オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
自身のことを『ゴンド・ファイアビアド』と名乗ったその
曰く、自分には才能がない。
曰く、ルーン技術はいずれ滅びる。
曰く、自分はいなくなってもいい存在だからこの役目に選ばれた。
等々…。
パルメーラは正直結構うざいなと思っていたが、組織の歯車として最下層で働く者の気持ちは痛いほどわかるので、結構同情的な言葉もかけていた。
「なあゴンド、いい加減涙拭けよ…確かにな、最下層で働くってのがキツイのは良く分かる。だが、昨日から摂政会とやらの奴らと話したが、あいつらは何て言うか特権階級みたいな雰囲気は無かったぞ。お前は知らんかもしれないが、人間にはな、何の取柄もないくせに貴族とか特権階級に生まれたってだけで、他の人間を平気で殺したり奴隷にしたりする莫迦どもがいるんだぞ。それよりはマシだと思うぞ?」
「いや…そうだな。すまんかった。なんかアンタは話しやすいからつい愚痴ってしもうた。あんたもこんな斥候みたいなことさせられて、他の奴らはまだ寝てるって話だったから、チームの中では下っ端なんだろうな」
「うーん…まあ新入りなのは事実だが、あいつらは昨日の戦闘の疲労でまだ起きられないってだけで、逆に俺はこの仕事をやるのに適しているから斥候をしてるんだ。なんつーか人は適材適所ってのがあって、例えばチームの中で一番強いやつがギルマス…リーダーに適しているかって言うと、それも違う。お前もお前にしかやれないことがあるんだろうからそれを探すべきだ」
「ああ…アンタの言うとおりだな。儂はルーン工匠としては無能なんじゃ。それは間違いない。でもアンタの言う通り儂にできることを探すようにするよ」
「そうだぜ。それに俺は今回の同行者に“口が堅いやつ”を指定した。お前は口が堅いんだろ?」
「ん?ああ、まあ言わないと約束したことを漏らすほど愚かではないが…」
「じゃあ、ここから俺はお前に、俺の仲間にも見せていない魔法を幾つも使うところを見せる。これからのことは誰にも言わないでほしい。一旦目をつぶって向こうを向いてくれないか?」
ゴンドが後ろを向くと、パルメーラは黒山羊の本性を現す。
「今から俺は、完全に姿が見えなくなる魔法を使う。ここから先は俺はお前を抱えて飛行しながら、お前の指示に従って進む。ここから先は溶岩地帯だという事は知っているから、お前に熱や冷気、毒、麻痺と言ったあらゆる耐性も付与する。だから安心して最短ルートを指示してくれ。俺の声は聞こえなくなるが、俺はお前の声が聞こえているので安心して指示をしてくれ」
そして速やかに
ゴンドが許可を得て振り返ると、そこには誰もいない。
しかしそのすぐ後、見えない何かに抱きかかえられる感覚があり、自身が宙を浮かんでいることに気づいた。
全ての難所を越えて、フェオ・ベルカナに続く道に到着したのはそれからわずか2時間後の事である。
***
現在、パルメーラとゴンドは、フェオ・ベルカナの街を上から見下ろせる坑道の中にいる。
フェオ・ベルカナには聞いていた通り、フェオ・ライゾの数倍の数のクアゴアがいるのが確認できた。
1時間ほど様子を見ていると、明らかに体毛の異なるクアゴアの個体が現れ、赤や青の体毛の個体に何かの指示を出している。
パルメーラがざっくり確認したところ、レベルは30後半で40には届いていない感じだ。
高い確率であいつが“王”だろう。
レベル的に『漆黒の剣』にはキツそうだが、ここにいる数万と思われるクアゴアを討伐させれば行けるかもしれない。
その後は嫌がるゴンドを無理やり引き連れ、
ここまでの道のり、クアゴアには2回ほど出会ったが、いずれもサクッと殺し、
ゴンドの装備やレベルから考えると、万が一出合い頭ブレスなどを食らったら即死する可能性が高いので、ゴンドはここで帰すことにした。
「ゴンド、ここまでありがとうな。俺は一応ドラゴンを確認してから帰るから先に帰ってくれ」
「いや…儂一人で帰るのは不可能なんじゃが…」
「分かってるよ。また目をつぶってあっち向いてくれ」
「う…うむ」
速やかに黒山羊化し続けて
「この楕円の闇をくぐれば、フェオ・ジュラに続く道に出るようになっている。もちろんこの魔法のことも言うんじゃないぞ」
「なんじゃこれは…大丈夫なのか?いや、ここまでのアンタの魔法とか戦闘見て信じない訳にはいかんな…」
そう言って
「ここまで助かった。それと確かお前はルーン技術の復活が夢とか言ってたよな。俺たちがこのフェオ・ベルカナを奪還して、昔の技術書みたいなもんが見つかったら研究してみろよ。お前自身が出来なくても、他にできるやつとか、お前の子供とか、できる奴探してな」
「アンタ…確か仮にフェオ・ライゾを奪還出来たら宝物はアンタ達が持ってくと聞いていたが?」
「まあそういう話だったが、ルーン武器の技術書なんざ俺らが持ってても意味ないだろうからその辺はお前が使えばいい」
「そうか…夢みたいな話じゃが希望が持てたよ。ありがとうパルメーラ殿」
そう言うとゴンドは、約束通りウルベルトの姿は確認せず
ゴンドがパルメーラと会話を交わすのは実はこれが最後であった。
しかし、最後に交わしたこの言葉は、ゴンドの『ルーン技術開発家』としての闘志に確かに火をつけたのだった。
「さて…」
幾つかの部屋に、ドラゴンが1匹ずつ。
どれもレベルは30前後だった。
