オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
蒼の薔薇は恐らく間に合いません。
「ちなみに第7位階まで使えると思うぞ。ニニャが今使っている魔法から考えるとおすすめは
目を丸くするチームメンバーを後目に、パルメーラは魔法の説明をペラペラ続ける。
そこで最初に意識が戻ったのはやはりニニャだった。
「はぁ…パルメーラさん。第7位階って本気ですか?」
「ああ、
「…まず、それが本当だとして、このことは『朱の雫』の皆さんも含めて、絶対に言わないでくださいね」
「ん?ああ、そりゃ本当の実力は隠した方がいいからな」
「はぁ…そうじゃないです。多分パルメーラさんはご存じないと思うので説明しますが、大陸の人間で最高の魔法使いと言われている人が第何位階まで使えるかご存じですか?」
「…え?」
ニニャのその物言いに、パルメーラは少なくとも第10とか超位とかじゃないんだなという事ぐらいは分かったので押し黙る。
あちら側から帰ってきたペテルが説明する。
「これは魔法職じゃない俺でも知っているくらい有名な話なんだが、大陸の人間で使用できる最高の位階は第6位階。2名いて、両方とも帝国に所属している。一人は帝国主席宮廷魔術師“逸脱者”フールーダ・パラダイン。もう一人は帝国魔法学院教授“大導師”アルシェ・フルト。普通の人間は第3位階に到達している人もまれだと聞く」
「…第7位階と言うのはその上です。少なくとも今生きている人間で第7位階に到達している人は聞いたことがありません。それこそ…13英雄の冒険譚の中の登場人物です」
「…そうなのか」
パルメーラは、今まで会った人間たちのレベルが異様に低いことは理解していたが、ニニャから聞いた13英雄の話はどうやら事実であるようだし、話の中の『天界から9体の女神を召喚して竜と戦った』という部分は良く知る超位魔法かなと考えていたので、“強いやつも探せばいるだろう”という理解だった。
そして、本来は魔法職であるウルベルト的には、魔法は第10位階が使えるようになってからが本番だという考えが強く根付いていたのだ。
「なんか…すまなかったな。ニニャの魔法については決して他人には漏らさないから」
明らかにシュンとなったパルメーラを見て『漆黒の剣』は少し焦る。
この男はちょっと…いやかなり常識が無いだけで、自分たちを最も効率よく強くなるように指導してくれていた訳だし、しかもその目的は恐らく、自身が『漆黒の剣』のメンバーに加わりたいという考えからきている。
やり方は少し…いやだいぶアレだが、おそらくは隔絶した強さを持つパルメーラからすると悪気があってやっている訳でないのだろう。
ニニャがふふっと笑った。
「パルメーラさん、別に僕は怒っていないです。むしろ僕たちはパルメーラさんに感謝しかない」
『漆黒の剣』の皆は頷く。
「第7位階…それが本当に使えるかまだ分からないですが、そこまで成長させてくれたパルメーラさんには本当に感謝しています。僕には…前に言ったと思いますが行方不明の姉がいる。僕はその姉を探すために強くなりたいと願っていたんです。パルメーラさんのおかげで僕の夢はかなうかもしれない…」
ニニャの事情を知っている『漆黒の剣』は、今度は目を閉じて静かに頷いた。
「ですがね、パルメーラさん、あなたはちょっと迂闊すぎる。あなたは…多分今の僕たちよりもはるかに強いのでしょう。だからあなたは、あなた自身がとてつもなく強いことをちゃんと理解して、慎重になる必要があります…それには、多分僕たちが力になれると思うんです」
ペテルが優しい笑顔でニニャの言葉に賛成する。
「ああ、そうですね。パルメーラさん、パルメーラさんのおかげで、俺たちはアダマンタイト級と言っていい強さになれたみたいです…その、これで共に戦っても、前ほどは戦力差が無くなったかもしれません。だからパルメーラさんが良ければ『漆黒の剣』に正式に加入していただけますか?」
「…いいのか?」
「もちろんだぜ!」
「で、あるな!」
「チームの総意で決定ですね!」
「そうか…皆、改めてよろしくな」
「ちなみに今後は引き続き、パルメーラさんは僕たちからこの国の常識を学んでいただきますので」
