オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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アゼルリシア山脈の平定が完了です


第2章 第16話 -パワーレベリング・凱旋-

 

 

アズスが扉を開けるパルメーラを見たとき、ほんの一瞬前までは抜かれていなかった腰の長剣が、いつの間にかその黒い刀身を露わにしており、刃からは赤黒いオーラの様なものがあふれ出していた。

 

扉を押す左手の甲には、見たこともない紋様が浮き上がり、これも赤黒い陽炎のような靄が紋様から漏れ出ている。

 

その次の瞬間、わずかに開いた扉の前にいたはずの男が掻き消えている。

男の実力を目に焼き付けておきたいと考えていたアズスはあせって、扉を開いた。

 

瞬間、一同が見たものは、すでに左右(・・)に真っ二つにされた一体のドラゴンの横に立ち、左に居るもう一匹に紋様が浮き出た左手をかざす男。

 

紋様は先ほどよりも深く赤黒い靄を発し、手をかざされたドラゴンは全身に赤黒い靄がかかり硬直している。

 

そして男は辺りを素早く見まわし、『居ないか』と呟くと、刀身をはためかせ鞘にしまった。

鞘に収まった瞬間、硬直していたドラゴンは粉々に切り刻まれ、悲鳴も上げずに、ぼたぼたと幾つものかけらになって地面に落ちていく。

 

 

他のドラゴンにとっても一瞬の出来事だったのだろう。

金貨の上に座るドラゴンも、その右に控えるドラゴンも、一瞬で物言わぬ躯になった同胞を、あっけにとられて見つめている。

 

アズスもルイセンベルグも、あまりの光景に一瞬硬直したが、気づいたときには『漆黒の剣』の2名の背中が数メートル先にいて、無詠唱で召喚された石の獣が王のドラゴンのすぐそばに現れ、ドラゴンの足や体に纏わりつき、先に走り出した2名はその石の獣を踏み台に一気にドラゴンの顔面まで迫る。

 

ドラゴンがブレスを吐こうと息を吸い込んだ瞬間、『魔法抵抗難度強化(ペネトレート)魔法最強化(マキシマイズマジック)鈍足(スロー)』という声が聞こえ、ドラゴンの全身の動きが鈍る。

その瞬間を見逃さず、ペテルとルクルットと名乗った男たちは、黒く輝く剣をドラゴンの左右の目に滑り込ませる。

そしてその剣を何度かドラゴンの首筋に滑り込ませながら、そのまま地面に着地し、一気に距離を取った。

 

魔法最強化・焼夷(マキシマイズマジック・ナパーム)!」

その声と同時にドラゴンの足元から巨大な火柱が吹き上がる。

 

その後は召喚獣による足止めとその隙をつく剣撃、魔法の繰り返しで、ドラゴンは動かなくなった。

 

 

「俺たちも伊達にアダマンタイトを名乗っていないことを示すぞ!」

「おう!!」

 

『朱の雫』班もペテルとルクルットが飛び出した瞬間我に返り、魔法詠唱者による足止めと炎系魔法、遠距離と近距離の熟練の連係プレーでもう1頭のドラゴンを狩っていった。

 

その様子を眺めていたパルメーラは首をかしげる。

あの『ルイセンベルグ』と言う男は、最初に会った時と比べてレベルが1上がっている。

だがペテルとルクルットはこれだけのドラゴンを倒したにもかかわらずレベルが上がっていない。いや上がっていても0.5とかに感じる。

 

この差はなんだ?

 

ウルベルトはぼんやりと『レベル上限の差』と言うものがあるかもしれないと思い至った。

 

 

 

***

 

 

 

ここはリ・ウロヴァール。

 

指定された期限の10日目に、銀級(シルバー)の冒険者チーム『漆黒の剣』は冒険者組合に帰ってきた。

 

それ自体は普通の事なのだが、普通ではないことが2つあった。

 

まず、彼らが持ってきたモンスター討伐の証拠たる体の一部。ハルピュイアの羽爪が十数個。これだけで十分おかしい。

 

だがその後に出てきたのはドラゴンの皮膚や羽、角、爪、琴線、胆石、心臓…それも1体分のものではない。10体以上分はある。

中には粉々で判別不可のものもあったが…

 

それらが今までどうやって持っていたのかと思う大きくはない袋から、あれよあれよと出てきて、組合のカウンターは騒然となり、今は一時的に関係者以外立ち入り禁止となっている。

 

そしてもう1つ。彼らは別の冒険者チームを引き連れてきた。

 

それは王国に2つしかないアダマンタイト級冒険者チームの1つ『朱の雫』。

彼らの話では2チーム合同でドラゴンの巣に潜入し、そこを根城にするドラゴンを全滅させてきたというのだ。

 

