オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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今回は派手な戦闘とか苛烈な罰はありません。



第2章 第17話 -ホームへの帰路-

 

『漆黒の剣』の4人プラスパルメーラは、現在馬車に揺られている。

 

リ・ウロヴァールの冒険者組合は、『漆黒の剣』の討伐功績を全面的に認め、まずは依頼達成の報酬に加え、討伐報酬が支払われた。

だが一方で『漆黒の剣』の昇級については保留となった。

 

これは『漆黒の剣』の実力に疑問が持たれたという訳ではない。

『朱の雫』は凄まじい剣幕で冒険者組合長に迫り、どれだけ『漆黒の剣』の技量が優れているかを力説した。

冒険者組合長が良い返事をしないと、永遠に語り続けるぞと言わんばかりに。

 

それでも保留となったのは主に3つの理由がある。

 

まずは前例がないこと。

銀級からアダマンタイト級への昇級など前代未聞だ。

実力は疑っていない。

ペテルは冒険者組合にあったミスリルのインゴットをバターの様に切り裂いたし、ニニャは飛行しながら第4位階魔法を放ったので『朱の雫』が言っていることも嘘や幻ではないと認められた。

しかし本当に前例がない。

これを認めてしまうと、普通は試験を経て昇級するというルールを曲げることになるし、普通に昇級してきた他の冒険者に示しがつかない。

 

次に彼らがエ・ランテル所属の冒険者であること。

ここリ・ウロヴァールはエ・ランテルとは離れすぎていて、普通はこのように離れた場所の冒険者組合で昇級を認めるという事は無い。

 

最後にパルメーラの存在。

彼は一緒に行動していたようだが、正式には『漆黒の剣』の一員ではなくプレートも銅級(カッパー)だった。なので彼も含めての昇級と言うのは手続き的に正式な手順を踏んでいない。

 

この話に及んだ時、『漆黒の剣』の2名も、『朱の雫』の2名も、「あり得ない!」と大層ブチ切れた様子で、彼がどれほど強く、どれほどチームにとって重要かを語っていた。特に『漆黒の剣』の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の青年からは殺気の様なものが放たれていて、チームメンバーも含めて皆怯えていた。

 

以上から、まずは正式な手続きをしてパルメーラを正式に『漆黒の剣』に加入させ、その後エ・ランテルにて再度昇級の話をするという事になった。

『朱の雫』のアズスは、冒険者組合長にたっぷりと脅しをかけていた。

 

「もしこの『漆黒の剣』がアダマンタイトじゃないというのなら、こいつらに及ばない俺らも当然アダマンタイトとは言えないな。少なくとも王国では冒険者を続けるなどできないだろうな。そうだな、その時はバハルス帝国かアーグランド合議国でワーカーってのも悪くねえな。カルサナス都市国家もアリか。でもその場合は、俺は所属の組合にちゃんと説明をしなけりゃならんな。リ・ウロヴァールの組合長の決定が原因だってな」

 

リ・ウロヴァールの冒険者組合長と魔法師組合長は、王国からのアダマンタイト級冒険者の流出の原因となりうるぞという脅しに真っ青になり『必ず良い返事となる様、エ・ランテルの組合に伝えます』と説明していた。

 

 

具体的な今後の動きとしては、まずパルメーラが冒険者登録をしたリ・アレクサンデルへ行き、パルメーラが拠点変更の転出届を出す。

そして今度はエ・ランテルへ行き、転入届を出したのち、冒険者組合に彼の『漆黒の剣』への正式加入を報告。最後に今回の件をエ・ランテルの冒険者組合に説明し、階級について話し合うという流れだ。

 

そう言う訳で彼ら5人は馬車でリ・アレクサンデルを目指している。

 

そこでの手続きの後はリ・ブルムラシュール、エ・レエブル、エ・ペスペルを経由してやっとエ・ランテルに到着する。

 

今回の任務の報酬は、当たり前だがあり得ないほど多く、金銭ですべて受け取ることもできず一部は手形となって主要都市では両替ができる。

 

なので彼らは当分…いや普通に暮らすならばおそらく一生働かなくてもいいくらい稼いだと言っていい。

 

また、ニニャは訓練の結果、第7位階魔法が使用できるようになったが、あまりに急激な位階の上昇で現在は空白状態の第3、第4、第5、第6位階の魔法の解説をパルメーラに改めて聞きながら、覚えられる魔法のうち自分のスタイルと今後の成長方向で必要と思われるものを順番に覚えていっている。

 

そのため、第7位階にある、チーム全体での転移魔法と言うのはまだ覚えられていない。

ニニャのパルメーラに対する気持ちを何となく察知しているチームメンバーは、『まさかあのパルメーラ抱きつき式移動を望んでいるのか?』と一瞬思ったが、さすがにそう言う訳ではない…筈だ。

 