「お、おう。そうだな」
「で、パルメーラさん。本当は第何位階まで使えるんですか?もちろん他の誰にも言いませんので」
「あー…(この姿の時は)第8位階だ」
「「「8?!」」」
「はぁ…やっぱりパルメーラさんはとんでもないですね…でも第8なら僕はあと一つで並べるってことですね。じゃあ第8位階到達は、僕の生涯の目標にします。そしてもし到達出来たら…その時はパルメーラさんに色々と伝えることがあります」
「お…おう。まあ目標を持つのはいいことだな。だがなんか怖いな…」
長い旅でニニャの性別の件とか、復讐のためにすべてを捨てて戦っていることについて口には出さずとも気づいている『漆黒の剣』の3人は、ニニャの言葉に『あれ?』とか『おやおや』とか『そうであるか』とそれぞれ思うところはあったが、それについては引き続き気づかないフリで何も言わないことにした。
というか突っ込んだ場合、ニニャが怖いという予感があった。
しばらくの話し合いの後、『漆黒の剣』リーダーのペテルは、『朱の雫』リーダーのアズスに、合同でのモンスター討伐依頼の了承を伝えた。
ただし条件として、先の亜人との戦いで、主に魔法詠唱者の力が上昇し、新たな魔法が使えるようになった可能性があるから調整する時間が欲しいというものと、
『朱の雫』のメンバーは、彼らが新たな魔法を覚えたという事も驚きだが、すでにドラゴンの居住区に一度潜入しているという事実に驚愕するとともに、パルメーラと言う男の底知れない実力の一部を目の当たりにしていたため、特に反対することは無かった。
『漆黒の剣』は、2時間ほど演習をした。
この間にダインとニニャは新たな魔法を覚え、ペテル、ルクルット共に、この状態での戦闘訓練を行った。
今回もパルメーラは基本的には支援と作戦立案なので、戦闘そのものには参加しないが、彼の信じられない知識により、チームは以前は考えつかないような戦法を幾つも学んだ。
そして演習が終わったころ、パルメーラが代表して『朱の雫』に作戦を伝えた。
「よし、それじゃ大まかな説明をする。ドラゴンの難度と配置はさっき説明した通りだ。まずは気づかれないように個別の部屋にいるドラゴンを各個体ずつ撃破することにする。個別のやや弱いドラゴンがいる部屋は16あり、王の居室の左右に8ずつだ。俺たちと『朱の雫』はそれぞれ端と端から順に1体ずつ倒していき、最終的に合流して王室にいる4体を連携して倒す。ここまでいいか?」
「いや待ってくれ、今回の討伐は『蒼の薔薇』が到着してから3チーム合同でやった方がいいんじゃないか?」
「いや、討伐は急いだほうがいいと思う。これは俺たちのせいでもあるんだが、俺たちが倒したクアゴアは、
「成程…しかし比較的弱いとはいえ難度が100の個体もいると聞いた。倒せないことは無いが場合によっては苦戦しそうだ」
「奴らが別のモンスターと戦う様子を見ていたんだが、最上位個体がわずかに炎耐性の魔法を使用したがそれも耐性は完全ではない。攻撃方法はほとんどが冷気のブレスか爪やしっぽの物理的なもののみと思われる。だからまず他のドラゴンに気づかれないように
「うむ…随分と合理的だ」
「作戦を開始したら、最低でも16体は今日中に倒しきる。他の4体はそもそも一緒にいるし、気づかれたとしても同じだから、後回しでいい。要は1体ずつ倒せるうちに倒しきるということだ。この作戦で行けそうか?」
「ああ…確かにあんたの作戦以上のものは思いつかない。ただ、仮にその16匹が今日中に倒しきれなかったらどうするんだ?」
「そうなったら徒党を組まれる可能性が高いから、生き残っている奴に“犯人”が俺たちとばれないようにこっそり退散、『蒼の薔薇』が来てから手数を増やして再戦だ。奴ら
「なるほどな、承知した。それではさっそく奴らの住処へ行こうか。案内を頼みたい」
「ああ、任せろ」
2チームの冒険者はできるだけ音を立てず速やかに移動する。
旧王城に入り、左右に道が分かれているところまで来た。
「よし、じゃあ俺たちは左から、『朱の雫』は右側から頼む。もしどちらかの方が早く進んだら、その早かった方は残っている16体の個体を優先的につぶしていくという事でいいか?」
「ああ、いいぜ。早い者勝ちってわけだ」
