣士”なのか判別できないのだ。

 

普通に考えれば今まで聞いたこともなかった5本目の“漆黒の剣”は、なぜ今まで噂すらなかったのかという点からも怪しすぎる。

しかし、魔剣、邪剣、腐剣、死剣と来て、『悪剣』は座りが良すぎる…

というかこのパルメーラという男がこんな大マジに夢物語の嘘を語っているようにも見えない。

 

少しの沈黙の後、意を決してペテルが質問をした。

 

 

「その、パルメーラさん。4大魔剣はそれぞれ得意な能力があると伝わっています。その悪剣・オリジンオブエロヒムにも特殊な力があるのですか?」

 

 

なんか食いついてきたペテルに、パルメーラはニヤリと笑い答える。

 

「フフ…ああ、ある。奥の手でもあるから全てを説明するわけにはいかないが、そうだな…まずこの剣は天使や聖騎士などの“聖”の属性の者に対してクリティカルが出やすくなっている。それと…これはランダムなのだが、この剣による攻撃は稀に複数攻撃になる。分かりやすく言うと、一振りが無数の見えない剣による複数の剣撃になる。」

 

「それが事実ならスゲーな…」

「さすが…魔剣の一振りである…」

 

「ああ、俺はこの剣の特性によって何度も助けられた。切り札であるから他の誰にも言うんじゃないぞ?」

 

パルメーラの言う効果は、前半はともかく、後半の複数攻撃というのは凄まじい。

何本の剣線が出るのかは分からないが、例えばそれが10本も出ようものならば、戦局を一気に覆しかねない。

もちろん、彼が言うことが事実ならば、の話だが。

 

ニニャは、自身の『若気の至り』の件もあり、パルメーラの言う事はさすがに盛っているだろうと考えていて、まるでかつての自分を見ているような、言うなれば観察者羞恥の様な、どこかいたたまれない気持ちになった。

 

そして心の中で密かに、

『この人はちょっとアレなとこがあるみたいだから、僕がうまく誘導して恥ずかしい思いをさせないようにしてあげよう』

と考えたのだった。

 

 

ちなみに、悪剣:ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)はいくつかの特殊効果を持つが、その一つに、相手がカルマ値“善”になるほどダメージが増し、逆に“悪”になるほどダメージが減ってしまうという効果がある。そして、ウルベルトが得意げに説明したように、天使・聖騎士等の“聖”の特性に関連する職業の者には追加ダメージが入る。

これらの効果は完全にたっち・みーを意識している。

ただ、カルマ値“悪”にダメージが入りづらいという仕様は、多くの場面で不利になる可能性があるので、これらの効果はオンオフの切り替えができる。

 

加えて、“攻撃が複数攻撃になる”というのも事実ではあるが、こちらはWI『幾億の刃』の効果である。

『幾億の刃』は“幾億シリーズ”の一つで、例えば『幾億の刃』であれば剣による攻撃が、『幾億の矢』であれば弓による攻撃が、ランダムで複数攻撃になるというものである。

ただし複数攻撃になる対象は、無属性の普通攻撃かつ、一定の攻撃力以下のもののみであり、毎回必ず複数攻撃になるのではなく、ランダムに複数攻撃になるというものだ。

従って『幾億の刃』をエンチャントしたハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)がその特性をオフにしている状態かつ、かなり手加減をした弱攻撃をした場合、ランダムで複数攻撃になることがある。

 

WIとしては効果が弱いと思われるかもしれないが、複数攻撃の回数は“×5千回~×5億回からランダム”というとでもない代物で、シンプルゆえにとてつもない攻撃をたたき出すことがある。

 

このWIは、たっち・みーのような攻撃に特定の効果を持たせることで非常に強くなる職業(例えば次元切断(ワールドブレイク)は特殊技術)には相性が悪く、長らくAOGでも死蔵されていたのだが、暗黒騎士(ダークナイト)となったウルベルトによって、最後の一年に非常に有効活用され、とある新しいWI取得にも役に立った。

 

その縁で最終日に彼が持っていたのだが、この世界のことをちゃんと理解していない“パルメーラ”は非常に迂闊にその効果を喋ってしまっている。

まあ、まさか『漆黒の剣』も一撃が最大五億撃になるとは夢にも思っていないが。

 

 

 

そんな話をしつつ、馬車はリ・ウロヴァールを目指して進んでいたのだが、その道も後半に差し掛かったところで、馬車は運悪くモンスターの群れに出くわしてしまう。

 

まず気づいたのはルクルットで、何かを探る顔になったかと思うと、手を上げて他の皆は黙るようにジェスチャーをした。

そしてそれから1分もしないうちに、突然乗合馬車が止まり、御者の男が慌てて中の5人に声をかける。

 

「冒険者の皆さん、すまないがモンスターの群れが近づいている!前を走る馬車は既に戦闘を開始していて、モンスターの多くはこの馬車にも近づいている。契約に従って戦闘をお願いしたい!!」

 

 

“契約”とは、そう言えばこの馬車に乗るとき、冒険者は運賃が安くなる代わりにモンスターや野盗に襲われた場合に戦闘を肩代わりすると言っていたアレか…とパルメーラは思い出していた。

そもそもパルメーラもとっくにモンスターの群れには気づいていたが、あまりにもザコ過ぎるので、全く以て脅威とは考えておらず、特に何も言っていなかったのだ。

 

 

「行こう、皆!」

「ああ、この速度だと50秒で接触だ!」

「いつも通りの作戦でいくのである!」

「皆、馬車から降りたら支援魔法をかけるから一か所に固まって!」

 