『朱の雫』のアズスは、「よし、俺たちもエ・ランテルまでついて行って、組合長を脅し…説得しよう」と言ったが、常識枠のルイセンベルグが「いやいや、さすがに呼んどいて先に移動は駄目ですよ。我々はここに残って姪御さんのチームへ説明せねば」と言ったため、リ・ウロヴァールに残留した。

 

 

馬車の中では、パルメーラによる魔法や戦闘の技術の講義と、パルメーラへのこの国の常識の説明、まずは文字の練習がなされていた。

4日ほどたって、馬車は無事にリ・アレクサンデルに到着する。

今回は一度もモンスターとの遭遇なかった。

これは載っている人間が皆アダマンタイト級なのでモンスターが近づかなかったという方が正しいのだが…

 

到着は昼過ぎで、5人はいつか泊まった宿に宿泊の予定を入れ、遅めの昼食をとれる店に入る。

この辺りを含めた、リ・ウロヴァールからリ・ブルムラシュールまでの土地は比較的高山が多く、家禽や家畜を飼って暮らしている農家も多い。

その結果、食卓に載るごちそうは山羊や羊、鶏の様な肉料理が多いのだ。

 

「パルメーラさんは何にしますか?この辺りは羊のグリルが名産ですよ」

 

ニニャに聞かれて、まだ完全には読めない文字の内容を教えてもらうと、そこには羊、鶏のメニューがあった。

『そう言えばこの国?へ来て最初に気が付いたときに居た…納屋の周りには羊が居たな』

 

そんなことを考えていると、心の中のペロロンチーノが語りかけてくる。

 

『お、羊で共食い行っちゃいます?まあ、エロゲ的にはそこは勧められたものを選ぶのが正解だと思いますけどね』

 

『いや、ペロロンチーノさん、羊と山羊って言うのは染色体数が違う別の動物なんだ。だから共食いと言うのは適切ではないと思うよ。ただ大昔の文献なんかを見ていると自然下で交配してF1が生まれたという報告も確かに残っていて…』

 

『あっはい』

 

スイッチが入ったブルー・プラネットさんに捕まってしまったようだ。

いい気味だな。じゃあお前を食ってやるよ。

 

 

「ああ…そう言えば前回ここに来た時、宿で羊のシチューを食べた気がするから俺は鶏にする」

 

そう答えた。

 

 

 

食後冒険者組合へ行くと、なぜか組合は以前と比べ閑散としている印象を受けた。

書類のサインなどが必要な場合に備えて、ニニャが一緒にカウンターについてきてくれた。

 

「…そう言う訳で、俺は冒険者の登録を別の街に移したいと思っているから転出の手続きをしに来たんだが」

 

そう言うと受付嬢の顔は苦笑いの様な何とも言えない顔になった。

 

「…どうかしたのか?」

 

「あ、いえ。すみませんね。あなたも知ってると思うけど、領主が立て続けにあんなことになったらそりゃ転出も増えるわよねと思って。今日だけで転出の受付3件目だからね…」

 

“領主”と聞いて、パルメーラには思い当たることがあったが、ニニャもいるので知らないフリをして尋ねる。

 

「領主?何かあったのか?俺は今日到着したばかりでここ2週間はリ・ウロヴァールにいたんだが…」

 

すると受付嬢はこの2週間で何があったかを事細かに説明してくれた。

よっぽど暇だったのだろう。

 

 

「まず10日くらい前に、領主だったアレクサンデル男爵がお屋敷でご乱心したとかで、家臣とかを切り殺したんだって。ただ衛兵の人が屋敷で奴隷になっていた女の子を教会へ逃がしたんだけど、その人も屋敷へ戻ったあと暴れる領主と相打ちになって切り殺されちゃったんだって。それで屋敷の中は血だらけ。出入りの商会が夜にワインを運んだ時に気づいたとかで大騒ぎだったのよ。それで、その後すぐに新しい領主のなんとか男爵ってのが来たんだけど、その人も昨日死んでるのが見つかって、それが噂では、自室の椅子で座ったまま餓死してたとか…しかも今回も屋敷の中の使用人とかも全部死んでて、犯人すら分からないそうよ。ほんとホラーよねー」

 

「そうか…そんなことがあったのか。じゃあ今は領主不在なのか?」

 

「いえ、明日新しい人が来るみたいよ。またホラーにならなければいいけどね」

 

「そうか…まあとりあえず転出の手続きしてくれ」

 

「あ、はいはいそうでした。じゃあ書類を発行するので少々お待ちください」

 

 

受付嬢は一旦奥に引っ込んだのでニニャと共に組合の中の椅子に座っている。

だがよく見るとニニャの様子がおかしい。

少し震えているように見える。

 

「どうした、ニニャ。気分が悪いのか?」

 

「……さん」

 

「ん?」

 

「…姉さん」

 

「…そうか、すまないな。領主の話は聞かない方が良かったか」

 