アズスはにやりと笑って、チームを引き連れて悠々と右の道へ進んでいった。
16体の最大難度を告げたが、1体ならばなんとかなるという反応だったのでおそらく大丈夫だろう。
パルメーラは『漆黒の剣』に振り返り、詳細な作戦を説明する。
「よし、それじゃ俺たちの作戦を説明する」
『漆黒の剣』の4人は真剣な顔になった。
パルメーラの説明では、ドラゴンは一人で休んでいるときは頭を下にしていることが多いが、まれに何かをしている時は顔を上げているという。
嘘か誠か、本を読んでいる奴が居た、とも言っていた。
なので
1.頭を下にしてこちら(扉側)を見ている
2.頭を下にしてこちらは見ていない
3.頭を持ち上げてこちらを見ている
4.頭を持ち上げてこちらは見ていない
1と3の場合は部屋に入った瞬間バレるので、この場合は素早くニニャが魔法抵抗難度を上げた
これが成功してもしなくても、ダインは
ペテルとルクルットは瞬時に近寄り、
ニニャは
2と4のパターンの場合はできるだけペテルとルクルットが静かに近付き、特に2の場合はまず目を潰す。
これが成功しなくても後は1,3のパターンと同じだ。
ここまで一気に説明を受けて『漆黒の剣』は確かに理想的だし、以前クアゴアを倒した戦法を参考にしてくれているなと気づいた。
しかし大事なことが抜けている。
「パルメーラさん、冷気ブレスについては対応できていない気がするが」
「ああ、それは大丈夫。皆が着ている装備は冷気・熱・雷・聖に対しては耐性がある。奴らの王の冷気ブレスを確認したが、その装備の耐性は突破できない」
一同は『いやドラゴンのブレスを完全に防ぐってどこの国宝?』と思ったが、もう今更なのでスルーして頷いた。
こうして、若干作業ではないドラゴン狩りが始まった。
驚いたのは意外と2のパターンが多く、初手で目を潰して有利に戦闘が進んだことだ。
またパルメーラに渡されていた装備は本当にブレスを無効化し、ドラゴンも、ブレスが全く効かなかったという事態に硬直して隙が生まれるのでとても対処しやすかった。
順調に狩りは進んでいく。
しかしある幸運なドラゴンが居た。
現在彼の隣の部屋にいる兄弟がボッコボコにやられている最中なのだが、彼は不意におしっこがしたくなった。
このドラゴンは変にきれい好きで、トイレはちゃんとトイレの場所でしないと気持ちが悪かったのだ。
なので読んでいた本を本棚に置くと、廊下に出てトイレを目指す。
その瞬間、見てしまった。
隣の部屋の空いたドアの中で、無音のまま血だらけになり炎を浴びせられ、無残に殺されていく兄弟の姿を。
気が付くとその場で粗相をしていた。
そして部屋の中の、おそらく人間たちが、こちらに気づく前にそーっと扉から遠ざかり、ある程度遠ざかったところで全速力で飛び去り、フェオ・ライゾを後にして逃げ去った。
そして振り返ることもなく、できるだけ遠くへ逃げる。
いつか本で読んだ話では、とある森では妖精女王様の加護により、あらゆる種族が平和に平等に暮らしていて、森には食料が実り川には魚が豊富に居て、住人は決して飢えることは無いという。
もうあんな場所は嫌だ。
父上の命令で
本を置いてきたのは心残りだけど、命には代えられない。
彼-ヘジンマールは本当にあるかもわからない楽園を求めて飛び去ったのだった。
危なげなくドラゴンたちを倒していき、現在16体のうち最も難度が高かった1体の処理が完了した。
攻撃力がやや高かったが、ブレスが全く効かないという事実に対しての硬直時間が最も長く、それゆえ隙が大きかったことと、こいつは16体の中で難度が一番高いという前情報が共有されていたことから、ニニャによるオリジナル魔法
ここが折り返し地点だったのだが、『朱の雫』はまだ8体目まで到達していなかったので、『漆黒の剣』は約束通り9体目に取り掛かる。
問題なく進んでいく様子を見守っていたパルメーラだったが、彼らの様子を見ておかしなことに気づく。
少なくとも、強さが何となくわかるペテルとルクルットに限っての話なのだが、ドラゴンをすでに8体倒しているにもかかわらず、レベルが上がっていないように感じる。
ドラゴンのレベルが足りず、まだレベル上昇につながる経験値が足りないのか?