まさか…と思ったが、アダマンタイト級冒険者チーム『朱の雫』の全てのメンバーが、それが事実であると説明し、そのうえ、『彼らは我々よりも強い』、『彼らを今すぐアダマンタイト級に昇級させるべきだ』と口々に言いだしたのだ。

 

余りの事態に当然受付嬢では対応できず、冒険者組合長とこの街の魔法師組合長が参加し、各チームから話を聞いている状態だ。

 

冒険者側の参加者は、『朱の雫』のアズスとルイセンベルグ、『漆黒の剣』のペテルとニニャだ。

なお、この場にパルメーラはいない。

ニニャやその他のメンバーから、『余計なことを言う可能性が高いから参加させない方がいい』という意見が出たためだ。

 

そう言う訳で、パルメーラは王城の王ドラゴンの腹の下にあった、金貨や財宝を無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に入れて、フェオ・ジュラにやってきていた。

 

そして最初にこの街に来た時と同じように門の前から『総司令官』に声をかけ、出てきた彼にざっくりと概要を説明した。

 

もうフェオ・ベルカナにはクアゴアもドラゴンもいないこと、

とりあえず目についた財宝は集めてきたけど玉座奥の扉は開かなかったのでそちらで何とかしてほしいこと、

フェオ・ベルカナへ行く道として地表からの新しいトンネルがあること、

そしてもしルーン技術に関する技術書か何かがあったらゴンドのチームに開発を任せること、

最後に落ち着いたら人間との交易を再開してほしいが、ブルムラシュー侯とその関係者とは取引をしない方がいいこと、

 

これらを、総司令官の理解が追いつくよりも早いスピードで説明し、『それじゃ』と言って洞窟の闇の中に再び消えて行った。

 

会議室にぶちまけられた財宝と、その後の調査によって、彼の言っていたことは全て真実であり、突然現れた5人の人間の英雄は、お礼ももてなしも受けることなく、ただ無欲に報告だけをして、公的には二度とドワーフの都を訪れなかった。

 

 

 

***

 

 

***

 

 

白髪の老人ゴンド・ファイアビアドは庭の椅子に座りながら、時の鍛冶工房長が自宅の扉を叩いた日を思い出す。王城の宝物庫の魔法の扉が開き、中から見つかったルーン技術の指南書を持って儂の家を訪れたあの日を。

 

100年以上前のあの日、自分の人生はもう一度始まった。

鍛冶工房長が語った、あの人間たちの活躍と、街を去るときに託された言葉。

摂政会は恩人たる英雄との約束を守り、この儂にルーン技術の復興を託したのだ。

 

それからは東奔西走の毎日だった。

英雄が取り戻した都に移住していく同胞たちに必死に声をかけ、ルーン技術の復興を共に目指す同志を探し、最終的にはここフェオ・ベルカナに残されていた、かつてのルーン工王の工房に再び火をともすことができた。

 

相変わらず儂には才能は無かったが、才能ある者たちが少しずつ集まり、工房復興から50年目についに武器に3つのルーンを刻めるものが現れた。

 

年を取った儂は、あの工房が良く見える家で余生を過ごしながら、子供たちにおとぎ話を聞かせる毎日だ。

 

人気のおとぎ話は『ルーン工王の冒険譚』と『漆黒の英雄譚』。

子供たちは、今日は『漆黒の英雄譚』がお望みのようだ。

 

「…と言うわけで、漆黒の英雄達はドラゴンを倒し儂らの街と財宝を取り戻したのじゃ」

 

「しってるよゴンド!確か英雄達は、ロングソード、弓、メイス、杖を持った4人と斥候1人の5人の人間だったんだよね。俺はぜってーロングソードだな!大人になったらロングソードに5つのルーンを刻むんだ!」

 

「そうじゃな。お前さんが5つのルーンを刻んで、そしてもっと後に誰かが伝説のルーン工王の武器の様に6つのルーンを刻むことができる日が来るじゃろう」

 

駆けていく子供を見送りながらゴンドは呟く。

 

「パルメーラ殿、あなたはおとぎ話の中では脇役のようだが、儂にとっては最も重要な英雄じゃ。新入りとか言っとったが本当はアンタこそがあの未知の魔法の数々でドラゴンを倒したんじゃろう…それに人にはそれぞれ役目があることを教えてくれたのはアンタじゃった…アンタのおかげで儂は自分の役目を果たせた気がするんじゃ」

 

そして椅子に体重を預けながら幸せな時間にまどろむのだった。

 

 




次回からまた世直しが始まります。

ドワーフ国ではウルベルト様ではなく『漆黒の剣』がおとぎ話になりました。
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