4人のチームワークに、パルメーラは『ほう…』と少し感心した。

そして、自分も参加した方がいいかな?と考え馬車を下りたが、ペテルがすかさず、「パルメーラさんは御者の方を守ってください!」と言って来たので、それに従いながら彼らの動きを観察することにした。

 

ゴブリン、オーガといったモンスターと魔狼(ヴァルグ)の様な獣の群れが混在した相手であり、『漆黒の剣』は、ダインの足止めとニニャの魔法で敵と距離を取りつつ、ルクルットが遠距離、ペテルが近距離と、危なげなく数を減らしていく。

 

しかしそれを見ていたパルメーラの感想は、『こいつら何かの縛りプレイをしているのか?』というものだった。

 

本来は極限の魔法職であるパルメーラからすれば魔法詠唱者(マジック・キャスター)らしきニニャがどのような呪文を使うかちょっとワクワクしていた。

明らかに鬱陶しいザコの集まりだし、そういう時は攻撃範囲が広い中程度の魔法で一掃するというのが、彼の中のセオリーだったからである。

 

最後まで御者を守る位置に立ちながら見ていたが、戦闘後の彼らは非常に息が上がっていて、それが演技にも見えない。

馬車に戻ったが、彼らが経験値上昇のために能力がダウンするような枷のアイテムを使用しているようにも見えない。

 

御者の男は、『漆黒の剣』とついでに自分へ、心から感謝しているようであり、『一緒でなければ確実に死んでいた』とまで言っていた。

 

ここに来て初めてパルメーラは、『もしかしたらこの世界の人間は皆レベルが低いのでは?』と感じ始めた。

 

ここまでの馬車の中の会話で、彼らは“冒険者は全部で8段階のランクがあり、自分たちは下から3番目、やっと一人前になってきたところ”と言っていた。

しかし、現在戦士職のパルメーラの目から見て、何となくレベルを推察できる戦士のペテルは精々10レベルいかないくらいと言ったところ。ニニャも先ほどの戦闘では第2位階までしか使用していない。

まさかとは思っていたが、彼らの感想から、これはブラフでもなんでもなく、彼らは10レベル前後の集団という事だ。

そしてそのような集団が下から3番目となると、その下の2段階は存在する意味があるのだろ言うか?という疑問がわいてくるし、最上位もそこまで高いとは思えない。

 

そう考えると、こいつらさっきのモンスターの群れに良く無傷で勝ったな、とも思う。いずれにしろ、パルメーラは自身の考えに信ぴょう性を持たせるため、戦闘後、馬車の中の『漆黒の剣』が落ち着いたところで思い切って聞いてみることにした。

 

 

「ちょっと聞きたいんだが…もし差し支えなければ皆のレベルってどれくらいだか教えてもらってもいいか?」

 

 

パルメーラの質問に『漆黒の剣』はキョトンとした顔になる。

パルメーラも、強く聞き出すのは気が引けるので黙っていると、ニニャが『漆黒の剣』のメンバーが疑問に感じたことを代表して質問する。

 

 

「あの…すみません。“レベル”とは何でしょうか?パルメーラさんの国の言葉ですか?」

 

 

パルメーラは『え?そこから?!』とショックを受けたが、よく考えたら、ニニャが言ったようにここでは異なる言葉で強さを表しているのかもしれないと思い至った。

 

 

「ああ、すまん。俺の国の言葉だったな…えーと、強さを表す指標みたいなもんだ。強くなるほど数値が上がっていく指標だ…何て言いかえればいいのか…」

 

「ああ、難度のことですかね?難度でしたら、僕たちはそうですね…難度20くらいのモンスターでしたら危なげなく倒せると思います。さっきのモンスターの群れで一番難度が高かったのはおそらくオーガで、奴らは最大でも難度20くらいと言われていますが」

 

 

「成程…」

 

 

パルメーラは頭の中で計算する。

さっきのオーガはユグドラシル基準で言えばレベル6程度。

平均レベル10が4人のパーティーが問題なく倒すとなると、精々レベル12くらいまでか…

ペテルを基準に考えるとあいつは多分レベル10くらいだから、計算は合うな…そうなると難度ってのはレベル×3くらいか?

 

 

「ちなみに難度30の敵は倒せるか?」

 

 

その質問にはペテルが答える。

 

「難度30となると、敵が1体かつこちらが万全ならば行けるかもしれないが、複数いたらまず戦わずに逃げたほうがいいな」

 

 

「ふむ…ちなみにアダマンタイト級のやつらって難度幾つまで倒せるんだ?」

 

 

今度はニニャが答える。

 

「正確には分かりませんが、王国のアダマンタイトチーム:『青の薔薇』は難度83のギガントバジリスクを倒したと聞いたことがあります」

 

「そうか…」

 

 

ペテルやニニャからの情報から、この世界の冒険者は最高ランクでレベル30にも到達していない可能性があるという事だ。

もっと問題なのは、目の前にいる『漆黒の剣』は下手したら平均レベル10にも達していないという事だ。

こんなんでドラゴンにでも会ったらどうなるというのか。

 

既に2日ほど一緒にいて、中二な会話もイケる上に、自身と同じように支配者層に対して恨みがありうそうなニニャという存在がいる『漆黒の剣』に愛着が湧き始めていたパルメーラは心の中で決意した。

 

『どうやってこいつらを鍛るか考える必要があるな…』

 

 





パルメーラ「そもそもこのメンバーが魔剣を4本入手したとして、戦闘で使えるのはペテルだけなんじゃないのか?」

ニニャ「もうその話はしないでくれますか?」
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