疑問は感じたが今はとりあえず考えないようにし、仲間たちに危険が無いか注意深く観察を続けた。
結果、11体目のドラゴンを倒して部屋を出たとき、部屋の外で待つ『朱の雫』と合流した。
『朱の雫』はかなり肩で息をしていたが目立った外傷はない。
一方『漆黒の剣』は息が上がっている様子もない。
落ち着いてきた『朱の雫』のアズスは頭をガシガシと掻くと言った。
「いや、すげえなアンタら。どんだけドラゴン狩り慣れてるんだよ…俺たちが4体狩る間に12体狩ったのか?」
「いえ…アズス様。俺たちが優れているというより、チームのパルメーラさんが立てた作戦が非常に良かったんだと思いますよ。それに11体だったと思いますが…」
「ん…そう言えば、あの本を読んでいたちょっと弱いやつが居なかったな…まああのレベルならば合流してても何とかなるか」
『朱の雫』は、『いや実力がなきゃ無傷でドラゴンは狩れないし、11体も12体も同じだよ』と苦笑した。
合流した2チームは王室の前まで来て、
「よし、じゃあ聞いてくれ。この扉の先には
一同は静かに頷く。
「それじゃあ作戦を言う。戦い方はチームごとでいいが、倒すべきは『朱の雫』で1体、『漆黒の剣』が1体。それ以外は俺が受け持つ」
一同、と言うか『朱の雫』のメンバーは驚愕の表情を浮かべる。
『漆黒の剣』は、『うんうん、あなたなら余裕でしょうね』と言う感想なので特に驚くこともない。
「で、良く聞いてほしいがそれぞれが狙うドラゴンは決まっている。俺が倒すのは側近の2体、特に好戦的な奴と、信仰系魔法が使える指揮官的な奴。複数戦だとこいつらが厄介だと判断した。ついでにさっきの16体の中でいなかった奴がここに居たらそいつもついでに俺が担当する」
朱の雫は『なんだよ“ついで”って…』と思ったが、そこはアダマンタイト級。余計な口は挟まなかった。
「『漆黒の剣』は王と思われるドラゴン。こいつは金貨とか財宝の上に座ってる可能性が高い、サイズ的に一番デカいやつだ」
今度は『漆黒の剣』が『えっ?!』と言う顔をする。
「『朱の雫』はその横にいる側近のうち、残った1体を受け持ってほしい」
ルイセンベルグが手を上げる。
「二点、伺いたい。まず、疑う訳じゃないが貴殿が2体、ないしは3体を一人で相手をするというのは問題ないのだろうか。もう一点は、それぞれが受け持つドラゴンの詳細情報だ」
パルメーラは頷いて答える。
「一点目については、これは俺の奥の手を使う。今回の俺の戦闘については他言しないでほしい。何をするかと言うと、この俺の剣、悪剣:
『漆黒の剣』がビクッとしたので、パルメーラは「クアゴアのあれじゃない」と付け加えた。
「成程…深くは聞かないがお仲間の反応を見るに余程恐ろしい力が隠されていると思われる…貴殿を信じよう」
「ああ、任せてくれ。それで2点目だが、皆に任せる2体のうち、『漆黒の剣』が受け持つ方は炎防御の魔法を使える。しかしうちの
「成程な…先ほど『漆黒の剣』のペテル殿が言った意味が分かった。パルメーラ殿は相当優秀な作戦立案者でもあるようだ」
「…そんなことは無い。俺よりも優れたものはいたし、俺はその優れたものから習った者の一人にすぎない」
「そうか…貴殿より優れたもの、会ってみたいものだな…さて、私からの質問は他にはない」
他のメンバーも顔を見合わせると、お互い質問が無いという目くばせをした。
「それでは扉を開けるぞ。皆準備してくれ」
この地での最後のドラゴンクエストが始まった。
ぺロロン「おい山羊!ふらぐ!ふ!ら!ぐ!」
ウルベルト「なんだ?何興奮してるんだ?」
(そそくさとクラッカーや花火を購入しだすモモンガ)
こんな日を早く書きたいです