オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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結局前日譚はだいぶ伸びてしまいました。

次回第5話で前日譚は終わります。

前準備があと一つです。





第0章 第4話 -最後の1年を駆け抜ける-

 

『皆さん、ご存じかと思いますが、来年の6月をもってユグドラシルのサービスが終了するというお知らせが運営からありました。これからのギルド:アインズ・ウール・ゴウンの活動について方針を定めたいと考えています。次の日曜日のAM10時、可能な方は円卓の間に集まってください。また、この時間にご参加が難しい方は、一旦私までご意見を頂けますでしょうか。よろしくお願いいたします。 モモンガ』

 

 

リアルの公共ルームで、“他愛もない話”をしていた2人の男が、所属するギルドのギルドマスターからメールを同時に受け取った。

 

「ついにこの時が来たな」

 

「ああ…そうだな。だけどモモンガさん、結構冷静そうだな」

 

「いや、メールだけでは分からないな。最近あの人、ネコのところの何人かと一緒に冒険とかしてたからな…ネコのとこが今後どうするかっていうのも確認した方がいいかもな」

 

そこまで言うと、鈴川はスマートガジェットを出して、対面する男に画面を見せた。

 

「ところでコレだが、サービス終了のお知らせから今日までの一週間で逆に登録者が増えている。ハッカーたちの話だと、この増加はアーコロジーの中外関係ないらしい」

 

「ああ、ヘロヘロさんとかが言ってたんだが、一部では、<Yggdrasil 2>が発表されるんじゃないかということで<Mobile>の方は、それまでのキャラクター移行用に作られたって説が出ているとか。俺は眉唾だと思うんだが、そういう情報はあるか?」

 

「いや、残念ながらそういう情報はハッカーたちも掴んでいない。ただ…」

鈴川は少しためらいながら言葉を止めた。

 

「『ただ…』なんだよ」

 

「はぁ…俺はこの情報は知らない方がいいと思うんだが聞きたいか?」

 

「当たり前だろ」

 

「…分かった。じゃあ気になる情報が二つ。一つは5月31日のMobileログインだけに限って言えば、アーコロジー内からのアクセスが80%以上。もう一つは……いや、これはユグドラシルには関係ないが…」

 

目の前の男は、黒く沈んだ眼の色をさらに深くして『早く言えよ』と言外に伝えてくる。

 

ため息を一つついた鈴川は、一度辺りをぐるりと見て、そして声のボリュームを落として続けた。

「俺のつながりがあるレジスタンス集団が、ユグドラシルのサービス終了日に、“あちらさん”の住む場所へ攻撃をするということで準備を始めた」

 

目の前の男は黒い眼を一度見開き、少し驚愕の色を浮かべたのち、小さく尋ねた。

「あんたは…参加しないよな?」

 

鈴川は、目の前の“悪”が自分を心配するかのような発言をしたことが少し可笑しくて、口元をわずかに緩ませた。

「まあ、参加する予定はないな」

 

それを聞いた男は、おそらく、努めて表情を変えず続ける。

「そうか…てゆうかなんでそのタイミングなんだ」

 

「正確には、分からん。まずこの一連のハッキングで、富裕層がユグドラシルを介して何かをしているという可能性が高まった。少なくとも31日のMobileログイン動向は、富裕層だけに情報が事前に渡されていた可能性が高い。だからその目論見を阻止するというのもあるのかもしれん」

 

「そんな曖昧な理由で特攻かよ」

 

「…“三眼”のあいつではないが、皆もう限界なのかもしれない。何かのきっかけがあれば決壊してしまうほどの、精神的な限界だ」

 

「……とりあえず、分かった。それとあんたは5月31日にMobileにログインしてたか?」

 

「ああ。まあ、なんかあると思って連絡つくギルメンには言っておいたし、俺だけでなく、ほとんど皆ログインしてたんじゃないか?」

 

「ま・そうだな。その件は日曜にモモンガさんにも確認しよう」

 

 

 

***

 

 

 

「皆さん、集まってくれてありがとうございます。それではこれからのギルド方針についての話し合いを始めます」

 

「その前に、皆に確認したいことがあるが、いいか?」

ウルベルトが、モモンガの話を遮って手を挙げた。

 

モモンガが『どうぞどうぞ』というジェスチャーアイコンを出すのを確認して、ウルベルトが喋る。

「この中で、5月31日にMobileの方にログインしなかった人はいるか?」

 

ウルベルトの発言に手を挙げる者はいなかった。

つまり5月31日、ここにいるAOGのメンバーは全て<Yggdrasil Mobile>にログインをしていた。

そしてそれはつまり、たった4時間しかログインできなかった5月31日のログインボーナスアイテム『ロキの指輪<リング オブ ロキ>』を手に入れたことを意味する。

 

「モモンガさん、今日の議論はこの話も入れるべきだと思うぜ」

 

「はい、ウルベルトさん。ありがとうございます…それでは会議を始めます。まずは皆さんそれぞれから意見が欲しいです。よろしければ一人ずつ教えてください…これから…ユグドラシルが終わる1年後まで、私たちが何をすべきなのかを」