「違うんです!」

 

「ん?」

 

「ここの…!アレクサンデル男爵が、僕の姉さんを攫った貴族なんです。僕、教会へ行って保護された方を確認してきていいですか?!」

 

「あ…ああ。俺も手続き終わったら行く」

 

 

パルメーラがそう言うと、ニニャは冒険者組合を飛び出しいずこかへ走っていった。

 

 

「…そうか…あの豚……聞き出しておけばよかったか…生き返らせて…いや、さすがに蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)を使う要件ではないか…しかし……もっと入念に痛めつけておくべきだったか…」

 

 

「手続き終わりまし…ひっ!」

 

受付嬢はパルメーラが発するどす黒いオーラに小さく悲鳴を上げた。

それに気づいたパルメーラはすぐに意識を切り替え、平常心を装って受付嬢から書類を受け取り、形式的なお辞儀をした。

そして、少し離れたところに見える教会らしき建物に向かって歩いていくのだった。

 

 

ニニャは教会の外のベンチに座っていた。

 

程なくして、パルメーラは何も言わず隣に座る。

 

少しの沈黙の後、ニニャから喋りだす。

 

「すみません…途中で出てきてしまって。手続きは終わりました?」

 

「ああ…おかげさまでな……姉はいたのか?」

 

「……いませんでした。もうだいぶ昔ですし、とっくの昔に奴隷として別の貴族か人買いへ売られてしまったのだと思います…」

 

「そうか…」

 

しばらくの沈黙。

 

 

「ニニャ」

 

「…はい」

 

「心当たりはあるのか?」

 

「…ありません」

 

「姉の名前は?」

 

「……ツアレニーニャです」

 

「そうか…姉弟で似た名前なんだな」

 

「…はい」

 

「ニニャ」

 

「はい」

 

「俺は貴族は嫌いだ」

 

「…僕もです」

 

「愚かな特権階級と言うものは、たいてい犯罪者組織や娼館や奴隷などとのつながりを持つ。俺はこれから、この国で俺の嫌いなものを潰していくつもりだ」

 

「…パルメーラさんは…僕のためにそんなことをしてくれるんですか?」

 

「違う。俺のためだ。俺にとって気に食わないもの、偽善の奴ら、莫迦のくせに特権階級の椅子に座っているだけの奴ら…そういうものを潰していくだけだ。その過程で俺の仲間にとっての敵が居たらついでに潰す…それだけのことだ」

 

「…ははは…それって、仲間のためってことですよね?」

 

「…どうだろうな?仲間と思っていた奴が実は敵だったら、俺は容赦しない」

 

「怖いですね…でも僕は…僕たちはパルメーラさんの仲間です。きっと裏切ったりしないです」

 

「俺は…敵を潰すためだったら、“悪”になる覚悟がある……ニニャ、お前はどうだ?お前の姉を虐げている奴を見つけたら、 “悪”になれるか?」

 

「僕の……僕の夢の一つとして、まずはあのアレクサンデル男爵をこの手で八つ裂きにしてやりたいというものがありました。もう奴は死んだみたいですけど…僕は奴が苦しんで死んだことを祈っています。死んだあと、ちゃんと地獄で永遠に苦しみ続けることを祈っています…これは“悪”ですかね?」

 

「……」

 

「次の夢は、アレクサンデルの次に姉を傷つけた奴が苦しんで死ぬことです。最後の夢は、姉を見つけて…もう…辛くない、幸せな暮らしをしてもらう事です」

 

「そうか……お前は優しすぎるな。たぶん俺の様な“悪”にはなれない。だが、お前の姉に関する情報や、それこそ関係する奴隷商人などを見つけたときは…お前に報告する。そしてお前が出来なくても悪である俺が、俺のために、その者に苛烈な罰を与えてやる」

 

「ありがとう…ございます。パルメーラさんの方が…優しいですよ…」

 

「………そんなことは無い。もう涙を拭け。この街でやることは終わったんだ。とっとと仲間に合流して、明日になったらさっさとこの街を出ればいい」

 

 

そう言って立ちあがったパルメーラを見て、ニニャは顔をぬぐってから立ち上がり、パルメーラの少し後ろについて今日の宿に向かって歩いていくのだった。

 

 

 

 

………はるか上空から地上を見つめる存在がある。

 

………アゼルリシア山脈の局地的な爆発。

 

………その存在は、まだ確証を得ていない。

 

 




ぺロロン「えっ…なにこれ泣きゲー?ウルベルトさんってそっちですか?でも選択肢的には正解ですよ。ここから先はヒロインの好感度が大きく上下するイベントがあることが多いから気を付けてくださいね!!」

茶釜「ふー……弟、カモン」

ぺロロン「……ごめんなさい」

茶釜「カモン」


心の中のぺロロンをやると長くなりがちなので、
今後しばらくはペロロンチーノを我慢します。
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