1匹だけ眼鏡をかけた変なドラゴンが居て、こいつはレベル20台前半だった。
そして、王の間と思われる門を開けるとそこには4体のドラゴン。
昔話とかファンタジーの設定どおり、金貨や財宝の上に座っている。
レベルは真ん中の奴が40台後半、他が40台前半だった。
この真ん中の奴が多分王だろう。
なんか王冠かぶってるし…
それにしてもドラゴンなのにレベルが低すぎる…
試しにかなり接近してみたが気づかれる様子は全然ない。
鍛えまくれば『漆黒の剣』でも行けるんじゃないか?と悪い考えが浮かぶ。
ただ、こいつらの攻撃手段は確認しておきたい。
ウルベルトは悪魔召喚で、炎系魔法を使えるレベル30程度の下級悪魔を召喚し、自身が指示をしたタイミングで炎系魔法で攻撃することと、可能な限り逃げまわり時間を稼ぐことを伝える。
「なんだ貴様は!どこから入ってきた!!」
「こいつ悪魔の様ですよ!」
「王城に入ってきたことを後悔させてやる!くらえ!」
真ん中のドラゴンが叫ぶと、周りの3匹が動き出す。
1匹が冷気のドラゴンブレスを吐く。
その後も、周りの3匹のうち2匹から何度かドラゴンブレスが吐かれるが、悪魔はうまい事躱す。
3匹のうち1匹は動かずにじっと悪魔の動きを観察している。
『よし、今真ん中のドラゴンに魔法を撃て』
そう伝えると、悪魔は指示通り、右手を上げて攻撃するモーションに入る。
すかさず、その手から余り威力は高くない
真ん中の竜は驚きの顔をした後、すかさず炎防御の魔法を唱えた。
しかし完全に防ぐことはできず、着弾した炎に苦しげな顔を浮かべる。
すかさず先ほど観察していた1匹が「今、皆でブレスよ!」
と叫ぶと、真ん中のドラゴンを含む3匹が一斉にブレスを吐き、レベル差もあった悪魔は消滅した。
戦闘後、観察していた1匹が、真ん中の王に第1位階の回復魔法をかけている。
『なるほど。参考になった』
そう心で呟くと、ウルベルトはそのまま難所を越えた先、フェオ・ベルカナの入り口手前の道まで戻った。
ウルベルトは考える。
あの難所は、人間である『漆黒の剣』には短時間で越えることができない。
短時間で、となると、先ほどゴンドに使った方法を試すしかないが、それをやると色々とばれるからダメだ。
となると、今いる位置までの別ルートを作らなければならない。
ウルベルトは山羊のまま考えたが、どうしても一つしか思いつかなかった。
仕方がなくウルベルトは、人間種のパルメーラになると、
そして西側を向いたかと思うと、手加減をしながら何度か壁をつつき始めた。
***
王国に2つしかないというアダマンタイトチームの一つである『朱の雫』のメンバーは、歯がゆい思いでアゼルリシア山脈をにらんでいた。
アダマンタイトの使命を果たすために、仲間の
そこで確認したのは
しかも統率個体と思われるものがそれぞれ複数いて、単体であっても討伐が難しい難度だったのだ。
最終的に
「アレに対処するには、俺たちだけではだめだ」
リーダーのアズス・アインドラが言う。
彼はチームの中では弱い部類だが、統率力と人間力に優れている。
アズスの姪は、彼同様にアダマンタイト冒険者チームとなっており、アズスの伝手で彼女らを呼ぶことができた。
アズスが特段、強い切り札を持たない一方、姪のラキュースは有名な4本の魔剣のうちの一つを持ち、力を完全に開放すれば街一つを滅ぼせるという話である。
ただ彼女らは、現在アンデット被害が増加しているリ・ロベルの先の砦に陣を敷いていたため、そこから駆け付けるにはだいぶ時間がかかってしまうだろう。
確かにアンデットとなれば、かのチームに属する伝説の“死者使い”リグリット女史の力が必要と言うのは理解できるのだが…
そう言う訳で現在『朱の雫』はアゼルリシア山脈の西端から、最も近い街との間の原っぱで強力なモンスターが現れないか見張っているのである。
それは、昼過ぎの事だった。
突如、視界の中のアゼルリシア山脈の一部から空に向かって30度ほどの角度で直線的な爆発が起きた。
遅れてくる凄まじい衝撃音。
考えられるのはモンスター同士の衝突。
それも
『朱の雫』のメンバーは皆、その爆発から相当な距離が離れているというのに、自然に臨戦態勢をとっていた。
しかししばらく待っても、モンスターは確認できない。
もしや自然的な火山爆発か?
そう思い始めた折、チームのレンジャーが呟いた。
「男が…剣を持った黒い男がいる」
アズスや他の者は目を凝らしたが、レンジャー職の者がギリギリ見える距離だったのだろう。
その方向を凝視しているレンジャーの男が、続きの言葉を紡ぐのを待つ。
しばらく後、男は『信じられないものを見た』と言った表情で説明した。
「あの爆発があった場所から、男が出てきたんだ。徒歩で、持っているのは黒い陽炎が立ち込めるような細身の長剣だった…男は剣を鞘にしまうと、こっちを見たんだ…そして、何の意図か分からないが、片手を頭に乗せ数回頭を下げた後、凄まじいスピードで走りだして、そこからは俺の目では追えなかった…」
後日、『朱の雫』はこの原因たる男に遭遇することとなる。
もしその遭遇が無ければ、この出来事は『アゼルリシア山脈の怪』と呼ばれていたかもしれない。
『ふう、これで道ができたな。ニニャにばれると怒られそうだから、火山爆発があったとか言おう』
『げ、見られたっぽいな…一応頭下げとこう…でも逃げたほうがいい…とりあえずダッシュでフェオ・ジュラに戻るか』