オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
ここで一気に3話投稿します。
翌日、乗合馬車が出発したのは予定よりも3時間ほど後だった。
これは同じ日に、リ・アレクサンデルに赴任した新しい領主が自身の豪奢な馬車で乗り入れた際、街への赴任を民に知らしめるという下らない理由で交通が一時的に停止させられていたからである。
ニニャは当然、他の『漆黒の剣』のメンバーも特に何も言わず、馬車の出発の時間までの時間を潰した。
こんなことはこの国の貴族ならば当たり前のことだからである。
パルメーラも特に興味はない。
このような意味のない愚かな行為をするものは、おそらく愚かだろうなとの考えが浮かんだが、今日の夜か明日には、屋敷に潜んでいる
ただ、出発が遅れたことで、リ・ブルムラシュールへの到着が夜になってしまうかもしれないという懸念が出てきた。
ここリ・アレクサンデルとリ・ブルムラシュールは距離が近く、乗合馬車で朝に出れば夕方には到着する。
遅れてしまったことで、到着は日が落ちてからになるだろうとのこと。
『漆黒の剣』の4人はパルメーラにそのことを説明したが、パルメーラは「そうか、まあしょうがないんじゃないのか?」と言うのみであった。
正直、『漆黒の剣』はパルメーラがちょっとせっかちな性分であることが分かっているので、予定よりも遅れることが分かったら『じゃあ俺が運んでやる。その方が早いしな』とか言い出すのではないかと冷や冷やしていた。
パルメーラはパルメーラで、急がない理由がある。
配下の悪魔に
馬車が出発すると、パルメーラは皆に聞く。
「リ・ブルムラシュールはどんな街なんだ?名産の食べ物とかあるのか?」
元のリアルの感性を持つ者にとって、この世界の食事は旨過ぎるので、どうしても質問は食事のことになりがちであった。
「リ・ブルムラシュールはですね、王国でおそらくもっとも豊かな街です。これはこの街の領主が六大貴族のブルムラシュー侯であり、その領地内に鉱山が多くあるので潤っているからですね。食事は肉料理が多く、リ・アレクサンデル以上に種類は豊富でとてもおいしいです。ただ…」
ニニャは苦笑いをすると、ダインが簡潔にその理由を教えてくれた。
「非常に物価が高いのである!」
他のメンバーも苦笑いで、ニニャは少し不機嫌そうに言葉を続ける。
「物価が高いのは税率が王国一高いからです。なので宿代も食事代もかなり高額です」
「そう言うわけで、俺たちはリ・ブルムラシュールはあまり長居したことが無いんだ」
ペテルが苦笑いのまま言う。
「領地は潤っているのに、住人にはそれを還元せず、さらに高い税を取るか……がめついことだ」
パルメーラのその言葉に、ニニャが怒りを込めた顔で全力で賛成し、他のメンバーも苦笑いのままではあるが、正直思う事は同じなので特に反論はしなかった。
しかしその夕方、乗合馬車がリ・ブルムラシュールに近づくと、御者の者から焦った声で言葉がかけられた。
「お客さんたち、もう1時間ほどでリ・ブルムラシュールに到着するんだが、門の検問のところから行列ができている。これは街に入るまで相当時間がかかるかもしれねぇ」
その言葉を聞き、5人は馬車から身を乗り出して進行方向を確認した。
確かに道の先の方では複数の馬車が列を成している。
しかしそれよりも5人が驚いたのは、門の先、リ・ブルムラシュールの街から煙が上がり、夜の空を赤く染めている様子だった。
ペテルが速やかに御者に確認する。
「すみません、街の方から火が上がっているように見えるのですが、何があったかご存じですか?」
「いやすまん、俺にも分からねぇ…ただ、あの列はそれが原因だと思う。街で何かあって、門が閉められているのかもしんねぇな…」
それを聞いた5人は話し合い、足の速い者で一旦先に門まで行き、何があったか検問の門番に聞いてくるという話になった。
本来はこういう場合はレンジャーのルクルットが行くのだが、
パルメーラはニニャの
曰く、中で大規模な火事があり、放火の可能性もあるため全ての門を閉じて犯人が逃げないように捜査中であるとのこと。そのため、少なくとも今日はこの門は開けることができないと説明している。
集まった者たちのうち、元々この街に住む者などは、家族が中にいることもあり、口々に身内の安否を知りたい、中に入れて欲しいと騒ぎ立てているが、門番は頑として門を開けようとはしない。
「これは、入れそうにないな」
「そうですね…何があったんでしょう?」
「一旦馬車に戻って、リーダーと相談するか」
「そうですね」
状況を説明するとペテルは少し悩んだ後、彼の考えを述べた。