 

 

 

モモンガの右隣に座っていたペロロンチーノが、まずはオレからと言わんばかりに手を挙げて喋りだした。

 

「はい!オレは辞めませんよ。ユグドラシルが終わるその日まで、俺はアインズ・ウール・ゴウンの“爆撃の翼王”ですからね!それにまだ“ナザリック学園”を作って学園でムフフなことをする夢を諦めていませんから!」

 

「もう黙れ、バカ弟」

バシッっと翼王の頭を叩いた、その隣のピンクの肉棒が口を開く。

「あんちゃんや、やまちゃんや、他の皆と遊んだこのユグドラシルが無くなるのは悲しい。でも、いつかはこうなるって分かっていたこと。だから、このアホじゃないけど、最後まで精いっぱい楽しんで、その次は、そのとき考えればいいと思う。なんか面白い別のゲーム見つけたら教えて。みんなでまたチーム組めばいいじゃん!」

 

「いいですかー?」

ヘロヘロが手を挙げる。

「先ほどウルベルトさんが触れてくれましたが、この指輪、皆さん効果は検証済みですよね?これは噂でしかないことは分かっているのですが、ユグドラシル2がリリースされる可能性だってあります。私としては、その場合はユグドラシル2が最優先ですねぇ。まあそれが無かったら、茶釜さんの言うことにほとんど賛成です」

 

タブラ、ぷにっと萌え、音改が顔を見合わせて、タブラが代表して喋れというジェスチャーがぷにっと萌え、音改から成された。

タブラは一つ咳払いし喋りだす。

 

「えーまずは、ニグレドの件はお騒がせしました。あの後さらに設定変更を進めて、特定の条件下ではホラーイベントが起こらないようになっていますのでご安心ください。さて、本題ですが、先週の運営からの発表の後、私とぷにっと萌えさんで相談し、音改さんの人脈を使って、9つ全てのワールドの市場調査を行いました。現時点でワールドアイテムの投げ売りはありませんでしたが、一部のプレイヤーは引退に向けてワールドアイテムを含めたアイテムや装備の販売準備をしています。これは発見次第その人に接触、可能であればワールドアイテム、ゴッズアイテムを中心に取得していきます。ロキの指輪は市場には流れていませんが、掲示板ではとんでもない値が付いています。え?行動方針?それはヘロヘロさん、茶釜さんに同意です」

 

 

「はいはーい」

二式炎雷が手を挙げた。

 

「これはもうモモンガさんにはメールしたけど、アップデート後、ダンジョン増えてるぜ。ヘルヘイムでは少なくとも高難易度と言っていい隠しダンジョンが2つ。うち一つはまだ掲示板にも挙がってないし、早く行った方がいい。皆がダメだっていうから動いていないけど、今日この会議の後行かないっていうなら、俺は一人で調査に行くぜ」

 

 

その後も、出る意見は前向きなものばかり。

つまり要約すると、“これからも変わらず全力で楽しむぞ”と“離脱者が出るかもしれない今がチャンス”という意見だ。

 

モモンガは、自分の胸の中が暖かくなっていくのを感じた。

自分が全てを賭けてきた<Yggdrasil>はまだ終わっていない。

仲間たちは、まだ諦めていない。

それどころか、<Yggdrasil 2>という可能性もある。

 

泣きそうな気持を抑え込んで、モモンガは最後に発言した。

「ありがとう…ございます。これから、あと1年、皆と一緒にこの世界を冒険できるのが嬉しいです。私の気持ちも同じです。まだ、全力で行きましょう。アインズ・ウール・ゴウンの一員として最後まで貫きましょう!」

 

円卓の間は拍手とハートのアイコンであふれた。

ちなみに「ゴーレムを作りたい」という意見と「メイドを増やしたい」という意見は、今関係ないからということでスルーされた。

 

少し時間が過ぎて、円卓の間の熱が少し冷めたころ、改めてモモンガが喋りだした。

 

「実は皆さんに例の指輪の件で報告と相談がありまして、私はこの1週間、指輪の効果検証を行っていました。ほかにも検証をしていたメンバーの皆さんからもらった情報を含めて、確定していることをまとめましたので、目を通していただけますか?」

 

 

モモンガから送られてきた電子メモにはこう書かれてた。

 

アイテム名:ロキの指輪(リング・オブ・ロキ) 神器級アイテム

効果:

いずれかの指にはめ効果を発動すると種族が変更できる。ただし、変更できる種族は1種類しか選べない。指輪の効果を解除すると変更前の種族に戻る。一度変更する種族を選ぶと同じ指輪ではそれ以外の種族への変更はできなくなる(効果を解除して元の種族に戻る場合を除く)。指輪の所有権を手放すと、効果はリセットされる。

変更時のルール:

一部の上位種族には変更できない。(何ができないかは調べ切れていない)

異形種、亜人種が人間種に変更すると、種族レベルは消滅する。

その他種に特有の種族レベルや取得条件を満たさなくなった職業レベルは消滅する。

上記の結果消滅したレベルの空きについて、変更中に経験値を得ることで取得可能な別の種族レベル・職業レベルを得ることができる。

 

 

改めて見ると恐ろしい効果である。

これは言うなれば同一アカウントで別キャラが作れるようなものだ。

例えばモモンガは種族レベル40、職業レベル60の合計100レベルである。

『ロキの指輪』を使って種族を人間種に変更した場合、種族レベル40が消滅する。

この40レベルのために、レベル上げをすれば、“人間種として”取得可能な職業レベルをあと40取得できるのだ。

しかも、任意でもともとのレベル100オーバーロードに戻ることもできる。

 

これは別キャラとしてレベル上げ出来るだけでなく、弱い人間種として擬態して、突然レベル100オーバーロードの本性を現すことで、相手の油断に付け込んだ戦法を取ることもできるということだ。

 

ちなみに『ネコさま大王国』のメンバーは一人も指輪を手に入れていない。

メンテナンスのお知らせは、巧妙に空白の4時間にログインをしないような文言に工夫されていたのだ。

 

AOGのメンバーについていえば、廃人のモモンガは何も言われなくてもログインしていただろうが、それ以外のメンバーは、この4時間が怪しいと気づいたウルベルトとベルリバーの警告が無ければ、ログインしていたかは分からない。

 

その後は、指輪で返信する種族を各々が選び、頭脳労働が得意なメンバーが効率的なレベルアップのプランを作っていったのだった。

ちなみにほとんどのメンバーは“人間種”を選んだ。

これはAOGのメンバーの多くがドリームビルドを組んでいたことで種族レベルの割合が大きく、逆に言えばこの部分が職業レベルに置き換わった人間種はいわゆるガチビルドになりえる可能性を秘めているからである。

 

 

あらかたの方針が決まった後、タブラとヘロヘロがモモンガに話しかけていた。

 

「さっきの話ですけどね、私、ユグドラシル2は結構“ある”と思っているんですよー。だって、サービス終了の前に配るアイテムと言い、Mobile版の内容といい、これは“次があるぞ”って感じしません?」

無事転職をして、わずかながら業務量が減ったヘロヘロが言う。

 

「そうですね…そうだったら…本当に嬉しいです。まだ皆さんと遊べるってことですからね…それにしても、仮に2があるとして、どんな感じになると思います?ヘロヘロさんの説を押すのであれば、キャラクターとかアイテムは一部は引き継げるということですよね」

 

「うーん、エンジニア視点から言わせてもらえばこのゲーム、かなり容量は使い切っていると思うんですよねーデータ量エグくて時々バグるじゃないですか。単純にデータ量の問題を解決したのなら、それは2じゃなくてアップデートだと思いますし。タブラさんどう思います?」

 

「私はヘロヘロさんのようなSE知識がないので専門的なことは分からないですが、例えばゲームシステムを大きく変えるとか、データ量に問題があるのならば、フィールドとかはもう少し狭くして、逆に新しいシステムを入れるとか…まあユグドラシルは楽しいですけどストーリーには製品タイトルにふさわしいと言えるものが少ないですね。例えば1のサービス終了が炎の剣によって引き起こされて、ラグナロクにより世界が死に絶えて、その後の世界を構築する新たな時代としてのストーリーが2だとしたら、私としては及第点ですね。後はその後の世界をそのまま北欧神話で行くのか、あるいは…」

 

……残念ながらタブラのスイッチが入ってしまったようだった。

 

 

「…まあそういう訳でレトロ回帰もいいですね、原点であるD&Dのようなシステムもそうですし、そこから派生していったある名作シリーズでは、前作とつながりがありつつも、それぞれ新しい時代、新しい世界が舞台だったりして、そうそう、そのシリーズの3作目か4作目だったかは、“性格”システムが採用されていて、単に善・悪・中立だけでなく、20種類以上の性格でパラメーターの伸びに影響したりするんです。そこで面白いのが性格の決め方で、最初主人公は謎のチュートリアル世界に飛ばされるんですよ。そこでの行動、例えば魔物になって村人をすべて殺すとか、皆のお願いを聞いてお使いをするとか、そこでのわずかな行動の違いで性格が決定されて、気が付くと自分のベットで目が覚めるんです。あとそれとは別の名作シリーズではですね…」

 

…タブラのお話はまだまだ終わらないのであった。

 

 

そうして、1年はあっという間に過ぎる。

AOGのメンバーは指輪の効果を使い、もう一つの種族を得て、そのレベルも皆無事カンストを迎える。

 

しかしやはり終わりゆくゲーム。

2の噂は絶えなかったが、運営からはYesともNoとも回答はなく、最終日が近づいていく。

その過程でやめていくプレイヤーも多く、一方でやめたプレイヤーから新たなアイテム類を得る猛者も現れる。

 

AOGのメンバーはその1年で、新たに4個のワールドアイテムを手に入れた。

 

そして無慈悲にも時間は進む。

 

2138年6月30日が訪れる。

 





がんばって時間あるときにどんどん書きます。
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