「今日は開門しないとなると、どちらにしろ門の外で泊まるしかないという事になるな…馬車の中で泊まらせてもらうか、あるいは外でキャンプという事になる。ここは御者の方にも聞いて、彼がどうするか確認してから俺たちがどうするか考えるべきだと思うが、どうかな?」
ペテルの意見に特に反対はなく、ペテルが御者に門の状況とこの後どうするか確認をした。
すると御者の男は、乗合馬車のルールとして到着した街で到着確認が必要で、それをしないと引き返すことはできないという。
そのため、御者は門番に到着確認をする必要があり、もし到着確認ができれば門の付近で一泊し、明日定刻までに街に入れないならば、リ・アレクサンデルに引き返すという。
結果、やはり門の中に入ることはできずに到着確認もできずに、彼は門外で一泊。
『漆黒の剣』は野外用のテントを持っているので、馬車からは降り、外で一泊することになった。
焚火を囲み携帯食のナッツや干し肉を齧る。
「せっかくリ・ブルムラシュールの前まで来たのに干し肉かぁー…値段は高けーけど飯は旨いからちょっと期待してたのに残念だったなー」
ルクルットが愚痴り、他のメンバーも賛成するが、パルメーラは特にそうは感じていない。
確かにリ・ブルムラシュールの食事は食べてみたいと思っていたが、このナッツと干し肉も充分旨い。
元のリアルから考えたら、最下層で暮らしていた彼は一生口にすることはできなかった御馳走であるから。
食事の後、皆テントに潜りこみ就寝の体勢に入る。
普通、外でのキャンプの場合は、誰かが見張りとして起きていて、獣やモンスターの接近に対処するものだが、今回は街のすぐ近くであり、周りに同じ状況でキャンプをしている者や、馬車が多数あるため、その必要はないとの判断で見張りは立てていない。
一応、物盗りの可能性なども考え、ニニャがキャンプ周りに
キャンプの中でパルメーラは、配下から受け取ったメッセージに他の4人に気取られないようこっそり回答していく。
『ご連絡いたします。ご指示いただいた作業は完了いたしました』
『そうか、よくやった。屋敷内の者で、奴隷などの犯罪行為に関わっていない平民はどうなった?』
『はっ、勿体ない御言葉、感謝に堪えません。平民たちは解放後、衛兵の者たちから取り調べを受けていましたが、現在は皆解放され、自宅に戻っているようです。御方のご想定の通り、指示を出す者が不在のため、罪を擦り付けられるということも無かったようです』
『奴隷商人や、処分する者は全て屋敷に閉じ込められているか?』
『はい、ご指示の通り、屋敷内に閉じ込めております。騒々しく騒いでおりますが結界を越える力を持つ者はいないようです』
『よし、では屋敷は引き続き外から入られないように注意しながら朝までじっくり燃やせ』
『はっ仰せの通りに』
『教会はどうなった?証拠品は教会から外に出ていないか?』
『はい、教会は、保護された奴隷と娼館の女たち、屋敷から送られた証拠文書も、教会の責任者と思われるものが外に出さないようにしています。また、この者は
『ふむ…再度の確認になるが、その責任者も含めて、お前たちの正体を看破する者は居ないな?』
『はい、仰る通りでございます』
『分かった…
『申し訳ありません、名前を含め確認できませんでした…』
『そうか、まあそれは仕方がないな…ところで領主はどうなっている?』
『はい、保護された娼婦として教会内に居ります』
『幻術と精神支配は解けていないな?』
『はい、問題ありません』
『よし、まだしばらくは幻術と精神支配をかけ続けろ。教会でそれらを解除するような術が施されているか?』
『いえ、対象者があまりに多く、また教会内の術師が少ないため、まだ順番が来ていない状態です』
『よし、では、可能な限り順番が遅くなるように対処せよ。もし順番が来てしまったら、お前たちは一旦教会からは離れ、街中に身を潜めよ』
『承知いたしました』
パルメーラは会話が終わると、邪悪な笑みを浮かべて目を閉じた。
しかし再び、別の僕からの会話がつながる感覚がある。
『
『おまえは…アレクサンデルの屋敷にいる
『は、新しく来た領主に関してご報告です。前回の者とほぼ同じ行動をとろうとしております。税率はやや異なりますが…』
『チッ…屑が…前回と同じ方法で処刑せよ。平民がいればそれは屋敷外へ逃がせ』
『畏まりました』
2件目の内容はパルメーラの癇に障るものだったようで、早々に指示を出しさっさと会話を切り上げて、イライラした気分のまま眠りにつくのだった。
リ・ブルムラシュールも処分対象となりました。
仕方が無いですね。
またアレクサンデルはまたハズレが来たのでさっさと処刑です